説明

ガス分離装置

【課題】 複数の化学種の混合物から1種以上の成分を分離する装置(10)を提供する。
【解決手段】 装置(10)は、メンブラン構造(12)の第一の表面(18)からメンブラン構造(12)の第二の表面(19)への物質移動を可能にする複数の細孔(14)がマトリックス(16)材料内部に設けられたメンブラン構造(12)を備える。マトリックス(16)材料は約10W/m/K以上の熱伝導率を有しており、複数の細孔(14)の少なくとも一部に機能性材料(20)が設けられている。機能性材料(20)は、第一の表面(18)から第二の表面(19)へとメンブラン構造(12)を通過する1種以上の化学種の選択的輸送を促進する性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にメンブラン系ガス分離装置に関し、具体的には高温使用に適したメンブラン系ガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メンブランによるガスの分離は、ダイナミックかつ急速に成長している分野である。メンブラン分離法は、エネルギー消費量が低く、資本投資も少ないという点で数々の利点をもたらす。しかし、メンブラン分離の分野における主な課題は、経済的で効率的なメンブランの開発である。特に難題とされるのが、窒素又は水素のような分子を含むガス流から二酸化炭素(CO)を分離するためのメンブランの開発である。現在、COは通常化学的(アミン)又は物理的(グリコール)吸収系によって工業的プロセス流から分離されている。しかし、かかるCO回収系の運転には高エネルギーを要するので、非回収型の基本プラントに比して、プラントの全体的効率が低下し、燃料消費の増加、固体廃棄物及び環境問題を招くおそれがある。そこで、ガス分離に適したメンブラン、並びに関連エネルギー必要量を大幅に低減させる先進工業プロセス設計を開発することが望まれている。
【特許文献1】米国特許第6579343号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0241477号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0013759号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、ガス混合物からCOのような成分を分離する効率的な分離装置系を提供することによって、上記その他のニーズを満足する。したがって、本発明の一実施形態は、複数の化学種の混合物から1種以上の成分を分離する装置である。本装置は、メンブラン構造の第一の表面からメンブラン構造の第二の表面への物質移動を可能にする複数の細孔がマトリックス材料内部に設けられたメンブラン構造を備えている。マトリックス材料は約10W/m/K以上の熱伝導率を有しており、複数の細孔の少なくとも一部に機能性材料が設けられている。機能性材料は、第一の表面から第二の表面へとメンブラン構造を通過する1種以上の化学種の選択的輸送を促進する性質を有する。
【0004】
本発明の特定の実施形態は、複数の細孔を含む金属メンブラン構造である。金属メンブラン構造は、メンブラン構造の第一の表面からメンブラン構造の第二の表面への熱輸送を促進する。複数の細孔の少なくとも一部に機能性材料が設けられている。機能性材料は、第一の表面から第二の表面へとメンブラン構造を通過するCOの選択的輸送を促進する性質を有する。
【0005】
以下の詳細な説明を図面と併せて参照することによって、本発明の上記その他特徴、態様及び利点についての理解を深めることができよう。図面を通して同一の部品には同じ符号を付した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下の説明において、同じ符号は図面における同一又は対応部分を示す。「頂部」、「底部」、「外側」、「内側」、「第一」、「第二」などの用語は便宜的なものであり、限定的なものと解すべきではない。さらに、本発明の特定の態様について、複数の要素の群及びそれらの組合せの1以上を含む又はそれらからなるという場合、その態様は、その群の任意の要素を個々に又はその群の他の要素との組合せで含む又はそれらからなる。
【0007】
図面全般に関して、図は本発明の一実施形態を説明する目的のためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0008】
本発明の理解を図るため、「透過度(permeance)」という用語は透過速度をいう。「選択透過性(permselectivity)」とは、他の化学種に対してメンブランを通過する1種類の化学種の好ましい透過度をいう。
【0009】
図1に、複数の化学種の混合物から1種以上の成分を分離する例示的な装置10を示す。装置10は、メンブラン構造12の第一の表面18からメンブラン構造12の第二の表面19への物質移動を可能にする複数の細孔14がマトリックス材料16内部に設けられたメンブラン構造12を備える。マトリックス材料16は約10W/m/K以上の熱伝導率を有する。複数の細孔14の少なくとも一部に機能性材料20が設けられている。機能性材料20は、第一の表面18から第二の表面19へとメンブラン構造12を通して、ガス混合物24からの1種以上の化学種22の選択的輸送を促進する性質を有する。分離された化学種22は掃去ガス26で捕捉できる。典型的には、メンブラン構造12は、効率的に分離するため所定の化学種に対して大幅に高い選択透過性と大幅に高い透過性を有するメンブランを備える。特定の実施形態では、マトリックス材料16は約15W/m/K以上の熱伝導率を有する。他の特定の実施形態では、マトリックス材料16は約20W/m/K以上の熱伝導率を有する。
【0010】
メンブラン構造12は、適当な材料特性を有するマトリックス材料16を含む。望ましくは、マトリックス材料16は本装置の作動条件下で安定で、所要の熱伝導率を有する。ある実施形態では、マトリックスは適当な熱伝導率を有するセラミックスを含む。適当なセラミックスの例としては、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ベリリウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、炭化ハフニウム、ホウ化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ホウ化チタン、炭化チタン、窒化チタン及び炭化ジルコニウムが挙げられるが、これらに限られない。マトリックスは、これらのセラミック材料の様々な組合せを含んでいてもよい。例示的な実施形態では、マトリックスは炭化ケイ素を含む。
【0011】
ある実施形態では、マトリックス材料16は金属を含む。適当な金属の例には、ニッケル、ステンレス鋼、鉄基合金、ニッケル基合金、NiCrAlY、モネル、IN600、チタン、アルミニウム基合金、銅基合金及びこれらの様々な組合せが挙げられるが、これらに限られない。例示的な実施形態では、マトリックスはニッケルを含む。他の実施形態では、マトリックスはステンレス鋼を含む。
