説明

ガス分析装置及びガス分析方法

【課題】 測定応答性に優れ、かつ、HC濃度を精度よく測定できるガス分析装置及びガス分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 エンジン20からの排ガスを排出する排気経路3に取り付けられ、該排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析装置1であって、排気経路3の配管3a内の排ガスに向けて赤外光を照射する投光部40と、該投光部40から照射されて排ガス中を透過した赤外光を受光する受光部41とを有する第一測定部4と、前記排気経路3の配管3a内の熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部51を有する第二測定部5と、前記第一測定部4及び第二測定部5からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出するコンピュータ装置6とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置及びガス分析方法の技術に関し、より詳細には、内燃機関からの排ガスを排出する排気経路に取り付けられ、該排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析装置及びガス分析方法の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれる炭化水素(Hygro Carbon)濃度(以下、HC濃度と略記する)を測定するために、FID(Flame Ionization Detector)法やNDIR(Non‐Dispersive Infrared Red)法と呼ばれる測定方法を用いたガス分析装置が知られている。
【0003】
従来のガス分析装置として、具体的には、排気経路中の排ガスに特定の吸収波長を有する(中)赤外光を照射して、排ガス中を透過させ、その透過光を検出することで、該排ガス中の特定成分の濃度や温度を測定して分析する構成が公知である。
このような構成のガス分析装置においては、光源からの赤外光が光学フィルタ等を用いて炭化水素類の吸収波長に調整された上で排気経路内の排ガスに向けて照射され、排ガス中を透過した透過光の光強度が受光センサにて検出され、排ガスの光吸収量及び光透過距離からHC濃度が検出される。
【0004】
また、これまでに、例えば特許文献1に開示されるように、排気経路にガス分析装置(測定部)を直接配置してHC濃度等を測定するようにした配置構成も提案されている。この特許文献1には、内燃機関に接続された排気経路にプローブとしてのコリメータ及びミラーを設けることで、排ガス中の各種燃焼生成ガスの成分濃度や温度を時系列に測定する装置構成が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−74830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に開示されるように、ガス分析装置の測定部を排気経路に直接配置した場合には、測定部における排気経路内の温度を一定に維持しないと、排ガス温度変化によって排気経路内の熱輻射量が変化してしまい、測定精度が悪いといった課題があった。
そして、このようなことから、従来のガス分析装置の多くは、排気経路から分枝されたサンプリング経路中に上述した測定部を設けるように構成されていた。すなわち、サンプリング経路を経てサンプリングされた排ガスに対して、水分除去等の前処理を行った後に、測定条件を一定に保った領域でHC濃度等が測定されるように構成されていた。
【0006】
しかしながら、上述したサンプリング経路中に測定部を配置する構成では、内燃機関から排出された排ガスが排気経路からサンプリング経路を経て測定部に到達する間に、応答遅れが生じるとともに、排気経路内の排ガスとは測定雰囲気条件が異なり、かつ測定雰囲気条件を一定に保つことが困難であったため、同じく測定精度が悪いといった課題があった。
【0007】
そこで、本発明においては、ガス分析装置及びガス分析方法に関し、前記従来の課題を解決するもので、HC濃度を精度よく測定でき、かつ測定応答性に優れたガス分析装置及びガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、内燃機関からの排ガスを排出する排気経路に取り付けられ、該排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析装置であって、排気経路内の排ガスに向けて赤外光を照射する投光部と、該投光部から照射されて排ガス中を透過した赤外光を受光する受光部とを有する第一測定部と、前記排気経路内の熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部を有する第二測定部と、前記第一測定部及び第二測定部からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出する演算処理部とを備えてなるものである。
