説明

ガス検知シート

【課題】 複数の種類のガスの漏洩が予測される環境において、いずれのガスの漏洩が生じたかを容易に検知できるよう、ほぼ同時に複数のガスの検知を行えるガス検知シートを提供し、特に干渉性ガスの存在する環境で検知対象ガスの濃度を測定できるようにする。
【解決手段】 台板2に適宜間隔を設けて複数のガス検知部3を形成し、これらガス検知部3による検知対象ガスの種類を異ならせる。この台板2を、ガス濃度を測定するガス検知器30に着脱自在とする。また、一のガス検知部3を検知対象ガスの、他のガス検知部をその干渉性ガスの検知用とすれば、検知対象ガスの検知部で該検知対象ガスと干渉性ガスの合計濃度が求められ、この濃度値から干渉性ガスの検知部で求められた濃度値を減じれば、検知対象ガスの濃度を求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境中に存在する複数種類のガスの濃度をほぼ同時に検知することができるガス検知シートに関する。
【背景技術】
【0002】
産業の発展に伴われて、各種の製造工場では多種多様な有害物質が取り扱われるようになり、特に、半導体関連産業では、急速な発展に伴われて、使用される化学物質の種類が増加し、その中には人体に有害な物質が数多く含まれている。これら化学物質はガス状となって作業環境中に放出される場合が生じ、高濃度になることによって災害や事故を引き起こすおそれがある。このため、作業環境中のガス濃度を監視する必要があり、ガス検知器が必要となる。しかも、多種類のガスのうちのいずれが漏洩したかを早期に発見する必要があることから、同時に複数種類のガスの検知を行えるガス検知器が要請されるに至っている。
【0003】
複数種類のガスの検知を行うには、それぞれのガスを検出する検知器を各別に設けることで対応できるが、設置すべき検知器の数が多くなり、経済的にできない場合がある。しかも、使用する化学物質の変更等により検出すべきガスの種類が変更された場合には容易に対応することができない。このため、ガスの種類の変更にも対応でき、複数種類のガスの検出を行える簡易なガス検知器が必要となる。
【0004】
ところで、本件出願人は、呈色反応を利用した簡易なガス検知器である携帯用ガス検出装置を提案した(特許文献1参照)。この携帯用ガス検出装置は、ガス吸引手段と、測定ヘッドと、駆動用電源と、前記測定ヘッドの光学濃度の変化を検出する信号処理手段とを、前記測定ヘッドの一部を窓から露出させるようにケースに収容して構成され、前記ガス吸引手段により吸引された被検ガスと反応して呈色反応を生じる検出シートを前記測定ヘッドに脱着可能としたものである。
【0005】
また、本件出願人は、複数の検知対象ガスについて所期のガス検知を行うことができるガス検知器を提案した(特許文献2参照)。このガス検知器は、複数のガス接触部が形成されてなるヘッド部を有するガス検知器本体と、タブレット型ガス検知素子を保持する複数の素子保持部が設けられた素子ホルダーと、この素子ホルダーを着脱自在に支持する素子ホルダー支持部が形成された装着機構とを備えてなり、素子ホルダーを支持した装着機構がガス検知器本体のヘッド部に保持されることにより、当該素子ホルダーの素子保持部に保持された複数のタブレット型ガス検知素子が、ヘッド部におけるガス接触部に押圧されて、一斉にセットされた状態とされるようにしたものである。
【0006】
【特許文献1】特開平11−181970
【特許文献2】特願2004−164263
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された携帯用ガス測定装置では、単一のガスを検出する場合には利便性が高いが、複数のガスをほぼ同時に検出するには、この携帯用ガス測定装置を複数個必要とする。複数個の測定装置でガス検知をほぼ同時に行う場合には、この測定装置の操作者も複数人が必要となって検知作業に人員を要することになる。
【0008】
また、特許文献2に記載されたガス検知器では、タブレット型ガス検知素子を素子ホルダーに保持させて、この素子ホルダーを装着機構の素子ホルダー支持部に着脱自在とし、素子ホルダーを素子ホルダー支持部から離脱させて適宜数のタブレット型ガス検知素子を保持させた後、この素子ホルダーを素子ホルダー支持部に装着することにより、ガス検知器に一斉にセットされて複数のガスをほぼ同時に検出できるようにしたものである。しかし、検知すべきガスに対応したタブレット型ガス検知素子を予めそれぞれ用意する必要があり、検知すべきガスの種類が多くなると、多種のタブレット型ガス検知装置を用意しなければならず、これらタブレット型ガス検知装置の管理が煩雑となる。しかも、素子ホルダーに個々のタブレット型ガス検知装置を各別に保持させ、その後素子ホルダーを素子ホルダー支持部に装着するから、ガス検知器を使用するための準備作業が繁雑となる。
