説明

ガスハイドレート製造方法及び装置

【課題】恒温水槽を用いる浸漬方式よりも熱効率が良く、かつ、ハイドレートスラリーを冷却する外部循環式のような大型の熱交換器を必要としないコンパクトなガスハイドレート製造装置。
【解決手段】たて型のガスハイドレート生成塔1の下部に原料ガスGの気泡を含んだ原料水WGを供給する原料供給部3を設ける一方、前記ガスハイドレート生成塔1の上部にガスハイドレートスラリーSを塔の外に排出させるガスハイドレートスラリー排出管4を設け、かつ、前記ガスハイドレート生成塔1の側面であって気泡を含んだ原料水供給口の下流に冷却水吹込みノズル2を設け、該冷却水吹込みノズル2から塔内に原料ガスGの気泡が混入していない冷却水WCを直接吹き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレート製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原料ガスと原料水を所定の温度及び圧力の下で反応させてガスハイドレートを製造する場合、反応熱が発生する。この反応熱を素早く除去することがガスハイドレートの生成速度を向上させるために重要である。
【0003】
ところで、反応熱を除去する方式として、恒温水槽を用いる浸漬方式(例えば、特許文献1参照。)、或いは、熱交換器を用いる外部循環方式(例えば、特許文献2参照。)などがある。
【0004】
しかし、前者の場合は、恒温水槽内の冷却水に接触している反応容器の外表面に限りがあるために、大きな除熱効率を得るのが難しい。他方、後者の場合は、原料ガスを含んだ原料水が熱交換器を通過する間に反応が進んでガスハイドレートが生成し、熱交換器が閉鎖する虞れがある。この閉塞を防ぐには、熱交換器の管径を大きくするなど、閉塞が生じない広い流路の確保などが必要であり、装置の大型化とコスト増に繋がる。
【0005】
また、後者の場合は、原料ガスの吹き出し部(ノズル部)周囲がハイドレート生成条件(温度、圧力)であるため、ガス吹き出し部でハイドレートの生成が起こり、そこにハイドレートが付着し閉塞する虞れがある。そのため、充分な温度(過冷却度)に設定できない場合がある。
【0006】
ここで、過冷却度とは、ガスハイドレートが生成する平衡温度、平衡圧力のうち、平衡温度と実際の系内の温度(平衡温度より低い温度)との差を言い、過冷却度が大きいほどガスハイドレートが生成し易くなる傾向にある。例えば、メタンハイドレートの場合、圧力が5MPaの時、平衡温度は約7℃であり、この時、実際の系内の温度が2℃であれば、過冷却温度は5℃となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−104919号公報
【特許文献2】特開2006−160820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、恒温水槽を用いる浸漬方式よりも熱効率が良く、かつ、ハイドレートスラリーを冷却する外部循環式のような大型の熱交換器を必要とせず、更に、原料ガス吹き出し部がガスハイドレートで閉塞する虞れのないコンパクトなガスハイドレート製造方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガスハイドレート製造方法は、原料ガスと原料水を反応させてガスハイドレートを製造する際に、原料ガスの気泡が混入していない水を冷却して冷却水とし、この冷却水を、原料ガスの気泡を含む原料水に直接吹き込んでガスハイドレート生成時の生成熱を除去することを特徴とするものである。
【0010】
また、このガスハイドレート製造方法は、前記冷却水を、ガスハイドレート生成塔の中心部から内壁側に吹き込み方向をずらせて吹き込み、前記ガスハイドレート生成塔内に冷却水の吹き込みに起因する旋回流を発生させることに特徴がある。
【0011】
更に、このガスハイドレート製造方法は、前記冷却水を、ガスハイドレート生成塔の側面に設けた複数の高さの異なる吹込み箇所に吹き込むことに特徴がある。
【0012】
他方、本発明に係るガスハイドレート製造装置は、一方向に流水を生じさせるたて型のガスハイドレート生成塔の下部に原料ガスの気泡を含んだ平衡温度以上の原料水を供給する原料供給部を設ける一方、前記ガスハイドレート生成塔の上部にガスハイドレートスラリーを塔の外に排出させるガスハイドレートスラリー排出管を設け、かつ、前記ガスハイドレート生成塔の気泡を含んだ原料水供給部より下流側の側面に冷却水吹込みノズルを設け、該冷却水吹込みノズルから塔内に原料ガスの気泡が混入していない冷却水を直接吹き込むことを特徴とするものである。
【0013】
また、このガスハイドレート製造装置は、前記冷却水吹込みノズルを、ガスハイドレート生成塔の中心部から内壁側に吹き込み方向をずらせて設け、前記ガスハイドレート生成塔内に冷却水の吹き込みに起因する旋回流を発生させることに特徴がある。
【0014】
