説明

ガスバリア性フィルム

【課題】本発明は、ガスバリア性及び可撓性に優れたガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】透明フィルムの一面11に、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層12が積層一体化されてなることを特徴とするガスバリア性フィルム。上記亜鉛及び錫の酸化窒化物としては、一般式(1):ZnSnabc(式(1)において、aは0.1〜2であり、bは0.3〜4であり、cは0.1〜1.6である)で示される化合物が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素や水蒸気などに対するガスバリア性及び可撓性に優れるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリアフィルムは、内容物の品質を変化させる原因となる酸素や水蒸気などの影響を防止するために、食品や医薬品の包装袋に用いられている。また、ガスバリアフィルムは、太陽電池モジュール、液晶表示パネル、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルなどに使用される素子が、酸素や水蒸気に触れて性能劣化するのを防止するために、製品構成体の一部として或いはそれら素子のパッケージ材料としても用いられている。
【0003】
このようなガスバリアフィルムとしては、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムなどの合成樹脂フィルムが用いられているが、水蒸気バリア性が不充分であり、高湿度条件下においては酸素バリア性が低下するといった問題点を有している。
【0004】
そこで、上記問題を解決するために、合成樹脂フィルム上に金属酸化物薄膜を形成してなるガスバリア性フィルムが知られている。例えば、特許文献1には、耐加水分解性樹脂フィルムと、金属酸化物被着樹脂フィルムと、白色樹脂フィルムとの3層積層体からなるガスバリア性フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−100788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、太陽電池モジュール、液晶表示パネル、及び有機EL表示パネルには可撓性を有していることが望まれており、したがってガスバリア性フィルムにも可撓性を有していることが望まれている。しかしながら、従来のガスバリア性フィルムでは、金属酸化物薄膜が十分な可撓性を有しておらず、ガスバリア性フィルムを曲げると金属酸化物薄膜にひび割れが発生してガスバリア性の低下を招く問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、ガスバリア性及び可撓性に優れたガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスバリア性フィルムは、透明フィルムの一面に、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層が積層一体化されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層は、ガスバリア性に優れるだけでなく、可撓性にも優れている。したがって、このようなガスバリア層を用いてなる本発明のガスバリア性フィルムはガスバリア性及び可撓性の双方に優れており、曲面に沿った状態に設置することが可能な太陽電池モジュール、液晶表示パネル、有機EL表示パネルなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態であるガスバリア性フィルムの断面図を示す。
【図2】本発明の他の一実施形態であるガスバリア性フィルムの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは、透明フィルムと、上記透明フィルムの一面に積層一体化されてなるガスバリア層とを有する。
【0012】
(透明フィルム)
本発明のガスバリア性フィルムに用いられる透明フィルムを構成する樹脂としては、透明な合成樹脂が用いられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物などのビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリエーテル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリエーテルスルフォン;ポリスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルケトンケトンなどが使用できる。また、これらの合成樹脂は、単独で用いられてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0013】
透明フィルムには、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤などの公知の添加剤が含有されていてもよい。透明フィルムの厚みは、3〜300μmが好ましく、12〜300μmがより好ましく、50〜200μmが特に好ましい。
【0014】
透明フィルムの全光線透過率は、80%以上が好ましく、90〜100%がより好ましい。80%以上の全光線透過率を有する透明フィルムは透明性に優れており、このような透明フィルムを有しているガスバリア性フィルムによれば、画像の視認性に優れる液晶表示パネル及び有機EL表示パネル、並びに発電効率が高い太陽電池モジュールを提供することができる。
【0015】
なお、透明フィルムの全光線透過率は、例えば、JIS K7105に準拠した方法により、例えば、ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製 製品名NDH2000)を用いて測定することができる。