【0012】
メンブラン構造12は、マトリックス材料16内部に複数の細孔14を含む。多孔質マトリックスは、メンブラン構造12の第一の表面18からメンブラン構造12の第二の表面19への物質移動を促進する。細孔14の大きさ及び細孔の密度によって、多孔質メンブラン構造を通過するガス種の透過度が制御される。典型的には、マトリックス材料16は約5%を超える空隙体積分率を有する。一実施形態では、マトリックス材料16は約20〜約70%の空隙体積分率を有する。一実施形態では、マトリックス材料16は約0.02〜約200μmのメジアン細孔径を有する。他の実施形態では、マトリックス材料16は約0.1〜約10μmのメジアン細孔径を有する。
【0013】
多孔質マトリックスの製造に当たっては、当技術分野で公知の任意の方法が使用できる。セラミック及び金属多孔質マトリックス材料には、粉体成形及び焼結が使用できる。粉体成形法としては、乾式加圧成形、等方圧成形、テープ鋳込み成形、テープ圧延成形などが挙げられる。細孔径は粉体の粒径及び形態によって調整できる。多孔度は、加圧及び焼結条件の変更又は有機溶媒や有機材料のような逃散性細孔形成材料の使用によって調整できる。他の適当な細孔形成技術としては、イオンビームエッチング、リソグラフィ、自己組織化、微細加工、陽極エッチング、レプリカ法、インベストメント鋳造、スタンピング、ソフトリソグラフィ、エレクトロスピニング、レーザー穿孔などが挙げられるが、これらに限られない。イオンビームエッチング、陽極エッチングなどの技術は、所望の細孔径の緻密で均一な細孔を生ずることが知られている。所望の細孔構造を得るためのプロセスパラメータの変更は当業者には自明である。
【0014】
典型的には、複数の細孔14の少なくとも一部に機能性材料20が設けられる。機能性材料20は、第一の表面18から第二の表面19へとメンブラン構造12を通して1種以上の化学種22の選択的輸送を促進する性質を有する。機能性材料20の材料選択は、分離すべき化学種及び装置10の作動条件によってある程度決まる。ある実施形態では、機能性材料20は多孔質材料を含む。別の実施形態では、機能性材料20は稠密材料を含む。
【0015】
機能性材料20は、所定の化学種を選択的に分離してメンブラン構造12の第一の表面18から第二の表面19へと輸送する。分離プロセスは、透過物とメンブランの性状に応じて、あらゆる公知の機序を伴うものでよい。典型的な分離機序としては、クヌーセン拡散、分子篩作用、部分凝縮、表面吸着及び拡散、溶解−拡散、促進輸送などが挙げられるが、これらに限られない。
【0016】
ガスの平均自由行程に比べて細孔径が小さいときはクヌーセン拡散が動作機序となろう。クヌーセン流では、ガス分子は他のガス分子と衝突するよりも細孔壁と衝突する頻度が高い。クヌーセン拡散が輸送の支配的モードである状況では、軽質ガスの透過速度は、ガスの分子量比の平方根の逆数に比例する。分離すべき複数のガス分子の直径の中間に細孔径がある場合、分子篩作用が支配的な分離機序となろう。重質ガスがクヌーセン選択性で期待されるレベルよりも濃縮されている場合、選択的吸着及び表面拡散、溶解−拡散、促進輸送などの機序を用いて逆選択的ガス分離を達成することができる。細孔表面に強く吸着する分子の選択的吸着とその後の細孔を通しての吸着分子の表面拡散もガスの分離を促進するであろう。場合によっては、細孔表面での所定のガス分子の部分的凝縮とその後での細孔を通しての凝縮分子の輸送によってガス分離が影響を受ける可能性もある。追加の分離機序として、溶解−拡散及び促進輸送が挙げられる。これらのプロセスでは、機能性材料はマトリックス材料の細孔を完全に満たす。機能性材料への溶解及び機能性材料を通しての拡散によってガス輸送が起こる。溶解−拡散機序では、ガスは機能性材料に直接溶解する。促進輸送機序では、機能性材料がガスと相互作用する「キャリア化学種」である。分離は、機能性材料を通る透過速度の差に起因する。
【0017】
機能性材料20が多孔質材料である実施形態では、多孔質材料は所定の化学種の分離に適した細孔径を有する。典型的には、多孔質機能性材料では、分散を低減するためため狭い細孔径分布が望ましい。狭い細孔径分布とは、平均細孔径が約50nm未満の場合には約100%を超えて変動しない平均細孔径分布として、平均細孔径が約50nmを超える場合には約50%を超えて変動しない平均細孔径分布と定義される。分子篩機序によって、動的分子径(kinetic diameter)の小さいガス分子は、動的分子径の大きいガスから選択的に分離できる。例えばCOは、O、N、CH及びi−C10のような動的分子径の大きいガスから選択的に分離できる。特定の実施形態では、多孔質機能性材料は約0.5nm未満のメジアン細孔径を有する。他の実施形態では、メジアン細孔径は約0.35nm未満である。別法として、機能性材料の細孔径は、すべてのガス種の動的分子径を超えるが、平均自由行程未満である。これらの条件下では、分離はクヌーセン拡散によって起こる。多孔質機能性材料の例としては、ゼオライト及び多孔質セラミックスが挙げられる。当業者であれば、ゼオライトの細孔径及び分離すべきガスの動的カットオフ直径(kinetic cutoff diameter)に基づいてゼオライトを選択できるであろう。例えば、CO分離用のゼオライトには、シリコアルミノホスフェートSAPO−34(SiAl、チャバサイトメンブラン構造)、NaY型ゼオライト、DDR(Deca−Dodecasil 3R)、モルデナイト又はMFI(シリカライト−1、ZSM−5)がある。セラミック材料には、シリカ、チタニア、ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア又はアルミナがある。細孔径は、ゾルゲル、テンプレートによる自己組織化(templated self-assembly)、化学気相堆積又は陽極酸化のような合成法によって調整できる。
【0018】
他の実施形態では、機能性材料20は表面選択流に基づいてガスを分離する。マトリックス材料16の細孔14内の機能性材料20は、メンブラン全体のガス選択性をもたらすことができる。メンブラン構造12を通過する流れは、細孔14を通るクヌーセン流による寄与と、細孔壁に沿った吸着ガスの表面流による寄与との合計による。このように機能性材料20がメンブランの細孔内部に設けられていて細孔を少なくとも部分的に満たす実施形態では、クヌーセン流のための細孔径が有効細孔径である。メンブランを通してのガス選択性は、ガスの全輸送に対するクヌーセン流と表面拡散の相対的寄与によって決まる。例えば、CO選択性を達成するには、表面拡散が全CO輸送に顕著に寄与するのが望ましい。表面拡散速度は吸着CO量とその相対的移動度によって決まる。
【0019】
