説明

ガス分解素子およびその製造方法

【課題】 メンテナンス経費を抑制でき、小型かつ軽量で、高い分解効率を有し、振動等の外力や熱応力に対する耐損傷性を持つ、ガス分解素子を提供する。
【解決手段】 イオン導電性を有する固体電解質1の、肉厚0.05mm以上1.0mm以下で外径10mm以下の筒状体と、固体電解質の筒状体の内面に接して位置するカソード3と、外面に接して位置するアノード2とを備え、カソード3/固体電解質1/アノード2によって形成されるマイクロチューブがうねっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分解素子およびその製造方法であって、より具体的には、ガスを効率よく分解することができ、小型で、維持管理が容易なガス分解素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活環境、とくに空気に対する関心の高まりから、大気中の微量の有害ガス成分を効率よく除害(分解)するための技術開発が推進されている。たとえば、アンモニア分解反応を促進する触媒については、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物(特許文献1)、アルミナ製3次元網状構造体に担持された白金(特許文献2)などが公表されている。さらに、触媒に二酸化マンガンを用いることによって、100℃以下で、より効率的にアンモニアの熱分解を促進する方法も提案されている(特許文献3、4)。
上記のように多量のアンモニアの分解をするケースと異なり、廃ガス中の臭気成分であるアンモニア等を、ppmオーダーまで分解することを主目的とする除害装置がある。たとえば半導体製造装置の廃ガスには、アンモニア、水素等が含まれるのが普通であり、アンモニアの異臭を完全に除去するには、ppmオーダーにまで除害する必要がある。この目的のために、半導体製造装置の廃ガス放出の際にスクラバーを通して、薬品を含む水分に有害ガスを吸収させ、有害成分を含む水分の処理は、所定の廃棄物処理施設において、上述の方法を含む別の方法で処理することができる。
また、エネルギーや薬品等の投入なしに、安価なランニングコストを得るために、水素酸素燃料電池型分解方式を用いた、半導体製造装置の排気ガス処理の提案もされている(特許文献5)。
また、自動車では、ディーゼルエンジン搭載の自動車が増加する傾向にあるが、廃ガス規制をクリアする必要があり、ディーゼルエンジンの排出ガスを低減する各種の触媒装置が開発されている。それらの触媒装置のなかで、尿素選択還元システムはNOxを、エンジンスピードが低い温度域で効率よく窒素と水へと還元浄化するものとして推奨されている(非特許文献1)。これらの排気ガス浄化装置は、自動車エンジンの排気経路に取り付けられ、排気ガスを浄化する。このために、排気経路の温度やNOx濃度を測定して、尿素の排気経路への噴射量の制御を行う。たとえば、尿素噴射の後段にNOxセンサを設け、NOとNO2とを化学量論的に個別に割り出し、最適な尿素の噴射量を制御する装置が提案されている(特許文献6)。また、排気経路に、酸化触媒と、その後段に尿素選択還元装置とを配置して、尿素選択還元装置の前段で、酸化触媒の前後に配置した2つのNOxセンサを用いて、NOx分解を行う方法の提案もある(特許文献7)。
一方、夏季の光化学スモッグなどで知られるように、ディーゼルエンジンに限らず、NOxを含む気体環境は生物にとって好ましくない。大気中のNOx等を分解除去するために、多孔質担体の表面を被覆する酸化チタン薄膜にリン酸カルシウムを島状に分散配置した光触媒の提案がなされている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53−11185号公報
【特許文献2】特開昭54−10269号公報
【特許文献3】特開2006−231223号公報
【特許文献4】特開2006−175376号公報
【特許文献5】特開2003−45472号公報
【特許文献6】特開2004−100699号公報
【特許文献7】特開2007−100508号公報
【特許文献8】特開2001−232206号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】平田公信ら,「大型車ディーゼルの尿素選択還元システム」,自動車技術,Vol.60,No.9,2006,pp28-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アンモニアについては、触媒を用いた熱分解反応による方法(特許文献1〜4)などによれば、アンモニアの多量の分解が可能である。しかし、上記の方法では触媒の定期的交換やメンテナンスを要し、ランニングコストが高いという問題がある。とくに構成部材について長期間にわたってメンテナンスフリーは許容されない。さらに装置が大掛かりとなり、たとえば既存の設備に付加的に設ける場合に配置が難しい場合も生じる。
水素酸素燃料電池型分解方式を用いた排気ガス処理(特許文献5)は、メンテナンス経費を抑えて有害成分を分解することはできる。しかし、たとえば10ppm以下の極低濃度にまで効率よく分解する点で不十分である。
一方、NOxを分解する尿素選択還元装置については、自動車にとって大掛かりな尿素選択還元装置を排気系統に配置するものであり、重量増をもたらす。また、尿素の補給を必要とする。このため、自動車分野では、尿素等の還元剤の補給を必要とせず、維持管理が簡単な、できればメンテナンスフリーなNOx分解素子が望まれてきた。また自動車用では、当然のことながら小型で軽量であることが要求される。
自動車に限定されず大気中のNOx等の有害物質を除去する光触媒については、分解速度または分解効率が不足する傾向があった。人が密集する空港、鉄道の駅等では、迅速な有害物質の分解が求められ、光触媒による分解では、対応しきれない場合が生じる。
さらに上記の問題に加えて、一般的に、工業生産で多くのガス除害装置を製造する場合や、自動車に搭載する場合には、振動等の外力、加熱冷却に伴う熱応力などに対して損傷を生じないことが求められる。
上記の問題は次のように要約される。
1.メンテナント経費の低減
2.小型化(空間利用効率の向上)、および、軽量化の向上
3.高い除害効率
4.振動、熱応力等に対して損傷などを生じない耐損傷性
