説明

ガラクトースに富む多糖、その製造方法及びその応用

本発明の高分子は50〜90%のガラクトース、各1〜25%のグルコース、マンノース及び0.5〜20%のラムソースと、任意に微量のキシロース、フコース、リボース、アラビノース又はフルクトースとを含む多糖からなる。高分子はまた非糖成分、即ちアシル基を含む。また、炭素源としてグリセロール又はグリセロールに富む基質を用いる微生物発酵工程と、高分子の回収工程とを備える高分子の製造方法に関する。本発明の方法は細胞内高分子、即ち、ポリヒドロキシアルカノエートを共生産できる。特に、食品、農業、繊維及び製紙業、製薬及び化粧品、鉱業における石油及び金属回収、産業廃棄物処理及び排水処理の分野において、ガラクトースに富む高分子の適用又は物理的、化学的又は生物化学的方法によりガラクトースに富む高分子の部分的又は完全な分解物又は誘導体、即ち、ガラクトオリゴ糖、ガラクトース、ラムノース等の生産方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、食品業界、農産業、繊維・製紙業の分野、医薬品及び化粧品、鉱業における石油回収及び金属回収のために、又は排水処理に用いられる、ガラクトース(50〜90%)、グルコース(1〜25%)、マンノース(1〜25%)及びラムノース(0.5〜20%)で構成される多糖からなる生体高分子であって、当該高分子が、微量のキシロース、フコース、リボース、アラビノース又はフルクトースなどの中性糖を含み、さらにアシル基などの非糖成分を含んでいてもよく、より好ましくは、炭素源として、グリセロール又はグリセロールに富む基質を用いた微生物発酵によるガラクトースに富む高分子の製造方法及びガラクトースに富む高分子及びその生産物の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖は、繰り返し単位として1つ以上の単糖類が重合されてなる高分子量の糖質である。糖質は、生体内において最も豊富な巨大分子であり、全植物及び藻類、動物、微生物中に存する。多糖は、その物理化学的性質、即ち、その保水容量、被膜形成、及びレオロジー(粘性、ゲル化、乳化)のため、多種多様な工業において広く用いられている。
【0003】
現在、植物(例えば、グァーガム、アラビアゴム、ペクチン)、藻類(例えば、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天)又は甲殻質(例えば、キチン)から得られる多糖が生体高分子市場を独占しており、細菌多糖類はまだわずかしかない。細菌多糖類のより幅広い利用を制限する主な要因として、多糖生成菌株の多くが病原性であり、その利用が一般に受け入れがたいものであるという現実を挙げることができる。それにもかかわらず、最近、その物理化学的性質及びレオロジーのため、従来の多糖に匹敵する可能性のある新規な細菌多糖類の分離、同定に対する関心が増大している。植物及び藻類による多糖の製造は、特に、気候及び環境による汚染などの影響を受けやすく、そのため、得られる高分子の量及び質の両方に非常に大きなばらつきが生じてしまう。一方、多くの細菌多糖類は、植物高分子には見られない様々な特性、例えば、抗癌性、抗ウイルス性、抗炎症性又は免疫刺激活性等によって特徴付けられる。
【0004】
細菌多糖類は、広く研究されており、現在、従来の多糖、例えば、アルギン酸塩若しくはカラギーナン、ストレプトコッカス・エクイによって生産されるヒアルロン酸及び真核生物高分子に類似していることにより医療、製薬、化粧品に適用されているシュードモナス属、リゾビウム属、アグロバクテリウム及びアルガリゲネス属の細菌によって生産されるサクシノグリカンに比較して、物理的性質が向上している、アセトバクター・キシリナムによって生産され、植物セルロースに類似する特性を有するバクテリアセルロース、もっぱら細菌により生産され、リューコノストック属の細菌によって生産されたデキストラン、及びバシラス属、ザイモモナス属及び乳酸菌により生産されたレバン等、キサントモナス属の細菌によって生産されたキサンタン、並びにスフィンゴモナス・パウチモビリスによって生産されたジェランガム等が、商業的にも開拓されてきている。
【0005】
