説明

ガス吸入用治具

【課題】 高圧ガス容器内から放出されるガスの流速を緩和し、安全にガスを吸引することができるとともに、容器への装着も容易なガス吸入用治具を提供する。
【解決手段】 ガス吸入用治具11は、高圧ガス容器12に設けられている容器弁のガス出口部13に装着される容器接続部14と、該容器接続部14から一側方に向けて拡開したフード部15と、該フード部15の内部に複数の支持部材16を介して設けられた干渉板17とを有している。干渉板17は、前記ガス出口部13から噴出するガスの噴出方向に対向配置されるとともに、干渉板外周とフード部内周との間にガス流路18が設けられている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸入用治具に関し、詳しくは、高圧ガス容器内のガス、例えば酸素ガスを吸引する際に使用するガス吸入用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器系疾患を持つ患者は、酸素ガスを常時吸引する必要があり、高圧酸素ガスを充填した軽量な高圧ガス容器(以下、単に容器という)を外出時にも携帯し、常時酸素富化ガスを吸引している。患者は、容器内の酸素ガスを使い尽くすと、空容器を新たな充填済み容器に容器ごと交換する。
【0003】
容器内に酸素を充填するガス供給会社は、酸素充填後の品質管理の1つとして、不純物が含有されていないことを確認している。品質管理を行う手段として、ガス充填所では、ガスクロマトグラフィー、濃度計、あるいは別途化学分析を行い、充填ガス中に不純物が混入したかどうかを確認する。これらの測定器は万能ではなく、測定できる不純物は、充填工程で混入の可能性がある不純物に限定されてしまう。
【0004】
一方、容器は、不特定多数の患者が使用しているため、充填工程で予測される不純物以外の不純物が混入している可能性もある。対象としての不純物は限りなく、全ての不純物を検出できる計測機器はない。
【0005】
計測機器を用いずに容器内の高圧酸素ガス中の不純物の存在を確認する手段の一つとして、人間の嗅覚を利用する方法がある。人間の嗅覚は、不純物の種類や個人差により変動はあるが、一般的にppmレベルの臭気を確認することができるので、臭気のある微量成分の存在の確認には非常に有効である。
【0006】
現状の臭気確認方法は、容器の容器弁をゆっくりと開き、容器内の高圧ガスを大気に放出しながら鼻を近づけて臭気を確認することで行われている。容器内の酸素ガスは1〜20MPaの高圧であるため、放出されるガスの流速は非常に速く、また、容器弁を開操作と共に微開に調整することは困難である。
【0007】
速い流速のもと容器弁の出口近くでガスの臭気を嗅ぐことは非常に危険なため、容器弁出口から一定の間隔を保ち、流速が落ちた所で臭気を確認することとなる。このため、放出されたガスが周囲の空気を巻き込み、臭気が薄れ、正確に判断することは困難となる。このように、現在の方法では、容器中の高圧酸素ガスに臭気があったとしても、無臭と判断される場合があり、品質管理の方法として人間の嗅覚が十分に活用されていない。
【0008】
また、別の形態として、運動後の疲労回復を目的とする酸素ガスが充填された容器が販売されているが、この種の容器の充填圧力は低いため、酸素は勢いよく噴出することはない。このような形態では、効率よく酸素ガスのみを吸引することができるように、容器のガス出口部に吸入マスクを取り付けるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭61−43179
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、低圧酸素ガスを吸引するための吸入マスクを前述のような高圧ガス容器内の酸素ガスを吸引する際に使用しても、吸入マスクから放出されるガスの流速が非常に速いため、危険であることは変わりはない。
【0010】
