説明

ガス導管内の物性変化推定方法、物性変化推定プログラム、及び物性変化推定装置

【課題】輸送するガスの置換、混合比の変更による導管内の物性変化挙動を適確に把握することのできる物性変化推定方法等を提供する。
【解決手段】ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を把握するための物性変化推定方法において、前記混合比を変更させる地点から下流における、前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、前記変更前後の混合比、前記ガス導管内の流速、及び拡散係数に基き、所定の拡散方程式を用いて求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの輸送導管を成分の異なる複数種類のガス輸送に使用する場合における、導管内の物性変化推定方法等に関し、特に、輸送するガスの置換や混合比の変更を行なう際の導管内の混合挙動を適確に把握することのできる物性変化推定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスは、地域に張り巡らせたガス導管網を経由して、ガス製造工場等のガス供給元からガスを使用するガス消費設備等へ供給される。また、供給する都市ガスは、複数の地域から産出され組成のバラツキがある天然ガスに、LPG、ブタン、プロパンなどを混合して熱量が一定になるように調整がなされる。しかし、ガスの輸送導管の有効活用や、ガス輸送導管を持たない事業者への公平な参入機会の創出などの要請から、複数の地域から産出した天然ガスをそのままガス導管網に導入するなど、熱量がそれぞれ異なる複数種類のガスがガス導管網に導入されることもある。そこで、下記特許文献1では、複数種類の燃料ガスが流されるガス導管網からの供給ガスを監視し、ガス成分の変化に応じてガス設備の燃焼制御を行なう制御方法について提案されている。
【0003】
また、下記特許文献2では、上述のようなガス導管網において、複数のガス製造所からガス供給がなされる場合に、需要者に対して安定したガス性状を有するガスを供給するために、ガス導管網のマテリアルバランスから各地点でのガス素性を求めることについて提案されている。
【0004】
さらに、下記非特許文献1においては、ガス導管内に異種ガスを混合した際に、その異種ガスがどこまで混合してきたかを計算する方法について記載されており、ここで用いられる手法においても、各地点でのガス濃度は系内のマテリアルバランスから計算されている。
【特許文献1】特開2002−147752号公報
【特許文献2】特開2004−295567号公報
【非特許文献1】LIWACOM社、“Flow Processes”、[online]、インターネット<URL:http://www.liwacom.de/index.php?id=45&L=0>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、従来もガス導管網に種類の異なるガスが流されることがあったが、流されるガスの性状はそれほど大きく異なるものでなく、ガス導管網に異なる種類のガスを混合した際などの導管内における物性変化の挙動についてはあまり厳密に捉えなくてもよかった。
【0006】
しかしながら、今後は、益々エネルギーの多様化の要請が高まり、ガス導管網をこれまで以上に性状の異なる異種ガスの輸送に使用することが考えられる。また、ガス供給の新規参入者等のガス輸送を代行する託送に、ガス導管網が利用される頻度が多くなることが予想され、これによってもガス導管網において、性状のかなり異なるガスの輸送を行なう機会が増えると考えられる。
【0007】
従って、上記託送を行なう際など輸送するガスの性状が変化する場合には、供給されるガスを消費する設備等においては、ガスの性状が大きく変化する場合もあり、その変化挙動をこれまでよりも厳密かつ適確に把握しなければ設備の運転に支障をきたしたり、危険が生じてしなう場合もある。
【0008】
前述のように、従来もガス導管網の各地点におけるガス性状を把握する手法が提案されているが、これらの手法は導管網の系全体におけるマテリアルバランスに基づくマクロ的なものであるので、導管内を流れるガスの性状を変化させてからの、ガス性状の時間的、空間的な変化挙動をミクロ的に捉えることはできない。従って、従来法のままでは、ガスの性状を変化させた地点で、直ぐに変化後の性状のガスとなり、そのままの性状のガスとしてガス消費設備まで送られると見ることになってしまう。これにより、場合によっては、急なガス性状の変化が危険であるとして、実際には徐々に性状が変化するにもかかわらず、ガス消費設備に攪拌装置を設置せざるを得なくなってしまう。また、一方、場合によっては、直ぐに変化後の性状のガスが得られると考えて設備の運転モードを切り替えてしまい、実際にはまだ変化後の性状のガスが得られずに支障をきたしてしまうことも考えられる。