上記のような課題1.ないし4.は、アンモニアおよびNOxに限定されず、悪臭ガス成分のメタン、エタン等のVOC(Volatile Organic Compounds)の分解についても、同様のことがいえる。
【0006】
本発明は、メンテナンス経費を抑制でき、小型かつ軽量で高い分解効率を有し、外力、熱応力等に対する耐損傷性、を備える、ガス分解素子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス分解素子は、ガス成分を分解する。このガス分解素子は、肉厚0.05mm以上1.0mm以下で外径10mm以下の筒状体の、イオン導電性を有する固体電解質と、固体電解質の筒状体の内面に接して位置する第1の電極と、固体電解質の筒状体の外面に接して位置する第2の電極とを備える。そして、第1の電極/固体電解質/第2の電極によって形成されるマイクロチューブがうねっていることを特徴とする。ここで、うねっているとは、少なくとも1つの湾曲部を有する形状をさす。
【0008】
固体電解質は、通常、セラミックスにより形成される。上記のように、セラミックスの固体電解質がうねっている形状の場合、外力に対する変形能が飛躍的に高まり、たとえば支持が適切にされていれば、振動などの外力や熱応力に起因する損傷を防止することができる。この点、薄片の積層体である平板状MEAの固体電解質よりも、格段に耐損傷性を向上させることができる。また、上記のマイクロチューブの内面側または外面側に分解対象の成分ガスを流すことで、当該マイクロチューブはうねっているため接触面積を大きくできる。また、マイクロチューブの肉厚を上記範囲にすることで、イオンが固体電解質を通過する時間を短縮することができ、高い反応効率を得ることができる。このため、マイクロチューブを複数、並列に配置するなどして、小型かつ軽量で、高い分解効率と大量の処理能力を実現することができる。さらに上記の電気化学反応装置(燃料電池装置又は電気分解装置)では、分解対象ガスの相手方の気体は、通常、空気や水蒸気等を選択できるので、運転経費はきわめて安価である。
分解対象のガス成分は、マイクロチューブの内面側または外面側に流し、相手の空気等の気体は、マイクロチューブの管壁を挟んでその逆側に流す。分解対象のガス成分の直接的な分解反応は、第1の電極および第2の電極のうちのどちらで生じさせてもよい。
ここで、筒状体の語は、固体電解質について用いており、当然、筒状体はうねっている。また、その筒状体を中心にして形成された、第1の電極(例えばカソード)/固体電解質(筒状体)/第2の電極(例えばアノード)の電気化学反応体、については、マイクロチューブの語を用いる。固体電解質の筒状体をマイクロチューブということも、勿論、できるが、本説明では、とくに断らない限り、上記のように使い分けている。
固体電解質のうねっている筒状体の肉厚は、薄いほど、イオン透過時間が短く、分解効率を向上させるが、強度確保の点から0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上とする。マイクロチューブの肉厚が1.0mmを超えると、らせん状にしても変形能がそれほど向上しないので、上限は1.0mmとする。また、マイクロチューブの外径は、変形能を向上させるために10mm以下とするが、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下とする。マイクロチューブの外径の下限は、とくに限定しないが、0.2mm程度とするのがよい。なお、上記の筒状体の肉厚は、平均的な位置での肉厚であり、極端にうねっている箇所での肉厚ではない。
【0009】
上記のうねっているマイクロチューブの形態を、らせん状、ジグザグ状、または縒り線状とすることができる。これによって、ストレート(直線状)のチューブでは得られにくい変形能を大きく向上することができる。ここで、縒り線状とは、個々のマイクロチューブはらせん状とみることができるが、相互に縒られて編まれている複数のマイクロチューブをいう。これによって、総体的に、長手方向の伸び、曲げ(湾曲変形)などの変形能を向上することができる。損傷を避けるための条件の制約を受けずに、製造し、または使用することができる。
【0010】
第1の電極の集電体となる導電ワイヤーを、マイクロチューブの内面側に配置することができる。カソードを構成するイオン導電性セラミックスには高い電子伝導性を備えるものが多く、集電体を用いなくても集電できる場合があるが、そのカソードが内面側に位置する場合を含めて、導電ワイヤーを内面側に配置することで、集電性能を高め、その結果、集電性能に起因する反応効率の劣化を防止することができる。マイクロチューブの内面側(内筒)は、スペースが狭いために、たとえば金属多孔体シートなどを配置しにくく、また金属多孔体シートなどの配置により圧力損失を増大させるが、上記の導電ワイヤーはスペースの制約をそれほど受けず、また圧力損失を大きく増大させない。
なお、上記の導電ワイヤーは、マイクロチューブに沿って長く配置してもよいし、マイクロチューブの端部にのみ配置してもよい。カソードを内面側にした場合、導電ワイヤーはマイクロチューブの端部にのみ配置するのがよい。
【0011】
上記の第2の電極の集電体とするため、連続する気孔を有する金属多孔体をマイクロチューブの外面側に配置することができる。これによって、集電性能を向上させながら、外面側に通す気体を乱流状態にして第2の電極への接触状態を、電気化学反応にとって良好にすることができる。
【0012】
上記のガス成分を、NOxまたはアンモニアとして、マイクロチューブの内面側に通すか、または外面側に通すことができる。分解対象のガス成分の発生形態、周囲環境、および相手方の気体の採取形態等に応じて、分解対象ガスであるNOxまたはアンモニアをマイクロチューブの内面側または外面側に流し、相手方の気体を、固体電解質を挟む逆側に流す、ことができる。すなわち、マイクロチューブの内面側または外面側のどちらでアンモニアまたはNOxを分解するか、選択肢を増やすことができる。
【0013】
