説明

ガス切断トーチ

【課題】構造が簡単で且つ確実に逆火を防止することができるガス切断トーチを提供する。
【解決手段】ガス切断トーチAは、ガス切断火口Bを装着するトーチヘッド2と、切断酸素バルブと予熱酸素バルブ10と燃料ガスバルブ11とを設けた本体1と、トーチヘッド2と本体1を接続して切断酸素を流通させる切断酸素管3と、トーチヘッド2と本体1とを接続して予熱酸素と燃料ガスとの混合ガスを流通させる混合ガス管4と、を有し、混合ガス管4に於けるトーチヘッド2側に、該混合ガス管4の内径よりも大きい径を持った収容室20を形成すると共に、該収容室20に金属板を複数回捻って形成した捻り部材21を収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部で予熱酸素と燃料ガスを混合させるトーチミキシング型のガス切断トーチに関し、特に逆火を防止し得るように構成したガス切断トーチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工事現場で鋼板を切断する際に、トーチミキシング型の小型の手持ち式ガス切断トーチが用いられることが多い。トーチミキシング型のガス切断トーチの場合、本体側に燃料ガスバルブと予熱酸素バルブ及び吸引部材とが設けられている。また、本体は、ガス切断火口を装着するトーチヘッドと混合ガス管で接続されており、この混合ガス管の内部に燃料ガスと予熱酸素との混合部が設けられている。
【0003】
手持ち式のガス切断トーチの場合、建設現場や解体現場が使用されることが多く、過酷な使われかたになることが多い。このため、ガス切断火口の過熱や、スパッタの付着による混合ガス噴射孔の詰まり等が生じやすくなり、これに伴って逆火が生じて切断作業を中断させざるを得なくなることがある。
【0004】
特に、逆火がガス切断トーチの本体側や燃料ガスの供給側にまで進行したような場合、ガス切断トーチの熔損や、燃料ガスを供給するホースの破損等が生じる虞がある。このため、逆火を防ぐために幾つかの提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたガス切断トーチは、予熱酸素を噴射して燃料ガスを吸引する吸引部材の内部に緩衝器を設けたものである。緩衝器は、金属製円筒に複数の孔を形成したものや、金属製円筒の外周に複数の溝を形成したもの、或いは通気性を有する焼結金属として構成されている。そして、逆火が生じたとき、この逆火に伴う異常圧力を緩衝器によって吸収することで該異常圧力の伝搬を阻止して逆火を防止し得るように構成されている。
【0006】
また、特許文献2に記載された爆発性ガスの逆火防止装置は、燃料ガス(アセチレンガス)の供給経路に設けられで逆火を防止するものである。この逆火防止装置は逆止弁機構を有しており、アセチレンガスの供給方向下流側で逆火、或いはアセチレンの分解爆発が生じて異常圧力が発生したとき、この発生した圧力に応じて逆止弁が作動して上流側への伝搬を阻止し得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平3−56738号公報
【特許文献2】特公昭61−37525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたガス切断トーチでは、作業中に逆火が生じたとき、この逆火を緩衝器で防ぐことができる。しかし、緩衝器による流体抵抗が大きく、トーチヘッドに厚い鋼板を切断するためのガス切断火口を装着したとき、ガス切断トーチに供給する酸素の圧力を上昇させる必要が生じる。
【0009】
また、特許文献2に記載された逆火防止装置では、逆火やアセチレンの分解爆発が生じたとき、これらがアセチレンガスの供給方向上流側に伝搬することを防止できる。しかし、この逆火防止装置は配管経路に組み込まれて利用されるものであり、ガス切断トーチの内部に組み込むには、大型で且つ構造が複雑過ぎるという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、構造が簡単で且つ確実に逆火を防止することができるガス切断トーチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係るガス切断トーチは、ガス切断火口を装着するトーチヘッドと、切断酸素バルブと予熱酸素バルブと燃料ガスバルブとを設けた本体と、トーチヘッドと本体を接続して切断酸素を流通させる切断酸素管と、トーチヘッドと本体とを接続して予熱酸素と燃料ガスとの混合ガスを流通させる混合ガス管と、を有するガス切断トーチであって、前記混合ガス管に於けるトーチヘッド側に、該混合ガス管の内径よりも大きい径を持った収容室を形成すると共に、該収容室に金属板を複数回捻って形成した捻り部材を収容したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガス切断トーチでは、トーチヘッドに装着したガス切断火口(以下、単に「火口」という)で逆火が発生したとき、この逆火は混合ガス管の内部に伝搬される。また、混合ガス管に於けるトーチヘッド側には、混合ガス管の内径よりも大きい径を持った収容室が形成されると共に、該収容室に捻り部材が収容されている。このため、逆火に伴う高い圧力と温度を持ったガスは捻り部材と衝突し、圧力が減少すると同時に捻り部材に冷却されて温度が低下する。従って、逆火を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ガス切断トーチの構成を説明する側断面図である。
