説明

ガス拡散電極用材料、ガス拡散電極用材料の製造方法及びガス拡散電極用材料の製造装置

【課題】 ガス拡散性、導電性、撥水性に優れるガス拡散電気電極用材料を生産性高く製造する。
【解決手段】 三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔による透気性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する。この親水化処理工程を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する。このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する。これらの親水化工程、塗布工程及び熱処理工程のうち少なくとも一つの工程を、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を処理装置に対して相対移動させながら、連続的に実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散電極用材料、ガス拡散電極用材料の製造方法及びガス拡散電極用材料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池のガス拡散電極には、炭素粒子等よりなる導電性物質の多孔質層を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの撥水性物質をバインダーに用いて形成した材料が広く用いられている。しかし、このようなガス拡散電極用材料は、空孔形状や空孔率が、このガス拡散電極用材料を構成する炭素粒子の種類とポリテトラフルオロエチレンの量とによってほぼ一意に決まってしまう。そのため、ガス拡散電極用材料の排水性を向上さるためにポリテトラフルオロエチレン量を増加させると空孔率が減少してガスの拡散性が阻害され、一方、ガスの拡散性を向上させるためにポリテトラフルオロエチレン量を減少させると排水性が悪化してしまう問題があった。
【0003】
上記問題に対して、特許文献1には、炭素粒子を混合したポリテトラフルオロエチレン膜を作成した後、延伸処理で細孔を形成させることにより、炭素粒子を含んだ微小結節と、その微小結節から延出して微小結節相互を三次元的に連結する炭素粒子を含まないポリテトラフルオロエチレン微細繊維からなる、高空孔率で高い排水性なガス拡散電極用材料が記載されている。
【特許文献1】特開昭57−30270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたガス拡散電極用材料は、以下の問題があった。
【0005】
一つに、微小結節部で導電パスを形成する炭素粒子とポリテトラフルオロエチレンとが混練された状態で存在するため、微小結節部の比抵抗が高く、抵抗損失によるセル性能の低下が発生する。
【0006】
二つに、微小結節から延出して微小結節相互を三次元的に連結するポリテトラフルオロエチレン繊維は、導電パスを形成するために必要な炭素を含まないため、微小結節同士の接触がないところでは、導電パスが形成されない。その結果としてこのガス拡散電極用材料を用いたガス拡散電極の比抵抗が高く、抵抗損失によるセル性能の低下が発生する。
【0007】
三つに、このガス拡散電極用材料の製造の際は、炭素粒子とポリテトラフルオロエチレンとを混練したのち、膜化し、延伸処理を行っている。そのため、ガス拡散電極材料の比抵抗、ひいてはガス拡散電極の比抵抗を下げるために導通パスを増加させる目的で炭素粒子量を増加させた場合には、ポリテトラフルオロエチレン量が減少し、十分な延伸処理ができない。その結果、ガス拡散電極が十分な空孔及びガス拡散性を確保することができない。逆に、空孔及びガス拡散性を上げる目的でポリテトラフルオロエチレン量を増加させた場合には、延伸処理は十分に可能であるが、導通パスを形成する炭素粒子量が減少し、このガス拡散電極用材料を用いたガス拡散電極の比抵抗を増大させ、抵抗損失によるセル性能の低下が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を有利に解決する本発明のガス拡散電極用材料は、三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔による透気性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の微細孔内に連続的に塗布固着され、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の透気性を残して導電性を付与する導電性材料粒子とを備えることを要旨とする。
【0009】
また、本発明のガス拡散電極用材料の製造方法三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔による透気性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する親水化工程と、この親水化処理工程を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する塗布工程と、このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する熱処理工程とを有し、これらの親水化工程、塗布工程及び熱処理工程のうち少なくとも一つの工程を、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を処理装置に対して相対移動させながら、連続的に実施することを要旨とする。
【0010】
また、本発明のガス拡散電極用材料の製造装置は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する親水化処理装置と、この親水化された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する塗布処理装置と、このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する熱処理装置とを備え、これらの親水化処理装置、塗布処理装置及び熱処理装置のうち少なくとも一つの処理装置が、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を当該処理装置に対して相対移動させながら連続的に処理する装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガス拡散電極用材料によれば、ガス拡散電極に用いたときの排水性とガス拡散性に優れ、性能の高い燃料電池を得ることが可能となる。
【0012】
本発明のガス拡散電極用材料の製造方法によれば、ガス拡散電極用材料を連続的な工程により製造するので、生産性と品質の安定性が向上する。
【0013】
本発明のガス拡散電極用材料の製造装置によれば、ガス拡散電極用材料の連続的な製造を、容易に実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明のガス拡散電極用材料が適用される固体分子型燃料電池の一例を模式的に示す断面図である。同図において、固体分子型燃料電池の単セル1は、固体高分子膜2の両面に燃料電極3と酸化剤電極4とを備え、この燃料電極3と酸化剤電極4とで膜電極接合体(MEA)5を構成している。この燃料電極3は、固体高分子膜2に接する触媒層6と、この触媒層6に接するガス拡散層7とを有している。同様に、酸化剤電極4は、固体高分子膜2に接する触媒層8と、この触媒層に接するガス拡散層9とを有している。この燃料電極3のガス拡散層7の背面には、燃料電極側セパレータ10が配設されている。また、この酸化剤電極4のガス拡散層9の背面には、酸化剤電極側セパレータ11が配設されている。この燃料電極側セパレータ10には燃料ガス流路12が設けられ、また、酸化剤電極側セパレータ11には冷却水流路13が設けられている。
【0015】
この固体分子型燃料電池の単セル1において、ガス拡散層7及びガス拡散層9、すなわち、ガス拡散電極は、ガスを通過させるための透気性と導通経路を形成するため電気伝導性を有することが求められる。さらに、反応時に生じる水分(水蒸気や水分)により空孔率が低下しないように撥水性(排水性)を有することが求められる。
【0016】
この本発明のガス拡散電極用材料を適用したガス拡散電極の構造の一例を、従来のガス拡散電極の構造と対比して図2に示す模式図で説明する。図2(a)に示す従来のガス拡散電極は、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン基材21と、カーボン粒子22を撥水剤としてのポリテトラフルオロエチレンにより結合されたカーボン粒子層との積層構造を有している。このカーボン粒子層は、カーボン基材21の表面に、カーボン粒子(カーボンブラック)と撥水剤(PTFE)とを含むスラリーを塗布した後、焼成することによって形成される。このスラリー中のカーボン凝集体は、数100nm〜1μm程度の大きさであるため、カーボン粒子層に形成される細孔(空隙)の大きさは、ほとんどが数100nm〜1μm程度となる。そのため、このカーボン粒子層のガス拡散性(透過性)は、カーボン基材21に比べて不十分であり、また、電極触媒層中の水分の除去も不十分となってしまう。特に、撥水性を向上させるためにPTFE量を増加させると、空孔率が減少し、ガス拡散性が阻害されてしまう。
【0017】
これに対して、図2(b)に示す本発明のガス拡散電極用材料を適用したガス拡散電極は、カーボン基材21と、本発明のガス拡散電極用材料との積層構造を有している。このガス拡散電極用材料は、導電性材料粒子としてのカーボン粒子22が、三次元に連結した微細孔を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜23の当該微細孔内に固着している構成を有している。
【0018】
本発明のガス拡散電極用材料は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を多孔質基材とし、この多孔質基材に導電性材料物質を固着させた構成を有するから、多孔質基材それ自体が撥水性を示し、また、多孔質構造であるため、優れた撥水性を有しつつ、高い空孔率の構造を達成できる。そのため、固体分子型燃料電池の触媒層内の排水が促進され、セル性能が向上する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、連続微細多孔質構造であるため、圧縮強度や耐熱性や耐久性などの物理特性にも優れる。また、従来のカーボン粒子層の代わりに本発明のガス拡散電極用材料を用いたガス拡散層は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の膜厚変動が小さいので層厚が均一化され、固体分子型燃料電池の耐久性が向上する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜について、三次元構造の空孔構造を制御した膜を製造可能なので、所定の空孔率を容易に確保することができ、またこの空孔率の制御も容易である。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は導電性を有しないが、導電性材料粒子をこの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の微細孔内に付着固定させることによりガス拡散電極に求められる導電性を確実に確保することができる。これらのことから、本発明のガス拡散電極用材料をガス拡散電極に用いた固体分子型燃料電池は、優れた特性を示す。
【0019】
本発明のガス拡散電極用材料の組成は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜とカーボン粒子との重量割合で、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が10〜60重量パーセント、カーボン粒子が40〜90パーセント(両者の合計は100パーセント)となる範囲が、導電性とガス透気性と導電性とを十分に確保するために好ましい。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、厚みが5〜50μm、空隙率60%以上、孔径が0.5〜25μm、透気度1〜30リットル/min・cmであることが、カーボン粒子を微細孔内に固着させた後のガス拡散性を確保するために好ましい。
【0020】
また、カーボン粒子は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を塗布装置に対して相対移動させながら、カーボン粒子を含むスラリーをこの塗布装置により連続的に塗布したのち、熱処理により固着させたものであることが、品質の安定性向上と生産性の向上のために好ましい。
【0021】
次に、本発明のガス拡散電極用材料の製造方法について説明する。
【0022】
図3は、本発明の実施形態に係るガス拡散電極用材料の製造工程を含めた、ガス拡散電極の製造工程の一例を示すフロー図である。同図に示される例では、ガス拡散電極の製造工程は、大別して本発明のガス拡散電極用材料を製造する工程(ステップS10)と、ガス拡散電極用材料の製造のために用いられるカーボンスラリーを調製する工程(ステップS20)と、このガス拡散電極用材料を組み合わせて用いられるカーボンペーパーを用意する工程(ステップS30)と、ガス拡散電極用材料とカーボンペーパーとを接合する工程(ステップS40)とを有し、これらの工程を経てガス拡散電極が得られる(ステップS50)。なお、ガス拡散電極用材料が、ガス拡散用電極として要求される各種の特性を満たしている場合には、カーボンペーパーは必ずしも必要ではなく、このときはカーボンペーパーを調製する工程(ステップS30)やガス拡散電極用材料とカーボンペーパーとを接合する工程(ステップS40)が省略可能である。