本発明のガス分解素子の製造方法は、第1の電極および第2の電極を備え、ガス成分を電気化学反応により分解するための素子を製造する。この製造方法は、固体電解質焼成後の、または固体電解質焼成前の、うねった形状の筒状体の固体電解質を準備する工程と、焼成後、または焼成前の筒状体の内面側に、第1の電極を形成するための溶液を導入して当該筒状体の内面に第1の電極の溶液を付着させる内面付着工程と、筒状体の内面に第1の溶液が付着された状態で、該筒状体を加熱して焼成する第1の焼成工程とを備えることを特徴とする。上記の方法によって、うねった形状の固体電解質の筒状体の内面側に、第1の電極を容易に、かつ確実に形成することができる。筒状体の内径は非常に小さい場合があるが、第1の電極を形成するための溶液は溶媒の比率を変えることで粘性および流動性を制御して、筒状体の内面側に上記の溶液を簡単に導入して、筒状体を適宜、回転させるなどして、内面に溶液を付着させ、焼成することができる。なお、上記の固体電解質焼成は、必ずしも行わなくてもよい。
【0014】
第1の焼成工程の前、または後で、筒状体の外面に第2の電極を形成するための溶液を付着させる外面付着工程を備え、第1の焼成工程の前、もしくは後に、外面付着状態の筒状体を加熱して焼成する第2焼成工程を備えるか、または、第1の焼成工程において、外面付着状態の筒状体を加熱して焼成することができる。これによって、筒状体の内外面に電極を形成したガス分解素子を、多様な製造方法のうちから、性能、歩留まり、経済性等を考慮して、適切な方法を選択することができる。すなわち、固体電解質については、(a1)第1焼成工程および第2焼成工程を加味して固体電解質焼成を行うか(第1焼成工程+第2焼成工程+固体電解質焼成)、または固体電解焼成を省いて(a2)第1焼成工程により、もしくは(a3)第1焼成工程+第2焼成工程により、代用することができる。第1の電極(内面側電極)については、(b1)第1の焼成工程のみ、(b2)第1の焼成工程+第2の焼成工程、または(b3)第1の焼成工程+第2の焼成工程+固体電解質焼成、のいずれか1つの焼成履歴を持つ。また、第2の電極(外面側電極)については、(c1)第1の焼成工程、(c2)第1の焼成工程+第2の焼成工程、(c3)第1の焼成工程+第2の焼成工程+固体電解質焼成、のいずれか1つの熱履歴を持つ。
製品完成までに、どのような手順で焼成を行うかは、多くの選択肢があるが、たとえば、(S1)固体電解質焼成→内面電極原料溶液付着後に第1の焼成→外面電極原料塗布後に第2の焼成、が典型例である。この場合、第2の焼成より前に行う焼成では、後に行われる焼成条件を加味して行うのがよい。性能を度外視した非常に特殊な焼成手順としては、(S2)未焼成の固体電解質に、内面電極原料溶液付着および外面電極原料塗布を行った後、第1焼成のみを行う手順も、形式的にはあり得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス分解素子およびその製造方法によれば、メンテナンス経費を抑制でき、小型かつ軽量で、高い分解効率を有し、かつ振動等の外力、熱応力に対する耐損傷性を持つ、ガス分解素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス分解素子であるNOx分解素子を示す図である。
【図2】図1のガス分解素子のマイクロチューブの横断面を示す図である。
【図3】図1のガス分解素子の電気化学反応を説明するための図である。
【図4】図1のガス分解素子のマイクロチューブの内面側電極のカソードの構造を説明する図である。
【図5】図1のガス分解素子のマイクロチューブの外面側電極のアノードの構造を説明する図である。
【図6】ガス分解素子を筐体内に並列配置したガス分解装置を説明する図である。
【図7】ガス分解素子の製造方法のフローチャートである。
【図8】図1の変形例(本発明例である)のガス分解素子を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2におけるガス分解素子のNOx分解素子を示す図である。
【図10】図9のガス分解素子の電気化学反応を説明する図である。
【図11】本発明の実施の形態3におけるガス分解素子であるアンモニア分解素子を示す図である。
【図12】図11のガス分解素子による電気化学反応を説明するための図である。
【図13】図11のガス分解素子のカソードの構造を説明する図である。
【図14】図11のガス分解素子のアノードの構造を説明する図である。
【図15】本発明の実施の形態4におけるガス分解素子であるアンモニア分解素子を示す図である。
【図16】図15のガス分解素子のマイクロチューブの横断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ガス分解素子の具体的な構造を例示する前に、表1に本発明の実施の形態におけるガス分解素子が適用されるおよその電気化学反応例を示す。このガス分解素子10は、表1に示すように、燃料電池として発電させることもできるし、電気分解装置として電力投入して作動させることもできる。たとえば、NOxの分解の場合は、カソードにNOxを含む第1気体を導入し、アノードに、アンモニア(表1の反応R3)、VOC(反応R7)、または水蒸気(反応R8)を導入する。反応R3の場合は、燃料電池を構成し、電力を利用することができる。また、反応R7およびR8の場合は、電力を投入して電気分解の電気化学反応を生じさせる。どの反応例においても、カソードには酸素原子を含む第1の気体NOxを導入する。
また、アンモニアの分解では、反応R1〜R3、およびR5の反応を生起させる。このアンモニア分解の場合も、燃料電池(反応R1〜R3)を構成するものと、電気分解(R5)を構成するものがある。アンモニア分解のどの反応においても、カソードには酸素原子を含む気体を導入する。本発明のガス分解素子を用いて、表1に例示する反応R1〜R8を起こさせることができるが、さらに、表1に例示するもの以外の反応を生じさせてもよい。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス分解素子であるNOx分解素子10を示す図である。このNOx分解素子10は、らせん状マイクロチューブZの形態をとる。らせん状マイクロチューブZの内面側にNOxを含むガスが導入され、外面側にHOを含む気体が導入される(反応R8)。図2は、マイクロチューブの端部における横断面を示す図であり、マイクロチューブの肉厚Tの全周の一部である。固体電解質1のマイクロチューブ内面側にカソード3が接して位置し、また固体電解質1のマイクロチューブ外面側にアノード2が接している。アノード2には、連続した気孔を有する金属多孔体のアノード集電体8が設けられている。カソード3は、イオン導電性だけでなく電子伝導性も高い材料を含むのが普通なので、集電体はらせん状マイクロチューブZの全長にわたって配置する必要はない。図2に示すワイヤー状カソード集電体7sは、筒の端部に位置している(図3または図4を、図2と合わせて参照)。