【0009】
そこで、この発明は、ガス検知装置への着脱を簡便に行えて、ほぼ同時に複数のガスを検知するのに便利なガス検知シートを提供することを主たる目的としている。
【0010】
また、複数のガスをほぼ同時に検出することができることから、干渉性ガスが存在する場合に、検知対象ガスについての検知も行えるようにしたガス検知シートを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るガス検知シートは、単一の台板に複数のガス検知部を配し、前記複数のガス検知部で、異なるガスの濃度を検知することを特徴としている。
【0012】
すなわち、この台板をガス検知に供する場合には、複数のガス検知部を同時に当該時の環境に置くことになるから、ほぼ同時に複数のガスを検知することができる。なお、ガス検知部は、それぞれが異なるガスを検知するものであっても、あるいは、例えば6個のガス検知部を備えた場合に、2個ずつで同じガスを検知するようにして3種のガスを検知するようにしたものであっても構わない。
【0013】
また、ガス検知部は台板となる所定の寸法の紙製の台紙の所定の位置に、発色剤や光学濃度が変化する薬剤等の反応剤を塗布して形成するものであって構わない。この場合、予測される検知対象ガスに応じて組み合わせた検知部とする。そして、この台紙ごとガス検知器に着脱する。
【0014】
また、請求項2の発明に係るガス検知シートは、前記ガス検知部は、検知対象ガスが接触した場合に、呈色し、または光学濃度が変化する反応をすることを特徴としている。
【0015】
検知対象となるガスにガス検知部が接触すると、呈色したり光学濃度の変化により検知対象ガスの存在を検知すると共に、その呈色あるいは変化した濃度によって検知対象ガスの濃度を測定するものである。
【0016】
また、請求項3の発明に係るガス検知シートは、前記ガス検知部が、前記台板に着脱自在であることを特徴としている。
【0017】
ガス検知部を台板に着脱自在としたものである。前述したように台紙に、発色剤等の反応剤を塗布して検知部を形成したものであれば、ガス検知器へのセットを簡便に行えるが、台紙の形状等がガス検知器に応じて特定のものである場合には、検知対象ガスが固定されてしまうことになり、例えば使用する化学物質が変更されて検知すべき対象ガスが変更された場合などには容易に対応できない。この点、ガス検知部を台板に着脱自在としてあれば、検知対象ガスの変更に容易に対応することができる。
【0018】
また、請求項4の発明に係るガス検知シートは、前記ガス検知部のうちの一の検知部は、他の検知部により検知される検知対象ガスに対する干渉性ガスを検知する検知部であることを特徴としている。
【0019】
検知対象ガスによっては、それが単体で存在する場合には濃度を測定することが可能な反応剤があるが、該検知対象ガスの干渉性ガスが共に存在する環境下では、当該反応剤では該検知対象ガスと干渉性ガスの合計濃度を測定することになるものがある。この場合、干渉性ガスの濃度を測定することができる反応剤があれば、それを組み合わせることにより検知対象ガスの濃度を測定することができる。すなわち、ほぼ同時に検出した、検知対象ガスの反応剤から求めた濃度から干渉性ガスの濃度を減じることにより検知対象ガスのみの濃度を求めることができる。
【0020】
また、請求項5の発明に係るガス検知シートは、前記検知対象ガスがアセトアルデヒドあり、前記干渉性ガスがホルムアルデヒドであることを特徴としている。
【0021】
すなわち、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドが共に存在する環境下では、アセトアルデヒドのみの濃度を測定できる反応剤は存しないが、該環境下でホルムアルデヒドのみの濃度を測定できる反応剤は存している。このため、検知シートにこれらの反応剤を備えた検知部を設けて、当該環境でほぼ同時にこれらの検知部の濃度を測定する。そして、アセトアルデヒドの濃度の測定値とホルムアルデヒドの濃度の測定値との差を求めれば、アセトアルデヒドの当該環境下における濃度を求めることができる。
