説明

ガスタービンの吸気加熱制御装置

【課題】ガスタービン起動時や入口案内翼の開度変化時においても、吸入空気を制御遅れなく加熱する。
【解決手段】制御弁32を介して蒸気Sが供給される熱交換器30により、極めて冷たい(例えば−20°Cの)空気Aを加熱し、加熱した空気A’をガスタービン10に吸入する。加熱した空気A’の測定温度t1と目標温度TOとの偏差がなくなるように制御弁32の弁開度をフィードバック制御する。更に、ガスタービン10の回転数Nが大きくなったり、IGV開度OPが大きくなったら、回転数Nの増加やIGV開度OPの増加に応じて、制御弁32の弁開度を先行制御する。これにより、制御遅れなく空気A’の温度を、安定燃焼可能な温度に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービンの吸気加熱制御装置に関するものであり、吸入空気量が大きく変化する運転時であっても、吸入する空気温度を応答性よく加熱することができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
寒冷地に設置されるガスタービンでは、大気中から取り込んだ空気を加熱してからガスタービンに吸入している。
これは、極低温(例えば−20°C〜−30°C)になっている密度の高い外気(空気)をそのままガスタービンに吸入すると、着火性能が低下したり燃焼振動が生じたりしてガスタービンの安定燃焼が確保できないからである。また、このような極低温の空気を取り込むと、ガスタービンの入口で空気中の水分が氷結し、氷結した氷がガスタービン内に侵入してタービン翼等を損傷する恐れがあるからである。
【0003】
そこで、寒冷地に設置されるガスタービンでは、熱交換器などの加熱装置により空気を加熱してからガスタービンに吸入している。この場合、空気温度が、ガスタービンが安定燃焼可能な温度(例えば+5°C程度の温度)となるように加熱している。
【0004】
図3は、寒冷地に設置されるガスタービンプラントの一例を示す。同図に示すように、ガスタービン10は、圧縮機11と燃焼器12とタービン13を主要部材として構成されている。このガスタービン10の圧縮機11には、吸気ダクト15を介して、外部から取り込んだ空気(大気)Aが吸入されるようになっている。
【0005】
圧縮機11の入口には入口案内翼(IGV)11aが備えられており、このIGV11aの開度により、圧縮機11に吸入される空気量が制御される。なお、IGV11aの開度は、負荷状態や運転状態等に応じて制御される。
【0006】
発電機20は、ガスタービン10に連結されており、ガスタービン10により回転駆動されて発電をする。
【0007】
吸気ダクト15には吸気加熱用の熱交換器30が介装されている。この熱交換器30には蒸気管31を介して高温(例えば300°C)の蒸気Sが供給されている。熱交換器30は、供給された蒸気Sの熱により、ガスタービン10に吸入される空気Aを加熱(熱交換)している。
蒸気管31には、蒸気管31に流通させる蒸気量、即ち、熱交換器30に供給する蒸気量を制御するための制御弁32が介装されている。
【0008】
なお、熱交換機30に供給する蒸気としては、補助蒸気ボイラ(図示省略)から発生した蒸気や、タービン13の排熱を利用して蒸気を発生させる排熱回収ボイラ(図示省略)から発生した蒸気などを使用している。
【0009】
吸気ダクト15のうち、熱交換器30と圧縮機11の入口段との間の位置には、温度計40が取り付けられている。この温度計40は、熱交換器30にて加熱されてガスタービン10の圧縮機11に吸入される空気A′の温度を測定している。このようにして測定された吸入空気A′の測定温度t1は制御装置50に送られる。
【0010】
制御装置50は、偏差演算部51と、比例・積分演算部(PI演算部)52を有している。またこの制御装置50には、目標温度TO(例えば+5°C)が予め設定されている。この目標温度TOは、ガスタービン10を安定して燃焼(運転)させることができる吸入空気温度として、各ガスタービン10の特性に応じて予め設定した温度である。
【0011】
制御装置50の偏差演算部51は、測定温度t1と目標温度TOとの偏差演算をして、偏差温度Δt(=TO−t1)を求める。比例・積分演算部52は偏差温度ΔtをPI演算して、弁開度指令Pを出力する。そして、この弁開度指令Pに応じて、制御弁32の弁開度を調整している。
【0012】
したがって、測定温度t1が低いときには、弁開度指令Pが大きくなって制御弁32の弁開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が増加する。一方、測定温度t1が高くなってくると、弁開度指令Pが小さくなって制御弁32の弁開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が減少する。結局、熱交換器30にて加熱されて圧縮機11に吸入されていく空気A′の温度が、目標温度TOとなるように、熱交換器30に供給する蒸気量をフィードバック制御している。これにより、吸入空気A′の温度を、安定燃焼可能な温度に維持するようにしている。
