ガス分析装置
【課題】小型な構造であって、検体ガスの成分分離の性能が高いガス分析装置を提供する。
【解決手段】本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、該1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾されることを特徴とする。
【解決手段】本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、該1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関し、特に、検体ガスに微量に含まれるガス成分を高精度に検出するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では人口減少・少子高齢化が進展しており、総人口に対する65歳以上の高齢者が占める割合が急速に増加しつつある。具体的には、2013年になると総人口に対し約25.2%のほぼ4人に1人が高齢者となり、2035年になると総人口に対し約33.7%のほぼ3人に1人が高齢者となると言われている。高齢者ほど医療機関を利用する割合は大きいことから、今後医療の負担が大きくなることが予想される。
【0003】
加えて、若年層においては、生活環境が著しく改善されたこと、IT技術の進展により体を動かす機会が減少したこと等の理由により、メタボリックシンドロームが問題となっており、生活習慣病等の疾病を患う若年層の人口は年々増えてきている。このように若年層においても医療を利用する機会が増えているというのが現状である。
【0004】
このような時代の趨勢から、医療が抱える負担はここ数年で限界に達するとも言われており、医療の負担を少しでも軽減することが望まれている。近年では特に医療機関を利用する機会を未然に防ぐことができる予防医療が注目されている。
【0005】
予防医療を充実させることにより、疾病を患うことを予防することができ、もって疾病を患う人口を減少させることができる。このような手段を用いて疾病を患う人口が減少すれば、医療の負担を軽減することができるばかりか、医療保険制度の崩壊が叫ばれている現代において、医療費を軽減することができるというメリットもある。
【0006】
そこで、予防医療を充実させるためには、身近な機器で個人が手軽に健康管理を行なうための健康情報を得るシステムを各家庭に普及させたいところである。健康情報を得るための指標としては、血圧、血液、尿、汗、唾液、呼気等の生体試料がある。かかる生体試料には、血液における血糖値のように、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質が複数含まれている。
【0007】
このような生体試料に含まれる物質の含有率を個々に測定することにより、健康情報を得ることをもって、自己の健康状態を的確に把握することができる。このように自己の健康状態を客観的に把握することにより、疾病を早期に発見することができ、疾病を患う前に事前にそれを回避するように生活を見直すことができる。
【0008】
上記で挙げた生体試料の中でも、特に、呼気は、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質を複数含む点、迅速かつ簡便にサンプリングおよび測定ができる点、ならびに、測定対象がガスであり非侵襲で測定でき、肉体的なダメージが小さい点等から、日々測定しても苦になりにくい、まさに日々の健康管理に最も適した生体試料の一つということもできる。
【0009】
このような利点を有するため、呼気に含まれる成分に基づいて疾病を特定するという研究が活発化している。これまでの研究で呼気と疾病との相関が見られるものとしては、たとえば肺がん患者の呼気の成分は、健常者のそれと比べて呼気の成分が一部異なっていることが明らかとなっている。
【0010】
より具体的には、呼気中に一酸化窒素および一酸化炭素を多く含む場合、肺疾患を患っている可能性が高いことがわかっており、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Diseases)の患者の呼気は、一酸化窒素および一酸化炭素が高い濃度で検出される。
【0011】
呼気の成分と疾病との相関性が見られる別の例を挙げると、たとえば消化不良、十二指腸潰瘍等の胃腸疾患の患者の呼気は、水素が高い濃度で検出される傾向があり、脂質酸化、喘息、気管支炎等の患者の呼気は、酸化ストレスとの相関が高く、エタン、ペンタン等が高い濃度で検出される傾向がある。このように呼気に含まれる各成分の濃度を測定することにより、疾病情報の取得や健康指導を行なうことができる。
【0012】
上記の中でも、特に呼気中のアセトンは、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)を分解したときに産出されることから、従来から糖代謝の活性度の指標として位置づけられている。断食中であって摂食していない状態のように極度に空腹であるとき、および重度の糖尿病を患っているときには、呼気中にアセトンを多く含むことが知られている。ともすれば、呼気中に含まれるアセトンの量を把握することにより、体脂肪の減少量を明確にすることができるとも考えられる。
【0013】
体脂肪がアセトンとなって、体外に排出される詳細のメカニズムを説明すると、まず、脂肪が代謝される過程で血中にアセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトン等のケトン体が生成される。そして、生成されたケトン体のうち、アセト酢酸およびヒドロキシ酪酸は肝臓以外の臓器で再利用され、アセトンは肺を介して呼気として外部に排出される。ちなみに、脂肪の代謝は、食事制限や運動により血中グルコースが消費されて不足したときに、体内に蓄えられた体脂肪をエネルギーとして利用することにより行なわれる。
【0014】
このようにアセトンは、体脂肪を燃焼する過程で生成され、しかも呼気中に含まれて排出されるため、呼気中のアセトンの濃度を測定することにより、体脂肪の燃焼状況を直接的に知ることができる。
【0015】
ところで、呼気に含まれる複数成分の濃度を個別に測定する方法としては、従来、ガスクロマトグラフィを利用して各成分を分離した後に、熱伝導率型、水素炎イオン化、電子捕獲型、質量分析等の検出器により検出する方法が知られている。かかる検出方法によれば、ppb−pptレベルで高感度に各成分を検出することができるという利点を有する。
【0016】
しかしながら、従来の呼気の測定機器、すなわちガスクロマトグラフィは、大型でかつ、重量があり、高額でもあり、しかも操作方法の習熟も必要でもあることから、各家庭に身近な機器として備えられる機器とは言えなかった。
【0017】
また、呼気中に含まれる成分を精確に分析するためには、呼気中に大量に含まれる水蒸気を除去する必要があるが、従来の呼気の測定機器には、呼気中の水分を除去するための前処理を行なう部位を備えていないため、呼気中に微量に含まれる成分の一部は検出されにくく、精確に分析することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−181674号公報
【特許文献2】特表2005−512067号公報
【特許文献3】特開2006−145254号公報
【特許文献4】特開平8−122314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このような課題を解決するための試みとして、たとえば特許文献1および特許文献2には、試料の前処理を行ない水分の除去を行なう装置が開示されている。しかし、特許文献1および特許文献2の装置は、分析装置の他に水分除去ユニットを設置する必要があるため、装置の構造が複雑化し、結果として装置全体が大型化する傾向があった。
【0020】
また、特許文献3には、通常のガスクロマトグラフィのカラムを使用することにより、水の検出を行なう技術が開示されている。しかしながら、特許文献3の方法は、ガスクロマトグラフ装置を用いることが必須であるため、各家庭等で使用するのはほぼ実現不可能であった。
【0021】
特許文献4には、プレカラムとメインカラムとを備えるガスクロマトグラフ質量分析装置が開示されている。特許文献4のガスクロマトグラフ質量分析装置は、予め水分のみを分離するプレカラムを用いて先に水分を分離した後に、メインカラムで各成分を成分分離するという技術である。
【0022】
このように2つのカラムを設けることにより、たしかに成分分離の性能を高めることはでき、その形状を小型化することもできる傾向にあるが、やはり汎用的に利用できるレベルにまで小型化したものではなく、さらなる小型化が要求されている。
【0023】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、小型であって、検体ガスの成分分離の性能が高いガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、該1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾されることを特徴とする。
【0025】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なることが好ましい。
【0026】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離することが好ましい。
【0027】
1以上のマイクロカラムのうちの検体ガスが導入される側の内部流路の壁面に修飾される固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離することが好ましい。
【0028】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、10以上の比誘電率を有することが好ましい。
【0029】
ガス分離部は、ガス導入部と接続される第1マイクロカラムと、該第1マイクロカラムに接続される第2マイクロカラムとを少なくとも備えることが好ましい。
【0030】
第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとは、切替機構により接続されており、該切替機構は、第1マイクロカラムを通過した検体ガスの一部を外部に排出するための排ガス口を備えることが好ましい。
【0031】
切替機構は、第1マイクロカラムから排ガス口に検体ガスの一部を排出するときに、第2マイクロカラムにキャリアガスを導入するためのキャリア導入口を備えることが好ましい。
【0032】
1以上のマイクロカラムのいずれもが、他の少なくとも1のマイクロカラムと接続されており、該1以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、他のマイクロカラムに交換できるように着脱可能であることが好ましい。
【0033】
マイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、はめ込み式で他のマイクロカラムと接続されることが好ましい。
【0034】
マイクロカラムのいずれか1のマイクロカラムは、他の2以上のマイクロカラムに接続される多接続マイクロカラムであり、上記の2以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムに検体ガスが流れるように、多接続マイクロカラムからの検体ガスの流れを切り替える切替機構を有することが好ましい。
【0035】
少なくとも1のマイクロカラムは、その内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾された多相マイクロカラムであり、該多相マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なることが好ましい。
【0036】
多相マイクロカラムのうち検体ガスを導入する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料は、該多相マイクロカラムの検体ガスを排出する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料と異なることが好ましい。
【0037】
多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、該分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なることが好ましい。
【0038】
多相マイクロカラムは、1枚の基板の表裏に内部流路が形成されたものであり、当該基板の表面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料は、基板の裏面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料と異なることが好ましい。
【0039】
検体ガスはアセトンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明のガス分析装置は、上記の構成を有することにより、小型であって、検体ガスの成分分離の性能が高いという特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、本発明のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図2】(a)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の一例を示す図であり、(b)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の別の一例を示す図である。
【図3】本発明のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図5】(a)および(b)は、第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとを接続する切替機構を動作させる前後の拡大断面図である。
【図6】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図7】(a)および(b)は、第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとを接続する切替機構を動作させる前後の拡大断面図である。
【図8】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図9】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図10】本発明のガス分析装置に用いられる多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。
【図11】本発明のガス分析装置に用いられる多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。
【図12】実施例A1のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図13】比較例A1のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図14】比較例A2のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図15】実施例1のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。
【図16】比較例2のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ等の寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0043】
(実施の形態1)
<ガス分析装置>
図1(a)は、本実施の形態のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、図1(b)は、(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図1(a)に示されるように、検体ガスを導入するためのガス導入口11を備えるガス導入部10と、該ガス導入部10から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを2つ備えるガス分離部20と、該ガス分離部20により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部50とを備えることを特徴とする。
【0044】
そして、上記の2つのマイクロカラムのうち、ガス導入部10と接続されるマイクロカラムのことを第1マイクロカラム21とし、第1マイクロカラム21に接続されるマイクロカラムのことを第2マイクロカラム31とすると、第1マイクロカラム21の内部流路22の壁面に修飾される固定相の材料は、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に修飾される固定相の材料とは異なることを特徴とする。
【0045】
このように第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31の壁面に修飾される固定相の材料がそれぞれ相異なることにより、第1マイクロカラム21で成分分離した検体ガスをさらに第2マイクロカラム31で成分分離できることから、ガス分析装置の検出精度を高めることができる。以下においては、検体ガスとして呼気を用いた場合の本実施の形態のガス分析装置の動作の一例を図1(a)および図1(b)を参照して説明する。
【0046】
本実施の形態のガス分析装置の図1(a)に示される状態(以下においてこの状態のことを「第1状態」とも記す)において、呼気は、ガス採取部40の導入口から導入されて、ガス導入口11から第1流路12を通じてガス収容部19に供給される。そして、ガス収容部19から第2流路13、ガス排出口14を通じてガス採取部40に排出される。ここでの呼気の流速は、気流発生手段25により制御される。