【0022】
また、請求項6の発明に係るガス検知シートは、前記検知対象ガスがグルタルアルデヒドあり、前記干渉性ガスがホルムアルデヒドであることを特徴としている。
【0023】
グルタルアルデヒドも、アセトアルデヒドの場合と同様に、ホルムアルデヒドが共に存在する環境下では、グルタルアルデヒドのみの濃度を測定できる反応剤は存しない。このため、検知シートにこれらの反応剤を備えた検知部を設けて、当該環境でほぼ同時にこれらの検知部の濃度を測定すれば、グルタルアルデヒドの当該環境下における濃度を求めることができる。
【0024】
また、請求項7の発明に係るガス検知シートは、前記検知対象ガスが弱酸性ガスであり、前記干渉性ガスが強酸性ガスであることを特徴としている。
【0025】
弱酸性ガスの濃度を検知することができる反応剤には、強酸性ガスが共存している環境下では、該強酸性ガスを含む濃度を測定するものがある。斯かる反応剤を用いる場合でも、強酸性ガスのみの濃度を測定することができる反応剤を組み合わせて用いて、弱酸性ガスの濃度を測定するものである。
【0026】
また、請求項8の発明に係るガス検知シートは、前記検知対象ガスとなる弱酸性ガスはメチルレッドに反応し、前記干渉性ガスとなる強酸性ガスはメタニールイエローに反応するものであることを特徴としている。
【0027】
すなわち、反応剤にメチルレッドとメタニールイエローを用いるようにしたものである。メチルレッドに反応する弱酸性ガスとメタニールイエローに反応する強酸性ガスとが存在している環境下では、メチルレッドで測定される濃度値には、強酸性ガスの濃度も含まれるから、弱酸性ガスの濃度測定値から強酸性ガスの濃度測定値を減じれば、弱酸性ガスの単独の濃度を求められる。
【0028】
また、請求項9の発明に係るガス検知シートは、前記ガス検知シートは、複数のガス接触部が形成されてなるヘッド部を備えたガス検知器本体の、前記ヘッド部に着脱自在で、装着時には検知部のそれぞれが前記ガス接触部にそれぞれ臨んで押圧されることを特徴としている。
【0029】
この検知シートを、ガス検知器に着脱自在とするもので、例えば検知シートの台板を矩形の台紙で形成した場合、この台紙の3辺の縁部を保持する保持部を設け、該保持部が形成されていない部分から挿抜するようにして着脱自在とすることができる。そして、このガス検知器に環境中のガスを導入し、接触させる。
【発明の効果】
【0030】
この発明に係るガス検知シートによれば、複数の種類のガスをほぼ同時に検知することができる。しかも、複数の検知部を台板に設けた簡単な構造であるから、安価に製作でき、また、ガス検知器への着脱が簡便となる。
【0031】
また、請求項2の発明に係るガス検知シートによれば、検知したガスの濃度を測定することができる。
【0032】
また、請求項3の発明に係るガス検知シートによれば、検知対象となるガスが変更された場合に、ガス検知シートのガス検知部を所望のガスを検知するガス検知部に交換することで対応することができる。
【0033】
また、請求項4の発明に係るガス検知シートによれば、干渉性ガスが混在する環境であっても、検知対象ガスの濃度を確実に測定することができる。
【0034】
また、請求項5または請求項6の発明に係るガス検知シートによれば、ホルムアルデヒドが混在する環境中のアセトアルデヒドまたはグルタルアルデヒドの濃度を、確実に測定することができる。
【0035】
また、請求項7または請求項8の発明に係るガス検知シートによれば、強酸性ガスが混在する環境中の弱酸性ガスの濃度を確実に測定することができる。
【0036】
また、請求項9の発明に係るガス検知シートによれば、複数のガス接触部が形成されているヘッド部を備えたガス検知器本体を具備したガス検知器であれば、携帯式のものであっても固定式のものであっても、このガス検知シートを着脱できる構造であれば、該ガス検知シートを使用することができる。しかも、ガス検知シートのガス検知部の個数とガス接触部の個数とが相違する場合であっても、ガス検知シートを着脱できる構造のヘッド部を備えたガス検知器とすることにより、検知できるガスの種類の選択性が向上する。なお、それぞれのヘッド部で測定できるガスの種類を変更することができるよう制御できるようにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係るガス検知シートを具体的に説明する。