そこで本発明は、高圧ガス容器内から放出されるガスの流速を緩和し、安全にガスを吸引することができるとともに、容器への装着も容易なガス吸入用治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のガス吸入用治具は、高圧ガス容器内のガスを吸引するためのガス吸入用治具において、前記高圧ガス容器のガス出口部に装着される容器接続部と、該容器接続部から拡開したフード部と、該フード部内に支持部材を介して設けられた干渉板とを有し、該干渉板は、前記ガス出口部から噴出するガスの噴出方向に対向配置されるとともに、干渉板外周とフード部内周との間にガス流路が設けられていることを特徴とし、特に、前記容器接続部がヨーク弁用のガットであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス吸入用治具によれば、ガス出口部から高速で噴出したガスが干渉板に衝突し、干渉板の周囲に設けられたガス流路から噴出するので、高速のガスが吸引者に直接当たることがなくなる。また、フードによって周囲の空気を巻き込むことを防止できるので、容器内から噴出したガスのみを確実に吸引することができる。さらに、容器接続部がヨーク弁用のガットの場合は、ヨーク弁を備えた容器への取り付けにスパナ等の工具が不要となり、治具の取り付け、取外しを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一形態例を示すガス吸入用治具の一部断面平面図、図2はガス吸引側から見たガス吸入用治具の正面図、図3はガス吸入用治具を高圧ガス容器に装着した一例を示す側面図である。
【0014】
このガス吸入用治具11は、高圧ガス容器12に設けられている容器弁のガス出口部13に装着される容器接続部14と、該容器接続部14から一側方に向けて拡開したフード部15と、該フード部15の内部に複数の支持部材16を介して設けられた干渉板17とを有している。
【0015】
干渉板17は、容器接続部14側を凹とした円形の皿状部材であって、その中心をフード部15の軸線上に位置させて前記ガス出口部13から噴出するガスの噴出方向に対向するように配置されている。この干渉板17は、周方向に等間隔で設けた4枚の前記支持部材16により、フード部15の開口端より僅かに内側に保持されている。
【0016】
さらに、干渉板17の外径は、該干渉板17が位置する部分のフード部15の内径より小さく形成されており、干渉板17の外周とフード部15の内周との間には、円環状のガス流路18が設けられている。
【0017】
ガス流路18の面積は、ガス出口部13から噴出するガスの流速を十分に落とせるように設定されており、通常は、0.03〜0.05mの範囲が適当であり、例えば、フード部15の内径は、通常10〜13cm程度であるから、干渉板17の外径は、フード部15の内径に対して0.3〜0.7の範囲、例えば50mm程度に設定すればよい。
【0018】
干渉板17は、ステンレス鋼等の金属で形成することが好ましいが、容器12から高速で噴出したガスが衝突しても壊れない程度の強度をもつものであれば、各種合成樹脂等を使用することができる。
【0019】
このように形成したガス吸入用治具11を取り付けた高圧ガス容器12の容器弁を開いてガス出口部13からガスを噴出させると、高速で噴出したガスは、干渉板17に衝突することによってフード部15から高速状態のまま噴出することが防止され、さらに、皿状部材の周縁に形成されているリング状突出片に当たってフード部15内を逆方向に流れる状態となり、フード部15内に拡散してフード部15内の空気を追い出すように流れてからガス流路18を通ってフード部15の開口端から低速で噴出する。
【0020】
したがって、高速のガスが吸引者に直接当たることがなくなり、ガスの吸引や臭気の確認を安全に行うことができ、容器弁の開度を微調整する必要がなくなるので、ガスの吸引や臭気の確認を容易に行うことができる。さらに、臭気の確認の際には、フード部15内の空気を速やかに置換することができ、短時間で確実に臭気の有無を確認することができる。
【0021】
このガス吸入用治具11を使用して臭気の確認を行う際には、まず、対象となる容器のガス出口部にガス吸入用治具11の容器接続部14を取り付け、容器弁を開いて容器12内に充填されたガスの放出を開始する。ガスの放出を数秒間行ってフード部15内の空気を容器から噴出したガスに置換させる。そして、フード部15の開口端である臭気確認部に鼻を近付け、緩やかに流出するガスの臭気を確認する。臭気確認後は、容器弁を閉じてガスの放出が停止したことを確認した後、ガス吸入用治具11を容器から取り外す。
【0022】
次に、ガス吸入用治具11を使用して、内容積が0.5〜3.0L程度のFRP容器に14.7MPaや19.6MPaの圧力で充填した医療用酸素ガスの臭気の確認を行った。この臭気の確認は、ガス充填所において、容器内に異臭が混入していないことを確認するために行われているものである。
【0023】