【0009】
このように従来の手法では、ガス導管内を流れるガスの性状を変化させた際に、ガス消費設備に供給されるガスの性状がどのように変化していくかを把握することができないので、この挙動を厳密に捉える必要がある箇所においては、実際に送られてくるガスをサンプリングしてその成分を測定するために、サンプリング装置や測定器を設置する必要があり、相当の費用が必要となってしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、輸送するガスの置換、混合比の変更による導管内の物性変化挙動を適確に把握することのできる物性変化推定方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を把握するための物性変化推定方法において、前記混合比を変更させる地点から下流における、前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、前記変更前後の混合比、前記ガス導管内の流速、及び拡散係数に基き、所定の拡散方程式を用いて求めることである。
【0012】
更に、上記の発明において、その好ましい態様は、前記所定の拡散方程式は、前記ガス導管の軸方向に関する1次元の式であることを特徴とする。
【0013】
更に、上記の発明において、好ましい態様は、前記拡散係数は、乱流拡散係数であることを特徴とする。
【0014】
また、上記の発明において、一つの態様は、前記各ガスの濃度変化挙動を求めることは、前記ガス導管の前記混合比を変更させる地点から下流方向の任意の地点における、前記混合比を変更させた後の任意時間における各ガスの体積分率を求めることであることを特徴とする。
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を推定する処理をコンピュータに実行させる物性変化推定プログラムが、前記コンピュータへの入力情報及び又は前記コンピュータが格納している情報から、少なくとも、前記各ガスの種類、前記変更前後の混合比、前記ガス導管の物性値及び前記ガス導管内の流速を含む推定条件を取得する工程と、前記取得された各ガスの種類、ガス導管の物性値、及びガス導管内の流速に基いて拡散係数を求める工程と、前記求めた拡散係数、前記変更前後の混合比、及び前記ガス導管内の流速に基き、前記混合比を変更させる地点から下流における前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、所定の拡散方程式を用いて求める工程と、前記求めた濃度変化挙動を示す情報を出力する工程と、を前記コンピュータに実行させることである。
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の更に別の側面は、ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を推定する物性変化推定装置が、前記物性変化推定装置への入力情報及び又は前記物性変化推定装置が格納している情報から、少なくとも、前記各ガスの種類、前記変更前後の混合比、前記ガス導管の物性値及び前記ガス導管内の流速を含む推定条件を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された各ガスの種類、ガス導管の物性値、及びガス導管内の流速に基いて拡散係数を求め、当該求めた拡散係数、前記変更前後の混合比、及び前記ガス導管内の流速に基き、前記混合比を変更させる地点から下流における前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、所定の拡散方程式を用いて推定する推定処理手段と、前記推定処理手段により推定された濃度変化挙動を示す情報を出力する出力手段と、を有することである。
【0017】
本発明の更なる目的及び、特徴は、以下に説明する発明の実施の形態から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、図において、同一又は類似のものには同一の参照番号又は参照記号を付して説明する。
【0019】
図1は、本発明を適用したガス導管内の物性変化推定方法等の対象となるガス導管網を例示した図である。本発明を適用した物性変化推定方法等の実施の形態例は、図1に示すガス導管網1のような複数種類のガス輸送に用いられるガス導管網において、輸送するガスの置換、混合比の変更を行なった際の、導管内の物性変化の挙動を拡散方程式を用いて適確に把握しようとするものである。
【0020】
図1に示すガス供給元2は、ガス導管網1内に設置されるガス製造工場(2a、2c)、または、ガス導管網1外のガス製造工場やその他のガス供給源(2b)であり、当該ガス導管網1について複数存在する。また、ガス消費設備3は、前記ガス供給元2から供給されるガスを使用する燃焼装置等の設備とその設置箇所を表しており、これも当該ガス導管網1に複数存在する(図1の例では、3a〜3e)。