【0038】
図1はこの発明に係るガス検知シート1の斜視図であり、矩形の台板2に、該台板2の長手方向にほぼ等間隔で5箇所にガス検知部3(3a、3b、3c、3d、3e)が設けられている。これらガス検知部3a、3b、3c、3d、3eは、それぞれが異なる種類のガスを検知するものとしてある。なお、例えば、ガス検知部3a、3bが一の種類のガスを、ガス検知部3c、3dが他の種類のガスを、ガス検知部3eが別の種類のガスを検知するように、場合によっては、複数のガス検知部3を、同一種類のガスを検知するものとしても構わない。
【0039】
前記ガス検知部3は、対象ガスと反応して呈色する発色剤や光学濃度が変化する薬剤等の反応剤を、台板1を形成するセルロースに含浸させたり、あるいは台板1に台紙を用いて、その表面に塗布してある。
【0040】
図2は、このガス検知シート1によりガスを検知する検知器の検出部の概略構造を説明する下方から斜視図である。検知すべき環境の被検知ガスが導入されるガス検知器本体を構成するサンプリングチャンバー11を備えており、被検知ガスは、導入管12から導入されて排出管13から排出される。このサンプリングチャンバー11に図示しないヘッド部が設けられており、該ヘッド部にガス検知シート1が着脱自在とされている。また、ヘッド部には図示しないガス接触部が設けられており、ガス検知シート1が装着された状態で、ガス検知部3のそれぞれが対応するガス接触部を臨んで位置すると共に、ガス検知部3がサンプリングチャンバー11の内部に露呈するようにしてある。
【0041】
サンプリングチャンバー11には、LED(発光ダイオード)等による光源14(14a、14b、14c、14d、14e)とフォトダイオード等の受光素子15(15a、15b、15c、15d、15e)とが設けられており、光源14のそれぞれから発せられた光がガス検知部3のそれぞれで反射して対応する受光素子15に入射するようにしてある。
【0042】
そして、図3は、前記ガス検知シート1により検知されたガスの濃度を測定するガス検知器の概略の測定関係のブロック図であり、CPU20を中心として構成されており、前記受光素子15の出力信号がこのCPU20に入力されている。このCPU20には比較回路21が接続されて、受光素子15から入力された検知ガスの測定濃度に関する情報が該比較回路21に送出されている。比較回路21には検知対象ガスの濃度について予め取得された検量線が格納されており、前記検知ガスの測定濃度情報と比較して、検知ガスの濃度を求めて、該濃度情報をCPU20に送出する。
【0043】
また、CPU20にはディスプレイ22を駆動するディスプレイ駆動回路23が接続され、駆動信号が該ディスプレイ駆動回路23に送出される。このCPU20にはメインスイッチ24が接続され、これが閉じられると起動され、駆動回路25に駆動信号を出力する。駆動回路25には、前記排出管13に接続された図示しないサクションブロアが接続され、環境中のガスは該サクションブロアの駆動によって前記サンプリングチャンバー11に導入管12を介して吸い込まれて導入される。
【0044】
図4は、このガス検知シート1を用いるのに適宜な携帯用のガス検知器30の概略の外観図で、前記ディスプレイ22が上面に露呈してその表示内容を確認できる。このディスプレイ22は、ガス検知器30の前部に開閉自在に設けられた蓋体31の表面に露呈させてあり、この蓋体31の下方に前記サンプリングチャンバー11やヘッド部等のガス検知器本体が配されている。また、同図上破線で示すように、ガス検知シート1は、この蓋体31を開放した状態で、該蓋体31の裏面あるいは、露呈したヘッド部にセットすることができるようにしてある。
【0045】
以上により構成したこの発明のガス検知シート1に係る実施形態について、その作用を以下に説明する。
【0046】
例えば、図4に示す携帯用のガス検知器30にこのガス検知シート1をセットして、該ガス検知器30を駆動させる。これにより、環境中のガスが前記ガスチャンバー11に導入されて、ガス検知シート1のガス検知部3に導入されたガスが接触する。それぞれのガス検知部3は、検知対象ガスが存している場合にはそれと反応して呈色しあるいは光学濃度が変化する。ガス検知部3には前記光源14から光が照射され、その反射光が受光素子15で捕捉される。ガス検知部3は検知ガスの濃度に応じて呈色度合いが異なるから、反射光の強さは濃度に応じた大きさとなり受光素子15からはこの測定濃度に関する情報の信号が出力される。