【0023】
上記したガス拡散電極用材料を製造する工程(ステップS10)は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜をあらかじめ用意し(ステップS11)、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する親水化工程と(ステップS12)と、親水化処理工程を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、カーボン粒子などの導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する塗布工程(ステップS13)と、このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する熱処理工程(ステップS14)とを有している。
【0024】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の用意(ステップS11)では、前述した所定の特性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を用意する。また、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、後述する連続処理を行うために、ある程度の長尺な膜であることが好ましい。
【0025】
親水化処理(ステップS12)は、界面活性剤を含有する有機触媒を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に付着させる処理である。次工程の塗布工程において、水を主成分とする分散媒にカーボン粒子を分散させたスラリーを塗布するに当たり、この親水化処理を行わない場合には、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が撥水性を有するために、このスラリーが多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の内部の微細孔に十分に浸透しないおそれがある。そこで、この塗布工程の前に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の親水化処理を行う。この親水化処理により、カーボン粒子を含有するスラリー(インクスラリー)が当該多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の内部にまで浸透できるようになり、ひいてはカーボン粒子が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜内に均一に分散できるようになる。したがって、このガス拡散電極用材料を用いた固体高分子型燃料電池セルの性能及び耐久性が向上する。
【0026】
スラリー塗布処理(ステップS13)は、カーボン粒子を含有する水溶性のスラリーを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜内部に付着させるための工程であり、スラリーを塗布することで、カーボン粒子を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の微細孔内に容易に付着させることができる。
【0027】
熱処理工程(ステップS14)は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔内部に付着したカーボン粒子を固定化し、かつ、親水化処理用の処理液に含まれる界面活性剤や有機溶媒を除去する工程である。スラリーを塗布後、熱処理することにより、カーボン粒子を含むスラリーの固形分が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔の表面に固定化され、セル耐久性が向上する。
【0028】
本発明のガス拡散電極用材料の製造方法では、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に対する、前記親水化工程(ステップS12)、塗布工程(ステップS13)及び熱処理工程(ステップS14)のうち少なくとも一つの工程を、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を処理装置に対して相対移動させながら、連続的に実施する。上記工程を連続的に実施することにより、生産性が向上し、また、品質も安定化する。
【0029】
また、連続的に実施することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が芯材にコイル状に巻かれてロール形状をなしているような長尺な膜である場合であっても各工程を実施することができ、所定の長さに切断した膜をバッチ処理する場合に比べて、生産性が高い。また、複数の膜を連続して処理することができ、この点でも生産性が向上する。
【0030】
更に、上述した親水化処理工程、塗布工程及び熱処理工程の各処理装置を製造ラインに沿って配設して、一つの膜に対しこれらの処理を連続的に処理することにより、生産性はいっそう向上する。
【0031】
上記親水化工程又はスラリー塗布工程の具体的な実施形態について、以下に述べる。
【0032】
親水化工程及びスラリー塗布工程は、いずれも処理液(親水化工程の場合は、界面活性剤を含有する有機触媒、スラリー塗布工程の場合は、導電性材料粒子、例えばカーボン粒子を含有するスラリー)を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に付着させ、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔内に浸透させる処理である。この処理液を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に塗布、浸透させる方法の一つとして、処理液を収容した浸漬槽に前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を浸漬させる方法がある。
【0033】
このような浸漬処理を図4を用いて説明する。図4は、親水化工程又はスラリー塗布工程に用いられる浸漬装置の一例の模式図である。同図において、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を浸漬させるための浸漬槽32を備え、この浸漬槽32に処理液33が収容されている。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を浸漬槽32内に案内するための回転自在なロール34が設けられている。
【0034】
移動している多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を、ロール34で案内しながら浸漬槽32内の処理液33に浸漬させることにより、このロール34の曲率により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31表面の細孔の孔径が拡大した状態で、処理液を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31に均一に付着、浸透させることができる。そのため、この処理を施して製造されたガス拡散電極用材料を用いたガス拡散電極のセル性能や耐久性を向上させることが可能となる。また、一度に大面積の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の処理を行うことができるので生産性が向上する。また、ロールツーロールで連続処理することができるので生産性が向上する。
【0035】
浸漬槽32に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を浸漬させる際の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の移動速度は、例えば、0.2〜1.0m/minとすることができる。この移動速度は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を処理液へ十分に浸漬することと生産性との観点から定めることができる。
【0036】
浸漬槽32に浸漬させた後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を、少なくとも一対のロール間を通過させて挟圧することができる。これを図5を用いて説明する。図5は、上記挟圧を行うために用いられる装置の一例の要部を示す模式図である。この挟圧装置は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の移動ラインにおける浸漬槽32よりも後工程側に設けられ、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の移動と同期して回転可能でその膜31の厚み方向に挟圧可能な一対の挟圧ロール35a及び35bを備えている。この一対の挟圧ロール35a及び35b間に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を導いて挟圧することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の表層に付着していた処理液liqがその膜31の内部に浸透される。
【0037】
一般に、多孔質体に液体が浸透するためには、液体が多孔質体の細孔に入っていくための駆動力が必要になる。この駆動力は、多孔質体の細孔径が小さくなるほど大きくなる。本発明の製造方法に用いられる多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の微細孔に処理液を、より均一に浸透させるためには、処理液に押し込み圧力を加えることが好ましい。そこで、図5に示す実施形態では、処理液33に浸漬させた後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を挟圧ロール35a及び35bで挟圧することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の表層に付着した処理液を、この膜31中に押し込むことができ、より均一に浸透させることができる。また、処理液の塗布量の調整にも活用することができる。
【0038】
挟圧ロール35a及び35bによる加圧力は、500〜2000N/mの範囲であることが好ましい。本実施形態で所期した浸透駆動力を与えるためには、少なくとも500N/mの加圧力が好ましい。また、2000N/mを超える加圧力を付与すると、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の圧縮変形量が大きくなり、細孔量が減少し、空孔率が減少するために、固体高分子型燃料電池のセル性能が低下するおそれがある。
【0039】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の内部に処理液33を均一に浸透させる方法は、図5に示した例に限られない。例えば、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31が巻きかけられるロールとして、ロール周面から吸引可能なものを用い、そのような吸引ロール又は吸引ドラムにより生じさせた負圧吸引力を上記浸透のための駆動力に用いることができる。
【0040】
図6は、処理液33が収容された浸漬槽32内で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を案内する回動自在なロールに、吸引ドラム36を用いた例である。この吸引ドラム36は、多孔質で透液性を有する素材よりなり、回転軸近傍には軸線方向に沿った排出孔36aを備え、周面から半径方向に吸引できるようになっている。この排出孔36aは吸引ドラム36の端面にて、図示しないポンプなどの吸引排液装置と接続されている。また、吸引排液装置から浸漬槽32まで配管が設けられて、吸引ドラム31で吸引した処理液33を浸漬槽32に戻すことができるようになっている。
【0041】
浸漬槽32に浸漬中又は浸漬後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を、この吸引ドラム36で吸引することにより、吸引力で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31内に浸透させ、余剰の処理液を排出できるので、処理液の塗布量のばらつきを減らすことができる。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31に処理液をより均一に分散浸透させることができるようになるため、本実施形態の処理を行ったガス拡散電極用材料を有する固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。さらに、吸引することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の細孔の導通が確保されるため、ガス拡散性が向上し、セル性能が向上する。
【0042】