第一近似として、ある材料でのガスの表面拡散性は、吸着熱から評価できる。表面拡散性は、吸着熱の負数で指数関数的に変化するので、吸着熱の低い材料ほど表面拡散性が高い。これは物理的には、機能性材料に適した材料のCOに対する親和性が、流れ中の他のガスに対する親和性よりも高いが、COが表面に結合して細孔チャンネルを通して輸送されなくなるほど強くないことを意味する。低い吸着熱は弱く結合したCOに対応し、高い表面拡散性に有利である。したがって、機能性材料20としての使用に適した材料は、高い表面被覆率(dθ/dp)と低い吸着熱(ΔH)とを特徴とする。これらの性質は材料のCO吸着等温線から求めることができ、適切な材料を選択できる。
【0020】
機能性材料用のセラミック材料は、ある程度、分離すべき化学種に応じて選択される。例えば、CO分離用に適したセラミック材料としては、シリカ、窒素含有有機シリカ、マグネシア、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、セリア、チタニア、ハフニア、イットリア、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、ATiO、AZrO、AAl、AFeO、AMnO、ACoO、ANiO、AHfO、ACeO、LiZrO、LiSiO、LiTiO、LiHfO、A、Y、La及びHfN(式中、AはLa、Mg、Ca、Sr又はBaであり、AはLa、Ca、Sr又はBaであり、AはCa、Sr又はBaであり、AはSr又はBaであり、AはMg、Ca、Sr、Ba、Ti又はZrであり、NはV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Si又はGeであり、NはV、Mo、W又はSiであり、xは1又は2であり、yは1〜3の範囲にあり、zは2〜7の範囲にある。)が挙げられるが、これらに限られない。一実施形態では、セラミックスはシリカ、窒素含有有機シリカ、マグネシア、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、セリア、チタニア、イットリア、ATiO、AZrO、AAl、AFeO、AMnO、ACoO、ANiO、AHfO、ACeO、LiZrO、LiSiO及びLiTiO(式中、AはMg、Ca、Sr又はBaであり、AはLa、Ca、Sr又はBaであり、AはCa、Sr又はBaであり、AはSr又はBaである。)からなる群から選択される材料を含む。他の実施形態では、セラミックスはマグネシア、酸化カルシウム、酸化ランタン、イットリア、セリア、チタニア、AAl、AFeO、ATiO、AZrO又はこれらの混合物からなる群から選択される材料を含む。式中、AはLa、Mg、Ca、Sr又はBaであり、AはLa、Ca、Sr又はBaである。例示的な実施形態では、セラミックスはチタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム及び鉄酸ランタンからなる群から選択される材料を含む。これらの酸化物はCOの表面拡散に対して大幅に高い移動度を示し、望ましい高い透過性を与えることができる。
【0021】
ある実施形態では、多孔質機能性材料20はある種の適当な官能基でさらに官能化してもよい。例えば、ゾルゲル前駆体溶液中にアミン基を有する化合物を導入することによって、細孔壁にアミン基を分散させることができる。アミン官能化メソ細孔性シリカを用いると、100℃で800もの高いCO/N選択性を達成できる。高熱伝導率支持体にアミン改質多孔質機能性セラミックスを導入することによって、セラミック支持体で調製したメソ細孔性メンブランに比して、メンブラン流束の低減を達成できる。選択性が保持され、熱伝導率を向上できる。
【0022】
ある実施形態では、機能性材料20はポリマーを含むものでもよい。適当なポリマーの例としては、重合イオン性液体、ポリビニルベンジルアンモニウムテトラフルオロボレート、ポリノルボルネン、ポリノルボルネン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー及びこれらの様々な組合せが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、ポリマーはポリノルボルネン系ポリマーを含む。熱伝導性金属支持体内のポリノルボルネンその他の高温CO/N選択性ポリマーに基づくメンブランは、排熱回収ボイラ(HRSG)系で有用である。かかるメンブランは高い熱伝導率を示し、約100〜200℃の温度でOに対してCOの選択的透過を可能にし、蒸気存在下での熱水劣化に耐える。ポリマーメンブランの熱伝導率は通常低く、0.1〜1W/m/Kの範囲内にある。熱伝導性支持体の細孔内にポリマーを設けることによって、ポリマーのガス分離選択性を保持したまま、メンブラン構造の熱伝導率を低く維持することができる。
【0023】
重合イオン性液体が様々なガス分離用途に適していることが実証されている。しかし、重合イオン性液体メンブランの多くは熱伝導率が低い。本願で開示するメンブラン構造は、熱伝導性支持体の細孔内部にイオン性液体を設けることによって、この問題を解決する。これによって、重合イオン性液体のガス分離選択性を保持したまま、熱伝導率に利点をもたらす。
【0024】
ある実施形態では、機能性材料20はイオノゲルを含む。機能性材料はセラミックゲル中に埋め込んだイオン性液体を含む。多くのイオン性液体が種々のガス分離用途に適していることが実証されている(例えば米国特許第6579343号参照)。しかし、多孔質マトリックス中にイオン性液体を分散してなるメンブランは安定性の面で問題がある。イオン性液体をセラミックゲル内に閉じ込めると、液体と固体の中間状態が生じ、安定性に利点をもたらす。適当なイオン性液体を使用できる。特定の実施形態では、ゲルはシリカゲルを含む。シリカゲル及びイオン性液体の熱伝導率は通常約0.1〜約1W/m/Kである。本願で開示するメンブラン構造は、熱伝導性支持体の細孔内にイオノゲルを設けることによって、安定性及び熱伝導率の問題を解決する。条件によっては、メンブラン構造が熱伝導率に利点をもたらし、イオノゲルがイオン性液体のガス分離選択性を保持したまま、安全性の向上という利点をもたらす。
【0025】
機能性材料20は、当技術分野で公知の方法で多孔質マトリックスの細孔14内に設けることができる。適当な方法の例としては、機能性材料の熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタ堆積、スピンキャスティング、注入、溶射、表面テンプレート式ゾルゲル法、加圧充填、電着及び毛管充填が挙げられるが、これらに限られない。どのような方法を用いるかは、機能性材料、コストその他様々な基準によって左右される。機能性材料20のガス分離性能を最も良く発揮させるには、一般に、多孔質マトリックスを気密封止する堆積物を形成し、堆積した機能性材料20とマトリックスの間に隙間が全く残らないのが望ましい。すなわち、メンブラン構造12の一方の表面18から他方の表面19への流体連通がもっぱら機能性材料20を通して起こるように、堆積した機能性材料はマトリックスの空隙を埋める。機能性材料20は、多孔質マトリックスのすべての空隙を完全に充填する必要はない。低いが気密性の充填率は、充填率の高いメンブラン構造に比べ、メンブランを通過する流束が増大するという利点がある。