【0013】
【特許文献1】特公平4−48921号公報
【特許文献2】特開2003−161164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、ガスタビーン10を起動した時には、圧縮機11に吸入される空気量は、回転数の上昇に伴い大幅に増えていく。また、IGV11aを開くことにより、圧縮機11に吸入される空気量は大幅に増えていく。
【0015】
従来技術では、単純なフィードバック制御により、圧縮機11に吸入されていく空気A′の温度が目標温度TOとなるように、制御弁32の開度制御(つまり熱交換器30に供給する蒸気量を制御)していた。
このため、ガスタービン起動時やIGV開度増加時のように、圧縮機11に吸入される空気量が急増した場合には、空気A′の温度(測定温度t1)を目標温度TOにする温度制御がうまく追従せず(制御遅れが発生し)、圧縮機11に吸入される空気A′の温度は大幅に低下し、安定燃焼可能温度に維持することができないおそれがあった。
これは、単純なフィードバック制御では、圧縮機11に吸入される空気量が急増して空気温度が急減した現象が実際に発生してから、測定温度t1と目標温度TOの偏差をなくすような制御動作が開始されるため、大きな制御遅れが発生するからである。
【0016】
逆に、IGV11aを閉めると、圧縮機11に吸入される吸入空気量は、大幅に減ることになり、圧縮機11に吸入される空気A′の温度が上昇して、この場合も燃焼不安定の要因となる。
【0017】
本発明は、上記従来技術に鑑み、ガスタービン10の起動時や、IGV11aの開度変化時のように、圧縮機11に吸入される空気量が急変しても、吸入空気温度を目標温度に維持して安定した燃焼を確保することができる、ガスタービンの吸気加熱制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する本発明の構成は、
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度指令を求める比例・積分演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると係数値が大きくなる回転数用補正係数を出力する回転数用補正係数演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記回転数用補正係数と前記入口案内翼用補正係数を乗算して補正指令を出力する乗算部と、
前記弁開度指令と前記補正指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とする。
【0019】
また本発明の構成は、
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度指令を求める比例・積分演算部と、
前記目標温度と大気温度との温度差を求める第2の偏差演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると係数値が大きくなる回転数用補正係数を出力する回転数用補正係数演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記温度差が大きくなると係数値が大きくなる温度差用補正係数を出力する温度差用補正係数演算関数部と、
前記回転数用補正係数と前記入口案内翼用補正係数と前記温度差用補正係数を乗算して補正指令を出力する乗算部と、
前記弁開度指令と前記補正指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とする。
【0020】
また本発明の構成は、
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度指令を求める比例・積分演算部と、
前記目標温度と大気温度との温度差を求める第2の偏差演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると係数値が大きくなる回転数用補正係数を出力する回転数用補正係数演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記温度差が大きくなると係数値が大きくなる温度差用補正係数を出力する温度差用補正係数演算関数部と、
前記熱交換器に供給される加熱媒体の圧力が、予め決めた基準圧力と等しいときには係数値が1となり、前記基準圧力よりも大きくなると係数値が1よりも小さくなり、前記基準圧力よりも小さくなると係数値が1よりも大きくなる加熱媒体圧力用補正係数を出力する加熱媒体圧力用補正係数演算関数部と、