【図2】ガス切断トーチの構成を説明する平面図である。
【図3】トーチヘッドと混合ガス管の内部構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明に係るトーチミキシング型のガス切断トーチの構成について図1〜図3により説明する。トーチミキシング型のガス切断トーチの場合、該トーチ内部で予熱酸素と燃料ガスとを混合させた混合ガスを形成し、この混合ガスをトーチヘッドに装着した火口に供給し得るように構成されている。
【0015】
尚、本発明に於いて、「逆火防止」とは、トーチヘッドに装着した火口での逆火を発生させない、という意味ではなく、火口を含むガス切断トーチの燃料ガスの供給方向下流側で逆火が発生したとき、この逆火が上流側に伝搬することを防止する、という意味である。
【0016】
ガス切断トーチAは、作業員が手で把持して走行方向を誘導する本体1と、ガス切断火口Bを着脱するトーチヘッド2と、本体1とトーチヘッド2を接続して配置された切断酸素管3及び混合ガス管4と、を有して構成されている。本体1のトーチヘッド2側の端部には前部分配部材5が、反対側の端部には後部分配部材6が設けられており、これらの前後部分配部材5、6は握り管7によって接続されている。このため、本体1を構成する握り管7の内部に空間8が構成されている。
【0017】
前部分配部材5には切断酸素通路5a、予熱酸素通路5b及び燃料ガス通路5cが形成されており、切断酸素通路5aには切断酸素バルブ9が設けられ、また予熱酸素通路5bには予熱酸素バルブ10が設けられている。この予熱酸素バルブ10は、ニードル10aと、該ニードル10aに対向して配置されたインジェクター10bと、を有して構成されることで流量調整機能を有すると共に、インジェクター10bから予熱酸素を噴射させることで、燃料ガス通路5cから燃料ガスを吸引し得るように構成されている。
【0018】
また、後部分配部材6にも酸素通路6a及び燃料ガス通路6bが設けられており、燃料ガス通路6bに燃料ガスバルブ11が設けられている。そして、握り管7の内部に形成された空間8には、酸素配管12と燃料ガス配管とが並列して配置されている。
【0019】
トーチヘッド2には、火口Bの装着孔2aと、切断酸素通路2bと、混合ガス通路2cと、が形成されており、切断酸素通路2bには切断酸素管3が、混合ガス通路2cには混合ガス管4が夫々接続されている。
【0020】
混合ガス管4のトーチヘッド2側の所定位置には、該混合ガス管4の内部に形成された混合ガス通路4aの内径よりも大きい径を有し、且つ所定長さを有する収容室20が形成されている。また、収容室20には、金属板を複数回捻って形成した捻り部材21が収容されており、この捻り部材21によって逆火を防止し得るように構成されている。
【0021】
混合ガス管4の混合ガス通路4aに於ける収容室20の形成位置は限定するものではなく、可及的にトーチヘッド2に近接した位置であることが好ましい。特に、収容室20の加工方法や、該収容室20に収容した捻り部材21の保持方法等の観点から寸法や位置を設定することが好ましい。
【0022】
本実施例では、混合ガス管4は、トーチヘッド2に固定したニップル4bと、本体1の前部分配部材5に取り付けられて予熱酸素と燃料ガスの混合を促進する混合管4cと、ニップル4bと混合管4cの間に配置された接続管4dと、を有して構成されている。そして、接続管4dのニップル4a側の端部に収容室20が形成されている。従って、収容室20の位置はニップル4bの長さに応じて設定される。
【0023】
収容室20の径は混合ガス通路4aの内径よりも大きく形成されている。ガス切断トーチAに於ける混合ガス通路4aの内径は該ガス切断トーチAの切断能力に応じて設定される。このため、収容室20の径は一義的に設定されるものではない。本件発明者等の実験では、例えば、混合ガス通路4aの径が4mmである場合、収容室20の径を約4.5mm〜約5.0mmとするのが好ましかった。
【0024】
また収容室20の長さは特に限定するものではないが、逆火防止機能を発揮させるには長いことが好ましい。本実施例では、約50mmに設定している。混合ガス管4にこのような収容室20を形成することによって、収容室20と対応した混合ガス管4の肉厚は他の部位に比較して薄くなる。このため、放熱効果を期待することが可能となる。
