説明

ガスセンサの制御装置

【課題】測定対象ガスによる外乱の影響をキャンセルしてセルの劣化度合を精度よく検出できるガスセンサの制御装置を提供する。
【解決手段】固体電解質体に一対の電極を設けたセル2を有し、特定ガス濃度に応じたセンサ出力を発生するガスセンサ10の制御装置であって、セルに対して、一定通電時間Tにわたって単一パルス電圧を印加する電圧印加手段70と、単一パルス電圧の印加開始から、一定通電時間よりも短い第1時間t1経過時に、セルを介して第1出力値Vri1を取得する第1出力値取得手段70と、単一パルス電圧の印加開始から、一定通電時間よりも短く且つ第1時間よりも長い第2時間t2経過時に、セルを介して第2出力値Vri2を取得する第2出力値取得手段70と、第2出力値と第1出力値との差分値ΔVriに基づき、セルの劣化度合を検出する劣化度合検出手段70と、を有するガスセンサの制御装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスの濃度を検出するセルを有するガスセンサに接続され、セルのインピーダンスを取得して該セルの劣化の程度を検出するガスセンサの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサや空燃比センサが知られている。又、自動車の排気ガス規制の強化に伴い、排気ガス中の窒素酸化物(NO)量の低減が要求されており、NO濃度を直接測定できるNOセンサが開発されている。
これらのガスセンサは、ジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質体の表面に一対の電極を形成してなるセルを有し、このセルからの出力に基づいて特定ガスの濃度検出を行っている。
【0003】
これらのガスセンサとして、固体電解質体の外面に測定対象ガスに晒される測定電極を形成し、該固体電解質体の内面に基準ガスに晒される基準電極を形成した構成をなし、測定対象ガス中の酸素濃度を基準ガス中の酸素濃度との差に基づいて検出する酸素センサが知られている。ここで、固体電解質体は活性化温度以上に温められないと酸素イオン伝導性が発揮されないことから、上記ガスセンサにはヒータが備えられ、このヒータを通電制御してセルを加熱することで、セルを活性化温度以上に安定して保つと共に、セルの早期活性化を図るようにしている。
ここで、セルのインピーダンスはセルの温度に応じて変化するため、このインピーダンスを定期的に検出し、当該インピーダンスが目標インピーダンスになるように、ヒータへの通電量を制御してセルの温度制御を行っている。そして、セルにインピーダンス検出用の信号を入力し、そのときの出力(応答信号)に基づいてインピーダンスを検出している。
ところが、ガスセンサの使用の繰り返しによる経時変化によりセルが劣化し、インピーダンスが徐々に増大するという問題がある。この場合、セルが同じ温度環境下にある場合にも、セルが劣化した場合には新品のセルに比較してセルのインピーダンスが上昇して検知されてしまうため、セルが冷えているとみなしてヒータを過昇温してしまい、ガスセンサの出力特性を変化させてしまったり、ガスセンサの劣化を早めるおそれがある。
【0004】
このようなことから、セルに複数の周波数の交流電圧を印加して得られる、高周波数側のインピーダンスに基づいてセルの目標温度を調整すると共に、低周波数側のインピーダンスに基づいてセルの特性変化を検出する技術が開示されている(特許文献1参照)。ここで、特許文献1には、セルのインピーダンスのうち、電極界面の抵抗を示す低周波成分がセルの経時劣化により特に増大することが記載されており、この低周波成分を含む交流電圧を新品及び耐久劣化した実際のセルに印加したときのインピーダンスの変化に基づき、劣化度合を検出すると共に、セルの目標温度を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−258387号公報(図48)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セル周囲の測定対象ガス自身の温度やセルを取り巻く測定対象ガス中の特定ガス濃度(例えば、排気ガスの空燃比雰囲気)といった測定対象ガスによる外乱が変動すると、セルのインピーダンスの値も変化して当該セルのインピーダンスを正確に測定することが難しくなる。そのため、それに応じてセルの劣化度合の検出精度が低下するおそれがある。特に、固体電解質体を筒型に形成すると共に、固体電解質体の外面に測定電極を設け、固体電解質体の内面に基準電極を設けたガスセンサの場合、測定電極が測定対象ガスに接触するため、測定対象ガスによる外乱を受け易く、上記した問題が顕著になる。