【0026】
例示的な実施形態では、機能性材料20は、第一の表面18から第二の表面19へとメンブラン構造12を通過するCOの選択的輸送を促進する。特定の実施形態では、機能性材料20は、ガス混合物からのCOの選択的輸送を促進する。一実施形態では、機能性材料20は、燃料ガス流中のHからCOの選択的輸送を促進する。一実施形態では、機能性材料20は、排ガス流中のNからCOの選択的輸送を促進する。本装置は、精製CO(他のガスから分離)、CO濃縮ガス混合物又は液体(例えば不活性ガス又は水中のCO)を与えることができるし、或いは追加の反応用のCOを与えることができる。
【0027】
典型的にはメンブラン構造12は、メンブラン構造12を通しての熱伝達及び所定の化学種の透過を促進するためできるだけ薄いが、装置の作動中に機械的安定性を維持するのに十分な厚さをもつ。例えば、メンブラン構造12は、約50μm〜約10mmの厚さを有する。他の実施形態では、メンブラン構造12は約250μm〜約5mmの厚さを有する。典型的にはメンブラン構造12の厚さは、メンブラン構造12の材料及び製造技術によって左右される。厚さは、細孔14の大きさにも依存し、例えば多孔度の高いメンブラン構造では、多孔度の低いメンブラン構造よりも厚くする必要があるであろう。細孔内に設けられる機能性材料層の厚さは、好ましくは、ガスの透過度を増加させるためできる限り薄いが、機械的に強固なメンブラン構造を与えるのに十分な厚さである。例えば、機能性材料層の厚さは約10nm〜約10μmである。他の実施形態では、厚さは約50nm〜約500nmである。
【0028】
本装置の製造に用いる材料は、高温での装置の作動に役立つ。特定の実施形態では、装置10は約200℃超の温度で作動する。他の実施形態では、装置10は約300℃超の温度で作動する。他の実施形態では、装置10は約400℃超の温度で作動する。当技術分野で公知のように、クヌーセン拡散、選択的吸着、表面拡散その他様々な機序は、細孔の両側での温度差及び圧力差に依存する。したがって、用いる機能性材料、細孔寸法のようなメンブラン構造の属性は、装置の作動条件に基づいて最適化される。
【0029】
メンブラン構造12は、装置設計に応じて任意の形状又は大きさのものとし得る。例えば、メンブラン構造12は、平板状でも、円板状でも、波板状でも、管状でもよい。
【0030】
本願で開示するメンブラン構造の利点は、かかるメンブラン構造(本願では「複合メンブラン構造」という。)の熱伝導率を従来の多層メンブラン構造と対比することによって評価できる。一例として、多孔質ステンレス鋼マトリックス(本願では「支持体」という。)34内部にメソ細孔性シリカ32を設けた複合メンブラン構造30並びに多孔質アルミナ支持体39上にメソ細孔性シリカ層38を設けた多層メンブラン構造36を、図2に示す。いずれの場合も、熱伝導率は、等価な熱回路を用いた構成層の熱伝導率に関して理解できる。
【0031】
複合メンブラン構造30は、多孔質金属支持体34内部にメソ細孔性シリカ32を堆積したものからなる。多孔質金属支持体34が複合メンブラン構造30に機械的強度を与えるので、メソ細孔性シリカ32は支持体の細孔の一部を気密に充填すればよいだけである。熱伝達用の平行経路が存在し、メソ細孔性シリカの熱伝導率はステンレス鋼よりも約2桁低いので、複合メンブラン構造30の熱伝導率は支持体マトリックス34の熱伝導率kssに多孔質支持体マトリックス34の中実分率(1−ess)を乗じたものである(ここで、essは多孔質支持体マトリックス34の空隙分率を示す。)。この近似は、酸化物層の厚さが金属支持体の厚さよりも格段に薄ければ、予備酸化金属支持体にもあてはまる。ステンレス鋼の典型的な熱伝導率の値(kss≒14W/m/K)及び支持体マトリックスの典型的な空隙分率の値(ess≒0.3)を代入すると、複合メンブラン構造30の熱伝導率は単に多孔質支持体マトリックスの熱伝導率であり、約10W/m/Kである。
【0032】
多層メンブラン構造36は、多孔質支持体39上にメソ細孔性シリカ層38を堆積したものからなる。厚さ200μmの多孔質アルミナ支持体と厚さ1μmのメソ細孔性シリカ層38を例に取る。メンブラン構造は、連続的メソ細孔性シリカ上層の形成を容易にするため、細孔径が漸次小さくなる複数の副層からなるものでもよい。この例では、副層はすべて稠密アルミナの2分の1に相当する熱伝導率を有するアルミナであると仮定する。多層メンブラン構造36の有効熱伝導率keffは以下の式で与えられる。
【0033】
【数1】

ここで、t及びkは各層の厚さ及び熱伝導率である。メソ細孔性シリカの典型値(tSiO2≒1μm、kSiO2≒0.1W/m/K)及び支持体層の典型値(tsupport≒200μm、ksupport≒10W/m/K)を代入すると、有効熱伝導率keffは約7W/m/Kである。これらの幾何形状条件について、メソ細孔性シリカ層は、裸の支持体マトリックス又は細孔内部にメソ細孔性シリカを設けた複合メンブラン構造30に比べ、有効熱伝導率が約30%低下する。多孔質アルミナの熱伝導率は多孔質ステンレス鋼支持体と同等であるので、ステンレス鋼支持体を含む多層メンブラン構造についても定量的に同様の結果が予想される。
【0034】
本願で開示するメンブラン構造が多層メンブラン構造に対して有する利点を実証するため、支持体マトリックスについて所定の数値範囲で有効熱伝導率を計算した。この計算では、メンブラン構造の空隙分率を30%と仮定した。この計算では、厚さ200μmの支持体と、熱伝導率0.1W/m/Kで厚さ1μmのメソ細孔性シリカ層との多層メンブラン構造も仮定した。図3に、これら2通りの構成の有効熱伝導率(プロット40)と正規化熱伝導率(プロット42)を示す。多孔質マトリックスの熱伝導率が約9W/m/K未満のときは、多層メンブラン構造の方が熱伝導率が高い(曲線44)。多孔質マトリックスの熱伝導率が9W/m/Kを超えると、複合メンブラン構造の方が熱伝導率が高くなる(曲線46)。曲線48は多層メンブラン構造についての正規化熱伝導率のプロットであり、曲線49は複合メンブラン構造についての正規化熱伝導率のプロットである。例えば、多孔質ニッケル合金支持体(ksupport≒40〜70W/m/K)とでは、複合メンブラン構造でkeff≒30〜50W/m/Kであるのに対して、多層構造のkeffは約15W/m/Kである。
【0035】