【0047】
一方、第1状態において、キャリアガスを供給する第3流路15は、ガス分離部20の第1マイクロカラム21と接続されている第4流路16に直接接続される。そして、調圧手段17により流速を調整したキャリアガスが第3流路15から第4流路16を流れ、さらにガス分離部20の第1マイクロカラム21の順に流れる。
【0048】
次に、第1状態から流路切替手段18を用いて、ガス収容部の接続先を第1流路12および第2流路13から第3流路15および第4流路16に切り替えることにより、図1(b)に示される第2状態とする。かかる第2状態では、図1(b)に示されるように、第3流路15とガス収容部19と第4流路16とを接続する。このように第1状態から第2状態に切り替えることにより、第1流路12から導入されたガス収容部19内の呼気が第3流路15から供給されるキャリアガスとともに、第4流路16を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に供給される。
【0049】
ガス分離部20に供給された呼気は、第1マイクロカラム21の内部流路22の壁面の固定相と吸脱着が繰り返されるが、呼気の成分ごとに吸脱着のし易さが異なる。このため固定相によく吸着する成分ほど移動速度が遅くなり、固定相にあまり吸着しない成分ほど移動速度が早くなるというように、呼気を成分分離することができる。
【0050】
ここで、第1マイクロカラム21の壁面には、呼気の成分のうちの水を成分分離するための固定相が修飾されることが好ましい。従来から呼気に含まれる各成分を検出する上で、呼気中の水分は、検出を阻害する最有力の成分であった。しかし、このように第1マイクロカラム21の内部流路22に水を成分分離するための固定相を修飾することにより、呼気に含まれる水を効率的に成分分離することができる。なお、固定相を構成する材料の詳細は後述する。
【0051】
このように第1マイクロカラム21により水を成分分離した呼気は、第2マイクロカラム31に供給されて、さらに成分分離がなされる。そして、第2マイクロカラム31で成分分離された呼気の各成分がガス検出部50に導入される。かかる各成分をガス検出部50のガスセンサ51により感知する。呼気がガス分析装置に導入されてから、ガスセンサ51がガス成分を感知するまでの時間を保持時間という。当該保持時間は呼気の成分により固有の値を示し、かかる保持時間に基づいて、ガス成分の同定が行なわれる。本実施の形態のガス分析装置は、このようにして呼気のガス成分を検出する。以下において、本実施の形態のガス分析装置を構成する各部をより詳細に説明する。
【0052】
<ガス導入部>
本実施の形態において、ガス導入部10は、呼気の一部をガス分離部20に供給するために設けられるものである。このようなガス導入部10は、図1に示されるような構造のみに限られるものではなく、たとえばガス分離部20に呼気を供給する流路に切換口が備わっていることが好ましい。ガス導入部10は、該切換口を動作させることにより、ガス分離部20に供給する呼気の流速を調整することができるものであれば、いかなる構造のものであっても良い。
【0053】
このようにガス導入部10が、上記のような構造を有することにより、検出に不要な呼気を外部に排出しつつ、検出に必要な呼気のみをガス分離部20に供給することができる。ガス導入部10の一例として、以下に図1(a)および図1(b)を用いて説明する。
【0054】
図1(a)に示されるガス導入部10は、ガス導入口11から呼気を導入するための第1流路12と、導入した呼気の一部をガス排出口14から排出するための第2流路13とを有するとともに、第1流路12と第2流路13とを接続し、かつ呼気を保持するためのガス収容部19がさらに接続される。
【0055】
一方、ガス導入部10は、上記の第1流路12および第2流路13とは別の流路として、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に呼気を供給するための第4流路16とを備える。ただし、図1(a)に示される第1状態においては、第3流路15と第4流路16とは、ガス収容部19を介することなく直接接続されている。このため、第3流路15に導入されるキャリアガスは、第4流路16を通じてガス分離部20に供給される。第1状態では、呼気がガス分離部20に供給されることはなく、第1流路12から導入された呼気は、ガス収容部19を通過して、その一部がガス収容部19に保持されるとともに、残部は第2流路13を通じてガス排出口14から排出される。
【0056】
(流路切替手段)
流路切替手段18は、ガス収容部19が第1流路12および第2流路13に接続されている第1状態から、ガス収容部19が第3流路15および第4流路16に接続されている第2状態に切り替えるためにガス導入部10に設けられるものである。流路切替手段18により、図1(a)に示される第1状態から図1(b)に示される第2状態に切り替えられる。第2状態では、上記の第1状態でガス収容部19に保持された呼気が、第3流路15から供給されるキャリアガスとともに第4流路16に流れ、該第4流路16からガス分離部20に供給される。
【0057】
そして、第2状態において、ガス収容部19に呼気がなくなったとき、またはガス分離部20に呼気が十分に供給されたとき、流路切替手段18により第2状態から第1状態に切り替える。第2状態から第1状態に切り替わると、第1流路12からガス収容部19に再び呼気が導入される。このように第1状態と第2状態とを交互に切り替えることにより、適切な流量の呼気を適切なタイミングでガス分離部20に導入することができる。
【0058】
なお、図1(b)に示される第2状態においては、第1流路12と第2流路13とはガス収容部19を介することなく、直接接続されている。このため、第2状態において第1流路12に導入される呼気は、第2流路13を通じてガス採取部40に排出される。
【0059】
(調圧手段)
第3流路15は、調圧手段17を備えることが好ましい。調圧手段17を備えることにより第3流路15を流れるキャリアガスの流速を制御することができる。このようにキャリアガスの流速を制御することにより、ガス分離部20に一定流量の呼気をキャリアガスとともに供給することができる。
【0060】
このような調圧手段17により制御される呼気の流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、10cm/sec以上100cm/sec以下であることが好ましい。ただし、内部流路の長さおよび断面積によって、その好ましい流速は異なり、たとえば内部流路の長さが10mで断面積が0.04mm2であるときには、上記の流速の数値範囲の中でも10cm/sec以上50cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10cm/sec以上30cm/sec以下である。一方、内部流路の長さが17mで断面積が0.04mm2であるときには、40cm/sec以上90cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50cm/sec以上70cm/sec以下である。呼気の流速が10cm/sec未満であると、ガス検出までに要する時間が長くなり、装置のスペック上好ましくない。呼気の流速が100cm/secを超えると、流速が早すぎることにより、後のガス分離部で呼気を成分分離しにくい傾向がある。
【0061】
このような調圧手段17としては、気体の圧力を調整することができるものであればどのようなものを用いてもよく、たとえばコンプレッサー、バルブ、ポンプ、レギュレータ、ガスボンベ等を用いることができる。コンプレッサー、ポンプ等を用いる場合、加圧した空気を減圧弁にて調整した上でガス分離部20に呼気を供給することができる。なお、キャリアガスとしては、たとえばヘリウム等の不活性ガスあるいは空気等を用いることができる。
【0062】
(ガス採取部)
本実施の形態のガス分析装置において、図1(a)に示されるように、ガス採取部40をガス導入口11およびガス排出口14に接続することが好ましい。このようにガス採取部40を接続することにより、呼気をガス導入口11に効率的に導入することができるとともに、呼気を収容するスペースを設けることができる。
【0063】
しかも、このようなガス採取部40は、呼気がガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を循環する循環経路としての役割も果たす。
【0064】
ガス採取部40の導入口にはマウスピース、マスク等のように口をあて呼気を直接導入することができるようなものを有していることが好ましい。このようにマウスピース、マスク等を有することにより、ガス採取部40に呼気を導入しやすい。
【0065】
そして、ガス採取部40は、呼気の入口および出口に逆止弁41を備えることが好ましい。このようにガス採取部40が逆止弁41を備えることにより、呼気の一部はガス採取部から排出されるが、その残部は、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13内に循環させることができる。
【0066】
なお、図1(a)および図1(b)においては、ガス採取部40を用いてガス導入部10に呼気を導入する場合を例示しているが、ガス導入部10に呼気を導入する方法は、ガス採取部40のみに限られるものではなく、ガス導入口11にバッグを直接接続してガス導入部10に呼気を導入してもよい。
【0067】
(気流発生手段)
ガス導入口11またはガス排出口14のいずれか一方もしくは両方に気流発生手段25を設けることが好ましい。このように気流発生手段25を備えることにより、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を呼気が循環するようにすることができるとともに、これを流れる呼気の流速を制御することができる。なお、気流発生手段25により制御される呼気の流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、1mL/min以上10mL/min以下であることが好ましい。
【0068】
<ガス分離部>
本実施の形態において、ガス分離部20は、ガス導入部10から導入された呼気に含まれる各種ガス成分を成分分離するために設けられるものであり、具体的には、ガス分離部20に備えられる第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31により呼気の成分分離を行なうことを特徴とする。なお、以下において、単に「マイクロカラム」と記す場合は、第1マイクロカラムおよび第2マイクロカラムの両方を含む概念である。
【0069】
第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31のように、2つのマイクロカラムを用いることにより、ガス分析装置の小型化および軽量化を達成しつつ、その呼気中の検出したい成分の検出精度を高めることができる。これは、第1マイクロカラム21で呼気中の不要な成分を成分分離した後に、第2マイクロカラム31でさらなる成分分離を行なうことができるからである。以下においては、2つのマイクロカラムを備えるガス分離部を説明するが、3以上のマイクロカラムを備える場合も本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0070】
ここで、「マイクロカラム」とは、マイクロオーダーの幅および深さを有する微細な流路を備えるチップ状のクロマトグラフィカラムを意味するものである。このようなマイクロカラムの外形は、特に限定されるものではなく、たとえばSiウェハー等の基板を用いて、その外形が縦横数mm〜数十cmで、その厚みを数mm〜数cm程度とすることができる。
【0071】
なお、検出ガスの「成分分離」とは、呼気を構成する全ての成分を各成分ごとに分離する場合はもちろん、呼気を構成する成分のうちのいずれか1の成分を、他の少なくとも1の成分から分離する場合も含まれるものとする。すなわち、呼気が3以上の成分を含む場合、3以上の成分のうちの少なくとも1の成分が他の2以上の成分から分離されている限り、呼気の成分分離は達成されており、本発明の範囲に含まれる。
【0072】
ガス分離部20には、マイクロカラム以外のクロマトグラフィカラムとして、固定相をコーティングした担体を充填したパックドカラム、内壁に固定相が塗布されたキャピラリーカラム等を用いることも考えられるが、これらのクロマトグラフィカラムは、温度を制御するために大きな恒温槽を備える必要があり、ガス分析装置自体が大型化することになりかねず、所期の目的に反することになるため好ましくない。
【0073】
また、マイクロカラムの内部流路の幅および深さ(高さ)はそれぞれ、たとえば100〜300μm程度とすることができる。マイクロカラムの内部流路の幅および深さは、目的成分の種類やマイクロカラムに導入される呼気の流量などを考慮して決定されることが好ましい。
【0074】
また、内部流路22は、その長さが3m以上20m以下であることが好ましい。内部流路22の長さが3m未満であると、呼気の成分分離を十分に行なうことができず、内部流路22の長さが20mを超えると、測定に要する時間が長時間となるため好ましくない。
【0075】
図2(a)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の一形態を示した図であり、図2(b)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の別の一形態を示した図である。マイクロカラムの内部流路の構造は、図1(a)に示されるような蛇形流路の構造のみに限られるものではなく、たとえば図2(a)に示されるような円のスパイラル状の内部流路の構造であってもよく、図2(b)に示されるように四角のスパイラル状の内部流路の構造であってもよい。また、第1マイクロカラムおよび第2マイクロカラムにそれぞれ異なる構造の内部流路を備えるマイクロカラムを用いてもよい。
【0076】
本実施の形態において、第1マイクロカラム21は、その内部流路22の壁面に固定相が修飾されており、該固定相は、30℃での比誘電率が10以上の極性材料からなることが好ましい。比誘電率が10以上の極性材料は、強極性であることにより、呼気に含まれる成分のうちの水を効率的に成分分離することができる。すなわち、このような比誘電率を有する固定相は、その極性が高いことにより、特に水のような極性物質の流速を顕著に遅らせることができる。
【0077】
比誘電率が10以上の極性材料としては、たとえば平均分子量が1000以下のポリエチレングリコールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。なお、固定相を構成する材料の比誘電率は、誘電率測定装置を用いて算出された値を採用するものとする。また、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に修飾する固定相としては、たとえば5%フェニルメチルシリコーン(商品名:SE52(ジーエルサイエンス株式会社製))等を用いることができる。
【0078】
固定相が有する極性が強いほど、呼気の各成分ごとの極性差がマイクロカラム中を流れる呼気の流速に差をもたらし、呼気を成分分離しやすいものと考えられる。そして、固定相の極性の強弱は、その材料の誘電率の高低により決定されるという関係から、固定相を構成する材料は、11以上の比誘電率を有することがより好ましく、さらに好ましくは13以上の比誘電率を有することである。固定相を構成する材料の比誘電率が10未満であると、呼気中の水を成分分離することができないため好ましくない。
【0079】
ここで、呼気中の水を成分分離するのに有効な固定相の材料としては、200以上1000以下の平均分子量を有するポリエチレングリコール(以下においては「PEG」とも記する)を用いることがより好ましい。PEGは、その平均分子量が多いほど粘度が上昇するとともに、その極性が小さくなる傾向にあり、平均分子量が小さいほど粘度が低下するとともに、その極性が強くなる傾向がある。このため、PEGの粘度と極性とのバランスの観点からは、30℃での比誘電率が13.74である平均分子量が600程度のPEG(PEG600)を用いることがさらに好ましい。
【0080】
ポリエチレングリコールの平均分子量が200未満であると、その粘度が低いことによりマイクロカラムの内部流路22の壁面に保持されにくく、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000を超えると、十分な極性を有しないことから、呼気の分離能が低下する傾向がある。また、第1マイクロカラム21は、温度制御手段を備えていることが好ましい。温度制御手段を備えることにより、マイクロカラムの温度を一定に保つことができ、より精確に成分分離を行なうことができる。
【0081】
上記のような第1マイクロカラム21により、まず呼気中の水分を成分分離した後に、第2マイクロカラム31により、第1マイクロカラム21では十分に成分分離できなかった成分をさらに成分分離することができる。このように第2マイクロカラム31の内部流路を修飾する固定相は、成分分離したい所望の成分に合わせて固定相の材料を選択することができる。すなわち、呼気中に含まれるアルコールを検出したい場合、芳香族化合物を検出したい場合、炭化水素化合物を検出したい場合等のように、検出したい成分によって適切な固定相の材料を選択することが好ましい。
【0082】
たとえば、呼気中のアルコールを成分分離するという観点から、ジグリセロール(Diglycerol)等を固定相の材料に用いることが好ましい。また、呼気中の芳香族化合物を成分分離するという観点から、SiponateDS−10(信和化工株式会社製)等を固定相の材料に用いることが好ましく、炭化水素化合物を成分分離するという観点からスクアレン(Squalane)等を固定相の材料に用いることが好ましい。
【0083】
また、呼気を成分分離する性能を高めるという観点から、マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相の厚みは、1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0084】