すなわち、本発明は、測定対象ガスによる外乱の影響をキャンセルしてセルの劣化度合を精度よく検出できるガスセンサの制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサの制御装置は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けたセルを有し、特定ガス濃度に応じたセンサ出力を発生するガスセンサの制御装置であって、前記セルに対して、一定通電時間にわたって単一パルス電圧を印加する電圧印加手段と、前記単一パルス電圧の印加開始から、前記一定通電時間よりも短い第1時間経過時に、前記セルを介して第1出力値を取得する第1出力値取得手段と、前記単一パルス電圧の印加開始から、前記一定通電時間よりも短く且つ前記第1時間よりも長い第2時間経過時に、前記セルを介して第2出力値を取得する第2出力値取得手段と、前記第2出力値と前記第1出力値との差分値に基づき、前記セルの劣化度合を検出する劣化度合検出手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
セル周囲の測定対象ガス自身の温度やセルを取り巻く測定対象ガス中の特定ガス濃度(例えば、排気ガスの空燃比雰囲気)といった測定対象ガスによる外乱が変動すると、セル(固体電解質体)のインピーダンスの値が変化してセルのインピーダンスを正確に測定することが難しくなる。つまり、セルのインピーダンスは、セルの劣化により変動するだけでなく、測定対象ガスの外乱によっても変動する。一方、単一パルス電圧をセルに印加した際、セルの第1出力及び第2出力自体は測定対象ガスの外乱によって変動するものの、第1出力と第2出力の差分値を用いれば、測定対象ガスの外乱の影響をキャンセルしてセルの劣化度合を精度よく検出することができる。
特に、固体電解質体を筒型に形成すると共に、固体電解質体の外面に測定電極を設け、固体電解質体の内面に基準電極を設けたガスセンサの場合、測定電極が測定対象ガスに接触し、測定対象ガスによる外乱を受け易くなるため、本発明が有効になる。
【0009】
前記ガスセンサの制御装置であって、前記第2時間は、前記第1時間の2倍よりも長い時間に設定されていることが好ましい。
単一パルス電圧をセルに印加してから時間が経過するほどセルの劣化が反映されるので、差分値も大きくなり、セルの劣化度合をより精度良く検出することができる。
【0010】
前記ガスセンサの制御装置であって、前記電圧印加手段は、前回に前記単一パルス電圧を印加してから前記一定通電時間の10倍以上に設定された待ち時間が経過してから、新たに単一パルス電圧を印加することが好ましい。
単一パルス電圧を印加することにより、セルに電荷が蓄えられて固体電解質体が配向するが、単一パルス電圧をOFFしてから上記した待ち時間経過後に次回のパルスONを行うことで、セルに蓄えられた電荷を消失させてセルを正常な状態に復帰させることが確実に行える。
【0011】
前記ガスセンサの制御装置であって、前記ガスセンサは、内燃機関の排気ガスが流れる流路中に装着されるものであり、前記センサ出力に基づいて測定対象ガスの空燃比を判定する判定手段を備え、前記劣化度合検出手段は、前記判定手段にて判定される空燃比が特定空燃比にあるときに、前記劣化度合を検出することが好ましい。
所定の空燃比雰囲気にて差分値にピークが生じ、ピークを外れた空燃比雰囲気では差分値が大きく変動して不安定となることがある。そこで、空燃比が特定空燃比にあるときに、劣化度合を検出するようにすれば、差分値が不安定な空燃比領域でセルの劣化度合を検出することが無くなる。
【0012】
前記ガスセンサの制御装置であって、前記判定手段は、前記センサ出力値に基づいて測定対象ガスの空燃比がリッチかリーンかを判定するものであり、前記劣化度合検出手段は、前記判定手段にて判定される空燃比が前記特定空燃比に設定されたリッチにあるときに前記劣化度合を検出することが好ましい。
特に、測定対象ガスの空燃比がリーンであるときに、上記差分値にピークが生じるので、差分値が不安定なリーン領域でセルの劣化度合を検出することが無くなり、劣化度合の検出精度を高められる。
【0013】