図6に示した本実施形態において、吸引圧力は、10〜20kPaの範囲が好ましい。吸引圧力が低いと、十分な浸透駆動力が得られない。また、吸引圧力が20kPaを超えると、その吸引力により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の破れが発生するおそれがある。
【0043】
上記浸透のための駆動力の他の例として、処理液の流動による液圧を用いることもできる。
【0044】
図7は、浸漬槽32に液流発生装置の一例を設けた例である。図示した液流発生装置は、浸漬槽32の底部に設けられた回転翼37と、この回転翼37と連結し液密状態で浸漬槽32外へ延出する回転軸38とを備えている。この回転軸38に図示しないモータ等から回転駆動力を伝達することにより、浸漬槽32内で回転翼37が回転し、処理液33内で図面矢印方向の液流が生じる。浸漬槽32内でこの液流に交差するように多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を複数のロール34で案内しながら移動させることにより、液流の動圧により処理液の浸透駆動力を増やすことができる。したがって、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31内に処理液33をより均一に分散浸透させることができるようになるため、固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。
【0045】
また、図7に示した本実施形態では、複数のロール34間の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31に張力を付与することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の細孔の孔径が拡大するので、処理液33の浸透がより容易となる。
【0046】
液流の流量は、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を貫通する流量として、0.1リットル/min/cm以下とすることが好ましい。
【0047】
以上述べた処理液をより均一に浸透させるための浸透駆動力の付与は、複数回を行うことができ、また、上述した複数の種類の方法を組み合わせて行うことができる。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31へのスラリーの塗布処理では、ミクロ的にはスラリー中のカーボン粒子が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の膜内表面に吸着するか、あるいは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の細孔に物理的に捕そく(引っかかる)ことにより、付着されている。このため、スラリーの浸透方向によって膜の厚み方向に付着ばらつきが発生する。すなわち、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の一方の表面から他方の表面に向けてスラリーを浸透させた場合、この一方の表面の表層に近い領域では、より多くのカーボン粒子が付着し、他方の表面に向かって次第に塗着量が少なくなるか、付着粒子が小さくなっていく。このような厚み方向の付着量のばらつきは、意図的に傾斜付着させる場合を除いて、均一塗布による性能向上を図る観点からは減少させるほうが望ましい。そこで、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の一方の面から他方の面に向かう方向に処理液を浸透させた場合には、浸透方向を反転させて浸透処理を繰り返し、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の他方の面から一方の面に向かう方向からも浸透させる。これにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の厚み方向における塗布量のばらつきを減少させることができ、より一層の均一な塗布を可能とする。
【0048】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の厚み方向で処理液33の浸透方向を反転させて浸透処理を繰り返す例を、図8を用いて説明する。図8は、図6で説明した吸引ドラム36を用いた例であり、複数の吸引ドラム36が一つの浸漬槽32内に設けられている。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を、これらの吸引ドラム36のそれぞれに対し、接触面を相異ならせて巻きかけて、この状態で吸引した後、ガイドロール39を経て浸漬槽32外へ移動するようになっている。このようにして浸透方向を反転させることにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の厚み方向のスラリー付着のばらつきが減少し、より均一な特性を有するガス拡散電極用材料を製造でき、固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。また、厚み方向のスラリー付着のばらつきが残存する場合であっても、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の両面の表層部に、導電性に優れたカーボンリッチ層が形成できるため、接触抵抗が低減され、セル性能が向上する。
【0049】
図9に、処理液33の浸透方向を反転させて浸透処理を繰り返す別の例を示す。図9は、図7で説明した液流発生装置を備える処理槽を用いた例であり、その浸漬槽32A及び32Bを備えている。最初に浸漬槽32Aに多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31を浸漬させ、次いで浸漬槽32Bに多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の向きを反転させて浸漬させることにより、処理液33の浸透方向を反転させることができる。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の厚み方向のスラリー付着のばらつきが減少し、より均一な特性を有するガス拡散電極用材料を製造でき、固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の両面の表層部に、導電性に優れたカーボンリッチ層が形成できるため、接触抵抗が低減され、セル性能が向上する。
【0050】
処理液33の浸透方向を反転させて浸透処理を繰り返す例は、図8及び図9に図示した例に限られない。例えば、図9では、複数の浸漬槽32A及び32Bを設けているが、一つの浸漬槽32中に複数の液流発生装置を設けて、一つの浸漬槽32内における多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜31の移動に伴って、処理液33の浸透方向が反転するような液流を形成させる例であってもよい。また、図6に示した装置と図7に示した装置とを組み合わせることにより、処理液33の浸透方向を反転させて浸透処理を繰り返す例であってもよい。
【0051】
次に、親水化処理工程やスラリー塗布工程の別の具体的な実施形態について説明する。処理液を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に塗布、浸透させる他の方法の一つとして、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜表面に処理液を定量で供給可能な供給装置により、処理液をこの膜の単位面積当たり一定量で付着させる方法がある。
【0052】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に塗布、浸透させる処理液を、定量で供給することにより、浸漬槽に浸漬させる方法に比べて、全体塗布量のばらつきをいっそう低減することが可能となる。また、処理液の塗布量を精度良く制御することが可能であるため、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の厚み方向における処理液の付着量ばらつきを低減させることができる。
【0053】
この処理液をこの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の単位面積当たり一定量で供給する方法の一例を図10を用いて説明する。図10は、処理液を一定量で供給する方法に用いられる供給装置の一例の模式図である。図示した供給装置は、シャワーコータの例である。このシャワーコータは、移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を案内する複数のガイドロール42間に、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の幅方向に延びるノズルヘッド43を備えている。このノズルヘッド43は、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に対向する領域に複数の細孔を備え、この細孔から処理液をシャワー状に噴出させることができるようになっている。また、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を隔ててノズルヘッド43の反対側には、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を透過した余剰の処理液を受けるドレンパン44が配設されている。
【0054】
図10に示したシャワーコータは、ノズルヘッド43の各細孔から噴出される処理液の液量を、あらかじめ一定量に調整することができる。このような供給装置を用いて、一定速度で移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に対して処理液を一定量で供給することにより、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の単位面積当たり一定量の処理液を付着させることができる。そのため、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41全体に付着させる処理液量の面内ばらつきを低減することができ、より均一なガス拡散電極用材料が形成でき、この材料を用いた固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜表面に垂直な方向、すなわち膜の厚み方向の処理液量のばらつきを低減することもできる。さらに、必要に応じて、膜の厚み方向における処理液量の分布の傾斜を制御できるので、ガス拡散パスを適正に形成するような設計、制御が可能となる。この点でも固体高分子型燃料電池のセル性能の向上を図ることができる。
【0055】
シャワーコータによる処理液の供給量は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔径や処理液の粒径や、処理液中の固形分や所望の付着量などにより変動するので、特に限定するものではないが、例えば、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の平均細孔径15μm、膜厚30μm、処理液の平均粒径1μm、処理液中の固形分0.5wt%、所望の付着量1mg/cmであるときの供給液量は、0.2ミリリットル/cm程度とすることができる。
【0056】
また、図10に図示したシャワーコータを用いた処理液の供給の際に、複数のガイドロール42間の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に張力を付与しておくことにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の細孔の孔径が拡大して、処理液の浸透がより容易となる。
【0057】
シャワーコータ等の定量で供給可能な装置を用いて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に処理液を付着、浸透させた後に、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を図5に示した挟圧ロール35a及び35b間に導いて、この挟圧ロール35a及び35bで挟圧することもできる。供給装置により定量の処理液を付着、浸透させた後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を挟圧ロール35a及び35bで挟圧することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の表層に付着した処理液を、この膜41中に押し込むことができ、より均一に浸透させることができる。挟圧する場合、挟圧ロール35a及び35bによる加圧力は、浸漬処理後に挟圧する場合と同様に、500〜2000N/mの範囲であることが好ましい。浸透駆動力を与えるためには、少なくとも500n/mの加圧力が好ましい。また、2000n/mを超える加圧力を付与すると、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の圧縮変形量が大きくなり、細孔量が減少し、空孔率が減少するために固体高分子型燃料電池のセル性能が低下するおそれがある。
【0058】