【0021】
これらガス供給元2から送られるガスは、ガス導管網1を経由して各ガス消費設備3へ供給されるが、各ガス供給元2から送られるガスの性状及び量、各ガス消費設備3におけるガス消費量などにより、ガス導管網1内の各所において輸送されるガスの性状及び量は変化する。例えば、図1において、点線で囲われた部分イに着目すると、ガス導管網1のAで示す部分では、ガス供給元2aからのガス(ガスa)とガス供給元2bからのガス(ガスaとは種類(性状)の異なるガスb)の両方が流れる構造となっている。従って、当該ガス導管1の使用方法によって、Aの部分を流れるガスの性状及び量は変化することになる。
【0022】
例えば、通常はAの部分をガス供給元2aからのガスaのみの輸送に使用しているが、時々、ガス供給元2bからのガスbの託送に用いるという場合が考えられる。この場合、基本的にはガスaとガスbを混合して輸送するが、何らかの理由によってその混合比を変更する場合や、輸送されるガスをガスaからガスbに置換する場合や、ガスbの成分が変化する場合等も考えられる。
【0023】
このような、ガス導管1のAの部分に流される2種類のガスの混合比の変更は、当該2種類のガスが合流する図1のBで示す地点で発生することになるが、Aの部分に流されるガスを使用する例えばガス消費設備3aの地点(図1のC)においては、前記ガスの混合比の変更後、供給されるガスの性状が時間の経過とともに変化していくことになる。本実施の形態例に係る物性変化推定方法等では、このように、種類の異なるガスの混合比を変更した場合に、その下流におけるガス導管1内のガスの性状変化を推定しようとするものである。
【0024】
図2は、本実施の形態例に係る手法を説明するための図である。図2に示すのは、2種理の異なるガスa、bをそれぞれ輸送する二つの導管が合流し、合流後のガス導管1がガス消費設備3aにつながっている場合、すなわち、図1のイ部分に示した場合の例である。本実施の形態例に係る物性変化推定方法は、2種類のガスが合流する地点でそれらガスの混合比を変更させた際に、合流後のガス導管1内における各ガスの濃度変化を求めるものであり、より具体的には、合流後のガス導管1内に流すガスa+ガスbの中のガスbの濃度C(以下、ガスbの濃度とは合流後のガス導管1内におけるガスa+ガスbの中のガスbの濃度を指す)をαからβに変更した場合に、混合発生点(ガス導管1の軸方向の距離をxとするとx=0の地点、前記合流地点)から下流に任意の地点の、濃度の変更から任意の時間経過後における、ガスbの濃度Cを求めるものである。例えば、この手法により、混合したガスを使用するガス消費設備3aにおける(図2の消費点(x=Lの地点)における)ガス性状の時間的変化を求めることができる。具体的な推定手法については後述するが、当該推定には、図2に示す、合流するガスa、bの種類、合流後のガス導管1内の流速u、ガス導管1の物性値(摩擦係数λ)等が用いられる。
【0025】
図3は、図2に示した場合における、混合比の変更後の濃度変化挙動を例示した図である。図3の(a)の左側は、前記混合発生点(x=0)で、ガスbの濃度Cをαからβに変更した直後(t=t0)における、混合発生点前後のガスbの濃度Cを表している。この濃度変更後、時間の経過とともに混合ガスはガス導管1内を下流に移動していくが、その間にガスの拡散現象により、混合比が変更された前後の混合ガス間の境目はぼやけたものになっていく。すなわち、当該境目はガス導管1の軸方向にある幅を有するようになる。従って、ガスbの濃度変更後、ある時間(Δt)経過後には、前記境目部分は混合発生点からΔxだけ下流に移動し、その前後におけるガスbの濃度は、例えば、図3の(a)の右側に示すような状態となる。図に示されるように、図3の(a)の左側においてロで示される部分は、前記拡散現象に伴い傾斜をもつようになる。
【0026】
図3の(b)は、図2における消費点(x=L)におけるガスbの濃度の時間的変化を例示している。図に示すように、前記境目部分の通過に伴い、消費点ではガスbの濃度がある時間をかけてαからβに変化していくと考えられる。この濃度変化の挙動を適確に捉えることは、ガス消費設備3にとって重要なことである。
【0027】
本実施の形態例に係る物性変化推定方法等は、このようなガス混合比の変更後の挙動を適確に把握しようとするものである。なお、ガス濃度が100%、すなわち、そのガスだけの状態、の場合の濃度Cを1で表すものとすると、前記ガスbの濃度変更において、αが0、βが1である場合には、ガスaからガスbへ置換することを意味することになる。ここでは、かかる置換も含めてガスの混合比の変更と称することとする。
【0028】
なお、本発明におけるガス(例えば、ガスa、ガスb)とは、単成分で構成されているガス及び複数成分で構成されているガスのいずれをも意味しており、本実施の形態例におけるガスa、bについては、単成分又は複数成分のどちらであっても良い。
【0029】