前記ガスセンサの制御装置であって、前記ガスセンサは、前記セルを加熱するヒータを備え、前記セルのインピーダンスが目標値となるように前記ヒータへの通電量を制御するヒータ制御手段と、前記劣化度合検出手段にて検出される劣化度合に基づき、前記目標値を変更する変更手段を有することが好ましい。
このようなガスセンサの制御装置によれば、セルの劣化度合に基づいてインピーダンスの目標値を変更し、ヒータの加熱によってセルの劣化を早めることなくセルを精度良く加熱でき、ガスセンサの長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、測定対象ガスによる外乱の影響をキャンセルしてセルの劣化度合を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ガスセンサの制御装置の構成を示す概略図である。
【図2】単一パルス電圧の波形、並びにセルの第1及び第2出力値(Vri1、Vri2)の検出方法を示す図である。
【図3】第1時間と第2時間でそれぞれ取得された第1及び第2出力値(Vri1、Vri2)の実測値を示す図である。
【図4】図3の実測値の測定に用いた実験装置を示す図である。
【図5】セルの劣化度合を検出するフローチャートを示す図である。
【図6】劣化検出タイミング係数x=1、10の場合の、単一パルス電圧の波形並びにセルの第1及び第2出力値の取得タイミングを示す図である。
【図7】測定対象ガスの酸素雰囲気と、ΔVriとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサの制御装置(電子制御ユニット;ECU)100の構成を示す概略図である。ECU100はガスセンサ10に接続され、ガスセンサ10はエンジンの排気管に取り付けられている。なお、本実施の形態では、排気ガスが流れる流路として排気管を挙げているが、その他にも、排気ガスの一部を吸気管に戻し、新気と排気ガスとを混ぜて燃焼室にガスを供給する流路にガスセンサ10を取り付けた場合にも、本発明を適用することができる。ガスセンサ10は、測定対象ガス(排気ガス)中の酸素濃度を検出するセル(検出素子)2と、セル2を作動温度に保つためのヒータ4とを備え、いわゆるλセンサとして空燃比に応じた出力信号を出力する。
セル2は、有底筒状をなした部分安定化ジルコニア(ZrO2 )等の酸素イオン伝導性の固体電解質体、および、該固体電解質体に設けられた一対の電極(基準電極及び検知電極)を備えており(ともに図示せず)、各電極は例えば主として白金で形成することができる。そして、固体電解質体の内面に形成されると共に基準ガス(具体的には大気)に晒された基準電極と、固体電解質体の外面に形成されると共に測定対象ガスに晒された測定電極との間で酸素濃度差に応じて起電力が生じ、この起電力を検知することで酸素濃度、ひいては空燃比を検出することができる。
一方、ヒータ4は、例えばアルミナ層の内部に白金を主体とする材料にて形成されたヒータ配線(図示せず)を備えて構成され、セル2の内側(具体的には、有底筒状をなす固体電解質体の内部空間)に配置されている。ヒータ4は、ヒータ制御回路60から供給される電力により、セル2の温度が目標の活性化温度(この実施形態では、830℃)となるように制御される。また、ヒータ配線の一端は、ヒータ制御回路60に電気的に接続され、ヒータ配線の他端はバッテリ50(本実施形態では、12Vバッテリ)に接続されている。そして、ヒータ4による加熱によってセル2が活性化し、酸素濃度検出(空燃比検出)が早期に可能となる。
【0017】
ECU100は、ガスセンサ10(セル2)からのセンサ出力を検出する出力検出回路20、パルス打ち込み回路(特許請求の範囲の「電圧印加手段」に相当)30、ヒータ4を制御するヒータ制御回路60、ECU100全体を制御するマイクロコンピュータ(マイコン)70を備えている。マイコン(特許請求の範囲の「第1出力値取得手段」、「第2出力値取得手段」、「電圧印加手段」、「劣化度合検出手段」、「判定手段」、「変更手段」に相当)70は、ヒータ制御回路60に接続され、セル2の温度が作動温度(以降、活性化温度ともいう)となるようにヒータ制御回路60を制御する。又、マイコン70は出力取得回路20、パルス打ち込み回路30にもそれぞれ接続されている。
【0018】
出力検出回路20は、セル2からのセンサ出力(本実施の形態では、起電力)を検出する一方、セル2の劣化度合を検出するために用いるインピーダンス信号Vri1、Vri2を検出する回路であり、抵抗器等を用いた公知の回路構成からなる。なお、出力検出回路20及びマイコン70を介して取得されるインピーダンス信号Vri1、Vri2は、それぞれ特許請求の範囲の「第1出力値」、「第2出力値」に相当する。