特定の実施形態では、装置は、メンブラン構造の第一の表面からメンブラン構造の第二の表面への物質移動を可能にする複数の細孔を備える金属メンブラン構造と、複数の細孔の少なくとも一部に設けられた機能性材料を備える。機能性材料は、メンブラン構造の第一の表面から第二の表面へのCOの選択的輸送を促進する性質を有する。金属マトリックス材料、細孔寸法、メンブラン構造の厚さ、及び機能性材料は、上記で詳しく説明した事項を始めとして本装置の作動条件に基づいて選択できる。本発明の実施形態は、当技術分野で従来公知のものとは根本的に異なる。多孔質金属層上に機能性材料を設けたメンブラン構造については既に報告されている。多孔質金属層上に機能性材料を設けると、上述の通り、メンブランの熱伝導率が劇的に下がる。対照的に、本発明の実施形態に係るメンブラン構造は、高伝導率多孔質マトリックス材料の細孔内に機能性材料が設けられている。マトリックス材料の細孔内部に機能性材料を設けると、メンブランの熱伝導率が格段に高まるという利点がある。さらに、通常のガス分離系では、熱交換器はガス分離メンブランから独立している。単一のメンブラン構造がガス分離機能と熱伝達機能を兼ね備えていることによって、プラント設置面積及び資本コストが低減する。
【0036】
本発明の一実施形態は、ガス分離系である。図4及び図5に示すように、典型的なガス分離系50は熱交換器52、分離器54及び凝縮器56を備える。熱交換器52は、分離すべき化学種を含んだ流体60が流れる第一の流路58と、熱伝達流体64が流れる第二の流路62とを備えており、第二の流路62の少なくとも一部は分離器54によって画成される。一実施形態では、分離器54は、上述の複数の化学種の混合物から1以上の成分を分離することができる上述の装置10を備える。
【0037】
上述の実施形態で説明した通り、装置10は、メンブラン構造12の第一の表面18からメンブラン構造12の第二の表面19への物質移動を可能にする複数の細孔14がマトリックス材料16内部に設けられたメンブラン構造12を備える。マトリックス材料16は約10W/m/K以上の熱伝導率を有しており、複数の細孔14の少なくとも一部に機能性材料20が設けられている。機能性材料20は、第一の表面18から第二の表面19へとメンブラン構造12を通して、ガス混合物24からの1種以上の化学種22の選択的輸送を促進する性質を有する。本装置は、熱伝達と所定の化学種の分離という二元機能を果たす。メンブラン構造12は、熱伝導率が高く熱伝達を促進するマトリックス材料16を備えており、複数の細孔内部に設けられた機能性材料が化学種を分離する機能を果たす。マトリックス材料、細孔寸法、メンブラン構造の厚さ、及び機能性材料は、分離すべき化学種及び上記で詳しく説明した本装置の作動条件に基づいて選択できる。例示的な実施形態では、装置10はCO分離ユニットを備える。本発明の実施形態ではCOの分離について説明するが、当技術分野で公知の特定のガス種の分離のため本装置を適切に変更することは当業者が適宜なし得ることである。
【0038】
特定の理論に束縛されるものではないが、ミクロ細孔及びメソ細孔材料におけるCO選択性の機序としては、分子篩、表面吸着及び拡散、並びに毛管凝縮が挙げられる。COは、Nのような動的分子径の大きい他のガス分子を含有する流れから十分に小さい細孔を有するメンブランを通して選択的に分離することができる。流れの中の他のガスに比してCOに親和性を有する材料は、好ましいCO吸着性及び表面拡散を示す。さらに、吸着CO分子の存在は、毛管凝縮によって、弱く吸着したガスから細孔を遮蔽してそれらの輸送を妨げる。かかるメンブランの所与の作動条件での性能特性は、メンブラン表面の改質、細孔径の変更又は組成の変更によって改善することができる。
【0039】
分離器54は第一の流路58と第二の流路62とを物理的に隔てており、それらの間での熱伝達及び二酸化炭素輸送を促進する。凝縮器56は、第二の流路62と流体連通しており、伝熱流体64を受け入れて凝縮させ、伝熱流体に含まれている二酸化炭素66を単離する。
【0040】
一実施形態では、二酸化炭素を含む流体60は排ガス、例えば温度約200〜約700℃の排ガスである。高温排ガス60は、第一の流路58を通して熱交換器52に送られる。第二の流路62の少なくとも一部は分離器54で画成される。例えば、一実施形態では第二の流路62は管又はチューブによって画成され、管又はチューブの一部は高温排ガス60に曝露され(すなわち分離器54)、二酸化炭素の選択的透過性を有する材料で作られる。分離器54は二酸化炭素分離系10に一体化されていて、第一の流路58と熱伝達及び二酸化炭素輸送の関係にある。分離器54が高温排ガス60に曝露されると、排ガス60中に含まれる二酸化炭素の少なくとも一部が、分離器54を通して第二の流路62内の伝熱流体64へと移動する。さらに、伝熱流体64抽出物は排ガスから熱を受け取り、相変化を起こして気相となる。
【0041】
二酸化炭素を含有する気相伝熱流体64は、凝縮器56に送られ、そこで伝熱流体64は凝縮して液相に戻り、凝縮器56で二酸化炭素66が気相として単離される。二酸化炭素を含有する高温排ガス60に関して本発明を説明してきたが、本発明は広い温度域での二酸化炭素含有流体60に利用できる。この系は、広範な系での排ガス、例えば炉排ガス、熱酸化装置(thermal oxidizer)、金属加工その他の工業プロセスで利用できる。実際、二酸化炭素含有流体60は、適当な相変化伝熱流体64、例えば冷媒、ブタノールのようなアルコール、シリコーンオイルなどを選択することによって、室温にすることができる。さらに、CO回収系に関して本発明を説明してきたが、排ガス流中の他の成分、例えばCO、NOその他の汚染物質もしくは化学種に選択的な材料を利用すれば、当該他の成分を同様に回収することができる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るコンバインドサイクルCO回収系100を図6に示す。典型的なコンバインドサイクル炭素回収系100には、電気103を発生するための発電系102(例えばガスタービン)と高温排ガス104が含まれる。排ガス104は通例約500〜約700℃の温度を有する。高温排ガス104は排熱回収ボイラ(HRSG)106に送られる。HRSG106は1以上の冷却回路108を含む。冷却液110をポンプ114で冷却回路108に流し、冷却液110を冷却回路108に循環すると、高温排ガス104から熱が抽出され、冷却液110は相変化を起こして蒸気相排気112を生じ、これを蒸気タービン系116に送ってさらに電気117を発生させる。高温排ガス104は約250〜約350℃の温度に冷却されてから、低温排ガス118としてHRSG106を出る。
【0043】
1以上の冷却回路108の少なくとも一部は二酸化炭素抽出回路120である。二酸化炭素抽出回路120は、二酸化炭素を選択的に透過する材料で作られる。高温排ガス104がHRSG106を移動して二酸化炭素抽出回路120と接触すると、二酸化炭素122は二酸化炭素抽出回路120を通して、冷却回路を循環する冷却液110又は蒸気112へと移動し、蒸気112と共に蒸気タービン系116に送られる。一実施形態では、二酸化炭素抽出回路120は、上述の複数の化学種の混合物からCOを分離することができる上述の装置10を備える。蒸気112とCO122の混合流は、蒸気タービン系116に送られて発電する。蒸気タービン系116内のCO122含量は、系から抽出される全仕事量の向上につながることがある。蒸気タービン系116から出る流れは凝縮器124に送られ、そこで蒸気112は凝縮して水110に戻り、水110は通例HRSG106に戻される。CO122は凝縮器124で単離され、流路126から取り出されて、回収・貯蔵されるか、他の目的に利用される。