アノード2は、表面酸化層を持つ金属粒連鎖体21とイオン導電性のセラミックス(金属酸化物)22とを主構成材とする焼結体であり、NOxが流通できる多孔質体である。また、カソード3は、水蒸気HOが流通できる多孔質体であり、たとえば表面酸化層を持つ金属粒連鎖体31と、イオン導電性のセラミックス32と、銀(Ag)33とを主構成材とする焼結体とすることができる。アノード集電体8は、連続気孔を持つ金属多孔体とする。カソード集電体については、あとで説明する。
固体電解質1は、固体酸化物、固体高分子など、固体でイオン導電性があれば何でもよい。固体電解質1の材料についても、あとで具体的に説明する。
【0020】
図1または図3において、分解対象のNOxは、マイクロチューブの入口Zinから内面側に導入される。このNOxは、酸素イオンをアノード側へと供給することになる。固体電解質1を通ってアノード2に至る酸素イオンと、電気化学反応をする気体は、本実施の形態では、水蒸気の場合(表1の反応R8)を説明するが、VOCなどであってもよい。水蒸気は、図1〜図3に示すように、らせん状マイクロチューブZの外面側を通される。NOxは、カソード3で所定の反応をして、窒素ガスを生成する。この窒素ガスはマイクロチューブ内を通り、出口Zoutから外部に放出される。また、水蒸気は、アノード2で所定の反応をして、水素および酸素を生成し、これら水素および酸素はアノード集電体8が占める流路を通って外部に放出される。
NOx分解素子10の場合、電解質1の酸素イオンの通過時間を短縮し、かつ各電極での電気化学反応速度も確保するために、要は全体の電気化学反応を促進するために、ヒータ等によって、たとえば250℃〜600℃に加熱される。この加熱および冷却において、熱応力が発生する。らせん状マイクロチューブZは変形能が高いので、損傷することなく、熱変形をすることができる。らせん状マイクロチューブの変形能が飛躍的に向上する一例を挙げれば、たとえば、図1に示すらせん状マイクロチューブの入口Zinと出口Zoutとを端として、U字状に変形することができる。これは、らせん状の筒状体の固体電解質1が、U字状に変形可能であることを意味する。通常、ストレート(直線状)の筒状体の固体電解質は、変形能がほとんどなく、少しでも曲げると破損する。上記のように、うねった形状の筒状体の固体電解質とすることで、変形能を飛躍的に向上させることができる。
また、NOx分解をらせん状マイクロチューブZのらせんに沿って行うので、電気化学反応箇所が長く、効率よく小型化をはかることができ、空間の利用効率を向上させることができる。
図3において、カソード反応2NO+4e→N+2O2−、またはNO+2e→N+O2−、およびアノード反応2HO+O2−→2H+2O+2eの電気化学反応には、外部からの電力投入が必要である(電気分解反応)。低電圧の電源で効率よく電力を投入するため、らせん状マイクロチューブZの内面側のカソード3の端部にワイヤー状のカソード集電体7sを配置するのがよい。アノード2の側にはアノード集電体8が配置されているので、それを用いる。所定電圧の電源が必要であるが、長い目でみて、このメンテナンス経費はわずかである。
【0021】
図4は、カソード3を構成する材料の役割を説明するための図である。本実施の形態におけるカソード3は、空隙3hのある多孔体であり、酸化層を有するNi等の金属粒連鎖体31と、Ag粒子33と、酸素イオンを通すセラミックス32とで構成される。この中で、Ag粒子33および酸化層付き金属粒連鎖体31は、カソード反応2NO+4e→N+2O2−、またはNO+2e→N+O2−、を大きく促進させる触媒機能を有する。上記のNi等の金属粒連鎖体31については、CrやAlによる金属部分の合金化や合金層の形成によって、耐高温酸化性能を向上させることもできる。酸素イオン導電性のセラミックス32としては、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSC(ランタンストロンチウムクロマイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)等を挙げることができる。
【0022】
カソード3に含まれる金属粒連鎖体31の金属は、ニッケル(Ni)とするのがよい。Niに鉄(Fe)を少し含むものであってもよい。さらに好ましくはTiを2〜10000ppm程度の微量含むものである。(1)Ni自体、NOxの分解を促進する触媒作用を有する。また、FeやTiを微量含むことでさらに触媒作用を高めることができる。さらに、このNiを酸化させて形成されたニッケル酸化物は、これら金属単味の促進作用をさらに大きく高めることができる。(2)上記の触媒作用に加えて、カソードにおいて、電子を分解反応に参加させている。すなわち、分解を電気化学反応のなかで行う。上記のカソード反応2NO+4e→N+2O2−、および2NO+8e→N+4O2−では、電子の寄与があり、NOxの分解速度を大きく向上させる。(3)カソード反応では、電子eが反応に関与する。電子eがカソードに導電されないと、カソード反応の進行は、妨げられる。金属粒連鎖体31は、ひも状に細長く、酸化層31bで被覆された中身31aは良導体の金属(Ni)である。電子eは、ひも状の金属粒連鎖体の長手方向に、スムースに流れる。このため、電子eがカソード3に導電しないことはなく、金属粒連鎖体21の中身31aを通って、流れ込む。金属粒連鎖体31により、電子eの通りが、非常に良くなる。
【0023】
図5は、アノード2を構成する材料の役割を説明するための図である。アノード2は、表面酸化されて酸化層を有するNi粒連鎖体21と、酸素イオン導電性のセラミックス22とを主成分とする焼結体である。酸素イオン導電性のセラミックス22としては、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンストロンチウムガリウムマンガナイト(ランタンガレート))、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いることができる。
