説明

ガス分離膜装置の運転休止方法

【課題】 供給する混合ガスが水分を含んでいる場合、ガス分離膜装置の休止中に装置内に残留する水分が分離膜表面に吸着又は結露等をして膜性能を一時的に低下させるという問題が生じないように、ガス分離膜装置の運転を停止するときに、装置内の残留水分をパージする機能を有する簡便で、小型で、経済的で、運転が容易なガス分離膜装置および前記ガス分離膜装置の運転休止方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも1個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成され、前記ガス分離膜モジュールへの混合ガスの供給を停止する時に、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能を有するように構成されたガス分離膜装置および前記ガス分離膜装置の運転休止方法によって、運転再開時に膜性能の低下なしにガス分離膜装置を再稼動することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜装置とガス分離膜装置の運転休止方法に関する。特に、供給する混合ガスが水分を含んでいる場合に、運転休止中にガス分離膜装置内に残留する水分が膜表面に吸着や結露して運転再開時に膜性能が一時的に低下することを防止する機能を有するガス分離膜装置と前記ガス分離膜装置の運転休止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選択的ガス透過膜を用いたガス分離膜装置は、空気の除湿、空気からの富化窒素や富化酸素の製造、無機ガスや有機ガスなどの分離、回収、精製など多くの分野で用いられている。ガス分離膜装置は、通常は中空糸膜を用いて小型化しており、高効率で、経済的で、運転操作が簡便であり、且つ、必要に応じて運転したり運転を停止したりすることが容易であるので、目的のガスをオンサイトで製造、分離、回収、精製などして、そのガスを使用する装置などに直接供給するように接続して用いられることが多い。
【0003】
ガス分離膜装置で目的のガスを製造、分離、回収、精製する場合、運転開始の直後から所定の膜性能により、目的の純度や流量のガスが得られることが望まれる。ガス分離膜装置とガスを使用する装置とを接続して運転をする場合、ガスを使用する装置の運転、休止に伴ってガス分離膜装置の運転、休止をおこなうので、運転休止後の再稼動直後から目的の純度や流量のガスが得られることが特に重要である。しかしながら、ガス分離膜装置を一定期間運転休止し再稼動する場合、始動後すぐには所定の膜性能は得られず、また、所定の膜性能を回復するまでに無駄な運転を強いられるという問題が発生していた。特に、供給する混合ガスが水分を含んでいる場合、ガス分離膜装置の運転を休止すると、装置内に残留した水分が温度変化などによって膜表面に吸着又は結露して、膜性能を一時的に低下させるという問題があった。
【0004】
ガス分離膜では、膜に対するガスの透過性の差異(選択的透過性)によって分離がおこなわれる。即ち、ガスが膜を透過する透過速度がガスによって異なっていることからガスが分離される。殆どすべてのガス分離膜において水分は最も透過速度が速い。このために、ガスから水分を除去(除湿)する場合はもちろんのこと、水分以外の2種以上の混合ガスを膜で分離する場合にも、供給する混合ガス中に水分が含まれていれば、膜を透過し易いガス成分と同時に水分も膜を透過して、ガス分離膜モジュールの透過側の空間は相対的に高湿度の状態になる。例えば、空気から富化酸素あるいは富化窒素を製造する場合、水分と酸素が膜を透過し易いガス成分であり、窒素は膜を透過し難いガス成分である。従って、膜の透過側では濃縮された水分を含む富化酸素が得られ、膜の非透過側では乾燥した窒素が得られる。窒素は膜を透過し難いが、透過速度が相対的に遅いのであって、全く透過しないということはなく、徐々に透過する。
【0005】
ガス分離膜モジュールに供給する混合ガスに水分が含まれていると、前記ガス分離膜モジュール内の透過側の空間には常に濃縮された水分が存在する(言い換えれば、露点が上昇している)。この状態で運転を停止すると、ガス分離膜モジュール内の透過側の空間に残留する濃縮された水分が膜表面に吸着したり、温度変化などによって結露したりする。この結果、ガス分離膜モジュールの運転を再開したときには、前記水分の吸着や結露のためにガス分離膜モジュールの膜性能は水分の吸着や結露がなくなるまで一時的に低下する。予め供給する混合ガスを簡易的に除湿した場合でも、前記のようにガス分離膜モジュール内で水分の濃縮が起こるので、必ずしも前記のような膜性能の低下を防止することはできない。