供給装置により定量の処理液を付着させた後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41膜の内部に当該処理液を浸透させる方法は、上述した挟圧ロール35a、35bを用いた方法に限られない。例えば、処理液を、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の一方の表面に定量で供給した後、この膜41の他方の表面から吸引する方法を用いることができる。
【0059】
この例を図11を用いて説明する。図11は、本実施形態に用いられる吸引装置の一例を模式的に示す図である。同図中、図10と同一部材には同一符号を付している。そのため重複する説明は省略する。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を隔ててノズルヘッド43の反対側には、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に接して吸引盤45が配設されている。この吸引盤45は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に当接する面に複数の吸引孔45aを備え、これらの吸引孔45aがポンプ45bに接続されて、ノズルヘッド43から噴出された処理液liqを、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を透して吸引できるようになっている。この吸引盤45を用いて、処理液が定量で供給された後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を吸引することにより、吸引力で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41内に浸透させ、余剰の処理液を排出できるので、処理液の塗布量のばらつきを減らすことができる。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に処理液をより均一に分散浸透させることができるようになるため、本実施形態の処理を行ったガス拡散電極用材料を有する固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。さらに、吸引することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の細孔の導通が確保されるため、ガス拡散性が向上し、セル性能が向上する。
【0060】
吸引する方法の別の例を供給装置の一例を用いて説明する。図12に示した例では、吸引装置として吸引ドラム46がノズルヘッド43の近傍に設けられている。この吸引ドラム46には、図6に示した吸引ドラム36と同様の構造のものを用いることができる。この吸引ドラム46の周面に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の表面のうち、ノズルヘッド43と対向する面とは反対側の面が接するようにこの膜41を巻きかけて、この吸引ドラム46により余剰の処理液を吸引する。
【0061】
この図12に示す本実施形態では、吸引ドラム46により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を透して余剰の処理液を吸引することにより、図11に示した実施形態と同様の効果が得られる。吸引ドラム46の吸引圧力は、10〜20kPaの範囲が好ましい。吸引圧力が低いと、十分な浸透駆動力が得られない。また、吸引圧力が20kPa以上になると、吸引力により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の破れが発生するおそれがある。
【0062】
吸引する方法の他の例を、図13を用いて説明する。図13では、吸引装置として複数の吸引ドラム46を備えている。複数の吸引ドラム46に対して、移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を、その接触面を互いに相異ならせて巻きかける。また、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の各面にそれぞれ処理液を供給するために、処理液を定量で供給できる複数の供給ヘッド47を、吸引ドラム46に巻きかけられた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に対向して配設している。
【0063】
この図13に示す本実施形態では、移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を、複数の吸引ドラム46に対して、接触面を互いに相異ならせて巻きかけ、この状態で各供給ヘッド47より処理液を定量で供給し、各吸引ドラム46で余剰の処理液を吸引する。このようにして、各吸引ドラム46により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41における処理液の浸透方向を反転させる。これにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の厚み方向のスラリー付着のばらつきが減少し、より均一な特性を有するガス拡散電極用材料を製造でき、固体高分子型燃料電池のセル性能や耐久性が向上する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の両面の表層部に、導電性に優れたカーボンリッチ層が形成できるため、接触抵抗が低減され、セル性能が向上する。
【0064】
処理液を定量で供給するのに用いられる供給装置は、既存の薄膜形成技術に用いられる塗布装置を応用できる。応用可能な塗布装置の例を図14に模式図で示す。図14(a)は、シャワーコータの例であって、ノズルヘッド43が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の幅方向に沿って延びるように設けられ、このノズルヘッド43は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に対向する領域に細孔が形成されて、この細孔から処理液を噴出させるものであり、これは図10に示した装置と同じである。図14(b)は、シャワーコータ48の例であって、このシャワーコータ48は、処理液の供給管48aと、この供給管48aと連通して多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の幅方向に延びて形成されたノズルヘッド48bと、このノズルヘッド48bに取り付けられ、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に対向して液を噴出する複数のノズル48cとを備え、これらのノズル48cから処理液をシャワー状に所定量で噴出させることにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の幅方向にわたって所処理液を付着させるものである。
【0065】
図14(c)は、スプレーコータ49の例であり、このスプレーコータ49は、処理液の供給管49aと、この供給管49aより分岐され、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の幅方向に沿って配列された分岐管49bと、この分岐管49bと接続され、膜41に対向する複数のスプレーノズル49cとを備え、処理液が、供給管49aから分岐管49bを経由してスプレーノズル49cに導かれ、これらのスプレーノズル49cから所定量でスプレー状に噴出されるものである。
【0066】
図14(d)は、ナイフコータ50の例であって、このナイフコータ50は、移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を巻きかけて案内するガイドロール50a及びガイドロール50bと、これらのガイドロール50a、50b間の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に近接して設けられたドクターナイフ50cとを備えている。このドクターナイフ50cと多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41との間隙は、塗布量に応じて調整可能になっている。このドクターナイフ50cの直前の位置で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41上に処理液liqを供給して、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に所定量の処理液を塗布するものである。
【0067】
図14(e)は、ダイコータ51の例であって、このダイコータ51は、移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を巻きかけるロール51aと、このロール51a周面上の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41に近接して設けられたダイ51bとを備えている。そして、このダイ51bに形成されているスリット51cから膜41に向けて所定量で処理液を供給して、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41上に処理液を付着させるものである。
【0068】
図14(f)は、ロールコータ52の例であって、このロールコータ52は、互いに近接して配設され、同一方向に回転する担持ロール52a、転写ロール52b及びガイドロール52cを備えている。担持ロール52aは、容器53dに収容された処理液にロール周面が接するように浸されて、担持ロール52aの回転によりその担持ロール周面上に処理液liqを担持する。この担持ロール52aの周面上に担持された処理液liqは、担持ロール52aに近接する転写ロール52bの周面上に転写される。この転写ロール52bの回転に伴って、その周面上に転写された処理液は、この転写ロール52bに近接し多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41を巻きかけているガイドロール52cに転写される。このロールコータ52では、処理液の担持ロール52aへの担持量、転写ロール52bへの転写量、ガイドロール52cへの転写量を調整することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜41の付着量を一定量に調整することができる。
【0069】
図14に示した各供給装置のうち、ナイフコータ50(同図(d))やロールコータ52(同図(f))は、処理液を定量供給可能であるとともに、処理液表面から液圧を付与することも可能であり、これにより、浸透駆動力を確保することも可能になる。また、図14に示した供給装置に限定されず、例えば、グラビアコータなども用いることが可能である。
【0070】
以上説明した親水化工程及び前記塗布工程については、親水化処理工程及び塗布工程として、親水性を付与する有機物を更に含有するスラリーを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に塗布することにより、この親水化処理工程と塗布工程とを一つの工程で行うこともできる。
【0071】
塗布工程において、導電性材料粒子をスラリー化させる分散媒として、通常用いられる水のみを使用している場合には、塗布対象物である多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が撥水性を有しているため、このスラリーを単に塗布しただけでは膜の内部に浸透しない。親水化処理工程は、このスラリーを浸透させるためにこそ、行っているのであって、親水化処理液(例えば、界面活性剤とアルコールとの混合溶液)を、スラリー塗布前の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にあらかじめ付着させ、この親水化処理液が完全に乾燥しない時間内にスラリー塗布を行っている。
【0072】
そこで、前述のように導電性材料粒子をスラリー化させる分散媒として、水と、アルコール等の親水化処理に用いられる有機溶媒との混合溶媒を用いた場合には、前述した親水化処理とインクスラリー塗布処理とを1工程にて同時に行うことができる。導電性材料粒子をスラリー化させる溶媒に加えられる有機溶媒としてのアルコールは、例えばエタノール(沸点78.5℃)、1−プロパノール(沸点97℃)、2−プロパノール(沸点82℃)、ブタノール(108.1℃)、ヘキサノール(136℃)等がある。
【0073】
導電性材料粒子をスラリー化させる溶媒として、水とアルコールとの混合溶媒を用いることで、親水化処理とインク塗着を1工程にて同時に行うことにより、工程数の削減によるコスト低減を図ることができる。また、親水化処理とスラリー塗布工程との2工程を行う場合には、親水化処理−インクスラリー塗布工程間で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が乾燥することがあり、この乾燥した場合には、インクスラリーの塗布性能が低下してしまう。これに対して、本実施形態において、インクスラリー中に親水性を有する有機物を含有させ、親水化処理液とインクスラリー塗布液とを1液化することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の親水性を保持した状態でカーボンスラリーを塗布することができ、膜内に均一にインクスラリーを分散浸透できるようになる。これにより、ガス拡散電極として用いたときには、空孔率、抵抗、撥水性が面内均一になるため、発電時の面内電圧が均一になり、セル性能や耐久性が向上する。
