説明

ガス燃料供給装置

【課題】ベーパライザの電気的加熱手段への通電を制御しながらガス燃料を加熱・気化してエンジンに供給するガス燃料供給装置において、電気的加熱手段への通電開始に伴う他の電気機器の機能に対する悪影響を最小限に抑えられるようにする。
【解決手段】エンジン運転状態を表す各種信号を検知している燃料噴射制御装置である電子制御ユニット11Aが、電気的加熱手段21Aへの通電を制御するとともにインジェクタ5を開閉制御してエンジンが要求する量の気体燃料を供給するガス燃料供給装置10Aにおいて、その電気的加熱手段21Aを複数のヒータユニットが並列配置されてなるものとして、電気的加熱手段21Aを用いる際に、少なくとも所定の場合には、電子制御ユニット11Aがヒータユニット毎に通電開始時をずらして順次通電させる制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPG等の液化ガス燃料を減圧気化し所定圧力の気体燃料にして、エンジンに供給するガス燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液化ガス燃料は、従前より火花点火エンジンの燃料に用いられており、例えば特開平6−17709号公報に記載されているように、ベーパライザで液化ガス燃料を加熱・気化させるとともに所定圧力の気体燃料に調整してエンジンの吸気通路に噴射させる方式が広く普及している。
【0003】
このように、液化ガス燃料を所定圧力の気体燃料に調整して供給する方式においては、加熱気化手段にエンジン冷却水の熱を利用するのが一般的である。しかし、エンジン冷却水の熱を利用するガス燃料供給装置においては、冷機時に冷却水が低温であるために液体燃料の気化が不充分となりやすく、液体燃料混入により混合気が過濃となってエンジンの始動を困難にさせたり、エンジン運転性を悪化させたりするという問題点がある。
【0004】
これに対し、エンジン冷却水の熱を利用する加熱手段に加え電気的加熱手段を配置して冷却水の低温時にも燃料を気化できるようにしたガス燃料供給装置も普及しており、また特開平5−223014号公報には、エンジン冷却水温度の増大等から暖機終了の判定を行い、PTCヒータを有する電気的加熱手段への通電を自動的に停止するようにしたものも提案されている。
【0005】
図3は、このようなPTCヒータを有する電気的加熱手段21Bを備えたベーパライザ20Bと、ガス燃料用インジェクタ5と、これらを駆動制御してエンジン1の吸気通路2にガス燃料を供給する燃料噴射制御装置である電子制御ユニット(ECU)11Aとを備えたガス燃料供給装置10Aを配設した、従来周知のガス燃料噴射システムの全体配置図を示している。
【0006】
このようなガス燃料噴射システムでは、エンジン運転状態を検出するための各種センサ12,13,14,15,16の出力信号を検知している電子制御ユニット11Bが、その信号による各種データを基に燃料噴射量を算出し噴射信号としてインジェクタ5に出力するとともに、ベーパライザ20Bに流入している液体燃料の状態及びエンジン冷却水温度を前述のデータから推定し、エンジン冷却水による加熱のみでは充分な加熱・気化が期待できない状況と判断した場合に、ベーパライザ20Bに内蔵した電気的加熱手段21Bに通電して液体燃料の気化を促進するようになっている。
【0007】
ところが、このようなガス燃料噴射システムを搭載した車両において、電気的加熱手段21Bへの通電を開始した場合には、急激に消費電流が大きくなることにより例えばヘッドライト点灯中にヘッドライトが急激に減光する等、他の電気機器の機能に対し悪影響を与えてしまうことが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−17709号公報
【特許文献2】特開平5−223014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、燃料噴射制御装置がベーパライザの電気的加熱手段への通電を制御しながらガス燃料を加熱・気化してエンジンに供給するガス燃料供給装置において、電気的加熱手段への通電開始に伴う他の電気機器の機能に対する悪影響を最小限に抑えられるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、液体の状態で貯留した液化ガス燃料を、エンジン冷却水の熱を利用する加熱手段に加え電気的加熱手段を有したベーパライザに導入して加熱・気化させ所定圧力の気体燃料に調整後インジェクタで噴射してエンジンに供給し、エンジン運転状態を表す各種信号を検知している燃料噴射制御装置が、前記電気的加熱手段への通電を制御するとともに前記インジェクタを開閉制御して前記エンジンが要求する量の気体燃料を供給するガス燃料供給装置において、前記電気的加熱手段が複数のヒータユニットが並列配置されているとともに前記電気的加熱手段を使用する際に前記燃料噴射制御装置が少なくとも前記ヒータユニット毎に通電開始時をずらして順次通電させる制御を実行可能とした。
【0011】
このように、比較的大きな電力を消費するベーパライザの電気的加熱手段を複数のヒータユニットに分け、総ての場合または所定の場合にのみ順次時間をずらして通電を開始するようにしたことで、急激な電力消費量の増大を確実に回避することができる。