【0016】
(平滑化層)
透明フィルムの一面には、表面平滑性に優れる平滑化層が積層一体化されているのが好ましい。透明フィルムがその一面にガスバリア層によって被覆することが困難な凸部を有している場合、このような透明フィルムの一面にガスバリア層を形成すると、ガスバリア層表面から透明フィルムが有する凸部の先端がガスバリア層によって被覆されずに露出し、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性を低下させる虞れがある。しかしながら、透明フィルムの凸部を好ましくは全面的に被覆し且つ表面平滑性に優れる平滑化層が透明フィルムの一面に積層一体化されていることによって、透明フィルムが有する凸部がガスバリア層表面から突出するのを抑制して、ガスバリア性がより優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【0017】
ガスバリア層が積層一体化される平滑化層の一面の最大粗さRyは、100nm以下が好ましく、0.1〜100nmがより好ましく、0.1〜50nmが特に好ましく、0.1〜15nmが最も好ましい。平滑化層の一面の最大粗さRyが大き過ぎると、スパッタリング法などの物理気相成長法によって平滑化層の一面にガスバリア層を作製する際に、透明フィルム又は平滑化層の何れか一方或いは双方の凹凸に起因して、ガスバリア層を積層一体化させる面に、亜鉛及び錫の酸化窒化物によって被覆し難い凸部が存在し、この凸部の先端部分がガスバリア層により被覆されずガスバリア層表面から突出してガスバリア性フィルムのガスバリア性を低下させる虞れがある。
【0018】
また、ガスバリア層が積層一体化される平滑化層の一面の表面粗さRaは、0.1〜100nmが好ましく、0.1〜50nmがより好ましく、0.1〜15nmが特に好ましい。ガスバリア層が積層一体化される面の表面粗さRaが上記範囲内である平滑化層は、ガスバリア層によって完全に被覆されるのが容易となると共に、ガスバリア層との密着性に優れ、したがってガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【0019】
本発明において、透明フィルムのガスバリア層が積層一体化される面における最大粗さRy及び表面粗さRaは、JIS B0601(1982年)に準拠した方法により測定することができる。例えば、非接触三次元微小表面形状測定システム(Wyco社製 製品名RST−Plus)を用い、JIS B0601(1982年)に準拠し、平滑化層のガスバリア層が積層一体化される面における任意の5箇所を、測定長さ1μmとして測定し、得られた測定値の相加平均値を、透明フィルムのガスバリア層が積層一体化される面における最大粗さRy及び表面粗さRaとして求めることができる。
【0020】
上述した範囲内の最大粗さRy及び表面粗さRaを有し、表面平滑性に優れている平滑化層を形成するには、平滑な表面を有する塗膜を形成でき、透明フィルムの透明性を低下させない材料を用いて行うことができる。このような平滑化層としては、例えば、(1)透明な合成樹脂の塗布層、(2)金属アルコキシドを含む組成物を用いたゾルゲル法により形成された層、及び(3)ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン(A)、ラジカル重合性基を有しないアルコキシシラン(B)及び水を含む組成物を硬化させてなる層などが挙げられる。
【0021】
(1)透明な合成樹脂の塗布層は、透明な合成樹脂を溶剤中に分散又は溶解させた組成物を、透明フィルムの一面に塗布する方法によって形成することができる。透明な合成樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びエポキシ系樹脂などが好ましく挙げられる。溶剤としては、トルエン、酢酸エチル、エタノールなどが挙げられる。また、組成物中における透明な合成樹脂の含有量は、10〜40重量%が好ましい。
【0022】
透明フィルムの一面に上記組成物を塗布した後は、塗布した組成物を加熱するなどして、塗布した組成物に含まれている溶剤を除去することによって、透明フィルムの一面に透明な合成樹脂の塗布層を作製することができる。
【0023】
(2)金属アルコキシドを含む組成物を用いたゾルゲル法により形成された層は、テトラメトキシシランなどの金属アルコキシド、並びに必要に応じて硬化触媒及び溶剤を含む組成物を透明フィルムの一面に塗布し、金属アルコキシドを加水分解及び脱水縮合させてゾルとした後、塗布した組成物を加熱することにより水分を除いて生じたゲルを焼結する方法により作製することができる。
【0024】
(3)ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン(A)、ラジカル重合性基を有しないアルコキシシラン(B)及び水を含む組成物を硬化させてなる層は、透明フィルムの一面に、ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン(A)、ラジカル重合性基を有しないアルコキシシラン(B)、及び水を含む組成物を塗布した後、塗布した上記組成物に活性エネルギー線を照射することによって上記アルコキシシラン(A)のラジカル重合を行った後又はラジカル重合を行いながら、上記ラジカル重合により得られたラジカル重合体が有するアルコキシ基と上記アルコキシシラン(B)が有するアルコキシ基とを加水分解及び脱水縮合反応させる方法により作製することができる。
【0025】
ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン(A)、ラジカル重合性基を有しないアルコキシシラン(B)及び水を含む組成物を硬化させてなる層は、上述した方法によって形成される。このような層では、アルコキシシラン(A)のラジカル重合体が単に形成されているだけでなく、このラジカル重合体の主鎖間を架橋するようにアルコキシシラン(B)の脱水縮合物が形成されていることによって緻密な網目構造を有している。このような緻密な網目構造を有する層は、表面平滑性に優れるだけでなく、酸素や水蒸気などのガスの透過を高く防止することができる。