【0010】
請求項2においては、前記演算処理部は、第二測定部にて検出された光強度に基づく出力信号を用いて、前記第一測定部にて検出された赤外光の光強度に基づく出力信号を補正するものである。
【0011】
請求項3においては、前記第一測定部及び第二測定部に設けられた赤外光透過性のレンズを温調する温調部を備えてなるものである。
【0012】
請求項4においては、前記第一測定部及び第二測定部は、赤外光の光路中に、該赤外光を断続する光チョッパを備えてなるものである。
【0013】
請求項5においては、内燃機関からの排ガスを排出する排気経路中の排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析方法であって、排気経路内の排ガスに向けて赤外光を照射し、排ガス中を透過した赤外光を受光する第一測定工程と、前記排気経路内の熱輻射に基づく赤外光を受光する第二測定工程と、前記第一測定工程及び第二測定工程からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出する演算処理工程とを有するものである。
【0014】
請求項6においては、前記演算処理工程は、第二測定工程にて検出された光強度に基づく出力信号を用いて、前記第一測定工程にて検出された赤外光の光強度に基づく出力信号を補正するものである。
【0015】
請求項7においては、前記排気経路の内部空間に対向するようにして配置された赤外光透過性のレンズを温調する温調工程を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1に示す構成としたので、透過光だけでなく熱輻射の影響を考慮してHC濃度を測定することができ、その測定精度を向上できる。また、各測定部が排気経路に配置されることで、測定応答性に優れ、リアルタイム測定が可能である。
【0018】
請求項2に示す構成としたので、第一測定部により検出された受光信号における背景光干渉を補正して、排ガス中の炭化水素類に基づく真の光強度を検出することができ、HC濃度を高精度でかつ定量的に測定することができる。
【0019】
請求項3に示す構成としたので、排気経路を流れる排ガスに含まれる水分(水蒸気)によって投光側及び受光側のレンズが雲ってしまうのを防止して、赤外光の透過量が低減して測定不能となるのを防止できる。
【0020】
請求項4に示す構成としたので、各測定部での赤外光の検出感度を向上でき、ひいては測定精度を向上できる。
【0021】
請求項5に示す構成としたので、透過光だけでなく熱輻射の影響を考慮してHC濃度を測定することができ、その測定精度を向上できる。また、各測定工程が排気経路中で測定を行うことで、測定応答性に優れ、リアルタイム測定が可能である。
【0022】
請求項6に示す構成としたので、第一測定工程により検出された受光信号における背景光干渉を補正して、排ガス中の炭化水素類に基づく真の光強度を検出することができ、高精度でかつ定量的に測定することができる。
【0023】
請求項7に示す構成としたので、排気経路を流れる排ガスに含まれる水分(水蒸気)によって投光側及び受光側のレンズが雲ってしまうのを防止して、赤外光の透過量が低減して測定不能となるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明のガス分析装置を備えたエンジンベンチの全体的な構成を示した側面図、図2はガス分析装置の各構成を示した図、図3は各測定部に設けられたレンズを温調した状態を示した図、図4は本実施例のガス分析装置において炭化水素類が発生していない状態で測定された光強度変化を示した図、図5は本実施例のガス分析装置を用いた測定結果の一例を示した図である。
【0025】
まず、本実施例のガス分析装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例のガス分析装置1は、エンジンベンチ2に配置されたエンジン20から排出される排ガス中のHC濃度を測定するものである。具体的には、ガス分析装置1は、エンジン20からの排ガスを排出する排気経路3の中途部に取り付けられた第一測定部4及び第二測定部5と、第一測定部4及び第二測定部5からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出する演算処理部としてのコンピュータ装置6等とで構成されている。
【0026】
エンジンベンチ2は、エンジン20からの排ガスを機外に排出する排気経路3が敷設されて、排気経路3は、断面円形状の配管3aが連結されて構成されている。エンジン20からの排ガスは、排気経路3(配管3a)を介して機外に排出される。