【0047】
受光素子15から出力された信号がCPU20に入力されると、該信号がいずれの受光素子15の出力であるかと共に、測定濃度に関する信号が比較回路21に送出される。比較回路21では、予め格納された検量線とこの測定濃度とを比較して、検知されたガスの濃度が求められる。この求められた濃度がCPU20に送出され、該CPU20からディスプレイ駆動回路23に駆動信号を送って、ディスプレイ22の検知ガスの濃度が表示されることになる。
【0048】
ガス検知シート1には5個のガス検知部3a、3b、3c、3d、3eが設けられているから、これらガス検知部3の反応剤を異ならせることにより5種類のガスを検知することができる。このガス検知シート1が装着されたガス検知器30でガス濃度の測定を行うに際して、検知すべきガスの種類を変更するには、例えばガス検知器30にガスの選択スイッチを設け、測定者が該選択スイッチを操作することにより行うようしても、あるいは、予め測定順序を定めて、前記CPU20から検知すべきガスの種類に関する指令を前記受光素子15に送出することによって行わせることもできる。あるいは、全てのガス濃度の測定処理を並行して行わせてもよい。この場合、ディスプレイ22が単一のガス濃度を表示するものであれば、測定濃度をメモリに記憶させ、切替ボタン等によって該メモリから読み出して表示すべき対象ガスを選択できるようにする。
【0049】
また、このガス検知シート1に形成するガス検知部3は、該当する環境に対して予め想定される検知対象ガスに対応した反応剤により形成し、検知対象ガスの種類の数に応じた個数のガス検知部3が形成されていればよい。さらに、台板2を定形とすることにより、検知対象ガスが異なる場合でも同じガス検知器30にガス検知シート1を装着することができる。なお、検知対象ガスの種類を前記CPU20に設定することができるよう、例えば、ガス検知器30に検知対象ガスを設定するための操作部を設け、予め推定されるガスの種類に応じてCPU20に当該種類を設定できるようにしておく。
【0050】
さらに、ガス検知部3の個数とガス検知器30のガス接触部との個数を同一とすれば、ガス検知シート1の着脱が容易となって好ましい。しかし、ガス検知部3の個数をガス接触部よりも多くして、場合によって、ガス検知器30に対するガス検知シート1の位置を変更して、ガス接触部に臨むガス検知部3を変更できるようにすることもできる。例えば、3個のガス接触部を備えているガス検知器30に5個のガス検知部3を備えたガス検知シート1をセットすることができるようにし、検知すべきガスに応じて、所望のガス検知部3をガス接触部に臨ませられるようにする。なお、ガス検知器30のヘッド部は、ガス検知シート1の位置が異なっても確実に保持できて、確実にガス接触部に臨ませることができる構造とする。斯かる構造とする場合、特に単一のガス接触部を備えているガス検知器30で複数の種類のガスの検知を行うのに便利となる。
【0051】
そして、このガス検知シート1では、複数の種類のガス濃度をほぼ同時に検知することができることに着目して、検知対象ガスとその干渉性ガスが存在する環境において、検知対象ガスの濃度を測定することができる。すなわち、検知対象ガスとの干渉性ガスが存在する場合に、該検知対象ガス用の反応剤では、検知対象ガスと干渉性ガスの合計濃度しか測定できない場合があるが、斯かる反応剤を用いても、干渉性ガスの濃度を測定することができれば、検知対象ガスの濃度を求めることができるものである。例えば、検知対象ガスAと干渉性ガスBとの混合ガスが存在する場合、A用反応剤では検知対象ガスAと干渉性ガスBのいずれをも含む濃度(ガスAとガスBの合計濃度)を測定することになり、B用反応剤では干渉性ガスBの濃度を単独で測定することができる場合である。
【実施例1】
【0052】
ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドとが存在する混合ガスにおいては、ホルムアルデヒドはアセトアルデヒドに対して干渉性ガスとなる。このため、アセトアルデヒドの濃度を測定する反応剤では、該アセトアルデヒドとホルムアルデヒドとの合計濃度が測定される。他方、ホルムアルデヒドを測定する反応剤は、この混合ガスにおいても該ホルムアルデヒドの濃度のみを測定することができる。そこで、この発明に係るガス検知シート1の一のガス検知部3aをホルムアルデヒドを測定する反応剤により形成し、他のガス検知部3bをアセトアルデヒドを測定する反応剤で形成する。