【0026】
本発明において、ラジカル重合性基は、ラジカル重合によって付加重合することが可能な基を意味する。このようなラジカル重合性基としては、不飽和二重結合を有している基が挙げられ、具体的には、アリル基、イソプロペニル基、マレオイル基、スチリル基、ビニルベンジル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリロキシアルキル基及びビニル基などが挙げられる。なお、(メタ)アクリロキシとは、アクリロキシ又はメタクリロキシを意味する。
【0027】
アルコキシシラン(A)が有するラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリロキシアルキル基及びビニル基が好ましく挙げられる。(メタ)アクリロキシ基、又はビニル基を有するアルコキシシラン(A)は、ラジカル重合反応性に優れ高度に重合することができることから、緻密な網目構造を形成してガスバリア性に優れる平滑化層を形成することができる。アルコキシシラン(A)は、1個のラジカル重合性基を有しているのが好ましい。
【0028】
ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン(A)としては、下記一般式(I)で示されるアルコキシシランが好ましく挙げられる。
【化1】


(式中、R1は炭素数4〜9の(メタ)アクリロキシアルキル基、又はビニル基を表し、R2はアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表し、R3は炭素数1〜4のアルキル基を表し、且つnは0又は1である。)
【0029】
上記一般式(I)のR1において、炭素数4〜9の(メタ)アクリロキシアルキル基としては、(メタ)アクリロキシメチル基、2−(メタ)アクリロキシエチル基、及び3−(メタ)アクリロキシプロピル基などが好ましく挙げられる。
【0030】
また、上記一般式(I)のR2は炭素数1〜8のアルキル基であり、このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。また、上記アルキル基はアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基で置換されている炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基などが好ましく挙げられる。
【0031】
一般式(I)で示されるアルコキシシランとして具体的には、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルトリエトキシシランが挙げられる。これらのアルコキシシラン(A)は一種単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。なかでも、ラジカル重合反応性に優れることから、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましく挙げられる。
【0032】
アルコキシシラン(B)は、ラジカル重合性基を有しないものである。このようなアルコキシシラン(B)としては、下記一般式(II)で示されるアルコキシシランが好ましく用いられる。
【化2】


(式中、R及びRはそれぞれ炭素数1〜8のアルキル基を表し、mは0〜2の整数である。)
【0033】
上記一般式(II)のR及びRは、炭素数1〜8のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。R及びRとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が挙げられる。mは0であるのが好ましい。
【0034】
上記一般式(II)で示されるアルコキシシラン(B)は、アルコキシシラン(A)のラジカル重合により得られる重合体の主鎖間に架橋構造を付与することができ、平滑化層に優れたガスバリア性を付与することが可能となる。
【0035】
なかでもアルコキシシラン(B)としては、アルコキシシラン(A)の重合体の主鎖間に緻密な架橋構造を均一に形成することができることから、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、及びテトラブトキシシランが好ましく挙げられる。これらのアルコキシシラン(B)は一種単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0036】
組成物におけるアルコキシシラン(B)の含有量としては、アルコキシシラン(A)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましく、1〜20重量部が特に好ましい。組成物におけるアルコキシシラン(B)の含有量が少な過ぎると、アルコキシシラン(A)の重合体の主鎖間に十分な架橋構造を形成できない虞れがある。また、組成物におけるアルコキシシラン(B)の含有量が多過ぎると、得られる平滑化層が白色となって透明性が低下する虞れがある。
【0037】
組成物は、上述したアルコキシシラン(A)及びアルコキシシラン(B)の他に、多官能(メタ)アクリレート(C)をさらに含んでいるのが好ましい。多官能(メタ)アクリレート(C)は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを意味する。また、多官能(メタ)アクリレート(C)はケイ素原子を含んでいない。組成物が多官能(メタ)アクリレート(C)をさらに含んでいる場合、活性エネルギー線の照射によってアルコキシシラン(A)と多官能(メタ)アクリレート(C)とがラジカル重合することにより共重合体が形成される。このような多官能(メタ)アクリレート(C)を用いることによって、表面平滑性及びガスバリア性が優れる平滑化層を短時間で形成することができる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0038】