ここで、固定相の厚みは、マイクロカラムの内部流路の壁面に固定相を修飾したマイクロカラムの断面を、マイクロスコープを用いて観察したときの画像に基づいて直接測定することにより算出されたものを採用する。
【0085】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態における、マイクロカラムの作製方法を具体的な一例を挙げて説明する。まず、Siウェハー等の基板表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0086】
ついで、連続した溝を形成した基板とガラス板とを、基板の溝形成面側がガラス板に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、形成された内部流路の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、マイクロカラムの内部流路内に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路の内壁に固定相を修飾する。
【0087】
<検体ガス>
本実施の形態のガス分析装置を用いて成分分離される検体ガスは、アセトンを含むことが好ましい。従来のガス分析装置では、水中に微量に含まれるアセトンを効率的に成分分離することが困難であり、たとえ成分分離できたとしても、その成分分離の精度は十分なものではなかった。しかし、本実施の形態のガス分析装置ではかかる従来の課題を一掃し、短時間で検体ガス中の水を成分分離し得る。このような検体ガスとして、たとえば呼気を用いることができる。
【0088】
<ガス検出部>
ガス検出部50は、ガス分離部20で分離されたガス成分を順次検出するための部位であり、ガスセンサを用いることが好ましい。本実施の形態において、ガス検出部50は、化学物質を検出するためのガスセンサ51を有する。かかるガスセンサ51としては、半導体センサ、電気化学式ガスセンサ、QCM、FID等を用いることができる。この中でも、安価で入手しやすいという観点から、半導体センサを用いることが好ましい。
【0089】
図3は、本実施の形態のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。本実施の形態において、ガスセンサ51は、図3に示されるように、ガス分離部により分離されたガス成分の出口の近傍に設置することが好ましい。このようにガス成分の出口の近傍にガスセンサ51を設置することにより、目的成分の検出感度を高めることができる。ここで、「ガス成分の出口近傍」とは、ガス成分の出口から0.5mm以上3mm以下の範囲にガスセンサ51が位置することを意味する。なお、ガス分離部20の第2マイクロカラムの内部流路と、ガス検出部50とはキャピラリーガラスチューブ55により接続されている。
【0090】
ガス分離部20とガス検出部50とは、キャピラリーガラスチューブ55を用いて接続するが、キャピラリーガラスチューブの管径が小さいため、キャピラリーガラスチューブ55のガス成分の出口とガスセンサ51とが離れていると、ガスセンサ51が呼気を感知しにくい傾向にあるため好ましくない。
【0091】
ガスセンサ51は、導線等を介してデジタルマルチメータなどの信号受信機構(図示せず)に接続されることが好ましい。このような信号受信機構は、ガスセンサ51がガス成分を検出すると、ガスセンサ51の定抵抗の電圧値の変化を信号変化として受信する必要がある。
【0092】
さらに、信号受信機構はコンピュータに接続されていることが好ましい。ここでのコンピュータとは、信号受信機構が検出した信号データの蓄積し、該信号データをクロマトグラムに変換し、かつその変換したデータの表示を行なうもののことをいう。なお、コンピュータが流路切替手段の動作を制御する機能を有しており、かかるコンピュータにより第1状態と第2状態とを切り替える制御を行なってもよい。
【0093】
(実施の形態2)
図4は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図4に示されるように、実施の形態1のガス分析装置に対し、排ガス口36を備える切替機構35を用いて、第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とを接続したことが異なる他は、実施の形態1と同様のものである。
【0094】
このように第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とを接続するために切替機構35を設け、かかる切替機構35が呼気の一部を外部に排出する排ガス口36を備えることにより、呼気のうちの検出に不要な呼気の成分を排ガス口36から外部に排出することができ、以って呼気のうちの検出に必要な呼気の成分のみを検出することができる。
【0095】
本実施の形態のガス分析装置の動作をより具体的に説明する。まず、ガス導入部10を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に呼気が導入されると、呼気中の水は第1マイクロカラム21の固定相により流速が制御されて遅くなり、水以外の成分が先に第1マイクロカラム21から第2マイクロカラム31に供給される。
【0096】
このようにして第1マイクロカラム21により呼気中の水が成分分離されて、呼気中の水以外の成分が先に第2マイクロカラム31に供給される。そして、呼気中の水が未だ第2マイクロカラム21に供給される前に、切替機構35を動作させることにより、検出に不要な呼気中の主に水を排ガス口36から外部に排出させることができる。このように排ガス口36から呼気のうちの主に水を排出することにより、第2マイクロカラム31の成分分離の性能を高めることができる。
【0097】
ここで、排ガス口36から検体ガスを排出するときの切替機構の動作を図5(a)および図5(b)を用いて説明する。図5(a)は、本実施の形態のガス分析装置に用いられる切替機構を拡大したものを示す図であり、図5(b)は、図5(a)の切替機構の検体ガスを排ガス口から排出するときの状態を示す図である。
【0098】
本実施の形態において、図5(a)のように、第1マイクロカラムの内部流路22が排ガス口36に接続されていないときには、第1マイクロカラムの内部流路22から第2マイクロカラムの内部流路32に呼気を供給する。一方、図5(b)のように、第1マイクロカラムの内部流路22が排ガス口36に接続されているときには、排ガス口36を通じて第1マイクロカラムの内部流路22から外部に呼気の一部を排出する。
【0099】
(実施の形態3)
図6は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図6に示されるように、実施の形態2のガス分析装置の切替機構に、さらにキャリア導入口37を備えることが異なる他は、実施の形態2と同様のものである。本実施の形態のように、切替機構35がキャリア導入口37を備えることにより、キャリア導入口37を通じ、第1マイクロカラム21を経ずに第2マイクロカラム31にキャリアガスを直接導入することができる。そして、第2マイクロカラム31にキャリアガスを直接導入することにより、第2マイクロカラム31を流れる検体ガスの流速を早めることができる。
【0100】
ここで、本実施の形態のガス分析装置において、排ガス口36から検体ガスを排出するときの切替機構の動作を図7(a)および図7(b)を用いて説明する。図7(a)は、本実施の形態のガス分析装置に用いられる切替機構を拡大したものを示す図であり、図7(b)は、図7(a)の切替機構の検体ガスを排ガス口に排出させるときの状態を示す図である。
【0101】
本実施の形態において、図7(a)に示される状態のように、第1マイクロカラム21が排ガス口36に接続されていないときには、第1マイクロカラム21から第2マイクロカラム31に呼気を供給することができる。そして、呼気中の水が未だ第2マイクロカラム21に供給される前に、切替機構35を動作させることにより、検出に不要な呼気中の水のみを排ガス口36から外部に排出させることができる。なお、図7(a)に示される状態においても、検体ガスがキャリア導入口37に流れないように、キャリア導入口37からキャリアが導入されている。
【0102】
一方、図7(b)のように、第1マイクロカラムの内部流路22と排ガス口36とが接続されているときには、排ガス口36を通じて第1マイクロカラムの内部流路22から外部に呼気の一部を排出するとともに、キャリア導入口37から第2マイクロカラムの内部流路32にキャリアガスを供給することができる。これにより第1マイクロカラムの内部流路22から排ガス口36を通じて外部に不要な検体ガスを排出しつつ、検出を要する検体ガスを第2マイクロカラムの内部流路32からガス検出部50に導入することができる。
【0103】
ここで、キャリア導入口37を通じて第2マイクロカラムの内部流路32にキャリアガスを直接導入することができることから、第2マイクロカラムの内部流路32を流れる呼気の流速を低下しにくくすることができる。これにより本実施の形態のガス分析装置は、小型であって測定に要する時間が短時間であり、かつ検出精度が高いものとなる。
【0104】
(実施の形態4)
本実施の形態のガス分析装置は、第2マイクロカラムが他のマイクロカラムと交換できるように、第1マイクロカラムに対し、はめ込み式で接続されることが異なる他は、実施の形態1と同一の形態である。すなわち、本実施の形態のガス分析装置は、図1(a)および図1(b)に示される実施の形態1のガス分析装置と外観的には同一のものである。
【0105】
このように第2マイクロカラムがはめ込み式で第1マイクロカラムに接続されることにより、第2マイクロカラムが第1マイクロカラムに着脱可能であり、第2マイクロカラムを他の固定相が修飾されている他のマイクロカラムに交換することができる。これによりたとえば第2マイクロカラムの成分分離の性能が衰えたときに容易に交換し得る他、成分分離したい検体ガスの成分に合わせて、より適切な固定相が修飾された内部流路を有する他のマイクロカラムに交換し得る等のメリットがある。なお、第2マイクロカラムは必ずしも第1マイクロカラムに対し、はめ込み式で接続されていなくてもよく、着脱可能な接続方法であればいかなる方法であってもよい。
【0106】
(実施の形態5)
図8は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図8に示されるように、第1マイクロカラムが2つの第2マイクロカラム31に接続されている多接続マイクロカラムである他は、実施の形態1と同一の形態である。
【0107】
このような多接続マイクロカラムは、図8に示されるように、切替機構35を介して2つの第2マイクロカラム31のうちのいずれにも接続されており、切替機構35により検体ガスの流れを2つの第2マイクロカラム31のうちのいずれかに切り替えることができる。このように2つの第2マイクロカラム31を備えることにより、多接続マイクロカラムで一旦成分分離した検体ガスをそれぞれ別々の第2マイクロカラム31に供給した後に、さらにそれぞれの第2マイクロカラム31で成分分離をすることができる。このように多接続マイクロカラムを含むことにより、ガス分離部20の成分分離の性能を高めることができる。
【0108】
なお、本実施の形態においては、2つの第2マイクロカラムを設ける場合を説明したが、このような形態のみに限られるものではなく、3以上の第2マイクロカラムを備えていてもよく、多接続マイクロカラムに接続される個数は特に限定されない。
【0109】
(実施の形態6)
図9は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態1〜5のガス分離部のように2つのマイクロカラムを備えるものではなく、図9に示されるように、ガス分離部20に1つの多相マイクロカラム71を備えることを特徴とする。ここで、「多相マイクロカラム」とは、1つのマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相を修飾したものを意味する。
【0110】
本実施の形態の多相マイクロカラム71において、検体ガスを導入する側の内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料が、多相マイクロカラム71の検体ガスを排出する側の内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0111】
すなわちたとえば、検体ガスが多相マイクロカラム71に供給された場合、多相マイクロカラム71の内部流路72の前段部分で検体ガスの成分のうちの特に水を分離しやすい固定相を備え、多相マイクロカラム71の内部流路72の後段部分で検体ガスの成分のうちのたとえばエタノールを分離しやすい固定相を備えるようにすることができる。このように内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料が、内部流路72の前後で異なることにより、前段部分で成分分離できる成分と、後段部分で成分分離できる成分とを異ならしめることができ、もって検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。
【0112】
(実施の形態7)
本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態6の多相マイクロカラムと同様の蛇型流路の構造であるが、その内部流路に修飾される固定相の配置が異なることを特徴とする。図10は、本実施の形態の多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。本実施の形態の多相マイクロカラムは、図10に示されるように、内部流路72が上下の2つの分割流路に分割されており、上側の分割流路95の壁面に修飾される固定相の材料が、下側の分割流路94の壁面に修飾される固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0113】
このように1つの内部流路に2本の分割流路を設ける場合、ガス導入部10から導入される検体ガスは、まず上側の分割流路95を通過した後に、下側の分割流路94に流れるように内部流路72が形成される。このように1つの内部流路72に2つの分割流路を有する本実施の形態のガス分析装置は、その形状を大型化することなく、検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。なお、下側の分割流路94に流れてから上側の分割流路95を流れるような構造であってもよいことは言うまでもない。
【0114】
本実施の形態においては、内部流路を上下の2つに分割したものを説明したが、内部流路の分割は上下のみに限られるものではなく、左右に分割してもよいし、上中下というような3段構造の分割流路を有していてもよい。すなわち、多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、該分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なるものである限り、本発明の範囲に含まれる。
【0115】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態において、マイクロカラムの作製方法を具体的な一例を挙げて説明する。まず、Siウェハー等の基板93を準備し、かかる基板93の表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0116】
次に、形成された溝の底面がエッチングされないようにマスクした後に、その溝の上部の側壁のみをさらにエッチングにより除去し、階段状の内部流路を形成する。そして、内部流路の側壁が階段状となっている段上の部分に接着剤を塗布した後に、溝の底面に形成されたマスクを除去する。そして、内部流路の側壁が階段状となっている段上に、分割基板96を貼り合わせることにより、下側の分割流路94を形成する。
【0117】
次いで、形成された下側の分割流路94の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、下側の分割流路94の壁面に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することにより、マイクロカラムの下側の分割流路94の壁面に固定相を修飾する。
【0118】
そして、下側の分割流路94が形成された基板93とガラス板97とを、基板93の溝を形成した面側がガラス板97に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合することにより、上側の分割流路95を形成する。
【0119】
次に、形成された上側の分割流路95の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、マイクロカラムの上側の分割流路95内に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの上側の分割流路95の壁面に固定相を修飾する。以上のようにして、上下の分割流路のそれぞれに異なる組成の固定相を修飾し、本実施の形態のガス分離部に用いられる多相マイクロカラムを作製する。
【0120】
(実施の形態8)
本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態6の多相マイクロカラムと同様の蛇型流路の構造であるが、基板の表裏の両面に内部流路が形成されており、表裏に形成される内部流路に修飾される固定相が異なることを特徴とする。
【0121】
図11は、本実施の形態の多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。本実施の形態の多相マイクロカラムは、図11に示されるように、1枚の基板83の表裏に内部流路が形成されたものであり、基板83の表面側に形成された内部流路85の壁面を修飾する固定相の材料は、基板83の裏面側に形成された内部流路84の壁面を修飾する固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0122】