さらに、ガスbが複数成分で構成されている場合で、ガスb中の成分変化により、ガスbからガスb'へ変化する場合には、そのガスbを構成している単成分毎に、ガスaとの合流後のガスa+ガスb'中の当該の単成分毎に濃度の変化を本物性変化推定方法にて推定し、かかるのちにその成分毎の濃度から物性を求めることで、ガスbからガスb'への変化に対しての、合流後のガス導管内のガス物性変化を推定できる。
【0030】
図4は、本実施の形態例に係る物性変化推定装置の構成図である。図4に示す物性変化推定装置10が、本実施の形態例に係る物性変化推定装置であり、具体的には、パーソナルコンピュータなどのコンピュータシステムで構成することができる。入力部11は、前述した混合比の変更後の挙動を推定するために必要な各種推定条件の入力を行なうための部分である。例えば、ガスbの変更前後の濃度(α及びβ)、ガス導管1内の流速uなどが当該入力部11から物性変化推定装置10に入力される。なお、この入力部11は、当該装置の操作者が入力操作を行なうためのキーボード、マウス、ディスプレイ等、及び前記入力操作を促すための画面表示や入力されたデータの取得の処理を記述したプログラム、当該プログラムに従って処理を実行する制御装置(CPU)等で構成される。
【0031】
次に、推定処理部12は、前記入力部11から入力された推定条件等に基づいて、混合比の変更後のガス導管1内におけるガス濃度変化を推定する部分である。推定処理の具体的な内容については後述するが、当該ガス濃度変化の推定に拡散方程式を用いており、この点を大きな特徴としている。なお、当該推定処理部12は、処理内容を記述したプログラム、当該プログラムに従って処理を実行する制御装置(CPU)等で構成される。
【0032】
データ格納部13は、前記推定処理部12が処理を実行するために必要な各種データを格納するデータ記憶手段であり、推定処理の度に操作者によって入力部11から入力しなくてはならないデータ以外のデータを格納する。例えば、本物性変化推定装置10が処理の対象とするガス導管網1の各所における導管の寸法(径、長さ等)及び物性値、輸送する各ガスの物性値などが予め格納される。
【0033】
また、出力部14は、前記推定処理部12が行なった推定処理の結果を出力する部分であり、ガス導管1の所定の箇所又は所定の時間におけるガス濃度変化の推定結果を、表形式やグラフ形式で出力する。なお、この出力部14は、ディスプレイ、プリンタへの出力インターフェース等、及び前記ディスプレイへの画面表示や前記プリンタへの出力の処理を記述したプログラム、当該プログラムに従って処理を実行する制御装置(CPU)等で構成され、前記推定結果は、画面表示や紙等への印刷という形で出力される。
【0034】
本物性変化推定装置10は、以上説明したような構成を有し、以下に示すような内容で処理を実行する。図5は、本物性変化推定装置10による処理の流れを例示したフローチャートである。当該装置を用いてガス導管1内のガス混合比を変更させた場合のその後の挙動を推定しようとする操作者は、まず、前述した入力部11を用いて推定処理に必要な各種の条件を入力する(ステップS1)。なお、前述のとおり、本物性変化推定装置10では、図2に示した状態を前提とした推定処理を行なうものとする。この推定条件の入力では、ガス導管1で輸送されるガスa、bの種類、混合比変更前後のガスbの濃度(α、β)、混合ガスの流速u、ガス導管1の位置(ガス導管1を特定する情報)等が入力され、ガスの濃度変化挙動を把握したい特定の位置(例えば、図2の消費点等)がある場合にはその位置を特定する情報を入力する。なお、データ格納部13に、ガス導管網1の各所における導管の寸法及び物性値、各ガスの物性値などが格納されていない場合には、これらのうち必要なデータについては操作者によって入力される。
【0035】
次に、前記入力操作が終了すると、推定処理部12が処理を開始し、まず、前記入力されたデータとデータ格納部13に格納されたデータを用いて、拡散しやすさを表す拡散係数を決定する(ステップS2)。具体的には、前記入力されたガスa、bの種類、流速u、及びガス導管1の摩擦係数λに基づいて、乱流拡散係数Kxを決定する。ガス導管1の摩擦係数λは、前記入力により対象とするガス導管1の箇所が特定されるので、その箇所のガス導管の摩擦係数がデータ格納部13から取得される。また、後述する拡散方程式では、一般に、分子拡散係数Dmと前記乱流拡散係数Kxの双方が使用されるが、ブラウン運動に基づく分子拡散係数Dmの値が乱流拡散係数Kxの値よりも無視できる程小さいため、本実施の形態例では、乱流拡散係数Kxのみを使用するようにしている。この点は、本実施の形態例における特徴の一つであり、従って、ここでは、乱流拡散係数Kxのみを決定する。
【0036】