【0053】
そして、このガス検知シート1を用いて、ホルムアルデヒドとアセトアルヒドの混合ガスに対して濃度の測定を行うと、ガス検知部3bでは、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドとの合計の濃度が求められる。他方、ガス検知部3aではホルムアルデヒドの濃度が求められる。したがって、ガス検知部3bにより求められた濃度値からガス検知部3aにより求められた濃度値との差を求めると、当該混合ガス中のアセトアルデヒドの濃度と求めることができる。
【実施例2】
【0054】
ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドとが存在する混合ガスにおいても、ホルムアルデヒドはグルタルアルデヒドに対して干渉性ガスとなる。このため、グルタルアルデヒドの濃度を測定する反応剤では、該グルタルアルデヒドとホルムアルデヒドとの合計濃度が測定される。他方、ホルムアルデヒドを測定する反応剤は、この混合ガスにおいても該ホルムアルデヒドの濃度のみを測定することができる。そこで、この発明に係るガス検知シート1の一のガス検知部3aをホルムアルデヒドを測定する反応剤により形成し、他のガス検知部3bをグルタルアルデヒドを測定する反応剤で形成する。
【0055】
そして、このガス検知シート1を用いて、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドの混合ガスに対して濃度の測定を行うと、ガス検知部3bでは、グルタルアルデヒドとホルムアルデヒドとの合計の濃度が求められる。他方、ガス検知部3aではホルムアルデヒドの濃度が求められる。したがって、ガス検知部3bにより求められた濃度値からガス検知部3aにより求められた濃度値との差を求めると、当該混合ガス中のグルタルアルデヒドの濃度と求めることができる。
【実施例3】
【0056】
例えば、フッ化水素ガス(HF)と塩化水素ガス(HCl)との混合ガスの場合、強酸の塩化水素ガスは弱酸のフッ化水素ガスに対して干渉性ガスとなる。このため、ガス検知シート1の一のガス検知部3aを塩化水素ガスの濃度を測定する反応剤により形成し、他のガス検知部3bをフッ化水素ガスの濃度を測定する反応剤で形成する。このガス検知シート1を用いて、フッ化水素と塩化水素との混合ガスに対して濃度の測定を行うと、ガス検知部3bでは、フッ化水素と塩化水素との合計の濃度が求められる。また、ガス検知部3aでは塩化水素濃度が求められる。したがって、ガス検知部3bにより求められた濃度値からガス検知部3aにより求められた濃度値との差を求めると、当該混合ガス中のフッ化水素の濃度を求めることができる。
【実施例4】
【0057】
実施例3では、弱酸性ガスとしてフッ化水素ガスを、強酸性ガスとして塩化水素ガスを例示したが、メタニールイエローに反応する強酸性ガスが干渉ガスとして混在する場合には、メチルレッドに反応する弱酸性ガスを検知対象ガスとして該検知対象ガスの濃度を測定することができる。すなわち、図5に示す一覧表において、強酸性ガス欄の各ガスが干渉性ガスとなって、弱酸性ガス欄の各ガスと混在する場合、メタニールイエローでは強酸性ガスの濃度が測定され、メチルレッドでは強酸性ガスと弱酸性ガスの合計の濃度が測定される。したがって、メチルレッドで求められた濃度値とメタニールイエローで求められた濃度値との差は、当該混合ガス中の弱酸性ガスの濃度値を示すことになる。
【0058】
なお、図5の一覧表中、弱酸性ガス欄の二酸化炭素とフッ素は、溶解した状態でメチルレッドに反応するものであり、すなわち、常態では酸性を示さないガスであっても溶解することにより反応することになるガスであっても濃度を測定することができる。
【0059】
以上に説明した実施例1〜4における濃度の差を求める演算は、前記CPU20に行わせることができる。すなわち、受光素子15により検知された濃度情報に基づいて、前記比較回路21でそれぞれの濃度値を求め、この濃度値に基づいて、CPU20の演算回路で差を求めればよく、その値を前記ディスプレイ22に表示させることができる。
【0060】