【0012】
また、このガス燃料供給装置において、その燃料噴射制御装置は電気的加熱手段への通電を、検知したエンジン運転状態または/及びそのときの電力供給状況に応じて、エンジンが必要とする気体燃料を供給可能とする最少のヒータユニットに限定して通電させることを特徴としたものとすれば、電力消費量の増大を必要最小限に抑えることがさらに確実なものとなる。
【0013】
さらに、上述したガス燃料供給装置において、その電気的加熱手段はPTCヒータを使用するものであってヒータユニット毎にPTCヒータを有したものとすれば、加熱性能に優れることに加えヒータユニットを並列に複数設けてもコンパクトに収まりやすいものとなる。
【0014】
さらにまた、上述したガス燃料供給装置において、燃料噴射制御装置がヒータユニット毎に通電開始時をずらして順次通電させるのは、燃料噴射制御装置が検知しているエンジン運転状態に基づいて総てのヒータユニットに同時に通電開始しなくても間に合う状況と判断した場合、または総てのヒータユニットに同時に通電することの少なくとも一方において機能に対する悪影響が懸念される所定の電気機器を使用している場合に限定したものとすれば、必要な場合にのみ電気的加熱手段への段階的な通電を行い、その他の場合には最短の時間で電気的加熱手段による最大の加熱・気化能力を発揮可能なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
電気的加熱手段を複数のヒータユニットに分けて順次時間をずらして通電を開始するものとした本発明によると、電気的加熱手段への通電開始による他の電気機器の機能に対する悪影響を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による実施の形態のガス燃料供給装置を配置したガス燃料噴射システムの配置図。
【図2】図1のガス燃料供給装置における各ヒータユニットへの通電状況を示すグラフ。
【図3】従来例による実施の形態のガス燃料供給装置を配置したガス燃料噴射システムの配置図。
【図4】図3のガス燃料供給装置における各ヒータユニットへの通電状況を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。尚、以下の説明においては、使用する液化ガス燃料はLPGであってLPGを加熱・気化して所定圧力に調整した気体燃料を、車両用LPGエンジンに供給する場合について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態のガス燃料供給装置10Aを配設したガス燃料噴射システムの配置図を示すものであり、このガス燃料供給装置10Aは、燃料タンク3から延設された液体燃料用の供給配管が接続してエンジン冷却水の熱を利用する加熱気化手段に加え電気的加熱手段21Aを有して液体燃料を加熱・気化するためのベーパライザ20Aと、これから延設された気体燃料の供給配管(フューエルレールを含む)と、その先端側に設けたインジェクタ5(複数)と、電子制御ユニット11Aを備えてなるものであり、図3に示した従来のガス燃料供給装置10Bと構成がほぼ共通したものとなっている。
【0019】
その電子制御ユニット11Aは、ベーパライザ20Aの電気的加熱手段21Aへの通電を制御するとともに、各種センサ12,13,14,15,16による検出信号を検知しこれらのデータを基に燃料噴射量を算出してインジェクタ5を開閉制御することにより、エンジン1が要求する流量の気体燃料を供給する燃料噴射制御装置である。尚、この電子制御ユニット11Aは、燃料噴射制御機能の他に点火時期制御機能を有しているが、さらに他の制御機能を有したものであっても良い。
【0020】
上述したように、従来のガス燃料供給装置10Bではヘッドライト等の他の電気機器を使用中に電気的加熱手段21Bに通電を開始した場合、急激に電力消費量が増大することでその電気機器の機能に悪影響を及ぼすことが問題となっており、たとえば電気的加熱手段21BがPTCヒータ等によるヒータユニットを複数有したものであっても、図4の各グラフに示すように、複数のヒータユニット(#1,#2,#3,・・・)には同時に通電が開始されるため、下段のグラフに示すように急激な消費電流の増大を招いていた。
【0021】
そこで、本実施の形態のガス燃料供給装置10Aでは、ベーパライザ20Aの電気的加熱手段21AがPTCヒータによる複数のヒータユニットが並列配置されることに加え、電気的加熱手段21Aを用いて加熱を行う際に、電子制御ユニット11Aがヒータユニット毎に順次時間をずらして通電を開始させるように通電制御を行うこととした。
【0022】
即ち、図2の各グラフに示すように、電子制御ユニット11Aが検知している各種データを基に、エンジン冷却水による加熱気化手段だけでは液化ガス燃料の加熱が不充分になる状況であると判定すること等によりヒータON条件が成立した場合に、先ずヒータユニット#1に通電開始し、その通電から所定時間おいてヒータユニット#2に通電するものとし、その後も同様にヒータユニット#3、・・・と順次通電開始時をずらしながら通電を行う制御を実行するものである。
【0023】
このような制御を電子制御ユニット11Aが行った結果、図2下段の消費電流のグラフに示すように消費電流の増大は段階的なものとなって緩やかな上昇角度を描くものとなる。したがって、例えばヘッドライト使用中に急激な減光を招く事態が回避されるなど、他の電気機器の機能に対し悪影響を与えることを最小限に抑えることができる。