アノード2における金属粒連鎖体21についても、カソード3内のものと同じことがいえる。金属粒連鎖体21の金属はNiとするのがよく、Niに鉄(Fe)を少し含むものであってもよい。さらに好ましくはTiを2〜10000ppm程度の微量含むものである。上述のようにアノード2内の表面酸化層付きNi粒連鎖体21も、カソード3内の金属粒連鎖体31と同様に、電気化学反応の促進作用を有する。上記のカソード3中のNi粒連鎖体31の作用(1)〜(3)は、気体をNOxから水蒸気に置き換えて、そのまま、アノード2中のNi粒連鎖体21についても言えることである。アノード2中のイオン導電性セラミックス22は、電子伝導度がカソード3中のセラミックス32より低いので、Ni粒連鎖体の作用はより有用である。
アノード集電体8には、連続する気孔を有する金属多孔体を用いるのがよく、たとえば連続気孔化処理を施した樹脂に金属めっき層を形成して、その金属めっき体を用いるのがよい。そのような金属多孔体として、住友電気工業(株)製のセルメット(登録商標)を用いることができる。
また、固体電解質1としては、SSZ、YSZ、SDC、LSGMなどを用いるのがよい。
【0024】
本実施の形態では、NOx分解素子10は、上述のように、らせん状マイクロチューブZの形態をとる点に特徴を有する。NOxを電気化学反応で分解するとき、上述のように、450℃〜600℃に加熱される。このため運転と休止の熱サイクルにより熱応力が繰り返し発生する。薄片の積層体である平板状MEAでは、固体電解質1はセラミックスなので、熱応力や振動によって損傷を受けやすい。しかし、本実施の形態のように、らせん状マイクロチューブの(カソード3/固体電解質1/アノード2)では、変形能が高いので、破損することなく、適切な支持をすれば熱変形をすることができる。この結果、損傷を防止することができる。また、NOx分解を、らせん状マイクロチューブのらせんに沿って行うので、電気化学反応箇所が長く、効率よく小型化をはかることができ、空間の利用効率を向上させることができる。
【0025】
分解対象のガスはNOxとし、このNOxが酸素イオンを供給する。アノード2で酸素イオンと反応する気体は、上述のように、水蒸気としているが、表1に示すように、アンモニア、VOC(CHなど)、および水蒸気のどれであってもよい。それに応じて、電気分解(電力投入)または燃料電池(発電)の電気化学反応を生起する。水蒸気(HO)は取り扱いが容易で、経済的であるので、とくにR3の電気化学反応に限定して、以下に説明をする。
【0026】
図6は、複数のガス分解素子(NOx分解素子)を組み込んだNOx分解装置50を示す図である。このような、NOx分解装置50は、たとえばディーゼルエンジン車の排気系に組み込まれて使用される。排気管51は、アダプター52によって、ガス分解素子の入口Zinが露出する筐体59の端面55に連結される。排気管51は、入口Zinにのみ連通しており、筐体の端面55によって閉じられている。NOxは、したがって、図示しない個々のらせん状マイクロチューブの中を通ってゆく。水蒸気(HO)または外面側気体は、水蒸気管(外面側気体管)56から、外面側配分ジャケット53および筐体の側部入口Kinを経て、筐体59内に導入される。この水蒸気は、筐体内ではあるが、らせん状マイクロチューブの外面側を通される。このような、NOx分解装置50により、複数のらせん状マイクロチューブが並列配置されることになり、多量の排気を処理することができる。なおガス分解素子を、複数、並列配置した、図6に示すようなガス分解装置は、このあと説明するすべてのガス分解素子についても可能である。
【0027】
個々のらせん状マイクロチューブにおいて、アノード2に導入された水蒸気は、2HO+O2−→2O+2H+2eの反応(アノード反応)をする。反応後の流体であるO+Hはアノードから放出される。また、カソード3に導入されたNOxは、2NO+4e→N+2O2−、および2NO+8e→N+4O2−の反応(カソード反応)をする。酸素イオンは、カソード3中の酸素イオン導電性セラミックス32から固体電解質1を通って、アノード2に到達する。アノード2に到達した酸素イオンは、水蒸気と上記反応をして、水蒸気は分解される。またカソードで分解されたNOxは、窒素ガスとなって、カソード3かららせん状マイクロチューブを経て出口Zoutから放出される。アノード2で生成した電子eは、電源を経てカソード集電体7sおよびカソード3へと流れる。上記の反応では、カソード3の電位がアノード2よりも高くないと、電気化学反応が進行しないが、反応R8では逆の電位関係になっているので、外部から電位をかける必要がある。
【0028】
従来例にあるように、温度を上げて、触媒に分解対象ガスを接触させるだけで、その分解対象ガスの分解は進行する。それは先行文献に開示されており、上記したように周知である。しかし、上記のように、気体分子の分解に電気化学反応を用いて、当該分解対象の気体分子を一方の電極に導入し、当該分解の電気化学反応に寄与する気体を他方の電極に導入し、電子と酸素イオンとを用いて、分解の顕著な促進をはかった例は、ほとんど知られていない。
【0029】
次に、図7により、らせん状マイクロチューブの形状を持つガス分解素子10の製造方法について説明する。図7には、固体電解質1、アノード2、およびカソード3ごとに、焼成を行う工程を示す。まず、固体電解質を焼成する前の混練状態(生状態)において、らせん状筒状体を形成する。このらせん状筒状体は、らせん軸線に対してスキュー配置の筒状体形成ノズルを用い、そのスキュー配置の筒状体形成ノズルから混練状態の固体電解質のセラミックス原料を押し出すことで、得ることができる。スキュー配置の筒状体形成ノズルは、押し出し時に、そのノズル自体が同じスキュー角度を保ちながら旋回運動をするのがよい。次いで、固体電解質1にとって適切な焼成温度・時間で焼成を行う。この場合、試行錯誤的に、このあと加えられるアノードおよびカソード焼成加熱の条件を考慮して行うのがよい。次いで、内面側電極を形成する場合は、所定の流動性を持つように電極構成材料を溶媒に溶かした溶液を調整して、らせん状筒状体に注入して、らせん状筒状体を回転などして、内面に均等に溶液が付着するようにする。次いで、内面側電極の適切な焼成条件で焼成する。このあと外面側電極の形成に移る。この手順は、上述の(S1)の手順である。上記したように、焼成の手順には図7に示す製造方法の他に、多くのバリエーションがある。焼成回数を1回ですます場合で、図7に示すように、各部分ごとに焼成を行うのではなく、混練状態のまま、各部分を形成して、最後に、各部分の最大公約数的な条件で焼成を1回行う場合も否定できない。これは上述の(S2)の手順である。この他、固体電解質のみ焼成する場合など多くのバリエーションがあり、各部分を構成する材料と、目標とする分解効率と、製造経費等を総合的に考えて製造条件を決めることができる。