多官能(メタ)アクリレート(C)としては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート;テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレート(C)は、単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0039】
組成物における多官能(メタ)アクリレート(C)の含有量は、アルコキシシラン(A)100重量部に対して、5〜200重量部が好ましく、10〜150重量部がより好ましく、20〜120重量部が特に好ましい。組成物における多官能(メタ)アクリレート(C)の含有量が少な過ぎると、多官能(メタ)アクリレート(C)を用いることによって得られる効果が十分ではない虞れがある。また、組成物における多官能(メタ)アクリレート(C)の含有量が多すぎると、得られる平滑化層の水蒸気透過性が低下する虞れがある。
【0040】
また、組成物は、上述したアルコキシシラン(A)及びアルコキシシラン(B)の他に水を含む。水を含むことによって、アルコキシシラン(A)のラジカル重合体が有するアルコキシ基とアルコキシシラン(B)が有するアルコキシ基との加水分解反応及び脱水縮合反応を促進させて、アルコキシシラン(A)のラジカル重合体の主鎖間にアルコキシシラン(B)が架橋した網目構造を形成することが可能となる。
【0041】
組成物における水の含有量は、アルコキシシラン(A)100重量部に対して、0.1〜40重量部が好ましく、1〜30重量部がより好ましく、2〜20重量部が特に好ましい。組成物における水の含有量が少な過ぎると、アルコキシシラン(B)が有するアルコキシ基の加水分解反応及び脱水縮合反応を十分に進行させるのに過度の時間が必要となり、ガスバリア性フィルムの製造効率が低下する虞れがある。また、組成物における水の含有量が多過ぎると、過剰に存在する水がアルコキシシラン(A)の重合反応を阻害する虞れがある。
【0042】
透明フィルムの一面にアルコキシシラン(A)、アルコキシシラン(B)及び水を含む組成物を塗布した後、塗布した上記組成物に活性エネルギー線を照射する。組成物に照射する活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、及びγ線などが挙げられる。なかでもアルコキシシラン(A)のラジカル重合を行うのに十分なエネルギーを有することから、電子線が好ましく挙げられる。
【0043】
塗布した組成物に電子線を照射する場合、電子線の加速電圧は、10〜100kVが好ましく、10〜50kVがより好ましい。また、電子線の照射量は、50〜200kGyが好ましく、100〜175kGyがより好ましい。
【0044】
透明フィルムの一面に塗布した組成物に活性エネルギー線を照射することによって、上記組成物に含まれているアルコキシシラン(A)のラジカル重合を行う。また、上記組成物が多官能(メタ)アクリレート(C)を含んでいる場合には、上記活性エネルギー線の照射によって、アルコキシシラン(A)及び多官能(メタ)アクリレート(C)のラジカル重合を行う。
【0045】
また、組成物には水が含まれていることからアルコキシシラン(A)のラジカル重合の開始と共に又は開始した後に、アルコキシシラン(A)のラジカル重合体が有するアルコキシ基及び/又はアルコキシ基で置換されたアルコキシ基と、アルコキシシラン(B)が有するアルコキシ基との加水分解及び脱水縮合反応、及び、アルコキシシラン(B)が有するアルコキシ基同士との加水分解及び脱水縮合反応が生じる。このような加水分解及び脱水縮合反応を十分に行うためには、透明フィルムの一面に塗布した組成物に活性エネルギー線を照射した後、これらを好ましくは温度40〜150℃、より好ましくは40〜120℃にて、好ましくは相対湿度40〜80%、より好ましくは50〜70%の環境下に放置するのが好ましい。放置時間は、0.1〜10時間が好ましく、0.5〜3時間がより好ましい。
【0046】
平滑化層としては、上述した(1)〜(3)の層が挙げられるが、なかでも表面平滑性及びガスバリア性に優れていることから(3)の層が好ましく挙げられる。
【0047】
平滑化層は、不活性粒子を含んでいてもよい。不活性粒子を用いることにより平滑化層の最大粗さRy及び表面粗さRaをより容易に調整することが可能となる。不活性粒子としては、平滑化層を構成する他の材料と化学反応を起こすことのない物質が用いられる。例えば、Al23粒子、SiO2粒子、TiO2粒子、BaSO4粒子、CaCO3粒子、タルク粒子、及びカオリン粒子などの不活性無機粒子、並びに架橋ポリスチレン粒子、及びアクリル粒子などの不活性有機粒子が挙げられる。不活性粒子の平均粒径は、0.01μm〜1.0μmが好ましい。
【0048】
平滑化層の厚さは、100nm〜10μmが好ましく、200nm〜5μmがより好ましく、500nm〜3μmが特に好ましい。厚みが100nm未満である平滑化層では十分な表面平滑性を有していない虞れがある。また、厚みが10μmを超える平滑化層では、剛性が高くなり過ぎてガスバリア性フィルムの可撓性を低下させる虞れがある。
【0049】
(ガスバリア層)
本発明のガスバリア性フィルムに用いられているガスバリア層は、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含む。亜鉛及び錫の酸化窒化物によれば、錫原子を含むことによりガスバリア層のガスバリア性を向上できると共に、亜鉛原子を含むことによりガスバリア層に適度な可撓性を付与することができる。したがって、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層を用いてなるガスバリア性フィルムは、撓ませたり丸めたりしたとしても、ガスバリア層にひび割れが発生することがなく優れたガスバリア性を維持することができる。