前記熱交換器に供給される加熱媒体の温度が、予め決めた基準温度と等しいときには係数値が1となり、前記基準温度よりも大きくなると係数値が1よりも小さくなり、前記基準温度よりも小さくなると係数値が1よりも大きくなる加熱媒体温度用補正係数を出力する加熱媒体温度用補正係数演算関数部と、
前記回転数用補正係数と前記入口案内翼用補正係数と前記温度差用補正係数と前記蒸気圧力用補正係数と前記蒸気温度用補正係数を乗算して補正指令を出力する乗算部と、
前記弁開度指令と前記補正指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ガスタービンの起動により回転数増加に応じて吸入空気量が増加したり、入口案内翼の開閉により吸入空気量が増減した場合に、吸入空気量を増減させる運転条件に応じて加熱媒体(蒸気)の量を増減させる先行制御をしているため、吸入空気量が急変する運転状態(例えばガスタービン起動時)であっても吸入空気温度を、安定燃焼が可能な温度に維持することができる。
なお、「加熱媒体」は蒸気に限定されず、排気ガス等も適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は本発明の実施例に係るガスタービンの吸気加熱制御装置を適用したガスタービンプラントを示す。この実施例では、蒸気管31に、熱交換器30に供給される蒸気Sの圧力を検出する圧力計35と、蒸気Sの温度を検出する温度計36が備えられている。更に、制御弁32の開度を制御する制御装置100が備えられている。
他の部分(例えばガスタービン10、発電機20、熱交換器30、蒸気管31、制御弁32等)は従来技術と同様な構成となっている。したがって、以下の説明では従来技術と異なる部分を中心に説明をし、従来技術と同一部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0024】
制御装置100は、偏差演算部101と比例・積分演算部102の他に、先行制御部110を有している。
この制御装置には、目標温度TO(例えば+5°C)が予め設定されている。この目標温度TOは、ガスタービン10を安定して燃焼(運転)させることができる吸入空気温度として、各ガスタービン10の特性に応じて予め設定した温度である。
【0025】
制御装置100の偏差演算部101は、測定温度t1と目標温度TOとの偏差演算をして、偏差温度Δt(=TO−t1)を求める。比例・積分演算部102は偏差温度ΔtをPI演算して、弁開度PI補正指令Pを出力する。
【0026】
一方、先行制御部110は、弁開度指令演算関数部114と、補正係数演算関数部111〜113および115と、偏差演算部116と、乗算部117と、加算部118を有している。
【0027】
先行制御部110には、圧力計35により測定した蒸気Sの圧力を示す蒸気圧力SPと、温度計36により測定した蒸気Sの温度を示す蒸気温度STと、IGV11aの開度を検出するセンサ(図示省略)により測定したIGV開度OPと、ガスタービン10の回転数を検出するセンサ(図示省略)により測定したガスタービン回転数Nと、大気の温度を検出するセンサ(図示省略)により測定した大気温度t2が入力される。
【0028】
偏差演算部116は、大気温度t2と目標温度TOとの偏差演算をして、温度差dt(=TO−t2)を求める。
【0029】
補正係数演算関数部111は、図2(a)に示すような補正係数演算関数FX1を有しており、蒸気圧力SPが入力されると、補正係数演算関数FX1を用いて、入力された蒸気圧力SPに対応した補正係数aを出力する。
【0030】
補正係数演算関数FX1は、蒸気圧力SPが大きくなると補正係数aが減少する関数特性を有しており、例えば蒸気圧力SPが標準圧力(例えば0.8[MPa])であれば値が1となっている補正係数aを出力し、蒸気圧力SPが標準圧力よりも小さくなれば値が1よりも大きな補正係数aを出力し、蒸気圧力SPが標準圧力よりも大きくなれば値が1よりも小さな補正係数aを出力する。
【0031】
補正係数演算関数部112は、図2(b)に示すような補正係数演算関数FX2を有しており、蒸気温度STが入力されると、補正係数演算関数FX2を用いて、入力された蒸気温度STに対応した補正係数bを出力する。
【0032】
補正係数演算関数FX2は、蒸気温度STが大きくなると補正係数bが減少する関数特性を有しており、例えば蒸気温度STが標準温度(例えば244°C)であれば値が1となっている補正係数bを出力し、蒸気温度STが標準温度よりも小さくなれば値が1よりも大きな補正係数bを出力し、蒸気温度STが標準温度よりも大きくなれば値が1よりも小さな補正係数bを出力する。
【0033】