【0006】
窒素富化装置において、運転休止時に起こる分離膜モジュールの一時的な性能低下を防止し、運転を再始動したときの膜の性能回復までの時間を短縮する方法とその装置に関して、特許文献1において開示されている。この方法は、運転休止期間中は外気と遮断して外気中の汚染物質や水分の影響を排除するものであった。しかしながら、ガス分離膜装置を休止中したときに装置内に残留している水分の影響については言及していない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−24442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、供給する混合ガスが水分を含んでいる場合、ガス分離膜装置の休止中に装置内に残留する水分が分離膜表面に吸着又は結露等をして膜性能を一時的に低下させるという問題が生じないように、ガス分離膜装置の運転を停止するときに、装置内の残留水分をパージする機能を有する簡便で、小型で、経済的で、運転が容易なガス分離膜装置およびガス分離膜装置の運転休止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも1個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成され、
前記ガス分離膜モジュールへの混合ガスの供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能を有するように構成されたことを特徴とするガス分離膜装置および前記ガス分離膜装置の運転休止方法に関する。
更に、複数個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成され、
前記ガス分離膜モジュールのうち少なくとも1個のガス分離膜モジュールを除いて混合ガスの供給を停止し、混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)の非透過ガス排出口から排出される非透過ガスを混合ガスの供給を停止したガス分離膜モジュール(B)内の非透過側の空間へ供給し、前記非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(B)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能と、
前記混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)への混合ガスの供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(A)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能とを有するように構成されたことを特徴とする前記のガス分離膜装置および前記ガス分離膜装置の運転休止方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上説明したようなものであるから、次のような効果を奏する。
本発明のガス分離膜装置および運転休止方法を用いれば、供給する混合ガスが水分を含んでいる場合にガス分離膜装置の休止中に装置内に残留する水分が分離膜表面に吸着又は結露等をして膜性能を一時的に低下させるという問題が生じないようにすることができるので、運転再開直後から膜性能の低下なしにガス分離膜装置を再稼動することが可能である。
また、本発明のガス分離膜装置は、停止時に装置内の残留水分をパージする機能を有する簡便で、小型で、経済的で、運転が容易なガス分離膜装置である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガス分離膜装置に用いられる選択的透過性のガス分離膜は、平膜などでもよいが、厚みが薄く径が小さい中空糸膜が、装置が小型化でき高膜面積になるので分離効率がよく経済的であるので好適である。また、ガス分離膜は、均質性でもよく、複合膜や非対称膜などの不均一性でもよく、また微多孔性でも非多孔性でもよい。前記中空糸膜の膜厚は10〜500μmで外径は50〜2000μmのものを好適に挙げることができる。更に、本発明のガス分離膜は、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、セルロース系ポリマーなどのポリマー材料、ポリマー材料を炭化又は部分炭素化した材料、ゼオライトなどのセラミックス材料などで形成されるガス分離膜を好適に挙げることができる。特に、非対称ポリイミドガス分離膜は、ガス分離性能が高いのみならず、耐熱性、耐久性、耐溶剤性などの特性が優れているので好ましいものである。