【0050】
亜鉛及び錫の酸化窒化物は、好ましくは、一般式(1):ZnSnabc(式中、aは0.1〜2であり、bは0.3〜4であり、cは0.1〜1.6である)で示される。一般式(1)で示される亜鉛及び錫の酸化窒化物によれば、ガスバリア性及び可撓性により優れたガスバリア層を提供することができる。
【0051】
上記一般式(1)におけるaは、亜鉛原子数に対する錫原子数の比(原子比)を示し、0.1〜2が好ましく、0.3〜1.5がより好ましく、0.5〜1がさらに好ましい。上記一般式(1)において錫原子の原子比aが多過ぎるとガスバリア層の可撓性が低下する虞れがある。また、上記一般式(1)において錫原子の原子比aが少な過ぎるとガスバリア層のガスバリア性が低下する虞れがある。
【0052】
上記一般式(1)におけるbは、亜鉛原子数に対する酸素原子数の比(原子比)を示し、0.3〜4が好ましく、0.5〜3がより好ましく、1〜3が特に好ましい。上記一般式(1)において酸素原子の原子比bが多過ぎるとガスバリア層のガスバリア性が低下する虞れがある。また、上記一般式(1)において酸素原子の原子比bが少な過ぎるとガスバリア層の透明性が低下する虞れがある。
【0053】
上記一般式(1)におけるcは、上亜鉛原子数に対する窒素原子数の比(原子比)を示し、0.1〜1.6が好ましく、0.3〜1がより好ましい。上記一般式(1)において窒素原子の原子比cが多過ぎるとガスバリア層の透明性が低下する虞れがある。また、上記一般式(1)において窒素原子の原子比cが少な過ぎるとガスバリア層のガスバリア性が低下する虞れがある。
【0054】
ガスバリア層は、亜鉛及び錫の酸化窒化物の他に、例えば、アルミニウムなどを含んでいてもよいが、亜鉛及び錫の酸化窒化物のみからなるのが好ましい。
【0055】
ガスバリア層に含まれている亜鉛及び錫の酸化窒化物における亜鉛原子、錫原子、酸素原子及び窒素原子の比は、例えば、VGサイエンティフィックス社製 製品名ESCALAB−200RなどのXPS(X線光電子分光)表面分析装置を用いて測定することができる。
【0056】
具体的には、XPS表面分析装置のX線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定する。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0057】
XPS表面分析装置による測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルから測定した。得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(窒素、酸素、亜鉛、錫等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0058】
定量処理をおこなう前に、各元素についてCoun Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。また、Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることができる。
【0059】
ガスバリア層の厚みは、20〜600nmが好ましく、150〜400nmがより好ましい。ガスバリア層の厚みが薄過ぎると十分なガスバリア性をガスバリア性フィルムに付与できない虞れがある。また、ガスバリア層の厚みが厚過ぎると、ガスバリア層の可撓性が低下して、ガスバリア性フィルムを撓ませたり丸めたりしたりするとガスバリア層にひび割れが発生してガスバリア性フィルムのガスバリア性を低下させる虞れがある。
【0060】
なお、本発明において、ガスバリア層の厚み及び上述した平滑化層の厚みは、ガスバリア層及び平滑化層の断面を走査電子顕微鏡を用いて10,000倍以上の倍率で撮影し、得られた撮影像からガスバリア層及び平滑化層においてそれぞれ任意の5箇所以上の厚みを測定し、その相加平均値として求めることができる。
【0061】
透明フィルムの一面に亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層を作製するには、物理気相成長法を用いて行うのが好ましい。物理気相成長法によれば、得られるガスバリア層に含まれる酸化窒化物に含まれる亜鉛原子、錫原子、酸素原子及び窒素原子の原子比を容易に調整することができる。このような物理気相成長法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びスパッタリング法が挙げられ、なかでもスパッタリング法が好ましく挙げられ、DCマグネトロンスパッタリング法がより好ましく挙げられる。
【0062】
DCマグネトロンスパッタリング法によりガスバリア層を作製するには、例えば、ターゲットとして亜鉛及び錫の合金を用い、分解ガスとして酸素ガス及び窒素ガスを用い、DCマグネトロンスパッタリング法により、透明フィルムの一面に亜鉛及び錫の酸化窒化物を堆積して成膜することによりガスバリア層を形成することができる。
【0063】
亜鉛及び錫の合金における亜鉛原子及び錫原子の原子比や、酸素ガス及び窒素ガスの導入量を調整することにより、得られる酸化窒化物の亜鉛原子、錫原子、酸素ガス及び窒素ガスの原子比を所望の範囲に調整することができる。
【0064】
DCマグネトロンスパッタリング法によって亜鉛及び錫の酸化窒化物を成膜する際に、DCマグネトロンスパッタリング装置の成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下、特に0.27×10-4Pa(2.0×10-5Torr)以下に減圧した後に、上記成膜室内の圧力が6.67×10-2Pa(5.0×10-4Torr)〜1.33Pa(1.0×10-2Torr)となるまで、アルゴンガスなどの不活性ガス、並びに酸素ガス及び窒素ガスを含む分解ガスを導入し、DCマグネトロンスパッタリング法によって亜鉛及び錫の酸化窒化物の成膜を開始するのが好ましい。