【0044】
一実施形態では、排ガス104中の全CO含量を増加させて系100の抽出効率を向上させるため、低温排ガス118の一部128を発電系102に再循環して戻す。理想的には、二酸化炭素抽出回路120での抽出効率を高めるため、排ガス104のCO含量は約10〜約15体積%とすべきである。こうしたCOレベルを達成するには、排ガス再循環のような技術を用いればよい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る改造可能な炭素回収系200を図7に示す。改造可能な炭素回収系200には、電気103を発生するための発電系102(例えばガスタービン)と高温排ガス104が含まれる。排ガス104は通例約500〜約700℃の温度を有する。高温排ガス104は排熱回収ボイラ(HRSG)106に送られる。HRSG106は1以上の冷却回路108を含む。冷却液110をポンプ114で冷却回路108に流し、冷却液110を冷却回路108に循環すると、高温排ガス104から熱が抽出され、水110は相変化を起こして蒸気相排気112を生じ、これを蒸気タービン系116に送ってさらに電気117を発生させる。高温排ガス104は約250〜約350℃の温度に冷却されてから、低温排ガス118としてHRSG106を出る。
【0046】
改造可能な炭素回収系200はさらに二酸化炭素抽出系202を備える。二酸化炭素抽出系202には、抽出回路220が含まれる。一実施形態では、二酸化炭素抽出回路220は、上述の複数の化学種の混合物からCOを分離することができる上述の装置10と、凝縮器221とを備える。伝熱流体224が炭素抽出回路220に送られ、所定の温度の排ガスに曝露されると、液体から気相に相変化する。高温排ガス104がHRSG106を移動して二酸化炭素抽出回路220と接触すると、二酸化炭素222は二酸化炭素抽出回路220を通して、抽出回路220を循環する伝熱流体224へと移動する。伝熱流体224とCO222の混合流は凝縮器221に送られ、そこで伝熱流体224が凝縮して液相に戻る。CO222は凝縮器221で単離され、流路226から取り出されて、回収・貯蔵されるか、他の目的に利用される。
【0047】
改造可能な炭素回収系200は、既存のシステムを組み込んで改造することによって直ちに利用でき、炭素回収を行うことができるという顕著な利点をもたらす。伝熱流体224は、抽出回路220が曝露される温度に基づいて選択される。
【0048】
以上の実施形態はガス混合物からのCOの分離に関するものであるが、上述の方法で所定のガス種を他のガスから除去することができる。ただし、分離機序は各ガス毎に異なり、適切な選択性は適当なメンブラン構造を選定することによって達成できる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例で、メンブラン構造の製造法を例示する。
【0050】
実施例1
多孔質ステンレス鋼メンブラン支持体内に設けたテンプレート法メソ細孔性シリカ
平均細孔径0.2μmの多孔質ステンレス鋼基体を用意した。前駆体を充填する前に、ステンレス鋼支持体を空気中で600℃で2時間予備酸化させた。予備酸化処理によって、多孔質金属支持体へのシリカの付着性を高める薄い酸化物層が金属表面に生成する。メソ細孔性シリカの堆積は、支持体内部へのシリカ前駆体の液相充填(liquid phase infiltration)とその後の加熱処理による前駆体から酸化物への変換によって実施した。充填度を向上させるため多充填サイクルを用いた。前駆体溶液は、エタノールと水の酸性混液中で有機テンプレート剤とシリカ前駆体を混合することによって調製した。本例では、2種類の典型的なテンプレート(Brij 56及びPluronic F127(BASF Chemical社製))をテンプレート剤として使用し、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)をシリカ前駆体として使用し、塩酸(HCl)を酸として使用した。前駆体溶液の質量組成は、テンプレート1g、HCl2g(pH0.4)、エタノール3g、TEOS2.55gであった。支持体をこの溶液中に完全に浸漬し、支持体内の細孔への充填を促進するため真空に引いた。前駆体溶液の揮発性成分を蒸発させることによって、支持体の細孔内でゲルを形成させた。次いでメンブランを空気中で550℃で2時間加熱して、テンプレートを除去した。加熱はシリカ充填剤の部分的収縮を招くので、メンブラン内の残留空隙率を低下させるため充填サイクルを計3回繰り返した。顕微鏡での分析によって、メソ細孔性シリカが金属支持体の空隙率の90%超を充填していることが判明した。
【0051】
これらのメンブランでは、稠密金属支持体にはガスが浸透しないので、メンブランのガス分離能力はメソ細孔性シリカ堆積物のガス分離特性で決まる。メソ細孔性シリカが金属支持体の細孔断面を気密に充填したメンブランでは、流れに唯一貢献するのはメソ細孔性シリカを通してである。こうした場合、メンブランの選択性及び流束は、メソ細孔性シリカの選択性及びメソ細孔性シリカを通る流束に多孔質金属支持体の充填度を乗じることによって求まる。
【0052】
本例に記載の方法を用いて製造したF127テンプレートによるメソ細孔性シリカメンブランは、クヌーセン拡散機序によって決まるガス分離挙動を示した。代わって、Brij 56をテンプレートとして用いて調製したメンブランは「逆選択性」を示した。本例の処方を用いて調製したメンブランの場合、CO分子と細孔表面との有利な相互作用のため、COが選択的に透過した。Brij 56テンプレートと上述の処方を用いて調製したメソ細孔性シリカで測定されたCO/He選択性は2であった。
【0053】
実施例2
多孔質ニッケル合金メンブラン支持体内のポリノルボルネン
多孔質支持体内にポリノルボルネンを充填した。確実に気密堆積物とするため多充填段階を用いた。
【0054】
多孔質ニッケル合金支持体内部にポリノルボルネンを充填したメンブラン構造の熱伝導率を、自立型ポリマーメンブランと対比することによって、熱伝導性に関する本発明の利点が認められた。多孔質金属支持体がメンブラン構造に機械的強度を与えるので、ポリノルボルネンは支持体の細孔の一部を気密に充填すればよいだけである。熱伝達用の平行経路が存在し、ポリノルボルネンの熱伝導率はニッケル合金(k≒40〜70W/m/K)よりも2桁以上小さいので、メンブラン構造の熱伝導率は支持体の熱伝導率kNiに支持体の中実分率1−essを乗じたものであった。この近似は、酸化物層の厚さが金属支持体の厚さよりも格段に薄ければ、予備酸化金属支持体にもあてはまる。ニッケル合金の典型的な熱伝導率(kNi≒40〜70W/m/K)及び支持体の典型的な空隙分率の値(ess≒0.3)を代入すると、メンブランの熱伝導率は単に多孔質支持体の熱伝導率であり、約30〜50W/m/Kであった。