補正係数演算関数部113は、図2(c)に示すような補正係数演算関数FX3を有しており、IGV開度OPが入力されると、補正係数演算関数FX3を用いて、入力されたIGV開度OPに対応した補正係数cを出力する。
【0034】
補正係数演算関数FX3は、IGV開度OPが大きくなると補正係数cが増加する関数特性を有しており、例えばIGV開度OPが0%であれば値が0.3となっている補正係数cを出力し、IGV開度OPが50%であれば値が0.5となっている補正係数cを出力し、IGV開度OPが100%であれば値が1.0となっている補正係数cを出力する。
【0035】
弁開度指令演算関数部114は、図2(d)に示すような弁開度指令演算関数FX4を有しており、ガスタービン回転数Nが入力されると、弁開度指令演算関数FX4を用いて、入力されたガスタービン回転数Nに対応した適切な弁開度指令dを出力する。
【0036】
弁開度指令演算関数FX4は、ガスタービン回転数Nが大きくなると弁開度指令dが次第に増加する関数特性を有しており、例えばガスタービン回転数Nが600[rpm]であれば値が4.1%となっている弁開度指令dを出力し、ガスタービン回転数Nが3600[rpm]であれば値が17.4%となっている弁開度指令dを出力する。
【0037】
補正係数演算関数部115は、図2(e)に示すような補正係数演算関数FX5を有しており、温度差dtが入力されると、補正係数演算関数FX5を用いて、入力された温度差dtに対応した補正係数eを出力する。
【0038】
補正係数演算関数FX5は、温度差dtが大きくなると補正係数eが増加する関数特性を有しており、例えば温度差dtが10°Cであれば値が0.67となっている補正係数eを出力し、温度差dtが15°Cであれば値が1.0となっている補正係数eを出力し、温度差dtが25°Cであれば値が1.62となっている補正係数eを出力する。
【0039】
乗算部117は、弁開度指令dに、補正係数a,b,c,eを全て乗算して、弁開度先行指令fを出力する。更に加算部118は、比例・積分演算部102から出力される弁開度PI補正指令Pに弁開度先行指令fを加算して、補正弁開度指令PAを出力する。
そして、制御装置100は、補正弁開度指令PAに応じて制御弁32の弁開度を調整している。
【0040】
したがって、測定温度t1が低いときには、弁開度指令P及び補正弁開度指令PAが大きくなって制御弁32の弁開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が増加する。一方、測定温度t1が高くなってくると、弁開度PI補正指令P及び補正弁開度指令PAが小さくなって制御弁32の弁開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が減少する。この制御は従来のフィードバック制御と同じ制御動作である。
【0041】
更に、ガスタービン10の起動時において、ガスタービン回転数Nが増加してくると、弁開度指令d及び弁開度先行指令fがガスタービン回転数Nの増加に伴って大きくなり、補正弁開度指令PAもガスタービン回転数Nの増加に伴って大きくなって制御弁32の開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量がガスタービン回転数Nの増加に伴って増加するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
【0042】
このように、ガスタービン回転数Nの増加に応じて、先行して制御弁32の開度を大きくして熱交換器30に供給する蒸気量を増加させる先行制御をしているため、ガスタービン10の起動時において回転数増加に応じて吸入空気量が増加しても、この吸入する空気Aの温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
【0043】
また、IGV開度OPが増加してくると、補正係数c及び弁開度先行指令fがIGV開度OPの増加に伴って大きくなり、補正弁開度指令PAもIGV開度OPの増加に伴って大きくなって制御弁32の弁開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量がIGV開度OPの増加に伴って増加するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
逆に、IGV開度OPが減少してくると、補正係数c及び弁開度先行指令fがIGV開度OPの減少に伴って小さくなり、補正弁開度指令PAもIGV開度OPの減少に伴って小さくなって制御弁32の弁開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量がIGV開度OPの減少に伴って減少するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
【0044】