【0012】
本発明のガス分離膜装置は、単数個又は複数個のガス分離膜モジュールを備える。前記ガス分離膜モジュールは、通常前記中空糸膜の多数本(例えば、数百本から数十万本)を集束して中空糸束とし、その中空糸束の少なくとも一方の端部をエポキシ樹脂のような硬化性樹脂やホットメルト型熱可塑性樹脂などで前記端部において中空糸膜が開口状態となるように固着して中空糸分離膜エレメントを構成し、更に、単数個又は複数個の前記中空糸エレメントを、少なくとも混合ガス供給口、透過ガス排出口、及び、非透過ガス排出口を有する容器内に、中空糸の内側へ通じる空間と中空糸の外側へ通じる空間が隔絶するように装着されて構成されている。容器はステンレスなどの金属材料、プラスチック材料、繊維強化プラスチック材料などの複合材料で製造される。
【0013】
本発明のガス分離膜装置に用いられるガス分離膜モジュールの形態は特に限定はなく通常用いられているものでよい。中空糸束の配糸形態は、平行配列でも交叉配列でも織物状でもスパイラル状などでも構わない。また、中空糸束は略中心部に芯管を備えていてもよく、中空糸束の外周部にフィルムが巻き付けられていても構わない。更に、中空糸束の形態は円柱状、平板状、角柱状などでよく、容器内に前記形態のまま、又は、U字状に折り曲げたり、スパイラル状に巻き付けて収納されていてもよい。
【0014】
また、本発明のガス分離膜モジュールは中空フィードタイプでもシェルフィードタイプでもよく、キャリアガスを用いるタイプでもキャリアガスを用いないタイプでも構わない。キャリアガスを用いるタイプでは、容器にキャリアガス導入口が配置されたり、中空糸束の芯管としてキャリアーガス導入管が配置される。
【0015】
本発明のガス分離膜モジュールについて、概略図を用いて更に説明する。尚、この概略図は説明のために簡略化して示したものである。本発明のガス分離膜モジュールはこの図によって限定されるものではない。尚、図中の矢印は通常運転中のガスの流れる方向を示す。
中空フィードタイプのガス分離膜モジュールの一例の縦断面概略図を図1に示す。ガス混合物は、混合ガス供給口1からモジュールの容器2内へ供給される。供給された混合ガスは中空糸膜6の内側の空間を膜表面に接しながら流れて非透過ガス排出口3から排出される。混合ガスが中空糸膜6の内側の空間を流れる間に、混合ガスのうち膜を透過し易いガス成分は中空糸膜6の外側へ透過し、中空糸膜6の外側の空間を流れて透過ガス排出口4から排出される。混合ガス供給口1から中空糸膜6の内側および非透過ガス排出口3とからなる非透過側の空間と、中空糸膜6の外側と透過ガス排出口4とからなる透過側の空間は、管板5によって隔絶されている。
【0016】
シェルフィードタイプのガス分離膜モジュールの一例の縦断面概略図を図2に示す。この場合には、中空糸膜6の外側の空間へ通じるように混合ガス供給口1、非透過ガス排出口3が備えられ、中空糸膜6が開口している管板5の外側の空間に通じて透過ガス排出口4が備えられる。供給された混合ガスは、中空糸膜6の外側の空間を膜表面に接しながら流れ、非透過ガス排出口3から排出される。混合ガスが中空糸膜6の外側の空間を流れる間に、混合ガスのうち膜を透過し易いガス成分は中空糸膜6の内側へ透過し、中空糸膜6の内側の空間を流れて透過ガス排出口4から排出される。混合ガス供給口1から中空糸膜6の外側および非透過ガス排出口3とからなる非透過側の空間と、中空糸膜6の内側と透過ガス排出口4とからなる透過側の空間は、管板5によって隔絶されている。
【0017】
本発明のガス分離膜装置は、ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された非透過ガス貯蔵装置を有する。非透過ガス貯蔵装置は、ガス分離膜モジュール内の空間の水分をパージするために充分なガス量を貯蔵することができれば、形状や形態はどのようなものでも構わない。通常の金属製のガスタンクが好適に用いられる。また、非透過ガス貯蔵装置は、ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口から例えばガスを使用する装置へ通じる(又はモジュール外へ放出する)導管の途中に直列に組み入れて接続してもよく、あるいは、前記導管から別の導管を分岐させて接続してもよい。