次に、推定処理部12は、下記(1)式に示す拡散方程式を用いて、混合発生点(x=0)で混合比が変更(ガスbの濃度C:α→β)された後のガス導管1内の濃度(具体的には、体積分率)変化の挙動を求める(ステップS3)。ここで用いられる拡散方程式は、推定の対象としているガス導管1内の現象が流れに基く乱流拡散であり、マクロ的には導管の半径方向の濃度分布は無視できると考えられるので、導管の軸方向の1次元の式として、下記のとおり表される。
【0037】
【数1】

但し、各記号は、図2等に示したとおり、
C:ガスbの濃度
t:混合比変更後の時間
x:混合発生点からの距離
Kx:乱流拡散係数
である。
【0038】
このように、2種類のガスの混合比を変更した際の濃度変化挙動の把握に1次元の圧縮方程式を適用することが、本実施の形態例における大きな特徴である。また、前述のとおり、一般の1次元の式においては、上記(1)式のKxが(Dm+Kx)に置き換わるが、Dmの値が小さいことから、本実施の形態例ではこの値を無視している。この点も、特徴の一つである。
【0039】
前記(1)式を用いた処理は、具体的には、前記求めた拡散係数Kx、前記入力された流速u、及び混合比変更前後のガスbの濃度(α、β)を、(1)式に与え、一般的な数値解析の手法を用いて(1)式を解き、任意の時間(ti)における各位置の(ガスbの)濃度、又は任意の位置(xi)における各時間の(ガスbの)濃度を求める。このように、ガスbの濃度が求まれば、もう一方のガスaの濃度も、1からガスbの濃度を差し引くことにより容易に求めることができる。
【0040】
以上の推定処理が終了すると、推定結果が前記出力部14から出力される(ステップS4)。図6は、出力される推定結果を例示した図である。図6の(a)は、任意の時間(t1、t2、t3)における各位置の(ガスbの)濃度を示しており、また、図6の(b)は、所望の位置(x=L)における各時間の(ガスbの)濃度を示している。このような出力がなされることにより、例えば、消費点においてガスbの濃度変化(α→β)がどれ程の時間(例えば、図6の(b)のT)で行われるかを把握することができる。
【0041】
このように、ガスの混合比を変更した後のガス導管1内の時間的、空間的な濃度変化の挙動が出力されて、当該物性変化推定装置10で行なわれる一連の推定処理が終了する。そして、混合ガスにおける各ガスの濃度変化が把握できれば、混合ガスの物性変化を把握できることになる。
【0042】
なお、本物性変化推定装置10で推定された結果は、実際の設備を用いた実験による結果とよく一致することが検証されており、図2に示したような場合におけるガス導管1内の濃度変化挙動の把握に有効に用いることができる。
【0043】
また、本物性変化推定装置10は、スタンドアローンのシステムとしたが、ネットワークを介して、操作者による入力や結果の出力が行なわれるようにしてもよい。また、ガス導管網1の各所で測定されるガス流速などのリアルタイムデータを推定の入力値として用いるべく、それら測定装置等と通信可能にして用いてもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態例における物性変化推定装置10では、異なる種類のガスを輸送するガス導管1において、輸送する混合ガスの混合比を変更した際の濃度変化の挙動を、簡素化した拡散方程式を用いて用意に推定することができる。これにより、これまではなされていなかった、秒オーダーでの前記濃度変化挙動を正確に把握することが可能となり、輸送されるガスの成分が変更された際のガス消費設備3における適切な対応が取れるようになる。
【0045】
また、前記濃度変化挙動の正確な把握により、ガス消費設備3においてガスの濃度変化が緩やかに行われることが判明した箇所等においては、必要のない攪拌装置等の設置を省くことができる。また、同様に、濃度変化を把握するためのサンプリング装置及び測定器等の設置も必要なくなる。
【0046】
さらに、本物性変化推定装置10により、あるガス消費設備3における濃度変化挙動が把握された際に、その変化が急であり当該設備において対応できないことが判明した場合には、本物性変化推定装置10を用いて、急な濃度変化を避けるための多段階(例えば、2段階)での混合比の変更を検討することもできる。図7は、かかる多段階での混合比の変更を説明するための図である。図7の(a)は、1回で目的とする混合比の変更を行なった場合の本装置10による推定結果を示しており、検討対象のガス消費設備3において、T1でガス濃度がαからβへ変化することがわかる。
【0047】
このT1が短すぎ、当該設備において対応ができない場合には、例えば、2段階で目的とする混合比の変更を行なうことを検討する。図7の(b)は、2段階で混合比を変更(α→β′、β′→β)するという条件で本装置10による推定を行った場合の結果を例示している。かかる推定結果は、各段階毎に推定を行い、それらの結果を合わせることによって得ることができる。この例では、T2でαからβへの変更が完了することになり、このT2が当該設備にとって十分な時間であれば、この推定結果を得た2段階での混合比変更が相応しいことが判る。