【0065】
(ガスバリア性フィルム)
本発明のガスバリア性フィルムは、図1に示すように、透明フィルム11と、上記透明フィルム11の一面に積層一体化されてなるガスバリア層12とを有している。このように透明フィルム11の一面全面を被覆するようにガスバリア層12が積層一体化されていることにより、ガスバリア性及び可撓性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【0066】
また、本発明のガスバリア性フィルムは、図2に示すように、透明フィルム11と、上記透明フィルム11の一面に積層一体化されてなる平滑化層13と、上記平滑化層13の一面に積層一体化されてなるガスバリア層12とを有していてもよい。このように、透明フィルム11の一面に、この一面が有する凹凸を被覆して表面平滑性に優れる平滑化層13が積層一体化されていることによって、ガスバリア層12の表面から透明フィルム11の一部がガスバリア層に被覆されずに露出するのを抑制することができ、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供することが可能となる。
【0067】
本発明のガスバリア性フィルムが用いられる用途としては、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装などの用途が挙げられる。また、このような包装用用途の他にも、本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池モジュール、液晶表示パネル、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルなどに使用される素子が、酸素や水蒸気に触れて性能劣化するのを防止するために、製品構成体の一部として或いはそれら素子のパッケージ材料として用いることができる。なかでも、本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池モジュールの裏面側保護シート又は受光面側保護シートとして用いられるのが好ましい。裏面側保護シート及び受光面側保護シートは、太陽電池モジュールにおいて発電素子とエチレン−酢酸ビニル共重合体などの封止樹脂とを保護するために用いられる。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0069】
(実施例1)
1.平滑化層の作製
ポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75mm、全光線透過率88%)の一面に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン100重量部、テトラエトキシシラン16重量部、トリプロピレングリコールジアクリレート100重量部、及び水8重量部含む平滑化層形成用組成物を、グラビアコーターにより塗布した後、塗布した平滑化層形成用組成物に電子線照射装置(ESI社製 製品名EC300/165/800)を用いて、加速電圧10kV、照射線量170kGyの条件で電子線を照射することによって3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びトリプロピレングリコールジアクリレートのラジカル重合を行ってラジカル重合体を形成した後、電子線照射を行った平滑化層形成用組成物を一面全面に有するポリエチレンナフタレートフィルムを120℃、相対湿度50%の環境下に0.5時間放置することによって、ラジカル重合体における3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来するメトキシ基とテトラエトキシシランのエトキシ基との加水分解及び脱水縮合反応、及び、テトラエトキシシランのエトキシ基同士の加水分解及び脱水縮合反応を行うことにより上記ラジカル重合体の主鎖間を架橋するテトラエトキシシランの脱水縮合物を形成し、ポリエチレンナフタレートフィルムの一面に全面的に積層一体化されてなる平滑化層(厚み3μm、最大粗さRy0.9nm、表面粗さRa0.5nm)を得た。
【0070】
2.ガスバリア層の作製
DCマグネトロンスパッタリング装置(積水化学工業株式会社製 製品名MPC−1)の成膜室内に設置されているカソードに、54重量%の亜鉛と46重量%の錫との合金(亜鉛原子:錫原子(原子比)=2:1)からなるターゲットを装着し、成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下にまで減圧し、アルゴンガス、酸素ガス、及び窒素ガスの混合ガス(アルゴンガス:酸素ガス:窒素ガス(分子比)=50:45:5)を成膜室内の圧力が0.47Pa(3.5×10-3Torr)となるまで導入した後、1.9kWの電力をカソードに印加し、0.5m/分の速度で平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを平滑化層がスパッタリング面となるように搬送させ、平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを成膜室内に4回通過させることにより、平滑化層の一面に全面的にZnSn0.531からなるガスバリア層(厚み350nm)を作製した。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム、平滑化層、及びガスバリア層がこの順で積層一体化されてなるガスバリア性フィルムを得た。
【0071】
(実施例2)
1.平滑化層の作製
ポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75mm、全光線透過率88%)の一面に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン100重量部、テトラエトキシシラン10重量部、トリプロピレングリコールジアクリレート120重量部、水10重量部、及びアルミナ微粒子(平均粒径10nm)100重量部含む平滑化層形成用組成物を、グラビアコーターにより塗布した後、塗布した平滑化層形成用組成物に電子線照射装置(ESI社製 製品名EC300/165/800)を用いて、加速電圧20kV、照射線量175kGyの条件で電子線を照射することによって3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びトリプロピレングリコールジアクリレートのラジカル重合を行ってラジカル重合体を形成した後、電子線照射を行った平滑化層形成用組成物を一面全面に有するポリエチレンナフタレートフィルムを120℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置することによって、ラジカル重合体における3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来するメトキシ基とテトラエトキシシランのエトキシ基との加水分解及び脱水縮合反応、及び、テトラエトキシシランのエトキシ基同士の加水分解及び脱水縮合反応を行うことにより上記ラジカル重合体の主鎖間を架橋するテトラエトキシシランの脱水縮合物を形成し、ポリエチレンナフタレートフィルムの一面に全面的に積層一体化されてなる平滑化層(厚み1μm、最大粗さRy10nm、表面粗さRa3nm)を得た。
【0072】
2.ガスバリア層の作製
DCマグネトロンスパッタリング装置(積水化学工業株式会社製 製品名MPC−1)の成膜室内に設置されているカソードに、29重量%の亜鉛と71重量%の錫との合金(亜鉛原子:錫原子(原子比)=1:1.35)からなるターゲットを装着し、成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下にまで減圧し、アルゴンガス、酸素ガス、及び窒素ガスの混合ガス(アルゴンガス:酸素ガス:窒素ガス(分子比)=50:47:3)を成膜室内の圧力が0.43Pa(3.2×10-3Torr)となるまで導入した後、1.9kWの電力をカソードに印加し、0.3m/分の速度で平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを平滑化層がスパッタリング面となるように搬送させ、平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを成膜室内に4回通過させることにより、平滑化層の一面にZnSn1.3510.4からなるガスバリア層(厚み500nm)を作製した。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム、平滑化層、及びガスバリア層がこの順で積層一体化されてなるガスバリア性フィルムを得た。
【0073】
(実施例3)
1.平滑化層の作製
実施例1と同様にして、ポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75mm、全光線透過率88%)の一面全面に積層一体化されてなる平滑化層(厚み3μm、最大粗さRy0.9nm、表面粗さRa0.5nm)を作製した。
【0074】
2.ガスバリア層の作製
DCマグネトロンスパッタリング装置(積水化学工業株式会社製 製品名MPC−1)の成膜室内に設置されているカソードに、74重量%の亜鉛と26重量%の錫との合金(亜鉛原子:錫原子(原子比)=5:1)からなるターゲットを装着し、成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下にまで減圧し、アルゴンガス、酸素ガス、及び窒素ガスの混合ガス(アルゴンガス:酸素ガス:窒素ガス(分子比)=50:45:5)を成膜室内の圧力が0.47Pa(3.5×10-3Torr)となるまで導入した後、1.9kWの電力をカソードに印加し、0.4m/分の速度で平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを平滑化層がスパッタリング面となるように搬送させ、平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを成膜室内に4回通過させることにより、平滑化層の一面に全面的にZnSn0.20.40.1からなるガスバリア層(厚み350nm)を作製した。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム、平滑化層、及びガスバリア層がこの順で積層一体化されてなるガスバリア性フィルムを得た。
【0075】
(比較例1)
1.平滑化層の作製
実施例1と同様にして、ポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75mm、全光線透過率88%)の一面全面に積層一体化されてなる平滑化層(厚み3μm、最大粗さRy0.9nm、表面粗さRa0.5nm)を作製した。
【0076】
2.ガスバリア層の作製
DCマグネトロンスパッタリング装置(積水化学工業株式会社製 製品名MPC−1)の成膜室内に設置されているカソードに、錫のみからなるターゲットを装着し、成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下にまで減圧し、アルゴンガス、酸素ガス、及び窒素ガスの混合ガス(アルゴンガス:酸素ガス:窒素ガス(分子比)=50:45:5)を成膜室内の圧力が0.47Pa(3.5×10-3Torr)となるまで導入した後、1.9kWの電力をカソードに印加し、0.5m/分の速度で平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを平滑化層がスパッタリング面となるように搬送させ、平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを成膜室内に4回通過させることにより、平滑化層の一面にSnO1.80.5からなるガスバリア層(厚み350nm)を作製した。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム、平滑化層、及びガスバリア層がこの順で積層一体化されてなるガスバリア性フィルムを得た。