【0018】
次に、本発明のガス分離膜装置の特徴を構成するガス分離膜モジュール内の水分をパージする機能及びガス分離膜装置の運転休止方法について図3、図4、図5によって説明する。図3、図4は1個のガス分離膜モジュールと1個の非透過ガス貯蔵装置とから、図5は3個のガス分離膜モジュールと1個の非透過ガス貯蔵装置とから構成された例を示している。尚、図中の矢印は通常運転中のガスの流れる方向を示す。また、これらの説明図は本発明の特徴に関係するガス分離膜モジュールと非透過ガス貯蔵装置のみを示しており、他の構成部分は示していない。これらの説明図によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
図3、図4において、ガス分離膜モジュール12の運転中は、バルブ8から混合ガスが供給され、非透過ガスはバルブ10、バルブ11を通って排出される。非透過ガス貯蔵装置(タンク)7内には運転中に非透過ガスが貯蔵されている。この貯蔵された非透過ガスは、ガス分離膜モジュール12を流れる間に水分が透過側へ透過して乾燥されており、且つ、供給される混合ガスの圧力(透過側に比較してより高圧)を保持している。
運転の休止に際し、まず混合ガスを供給するバルブ8、バルブ11を止める。バルブ11が逆止弁の場合はそのままでよい。そうすると、バルブ8からガス分離膜モジュール12の非透過側の空間と非透過ガス貯蔵装置(タンク)7内とバルブ11まではひとつの空間として隔絶され且つ膜の透過側に比べてより高圧のガスが残留する。バルブ8からガス分離膜モジュールに供給された直後の混合ガスには未透過の水分が少量残留しているが、前記ガスの大部分は既に前記ガス分離膜モジュール12によって乾燥されたガスである。一方、前記ガス分離膜モジュール12の透過側の空間は、膜を透過し易いガス成分と水分が相対的に高濃度で存在する。また、前記透過側の空間は非透過側よりも低圧であり且つバルブ9によってガス分離膜モジュール外へ連通した状態になっている。このため、非透過側の隔絶された空間に残留する少量の水分は当然膜を透過するが、更に、膜を透過し難い成分(徐々には透過可能である)が圧力差によって膜を徐々に透過して、透過側の高濃度の水分をバルブ9を通じてガス分離膜モジュール外へ押し出す。この機能は、非透過側の空間が透過側よりも高圧の状態である間は継続する。このようにして、ガス分離膜モジュール12の非透過側及び透過側の空間の水分がパージされる。充分なパージがおこなわれた後で、必要に応じて、バルブ9やバルブ10は閉じることができる。
【0020】
図5において、ガス分離膜モジュール12、13、14の運転中は、バルブ16、17からガス混合物が前記ガス分離膜モジュールへ供給される。バルブ18、19、20,21、23、24は開に、バルブ22は閉になっており、非透過ガスは各ガス分離膜モジュールの非透過側を流れ非透過ガス貯蔵装置(タンク)15及びバルブ24を経由して排出される。非透過ガス貯蔵装置(タンク)15内には運転中に非透過ガスが貯蔵されている。この貯蔵された非透過ガスは、ガス分離膜モジュール12〜14を流れる間に水分が透過側へ透過して乾燥されており、且つ、供給される混合ガスの圧力(透過側に比較してより高圧)を保持している。
運転の休止に際し、まず、混合ガスを供給するバルブ16、及び、バルブ21、バルブ23、バルブ24を閉に、バルブ22を開にする。バルブ24が逆止弁の場合はそのままでよい。そうすると、ガス分離膜モジュール12、13への混合ガス供給は停止され、ガス分離膜モジュール14への混合ガスの供給は継続される。混合ガスの供給が継続されたガス分離膜モジュール14から排出された非透過ガスはバルブ22を通って混合ガスの供給が停止されたガス分離膜モジュールの非透過側へ供給される。前記供給される非透過ガスは既にガス分離膜モジュール14を通過するときに水分が膜を透過して乾燥したものである。ガス分離膜モジュール12、13の非透過側の空間には、バルブ16からガス分離膜モジュールへ供給された直後の混合ガスがあり未透過の水分が少量残留しているが、新たに供給されるガス分離膜モジュール14の非透過ガスによって大部分は乾燥されたガスになる。一方、ガス分離膜モジュール12、13の透過側の空間は、膜を透過し易いガス成分と水分が相対的に高濃度で存在する。