【0048】
このように、ガスの混合比を変更する際のガス消費設備3にとって相応しい変更方法の検討に、当該物性変化推定装置10を有効に利用することができる。
【0049】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明を適用したガス導管内の物性変化推定方法等の対象となるガス導管網を例示した図である。
【図2】本実施の形態例に係る手法を説明するための図である。
【図3】図2に示した場合における、混合比の変更後の濃度変化挙動を例示した図である。
【図4】本実施の形態例に係る物性変化推定装置の構成図である。
【図5】本物性変化推定装置10による処理の流れを例示したフローチャートである。
【図6】出力される推定結果を例示した図である。
【図7】多段階での混合比の変更を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ガス導管(網)
2 ガス供給元
3 ガス消費設備
10 物性変化推定装置
11 入力部(取得手段)
12 推定処理部(取得手段、推定処理手段)
13 データ格納部
14 出力部(出力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を把握するための物性変化推定方法であって、
前記混合比を変更させる地点から下流における、前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、前記変更前後の混合比、前記ガス導管内の流速、及び拡散係数に基き、所定の拡散方程式を用いて求める
ことを特徴とする物性変化推定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定の拡散方程式は、前記ガス導管の軸方向に関する1次元の式である
ことを特徴とする物性変化推定方法。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2において、
前記拡散係数は、乱流拡散係数である
ことを特徴とする物性変化推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかにおいて、
前記各ガスの濃度変化挙動を求めることは、前記ガス導管の前記混合比を変更させる地点から下流方向の任意の地点における、前記混合比を変更させた後の任意時間における各ガスの体積分率を求めることである
ことを特徴とする物性変化推定方法。
【請求項5】
ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を推定する処理をコンピュータに実行させる物性変化推定プログラムであって、
前記コンピュータへの入力情報及び又は前記コンピュータが格納している情報から、少なくとも、前記各ガスの種類、前記変更前後の混合比、前記ガス導管の物性値及び前記ガス導管内の流速を含む推定条件を取得する工程と、
前記取得された各ガスの種類、ガス導管の物性値、及びガス導管内の流速に基いて拡散係数を求める工程と、
前記求めた拡散係数、前記変更前後の混合比、及び前記ガス導管内の流速に基き、前記混合比を変更させる地点から下流における前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、所定の拡散方程式を用いて求める工程と、
前記求めた濃度変化挙動を示す情報を出力する工程と、を前記コンピュータに実行させる
ことを特徴とする物性変化推定プログラム。
【請求項6】
ガス導管内を流れる互いに種類の異なるガスの混合比を変更させた場合における、前記ガス導管内を流れるガスの物性変化挙動を推定する物性変化推定装置であって、
前記物性変化推定装置への入力情報及び又は前記物性変化推定装置が格納している情報から、少なくとも、前記各ガスの種類、前記変更前後の混合比、前記ガス導管の物性値及び前記ガス導管内の流速を含む推定条件を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された各ガスの種類、ガス導管の物性値、及びガス導管内の流速に基いて拡散係数を求め、当該求めた拡散係数、前記変更前後の混合比、及び前記ガス導管内の流速に基き、前記混合比を変更させる地点から下流における前記ガス導管内の各ガスの濃度変化挙動を、所定の拡散方程式を用いて推定する推定処理手段と、
前記推定処理手段により推定された濃度変化挙動を示す情報を出力する出力手段と、を有する
ことを特徴とする物性変化推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−336795(P2006−336795A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163991(P2005−163991)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】