このように1枚の基板83に2本の内部流路を設ける場合、ガス導入部からガス分離部に導入される検体ガスは、まず表面側の内部流路85を通過した後に、裏面側の内部流路84に流れるように形成される。このように1枚の基板83に2つの内部流路を有する本実施の形態のガス分析装置は、その形状を大型化することなく、検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。なお、裏面側の内部流路84を通過してから、表面側の内部流路85を通過する場合であってもよい。
【0123】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態において、マイクロカラムを作製する方法を具体的な一例を挙げて説明すると、まず、Siウェハー等の基板83の表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0124】
ついで、連続した溝を形成した基板83とガラス板87とを、基板83の溝を形成した面側がガラス板87に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、基板83の表面側に形成された内部流路85の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、表面側の内部流路85に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路85の内壁に固定相を修飾する。
【0125】
次に、基板83の裏面側にも、上記と同様の微細加工を行なうことにより、基板83の裏面側の内部流路84を形成する。そして、基板83の裏面側の内部流路84には、基板83の表面側に形成された内部流路85の壁面に修飾された固定相とは異なる材料の固定相を修飾する。以上のようにして、本実施の形態のガス分離部に用いられる多相マイクロカラムを作製する。
【0126】
本発明において上記で好適な実施形態を説明したガス分析装置は、上記に限定されるものではなく、上記以外の構成とすることもできる。
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
(実施例A1)
本実施例では、以下の手順によりガス分離部20を作製した。まず、幅が100μmであって、その深さが100μmの内部流路を100μmの間隔で蛇行状に形成した第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31を作製した。以下においては、第1マイクロカラム21の作製の手順を具体的に述べる。
【0129】
まず、シリコンウエハに対し、幅が100μmであって、深さが100μmの蛇行状の溝を100μmの間隔で、フォトリソグラフィ加工をした後にブラスト加工を行なって形成した。このようにして形成された内部流路22の全長は8mであった。そして、シリコン基板の溝を形成した側に対し、ガラス板を陽極接合を用いて密着させ、4cm四方にダイシングした。
【0130】
この内部流路22の導入口および排出口に、外径が0.35mmであり、内径が0.25mmであって、その内径の表面が未修飾のキャピラリーガラスを取り付けた。
【0131】
一方、平均分子量が600であって、30℃での比誘電率が13.74のポリエチレングリコール(PEG600:ジーエルサイエンス株式会社製)をアセトンに溶解させた1%アセトン溶液を準備した。かかる1%アセトン溶液をガス分離部20の第1マイクロカラム21の導入口から導入し、その内部流路22内にアセトン溶液を充填した。
【0132】
そして、ラバービータを用いて80℃に昇温した後に10分間保持することにより、内部流路22内のアセトンをほとんど蒸発させた。このようにしてアセトンをほぼ蒸発させた後に、溶媒トラップを有するダイヤフラム型ドライ真空ポンプDA−15D(アルバック機工株式会社製)を内部流路22の導入口側に接続した。
【0133】
この真空ポンプを数十分間稼動させて、内部流路22内の溶媒を完全に除去することにより、内部流路22の壁面に、PEG600からなる固定相を備える第1マイクロカラム21を形成した。このようにして作製した第1マイクロカラム21の断面をマイクロスコープで観察し、その固定相の厚みを実測したところ、固定相の厚みは1.0μmであることが明らかとなった。
【0134】
第1マイクロカラム21の内部流路の壁面に修飾される固定相の組成が異なる他は、第1マイクロカラム21の作製方法と同一の工程により、第2マイクロカラム31を作製した。すなわち、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に形成する固定相には、5%フェニルメチルシリコーン(商品名:SE52(ジーエルサイエンス株式会社製))をペンタン/塩化メチレンに溶解させた1.0%溶液を用いた。
【0135】
上記のようにして作製された第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とをキャピラリーガラスチューブを用いて接続することにより、実施例A1のガス分離部20を作製した。
【0136】
(比較例A1)
実施例A1のガス分離部に対し、第2マイクロカラムを有しないことを除いては、実施例A1と同様のものとして比較例A1のガス分離部を形成した。
【0137】
(比較例A2)
実施例A1のガス分離部に対し、第1マイクロカラムを有しないことを除いては、実施例A1と同様のものとして比較例A2のガス分離部を形成した。
【0138】
<分離能の性能評価>
実施例A1のように2つのマイクロカラムを接続した場合と、比較例A1およびA2のガス分離部のように1つのマイクロカラムを接続した場合とで、ガス分離部の分離能がどのように異なるかをガスクロマトグラフ質量分析計(製品名:JMS−K9(日本電子株式会社製))に取り付けて検討した。具体的には、n−ペンタン、アセトン、エタノール、トルエン、および水の混合比率が1:1:1:1:10の混合液体をGCMSに導入し、GCMSにより各ガス成分を検出した。
【0139】
図12は、実施例A1で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図12の縦軸は、検出された成分のピーク強度を示しており、図12の横軸は、その成分を検出するのに要した保持時間(分)を示している。
【0140】
図12で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が3分30秒であり、アセトンの保持時間が4分25秒であり、エタノールの保持時間が5分35秒であり、水の保持時間が7分42秒であり、トルエンの保持時間が9分22秒であることがわかる。これにより5種の混合液体を成分ごとに成分分離していることがわかった。
【0141】
一方、図13は、比較例A1で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図13で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が1分7秒であり、アセトンの保持時間が1分15秒であり、エタノールの保持時間が1分45秒であり、水の保持時間が3分42秒であり、トルエンの保持時間が1分42秒であることがわかる。この場合、n−ペンタンとアセトンとの保持時間、およびトルエンとエタノールとの保持時間がほぼ重複しており、混合液体が成分ごとに分離できていないことが明らかである。
【0142】
図14は、比較例A2で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図14で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が1分42秒であり、アセトンの保持時間が2分15秒であり、エタノールの保持時間が2分40秒であり、水の保持時間が1分55秒〜2分15秒であり、トルエンの保持時間が7分25秒であることがわかる。この場合、アセトンと水との保持時間がほぼ重複しており、混合液体が成分ごとに分離できていないことが明らかである。
【0143】
このように実施例A1のガス分離部が混合気体の各成分ごとに分離できたのに対し、比較例A1〜A2のガス分離部が混合気体の各成分ごとに分離できなかった理由は、実施例A1のガス分離部が2以上の固定相を有することによるものと考えられる。すなわち、比較例A1〜A2のガス分離部が検体ガスを各成分ごとに分離できなかった理由は、1種の固定相が修飾された場合であったことによるものと考えられる。
【0144】
(実施例1)
本実施例では、実施例A1で作製したガス分離部を用いてガス分析装置を作製した。まず、ガス導入部10として、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(ジーエルサイエンス株式会社製)を準備した。ここで、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(以下、「ガスサンプラー」とも記する)は、検体ガスを導入するための第1流路12と、導入した検体ガスの一部をガス排出口から排出するための第2流路13と、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に検体ガスを供給するための第4流路16と、検体ガスを保持するためのガス収容部19とを有するものである。
【0145】
ガスサンプラーの第1流路12および第2流路13をガス採取部40にそれぞれ接続した。ガス採取部40の出口および入口には、それぞれ逆止弁41を設け、逆流を防ぐようにした。第2流路13とガス採取部40との接続部には気流発生手段25として小型ポンプを取り付けることにより、検体ガスが第1流路12、ガス収容部19、第2流路13、およびガス採取部40を循環するようにした。
【0146】
一方、ガスサンプラーの第4流路16とガス分離部20とを1/8×0.25 レデューシングユニオンを用いて接続した。これによりガスサンプラーの第3流路15から導入されたキャリアガスを、第4流路16を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に導入した。
【0147】
次に、ガス分離部20の第2マイクロカラム31に対し、キャピラリーチューブの一端を挿入することにより接続した。一方、キャピラリーチューブの他端を、ガス検出部50のガスセンサ51の近傍となるように接続することにより、ガス検出部50を作製した。このようにして実施例1のガス分析装置を作製した。
【0148】
(比較例1)
比較例1では、実施例A1のガス分離部を比較例A1のガス分離部に代えたことを除いては実施例1と同様の方法により比較例1のガス分析装置を作製した。
【0149】
(比較例2)
比較例2では、実施例A1のガス分離部を比較例A2のガス分離部に代えたことを除いては実施例1と同様の方法により比較例2のガス分析装置を作製した。
【0150】
<ガス分析装置の検出精度の比較>
上記の実施例1および比較例2のガス分析装置のガス導入部に対し、エタノールとアセトンとを混合した検体ガスを導入し、それらの分離能を確認した。具体的には、1ppmのアセトンと、1ppmのエタノールとを含む窒素ガスを、実施例1および比較例2のガス分析装置に導入し、検出に要する保持時間を測定した。
【0151】
図15は、実施例1のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。図15のグラフによると、190秒と280秒との時点で抵抗変化のピークが見られる。ここで、190秒のピークがアセトンのピークであり、280秒のピークがエタノールのピークであると推定される。この結果から、エタノールとアセトンとを含む検体ガスを各成分ごとに検出できていることが明らかである。
【0152】
一方、図16は、比較例2のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。図16のグラフからは、100秒の時点でのみ抵抗変化が見られる。この結果から、エタノールとアセトンとを含む検体ガスを各成分ごとに検出できていないことが明らかである。
【0153】
このように実施例1のガス分析装置が成分分離できたのに対し、比較例2のガス分析装置が成分分離できなかったのは、実施例1のガス分析装置のガス分離部が2つのマイクロカラムを備えることによるものと考えられる。
【0154】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0155】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明によれば、予防医療の促進に有効な、小型でかつパーソナルユースに適したガス成分検出装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0157】
10 ガス導入部、11 ガス導入口、12 第1流路、13 第2流路、14 ガス排出口、15 第3流路、16 第4流路、17 調圧手段、18 流路切替手段、19 ガス収容部、20 ガス分離部、21 第1マイクロカラム、22,32 内部流路、25 気流発生手段、31 第2マイクロカラム、35 切替機構、36 排ガス口、37 キャリア導入口、40 ガス採取部、41 逆止弁、50 ガス検出部、51 ガスセンサ、55 キャピラリーガラスチューブ、71 多相マイクロカラム、72,84,85 内部流路、83,93 基板、87,97 ガラス板、94,95 分割流路、96 分割基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関し、特に、検体ガスに微量に含まれるガス成分を高精度に検出するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では人口減少・少子高齢化が進展しており、総人口に対する65歳以上の高齢者が占める割合が急速に増加しつつある。具体的には、2013年になると総人口に対し約25.2%のほぼ4人に1人が高齢者となり、2035年になると総人口に対し約33.7%のほぼ3人に1人が高齢者となると言われている。高齢者ほど医療機関を利用する割合は大きいことから、今後医療の負担が大きくなることが予想される。
【0003】
加えて、若年層においては、生活環境が著しく改善されたこと、IT技術の進展により体を動かす機会が減少したこと等の理由により、メタボリックシンドロームが問題となっており、生活習慣病等の疾病を患う若年層の人口は年々増えてきている。このように若年層においても医療を利用する機会が増えているというのが現状である。
【0004】
このような時代の趨勢から、医療が抱える負担はここ数年で限界に達するとも言われており、医療の負担を少しでも軽減することが望まれている。近年では特に医療機関を利用する機会を未然に防ぐことができる予防医療が注目されている。
【0005】
予防医療を充実させることにより、疾病を患うことを予防することができ、もって疾病を患う人口を減少させることができる。このような手段を用いて疾病を患う人口が減少すれば、医療の負担を軽減することができるばかりか、医療保険制度の崩壊が叫ばれている現代において、医療費を軽減することができるというメリットもある。
【0006】
そこで、予防医療を充実させるためには、身近な機器で個人が手軽に健康管理を行なうための健康情報を得るシステムを各家庭に普及させたいところである。健康情報を得るための指標としては、血圧、血液、尿、汗、唾液、呼気等の生体試料がある。かかる生体試料には、血液における血糖値のように、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質が複数含まれている。
【0007】
このような生体試料に含まれる物質の含有率を個々に測定することにより、健康情報を得ることをもって、自己の健康状態を的確に把握することができる。このように自己の健康状態を客観的に把握することにより、疾病を早期に発見することができ、疾病を患う前に事前にそれを回避するように生活を見直すことができる。
【0008】
上記で挙げた生体試料の中でも、特に、呼気は、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質を複数含む点、迅速かつ簡便にサンプリングおよび測定ができる点、ならびに、測定対象がガスであり非侵襲で測定でき、肉体的なダメージが小さい点等から、日々測定しても苦になりにくい、まさに日々の健康管理に最も適した生体試料の一つということもできる。
【0009】
このような利点を有するため、呼気に含まれる成分に基づいて疾病を特定するという研究が活発化している。これまでの研究で呼気と疾病との相関が見られるものとしては、たとえば肺がん患者の呼気の成分は、健常者のそれと比べて呼気の成分が一部異なっていることが明らかとなっている。
【0010】
より具体的には、呼気中に一酸化窒素および一酸化炭素を多く含む場合、肺疾患を患っている可能性が高いことがわかっており、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Diseases)の患者の呼気は、一酸化窒素および一酸化炭素が高い濃度で検出される。
【0011】
呼気の成分と疾病との相関性が見られる別の例を挙げると、たとえば消化不良、十二指腸潰瘍等の胃腸疾患の患者の呼気は、水素が高い濃度で検出される傾向があり、脂質酸化、喘息、気管支炎等の患者の呼気は、酸化ストレスとの相関が高く、エタン、ペンタン等が高い濃度で検出される傾向がある。このように呼気に含まれる各成分の濃度を測定することにより、疾病情報の取得や健康指導を行なうことができる。
【0012】
上記の中でも、特に呼気中のアセトンは、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)を分解したときに産出されることから、従来から糖代謝の活性度の指標として位置づけられている。断食中であって摂食していない状態のように極度に空腹であるとき、および重度の糖尿病を患っているときには、呼気中にアセトンを多く含むことが知られている。ともすれば、呼気中に含まれるアセトンの量を把握することにより、体脂肪の減少量を明確にすることができるとも考えられる。
【0013】