本実施例のガス分析装置1は、排気経路3の中途部に測定部4・5等が配置されており、このように配置された各測定部4・5によって、配管3a内の排ガスに向けて赤外光を照射し、排ガスを透過した後の透過光を受光することで、排気経路3を流れる排ガスのHC濃度を連続的にリアルタイムで測定することができるように構成されている。
【0027】
図2に示すように、第一測定部4は、排気経路3(配管3a)内の排ガスに向けて赤外光を照射する投光部40と、該投光部40から照射されて排ガス中を透過した赤外光(以下、透過光と称する)を受光する受光部41等とで構成されている。
【0028】
投光部40は、赤外光を照射するフィラメント等の赤外光源42と、赤外光源42から照射された赤外光を配管3a内に導入するレンズ43と、赤外光源42とレンズ43との間に配置された光学フィルタ44等とを有しており、赤外光源42より照射された赤外光が光学フィルタ44によって調整された後にレンズ43を介して配管3aの内部空間に導入される。
【0029】
赤外光源42は、図示せぬ光源用電源に接続されて、ON/OFFが切り換え制御される。
レンズ43は、赤外透過性であって分析成分(炭化水素類)の吸収波長域で減衰の小さい素材より形成され、レンズ表面が配管3aの内部空間及び外部空間に対面するようにして、配管3aの側壁に開口された取付孔に封止されている。赤外光源42から照射された赤外光は、レンズ43を介して配管3aの内部空間に導入される。
光学フィルタ44は、炭化水素類の吸収波長帯(3.0〜4.0μm程度)の赤外光を透過するものが用いられる。
【0030】
受光部41は、赤外光を受光してその光強度を検出する赤外線センサ45と、赤外光源42から照射された赤外光が排ガス中を透過した後の透過光(赤外光)を配管3aから外部空間に導出するレンズ46と、赤外線センサ45とレンズ46との間に配置された光チョッパ47等とを有してしており、排ガスを透過した透過光が、レンズ46を介して配管3aから導出され、光チョッパ47によって断続されながら赤外線センサ45にて受光される。
【0031】
赤外線センサ45は、検出された光強度に基づく出力信号(以下、受光信号と称する)を後述するコンピュータ装置6に出力する。
レンズ46は、上述した投光部40のレンズ43と同様に、赤外透過性であって分析成分(炭化水素類)の吸収波長域で減衰の小さい素材より形成され、レンズ表面が配管3aの内部空間及び外部空間に対面するようにして、配管3aの側壁に開口された取付孔に封止されている。
【0032】
ここで、本実施例のレンズ43・46は、配管3aの軸中心Cを中心とした同心円の円周上に配置されている。換言すると、投光部40と受光部41とが、配管3aの軸中心Cを中心とした同心円の円周上であって、かつ、軸中心Cを中心として約180°位相する位置に配置されている。赤外光源42より照射された赤外光は、レンズ43を介して配管3a内に導入された後、直線的に進行して排ガス中を透過し、レンズ46を介して配管3a外に導出されて赤外線センサ45により受光される。
【0033】
光チョッパ47は、円周上にスリット(図略)が形成された円盤であって、モータ48により回転されることで、レンズ46を介して配管3a外に導出された透過光の透過・遮断を一定間隔で繰り返して断続光を発生させるものである。すなわち、光チョッパ47は、モータ48によって回転されることで、赤外光源42からの赤外光が完全に遮断される状態と、スリットを介して赤外線センサ45に到達される状態とが所定間隔で繰り返されて、断続光が赤外線センサ45へと出力される。
また、光チョッパ47は、駆動源としてのモータ48が制御されてその回転周波数が調整されている。
【0034】
なお、図2では、光チョッパ47を赤外線センサ45とレンズ46との間に配置してあるが、赤外光路中であればこの位置に限定されず、例えば、赤外光源42とレンズ43との間に設置することも可能であり、この場合には、光チョッパ47と光チョッパ57とを兼用させることができる。
【0035】
図2に示すように、第二測定部5は、排気経路3(配管3a)内の熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部51等とで構成されている。ここで、配管3aは、高温の排ガスが流れることによって内壁面の温度が上昇され、その表面から熱輻射による赤外光が発生される。本実施例の第二測定部5では、かかる配管3aの内壁面からの熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部51を備えるものである。
【0036】
受光部51は、赤外光を受光してその光強度を検出する赤外線センサ55と、配管3aの内壁から照射された熱輻射に基づく赤外光を配管3a内から外部空間に導出するレンズ56と、赤外線センサ55とレンズ56との間に配置された光チョッパ57等とを有してしている。
【0037】