【0074】
次に、本発明のガス拡散電極用材料の製造方法における好適な熱処理工程について説明する。
【0075】
熱処理工程は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を少なくとも一対の熱処理ロールで挟圧して接触伝熱するものとすることができる。このような熱処理ロール、例えば加熱ロールや冷却ロールを、図15の模式図を用いて説明する。
【0076】
図15に示した例では、処理液の塗布処理を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟む回動自在な一対の加熱ロール62a及び62bが設けられ、これらの加熱ロール62a及び62bよりも多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の進行方向下流側に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟む回動自在な複数対の冷却ロール63a及び63bが設けられている。なお、図示した例では加熱ロール62a及び62bを一対、冷却ロール63a及び63bが2対をそれぞれ設けている例を示しているが、加熱ロール及び冷却ロールの個数は、図15に図示した例に限定されない。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の移動経路に沿って設けられた加熱ロール62a及び62bと冷却ロール63a及び63bとは、互いに近接して設けられている例に限定されず、ある程度の距離を隔てて各ロール対が配設された構成とすることもできる。
【0077】
また、図示した例では、対となるロール62aと62b、63aと63bについて、ほぼ同径である例を示しているが、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の接触面積を大きくするために、一方のロールを他方のロールよりも大径なものとし、この大径なロールに多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を巻きかけるような構成にすることもできる。
【0078】
加熱ロール62aと加熱ロール62bとにより、塗布工程を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟圧することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61は接触している加熱ロール62aと加熱ロール62bからの伝熱により加熱される。同様に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61は、冷却ロール63aと冷却ロール63bとへの伝熱により抜熱され、冷却される。このようにして多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を連続的に熱処理することが可能となる。
【0079】
本発明に従うガス拡散電極用材料の製造方法において、生産性を向上させるためには、熱処理についても多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を連続的に実施できることが好ましい。上述した熱処理ロールを用いた加熱、冷却は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の連続的な熱処理に適している。
【0080】
この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61は、三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔は、例えばポリテトラフルオロエチレン膜の延伸処理により形成されている。このため、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に熱処理を加えることによって、一般に、収縮が発生する。この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮は、三次元に連結した微細孔の孔径を小さくし、また、空孔率を減少させるため、本発明のガス拡散電極用材料を用いた固体高分子型燃料電池のセル性能の低下を招く。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が熱処理時に局所的に収縮した場合には、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の破れにつながるおそれがあり、生産性の著しい低下を招く。
【0081】
この点、本実施形態に従い、熱処理ロールを用いて熱処理することにより、すなわち、加熱ロール62a、62bにより挟圧して加熱し、冷却ロール63a及び冷却ロール63bにより挟圧して冷却することにより、ロール間の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に張力を付与することができ、これにより多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時の収縮を防止し、ひいては空孔率の減少を防止することができるため、ガスの拡散性が向上し、セル性能が向上する。
【0082】
加熱ロール62a及び62bを用いた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱温度は、340〜380℃程度の範囲とすることが好ましい。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱温度が340℃に満たないと十分焼成できず、導電性材料粒子の固着が十分でない。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱温度が380℃を超えると、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の溶融軟化が進みすぎ、膜の一部で破れ等が発生するおそれがある。
【0083】
冷却ロール63a及び63bを用いた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の冷却温度は、300℃以下とすることが好ましい。冷却後の膜の温度が300℃より高いと、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮(変形)が発生するおそれがある。
【0084】
また、これらの加熱ロール62a、62bの加圧力及び冷却ロール63a、63bの加圧力は、いずれも2000N/m以下とすることが好ましい。挟圧にあまりに高圧を掛けると多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の細孔がつぶれ、空孔率が減少する。
【0085】
本発明のガス拡散電極用材料の製造方法で実施可能な連続的な熱処理工程は、上述した熱処理ロールを用いた接触伝熱により加熱、冷却するものに限られない。加熱炉や冷却室を用いて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の周囲の雰囲気の温度制御による加熱又は冷却を行うものとすることもできる。このような雰囲気の温度制御による加熱又は冷却を行うことによっても、連続的に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を連続的に熱処理することができる。
【0086】
このような雰囲気の温度制御による加熱又は冷却は、所定の雰囲気温度に制御された連続熱処理炉に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を連続的に通過させることにより実施することができる。加熱温度は、340〜380℃程度とすることが好ましい。加熱温度が340℃に満たないと十分な焼成が難しく、また、加熱温度が380℃を超えると、膜の溶融が進みすぎ、膜の一部に破れ等が発生するおそれがあるためである。冷却温度は300℃以下の温度まで冷却することが好ましい。300℃より高い温度だと、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮(変形)が発生するおそれがある。加熱後に冷却工程を実施することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が融点以下となり、形状が安定する。上記の冷却温度になるまで多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を形状保持することが肝要である。
【0087】
この熱処理炉内の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の通過の際、加熱温度によりこの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が収縮することが懸念される。この場合には、後述するように多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の挟持装置を熱処理炉内に配設して、加熱中の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟持しつつ搬送することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮を抑制することが可能となる。
【0088】
上述した雰囲気の温度制御による熱処理工程においては、この制御された雰囲気中を移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の厚み方向にガスを透過させることもできる。加熱および冷却時にガスを透過させることにより、ガス拡散電極に要求されるガス拡散バスを確保し、また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔を広げ、確保されたガス拡散パスについてのガスの拡散性を向上させることができる。さらに、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の厚み方向の温度分布を均一化し、溶融による構造変化を均一化することができる。したがって、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の加熱処理時の収縮を防止し、空孔率の減少を防止することができるため、ガス拡散電極として用いた場合に、ガスの拡散性が向上し、セル性能が向上する。このガスの透過量は、20リットル/min・cm以下とすることが好ましい。ガスの透過量を増やし過ぎると、膜が破れるおそれがある。
【0089】
また、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の周囲の雰囲気の温度制御による加熱又は冷却を、上述した熱処理ロールへの接触伝熱による加熱冷却と組み合わせて実施することもできる。雰囲気の温度制御による熱処理と、熱処理ロールによる熱処理とを組み合わせて実施することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時の収縮防止精度を向上し、空孔率の減少を防止することができるため、ガスの拡散性が向上し、セル性能が向上する。また、熱処理ロールにより多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に張力を付与することが可能であり、加熱時の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮を抑制することが可能となる。すなわち、加熱ロール対や冷却ロール対が、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟圧するという作用を利用して、これらのロールを熱処理時の保持手段とすることもできる。この場合には、必ずしも加熱や冷却を行わない、単なる挟圧ロールとすることもできる。
【0090】
次に、熱処理の際に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を保持する実施態様について、図16に示す保持装置の要部の斜視図を用いつつ説明する。
【0091】
前述した熱処理ロールや加熱炉を用いた熱処理時においては、ロール間を移動する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の保持機構がないと、加熱時に多孔質収縮が発生するおそれがある。したがって、複数のロール間を移動する前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を、保持装置により保持することが望ましい。一方、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を連続的に熱処理するためには、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を保持する場合であっても、その保持機構が連続生産に対応可能であることが求められる。そこで、図16に示す本実施形態では、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を、この膜の移動と同一速度で同一方向に移動する少なくとも一対の挟持部材64a、64bを備える保持装置64で挟持する。