体脂肪がアセトンとなって、体外に排出される詳細のメカニズムを説明すると、まず、脂肪が代謝される過程で血中にアセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトン等のケトン体が生成される。そして、生成されたケトン体のうち、アセト酢酸およびヒドロキシ酪酸は肝臓以外の臓器で再利用され、アセトンは肺を介して呼気として外部に排出される。ちなみに、脂肪の代謝は、食事制限や運動により血中グルコースが消費されて不足したときに、体内に蓄えられた体脂肪をエネルギーとして利用することにより行なわれる。
【0014】
このようにアセトンは、体脂肪を燃焼する過程で生成され、しかも呼気中に含まれて排出されるため、呼気中のアセトンの濃度を測定することにより、体脂肪の燃焼状況を直接的に知ることができる。
【0015】
ところで、呼気に含まれる複数成分の濃度を個別に測定する方法としては、従来、ガスクロマトグラフィを利用して各成分を分離した後に、熱伝導率型、水素炎イオン化、電子捕獲型、質量分析等の検出器により検出する方法が知られている。かかる検出方法によれば、ppb−pptレベルで高感度に各成分を検出することができるという利点を有する。
【0016】
しかしながら、従来の呼気の測定機器、すなわちガスクロマトグラフィは、大型でかつ、重量があり、高額でもあり、しかも操作方法の習熟も必要でもあることから、各家庭に身近な機器として備えられる機器とは言えなかった。
【0017】
また、呼気中に含まれる成分を精確に分析するためには、呼気中に大量に含まれる水蒸気を除去する必要があるが、従来の呼気の測定機器には、呼気中の水分を除去するための前処理を行なう部位を備えていないため、呼気中に微量に含まれる成分の一部は検出されにくく、精確に分析することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−181674号公報
【特許文献2】特表2005−512067号公報
【特許文献3】特開2006−145254号公報
【特許文献4】特開平8−122314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このような課題を解決するための試みとして、たとえば特許文献1および特許文献2には、試料の前処理を行ない水分の除去を行なう装置が開示されている。しかし、特許文献1および特許文献2の装置は、分析装置の他に水分除去ユニットを設置する必要があるため、装置の構造が複雑化し、結果として装置全体が大型化する傾向があった。
【0020】
また、特許文献3には、通常のガスクロマトグラフィのカラムを使用することにより、水の検出を行なう技術が開示されている。しかしながら、特許文献3の方法は、ガスクロマトグラフ装置を用いることが必須であるため、各家庭等で使用するのはほぼ実現不可能であった。
【0021】
特許文献4には、プレカラムとメインカラムとを備えるガスクロマトグラフ質量分析装置が開示されている。特許文献4のガスクロマトグラフ質量分析装置は、予め水分のみを分離するプレカラムを用いて先に水分を分離した後に、メインカラムで各成分を成分分離するという技術である。
【0022】
このように2つのカラムを設けることにより、たしかに成分分離の性能を高めることはでき、その形状を小型化することもできる傾向にあるが、やはり汎用的に利用できるレベルにまで小型化したものではなく、さらなる小型化が要求されている。
【0023】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、小型であって、検体ガスの成分分離の性能が高いガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、該1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾されることを特徴とする。
【0025】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なることが好ましい。
【0026】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離することが好ましい。
【0027】
1以上のマイクロカラムのうちの検体ガスが導入される側の内部流路の壁面に修飾される固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離することが好ましい。
【0028】
2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、10以上の比誘電率を有することが好ましい。
【0029】
ガス分離部は、ガス導入部と接続される第1マイクロカラムと、該第1マイクロカラムに接続される第2マイクロカラムとを少なくとも備えることが好ましい。
【0030】
第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとは、切替機構により接続されており、該切替機構は、第1マイクロカラムを通過した検体ガスの一部を外部に排出するための排ガス口を備えることが好ましい。
【0031】
切替機構は、第1マイクロカラムから排ガス口に検体ガスの一部を排出するときに、第2マイクロカラムにキャリアガスを導入するためのキャリア導入口を備えることが好ましい。
【0032】
1以上のマイクロカラムのいずれもが、他の少なくとも1のマイクロカラムと接続されており、該1以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、他のマイクロカラムに交換できるように着脱可能であることが好ましい。
【0033】
マイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、はめ込み式で他のマイクロカラムと接続されることが好ましい。
【0034】
マイクロカラムのいずれか1のマイクロカラムは、他の2以上のマイクロカラムに接続される多接続マイクロカラムであり、上記の2以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムに検体ガスが流れるように、多接続マイクロカラムからの検体ガスの流れを切り替える切替機構を有することが好ましい。
【0035】
少なくとも1のマイクロカラムは、その内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾された多相マイクロカラムであり、該多相マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なることが好ましい。
【0036】
多相マイクロカラムのうち検体ガスを導入する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料は、該多相マイクロカラムの検体ガスを排出する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料と異なることが好ましい。
【0037】
多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、該分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なることが好ましい。
【0038】
多相マイクロカラムは、1枚の基板の表裏に内部流路が形成されたものであり、当該基板の表面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料は、基板の裏面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料と異なることが好ましい。
【0039】
検体ガスはアセトンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明のガス分析装置は、上記の構成を有することにより、小型であって、検体ガスの成分分離の性能が高いという特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、本発明のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図2】(a)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の一例を示す図であり、(b)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の別の一例を示す図である。
【図3】本発明のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図5】(a)および(b)は、第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとを接続する切替機構を動作させる前後の拡大断面図である。
【図6】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図7】(a)および(b)は、第1マイクロカラムと第2マイクロカラムとを接続する切替機構を動作させる前後の拡大断面図である。
【図8】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図9】本発明のガス分析装置の一例を示す模式図である。
【図10】本発明のガス分析装置に用いられる多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。
【図11】本発明のガス分析装置に用いられる多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。
【図12】実施例A1のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図13】比較例A1のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図14】比較例A2のガス分離部を用いて成分分離したガス成分をGCMSにより検出して得たクロマトグラムである。
【図15】実施例1のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。
【図16】比較例2のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ等の寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0043】
(実施の形態1)
<ガス分析装置>
図1(a)は、本実施の形態のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、図1(b)は、(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図1(a)に示されるように、検体ガスを導入するためのガス導入口11を備えるガス導入部10と、該ガス導入部10から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを2つ備えるガス分離部20と、該ガス分離部20により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部50とを備えることを特徴とする。
【0044】
そして、上記の2つのマイクロカラムのうち、ガス導入部10と接続されるマイクロカラムのことを第1マイクロカラム21とし、第1マイクロカラム21に接続されるマイクロカラムのことを第2マイクロカラム31とすると、第1マイクロカラム21の内部流路22の壁面に修飾される固定相の材料は、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に修飾される固定相の材料とは異なることを特徴とする。
【0045】
このように第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31の壁面に修飾される固定相の材料がそれぞれ相異なることにより、第1マイクロカラム21で成分分離した検体ガスをさらに第2マイクロカラム31で成分分離できることから、ガス分析装置の検出精度を高めることができる。以下においては、検体ガスとして呼気を用いた場合の本実施の形態のガス分析装置の動作の一例を図1(a)および図1(b)を参照して説明する。
【0046】
本実施の形態のガス分析装置の図1(a)に示される状態(以下においてこの状態のことを「第1状態」とも記す)において、呼気は、ガス採取部40の導入口から導入されて、ガス導入口11から第1流路12を通じてガス収容部19に供給される。そして、ガス収容部19から第2流路13、ガス排出口14を通じてガス採取部40に排出される。ここでの呼気の流速は、気流発生手段25により制御される。
【0047】
一方、第1状態において、キャリアガスを供給する第3流路15は、ガス分離部20の第1マイクロカラム21と接続されている第4流路16に直接接続される。そして、調圧手段17により流速を調整したキャリアガスが第3流路15から第4流路16を流れ、さらにガス分離部20の第1マイクロカラム21の順に流れる。
【0048】
次に、第1状態から流路切替手段18を用いて、ガス収容部の接続先を第1流路12および第2流路13から第3流路15および第4流路16に切り替えることにより、図1(b)に示される第2状態とする。かかる第2状態では、図1(b)に示されるように、第3流路15とガス収容部19と第4流路16とを接続する。このように第1状態から第2状態に切り替えることにより、第1流路12から導入されたガス収容部19内の呼気が第3流路15から供給されるキャリアガスとともに、第4流路16を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に供給される。
【0049】
ガス分離部20に供給された呼気は、第1マイクロカラム21の内部流路22の壁面の固定相と吸脱着が繰り返されるが、呼気の成分ごとに吸脱着のし易さが異なる。このため固定相によく吸着する成分ほど移動速度が遅くなり、固定相にあまり吸着しない成分ほど移動速度が早くなるというように、呼気を成分分離することができる。
【0050】
ここで、第1マイクロカラム21の壁面には、呼気の成分のうちの水を成分分離するための固定相が修飾されることが好ましい。従来から呼気に含まれる各成分を検出する上で、呼気中の水分は、検出を阻害する最有力の成分であった。しかし、このように第1マイクロカラム21の内部流路22に水を成分分離するための固定相を修飾することにより、呼気に含まれる水を効率的に成分分離することができる。なお、固定相を構成する材料の詳細は後述する。
【0051】
このように第1マイクロカラム21により水を成分分離した呼気は、第2マイクロカラム31に供給されて、さらに成分分離がなされる。そして、第2マイクロカラム31で成分分離された呼気の各成分がガス検出部50に導入される。かかる各成分をガス検出部50のガスセンサ51により感知する。呼気がガス分析装置に導入されてから、ガスセンサ51がガス成分を感知するまでの時間を保持時間という。当該保持時間は呼気の成分により固有の値を示し、かかる保持時間に基づいて、ガス成分の同定が行なわれる。本実施の形態のガス分析装置は、このようにして呼気のガス成分を検出する。以下において、本実施の形態のガス分析装置を構成する各部をより詳細に説明する。
【0052】
<ガス導入部>
本実施の形態において、ガス導入部10は、呼気の一部をガス分離部20に供給するために設けられるものである。このようなガス導入部10は、図1に示されるような構造のみに限られるものではなく、たとえばガス分離部20に呼気を供給する流路に切換口が備わっていることが好ましい。ガス導入部10は、該切換口を動作させることにより、ガス分離部20に供給する呼気の流速を調整することができるものであれば、いかなる構造のものであっても良い。
【0053】
このようにガス導入部10が、上記のような構造を有することにより、検出に不要な呼気を外部に排出しつつ、検出に必要な呼気のみをガス分離部20に供給することができる。ガス導入部10の一例として、以下に図1(a)および図1(b)を用いて説明する。
【0054】
図1(a)に示されるガス導入部10は、ガス導入口11から呼気を導入するための第1流路12と、導入した呼気の一部をガス排出口14から排出するための第2流路13とを有するとともに、第1流路12と第2流路13とを接続し、かつ呼気を保持するためのガス収容部19がさらに接続される。
【0055】
一方、ガス導入部10は、上記の第1流路12および第2流路13とは別の流路として、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に呼気を供給するための第4流路16とを備える。ただし、図1(a)に示される第1状態においては、第3流路15と第4流路16とは、ガス収容部19を介することなく直接接続されている。このため、第3流路15に導入されるキャリアガスは、第4流路16を通じてガス分離部20に供給される。第1状態では、呼気がガス分離部20に供給されることはなく、第1流路12から導入された呼気は、ガス収容部19を通過して、その一部がガス収容部19に保持されるとともに、残部は第2流路13を通じてガス排出口14から排出される。
【0056】
(流路切替手段)
流路切替手段18は、ガス収容部19が第1流路12および第2流路13に接続されている第1状態から、ガス収容部19が第3流路15および第4流路16に接続されている第2状態に切り替えるためにガス導入部10に設けられるものである。流路切替手段18により、図1(a)に示される第1状態から図1(b)に示される第2状態に切り替えられる。第2状態では、上記の第1状態でガス収容部19に保持された呼気が、第3流路15から供給されるキャリアガスとともに第4流路16に流れ、該第4流路16からガス分離部20に供給される。
【0057】
そして、第2状態において、ガス収容部19に呼気がなくなったとき、またはガス分離部20に呼気が十分に供給されたとき、流路切替手段18により第2状態から第1状態に切り替える。第2状態から第1状態に切り替わると、第1流路12からガス収容部19に再び呼気が導入される。このように第1状態と第2状態とを交互に切り替えることにより、適切な流量の呼気を適切なタイミングでガス分離部20に導入することができる。