出力検出回路20は、検出したセンサ信号およびインピーダンス信号Vri1、Vri2をマイコン70(のA/Dポート75)に出力する。
【0019】
ここで、ガスセンサ10の使用の繰り返しによりセル2は経時劣化し、それに応じてセル2のインピーダンスも変化する。そこで、本実施の形態では、インピーダンス信号Vri1、Vri2の偏差ΔVri=|Vri2−Vri1|(特許請求の範囲の「第2出力値と第1出力値との差分値」に相当)を算出することで、セル2の劣化によるインピーダンス変化(インピーダンスの状態)を見積もる。
【0020】
マイコン70は、中央演算処理装置としてのCPU71aと、データやプログラムなどを格納する記憶部(RAM71cおよびROM71b)と、外部機器との間で信号の入出力を行う各種入出力ポート73、75、77と、を備える公知のマイクロコンピュータで構成することができる。マイコン70は、記憶部に格納されたプログラムに基づいてCPU71aが各種演算処理を実行し、演算やデータ転送などの命令の実行を制御する。また、マイコン70は、入力ポート(A/Dポート75)に入力された信号を、入力ポート用レジスタの内容に反映し、出力ポート用レジスタに格納された内容を、出力ポート(I/Oポート73、PWMポート77)に信号として出力する。
【0021】
そして、マイコン70は、出力取得回路20を介して得られたセンサ出力(起電力)に基づき、酸素濃度、ひいては空燃比を演算する。マイコン70は、空燃比がリッチであるかリーンであるかを判定し、エンジンの燃焼制御などを実行することで、内燃機関の運転状態を制御する。
又、マイコン70は、出力検出回路20を介して得られるインピーダンス信号Vri1を図示しないA/D変換回路にてデジタル値に変換した後に、保持しているマップまたは計算式に基づき、Vri1に対応するセル2のインピーダンスRiを算出し、このインピーダンスRiに応じて、ヒータ4の通電指令をヒータ制御回路60に出力してヒータ通電制御処理を実行する。
さらに、マイコン70は、出力検出回路20を介して得られるインピーダンス信号Vri1、Vri2に基づいて偏差ΔVriを算出し、後述するようにセル2の劣化度合の検出を行う。
【0022】
ヒータ制御回路60はトランジスタを備え、トランジスタのコレクタはヒータ4の一端に接続され、エミッタが所定の抵抗を介して接地され、ベースがマイコン70に接続されている。このため、トランジスタをオン状態にする電圧レベルの信号をマイコン70がトランジスタのベースへ出力している間は、バッテリ50から電圧が供給されヒータ4が発熱する。一方、マイコン70がヒータオン信号の出力を停止すると、トランジスタがオフ状態となりヒータ4の加熱が停止される。なお、マイコン70は、通電率で決まる上記ヒータオン信号をPWMポート77からヒータ制御回路60に出力し、ヒータ制御回路60がヒータオン信号に従ってオン・オフすることで、ヒータ4への通電量がPWM制御されている。なお、このヒータ制御回路60は、マイコン70と共に、特許請求の範囲の「ヒータ制御手段」を構成する。また、ヒータ制御回路60は、トランジスタで構成されるものに限定されず、FET等を用いて構成してもよい。
【0023】
次に、図2を参照し、インピーダンス信号Vri1、Vri2を検出するための検出信号(特許請求の範囲の「単一パルス電圧」に相当)の波形及び各インピーダンス信号の検出方法について説明する。なお、図2の横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
まず、単一パルス電圧は、一定通電時間(パルスON時間)Tにわたって印加される矩形波であり、マイコン70で算出したデジタルデータをI/Oポート73からパルス打ち込み回路30に出力(パルス出力)される。これにより、矩形状の単一パルス電圧が、パルス打ち込み回路30によって、出力検出回路20を介してセル2に印加される。なお、この実施形態では、パルスON時間とパルスOFF時間の合計が500msに設定されている。
【0024】
マイコン70は、単一パルス電圧の印加開始から時間Tよりも短い第1時間t1経過時に、出力検出回路20を介してセル2の電極間の電圧Vri1を取得する。次いで、マイコン70は、単一パルス電圧の印加開始から時間Tよりも短く且つ第1時間t1よりも長い第2時間t2経過時に、同様にセル2の電極間の電圧Vri2を取得する。