【0092】
図16(a)は保持装置64の要部の斜視図であり、同図(b)は、同図(a)に示された保持装置64の側面図である。図16に示された保持装置64は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に当接する面が、中空な矩形形状になり、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の幅とほぼ同じ幅で、膜61の長手方向に所定の長さを有する一対の挟持部材64a及び挟持部材64bとを有している。これらの挟持部材64a及び挟持部材64bは、膜61の中心にして互いにほぼ対称の形状を有していて、各々の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に当接する挟持面が、平面形状を有している。
【0093】
図16(b)に示すように、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の表面の一部をこれらの挟持部材64a及び挟持部材64bにより挟み、所定の加圧力によって挟持する。この挟持した状態で、挟持部材64a及び挟持部材64bは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の移動と同一方向に同一速度で移動できるようになっている。なお、挟持部材64a及び64bを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に向けて移動させ、挟み、加圧する加圧機構については、従来公知のものを任意に選択して用いることができ、また、挟持部材64a及び挟持部材64bを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の移動と同期して移動させる搬送機構も従来公知のものを用いることができる。
【0094】
この挟持部材64a及び64bを用いて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の両側縁部と膜61の幅方向で挟持することにより、複数のロール間を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が乗り移る間の収縮(形状保持されない状態)を防止する。また、本実施形態の保持装置64は、挟持部材64a及び挟持部材64bの搬送機構と加圧機構が必要であるが、これらの挟持部材が劣化した場合や、保持サイズを変更する場合に他の部材に容易に交換可能であり、作業性の面で有利である。
【0095】
ロール間を保持する保持装置の他の例を図17に示す。図17に示す保持装置65は、複数の挟持片が連結されてなる無端状の循環体65a、65b、65c及び65dを備え、それぞれが案内輪65eに巻きかけられて多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の側縁部に沿って循環可能に配設されている。それぞれ多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の厚み方向に所定の加圧力を加えることで、循環体65aと65bとで多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の一方の側縁部を挟持し、循環体65c及び65dとで多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の他方の側縁部を挟持し、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟持する。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の一方の面について、その両側縁部に設けられた循環体65a及び65cの回転を同期させるために、両循環体65aと65cとを連結する複数の連結棒65fが掛け渡されている。同様に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の他方の面について、その両側縁部に設けられた循環体65b及び65dの回転を同期させるために、両循環体65bと65dとを連結する複数の連結棒65fが掛け渡されている。
【0096】
図17に示した本実施形態の保持装置65は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の幅方向の収縮を効果的に防止することができるばかりでなく、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の長さ方向の収縮をも効果的に防止することが可能となる。また、本実施形態の保持装置65は、図16に示した保持装置64が具備している挟持部材64a、64bの搬送機構が不要であり、また、特別な加圧機構も不要であるので、保持装置の簡略化が可能となる。したがって、設備の専用化により、生産コストを低減することが可能となる。
【0097】
なお図17では、循環体65a、65b、65c及び65dの駆動機構は図示していないが、例えば、各循環体65a、65b、65c及び65dを巻きかけた案内輪65eのうちいずれか又は複数に、図示しない駆動装置から駆動力を伝達して、これらの循環体を駆動させることができる。
【0098】
図18(a)は、保持装置の別の例を示す斜視図である。同図に示される保持装置66は、先に図17に示した保持装置65に用いられている無端状の循環体を、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の一つの表面の一つの側縁部について複数個を備える例である。すわなち、本実施形態の保持装置66は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の一つの表面の一つの側縁部に、例えば無端状の内側循環体66aと、この内側循環体66aよりも周長が長く、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の側縁寄りに近接して設けられた外側循環体66fとを有している。この内側循環体66a及び外側循環体66fは、その両端部に設けられた図示しない案内輪などに巻きかけられて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の移動速度と同じ速度で循環するように構成されている。
【0099】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟んでこの内側循環体66a及び外側循環体66fと対向する位置には、同様の構成を有する内側循環体66bと外側循環体66gとが設けられている。同様に、この内側循環体66a及び外側循環体66fと同一面上で多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の他の側縁部には、同様の構成を有する内側循環体66cと外側循環体66hとを有している。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟んでこの内側循環体66c及び外側循環体66hと対向する位置には、同様の構成を有する内側循環体66dと外側循環体66iとをそれぞれ有している。そして、内側循環体66aと内側循環体66cの回転を同期させるために、両循環体を連結する複数の連結棒66eが掛け渡されている。同様に、内側循環体66b及び内側循環体66dの回転を同期させるため、両循環体を連結する複数の連結棒66eが掛け渡されている。
【0100】
図18に示した保持装置66は、図17に示した保持装置65と同様に複数の挟持片を連結した循環体としての内側循環体66a〜66dと外側循環体66f〜66iとを備え、これらの循環体が循環しながら、移動中の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の側縁部を挟持する。したがって、図17に示した保持装置65と同様の効果を備える。
【0101】
そればかりでなく、図18に示した保持装置66は、外側循環体66f〜66iのほうが内側循環体66a〜66dよりも周長が長く、移動している多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の長手方向で、外側循環体66f〜66i内側循環体66a〜66dよりも先にこの膜を挟持する。このことにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61をその幅方向に延伸させることができる。これを図18(b)のA−A線視断面図及び図18(c)のB−B線視断面図で説明する。図18(b)は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が外側循環体66fと66gとで挟持された直後の位置での断面を示している。同図に示されるように外側循環体66fは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面が凸形状を有し、外側循環体66gは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面が凸形状を有していて、これらの外側循環体66f及び外側循環体66fで多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の側縁部を挟持している。なお、図18(b)には図示しないが、他方の側縁部も同様にして外側循環体66hと外側循環体66iとで多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の側縁部を挟持している。
【0102】
次に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が更に移動した後の、図18(c)のB−B線視断面図に示す位置では、同図に示されるように既に外側循環体66fと外側循環体66fとで挟持された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61が、更に内側循環体66aと内側循環体66cとで挟持されている。内側循環体66aは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面が凸形状を有し、内側循環体66cは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面が凸形状を有しているので、あらかじめ外側循環体で挟持された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を、これらの内側循環体66aと内側循環体66cとで挟持することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61には、幅方向に張力が加わり、延伸される。
【0103】
このようにして、本実施形態の保持装置66は、図17に示した保持装置65が具備する効果を有するばかりでなく、複数個の循環体により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の幅方向に張力を付与して延伸処理を行うことが可能であり、これにより多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の皺やたるみを除去することが可能となる。さらに、この張力の程度を、図18(c)に示した内側循環体66a、66cの断面形状を変えること等で強くすることにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の細孔を広げ、空孔率を向上させることができる。したがって、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時の収縮防止の精度を向上させ、空孔率の減少を防止することができる。更に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の細孔を広げ、空孔率を向上させることにより、固体高分子型燃料電池に用いた場合のガスの拡散性が向上し、セル性能が向上する。
【0104】
図18に示した保持装置66により多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を延伸させる程度は、1〜5%程度の伸びとすることが好ましい。伸びが5%を超えるような延伸処理では、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に破れが発生するおそれがある。
【0105】
図16に示した一対の挟持部材を有する保持装置64、並びに図17及び図18に示した循環体を有する保持装置65、66、又はその他の本発明のガス拡散電極用材料の製造方法に適用可能な保持装置について、挟持する部材が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61と接する面の断面形状については、種々の例がある。その例を図19〜図21に示す。図19に示される一対の挟持部材67a、67bは、いずれも多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面を平面形状にした例である。このような平面上の挟持部材67a、67bで保持することにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時の収縮を防止でき、空孔率の減少を防止することができるため、固体高分子型燃料電池に用いた場合のガスの拡散性が向上し、セル性能が向上する。また、平面形状であるかめ、製品形状に合わせた設備の設計改修が容易となり、生産性が向上する。この挟持部材67a、67bの挟持力(保持力)は、1kPa以上とすることが好ましい。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の収縮力それ自体は非常に微弱であるため、挟持力としては、1kPa以上程度の面圧を付与できれば収縮は防止できる。