また、前記透過側の空間は、非透過側よりも低圧であり、且つ、バルブ18、19によってガス分離膜モジュールの外へ連通した状態になっている。このため、ガス分離膜モジュール12,13の非透過側に残留する少量の水分は当然膜を透過するが、更に、膜を透過し難い成分(徐々には透過可能である)が圧力差によって膜を徐々に透過して、透過側の高濃度の水分をバルブ18、19を通じてガス分離膜モジュール外へ押し出す。このようにして、ガス分離膜モジュール12、13の非透過側及び透過側の空間の水分がパージされる。充分なパージがおこなわれた後で、必要に応じて、バルブ18、19を閉じることができる。
【0021】
次いで、バルブ17を閉にしてガス分離膜モジュール14への混合ガスの供給を停止し、バルブ22を閉にし、バルブ23を開にする。そうすると、バルブ17からガス分離膜モジュール14の非透過側とバルブ23を経由して非透過ガス貯蔵装置(タンク)15内とバルブ24まではひとつの空間として隔絶され、且つ、ガス分離膜モジュール14の透過側に比べて高圧の乾燥されたガスが残留している。バルブ17からガス分離膜モジュール14に供給された直後の混合ガスには未透過の水分が少量残留しているが、前記ガスの大部分は既にガス分離膜モジュールによって乾燥されたガスである。一方、前記ガス分離膜モジュール14の透過側の空間は、膜を透過し易いガス成分と水分が相対的に高濃度で存在している。また、前記透過側の空間は非透過側よりも低圧になっており且つバルブ20によってガス分離膜モジュール14の外へ連通した状態になっている。このため、非透過側の隔絶された空間に残留する水分は当然膜を透過するが、更に、膜を透過し難い成分(徐々には透過可能である)が圧力差によって膜を徐々に透過して、透過側の高濃度の水分をバルブ20を通じてガス分離膜モジュール外へ押し出す。この機能は、非透過側の空間が透過側よりも高圧の状態である間は継続する。このようにして、ガス分離膜モジュール14の非透過側及び透過側の空間の水分がパージされる。充分なパージがおこなわれた後で、必要に応じて、バルブ20、バルブ23は閉じることができる。
【0022】
また、本発明において、ガス分離膜モジュールが乾燥したキャリアーガスを透過側に導入するタイプでは、停止操作中もキャリアーガスを流すのが効果的である。更に、ガス分離膜モジュールが非透過ガスの一部をキャリアーガスとして透過側へ(モジュール内の導入通路を通じて)循環するタイプでは、停止操作中に非透過ガス貯蔵装置からの乾燥した非透過ガスが導入通路を通じて自動的に透過側に流入するのでより効率的に水分をパージすることができる。
【0023】
ガス分離膜モジュールにおいて、供給される混合ガスは膜の透過側よりも高圧状態でなけれなならない。通常は混合ガスをコンプレッサーや送風機で加圧して供給する。更に、ガス分離膜モジュールの透過側の空間をエジェクターなどによって減圧してもよい。透過側の空間を減圧している場合には、前記の休止操作中は減圧を続けることが好適である。
【0024】
本発明のガス分離膜装置は、ガス分離膜モジュールとその非透過ガス排出口に接続された非透過ガス貯蔵装置を含んで構成され、加圧装置や減圧装置、及び、それらを配管するために導管やバルブなどを備えるものであるが、更に、通常のガス分離膜装置に備え付けられる種々のユニットを含んで構成されても構わない。ガス混合物の取入口、ガス混合物から浮遊物、オイルミスト、その他の膜に対する有害物質を除くためのダストフィルター、オイルフィルター、ミストセパレーター、スクラバー、吸着装置など、混合ガスを加圧するためのコンプレッサーや送風装置など、流量や圧力や純度を調整するための濃度測定モニターや圧力モニター、減圧弁、流量調節バルブなど、ガスの逆流を防止する逆止弁など、予め混合ガスの余分な水分を除くための予備的除湿装置など、更に、供給する混合ガスを予め加温する予備加熱装置などを備えても構わない。
【0025】
本発明のガス分離膜装置およびガス分離膜装置の運転休止方法は、供給する混合ガス中に水分が含まれている場合に、好適に適用できる。空気を除湿する場合、空気からの富化窒素や富化酸素を製造する場合、無機ガスや有機ガスなどの分離、回収、精製をおこなう場合、有機蒸気を脱水する場合などに好適に適用することができる。本発明のガス分離膜装置および運転休止方法を適用すれば、ガス分離膜装置の運転を休止した後で、膜性能の一時的な低下なし好適に運転を再開することができる。
【0026】