【0030】
次に、上記のNOx分解素子10の電極等の各部分の製造方法について説明する。
1.カソードおよびアノードの金属粒連鎖体21,31
金属粒連鎖体21,31は、還元析出法によって製造するのがよい。この金属粒連鎖体21,31の還元析出法については、特開2004−332047号公報などに詳述されている。ここで紹介されている還元析出法は、還元剤として3価チタン(Ti)イオンを用いる方法であり、析出する金属粒(Ni粒など)は微量のTiを含む。このため、Ti含有量を定量分析することで、3価チタンイオンによる還元析出法で製造されたものと特定することができる。3価チタンイオンとともに存在する金属イオンを変えることで、所望の金属の粒を得ることができる。Niの場合はNiイオンを共存させる。Feイオンを微量加えると、微量Feを含むNi粒連鎖体が形成される。
また、連鎖体を形成するには、金属が強磁性金属であり、かつ所定のサイズ以上であることを要する。NiもFeも強磁性金属なので、金属粒連鎖体を容易に形成することができる。サイズについての要件は、強磁性金属が磁区を形成して、相互に磁力で結合し、その結合状態のまま金属の析出→金属層の成長が生じて、金属体として全体が一体になる過程で、必要である。所定サイズ以上の金属粒が磁力で結合した後も、金属の析出は続き、たとえば結合した金属粒の境界のネックは、金属粒の他の部分とともに、太く成長する。アノード2またはカソード3に含まれる金属粒連鎖体21,31の平均直径Dは5nm以上、500nm以下の範囲とするのがよい。また、平均長さLは0.5μm以上、1000μm以下の範囲とするのがよい。また、上記平均長さLと平均径Dとの比は3以上とするのがよい。ただし、これら範囲外の寸法を持つものであってもよい。
【0031】
2.表面酸化
アノード2内のNi粒連鎖体21、およびカソード3内のNi粒連鎖体31は、いずれも、電気化学反応を促進する触媒作用を高めるために、表面酸化されるのがよい。
表面酸化処理は、(i)気相法による熱処理酸化、(ii)電解酸化、(iii)化学酸化の3種類が好適な手法である。(i)では大気中で500〜700℃にて1〜30分処理するのがよい。最も簡便な方法であるが、酸化膜厚の制御が難しい。(ii)では標準水素電極基準で3V程度に電位を印加し、陽極酸化することにより表面酸化を行うが、表面積に応じ電気量により酸化膜厚を制御できる特徴がある。しかし、大面積化した場合、均一に酸化膜をつけることは難しい手法である。(iii)では硝酸などの酸化剤を溶解した溶液に1〜5分程度浸漬することで表面酸化する。酸化膜厚は時間と温度、酸化剤の種類でコントロールできるが薬品の洗浄が手間となる。いずれの手法も好適であるが、(i)または(iii)がより好ましい。
望ましい酸化層の厚みは、1nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜50nmの範囲とする。ただし、この範囲外であってもかまわない。酸化皮膜が薄すぎると触媒機能が不十分となる。また、わずかな還元雰囲気でもメタライズされてしまう恐れがある。逆に酸化皮膜が厚すぎると触媒性は充分保たれるが、反面、界面での電子伝導性が損なわれ、発電性能が低下する。
【0032】
3.焼成
アノード2またはカソード3に含まれるSSZまたはLSMの原料粉末の平均径は0.5μm〜50μm程度とする。表面酸化された金属粒連鎖体21,31と、SSZ22,LSM32との配合比は、mol比で0.1〜10の範囲とする。アノードまたはカソードの原料となる溶液における溶媒には、各種の揮発性有機溶媒を用いることができ、有機溶媒の割合を増やすことで、流動性を高めることができる。
焼成方法は、たとえば大気雰囲気中で、温度1000℃〜1600℃の範囲に、
30分〜180分間保持することで行う。上述のように、アノード2と、カソード3とを同一機会に、同一条件で焼成してもよいし、固体電解質1とともに、同一機会、同一条件で焼成してもよい。
カソード3は、酸化層付き金属粒連鎖体31、LSM、Ag粒子33等の焼結体で構成される。Ag粒子の平均径は、10nm〜100nmとするのがよい。銀と、LSMとの配合比は、0.01〜10程度とするのがよい。
連鎖状金属粉末の表面酸化の時期は、上記の焼成の前でもよいし後でもよい。
【0033】
(実施の形態1の変形例)
図8は、実施の形態1の変形例(本発明例である)のガス分解素子を示す図であり、図1のガス分解素子に対応するものである。図1のガス分解素子10は、らせん状マイクロチューブであったが、図8ではサーペンタイン状または湾曲折り返し付きマイクロチューブZである。サーペンタイン状マイクロチューブZは、マイクロチューブの押し出し時に、ノズル自体を往復運動させるか、またはノズルの角度を振ることで、得ることができる。
中心となる固体電解質1の内面側にカソード3が、また外面側にアノード2が配置されている。すなわち、図1〜図7に示したガス分解素子10における、らせん状マイクロチューブからサーペンタイン状マイクロチューブに変わるだけである。カソード、アノード、固体電解質の材料、作用効果など、らせん状の場合と同じである。サーペンタイン状であることで、変形能が高いので、損傷することなく、適切な支持をすることで熱変形をすることができる。この結果、損傷を防止することができる。また、NOx分解をサーペンタイン状マイクロチューブのらせんに沿って行うので、電気化学反応箇所が長く、効率よく小型化をはかることができ、空間の利用効率を向上させることができる。
【0034】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2におけるガス分解素子のNOx分解素子10を示す図である。本実施の形態では、電気化学反応は、表1の例えばR8である。しかし、図1の構成と異なり、らせん状マイクロチューブの内面側にアノード2が、また外面側にカソード3が配置されている。このため、分解対象のNOxを、らせん状マイクロチューブの外面側に流し、入口Zinから水蒸気(HO)を内面側に導入する。電気化学反応R7、またはR3の場合には、NOxをマイクロチューブの外面側を通す点では同じであるが、入口Zinからは、VOC(R7)またはアンモニア(R3)を導入する。