更に、このガスハイドレート製造装置は、前記冷却水吹込みノズルを、ガスハイドレート生成塔の側面に設けた高さの異なる複数の箇所に設置したことに特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原料ガスの気泡を含有しない冷却水を、原料ガスの気泡を含む原料水に直接吹き込むことで、冷却水とガスハイドレート生成時の生成熱との熱交換を直接行うことができ、熱交換率が大幅に向上する。また、熱交換器は、原料ガスの気泡を含有しない水を冷却するので、閉塞せずに小型化できる。
【0016】
また、原料ガス吹き出し部の周囲がガスハイドレートが生成する平衡温度より高いため、ガスハイドレート生成による吹き出し部の閉塞の虞れがない。
【0017】
更に、冷却水を、ガスハイドレート生成塔の中心部から内壁側に向けて吹き込み方向をずらせて塔の外より吹き込み、前記ガスハイドレート生成塔内に冷却水の吹き込みに起因する旋回流を発生させるため、攪拌機を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るガスハイドレート製造装置の概略構成図である。
【図2】ガスハイドレート生成塔の横断面図である。
【図3】本発明に係るガスハイドレート製造装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図4】気液混合器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1に示すように、ガスハイドレート製造装置101は、主として、ガスハイドレート生成塔1、冷却水吹込みノズル2、原料供給部3、ガスハイドレートスラリー排出管4、気液混合器5、気液分離器6、熱交換器7、ポンプ8及びブロワ9を備えている。
【0020】
上記ガスハイドレート生成塔1は、円筒たて型であり、その側面に冷却水吹込みノズル2を設けている。冷却水吹込みノズル2は、図1に示すように、ガスハイドレート生成塔1の高さ方向に所定の間隔を隔てて複数本設けることが望ましい。その際、冷却水吹込みノズル2に仰角を持たせることもできる。
【0021】
また、冷却水吹込みノズル2は、図2に示すように、冷却水の吹き込み方向aがガスハイドレート生成塔1の中心部Oからガスハイドレート生成塔1の内壁側にずれるように取り付けられている。冷却水吹込みノズル2は、例えば、図2に示すように、半径方向の直線cに平行で、かつ、ガスハイドレート生成塔1の中心部Oとガスハイドレート生成塔1の上端(時計の文字盤の0時の箇所)bのほぼ中間に位置するように設けることが望ましい。
【0022】
上記気液混合器5は、図4に示すように、無数の微細孔を有するガス放出板を備えた気泡放出器11を中空状の容器12内に設けたものであり、気泡放出器11の下部に原料ガス供給管13を設けている。この原料ガス供給管13には、図1に示すように、上記ブロワ9が設けられている。また、気液混合器5の容器12には、原料水供給管14と気液供給管15が設けられている。原料水供給管14には、上記ポンプ8が設けられている。
【0023】
気液供給管15は、図1に示すように、ガスハイドレート生成塔1の下端部を貫通し、その先端に原料供給部3を設けている。原料供給部3は、中空円盤状に形成され、その上面に設けた穴又はスリット状の多数の開口部から微細な原料ガスの気泡を含む原料水を放出するようになっている。
【0024】
上記ガスハイドレートスラリー排出管4は、一端がガスハイドレート生成塔1の上端部に接続され、他の一端が円筒たて型の気液分離器6の側面に接続されている。気液分離器6は、その上端部に未反応ガス排出管16を備え、その下端部に分離水排出管17を備え、更に、その側面に第2のガスハイドレートスラリー排出管18を備えている。尚、第2のガスハイドレートスラリー排出管18の接続箇所fは、分離水排水管17よりも上部に位置している。
【0025】
上記原料水供給管14から分岐した分岐管19は、既に説明した冷却水吹込みノズル2に接続している。そして、分岐点20近傍の分岐管19に上記熱交換器7が設けられている。
【0026】
今、ポンプ8を駆動すると、原料水Wの一部が分岐した原料水WHは、原料水供給管14を通って気液混合器5の容器12内に供給される。次いで、ブロワ9を駆動すると、原料ガスGが原料ガス供給管13を通って気泡放出器11に供給される(例えば、メタンの場合、ガス圧は3〜10MPa、水温は平衡温度以上の3〜20℃)。気泡放出器11に供給された原料ガスGは、気泡放出器11のガス放出板から微細な気泡となって原料水WHの中に放出される。
【0027】
原料ガスGが微細な気泡となって混入した原料水WGは、気液供給管15を通ってガスハイドレート生成塔1内の原料供給部3に供給される。ガスハイドレート生成塔1内に供給された原料ガスGは、冷却された原料水Wと反応してガスハイドレートが生成される。
【0028】
また、原料水Wの一部は、原料水供給管14から分岐管19に流れ、熱交換器7によって所定の温度(例えば、メタンの場合は、0〜5℃)に冷却される。所定の温度に冷却された原料水Wの一部、すなわち、冷却水WCは、冷却水吹込みノズル2からガスハイドレート生成塔1内に直接吹き込まれ、原料ガスGが冷却された原料水Wと反応してガスハイドレートになるときに発生した生成熱(反応熱)を奪う(除去する)。冷却水吹込みノズル2からガスハイドレート生成塔1内に吹き込まれた冷却水WCは、ガスハイドレート生成塔1内で旋回流になるため、攪拌機が不要となる。なお、先に説明した過冷却度の関係から、原料水Wに対する冷却水WCの量的な割合が高い場合に効率が良いので、分岐した原料水WHを極力少なくすることが望ましい。