赤外線センサ55は、検出された光強度に基づく出力信号(以下、背景光信号と称する)を後述するコンピュータ装置6に出力する。
レンズ56は、赤外透過性であって分析成分(炭化水素類)の吸収波長域で減衰の小さい素材より形成され、レンズ表面が配管3aの内部空間及び外部空間に対面するようにして、配管3aの側壁に開口された取付孔に封止されている。また、レンズ56は、上述したレンズ43・46に対して、配管3aの軸中心Cを中心とした同心円の円周上に配置されている。本実施例では、受光部51が、軸中心Cを中心として受光部41に対して約90°位相する位置に配置されている。
【0038】
光チョッパ57は、上述した光チョッパ47と略同一に形成されている。すなわち、円周上にスリット(図略)が形成された円盤であって、モータ58により回転され、モータ58によって回転されることで、配管3aの内壁から照射された熱輻射に基づく赤外光が完全に遮断される状態と、スリットを介して赤外線センサ45に到達される状態とが所定間隔で繰り返されて、断続光が赤外線センサ55へと出力される。
なお、光チョッパ57は、駆動源としてのモータ58が制御されてその回転周波数が調整されている。
【0039】
図2に示すように、コンピュータ装置6は、赤外線センサ45からの受光信号及び赤外線センサ55からの背景光信号が出力され、各出力信号を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出するように構成されている。
具体的には、コンピュータ装置6は、演算処理装置として第一測定部4及び第二測定部5を制御したり、受光部41・51より出力された出力信号に基づいて演算を行って、エンジン20から排出されるHC濃度を算出したり、各種の測定結果を表示したり、演算・測定結果などを記憶したりするように構成されている。
特に、本実施例のコンピュータ装置6は、第二測定部5にて検出された光強度に基づく背景光信号を用いて、第一測定部4にて検出された赤外光の光強度に基づく受光信号を補正するように構成されている。この詳細は後述する(図4及び図5参照)。
【0040】
図2及び図3に示すように、本実施例のガス分析装置1には、第一測定部4及び第二測定部5に設けられた赤外光透過性のレンズ43・46・56を温調する温調部としてのヒータ7が設けられており、ヒータ7によってレンズ43等が所定温度に温調可能とされている。具体的には、ヒータ7は、配管3aの外側壁の複数箇所に取り付けられ、レンズ43等の周辺を温調(加熱)することで、間接的にレンズ43等を温調(加熱)するように構成されている(図3の温調部分を参照)。ヒータ7によるレンズ43等の温調温度は、特に限定されるものではないが、排ガス中に含まれる水分が液化してレンズ43等の表面に付着するのを防止可能な温度となるように温調制御される。
【0041】
次に、本実施例のガス分析装置1を用いた排ガスのHC濃度の測定方法について、以下に詳述する。
図1及び図2に示したように、エンジンベンチ2に搭載されたエンジン20からの排ガスは、排気経路3の下流側に送られて、やがて排気経路3の中途部に設けられたガス分析装置1の第一測定部4及び第二測定部5に到達される。この時、ガス分析装置1では、第一測定部4及び第二測定部5が設けられた箇所にヒータ7が設けられていることから、配管3aにおけるレンズ43等の近傍が加熱されるとともに、第一測定部4及び第二測定部5のレンズ43等が同時に加熱されることで、排ガス中の成分や水分がレンズ43等の表面に凝結するのが防止されている(以上、温調工程)。
【0042】
第一測定部4では、投光部40の赤外光源42から照射された赤外光が、レンズ43を介して配管3a内に導入されて、排ガスに向けて照射される。排ガスを透過した透過光は、受光部41に設けられた光チョッパ47が所定の周期で回転された状態で、レンズ46を介して配管3a外に導出され、赤外線センサ45によって受光される。そして、赤外線センサ45で受光された受光信号が、コンピュータ装置6へと出力される(以上、第一測定工程)。
【0043】
一方で、上述した第一測定部4にて受光信号が出力されると同時に、第二測定部5では、配管3aの内壁面からの熱輻射に基づく赤外光が、受光部51に設けられた光チョッパ57が所定の周期で回転された状態で、レンズ56を介して配管3a外に導出され、赤外線センサ55によって受光される。そして、かかる赤外線センサ45で受光された背景光信号が、コンピュータ装置6へと出力される(以上、第二測定工程)。
【0044】
コンピュータ装置6では、各赤外線センサ45・55からの出力信号が受信されると、赤外線センサ45からの受光信号から赤外線センサ55からの背景光信号を引算して背景光干渉を補正して真の光強度変化を検出し、排ガス中の真のHC濃度が演算される。なお、演算されたHC濃度や光強度変化などの測定・演算結果は、コンピュータ装置6の図示せぬメモリ等の記憶部に記憶され、モニタ等の画像出力装置に画像出力される(以上、演算処理工程)。