また、これらの実施例1〜4では、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドあるいはグルタルアルデヒドとの混合ガスについて、及びフッ化水素等の弱酸性ガスと塩化水素等の強酸性ガスとの混合ガスとについて例示したが、これらに限らないこと勿論である。すなわち、検知対象ガスと干渉性ガスとの混合ガスにおいて、検知対象ガスの濃度を測定する際に、干渉性ガスの濃度を測定できる反応剤がある場合には、この反応剤と混合ガスの濃度を測定できる反応剤とを組み合わせればよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
複数のガスの漏洩が予測される環境において、いずれのガスが漏洩したかを、単一のガス検知シートによって検知することができるので、漏洩が生じたガスに対して適切な処理を迅速に行うことができる。しかも、ガス検知シートを交換することにより検知対象ガスに対する反応剤を変更できるから、コストを増加させずに簡便に環境に対応させられる。また、干渉性ガスが存在する場合で、該干渉性ガスの濃度を測定することにより検知対象ガスの濃度を測定することができるので、測定できるガスの種類を広げることができ、各種の製造工場において使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明に係るガス検知シートの概略の外観を示す斜視図である。
【図2】この発明に係るガス検知シートによりガス濃度を検知するガス検知器の原理を説明する斜視図である。
【図3】図2に示すガス検知器の概略ブロック図である。
【図4】この発明に係るガス検知シートを用いるのに適宜なガス検知器の一例を示す斜視図で、携帯用のガス検知器を示す外観図である。
【図5】弱酸性の検知対象ガスと強酸性の干渉性ガスとの一覧表であり、反応剤がメチルレッドとメタニールイエローについて示している。
【符号の説明】
【0063】
1 ガス検知シート
2 台板
3(3a、3b、3c、3d、3e) ガス検知部
11 サンプリングチャンバー
14(14a、14b、14c、14d、14e) 光源
15(15a、15b、15c、15d、15e) 受光素子
30 ガス検知器
31 蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の台板に複数のガス検知部を配し、
前記複数のガス検知部で、異なるガスの濃度を検知することを特徴とするガス検知シート。
【請求項2】
前記ガス検知部は、検知対象ガスが接触した場合に、呈色し、または光学濃度が変化する反応をすることを特徴とする請求項1に記載のガス検知シート。
【請求項3】
前記ガス検知部が、前記台板に着脱自在であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検知シート。
【請求項4】
前記ガス検知部のうちの一の検知部は、他の検知部により検知される検知対象ガスに対する干渉性ガスを検知する検知部であることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれかに記載のガス検知シート。
【請求項5】
前記検知対象ガスがアセトアルデヒドあり、前記干渉性ガスがホルムアルデヒドであることを特徴とする請求項4に記載のガス検知シート。
【請求項6】
前記検知対象ガスがグルタルアルデヒドあり、前記干渉性ガスがホルムアルデヒドであることを特徴とする請求項4に記載のガス検知シート。
【請求項7】
前記検知対象ガスが弱酸性ガスであり、前記干渉性ガスが強酸性ガスであることを特徴とする請求項4に記載のガス検知シート。
【請求項8】
前記検知対象ガスとなる弱酸性ガスはメチルレッドに反応し、前記干渉性ガスとなる強酸性ガスはメタニールイエローに反応するものであることを特徴とする請求項7に記載のガス検知シート。
【請求項9】
前記ガス検知シートは、複数のガス接触部が形成されてなるヘッド部を備えたガス検知器本体の、前記ヘッド部に着脱自在で、装着時には検知部の全てまたは一部がそれぞれ前記ガス接触部にそれぞれ臨んで押圧されることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のガス検知シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−112992(P2006−112992A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302566(P2004−302566)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】