【0106】
図20に示される一対の挟持部材68a、68bは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面について、一方の挟持部材68aは凸型状に、他方の挟持部材68bの膜は凹型状にした例である。この図20に示された挟持部材68a、68bでは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61との接触部が線状になり、より確実に保持できる。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時の収縮を防止することができる。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を挟持する動作時に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を引き込む動作となるため、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の皺やたるみを防止でき、また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61を延伸する状態とすることができるので、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の空孔を広げ、ガスの拡散性を向上させることが可能となる。
【0107】
図21に示される挟持部材69a、69bは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面について両方の挟持部材69a、69bに凹凸が形成された例である。この凹凸は、例えばローレット加工により形成することができる。また凹凸は、挟持部材69a、69bのうち少なくとも一方に形成すれば足りる。図21に図示したような凹凸を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61に対向する面に有することにより、挟持部材69a、69bは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61のすべりを防止し、保持精度を向上させることができる。これにより、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜61の加熱処理時における収縮防止の精度を向上させ、生産性を向上させることが可能となる。
【0108】
以上、本発明のガス拡散電極用材料の製造方法について説明した親水化処理工程、塗布工程及び熱処理工程の各工程を連続的に行う実施形態を図面を用いて説明する。図22は、ガス拡散電極用材料の連続製造設備の模式図である。なお、図22において、先に説明した部材と同一の部材については同一の符号を付している。
【0109】
この連続製造設備により上記各工程が施される多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、長尺で、芯材にコイル状に巻かれてロール形状を有している。そのため、連続製造設備は、この多孔質ポリテトラフルオロエチレンのロールから平面状に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を引き出し、親水化処理設備に連続的に供給する供給装置70を有している。
【0110】
この供給装置により引き出された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71に対して、親水化処理を施すために、親水化処理用の有機溶媒33A(アルコール)が収容された浸漬槽32Aを、ロール34Aが液中に浸漬されている状態で備えている。また、浸漬槽32Aの近傍には、この浸漬槽32A内に浸漬された後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71の内部に親水化処理液を浸透させるための吸引ドラム36が設けられている。
【0111】
浸漬槽32Aへの浸漬後、幾つかのガイドロール72を介して搬送される多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71にスラリー浸漬処理を施すために、カーボン粒子を含有するスラリー33Bが収容された浸漬槽32Bを、ロール34Bが浸漬されている状態で備えている。また、浸漬槽32Bの近傍には、浸漬槽32B内に浸漬された後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71にインクスラリーを浸透させるための一対の挟圧ロール35a及び35bが設けられている。
【0112】
浸漬槽32Bへの浸漬後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を乾燥させるために、乾燥炉72が設けられている。この乾燥炉72の炉内は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を巻きかけて案内する複数のロール74が設けられ、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71に付着している水溶性スラリーを乾燥させるための温度、雰囲気に調整されている。
【0113】
乾燥炉72で乾燥後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71に熱処理を行うために、熱処理炉75が設けられている。この熱処理炉75は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を加熱するために所定の加熱温度に雰囲気が調整されている焼成ゾーン75aと、加熱後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を冷却するために所定の冷却温度に雰囲気が調整されている冷却ゾーン75bとを備えている。この焼成ゾーン75aの入側には、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を挟む一対の入側ロール76a及び76bが設けられ、また、冷却ゾーンの出側には、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を挟む一対の出側ロール77a及び77bとが設けられている。これらの入側ロール76a、76bと、出側ロール77a、77bとの間の焼成ゾーン75a及び冷却ゾーン75bにわたって直線状に案内される多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を保持するために、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71の上側でチェーン等の連結手段67により環状に連結された複数の挟持部材64aと、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71の下側で連結手段67により環状に連結された複数の挟持部材64bとが設けられ、その挟持部材64aと挟持部材64bとが多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71の移動と同期して循環しながら当該多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を挟持するようになっている。
【0114】
熱処理を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71は、カーボン基材と接合されてガス拡散電極が得られる。このカーボン基材と接合するために、図22に示した製造設備では、カーボン基材が巻かれてなる基材ロールからカーボン基材を平面状に引き出す供給装置80が熱処理炉75の出側に設けられている。そして、供給装置80から引き出されたカーボン基材81を、熱処理が施された後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71とを重ねて熱接合するために、カーボン基材81を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71と重ねるように案内するガイドロール82と、重ねられたカーボン基材81及び多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を加熱しつつ加圧する少なくとも一対の熱接合ロール83a、83bとが設けられている。また、熱接合ロール83a、83bの出側には、熱接合されてなるガス拡散電極膜を案内するガイドロール85と、このガイドロール85で案内されたガス拡散電極膜をロール状に巻き取る巻き取り機85が設けられている。
【0115】
このような構成を備える図22の製造設備によるガス拡散電極を連続的に製造する方法を説明する。まず、供給装置70により引き出された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を、親水化処理用の有機溶媒33Aが収容された浸漬槽32Aに浸漬させて親水化処理を行った後、吸引ドラム36に巻きかけて有機溶媒33Aを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の71内部に浸透させる。
【0116】
有機溶媒33Aが乾燥しないうちに、カーボン粒子が分散しているスラリー33Bが収容されている浸漬槽32Bに浸漬させてスラリーを付着させた後、挟圧ロール35a、35bで挟圧してスラリーを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の71内部に浸透させる。
【0117】
次に、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を乾燥炉に導いてスラリーの分散媒成分である水分を除去する。水分を除去した後、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71を所定の加熱温度、冷却温度に制御された熱処理炉75に導いて、挟持部材64a、64bで保持しながら所定の温度での加熱、冷却を行う。
【0118】
熱処理が施された後の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜71は、基材ロール80から引き出されカーボン基材81と重ねられて、熱接合ロール83a、83bで加熱、加圧することで熱接合する。熱接合後は、巻き取り機85により巻き取られてガス拡散電極膜のロールとなる。
【0119】
図22に図示された連続製造設備を用いることにより、ガス拡散電極用材料を生産性高く製造することが可能となる。
【0120】
図22に示した連続製造設備を用いてガス拡散電極用材料を製造するために行った実験的な実施例を説明する。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜としては、平均空孔径10μm、厚み50μmのものを用いた。
【0121】
親水化処理液には、界面活性剤としてダウケミカル社製 Triotn X−100を5gと、エタノール200gとを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpmで30分の拡散分散処理を行ったものを用いた。
【0122】
インクスラリーには、次の要領で作製したものを用いた。界面活性剤としてダウケミカル社製 Triotn X−100を3gと、純水200gとを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った後、上記界面活性剤分散水溶液にCabot社製Vulcan XC−72R カーボンブラック20gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った。攪拌後のスラリーをジェットミルを用いて粉砕処理を行い、カーボン平均粒径が1μmとなった。上記インクスラリーにダイキン工業製Polyflon D−1Eを13g投入混合し、プロペラ攪拌装置によて150rpm、30分の攪拌処理を行い、塗布用インクスラリーとした。
【0123】
上記した多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を上記親水化処理液に浸漬させ、この親水化処理液が完全に乾燥する前に上記インクスラリー液中に浸漬させた。その後80℃の乾燥炉で15分以上乾燥させた。
【0124】
ついで、ステンレス鋼製の挟持部材で挟持した状態で、熱処理炉の加熱ゾーンで350℃で10分の焼成処理と引き続き冷却処理を行い、ガス拡散電極用材料を得た。
【0125】
このガス拡散電極用材料と、カーボン基材としての東レ製TGP−H−060カーボンペーパーとを、熱接合ロールにて150℃、1MPaの熱接合処理を行った。接合処理後に、所定のサイズに切り出し、ガス拡散電極とした。
【0126】