【0058】
なお、図1(b)に示される第2状態においては、第1流路12と第2流路13とはガス収容部19を介することなく、直接接続されている。このため、第2状態において第1流路12に導入される呼気は、第2流路13を通じてガス採取部40に排出される。
【0059】
(調圧手段)
第3流路15は、調圧手段17を備えることが好ましい。調圧手段17を備えることにより第3流路15を流れるキャリアガスの流速を制御することができる。このようにキャリアガスの流速を制御することにより、ガス分離部20に一定流量の呼気をキャリアガスとともに供給することができる。
【0060】
このような調圧手段17により制御される呼気の流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、10cm/sec以上100cm/sec以下であることが好ましい。ただし、内部流路の長さおよび断面積によって、その好ましい流速は異なり、たとえば内部流路の長さが10mで断面積が0.04mm2であるときには、上記の流速の数値範囲の中でも10cm/sec以上50cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10cm/sec以上30cm/sec以下である。一方、内部流路の長さが17mで断面積が0.04mm2であるときには、40cm/sec以上90cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50cm/sec以上70cm/sec以下である。呼気の流速が10cm/sec未満であると、ガス検出までに要する時間が長くなり、装置のスペック上好ましくない。呼気の流速が100cm/secを超えると、流速が早すぎることにより、後のガス分離部で呼気を成分分離しにくい傾向がある。
【0061】
このような調圧手段17としては、気体の圧力を調整することができるものであればどのようなものを用いてもよく、たとえばコンプレッサー、バルブ、ポンプ、レギュレータ、ガスボンベ等を用いることができる。コンプレッサー、ポンプ等を用いる場合、加圧した空気を減圧弁にて調整した上でガス分離部20に呼気を供給することができる。なお、キャリアガスとしては、たとえばヘリウム等の不活性ガスあるいは空気等を用いることができる。
【0062】
(ガス採取部)
本実施の形態のガス分析装置において、図1(a)に示されるように、ガス採取部40をガス導入口11およびガス排出口14に接続することが好ましい。このようにガス採取部40を接続することにより、呼気をガス導入口11に効率的に導入することができるとともに、呼気を収容するスペースを設けることができる。
【0063】
しかも、このようなガス採取部40は、呼気がガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を循環する循環経路としての役割も果たす。
【0064】
ガス採取部40の導入口にはマウスピース、マスク等のように口をあて呼気を直接導入することができるようなものを有していることが好ましい。このようにマウスピース、マスク等を有することにより、ガス採取部40に呼気を導入しやすい。
【0065】
そして、ガス採取部40は、呼気の入口および出口に逆止弁41を備えることが好ましい。このようにガス採取部40が逆止弁41を備えることにより、呼気の一部はガス採取部から排出されるが、その残部は、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13内に循環させることができる。
【0066】
なお、図1(a)および図1(b)においては、ガス採取部40を用いてガス導入部10に呼気を導入する場合を例示しているが、ガス導入部10に呼気を導入する方法は、ガス採取部40のみに限られるものではなく、ガス導入口11にバッグを直接接続してガス導入部10に呼気を導入してもよい。
【0067】
(気流発生手段)
ガス導入口11またはガス排出口14のいずれか一方もしくは両方に気流発生手段25を設けることが好ましい。このように気流発生手段25を備えることにより、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を呼気が循環するようにすることができるとともに、これを流れる呼気の流速を制御することができる。なお、気流発生手段25により制御される呼気の流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、1mL/min以上10mL/min以下であることが好ましい。
【0068】
<ガス分離部>
本実施の形態において、ガス分離部20は、ガス導入部10から導入された呼気に含まれる各種ガス成分を成分分離するために設けられるものであり、具体的には、ガス分離部20に備えられる第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31により呼気の成分分離を行なうことを特徴とする。なお、以下において、単に「マイクロカラム」と記す場合は、第1マイクロカラムおよび第2マイクロカラムの両方を含む概念である。
【0069】
第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31のように、2つのマイクロカラムを用いることにより、ガス分析装置の小型化および軽量化を達成しつつ、その呼気中の検出したい成分の検出精度を高めることができる。これは、第1マイクロカラム21で呼気中の不要な成分を成分分離した後に、第2マイクロカラム31でさらなる成分分離を行なうことができるからである。以下においては、2つのマイクロカラムを備えるガス分離部を説明するが、3以上のマイクロカラムを備える場合も本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0070】
ここで、「マイクロカラム」とは、マイクロオーダーの幅および深さを有する微細な流路を備えるチップ状のクロマトグラフィカラムを意味するものである。このようなマイクロカラムの外形は、特に限定されるものではなく、たとえばSiウェハー等の基板を用いて、その外形が縦横数mm〜数十cmで、その厚みを数mm〜数cm程度とすることができる。
【0071】
なお、検出ガスの「成分分離」とは、呼気を構成する全ての成分を各成分ごとに分離する場合はもちろん、呼気を構成する成分のうちのいずれか1の成分を、他の少なくとも1の成分から分離する場合も含まれるものとする。すなわち、呼気が3以上の成分を含む場合、3以上の成分のうちの少なくとも1の成分が他の2以上の成分から分離されている限り、呼気の成分分離は達成されており、本発明の範囲に含まれる。
【0072】
ガス分離部20には、マイクロカラム以外のクロマトグラフィカラムとして、固定相をコーティングした担体を充填したパックドカラム、内壁に固定相が塗布されたキャピラリーカラム等を用いることも考えられるが、これらのクロマトグラフィカラムは、温度を制御するために大きな恒温槽を備える必要があり、ガス分析装置自体が大型化することになりかねず、所期の目的に反することになるため好ましくない。
【0073】
また、マイクロカラムの内部流路の幅および深さ(高さ)はそれぞれ、たとえば100〜300μm程度とすることができる。マイクロカラムの内部流路の幅および深さは、目的成分の種類やマイクロカラムに導入される呼気の流量などを考慮して決定されることが好ましい。
【0074】
また、内部流路22は、その長さが3m以上20m以下であることが好ましい。内部流路22の長さが3m未満であると、呼気の成分分離を十分に行なうことができず、内部流路22の長さが20mを超えると、測定に要する時間が長時間となるため好ましくない。
【0075】
図2(a)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の一形態を示した図であり、図2(b)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の別の一形態を示した図である。マイクロカラムの内部流路の構造は、図1(a)に示されるような蛇形流路の構造のみに限られるものではなく、たとえば図2(a)に示されるような円のスパイラル状の内部流路の構造であってもよく、図2(b)に示されるように四角のスパイラル状の内部流路の構造であってもよい。また、第1マイクロカラムおよび第2マイクロカラムにそれぞれ異なる構造の内部流路を備えるマイクロカラムを用いてもよい。
【0076】
本実施の形態において、第1マイクロカラム21は、その内部流路22の壁面に固定相が修飾されており、該固定相は、30℃での比誘電率が10以上の極性材料からなることが好ましい。比誘電率が10以上の極性材料は、強極性であることにより、呼気に含まれる成分のうちの水を効率的に成分分離することができる。すなわち、このような比誘電率を有する固定相は、その極性が高いことにより、特に水のような極性物質の流速を顕著に遅らせることができる。
【0077】
比誘電率が10以上の極性材料としては、たとえば平均分子量が1000以下のポリエチレングリコールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。なお、固定相を構成する材料の比誘電率は、誘電率測定装置を用いて算出された値を採用するものとする。また、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に修飾する固定相としては、たとえば5%フェニルメチルシリコーン(商品名:SE52(ジーエルサイエンス株式会社製))等を用いることができる。
【0078】
固定相が有する極性が強いほど、呼気の各成分ごとの極性差がマイクロカラム中を流れる呼気の流速に差をもたらし、呼気を成分分離しやすいものと考えられる。そして、固定相の極性の強弱は、その材料の誘電率の高低により決定されるという関係から、固定相を構成する材料は、11以上の比誘電率を有することがより好ましく、さらに好ましくは13以上の比誘電率を有することである。固定相を構成する材料の比誘電率が10未満であると、呼気中の水を成分分離することができないため好ましくない。
【0079】
ここで、呼気中の水を成分分離するのに有効な固定相の材料としては、200以上1000以下の平均分子量を有するポリエチレングリコール(以下においては「PEG」とも記する)を用いることがより好ましい。PEGは、その平均分子量が多いほど粘度が上昇するとともに、その極性が小さくなる傾向にあり、平均分子量が小さいほど粘度が低下するとともに、その極性が強くなる傾向がある。このため、PEGの粘度と極性とのバランスの観点からは、30℃での比誘電率が13.74である平均分子量が600程度のPEG(PEG600)を用いることがさらに好ましい。
【0080】
ポリエチレングリコールの平均分子量が200未満であると、その粘度が低いことによりマイクロカラムの内部流路22の壁面に保持されにくく、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000を超えると、十分な極性を有しないことから、呼気の分離能が低下する傾向がある。また、第1マイクロカラム21は、温度制御手段を備えていることが好ましい。温度制御手段を備えることにより、マイクロカラムの温度を一定に保つことができ、より精確に成分分離を行なうことができる。
【0081】
上記のような第1マイクロカラム21により、まず呼気中の水分を成分分離した後に、第2マイクロカラム31により、第1マイクロカラム21では十分に成分分離できなかった成分をさらに成分分離することができる。このように第2マイクロカラム31の内部流路を修飾する固定相は、成分分離したい所望の成分に合わせて固定相の材料を選択することができる。すなわち、呼気中に含まれるアルコールを検出したい場合、芳香族化合物を検出したい場合、炭化水素化合物を検出したい場合等のように、検出したい成分によって適切な固定相の材料を選択することが好ましい。
【0082】
たとえば、呼気中のアルコールを成分分離するという観点から、ジグリセロール(Diglycerol)等を固定相の材料に用いることが好ましい。また、呼気中の芳香族化合物を成分分離するという観点から、SiponateDS−10(信和化工株式会社製)等を固定相の材料に用いることが好ましく、炭化水素化合物を成分分離するという観点からスクアレン(Squalane)等を固定相の材料に用いることが好ましい。
【0083】
また、呼気を成分分離する性能を高めるという観点から、マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相の厚みは、1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0084】
ここで、固定相の厚みは、マイクロカラムの内部流路の壁面に固定相を修飾したマイクロカラムの断面を、マイクロスコープを用いて観察したときの画像に基づいて直接測定することにより算出されたものを採用する。
【0085】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態における、マイクロカラムの作製方法を具体的な一例を挙げて説明する。まず、Siウェハー等の基板表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0086】
ついで、連続した溝を形成した基板とガラス板とを、基板の溝形成面側がガラス板に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、形成された内部流路の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、マイクロカラムの内部流路内に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路の内壁に固定相を修飾する。
【0087】
<検体ガス>
本実施の形態のガス分析装置を用いて成分分離される検体ガスは、アセトンを含むことが好ましい。従来のガス分析装置では、水中に微量に含まれるアセトンを効率的に成分分離することが困難であり、たとえ成分分離できたとしても、その成分分離の精度は十分なものではなかった。しかし、本実施の形態のガス分析装置ではかかる従来の課題を一掃し、短時間で検体ガス中の水を成分分離し得る。このような検体ガスとして、たとえば呼気を用いることができる。
【0088】
<ガス検出部>
ガス検出部50は、ガス分離部20で分離されたガス成分を順次検出するための部位であり、ガスセンサを用いることが好ましい。本実施の形態において、ガス検出部50は、化学物質を検出するためのガスセンサ51を有する。かかるガスセンサ51としては、半導体センサ、電気化学式ガスセンサ、QCM、FID等を用いることができる。この中でも、安価で入手しやすいという観点から、半導体センサを用いることが好ましい。
【0089】
図3は、本実施の形態のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。本実施の形態において、ガスセンサ51は、図3に示されるように、ガス分離部により分離されたガス成分の出口の近傍に設置することが好ましい。このようにガス成分の出口の近傍にガスセンサ51を設置することにより、目的成分の検出感度を高めることができる。ここで、「ガス成分の出口近傍」とは、ガス成分の出口から0.5mm以上3mm以下の範囲にガスセンサ51が位置することを意味する。なお、ガス分離部20の第2マイクロカラムの内部流路と、ガス検出部50とはキャピラリーガラスチューブ55により接続されている。
【0090】
ガス分離部20とガス検出部50とは、キャピラリーガラスチューブ55を用いて接続するが、キャピラリーガラスチューブの管径が小さいため、キャピラリーガラスチューブ55のガス成分の出口とガスセンサ51とが離れていると、ガスセンサ51が呼気を感知しにくい傾向にあるため好ましくない。
【0091】
ガスセンサ51は、導線等を介してデジタルマルチメータなどの信号受信機構(図示せず)に接続されることが好ましい。このような信号受信機構は、ガスセンサ51がガス成分を検出すると、ガスセンサ51の定抵抗の電圧値の変化を信号変化として受信する必要がある。
【0092】
さらに、信号受信機構はコンピュータに接続されていることが好ましい。ここでのコンピュータとは、信号受信機構が検出した信号データの蓄積し、該信号データをクロマトグラムに変換し、かつその変換したデータの表示を行なうもののことをいう。なお、コンピュータが流路切替手段の動作を制御する機能を有しており、かかるコンピュータにより第1状態と第2状態とを切り替える制御を行なってもよい。
【0093】
(実施の形態2)
図4は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図4に示されるように、実施の形態1のガス分析装置に対し、排ガス口36を備える切替機構35を用いて、第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とを接続したことが異なる他は、実施の形態1と同様のものである。
【0094】
このように第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とを接続するために切替機構35を設け、かかる切替機構35が呼気の一部を外部に排出する排ガス口36を備えることにより、呼気のうちの検出に不要な呼気の成分を排ガス口36から外部に排出することができ、以って呼気のうちの検出に必要な呼気の成分のみを検出することができる。
【0095】
本実施の形態のガス分析装置の動作をより具体的に説明する。まず、ガス導入部10を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に呼気が導入されると、呼気中の水は第1マイクロカラム21の固定相により流速が制御されて遅くなり、水以外の成分が先に第1マイクロカラム21から第2マイクロカラム31に供給される。
【0096】
このようにして第1マイクロカラム21により呼気中の水が成分分離されて、呼気中の水以外の成分が先に第2マイクロカラム31に供給される。そして、呼気中の水が未だ第2マイクロカラム21に供給される前に、切替機構35を動作させることにより、検出に不要な呼気中の主に水を排ガス口36から外部に排出させることができる。このように排ガス口36から呼気のうちの主に水を排出することにより、第2マイクロカラム31の成分分離の性能を高めることができる。