【0055】
稠密金属支持体にはガスが浸透しないので、メンブランのガス分離能力はポリマーのガス分離特性で決まる。ポリノルボルネンが金属支持体の細孔を完全に充填したメンブランでは、流れに唯一貢献するのはポリノルボルネンを通してである。こうした場合、メンブランの選択性はポリノルボルネンの選択性によって決まり、流束はポリノルボルネンを通る流束に多孔質支持体の空隙分率を乗じた値であり、熱伝導率は多孔質ニッケル合金支持体の熱伝導率によって決まる。
【0056】
実施例3
多孔質ステンレス鋼メンブラン支持体内の重合イオン性液体(ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、p[VBTMA][BF4])
本例では、多孔質金属支持体の細孔内に重合イオン性液体を充填したメンブランについて例示する。堆積は、多孔質支持体にモノマー溶液を充填した後、その場で重合させることによって実施した。適宜、多孔質金属支持体に重合イオン性液体を共有結合できるように、金属メンブランを予備酸化してシランリンカー分子で処理した。
【0057】
本例のメンブランは、反応管に2gのp−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボレートモノマー、20mgの2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、4mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及び3−(トリメチルシリル)プロピルメタクリレート処理多孔質ステンレス鋼メンブランを加えて調製した。管を密封し、窒素下で脱気し、60℃で6時間油浴に浸漬した。メンブランを回収し、60℃で真空乾燥した。上記モノマーは、500mL丸底フラスコに0.12モルのp−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、0.132モルのNaBF及び150mLのアセトニトリルを加えて調製した。溶液を一晩撹拌して塩を溶解し、沈殿を生成させた。濾液を濃縮し、エーテルに注入してモノマーを沈殿させた。
【0058】
上記メタクリレート官能化メンブランは、3−(トリメチルシリル)プロピルメタクリレートで官能化することによって調製した。官能化の前に、多孔質ステンレス鋼メンブランを空気中600℃に2時間加熱し、室温に冷却し、室温で過酸化水素(30%)中に1時間浸漬し、3時間真空乾燥した。次いでメンブランを乾燥トルエン(40mL)中の3−(トリメチルシリル)プロピルメタクリレート(1mL)の115ミリモル溶液中に2日間浸漬した。メンブランを乾燥し、次いで重合イオン性液体合成の場合と同様に処理した。この手順によって細孔表面に化学基が共有結合し、支持体に重合イオン性液体を直接グラフト化することができる。かかるアプローチによって、メンブランの構成成分間の付着性が向上する。
【0059】
多孔質ステンレス鋼支持体中に重合イオン性液体を含むメンブラン構造の熱伝導率を、自立型重合イオン性液体メンブランと対比することによって、熱伝導性に関する本発明の利点が認められた。多孔質金属支持体がメンブラン構造に機械的強度を与えるので、重合イオン性液体は支持体の細孔の一部を気密に充填すればよいだけである。熱伝達用の平行経路があり、重合イオン性液体の熱伝導率はステンレス鋼(k≒14W/m/K)よりも約1〜2桁小さいので、メンブラン構造の熱伝導率は、支持体の熱伝導率kssに支持体の中実分率1−essを乗じたものである。この近似は、酸化物層の厚さが金属支持体の厚さよりも格段に薄ければ、予備酸化金属支持体にもあてはまる。ステンレス鋼の典型的な熱伝導率の値(kss≒14W/m/K)及び支持体の典型的な空隙分率の値(ess≒0.3)を代入すると、メンブランの熱伝導率は単に多孔質支持体の熱伝導率であり、約10W/m/Kである。
【0060】
稠密金属支持体にはガスが浸透しないので、メンブランのガス分離能力は重合イオン性液体のガス分離特性によって決まる。重合イオン性液体が金属支持体の細孔を完全に充填したメンブランでは、流れに唯一貢献するのは重合イオン性液体を通してである。こうした場合、メンブランの選択性は重合イオン性液体の選択性によって決まり、流束は重合イオン性液体を通る流束に多孔質支持体の空隙分率を乗じることによって求まり、熱伝導率は多孔質支持体の熱伝導率によって決まる。
【0061】
実施例4
多孔質ステンレス鋼メンブラン支持体内のイオノゲル(bmim/BF4−シリカ)
本例では、イオノゲル型メンブランについて例示する。メンブランは多孔質ステンレス鋼支持体内部に、シリカゲル中で同時合成したイオン性液体を含むイオノゲルを堆積させることによって製造した。堆積は、多孔質支持体に前駆体溶液を液相充填した後、イオノゲルのゲル化によって実施した。
【0062】
イオノゲル前駆体溶液は、4gのメタノール中で1gのブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(bmim/BF4)を3.2gのギ酸と混合することによって調製した。激しく撹拌しながら、1.6gのテトラメチルオルトシリケート(TMOS)を添加した。前駆体溶液を1日未満の所定の期間熟成した後、支持体をこの溶液中に完全に浸漬した。前駆体溶液をゲル化した後、ゲルから多孔質金属支持体を取り出した。本例に記載の処方では、ゲル化時間は10乃至15分間であった。イオノゲルを含むメンブランは、COの質量増加選択的吸着及び脱離を示す。
【0063】
COに対するメンブランの透過性を溶解度と拡散性の積から評価した。質量吸収曲線の過渡的部分の定量的解析から、イオノゲル内のCOの拡散性はbmim/BF4での拡散性の約3分の1であり、溶解度は約1桁低かった。これは、メンブランの透過性が、同じ空隙度の支持体上に設けられたイオン性液体メンブランの透過性よりも約30倍低いことを示している。
【0064】
イオノゲルの固有透過性はイオン性液体の固有透過性よりも低いが、この材料を含むメンブランを通しての全体的な透過度は高くなる可能性がある。この特徴は、シリカゲルがもたらす機械的健全性に起因する。イオノゲルについては10〜100MPaのヤング率及び0.1〜1MPaの破壊強さが報告されている。メンブランを通る透過度(透過流束)は透過性を厚さで除すことによって求まるので、透過性の差は、必要とされる「分離」層の厚さの減少によって相殺される。なお、ここでいう機械的健全性とは、多孔質支持体での亀裂又はバイパス欠陥の形成を防ぐために必要とされる機械的健全性をいう。メンブランの全体的な機械的性質は支持体によって決まり、イオノゲルの機械的性質を大幅に超すことができる。
【0065】