【0025】
捻り部材21は、金属板からなり、この金属板を複数回捻ることで、収容室20の径と略等しい外径と、収容室20の長さと略等しい長さを有している。そして、収容室20に収容したとき、この収容室20にスパイラル状の二つの通路を形成する。この通路の長さは収容室20の長さよりも大きくなり、逆火したガスが該通路を流通する際に十分に捻り部材21と接触することが可能となる。このため、逆火したガスを捻り部材21によって冷却することが可能となる。
【0026】
捻り部材21を構成する金属板の材質を限定するものではない。しかし、安定した捻り加工を行うことが可能な材料であることが必要である。このような材料としては、ステンレス鋼板や鋼板、或いは真鍮板や青銅板等があり、何れも好ましく用いることが可能である。また、捻り部材21の厚さは厚いことが好ましいが、余り厚くなると捻り加工を行うことが困難となる。
【0027】
捻り部材21の捻り回数も限定するものではない。しかし、捻り回数が少ないと、逆火したときの高圧、高温のガスが捻り部材21に十分に接触することなく上流側に逆流して効果的な逆火防止を実現することが困難となる。
【0028】
本実施例では、厚さが約0.5mmのステンレス鋼板を用い、約3.5回捻ることによって捻り部材21を形成している。捻り部材21をこのように構成することによって、逆火したガスが捻り部材21に到達したとき、このガスは捻り部材21の表面に衝突し、且つ捻り部材21の表面に沿って上流側に流れる。このため、逆火したガスが捻り部材21に衝突することで該ガスの流速が低下し、同時に捻り部材21によって冷却される。特に、混合ガス管4の収容室20に対応した部位の肉厚が他の部位と比較して薄いため、大気への放熱効果を期待することが可能である。
【0029】
上記の如く構成されたガス切断トーチAに於ける逆火を防止する機能について説明する。切断作業の長時間化や火口Bに対するスパッタの付着、等の原因によって火口Bで逆火が生じると、この逆火に伴う高圧、高温のガスが火口Bからトーチヘッド2の混合ガス通路2cを逆流して混合ガス管4の混合ガス通路4aから収容室20に至り、収容された捻り部材21に衝突する。
【0030】
逆火したガスは捻り部材21に衝突することによって圧力が低下し、これに伴って流速が減少する。更に、収容室20の径が混合ガス管4の混合ガス流路4aの内径よりも大きいため、トーチヘッド2側の混合ガス流路4aから収容室20に到達した時点で断面積の差に応じて流速が減少する。また、逆火したガスが捻り部材21に衝突して該捻り部材21の表面に沿って流れることによって、ガスは捻り部材21によって冷却されることとなり、温度が低下する。更に、収容室20の周壁の肉厚が薄いため、混合ガス管4の放熱効果を期待することが可能であり、円滑に逆火したガスの温度を低下させることが可能となる。
【0031】
上記の如く、火口Bで逆火したガスは、収容室20、捻り部材21に到達したときに、逆火に伴う高い圧力が低下し、同時に逆火に伴う高い温度が低下する。このため、収容室20、捻り部材21で消火され、逆火が上流側である目部分配部材5に到達することがなく、安全性を確保することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のガス切断トーチAは、略全てのトーチミキシング型の手持ち式ガス切断機に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
A ガス切断トーチ
B ガス切断火口
1 本体
2 トーチヘッド
2a 装着孔
2b 切断酸素通路
2c 混合ガス通路
3 切断酸素管
4 混合ガス管
4a 混合ガス通路
4b ニップル
4c 混合管
4d 接続管
5 前部分配部材
5a 切断酸素通路
5b 予熱酸素通路
5c 燃料ガス通路
6a 酸素通路
6b 燃料ガス通路
6 後部分配部材
7 握り管
8 空間
9 切断酸素バルブ
10 予熱酸素バルブ
10a ニードル
10b インジェクター
11 燃料ガスバルブ
12 酸素配管
20 収容室
21 捻り部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス切断火口を装着するトーチヘッドと、切断酸素バルブと予熱酸素バルブと燃料ガスバルブとを設けた本体と、トーチヘッドと本体を接続して切断酸素を流通させる切断酸素管と、トーチヘッドと本体とを接続して予熱酸素と燃料ガスとの混合ガスを流通させる混合ガス管と、を有するガス切断トーチであって、前記混合ガス管に於けるトーチヘッド側に、該混合ガス管の内径よりも大きい径を持った収容室を形成すると共に、該収容室に金属板を複数回捻って形成した捻り部材を収容したことを特徴とするガス切断トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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