【0097】
ここで、排ガス口36から検体ガスを排出するときの切替機構の動作を図5(a)および図5(b)を用いて説明する。図5(a)は、本実施の形態のガス分析装置に用いられる切替機構を拡大したものを示す図であり、図5(b)は、図5(a)の切替機構の検体ガスを排ガス口から排出するときの状態を示す図である。
【0098】
本実施の形態において、図5(a)のように、第1マイクロカラムの内部流路22が排ガス口36に接続されていないときには、第1マイクロカラムの内部流路22から第2マイクロカラムの内部流路32に呼気を供給する。一方、図5(b)のように、第1マイクロカラムの内部流路22が排ガス口36に接続されているときには、排ガス口36を通じて第1マイクロカラムの内部流路22から外部に呼気の一部を排出する。
【0099】
(実施の形態3)
図6は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図6に示されるように、実施の形態2のガス分析装置の切替機構に、さらにキャリア導入口37を備えることが異なる他は、実施の形態2と同様のものである。本実施の形態のように、切替機構35がキャリア導入口37を備えることにより、キャリア導入口37を通じ、第1マイクロカラム21を経ずに第2マイクロカラム31にキャリアガスを直接導入することができる。そして、第2マイクロカラム31にキャリアガスを直接導入することにより、第2マイクロカラム31を流れる検体ガスの流速を早めることができる。
【0100】
ここで、本実施の形態のガス分析装置において、排ガス口36から検体ガスを排出するときの切替機構の動作を図7(a)および図7(b)を用いて説明する。図7(a)は、本実施の形態のガス分析装置に用いられる切替機構を拡大したものを示す図であり、図7(b)は、図7(a)の切替機構の検体ガスを排ガス口に排出させるときの状態を示す図である。
【0101】
本実施の形態において、図7(a)に示される状態のように、第1マイクロカラム21が排ガス口36に接続されていないときには、第1マイクロカラム21から第2マイクロカラム31に呼気を供給することができる。そして、呼気中の水が未だ第2マイクロカラム21に供給される前に、切替機構35を動作させることにより、検出に不要な呼気中の水のみを排ガス口36から外部に排出させることができる。なお、図7(a)に示される状態においても、検体ガスがキャリア導入口37に流れないように、キャリア導入口37からキャリアが導入されている。
【0102】
一方、図7(b)のように、第1マイクロカラムの内部流路22と排ガス口36とが接続されているときには、排ガス口36を通じて第1マイクロカラムの内部流路22から外部に呼気の一部を排出するとともに、キャリア導入口37から第2マイクロカラムの内部流路32にキャリアガスを供給することができる。これにより第1マイクロカラムの内部流路22から排ガス口36を通じて外部に不要な検体ガスを排出しつつ、検出を要する検体ガスを第2マイクロカラムの内部流路32からガス検出部50に導入することができる。
【0103】
ここで、キャリア導入口37を通じて第2マイクロカラムの内部流路32にキャリアガスを直接導入することができることから、第2マイクロカラムの内部流路32を流れる呼気の流速を低下しにくくすることができる。これにより本実施の形態のガス分析装置は、小型であって測定に要する時間が短時間であり、かつ検出精度が高いものとなる。
【0104】
(実施の形態4)
本実施の形態のガス分析装置は、第2マイクロカラムが他のマイクロカラムと交換できるように、第1マイクロカラムに対し、はめ込み式で接続されることが異なる他は、実施の形態1と同一の形態である。すなわち、本実施の形態のガス分析装置は、図1(a)および図1(b)に示される実施の形態1のガス分析装置と外観的には同一のものである。
【0105】
このように第2マイクロカラムがはめ込み式で第1マイクロカラムに接続されることにより、第2マイクロカラムが第1マイクロカラムに着脱可能であり、第2マイクロカラムを他の固定相が修飾されている他のマイクロカラムに交換することができる。これによりたとえば第2マイクロカラムの成分分離の性能が衰えたときに容易に交換し得る他、成分分離したい検体ガスの成分に合わせて、より適切な固定相が修飾された内部流路を有する他のマイクロカラムに交換し得る等のメリットがある。なお、第2マイクロカラムは必ずしも第1マイクロカラムに対し、はめ込み式で接続されていなくてもよく、着脱可能な接続方法であればいかなる方法であってもよい。
【0106】
(実施の形態5)
図8は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図8に示されるように、第1マイクロカラムが2つの第2マイクロカラム31に接続されている多接続マイクロカラムである他は、実施の形態1と同一の形態である。
【0107】
このような多接続マイクロカラムは、図8に示されるように、切替機構35を介して2つの第2マイクロカラム31のうちのいずれにも接続されており、切替機構35により検体ガスの流れを2つの第2マイクロカラム31のうちのいずれかに切り替えることができる。このように2つの第2マイクロカラム31を備えることにより、多接続マイクロカラムで一旦成分分離した検体ガスをそれぞれ別々の第2マイクロカラム31に供給した後に、さらにそれぞれの第2マイクロカラム31で成分分離をすることができる。このように多接続マイクロカラムを含むことにより、ガス分離部20の成分分離の性能を高めることができる。
【0108】
なお、本実施の形態においては、2つの第2マイクロカラムを設ける場合を説明したが、このような形態のみに限られるものではなく、3以上の第2マイクロカラムを備えていてもよく、多接続マイクロカラムに接続される個数は特に限定されない。
【0109】
(実施の形態6)
図9は、本実施の形態のガス分析装置の一例を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態1〜5のガス分離部のように2つのマイクロカラムを備えるものではなく、図9に示されるように、ガス分離部20に1つの多相マイクロカラム71を備えることを特徴とする。ここで、「多相マイクロカラム」とは、1つのマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相を修飾したものを意味する。
【0110】
本実施の形態の多相マイクロカラム71において、検体ガスを導入する側の内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料が、多相マイクロカラム71の検体ガスを排出する側の内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0111】
すなわちたとえば、検体ガスが多相マイクロカラム71に供給された場合、多相マイクロカラム71の内部流路72の前段部分で検体ガスの成分のうちの特に水を分離しやすい固定相を備え、多相マイクロカラム71の内部流路72の後段部分で検体ガスの成分のうちのたとえばエタノールを分離しやすい固定相を備えるようにすることができる。このように内部流路72の壁面に修飾される固定相の材料が、内部流路72の前後で異なることにより、前段部分で成分分離できる成分と、後段部分で成分分離できる成分とを異ならしめることができ、もって検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。
【0112】
(実施の形態7)
本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態6の多相マイクロカラムと同様の蛇型流路の構造であるが、その内部流路に修飾される固定相の配置が異なることを特徴とする。図10は、本実施の形態の多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。本実施の形態の多相マイクロカラムは、図10に示されるように、内部流路72が上下の2つの分割流路に分割されており、上側の分割流路95の壁面に修飾される固定相の材料が、下側の分割流路94の壁面に修飾される固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0113】
このように1つの内部流路に2本の分割流路を設ける場合、ガス導入部10から導入される検体ガスは、まず上側の分割流路95を通過した後に、下側の分割流路94に流れるように内部流路72が形成される。このように1つの内部流路72に2つの分割流路を有する本実施の形態のガス分析装置は、その形状を大型化することなく、検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。なお、下側の分割流路94に流れてから上側の分割流路95を流れるような構造であってもよいことは言うまでもない。
【0114】
本実施の形態においては、内部流路を上下の2つに分割したものを説明したが、内部流路の分割は上下のみに限られるものではなく、左右に分割してもよいし、上中下というような3段構造の分割流路を有していてもよい。すなわち、多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、該分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なるものである限り、本発明の範囲に含まれる。
【0115】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態において、マイクロカラムの作製方法を具体的な一例を挙げて説明する。まず、Siウェハー等の基板93を準備し、かかる基板93の表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0116】
次に、形成された溝の底面がエッチングされないようにマスクした後に、その溝の上部の側壁のみをさらにエッチングにより除去し、階段状の内部流路を形成する。そして、内部流路の側壁が階段状となっている段上の部分に接着剤を塗布した後に、溝の底面に形成されたマスクを除去する。そして、内部流路の側壁が階段状となっている段上に、分割基板96を貼り合わせることにより、下側の分割流路94を形成する。
【0117】
次いで、形成された下側の分割流路94の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、下側の分割流路94の壁面に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することにより、マイクロカラムの下側の分割流路94の壁面に固定相を修飾する。
【0118】
そして、下側の分割流路94が形成された基板93とガラス板97とを、基板93の溝を形成した面側がガラス板97に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合することにより、上側の分割流路95を形成する。
【0119】
次に、形成された上側の分割流路95の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、マイクロカラムの上側の分割流路95内に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの上側の分割流路95の壁面に固定相を修飾する。以上のようにして、上下の分割流路のそれぞれに異なる組成の固定相を修飾し、本実施の形態のガス分離部に用いられる多相マイクロカラムを作製する。
【0120】
(実施の形態8)
本実施の形態のガス分析装置は、実施の形態6の多相マイクロカラムと同様の蛇型流路の構造であるが、基板の表裏の両面に内部流路が形成されており、表裏に形成される内部流路に修飾される固定相が異なることを特徴とする。
【0121】
図11は、本実施の形態の多相マイクロカラムの内部流路の断面を模式的に示した図である。本実施の形態の多相マイクロカラムは、図11に示されるように、1枚の基板83の表裏に内部流路が形成されたものであり、基板83の表面側に形成された内部流路85の壁面を修飾する固定相の材料は、基板83の裏面側に形成された内部流路84の壁面を修飾する固定相の材料と異なることを特徴とする。
【0122】
このように1枚の基板83に2本の内部流路を設ける場合、ガス導入部からガス分離部に導入される検体ガスは、まず表面側の内部流路85を通過した後に、裏面側の内部流路84に流れるように形成される。このように1枚の基板83に2つの内部流路を有する本実施の形態のガス分析装置は、その形状を大型化することなく、検体ガスの成分分離の性能を高めることができる。なお、裏面側の内部流路84を通過してから、表面側の内部流路85を通過する場合であってもよい。
【0123】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態において、マイクロカラムを作製する方法を具体的な一例を挙げて説明すると、まず、Siウェハー等の基板83の表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0124】
ついで、連続した溝を形成した基板83とガラス板87とを、基板83の溝を形成した面側がガラス板87に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、基板83の表面側に形成された内部流路85の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、表面側の内部流路85に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路85の内壁に固定相を修飾する。
【0125】
次に、基板83の裏面側にも、上記と同様の微細加工を行なうことにより、基板83の裏面側の内部流路84を形成する。そして、基板83の裏面側の内部流路84には、基板83の表面側に形成された内部流路85の壁面に修飾された固定相とは異なる材料の固定相を修飾する。以上のようにして、本実施の形態のガス分離部に用いられる多相マイクロカラムを作製する。
【0126】
本発明において上記で好適な実施形態を説明したガス分析装置は、上記に限定されるものではなく、上記以外の構成とすることもできる。
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
(実施例A1)
本実施例では、以下の手順によりガス分離部20を作製した。まず、幅が100μmであって、その深さが100μmの内部流路を100μmの間隔で蛇行状に形成した第1マイクロカラム21および第2マイクロカラム31を作製した。以下においては、第1マイクロカラム21の作製の手順を具体的に述べる。
【0129】
まず、シリコンウエハに対し、幅が100μmであって、深さが100μmの蛇行状の溝を100μmの間隔で、フォトリソグラフィ加工をした後にブラスト加工を行なって形成した。このようにして形成された内部流路22の全長は8mであった。そして、シリコン基板の溝を形成した側に対し、ガラス板を陽極接合を用いて密着させ、4cm四方にダイシングした。
【0130】
この内部流路22の導入口および排出口に、外径が0.35mmであり、内径が0.25mmであって、その内径の表面が未修飾のキャピラリーガラスを取り付けた。
【0131】
一方、平均分子量が600であって、30℃での比誘電率が13.74のポリエチレングリコール(PEG600:ジーエルサイエンス株式会社製)をアセトンに溶解させた1%アセトン溶液を準備した。かかる1%アセトン溶液をガス分離部20の第1マイクロカラム21の導入口から導入し、その内部流路22内にアセトン溶液を充填した。
【0132】
そして、ラバービータを用いて80℃に昇温した後に10分間保持することにより、内部流路22内のアセトンをほとんど蒸発させた。このようにしてアセトンをほぼ蒸発させた後に、溶媒トラップを有するダイヤフラム型ドライ真空ポンプDA−15D(アルバック機工株式会社製)を内部流路22の導入口側に接続した。
【0133】
この真空ポンプを数十分間稼動させて、内部流路22内の溶媒を完全に除去することにより、内部流路22の壁面に、PEG600からなる固定相を備える第1マイクロカラム21を形成した。このようにして作製した第1マイクロカラム21の断面をマイクロスコープで観察し、その固定相の厚みを実測したところ、固定相の厚みは1.0μmであることが明らかとなった。
【0134】
第1マイクロカラム21の内部流路の壁面に修飾される固定相の組成が異なる他は、第1マイクロカラム21の作製方法と同一の工程により、第2マイクロカラム31を作製した。すなわち、第2マイクロカラム31の内部流路32の壁面に形成する固定相には、5%フェニルメチルシリコーン(商品名:SE52(ジーエルサイエンス株式会社製))をペンタン/塩化メチレンに溶解させた1.0%溶液を用いた。
【0135】
上記のようにして作製された第1マイクロカラム21と第2マイクロカラム31とをキャピラリーガラスチューブを用いて接続することにより、実施例A1のガス分離部20を作製した。
【0136】
(比較例A1)
実施例A1のガス分離部に対し、第2マイクロカラムを有しないことを除いては、実施例A1と同様のものとして比較例A1のガス分離部を形成した。
【0137】
(比較例A2)
実施例A1のガス分離部に対し、第1マイクロカラムを有しないことを除いては、実施例A1と同様のものとして比較例A2のガス分離部を形成した。
【0138】
<分離能の性能評価>
実施例A1のように2つのマイクロカラムを接続した場合と、比較例A1およびA2のガス分離部のように1つのマイクロカラムを接続した場合とで、ガス分離部の分離能がどのように異なるかをガスクロマトグラフ質量分析計(製品名:JMS−K9(日本電子株式会社製))に取り付けて検討した。具体的には、n−ペンタン、アセトン、エタノール、トルエン、および水の混合比率が1:1:1:1:10の混合液体をGCMSに導入し、GCMSにより各ガス成分を検出した。
【0139】