ここで、単一パルス電圧を印加したときのセル2の電極間の電圧の変化は、インピーダンスの変化を反映した値となるため、セル2のインピーダンスを表すインピーダンス信号として、Vri1及びVri2を利用することで、セル2のインピーダンスの状態、ひいてはセル2の劣化度合が検出可能となる。
【0025】
図3は、第1時間t1と第2時間t2でそれぞれ取得されたインピーダンス信号Vri1及びVri2の実測値を示す。図3において、劣化品(6万キロ走行相当のガスセンサ10)では、Vri1よりVri2が増大している一方、新品のセル2ではVri2がVri1からあまり変化しない。従って、偏差ΔVriを算出することで、セル2の経時劣化によるインピーダンス変化(セル2の劣化度合)の検出を行うことができる。
なお、図3のインピーダンス信号Vri1、Vri2の測定は、図4に示す単管バーナの一端で空気と燃料とをλ=0.95となる空燃比で燃焼させ、ここから燃焼ガス温度が350℃になる単管バーナの内部位置にガスセンサ2を取り付けて行った。
【0026】
ここで、単一パルス電圧をセル2に印加したときに、第1時間t1と第2時間t2で2点のインピーダンス信号Vri1、Vri2を測定する理由について説明する。
本発明者が検討したところ、セル2周囲の測定対象ガス自身の温度やセル2を取り巻く測定対象ガス中の特定ガス濃度(排気ガスの空燃比雰囲気)といった測定対象ガスによる外乱が変動すると、セル2のインピーダンスの値が変化してセル2のインピーダンスを正確に測定することが難しくなることが判明した。つまり、セル2のインピーダンスは、セル2の劣化により変動するだけでなく、測定対象ガスの外乱によっても変動する。
一方、単一パルス電圧をセル2に印加した際、セル2から得られるインピーダンス信号Vri1、Vri2自体は測定対象ガスの外乱によって変動するものの、Vri1とVri2との偏差ΔVriを採れば、測定対象ガスの外乱の影響をキャンセルしてセル2の劣化度合を精度よく検出することができる。
【0027】
なお、単一パルス電圧をセル2に印加してから時間が経過するほど、セル2が劣化していた場合、その劣化が反映される傾向にある(上記図3参照)。従って、第1時間t1と第2時間t2との時間間隔を長くするほど、ΔVriの値が大きくなり、セルの劣化をより良く反映することとなる。このようなことから、第2時間t2を第1時間t1の2倍よりも長い時間とすると好ましい。なお、第2時間t2の上限値は特に限定されないが、第1時間t1の200倍以下とすればよい。
【0028】
次に、図5を参照し、セル2の劣化度合を検出するアルゴリズム(フローチャート)について説明する。なお、本実施形態においては、マイコン70でメインルーチンであるヒータ制御(Ri一定制御)処理を行い、セル2の劣化度合の検出処理はサブルーチンとして呼び出されて実行される。Ri一定制御の処理周期は可変であり、数100ms〜数sの周期で実行される。又、Ri一定制御処理は、公知のPI演算により行われ、目標とするRi(図5の「目標Ri」)と、後述するステップS8から算出されたRi(実測値)の差ΔRiから、ガスセンサ10の温度を一定に保つためのヒータ印加電圧(実効電圧)が計算される。そして、ヒータ4は、この計算されたヒータ印加電圧に基づき、ヒータ制御回路6を通じて通電制御(PWM制御)される。
【0029】
又、Ri一定制御処理の開始と同期して、マイコン70では、ガスセンサ10の温度検出処理を別途に実行する。この温度検出処理は公知であるが、簡単に説明すると、マイコン70は、所定の検出タイミングで出力検出回路20からインピーダンス信号Vri1を取得する。そして、マイコン70は、所定の計算式、又はインピーダンス信号Vri1とセル2のインピーダンスRiとの相関関係を示したデータ(例えば、2次元マップ)を用い、セル2のインピーダンスRiを算出する。次いで、マイコン70は、算出したインピーダンスRiに基づき、上述したRi一定制御処理を行う。
【0030】
図5において、マイコン70は、メインルーチンであるRi一定制御処理が開始されてから所定時間(500ms)が経過したか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2で「Yes」であれば、マイコン70は上記したパルス出力をパルス打ち込み回路30に出力する(ステップS4)。これにより、単一パルス電圧がセル2に印加される(パルスON)。一方、ステップS2で「No」であれば、ステップS16に移行し、マイコン70は、目標Riを使用し、これをステップS34で補正したインピーダンスRiと比較することによりヒータ制御(Ri一定制御)処理を行う。ステップS16の後、セル2の劣化度合の検出処理を終了してメインルーチンに戻る。