上記ガス拡散電極と市販のMEAとを用いて燃料電池単セルを組立て、大気圧、アノード極に水素ガス、カソード極に空気を導入し、セル温度70℃、負荷電流密度1A/cmで3時間エージング処理を行った後、セルの発電性能評価を行ったところ、良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】固体分子型燃料電池の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】ガス拡散電極の構造の一例を示す模式図である。
【図3】ガス拡散電極の製造工程の一例を示すフロー図である。
【図4】浸漬装置の一例の模式図である。
【図5】挟圧装置の一例の要部を示す模式図である。
【図6】吸引ドラムを有する浸漬装置の模式図である。
【図7】液流発生装置を有する処理槽の一例を示す模式図である。
【図8】吸引ドラムを有する浸漬装置の模式図である。
【図9】液流発生装置を有する処理槽の一例を示す模式図である。
【図10】供給装置の一例の斜視図である。
【図11】吸引装置の一例の模式図である。
【図12】吸引装置の一例の模式図である。
【図13】吸引装置の一例の模式図である。。
【図14】供給装置の例の説明図である。
【図15】熱処理ロールの模式図である。
【図16】保持装置の一例の要部の斜視図である。
【図17】保持装置の一例の要部の斜視図である。
【図18】保持装置の一例の要部の斜視図である。
【図19】保持装置の挟持部材の一例の断面図である。
【図20】保持装置の挟持部材の一例の断面図である。
【図21】保持装置の挟持部材の一例の断面図である。
【図22】ガス拡散電極用材料の連続製造設備の模式図である。
【符号の説明】
【0128】
22 カーボン粒子(導電性材料粒子)
23 多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜
31 多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜
32 浸漬槽
35a、35b 挟圧ロール
36 吸引ドラム
37 回転翼(液流発生装置)
41 多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜
45 吸引盤
46 吸引ドラム
48 シャワーコータ
49 スプレーコータ
50 ナイフコータ
51 ダイコータ
52 ロールコータ
61 多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜
62a,62b 加熱ロール(熱処理ロール)
63a,63b 冷却ロール(熱処理ロール)
64 保持装置
64a、64b 挟持部材
65 保持装置
65a、65b、65c、65d 循環体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔による透気性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と、
この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の微細孔内に連続的に塗布固着され、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の透気性を残して導電性を付与する導電性材料粒子と
を備えることを特徴とするガス拡散電極用材料。
【請求項2】
三次元に連結した微細孔を有し、この微細孔による透気性を有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する親水化工程と、
この親水化処理工程を経た多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する塗布工程と、
このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する熱処理工程と
を有し、
これらの親水化工程、塗布工程及び熱処理工程のうち少なくとも一つの工程を、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を処理装置に対して相対移動させながら、連続的に実施することを特徴とするガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の親水化工程及び前記スラリーの塗布工程の少なくとも一方の工程が、処理液を収容した浸漬槽に前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を浸漬させるものであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、処理液を収容した前記浸漬槽に浸漬させた後、少なくとも一対のロール間を通過させて挟圧することを特徴とする請求項3に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、処理液を収容した前記浸漬槽に浸漬させた後、吸引ドラムに巻きかけて吸引することを特徴とする請求項3に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、液流発生装置を備え処理液の液流の向きがこの膜表面に交差する方向になる浸漬槽に浸漬させることを特徴とする請求項3に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、処理液を収容した浸漬槽に浸漬させ、吸引ドラムに巻きかけて吸引した後、他の吸引ドラムにこの膜の接触面を反転させて巻きかけて吸引することを特徴とする請求項3に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、液流発生装置を備え処理液の液流の向きがこの膜表面と交差する向きになる浸漬槽に浸漬させた後、この膜に対する当該処理液の液流の向きが反転している浸漬槽に浸漬させることを特徴とする請求項3に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の親水化工程及び前記スラリーの塗布工程の少なくとも一方の工程が、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜表面に処理液を定量で供給可能な供給装置により、処理液をこの膜の単位面積当たり一定量で付着させるものであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項10】
前記処理液を、前記供給装置により前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に定量で供給した後、この膜を少なくとも一対のロール間を通過させて挟圧することを特徴とする請求項9に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項11】
前記処理液を、前記供給装置により前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の一方の表面に定量で供給した後、この膜の他方の表面に接して配設された吸引盤により吸引することを特徴とする請求項9に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項12】
前記処理液を、前記供給装置により前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の一方の表面に定量で供給した後、この膜の他方の表面を吸引ドラムに巻きかけて吸引することを有することを特徴とする請求項9に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項13】
前記処理液を、前記供給装置により前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の一方の表面に定量で供給した後、この膜の他方の表面を吸引ドラムに巻きかけて吸引し、その後に他の吸引ドラムにこの膜の接触面を反転させて巻きかけて吸引することを特徴とする請求項9に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項14】
前記供給装置が、シャワーコータ、スプレーコータ、ナイフコータ、ダイコータ、ロールコータ及びグラビアコータの少なくとも一つであることを特徴とする請求項9に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項15】
前記親水化処理工程及び前記塗布工程として、親水性を付与する有機物を更に含有する前記スラリーを前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に塗布することにより、この親水化処理工程と塗布工程とを一つの工程で行うことを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理工程が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を少なくとも一対の熱処理ロールで挟圧して接触伝熱するものであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理工程が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の周囲の雰囲気の温度制御による加熱及び冷却を行うものであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理工程中に、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の厚み方向にガスを透過させることを特徴とする請求項17に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理工程中に、複数のロール間を移動する前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を、保持装置により保持することを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項20】
前記保持装置が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の移動と同一速度で同一方向に移動する少なくとも一対の挟持部材を備えることを特徴とする請求項19に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項21】
前記保持装置が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を挟むようにこの膜の両側縁部にそれぞれ設けられ、この膜の移動と同期して循環移動する無端状の循環体を備えることを特徴とする請求項19に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項22】
前記循環体を、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の一つの表面の一つの側縁部について複数個で、この膜の幅方向に並列させて備えることを特徴とする請求項21に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項23】
前記保持装置の前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と接する保持面が、平面形状であることを特徴とする請求項19に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項24】
前記保持装置の前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と接する保持面の一方が凸形状、他方が凹形状であることを特徴とする請求項19に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項25】
前記保持装置の前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と接する保持面が凹凸形状であることを特徴とする請求項19に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項26】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を親水化する親水化処理装置と、
この親水化された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に、導電性材料粒子を含有するスラリーを塗布する塗布処理装置と、
このスラリーが塗布された多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を加熱する熱処理装置と
を備え、これらの親水化処理装置、塗布処理装置及び熱処理装置のうち少なくとも一つの処理装置が、この多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を当該処理装置に対して相対移動させながら連続的に処理する装置であることを特徴とするガス拡散電極用材料の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−214077(P2007−214077A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35245(P2006−35245)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】