【0035】
実施の形態1における、アノード反応およびカソード反応は同じである。しかし、本実施の形態では、内面側と外面側とが、実施の形態1とは逆になるので、酸素イオンは、図10に示すように、外面側から内面側へと固体電解質1を移動する。
集電体については少し変更する必要がある。マイクロチューブの外面側にはスペースの余裕があるので、金属多孔体からなるカソード集電体7を配置するのがよい。しかし、アノード集電体は、マイクロチューブの内面側になるので、スペースの余裕がなく、また圧力損失が増えるので、金属多孔体を配置することは得策ではない。図10に示すようにらせん状マイクロチューブに沿って、複数本の極細導電ワイヤー8kを配置して、アノード集電体とするのがよい。
上記の集電体の形態を除いて、実施の形態2のガス分解素子の、カソード3、アノード2および固体電解質1の材料、作用効果は、実施の形態1と同じである。
【0036】
(実施の形態3)
図11は、本発明の実施の形態3におけるガス分解素子であるアンモニア分解素子10を示す図である。このアンモニア分解素子10では、このアンモニア分解素子10は、実施の形態1と同様に、らせん状マイクロチューブZの形態をとる。らせん状マイクロチューブZの入口Zinから内面側にアンモニアを含むガスが導入され、外面側に酸素原子を含む気体、たとえば空気が導入される(表1の反応R1)。表1に示すように、空気の代わりに水蒸気(反応R2)であってもよい。以後の説明は空気の場合について行う。アンモニア分解後のガスおよび未反応のアンモニア(ppm以下に除害される)は、らせん状マイクロチューブZの出口Zoutから排出される。また、空気はアンモニア分解素子10が収納される筐体(図示せず)内に導入され、らせん状マイクロチューブZの外面に接触してカソード反応した後、残余の気体はそのまま筐体外へと放出される。
【0037】
図12は、マイクロチューブの横断面図である。固体電解質1のマイクロチューブ外面側にカソード3が接して位置し、また固体電解質1のマイクロチューブ内面側にアノード2が接している。カソード3には、連続した気孔を有する金属多孔体のカソード集電体7が設けられている。アノード2は、マイクロチューブの内面側に位置するが、電子伝導性はそれほど高くないので、集電体を配置するのがよい。マイクロチューブの内面側という狭隘なスペースおよび圧力損失を考慮すると、金属多孔体よりは、図12に示す極細導電ワイヤー8kをアノード2内に埋め込むのがよい。極細導電ワイヤー8kは、マイクロチューブの延在方向に沿って、断面円周にほぼ均等に、複数本、配置されるのがよい。
【0038】
固体電解質1、アノード2およびカソード3の材料構成は、実施の形態1と同じであるが、次の点で、NOx分解素子と相違する。
(1)アンモニアの分解反応の効率を、実用上、有意義にするために、加熱温度は、たとえば600℃〜950℃とする。したがって、NOxの分解の加熱温度250℃〜600℃よりも高くする。
(2)NOx分解素子の場合、カソード3には、表面酸化層を持つ金属粒連鎖体31と、イオン導電性のセラミックス(たとえばLSM)32と、銀粒子33とで構成された。しかし、もともとカソード3中のLSM等は電子伝導性も高いので、金属粒連鎖体31による電子導電性向上作用、およびその表面酸化層の触媒作用はそれほど必要ではない。銀粒子33では、電子伝導性および触媒作用が両方共に、非常に高いということもある。勿論、表面酸化層付き金属粒連鎖体を含めてもよい。しかし、除いても大きな効率低下は生じない。このため、カソード3の材料構成を簡単化できる。
(3)また、NOx分解とアンモニア分解とに共通するが、注意すべき点は次のとおりである。(i)アノード2をマイクロチューブの内面側に配置した場合の極細導電ワイヤー8kについては、アンモニア分解でも同じである(図10参照)。(ii)また、図12に示すように、外部電源を要するか、または燃料電池として使用できるかは、分解対象ガス成分だけでなく、相手方の気体との組み合わせで決まる(表1参照)。
【0039】
アノード2に導入されたアンモニアは、2NH+3O2−→N+3HO+6eの反応(アノード反応)をする。反応後の流体であるN+3HOはアノード2からマイクロチューブ内面側に出て出口Zoutから放出される。また、カソード3に導入された空気中のOは、O+2e→2O2−の反応(カソード反応)をする。カソード3の構成を図13に示す。上述のように、表面酸化層をもつ金属粒連鎖体はなく、LSMなどのイオン導電性のセラミックス32と、銀粒子33とで形成される。カソード3で生成した酸素イオンは、カソード3中の酸素イオン導電性セラミックス32から固体電解質1を通って、アノード2に到達する。
アノード2に到達した酸素イオンは、アンモニアと上記反応をして、アンモニアは分解される。図14にアノード2の構成を示す。アノード2は、表面酸化層21bをもつ金属粒連鎖体21と、イオン導電性のセラミックス22とで構成される。アノード2で生成した電子eは、負荷を経てカソード集電体7およびカソード3へと流れる。
上記の反応では、カソード3の電位が、アノード2よりも高くないと、電気化学反応が進行しないが、外部から電位を印可しなくても、この電位条件は満たされ、このアンモニア分解素子10は燃料電池として発電をする。
【0040】
本実施の形態では、アンモニア分解素子10は、らせん状マイクロチューブZの形態をとる点に特徴を有する。アンモニアを電気化学反応で分解するとき、上述のように、600℃〜950℃に加熱される。このため運転と休止の熱サイクルにより、NOxの分解のときよりも大きな熱応力が繰り返し発生する。薄板を積層した平板状のMEAでは、このような熱応力によって損傷しやすい。しかし、本実施の形態のように、らせん状マイクロチューブの(アノード2/固体電解質1/カソード3)では、変形能が高いので、損傷することなく、適切な支持をすれば熱変形をすることができる。この結果、損傷を防止することができる。また、アンモニア分解をらせん状マイクロチューブのらせんに沿って行うので、電気化学反応箇所が長く、効率よく小型化をはかることができ、空間の利用効率を向上させることができる。とくに、ppmオーダーまで除害する除害装置では、有益である。
【0041】
(実施の形態4)