次に、本発明のガス分離膜装置の実施形態について、概略図によって説明する。尚、これらの図は本発明を限定するものではない。
図6において、混合ガスは、混合ガス取入口25から供給され、コンプレッサー27で加圧し、冷凍除湿機28で予備除湿され、減圧弁32で所定の圧力に調整され、熱交換器36で所定温度に温度調節された後で、ガス分離膜モジュール40に供給される。透過ガスは流量調節バルブ43を経て回収され、非透過ガスは流量調節バルブ44と非透過ガス貯蔵装置45を経て回収される。供給される混合ガス中に存在するダストや不純物ガス、コンプレッサーから混入するオイルやオイルミストなどは、ガス分離膜にとって性能低下をおこす可能性があるので、ダストフィルター26、オイルフィルター30、エアーフィルター31、ミストセパレーター33、活性炭吸着装置34、ダストセパレーター35などで除去される。また、圧力、温度、ガス濃度、流量などをモニターするために温度計37、圧力計38、ガス濃度計41、流量計42を備え、ガス流の切り替えや流量調節のために、バルブ39、流量調節バルブ43、44を備える。
図7〜図9は、3個のガス分離膜モジュールを備えたガス分離膜装置の実施形態、特に複数のガス分離膜モジュールの結合形態について代表例を示している。尚、フィルターなどのユニットは簡便に図示しているが、必要に応じて他の前処理ユニットやモニターなどが追加される。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって更に説明する。尚、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
図3のような構成を含むガス分離膜装置において、膜厚100μm、外径500μm、長さ450mmの多数本の非対称芳香族ポリイミド中空糸分離膜を束ねて構成された富化窒素用ガス分離膜モジュールを用いて以下の操作をおこなった。
窒素富化モジュールに入る圧縮空気の圧力を0.7MPa(ゲージ圧)、温度25℃とし、窒素富化ガスの流量が35NL/分になるように調整し、8時間運転をおこなった。この時の窒素富化ガスの酸素濃度は4.97体積%であった。8時間運転後、本発明の方法に従って、バルブ8、11を閉にし、貯蔵装置(タンク)内の窒素富化ガスによりモジュール内をパージしたあと、バルブ9を閉にし、運転を停止させた。
15時間休止させたあとで運転を再開した。休止の間に雰囲気温度は少なくとも0℃まで低下していた。運転再開直後の窒素濃度は4.98体積%であり、ほぼ運転終了時と同等であった。
(比較例)
非透過ガス貯蔵装置(タンク)を除いて図3と同様な構成を含むガス分離膜装置において、前記実施例と同時に運転をおこなった。当初の運転中は、実施例とほぼ同様の運転が可能であったが、運転休止15時間後に運転を再開したときには、窒素富化ガスの酸素濃度5.20体積%であった。最初の運転時と同じ酸素濃度の富化窒素ガスが得られて定常運転になるまでに120分以上を要した。
実施例と比較例のそれぞれの測定結果をグラフにしたものを図10に示す。本発明により運転再開時の定常運転に達するまでの時間が大幅に短縮されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】中空フィードタイプのガス分離膜モジュールの一例を示す縦断面の概略図
【図2】シェルフィードタイプのガス分離膜モジュールの一例を示す縦断面の概略図
【図3】本発明のガス分離膜モジュール内の水分をパージする機能及びガス分離膜装置の運転休止方法の説明図
【図4】本発明のガス分離膜モジュール内の水分をパージする機能及びガス分離膜装置の運転休止方法の説明図
【図5】本発明のガス分離膜モジュール内の水分をパージする機能及びガス分離膜装置の運転休止方法の説明図
【図6】本発明のガス分離膜装置の実施形態を示す概略図
【図7】本発明のガス分離膜装置の実施形態を示す概略図
【図8】本発明のガス分離膜装置の実施形態を示す概略図
【図9】本発明のガス分離膜装置の実施形態を示す概略図
【図10】本発明の実施例と比較例において得られた窒素富化ガスの酸素濃度の経時変化を示す図
【符号の説明】
【0029】
1:混合ガス供給口
2:容器
3:非透過ガス排出口
4:透過ガス排出口
5:管板
6:中空糸ガス分離膜
7:非透過ガス貯蔵装置
8、9、10、11:バルブ
12,13,14:ガス分離膜モジュール
15:非透過ガス貯蔵装置
16,17,18、19,20、21、22、23、24:バルブ
25:混合ガス取入口
26:ダストフィルター