容器接続部14には、図1に示すように、医療用酸素ガスに多く用いられている酸素ガス用ヨーク弁に接続可能なガットを用いた。干渉板17は、外径が50mmで厚さが1mmのSUS304製の板材を皿状に加工するとともに、周囲に幅5mm程度の4枚の支持部材16を一体的に形成したしたものを使用した。フード部15は、肉厚が0.2mm程度のステンレス鋼を円錐状に加工したものを使用し、干渉板17の底面(開口側面)がフード部15の開口端から2mm程度内側に位置するようにして両者を接合した。
【0024】
また、フード部15は、開口端の直径が10〜13cmの範囲のものを数種類作成した。各治具におけるガス流路18の面積は0.03〜0.05mとなり、ガス流路18を通って流出する酸素ガスの流速は、正確に臭気を確認することができる流速である1m/s程度まで低減させた。
【0025】
充填架台に容器を30〜40本取り付け、通常の手順で充填作業を実施した。充填された容器から1本の代表容器を取り出し、ガス吸入用治具11の容器接続部14であるガットを容器の酸素ガス用ヨーク弁に取り付けた。取り付け終了後、容器弁を約1/2回転ほど回して開弁し、容器弁出口から14.7又は19.6MPaで充填された酸素ガスを放出させた。
【0026】
約5秒間放置した後、ガス流路18の出口近傍の臭気確認口に鼻を近付けて放出ガスの異臭の有無を確認した。この異臭の有無の確認を繰り返したが、充填圧力や容器内容積に関係なく、また、フード部15の開口端の直径に関係なく、容器弁出口からの高速の酸素ガスが鼻や顔に当たることはなく、安全に作業を行うことができた。さらに、フード部15によって周囲の空気の巻き込みを防止できるので、酸素ガスのみを吸引することができ、確実な臭気確認を行うことができる。
【0027】
すなわち、このような医療用酸素ガスの臭気の確認に本発明のガス吸入用治具を用いることにより、容器弁の微妙な開度調節を必要とせず、酸素ガスの高速流による周囲の空気の巻き込みがなく、容器に充填した酸素ガスを大気中にゆっくりとした流速で放出することになり、容器内の高圧酸素ガスの異臭をより正確に確認することが可能となる。また、人体への危険性も回避することが可能となる。その結果、人間の嗅覚を十分に活用することができ、充填した酸素ガスの製品性を向上させることができる。また、容器弁をヨーク弁とし、容器接続部14をガットとすることにより、容器への取付けが容易となる。
【0028】
なお、フード部15の形状は、容器接続部14から徐々に拡大する円錐形が望ましいが、腕状、角錐状等の形状でも同様の効果を得ることができる。また、円柱状、角柱状であっても、ガス置換に要する時間が若干長くなる可能性があるものの、加工上安価に製造できるという効果を有する。さらに、干渉板17は、容器接続部14側が凹となる皿状としたが平板状であってもよい。また、干渉板17は、高速のガスを遮断できれば、フード部15の開口端より僅かに突出していてもよく、フード部15の中間付近にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一形態例を示すガス吸入用治具の一部断面平面図である。
【図2】ガス吸引側から見たガス吸入用治具の正面図である。
【図3】ガス吸入用治具を高圧ガス容器に装着した一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
11…ガス吸入用治具、12…高圧ガス容器、13…ガス出口部、14…容器接続部、15…フード部、16…支持部材、17…干渉板、18…ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガス容器内のガスを吸引するためのガス吸入用治具において、前記高圧ガス容器のガス出口部に装着される容器接続部と、該容器接続部から拡開したフード部と、該フード部内に支持部材を介して設けられた干渉板とを有し、該干渉板は、前記ガス出口部から噴出するガスの噴出方向に対向配置されるとともに、干渉板外周とフード部内周との間にガス流路が設けられていることを特徴とするガス吸入用治具。
【請求項2】
前記容器接続部は、ヨーク弁用のガットであることを特徴とする請求項1記載のガス吸入用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−61415(P2007−61415A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252168(P2005−252168)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】