【0029】
ガスハイドレートを含んだガスハイドレートスラリーSは、ガスハイドレート生成塔1の上端部にあるガスハイドレートスラリー流出管4を通って気液分離器6に供給される。ガスハイドレートスラリーS内の未反応ガスG’は、気液分離器6内で分離され、未反応ガス排出管16から排出される。この未反応ガスG’は、原料ガスとしてリサイクルするのが好ましい。他方、気液分離器6内で分離された分離水W’は、分離水排出管17から排出される。この分離水W’は、原料水としてリサイクルするのが好ましい。また、気液分離器6内のガスハイドレートスラリーSは、第2のガスハイドレートスラリー排出管18を通って次工程に供給される。
【0030】
次に、本発明の第2のガスハイドレート製造装置102について説明するが、本発明の第1のガスハイドレート製造装置101の機器と同じ機器には、同じ符号を付け、詳しい説明を省略する。
【0031】
本発明の第2のガスハイドレート製造装置102は、余剰水排水管22を設け、その一端をガスハイドレート生成塔1の側面に接続し、他の一端を第2の気液分離器23の側面に接続させたことが、第1のガスハイドレート製造装置101と異なっている。余剰水排水管22の一端は、複数本に分岐し、その分岐管22aは、ガスハイドレート生成塔1の側面に多段に配置されている。尚、余剰水排水管22の中間部には、第2のポンプ24が設けられている。
【0032】
余剰水排出管22の分岐管22aは、冷却水吹込みノズル2の高さより少し上流側に設けることが好ましい。また、各分岐管22aの入口にガスハイドレートの流出を防ぐフィルタを設けることが好ましい。
【0033】
この例の場合は、第2のポンプ24によってガスハイドレート生成塔1内の余剰水が汲み上げられ、第2の気液分離器23によって未反応ガスG’と分離水W’に分離される。未反応ガスG’は、未反応よりガス排出管25から排出され、分離水W’は、分離水排出管26から排出される。未反応ガスG’は、原料ガスとしてリサイクルするのが好ましい。また、分離水W’は、原料水としてリサイクルするのが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 ガスハイドレート生成塔
2 冷却水吹込みノズル
3 原料供給部
4 ガスハイドレートスラリー排出管
G 原料ガス
S ガスハイドレートスラリー
W 原料水
WC 冷却水
WH 原料水Wの一部が分岐した原料水
WG 原料ガスGが微細な気泡となっ混入した原料水
G’ 未反応の原料ガス
W’ 未反応の原料水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスと原料水を反応させてガスハイドレートを製造する際に、原料ガスの気泡が混入していない水を冷却して冷却水とし、この冷却水を、原料ガスの気泡を含む原料水に直接吹き込んでガスハイドレート生成時の生成熱を除去することを特徴とするガスハイドレート製造方法。
【請求項2】
前記冷却水を、ガスハイドレート生成塔の中心部から内壁側に吹き込み方向をずらせて吹き込み、前記ガスハイドレート生成塔内に冷却水の吹き込みに起因する旋回流を発生させることを特徴とする請求項1記載のガスハイドレート製造方法。
【請求項3】
前記冷却水を、ガスハイドレート生成塔の側面に設けた複数の高さの異なる吹込み箇所に吹き込むことを特徴とする請求項1又は2記載のガスハイドレート製造方法。
【請求項4】
たて型のガスハイドレート生成塔の下部に原料ガスの気泡を含んだ原料水を供給する原料供給部を設ける一方、前記ガスハイドレート生成塔の上部にガスハイドレートスラリーを塔の外に排出させるガスハイドレートスラリー排出管を設け、かつ、前記ガスハイドレート生成塔の気泡を含んだ原料水供給部より下流側の側面に冷却水吹込みノズルを設け、該冷却水吹込みノズルから塔内に原料ガスの気泡が混入していない冷却水を直接吹き込むことを特徴とするガスハイドレート製造装置。
【請求項5】
前記冷却水吹込みノズルを、ガスハイドレート生成塔の中心部から内壁側に吹き込み方向をずらせて設け、前記ガスハイドレート生成塔内に冷却水の吹き込みに起因する旋回流を発生させることを特徴とする請求項4記載のガスハイドレート製造装置。
【請求項6】
前記冷却水吹込みノズルを、ガスハイドレート生成塔の側面に設けた高さの異なる複数の箇所に設置したことを特徴とする請求項4又は5記載のガスハイドレート製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248449(P2010−248449A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102231(P2009−102231)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】