27:コンプレッサー
28:冷凍除湿機
29:タンク
30:オイルフィルター
31:エアーフィルター
32:減圧弁
33:ミストセパレーター
34:活性炭吸着装置
35:ダストセパレーター
36:熱交換器
37:温度計
38:圧力計
39:バルブ
40:ガス分離膜モジュール
41:ガス濃度計
42:流量計
43、44:流量調節バルブ
45:非透過ガス貯蔵装置(タンク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成され、
前記ガス分離膜モジュールへの混合ガスの供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能を有するように構成されたことを特徴とするガス分離膜装置。
【請求項2】
複数個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成され、
前記ガス分離膜モジュールのうち少なくとも1個のガス分離膜モジュールを除いて混合ガスの供給を停止し、混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)の非透過ガス排出口から排出される非透過ガスを混合ガスの供給を停止したガス分離膜モジュール(B)内の非透過側の空間へ供給し、前記非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(B)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能と、
前記混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)への混合ガスの供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(A)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージする機能とを有するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のガス分離膜装置。
【請求項3】
少なくとも1個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成されたガス分離膜装置において、
前記ガス分離膜モジュールへの混合ガスの供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージすることを特徴とするガス分離膜装置の運転休止方法。
【請求項4】
複数個のガス分離膜モジュールと前記ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口に接続された少なくとも1個の非透過ガス貯蔵装置とを含んで構成されたガス分離膜装置において、
まず、前記ガス分離膜モジュールのうち少なくとも1個のガス分離モジュールを除いて混合ガスの供給を停止し、混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)の非透過ガスを、混合ガスの供給を停止したガス分離膜モジュール(B)内の非透過側の空間へ供給し、前記非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(B)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージし、
次いで、前記混合ガスの供給を継続したガス分離膜モジュール(A)へのガス供給を停止し、前記貯蔵装置に貯蔵された非透過ガスによって前記ガス分離膜モジュール(A)内の非透過側及び透過側の空間の水分をパージすることを特徴とする前記請求項3に記載のガス分離膜装置の運転休止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−120016(P2010−120016A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50760(P2010−50760)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【分割の表示】特願2000−394937(P2000−394937)の分割
【原出願日】平成12年12月26日(2000.12.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】