ステップS4に続き、マイコン70は、パルスONから第1時間t1が経過したか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6で「Yes」であれば、マイコン70は、出力検出回路20を介してインピーダンス信号Vri1を取得する(読取る)(ステップS8)。一方、ステップS6で「No」であれば、第1時間t1が経過するまでステップS6の処理を繰り返す。
【0031】
ステップS8に続き、マイコン70は、整数値sと劣化検出タイミング係数xとを比較し、劣化検出処理を行うか否かを判断する(ステップS10)。ここで、劣化検出タイミング係数xは1以上の定数であり、整数値sは初期値が1以上の変数であってそれぞれマイコン70に記憶されている。ステップS10で「Yes」(s≧x)であれば、ステップS20に移行する。
なお、ステップS14のインクリメント処理により整数値sは必ず1以上となるから、劣化検出タイミング係数x=1に設定した場合、ステップS10で必ず「Yes」となる。例えば、図2の単一パルス電圧の波形は、x=1に相当する場合を示している。つまり、x=1の場合、図6(a)に示すように単一パルス電圧のパルス幅は常に一定通電時間Tとなり、各パルスがONの間にインピーダンス信号Vri1及びVri2が共に取得されてΔVriが算出され、各パルス毎にセル2のインピーダンスRi及び劣化度合が検出される。
【0032】
具体的には、図5のステップS10で「Yes」であれば、マイコン70は、パルスONから第2時間t2が経過したか否かを判定する(ステップS20)。ステップS20で「Yes」であれば、マイコン70は、出力検出回路20を介してインピーダンス信号Vri2を取得する(読取る)(ステップS22)。一方、ステップS20で「No」であれば、第2時間t2が経過するまでステップS20の処理を繰り返す。
ステップS22に続き、マイコン70は、パルス出力のパルス打ち込み回路30への出力を停止し、単一パルス電圧のセル2への印加を停止する(パルスOFF)(ステップS24)。これにより、単一パルス電圧のパルス幅が一定通電時間Tとなる。ステップS24に続き、マイコン70は、出力検出回路20を介して取得されるセンサ出力に基づき、排気ガスの空燃比(λ)を演算し、λ=リッチか否かを判定する(ステップS26)。
【0033】
ステップS26で「Yes」であれば、マイコン70は、ΔVri=|Vri2−Vri1|を算出する(ステップS28)。そして、マイコン70は、ΔVriの平均化(ステップS30)を行った後、ΔVriに基づいてセル2の劣化定数(特許請求の範囲の「劣化度合」に相当)を算出する(ステップS32)。次に、マイコン70は、劣化定数に基づき、目標Riを補正する(ステップS34)。これにより、セル2の劣化度合を考慮した目標Riが設定される。
なお、ΔVriの平均化は、例えば所定の時間内で得られた複数のΔVri(例えば、図6(a)のs=1〜10でそれぞれ得られた10個(図6では4個のみ表示)のΔVri)を平均(移動平均)して得られる。平均化の方法は上記の移動平均に限定されず、例えば加重平均等を用いてもよい。
又、セル2の劣化定数の算出は、例えば所定の計算式、又はΔVriと劣化定数との相関関係を示したデータ(例えば、2次元マップ)を用いて行うことができる。
【0034】
ステップS34に続き、マイコン70は、整数値s=0にリセットした後(ステップS36)、ステップS14に移行して整数値sに1をインクリメントする(ステップS14)。続いてマイコン70は、目標Riを使用し、これをステップS34で補正したインピーダンスRiと比較することによりヒータ制御(Ri一定制御)処理を行った後(ステップS16)、セル2の劣化度合の検出処理を終了してメインルーチンに戻る。
【0035】
一方、ステップS26で「No」であればステップS36に移行し、目標Riを補正しない(ステップS28〜S34を行わない)。これにより、後述するようにΔVriの値が不安定となるλ=リーンのときにセル2の劣化度合を検出しないので、目標Riが不用意に補正されることが防止される。
【0036】