このように、IGV開度OPの増加に応じて、先行して制御弁32の開度を大きくして熱交換器30に供給する蒸気量を増加させる先行制御をしているため、IGV11aの開度が大きくなって吸入空気量が急に増加しても、この吸入する空気A′の温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
また、IGV開度OPの減少に応じて、先行して制御弁32の開度を小さくして熱交換器30に供給する蒸気量を減少させる先行制御をしているため、IGV11aの開度が小さくなって吸入空気量が急に減少しても、この吸入する空気Aの温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
【0045】
また、大気温度t2が低下してくると温度差dtが大きくなるため、補正係数e及び弁開度先行指令fが大気温度t2の低下に伴って大きくなり、補正弁開度指令PAも大気温度t2の低下に伴って大きくなって制御弁32の弁開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が大気温度t2の低下に伴って増加するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
逆に、大気温度t2が上昇してくると温度差dtが小さくなるため、補正係数e及び弁開度先行指令fが大気温度t2の低下に伴って小さくなり、補正弁開度指令PAも大気温度t2の上昇に伴って小さくなって制御弁32の弁開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が大気温度t2の増加に伴って減少するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
【0046】
このように、大気温度t2の増減に応じて制御弁32の弁開度を先行制御して熱交換器30に供給する蒸気量を増減させているため、大気温度t2が増減しても、吸入する空気Aの温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
【0047】
また、蒸気圧力SPが増加してくると、補正係数a及び弁開度先行指令fが蒸気圧力SPの増加に伴って小さくなり、補正弁開度指令PAも蒸気圧力SPの増加に伴って小さくなって制御弁32の開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が蒸気圧力SPの増加に伴って減少するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
逆に、蒸気圧力SPが減少してくると、補正係数a及び弁開度先行指令fが蒸気圧力SPの減少に伴って大きくなり、補正弁開度指令PAも蒸気圧力SPの減少に伴って大きくなって制御弁32の開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が蒸気圧力SPの減少に伴って増加するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
【0048】
このように、蒸気圧力SPの増減に応じて制御弁32の弁開度を先行制御して熱交換器30に供給する蒸気量を増減させているため、蒸気圧力SPが増減しても、吸入する空気Aの温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
【0049】
また、蒸気温度STが増加してくると、補正係数b及び弁開度先行指令fが蒸気温度STの増加に伴って小さくなり、補正弁開度指令PAも蒸気温度STの増加に伴って小さくなって制御弁32の開度が小さくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が蒸気温度STの増加に伴って減少するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
逆に、蒸気温度STが減少してくると、補正係数b及び弁開度先行指令fが蒸気温度STの減少に伴って大きくなり、補正弁開度指令PAも蒸気温度STの減少に伴って大きくなって制御弁32の開度が大きくなり、熱交換器30に供給される蒸気量が蒸気温度STの減少に伴って増加するという先行制御(フィードフォワード制御)が行われる。
【0050】
このように、蒸気温度STの増減に応じて制御弁32の弁開度を先行制御して熱交換器30に供給する蒸気量を増減させているため、蒸気温度STが増減しても、吸入する空気A′の温度を安定燃焼可能な温度に維持することができる。
【0051】
なお蒸気Sの温度と圧力が安定している場合には、補正係数演算関数部111、112を用いないようにしてもよい。
更に、大気温度t2が急変しない地域では、偏差演算部116及び補正係数演算関数部115を用いないようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例に係るガスタービンの吸気加熱制御装置を示す構成図。