図15は、本発明の実施の形態4におけるガス分解素子のアンモニア分解素子10を示す図である。また、図16は、らせん状マイクロチューブZの横断面を示す図である。同じアンモニア分解素子であっても、図11の実施の形態3の構成と異なり、らせん状マイクロチューブZの外面側にアノード2が、また内面側にカソード3が配置されている。このため、分解対象のアンモニアを、らせん状マイクロチューブZの外面側に流し、入口Zinから空気(反応R1)または酸素原子を含む気体(反応R2、R3,R5)を導入する。
【0042】
アノード反応およびカソード反応は、実施の形態3におけるものと同じである。しかし、本実施の形態では、内面側と外面側とが、実施の形態3とは逆になるので、酸素イオンは、図16に示すように、内面側から外面側へと固体電解質1を移動する。
内面側は、カソード3が配置されるので、カソード集電体はらせん状マイクロチューブの延在方向に沿って長く配置する必要はなく、図3に示すように、端部にのみ集電体7sを配置すればよい。スペースの余裕がなく、また圧力損失が増えるので、金属多孔体を配置することは得策ではない。
マイクロチューブZの外面側にはスペースの余裕があるので、金属多孔体からなるアノード集電体8を配置するのがよい。金属多孔体8は、集電性能の向上、および外面側を通るアンモニアの流れを乱流化することで、アノード2への接触を確実化して、アノード反応を促進させることができる。
【0043】
アンモニアをらせん状マイクロチューブZの外面側に流す場合、図6に示すようなガス分解装置50を用いて、排気管51およびアダプター52に、空気を流し、空気または酸素ガスは、管56から、配分ジャケット53および筐体の側部入口Kinを経て、筐体59内に導入するのがよい。この空気または酸素ガスは、筐体内ではあるが、らせん状マイクロチューブZの外面側を通される。このような、アンモニア分解装置50により、複数のらせん状マイクロチューブZが並列配置されることになり、多量の排気を処理することができる。
個々のらせん状マイクロチューブのアンモニア分解素子の効用については、上述の実施の形態3における説明がそのまま適用される。
【0044】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のガス分解素子によれば、大掛かりな装置を用いずに、メンテナンス経費を抑制でき、小型かつ軽量で、高い分解効率を有し、かつ振動等の外力や熱応力に対する耐損傷性を持つことができる。
【符号の説明】
【0046】
1 固体電解質、2 アノード、3 カソード、3h 空隙、7 カソード集電体、7s 端部のワイヤー状カソード集電体、8 アノード集電体、8k 極細導電ワイヤー、10 ガス分解素子、21 金属粒連鎖体、21a 金属粒連鎖体の芯部(金属部)、21b 酸化層、22 アノードのイオン導電性セラミックス(SSZなど)、31 金属粒連鎖体、31a 金属粒連鎖体の芯部(金属部)、31b 酸化層、32 カソードのイオン導電性セラミックス(LSMなど)、33 銀粒子、50 ガス分解装置、51 排気管、52 アダプター、53 配分ジャケット、55 筐体の端面、56 水蒸気管(外面側気体管)、59 ガス分解装置の筐体、Kin 筐体側部入口(外面側気体入口)、Z マイクロチューブ、Zin マイクロチューブ入口、Zout マイクロチューブ出口、T マイクロチューブの肉厚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分を分解するための素子であって、
肉厚0.05mm以上1.0mm以下で外径10mm以下の筒状体の、イオン導電性を有する固体電解質と、
前記固体電解質の筒状体の内面に接して位置する第1の電極と、
前記固体電解質の筒状体の外面に接して位置する第2の電極とを備え、
前記第1の電極/固体電解質/第2の電極によって形成されるマイクロチューブがうねっていることを特徴とする、ガス分解素子。
【請求項2】
前記うねっているマイクロチューブの形態が、らせん状、ジグザグ状、または縒り線状であることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解素子。
【請求項3】
前記第1の電極の集電体となる導電ワイヤーが、前記マイクロチューブの内面側に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のガス分解素子。
【請求項4】
前記第2の電極の集電体となる、連続する気孔を有する金属多孔体が、前記マイクロチューブの外面側に配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項5】
前記ガス成分が、NOxまたはアンモニアであって、前記マイクロチューブの内面側に通されるか、または外面側に通されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項6】
第1の電極および第2の電極を備え、ガス成分を電気化学反応により分解するための素子の製造方法であって、
固体電解質焼成後の、または固体電解質焼成前の、うねった形状の筒状体の固体電解質を準備する工程と、
前記固体電解質焼成後、または固体電解質焼成前の筒状体の内面側に、前記第1の電極を形成するための溶液を導入して当該筒状体の内面に第1の電極の溶液を付着させる内面付着工程と、
前記筒状体の内面に前記第1の溶液が付着された状態で、該筒状体を加熱して焼成する第1の焼成工程とを備えることを特徴とする、ガス分解素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の焼成工程の前、または後で、前記筒状体の外面に前記第2の電極を形成するための溶液を付着させる外面付着工程を備え、前記第1の焼成工程の前、もしくは後に、前記外面付着状態の筒状体を加熱して焼成する第2焼成工程を備えるか、または、前記第1の焼成工程において、前記外面付着状態の筒状体を加熱して焼成することを特徴とする、請求項6に記載のガス分解素子の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−214240(P2010−214240A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61133(P2009−61133)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】