【0045】
コンピュータ装置6においては、光強度変化から以下の数式(1)に基づいて排ガス中のHC濃度が演算される。
HC濃度=−log(I/I)/(A・L)・・・(1)
この数式(1)において、Iは透過光強度、Iは初期透過光強度、Aは比例係数、Lは光透過距離である。したがって、初期透過光強度Iに対する透過光強度Iの比、すなわち、シグナル強度I/Iに基づいてHC濃度が演算される。本実施例では、各透過光強度I、Iから背景光信号の透過光強度が引算されて、第一測定部4で検出された光強度の背景光干渉が補正される。
【0046】
図4は、エンジン20始動後であって炭化水素類が発生していない状態で測定された光強度変化を示した図であり、具体的には、直線(a)は第一測定部4からの出力信号に基づく光強度変化、直線(b)は第二測定部5からの出力信号に基づく光強度変化、直線(c)は背景光干渉を補正した後の光強度変化である。
ここで、直線(a)を参照すると、時間経過とともに第一測定部4の赤外線センサ45で検出される光強度が増加していることが分かる。これは、時間経過とともに、配管3a内の温度が上昇して、内壁面からの熱輻射が増加して赤外線センサ45で検出される赤外光に重畳していることが原因であり(直線(b)参照)、第一測定部4のみでは、この熱輻射に基づく赤外光がガス分析装置1において排ガス中のHC濃度を測定する際の障害となっていることが分かる。
本実施例のガス分析装置1では、第二測定部4の赤外線センサ55で熱輻射に基づく赤外光を別途測定し、コンピュータ装置6にて第一測定部4からの受光信号から第二測定部5からの背景光信号を引き算して背景光干渉を補正することで、真の光強度を検出することができる(直線(c)参照)。
【0047】
図5は、本実施例のガス分析装置1を用いた排ガス中のHC濃度の測定結果の一例を示した図であり、エンジン20始動後であって時間t1から時間t2まで排ガス中の炭化水素類を多量に発生させた状態で測定された光強度変化である。なお、図4と同様に、直線(a)は第一測定部4からの出力信号に基づく光強度変化、直線(b)は第二測定部5からの出力信号に基づく光強度変化、直線(c)は背景光干渉を補正した後の光強度変化である。
このように、排ガス中に高濃度の炭化水素類が発生した状態では、排ガス自体が光源となって排ガスから赤外光が照射されるが、本実施例のガス分析装置1では、排ガスからの赤外光も背景光として第二測定部5で検出することができ、これを第一測定部4にて検出された受光信号から背景光干渉として補正することで、排ガス中のHC濃度を高精度でかつ定量的に測定することが可能となっている。
【0048】
以上のように、本実施例のガス分析装置1は、排気経路3の配管3a内の排ガスに向けて赤外光を照射する投光部40と、該投光部40から照射されて排ガス中を透過した赤外光を受光する受光部41とを有する第一測定部4と、前記排気経路3の配管3a内の熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部51を有する第二測定部5と、前記第一測定部4及び第二測定部5からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出するコンピュータ装置6と備えてなるものであり、第一測定部4にて排ガスを透過した透過光を受光するとともに、第二測定部5にて熱輻射に基づく赤外光を受光し、測定部4・5からの受光信号から排ガス中のHC濃度を算出するように構成されているため、透過光だけでなく熱輻射の影響を考慮してHC濃度を測定することができ、排ガス温度の変化による熱輻射量の変化の影響を大幅に低減して測定精度を向上できる。また、各測定部4・5が排気経路3の中途部に配置されることで、測定応答性に優れ、リアルタイム測定が可能である。
【0049】
特に、本実施例のガス分析装置1は、コンピュータ装置6において、第二測定部5にて検出された光強度に基づく出力信号を用いて、第一測定部4にて検出された赤外光の光強度に基づく出力信号を補正するように構成されているため、第一測定部4により検出された受光信号における背景光干渉を補正して、排ガス中の炭化水素類に基づく真の光強度を検出することができ、高精度でかつ定量的に測定することができる。
【0050】
また、第一測定部4及び第二測定部5に設けられた赤外光透過性のレンズ43・46・56を温調するヒータ7を備えてなるため、排気経路3(配管3a)を流れる排ガスに含まれる水分(水蒸気)によって投光側及び受光側のレンズが雲ってしまうのを防止して、赤外光の透過量が低減して測定不能となるのを防止できる。
また、第一測定部4及び第二測定部5は、赤外光の光路中に、該赤外光を断続する光チョッパ47・57を備えてなるため、各測定部4・5の赤外線センサ45・55での赤外光の検出感度を向上でき、ひいては測定精度を向上できる。
【0051】
なお、本実施例のガス分析装置1の構成は、上述の構成に限定されない。