一方、劣化検出タイミング係数x≧2の場合、ステップS10で「No」となることがあり、この場合、図6(b)に示すように、単一パルス電圧のパルス幅が時間Tより短い通電時間Tsとなる。パルス幅(時間Ts)は第2時間t2より短いため、パルス幅が時間Tsの場合にはインピーダンス信号Vri2が取得されず、ΔVriの算出及び劣化度合の検出が行われない。以下、図6(b)に示すx=10の場合を例として、図5のフローチャートを説明する。
まず、最初の劣化度合の算出処理(サブルーチン)で図5のステップS2〜S8が経過し、ステップS10では、初期値であるs=1であるので、ステップS10で「No」となる。この場合、マイコン70は、ステップS12でパルスOFFとした後、ステップS14に移行して整数値sに1をインクリメントする。これにより、単一パルス電圧のパルス幅がTs(<T)となる。
次に、マイコン70は、目標Riを使用してヒータ制御(Ri一定制御)処理を行い(ステップS16)、セル2の劣化度合の検出処理を終了する。これは、図6(b)の左端のパルスに相当し、パルス幅が時間Tsであるため、インピーダンス信号Vri1のみ取得されてRiが算出される一方、ΔVriの算出及び劣化度合の検出は行われない。
【0037】
2回目のサブルーチンでステップS2〜S8が経過し、ステップS10ではs=2となるので、ステップS10で「No」となり、ステップS16で処理を終了する。このようにして、9回目のサブルーチンのステップS10までは、s<10であるのでステップS10で同様に「No」となる。つまり、図6(b)の左端(s=1)からs=9までの9個のパルス(図6では4個のみ表示)のパルス幅はいずれもTs(<T)となり、インピーダンス信号Vri1のみ取得されてRiが算出される一方、ΔVriの算出及び劣化度合の検出は行われない。
但し、各サブルーチンのステップS14でsに1がインクリメントされるので、9回目のサブルーチンが終了後にs=10となる。
【0038】
そして、10回目のサブルーチンのステップS10では、s=10となるので、ステップS10で「Yes」となり、ステップS20〜S36へ移行する。この場合、上述のように単一パルス電圧のパルス幅が時間Tとなり、インピーダンス信号Vri1及びVri2が共に取得されてΔVriが算出され、セル2の劣化度合が検出される(図6(b)の右端のs=10のパルス参照)。
このように、劣化検出タイミング係数xは、ΔVriをどのタイミングで検出するかを規定し、x=1であればインピーダンスRiの検出毎にΔVriを逐一検出し、x=nであればn回のインピーダンスRiの検出毎にΔVriを1回検出することになる。
従って、劣化検出タイミング係数xを設定することで、インピーダンスRiの検出毎にΔVriを検出し、劣化度合の検出回数を増やして検出精度を向上させることもできるし、ΔVri(劣化度合)の検出回数を減らしてマイコン70の処理負担を軽減することもでき、ガスセンサ10の使用環境やECU100の性能等に応じて適切なΔVri(劣化度合)の検出タイミングを設定することができる。
【0039】
なお、単一パルス電圧を印加することにより、セル2に電荷が蓄えられて固体電解質体が配向する。このため、単一パルス電圧をOFFしてから一定期間放置した後に次回のパルスONを行い、セル2に蓄えられた電荷を消失させてセル2を正常な状態に復帰させると好ましい。
特に、前回に単一パルス電圧を印加してから一定通電時間Tの10倍以上に設定された待ち時間が経過してから、次回の単一パルス電圧を印加するとよい。例えば、図2、図3の例では、一定通電時間Tが5msであり、単一パルス電圧の間隔が500msであるから、待ち時間(500−5(ms))は一定通電時間Tの99倍に設定されている。
【0040】
又、図7に示すように、劣化品(6万キロ走行相当のガスセンサ10)では、λ=リーンである所定の酸素雰囲気にてΔVriの値にピークPが生じ、Pを外れた空燃比領域ではΔVriの値が大きく変動して不安定となる。つまり、ΔVriの値が不安定となるλ=リーンのときにセル2の劣化度合を検出すると、当該劣化度合の検出精度が低下するおそれがある。
そこで、ガスセンサ10を取り巻く測定対象ガス(排気ガス)の空燃比が特定空燃比(図5の例ではステップS26のリッチ)にあるときに、選択的にセル2の劣化度合を検出するようにすれば、ΔVriの値が不安定な空燃比領域(リーン)でセル2の劣化度合を検出することが無くなる。