【図2】実施例で用いる関数特性を示す特性図。
【図3】従来技術を示す構成図。
【符号の説明】
【0053】
10 ガスタービン
11a 入口案内翼
15 吸気ダクト
30 熱交換器
31 蒸気管
32 制御弁
35 圧力計
36 温度計
40 温度計
100 制御装置
110 先行制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度PI補正指令を求める比例・積分演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると値が大きくなる弁開度指令を出力する弁開度指令演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記弁開度指令と前記入口案内翼用補正係数を乗算して弁開度先行指令を出力する乗算部と、
前記弁開度PI補正指令と前記弁開度先行指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とするガスタービンの吸気加熱制御装置。
【請求項2】
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度PI補正指令を求める比例・積分演算部と、
前記目標温度と大気温度との温度差を求める第2の偏差演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると値が大きくなる弁開度指令を出力する弁開度指令演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記温度差が大きくなると係数値が大きくなる温度差用補正係数を出力する温度差用補正係数演算関数部と、
前記弁開度指令と前記入口案内翼用補正係数と前記温度差用補正係数を乗算して弁開度先行指令を出力する乗算部と、
前記弁開度PI補正指令と前記弁開度先行指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とするガスタービンの吸気加熱制御装置。
【請求項3】
ガスタービンに吸入される空気を加熱媒体により加熱する熱交換器と、
弁開度が制御されることにより、前記熱交換器に供給される加熱媒体の量を制御する制御弁と、
前記熱交換器により加熱されて前記ガスタービンに吸入される空気の温度を測定する温度計と、
前記温度計で測定した測定温度が予め設定された目標温度になるように、前記制御弁の弁開度を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記目標温度と前記測定温度との偏差である偏差温度を求める偏差演算部と、前記偏差温度を比例・積分演算して弁開度PI補正指令を求める比例・積分演算部と、
前記目標温度と大気温度との温度差を求める第2の偏差演算部と、
前記ガスタービンの回転数が大きくなると値が大きくなる弁開度指令を出力する弁開度指令演算関数部と、
前記ガスタービンの入口案内翼の開度が大きくなると係数値が大きくなる入口案内翼用補正係数を出力する入口案内翼用補正係数演算関数部と、
前記温度差が大きくなると係数値が大きくなる温度差用補正係数を出力する温度差用補正係数演算関数部と、
前記熱交換器に供給される加熱媒体の圧力が、予め決めた基準圧力と等しいときには係数値が1となり、前記基準圧力よりも大きくなると係数値が1よりも小さくなり、前記基準圧力よりも小さくなると係数値が1よりも大きくなる加熱媒体圧力用補正係数を出力する加熱媒体圧力用補正係数演算関数部と、
前記熱交換器に供給される加熱媒体の温度が、予め決めた基準温度と等しいときには係数値が1となり、前記基準温度よりも大きくなると係数値が1よりも小さくなり、前記基準温度よりも小さくなると係数値が1よりも大きくなる加熱媒体温度用補正係数を出力する加熱媒体温度用補正係数演算関数部と、
前記弁開度指令と前記入口案内翼用補正係数と前記温度差用補正係数と前記蒸気圧力用補正係数と前記蒸気温度用補正係数を乗算して弁開度先行指令を出力する乗算部と、
前記弁開度PI補正指令と前記弁開度先行指令とを加算して補正弁開度指令を出力する加算部とを有し、
前記補正弁開度指令の大きさに応じて前記制御弁の弁開度を制御することを特徴とするガスタービンの吸気加熱制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−128086(P2008−128086A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313758(P2006−313758)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)