【0077】
(比較例2)
1.平滑化層の作製
実施例1と同様にして、ポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75mm、全光線透過率88%)の一面に積層一体化されてなる平滑化層(厚み3μm、最大粗さRy0.9nm、表面粗さRa0.5nm)作製した。
【0078】
2.ガスバリア層の作製
DCマグネトロンスパッタリング装置(積水化学工業株式会社製 製品名MPC−1)の成膜室内に設置されているカソードに、50重量%の亜鉛と50重量%の錫との合金(亜鉛原子:錫原子(原子比)=1:0.55)からなるターゲットを装着し、成膜室内を1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)以下にまで減圧し、アルゴンガス、及び酸素ガスの混合ガス(アルゴンガス:酸素ガス(分子比)=50:50)を成膜室内の圧力が0.53Pa(4.0×10-3Torr)となるまで導入した後、1.9kWの電力をカソードに印加し、0.5m/分の速度で平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを平滑化層がスパッタリング面となるように搬送させ、平滑化層を有するポリエチレンナフタレートフィルムを成膜室内に4回通過させることにより、平滑化層の一面にZnSn0.53からなるガスバリア層(厚み350nm)を作製した。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム、平滑化層、及びガスバリア層がこの順で積層一体化されてなるガスバリア性フィルムを得た。
【0079】
(評価)
上記で作製したガスバリア性フィルムの水蒸気透過率及び可撓性をそれぞれ下記手順に従って評価した。結果を表1に示す。
【0080】
(水蒸気透過率)
ガスバリア性フィルムの水蒸気透過率(%)を、JIS K7129Bに準拠した方法により、ガス・蒸気透過率測定装置(GTRテック社製 装置名GTR−2100)を用いて、温度40℃、相対湿度90%の条件下で測定した。
【0081】
(可撓性)
150mmφのABSロッドに、ガスバリア性フィルムをそのガスバリア層が外側になるように巻き付け、巻き付けを完了してから15分後、ガスバリアフィルムを展開することによりガスバリア性フィルムを開放する要領を1サイクルとし、このサイクルを50回繰り返した。その後、JIS K5400に準拠して碁盤目試験を行った。この碁盤目試験では、ガスバリア層表面に、片刃のカミソリを用いて、ガスバリア層表面に、1mm間隔で縦横に11本ずつの切り込みを入れ、1mm角の枡目を100個作成した。なお、縦方向の切り込みと、横方向の切り込みとは90°の角度をなして交差していた。100個の枡目の上に市販の粘着テープを貼り付け、粘着テープの先端部を手でもってガスバリア層の表面に対して垂直方向に粘着テープを剥がし、この粘着テープの剥離に伴って平滑化層から剥がれた枡目の個数を測定し、下記の基準に従って可撓性の評価を行った。「枡目が平滑化層から剥がれた」とは、それぞれの枡目について、枡目のうちの50%以上の面積が平滑化層から分離された状態をいう。
A:全く剥離が認められない
B:剥がれた枡目の個数が1個以上5個未満であった。
C:剥がれた枡目の個数が5個以上10個未満であった。
D:剥がれた枡目の個数が10個以上であった。
【0082】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のガスバリア性フィルムはガスバリア性及び可撓性に優れる。したがって、このようなガスバリア性フィルムによれば、撓ませたり丸めたりすることが可能であり、曲面に沿った状態に設置することが可能な太陽電池モジュール、液晶表示パネル、有機EL表示パネルなどを提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
11 透明フィルム
12 ガスバリア層
13 平滑化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルムの一面に、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層が積層一体化されてなることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
亜鉛及び錫の酸化窒化物が、一般式(1):ZnSnabc(式中、aは0.1〜2であり、bは0.3〜4であり、cは0.1〜1.6である)で示されることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
透明フィルムの一面に、物理気相成長法によって、亜鉛及び錫の酸化窒化物を含むガスバリア層を形成する工程を有することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
亜鉛及び錫の酸化窒化物が、一般式(1):ZnSnabc(式中、aは0.1〜2であり、bは0.3〜4であり、cは0.1〜1.6である)で示されることを特徴とする請求項3に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
物理気相成長法が、スパッタリング法であることを特徴とする請求項3又は4に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121202(P2012−121202A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273010(P2010−273010)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】