【0041】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、セル2としてλセンサ(リッチ/リーンを二値的に検出可能な酸素センサ)を取り上げたが、酸素イオン伝導性の固体電解質体を用いたセンサであればこれに限られず、例えば、全領域空燃比センサやNOセンサに本発明を適用することも可能である。
また、上記実施形態では、劣化度合を検出して目標Riを補正(補償)したが、これに限られず、例えば、セルの劣化度合に応じてガスセンサの出力値を直接補正してもよい。又、劣化度合(ΔVri)が所定の閾値を超えた場合にガスセンサが故障したと判定してもよい。
【0042】
さらに、上記実施形態では、本発明のガスセンサの制御装置をECU100に組み込んだ構成としたが、ECU100とは別体にしてガスセンサの制御装置を設けても良い。つまり、ガスセンサ10とECU100との間に、出力検出回路20、ヒータ制御回路60、および、上述のヒータ制御処理と劣化度合検出処理を実行可能なマイクロコンピュータを回路基板に搭載した別体のガスセンサの制御装置を設置しても良い。
【符号の説明】
【0043】
2 セル
4 ヒータ
10 ガスセンサ
20 出力検出回路
30 パルス打ち込み回路(電圧印加手段)
60 ヒータ制御回路(ヒータ制御手段)
70 マイコン(第1出力値取得手段、第2出力値取得手段、電圧印加手段、劣化度合検出手段、判定手段、変更手段)
100 ガスセンサの制御装置
T 一定通電時間
t1 第1時間
t2 第2時間
Vri1 第1出力値
Vri2 第2出力値
ΔVri 差分値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に一対の電極を設けたセルを有し、特定ガス濃度に応じたセンサ出力を発生するガスセンサの制御装置であって、
前記セルに対して、一定通電時間にわたって単一パルス電圧を印加する電圧印加手段と、
前記単一パルス電圧の印加開始から、前記一定通電時間よりも短い第1時間経過時に、前記セルを介して第1出力値を取得する第1出力値取得手段と、
前記単一パルス電圧の印加開始から、前記一定通電時間よりも短く且つ前記第1時間よりも長い第2時間経過時に、前記セルを介して第2出力値を取得する第2出力値取得手段と、
前記第2出力値と前記第1出力値との差分値に基づき、前記セルの劣化度合を検出する劣化度合検出手段と、
を有することを特徴とするガスセンサの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサの制御装置であって、
前記第2時間は、前記第1時間の2倍よりも長い時間に設定されている
ガスセンサの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサの制御装置であって、
前記電圧印加手段は、前回に前記単一パルス電圧を印加してから前記一定通電時間の10倍以上に設定された待ち時間が経過してから、新たに単一パルス電圧を印加する
ガスセンサの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のガスセンサの制御装置であって、
前記ガスセンサは、内燃機関の排気ガスが流れる通路中に装着されるものであり、
前記センサ出力に基づいて測定対象ガスの空燃比を判定する判定手段を備え、
前記劣化度合検出手段は、前記判定手段にて判定される空燃比が特定空燃比にあるときに、前記劣化度合を検出する
ガスセンサの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサの制御装置であって、
前記判定手段は、前記センサ出力値に基づいて測定対象ガスの空燃比がリッチかリーンかを判定するものであり、
前記劣化度合検出手段は、前記判定手段にて判定される空燃比が前記特定空燃比に設定されたリッチにあるときに、前記劣化度合を検出する
ガスセンサの制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のガスセンサの制御装置であって、
前記ガスセンサは、前記セルを加熱するヒータを備え、
前記セルのインピーダンスが目標値となるように前記ヒータへの通電量を制御するヒータ制御手段と、
前記劣化度合検出手段にて検出される劣化度合に基づき、前記目標値を変更する変更手段と、を有する
ガスセンサの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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