【0052】
本実施例のガス分析装置1は、エンジンベンチ2に搭載されたエンジン20からの排ガス中のHC濃度を測定するものであるが、例えば、車輌に搭載された状態のエンジン20の排気経路3に配置することで、かかるエンジン20からの排ガスのHC濃度を測定することもできる。
【0053】
また、上述した実施例では、詳細に説明しなかったが、本実施例のガス分析装置1では、第一測定部4及び第二測定部5とコンピュータ装置6との間には、第一測定部4及び第二測定部5からの出力信号を増幅してコンピュータ装置6へと出力する増幅装置やロックインアンプ等が適宜配置される。特に、ロックインアンプが配置される場合には、参照信号として光チョッパ47・57からの制御信号がロックインアンプに出力されるような構成とされる。
【0054】
また、ヒータ7は、排ガス温度が一定となるように測定条件が制御されている場合には特に設ける必要はないが、本実施例のガス分析装置1のように、排気経路3の中途部に第一測定部4及び第二測定部5を配置して排ガス中のHC濃度をリアルタイムで確実に測定するためには、上述したように各測定部4・5のレンズ43等の近傍に設けておくことが好ましい。ただし、ヒータ7の構成としては、レンズ43等を温調可能な構成であれば特に限定しない。また、所定箇所の配管3aの内壁全体を温調することで、間接的にレンズ43等を温調するような構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のガス分析装置を備えたエンジンベンチの全体的な構成を示した側面図。
【図2】ガス分析装置の各構成を示した図。
【図3】各測定部に設けられたレンズを温調した状態を示した図。
【図4】本実施例のガス分析装置において炭化水素類が発生していない状態で測定された光強度変化を示した図。
【図5】本実施例のガス分析装置を用いた測定結果の一例を示した図。
【符号の説明】
【0056】
1 ガス分析装置
3 排気経路
3a 配管
4 第一測定部
5 第二測定部
6 コンピュータ装置(演算処理部)
7 ヒータ(温調部)
20 エンジン(内燃機関)
40 投光部
41 受光部
51 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排ガスを排出する排気経路に取り付けられ、該排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析装置であって、
排気経路内の排ガスに向けて赤外光を照射する投光部と、該投光部から照射されて排ガス中を透過した赤外光を受光する受光部とを有する第一測定部と、
前記排気経路内の熱輻射に基づく赤外光を受光する受光部を有する第二測定部と、
前記第一測定部及び第二測定部からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出する演算処理部とを備えてなることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、第二測定部にて検出された光強度に基づく出力信号を用いて、前記第一測定部にて検出された赤外光の光強度に基づく出力信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記第一測定部及び第二測定部に設けられた赤外光透過性のレンズを温調する温調部を備えてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記第一測定部及び第二測定部は、赤外光の光路中に、該赤外光を断続する光チョッパを備えてなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項5】
内燃機関からの排ガスを排出する排気経路中の排ガスの成分濃度や温度を測定するガス分析方法であって、
排気経路内の排ガスに向けて赤外光を照射し、排ガス中を透過した赤外光を受光する第一測定工程と、
前記排気経路内の熱輻射に基づく赤外光を受光する第二測定工程と、
前記第一測定工程及び第二測定工程からの出力を演算処理して排ガス中のHC濃度を算出する演算処理工程とを有することを特徴とするガス分析方法。
【請求項6】
前記演算処理工程は、第二測定工程にて検出された光強度に基づく出力信号を用いて、前記第一測定工程にて検出された赤外光の光強度に基づく出力信号を補正することを特徴とする請求項5に記載のガス分析方法。
【請求項7】
前記排気経路の内部空間に対向するようにして配置された赤外光透過性のレンズを温調する温調工程を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のガス分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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