図12は、実施例A1で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図12の縦軸は、検出された成分のピーク強度を示しており、図12の横軸は、その成分を検出するのに要した保持時間(分)を示している。
【0140】
図12で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が3分30秒であり、アセトンの保持時間が4分25秒であり、エタノールの保持時間が5分35秒であり、水の保持時間が7分42秒であり、トルエンの保持時間が9分22秒であることがわかる。これにより5種の混合液体を成分ごとに成分分離していることがわかった。
【0141】
一方、図13は、比較例A1で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図13で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が1分7秒であり、アセトンの保持時間が1分15秒であり、エタノールの保持時間が1分45秒であり、水の保持時間が3分42秒であり、トルエンの保持時間が1分42秒であることがわかる。この場合、n−ペンタンとアセトンとの保持時間、およびトルエンとエタノールとの保持時間がほぼ重複しており、混合液体が成分ごとに分離できていないことが明らかである。
【0142】
図14は、比較例A2で作製したガス分離部に対し、混合液体を導入したときにGCMSを用いて検出したクロマトグラムである。図14で示されるクロマトグラムから、n−ペンタンの保持時間が1分42秒であり、アセトンの保持時間が2分15秒であり、エタノールの保持時間が2分40秒であり、水の保持時間が1分55秒〜2分15秒であり、トルエンの保持時間が7分25秒であることがわかる。この場合、アセトンと水との保持時間がほぼ重複しており、混合液体が成分ごとに分離できていないことが明らかである。
【0143】
このように実施例A1のガス分離部が混合気体の各成分ごとに分離できたのに対し、比較例A1〜A2のガス分離部が混合気体の各成分ごとに分離できなかった理由は、実施例A1のガス分離部が2以上の固定相を有することによるものと考えられる。すなわち、比較例A1〜A2のガス分離部が検体ガスを各成分ごとに分離できなかった理由は、1種の固定相が修飾された場合であったことによるものと考えられる。
【0144】
(実施例1)
本実施例では、実施例A1で作製したガス分離部を用いてガス分析装置を作製した。まず、ガス導入部10として、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(ジーエルサイエンス株式会社製)を準備した。ここで、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(以下、「ガスサンプラー」とも記する)は、検体ガスを導入するための第1流路12と、導入した検体ガスの一部をガス排出口から排出するための第2流路13と、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に検体ガスを供給するための第4流路16と、検体ガスを保持するためのガス収容部19とを有するものである。
【0145】
ガスサンプラーの第1流路12および第2流路13をガス採取部40にそれぞれ接続した。ガス採取部40の出口および入口には、それぞれ逆止弁41を設け、逆流を防ぐようにした。第2流路13とガス採取部40との接続部には気流発生手段25として小型ポンプを取り付けることにより、検体ガスが第1流路12、ガス収容部19、第2流路13、およびガス採取部40を循環するようにした。
【0146】
一方、ガスサンプラーの第4流路16とガス分離部20とを1/8×0.25 レデューシングユニオンを用いて接続した。これによりガスサンプラーの第3流路15から導入されたキャリアガスを、第4流路16を通じてガス分離部20の第1マイクロカラム21に導入した。
【0147】
次に、ガス分離部20の第2マイクロカラム31に対し、キャピラリーチューブの一端を挿入することにより接続した。一方、キャピラリーチューブの他端を、ガス検出部50のガスセンサ51の近傍となるように接続することにより、ガス検出部50を作製した。このようにして実施例1のガス分析装置を作製した。
【0148】
(比較例1)
比較例1では、実施例A1のガス分離部を比較例A1のガス分離部に代えたことを除いては実施例1と同様の方法により比較例1のガス分析装置を作製した。
【0149】
(比較例2)
比較例2では、実施例A1のガス分離部を比較例A2のガス分離部に代えたことを除いては実施例1と同様の方法により比較例2のガス分析装置を作製した。
【0150】
<ガス分析装置の検出精度の比較>
上記の実施例1および比較例2のガス分析装置のガス導入部に対し、エタノールとアセトンとを混合した検体ガスを導入し、それらの分離能を確認した。具体的には、1ppmのアセトンと、1ppmのエタノールとを含む窒素ガスを、実施例1および比較例2のガス分析装置に導入し、検出に要する保持時間を測定した。
【0151】
図15は、実施例1のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。図15のグラフによると、190秒と280秒との時点で抵抗変化のピークが見られる。ここで、190秒のピークがアセトンのピークであり、280秒のピークがエタノールのピークであると推定される。この結果から、エタノールとアセトンとを含む検体ガスを各成分ごとに検出できていることが明らかである。
【0152】
一方、図16は、比較例2のガス分析装置に対し、検体ガスを導入したときの抵抗変化の出力を示したグラフである。図16のグラフからは、100秒の時点でのみ抵抗変化が見られる。この結果から、エタノールとアセトンとを含む検体ガスを各成分ごとに検出できていないことが明らかである。
【0153】
このように実施例1のガス分析装置が成分分離できたのに対し、比較例2のガス分析装置が成分分離できなかったのは、実施例1のガス分析装置のガス分離部が2つのマイクロカラムを備えることによるものと考えられる。
【0154】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0155】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明によれば、予防医療の促進に有効な、小型でかつパーソナルユースに適したガス成分検出装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0157】
10 ガス導入部、11 ガス導入口、12 第1流路、13 第2流路、14 ガス排出口、15 第3流路、16 第4流路、17 調圧手段、18 流路切替手段、19 ガス収容部、20 ガス分離部、21 第1マイクロカラム、22,32 内部流路、25 気流発生手段、31 第2マイクロカラム、35 切替機構、36 排ガス口、37 キャリア導入口、40 ガス採取部、41 逆止弁、50 ガス検出部、51 ガスセンサ、55 キャピラリーガラスチューブ、71 多相マイクロカラム、72,84,85 内部流路、83,93 基板、87,97 ガラス板、94,95 分割流路、96 分割基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、
前記ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、
前記ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、
前記1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾される、ガス分析装置。
【請求項2】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なる、請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、前記検体ガスの成分のうちの水を成分分離する、請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記1以上のマイクロカラムのうちの検体ガスが導入される側の内部流路の壁面に修飾される固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離する、請求項1〜3のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、10以上の比誘電率を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記ガス分離部は、前記ガス導入部と接続される第1マイクロカラムと、前記第1マイクロカラムに接続される第2マイクロカラムとを少なくとも備える、請求項1〜5のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項7】
前記第1マイクロカラムと前記第2マイクロカラムとは、切替機構により接続されており、
前記切替機構は、前記第1マイクロカラムを通過した検体ガスの一部を外部に排出するための排ガス口を備える、請求項6に記載のガス分析装置。
【請求項8】
前記切替機構は、前記第1マイクロカラムから前記排ガス口に検体ガスの一部を排出するときに、前記第2マイクロカラムにキャリアガスを導入するためのキャリア導入口を備える、請求項7に記載のガス分析装置。
【請求項9】
前記1以上のマイクロカラムのいずれもが、他の少なくとも1のマイクロカラムと接続されており、
前記1以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、他のマイクロカラムに交換できるように着脱可能である、請求項1〜8のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記マイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、はめ込み式で他のマイクロカラムと接続される、請求項1〜9のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項11】
前記マイクロカラムのいずれか1のマイクロカラムは、他の2以上のマイクロカラムに接続される多接続マイクロカラムであり、
前記2以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムに検体ガスが流れるように、前記多接続マイクロカラムからの検体ガスの流れを切り替える切替機構を有する、請求項1〜10のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項12】
前記1以上のマイクロカラムのうちの少なくとも1のマイクロカラムは、その内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾された多相マイクロカラムであり、
前記多相マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なる、請求項1〜11のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項13】
前記多相マイクロカラムのうち検体ガスを導入する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料は、前記多相マイクロカラムの検体ガスを排出する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項14】
前記多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、
前記分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項15】
前記多相マイクロカラムは、1枚の基板の表裏に内部流路が形成されたものであり、
前記基板の表面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料は、前記基板の裏面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項16】
前記検体ガスはアセトンを含む、請求項1〜15のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項1】
検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、
前記ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを1以上備えるガス分離部と、
前記ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、
前記1以上のマイクロカラムの内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾される、ガス分析装置。
【請求項2】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なる、請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、前記検体ガスの成分のうちの水を成分分離する、請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記1以上のマイクロカラムのうちの検体ガスが導入される側の内部流路の壁面に修飾される固定相は、検体ガスの成分のうちの水を成分分離する、請求項1〜3のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記2以上の固定相のうちのいずれか1の固定相は、10以上の比誘電率を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記ガス分離部は、前記ガス導入部と接続される第1マイクロカラムと、前記第1マイクロカラムに接続される第2マイクロカラムとを少なくとも備える、請求項1〜5のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項7】
前記第1マイクロカラムと前記第2マイクロカラムとは、切替機構により接続されており、
前記切替機構は、前記第1マイクロカラムを通過した検体ガスの一部を外部に排出するための排ガス口を備える、請求項6に記載のガス分析装置。
【請求項8】
前記切替機構は、前記第1マイクロカラムから前記排ガス口に検体ガスの一部を排出するときに、前記第2マイクロカラムにキャリアガスを導入するためのキャリア導入口を備える、請求項7に記載のガス分析装置。
【請求項9】
前記1以上のマイクロカラムのいずれもが、他の少なくとも1のマイクロカラムと接続されており、
前記1以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、他のマイクロカラムに交換できるように着脱可能である、請求項1〜8のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記マイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムは、はめ込み式で他のマイクロカラムと接続される、請求項1〜9のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項11】
前記マイクロカラムのいずれか1のマイクロカラムは、他の2以上のマイクロカラムに接続される多接続マイクロカラムであり、
前記2以上のマイクロカラムのうちのいずれか1のマイクロカラムに検体ガスが流れるように、前記多接続マイクロカラムからの検体ガスの流れを切り替える切替機構を有する、請求項1〜10のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項12】
前記1以上のマイクロカラムのうちの少なくとも1のマイクロカラムは、その内部流路の壁面に2以上の固定相が修飾された多相マイクロカラムであり、
前記多相マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の固定相の材料とは異なる、請求項1〜11のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項13】
前記多相マイクロカラムのうち検体ガスを導入する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料は、前記多相マイクロカラムの検体ガスを排出する側の内部流路の壁面に修飾される固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項14】
前記多相マイクロカラムは、その内部流路の断面が2以上の分割流路に分割されており、
前記分割流路に修飾される固定相のうちのいずれか1の固定相の材料は、他の少なくとも1の分割流路に修飾される固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項15】
前記多相マイクロカラムは、1枚の基板の表裏に内部流路が形成されたものであり、
前記基板の表面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料は、前記基板の裏面側に形成された内部流路の壁面を修飾する固定相の材料と異なる、請求項12に記載のガス分析装置。
【請求項16】
前記検体ガスはアセトンを含む、請求項1〜15のいずれかに記載のガス分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−163820(P2011−163820A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24461(P2010−24461)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
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