多孔質ステンレス鋼支持体中にイオノゲルを含むメンブラン構造の熱伝導率を、自立型イオノゲルを備える多層メンブラン構造と対比することによって、熱伝導性に関する本発明の利点が認められる。多孔質金属支持体がメンブラン構造に機械的強度を与えるので、イオノゲルは支持体の細孔の一部を気密に充填すればよいだけである。熱伝達用の平行経路があり、イオノゲルの熱伝導率はステンレス鋼(k≒14W/m/K)よりも約1桁小さいので、メンブラン構造の熱伝導率は支持体の熱伝導率kssに支持体の中実分率1−essを乗じたものである。この近似は、酸化物層の厚さが金属支持体の厚さよりも格段に薄ければ、予備酸化金属支持体にもあてはまる。ステンレス鋼の典型的な熱伝導率の値(kss≒14W/m/K)及び支持体の典型的な空隙分率の値(ess≒0.3)を代入すると、メンブランの熱伝導率は単に多孔質支持体の熱伝導率であり、約10W/m/Kである。
【0066】
本明細書では本発明の特定の特徴だけを例示し説明してきたが、その他様々な修正及び変更は当業者には自明であろう。したがって、特許請求の範囲は、このようなあらゆる修正及び変更を本発明の技術的思想に属するものとして包含する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のメンブラン構造が組み込まれた本発明の一実施形態に係るガス分離装置の概略図である。
【図2】本発明の複合メンブラン構造及び多層メンブラン構造実施形態の概略図である。
【図3】本発明の複合メンブラン構造及び多層メンブラン構造の実施形態の有効熱伝導率及び正規化熱伝導率をプロットしたグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る装置の概略図である。
【図5】図4の実施形態の部分図である。
【図6】本発明の別の実施形態を示す図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10 装置
12 メンブラン構造
14 細孔
16 マトリックス
18 第一の表面
19 第二の表面
20 機能性材料
22 分離すべき化学種
24 ガス混合物
26 掃去ガス
30 複合メンブラン構造
32 メソ細孔性シリカ
34 多孔質金属
36 多層メンブラン構造
38 メソ細孔性シリカ層
39 多孔質金属層
50 ガス分離系
52 熱交換器
54 分離器
56 凝縮器
58 第一の流路
60 分離すべき化学種
62 第二の流路
64 伝熱流体
66 CO
100 CO回収系
102 発電系
103 電気
104 排ガス
106 排熱回収ボイラ
108 冷却回路
110 冷却液
112 蒸気相排ガス
114 ポンプ
116 蒸気タービン系
117 電気
118 排ガス
120 CO抽出系
122 CO
124 凝縮器
126 流路
128 排ガスの一部分
200 改造可能な炭素回収系
202 二酸化炭素抽出系
220 抽出回路
221 凝縮器
222 CO
224 伝熱流体
226 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の化学種の混合物から1種以上の成分を分離するための装置(10)であって、
メンブラン構造(12)の第一の表面(18)からメンブラン構造(12)の第二の表面(19)への物質移動を可能にする複数の細孔(14)がマトリックス(16)材料内部に設けられたメンブラン構造(12)であって、マトリックス(16)材料が約10W/m/K以上の熱伝導率を有するメンブラン構造(12)と、
複数の細孔(14)の少なくとも一部に設けられた機能性材料(20)であって、第一の表面(18)から第二の表面(19)へとメンブラン構造(12)を通過する1種以上の化学種の選択的輸送を促進する性質を有する機能性材料(20)と
を備える装置(10)。
【請求項2】
マトリックス(16)がセラミックス及び金属からなる群から選択される材料を含む、請求項1記載の装置(10)。
【請求項3】
前記セラミックスが炭化ケイ素を含む、請求項2記載の装置(10)。
【請求項4】
前記金属がニッケル、ステンレス鋼、鉄基合金、ニッケル基合金、NiCrAlY、モネル、IN600、ニッケルアルミナイド、チタンアルミナイド、アルミニウム基合金及び銅基合金からなる群から選択される材料を含む、請求項2記載の装置(10)。
【請求項5】
マトリックス(16)が約5%を超える空隙体積分率を有する、請求項1記載の装置(10)。
【請求項6】
機能性材料(20)がセラミックス、ゼオライト、ポリマー、イオン性液体及びイオノゲルからなる群から選択されるものを含む、請求項1記載の装置(10)。
【請求項7】
前記セラミックスが、SiO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、CeO、TiO、HfO、Y、VO、NbO、TaO、ATiO、AZrO、AAl、AFeO、AMnO、ACoO、ANiO、AHfO、ACeO、LiZrO、LiSiO、LiTiO、LiHfO、A、Y、La及びHfNからなる群から選択される材料を含む、請求項6記載の装置(10)。
式中、AはLa、Mg、Ca、Sr又はBaであり、
はLa、Ca、Sr又はBaであり、
はCa、Sr又はBaであり、
はSr又はBaであり、
はMg、Ca、Sr、Ba、Ti又はZrであり、
はV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Si又はGeであり、
はV、Mo、W又はSiであり、
xは1又は2であり、
yは1〜3の範囲にあり、
zは2〜7の範囲にある。
【請求項8】
前記ゼオライトが、シリコアルミノホスフェートSAPO−34、NaY型ゼオライト、Deca−Dodecasil 3R、MFI型シリカライト−1、ZSM−5及びモルデナイトから選択される材料を含む、請求項6記載の装置(10)。
【請求項9】
前記ポリマーが、重合イオン性液体、ポリビニルベンジルアンモニウムテトラフルオロボレート、ポリノルボルネン、ポリノルボルネン系ポリマー及びポリアセチレン系ポリマーからなる群から選択される材料を含む、請求項6記載の装置(10)。
【請求項10】
機能性材料(20)が多孔質充填剤を含む、請求項1記載の装置(10)。
【請求項11】
機能性材料(20)が、第一の表面(18)から第二の表面(19)へとメンブラン構造(12)を通過するCOの選択的輸送を促進する、請求項1記載の装置(10)。
【請求項12】
当該装置が約200℃を超える温度で作動する、請求項1記載の装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−142709(P2008−142709A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316482(P2007−316482)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】