【0024】
尚、本実施の形態のガス燃料供給装置10Aにおいて、その電子制御ユニット11Aが電気的加熱手段21Aによる加熱・気化を行うのは、従来例と同様にエンジン冷却水温度などを基準にしてエンジン冷却水による加熱気化手段だけでは、液体燃料の充分な加熱・気化が期待できないような状況に限定される。
【0025】
これに加え、本実施の形態においては、電気的加熱手段21AがPTCヒータによる複数のヒータユニットが並列配置されて各々別個に通電可能であることを利用して、検知しているエンジン冷却水温度を含むエンジン運転状態または/およびそのときの電力消費状況(現状の電力供給能力と電力使用量のバランス等)に応じて、そのときにエンジンが必要としている気体燃料を供給可能な最少のヒータユニットに限定して通電させるようになっており、電力消費量の増大を必要最小限に抑えることを可能としている。
【0026】
また、このガス燃料供給装置10Aにおいて、電子制御ユニット11Aがヒータユニット毎に順次時間をずらして通電を開始させる制御を行うのは、検知しているエンジン運転状態に基づいて、総てのヒータユニットに同時に通電開始しなくても間に合う状況であると判断した場合、または急激な電力消費量の増大が機能に悪影響を与える畏れのある所定の電気機器を使用している場合などに限定することが推奨される。
【0027】
これらの限定する場合としては、例えば、電子制御ユニット11Aが検知しているエンジン運転状態に基づいて、電気的加熱手段21Aによる加熱の必要性が比較的少ない場合であると判断した場合が想定され、急激な電力消費量の増大が機能面に悪影響を与える畏れのある電気機器としては、上述のヘッドライトの他、カーナビゲーション装置などの精密電子機器が挙げられる。
【0028】
例えばヘッドライトの場合、電子制御ユニット11AがヘッドライトのON状態を検知するような構成として、ヘッドライトがON状態であることを検知している状況で、上述の制御を実行するように電子制御ユニット11Aをプログラムしておくことが想定される。これにより、その他の場合には、ヒータユニットは総て同時に通電されるため、短時間で充分な加熱・気化能力を発揮可能となる。
【0029】
以上、述べたように、燃料噴射制御装置がベーパライザの電気的加熱手段への通電を制御しながらガス燃料を加熱・気化してエンジンに供給するガス燃料供給装置において、本発明により、電気的加熱手段への通電開始による他の電気機器の機能に対する悪影響を最小限に抑えられる。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン、2 吸気通路、3 燃料タンク、5 インジェクタ、10A ガス燃料供給装置、11A 電子制御ユニット、12,13,14,15,16 センサ、20A ベーパライザ、21A 電気的加熱手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の状態で貯留した液化ガス燃料を、エンジン冷却水の熱を利用する加熱手段に加え電気的加熱手段を有したベーパライザに導入して加熱・気化させ所定圧力の気体燃料に調整後インジェクタで噴射してエンジンに供給し、エンジン運転状態を表す各種信号を検知している燃料噴射制御装置が、前記電気的加熱手段への通電を制御するとともに前記インジェクタを開閉制御して前記エンジンが要求する量の気体燃料を供給するガス燃料供給装置において、前記電気的加熱手段が複数のヒータユニットが並列配置されているとともに前記電気的加熱手段を使用する際に前記燃料噴射制御装置が少なくとも前記ヒータユニット毎に通電開始時をずらして順次通電させる制御を実行可能としたことを特徴とするガス燃料供給装置。
【請求項2】
前記燃料噴射制御装置は、前記電気的加熱手段への通電を、検知した前記エンジン運転状態またはそのときの電力供給状況の少なくとも一方に応じて、前記エンジンが必要とする気体燃料を供給可能とする最少の前記ヒータユニットに限定して通電させることを特徴とする請求項1に記載したガス燃料供給装置。
【請求項3】
前記電気的加熱手段は、PTCヒータを使用するものであって前記ヒータユニット毎に前記PTCヒータを有していることを特徴とする請求項1または2に記載したガス燃料供給装置。
【請求項4】
前記ヒータユニット毎に通電開始時をずらして順次通電させる制御を前記燃料噴射制御装置が検知しているエンジン運転状態に基づいて総ての前記ヒータユニットに同時に通電開始しなくても間に合う状況と判断した場合、または総ての前記ヒータユニットに同時に通電開始することで機能に対する悪影響が懸念される所定の電気機器を使用している場合に限定して行うことを特徴とする請求項1,2または3に記載したガス燃料供給装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255454(P2010−255454A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103649(P2009−103649)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)