化学製品に代わる再生可能な資源への関心が増してきているため、新たな製品の探求が確実に高まり、新規な細菌多糖類が商業的関心を有して浮かび上がってきた。多糖の商業的価値は、その組成、生産量及び抽出や処理の容易さに依存するだろう。産業的な発展は、レオロジー特性、即ち、その粘性溶液形成能力、広範囲の温度及びpHに対する安定性、その特有の生物学的特性又は新規な適用に用いることができるという事実に依存するだろう。
【0006】
ガラクトースに富む高分子は、潜在的に産業的関心を有する多糖に含まれる。これらの高分子は、例えば、植物中におけるアラビアゴムとして、例えば、藻類中における例えば、カラギーナン、寒天として、また、原生動物、菌類、酵母及び細菌を含むいくつかの微生物中において見出される。グリコシル結合の型は様々なものを含むものの、微生物高分子中におけるガラクトース残渣の存在はかなり一般的である。これらの多糖は、不定量のガラクトース、他の糖残渣、最も一般的には、グルコース、マンノース、ラムノース、アラビノース又はフコースを含んでいるガラクトース(ガラクタン)のホモポリマー又はヘテロポリマーであろう。これらのポリマーの多くは、中性糖、酸性糖(例えば、グルクロン酸、ガラクトウロン酸)、アミノ糖(例えば、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン)を含んでいる。アシル基(例えば、酢酸エステル、ピルビン酸ケタール、スクシニル半エステル)又は無機残渣(例えば、硫酸塩、リン酸塩)のような非糖成分の存在もまた、非常にありふれたものである。
【0007】
ガラクトースホモポリマーは、ビフィドバクテリウム・インファンティス(例えば、非特許文献1参照)、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム(例えば、非特許文献2参照)、クレブシエラ・ニューモニエ(例えば、非特許文献3参照)、パスツレラ・ヘモリチカ(例えば、非特許文献4参照)、セラチア・マルセセンス(例えば、非特許文献5参照)、アゾリゾビウム・カウリノダンス(例えば、非特許文献6参照)、及びメチロバクテリウム種VTT−E−11929(例えば、非特許文献7参照)等の細菌によって生産される。
【0008】
本発明の高分子の主な成分は、ガラクトース、他の中性糖、即ち、グルコース、マンノース及びラムノースからなり、比較的高度な構造複雑性を示す。ビフィドバクテリウム・インファンティス及びビフィドバクテリウム・カテヌラツムによって生産される、ガラクトース残渣がフラノース環の形状として存在しているガラクタンとは異なっているが、本発明の多糖は、全てのガラクトース残渣がビラノース環の形状として含まれている。一方、参照されたガラクタンの抽出工程は、細胞壁成分が存在するため、かなり困難であるが、本発明の高分子の抽出は、細胞外産物であるため、非常に容易である。クレブシエラ・ニューモニエ、パスツレラ・ヘモリチカ、及びセラチア・マルセセンスによって生産されたガラクタンは、リポ多糖類であり、代替的にガラクトースのピラノース環及びフラノース環により構成される。上述の細菌の内、クレブシエラ・ニューモニエ及びセラチア・マルセセンスはヒトに、パスツレラ・ヘモリチカは動物に感染し、その感染症の発症に関連してガラクタンを生産する。このため、これらの高分子に対する関心は、商業的発展とは異なり、細菌を生産することにより引き起こされる感染の発症の研究に制限される。さらに、リポ多糖類を得るための抽出及び精製工程は、本発明の細胞外高分子の場合よりも、非常に困難である。
【0009】
主成分としてガラクトースを含むヘテロポリマーは、幅広い微生物群、即ち、ビフィドバクテリウム属、クレブシエラ属、エルウィニア属、メチロバクテリウム属、シュードモナス属、ラクトバチルス属、アルカリゲネス属、及びストレプトコッカス属の細菌により生産される。
【0010】
ラムノガラクタン(ガラクトースとラムノーストによって構成される多糖)は、ビフィドバクテリウム属の細菌の一般的な細胞壁成分である。具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガムの細胞壁多糖は、ガラクトース(約60%)と、ラムノース(約40%)とにより構成されており、ガラクトース及びラムノースは共にピラノース環形状である(例えば、特許文献6参照)。本発明の高分子は、その上、細胞外に存在するという特質を有しているため、低い割合のラムノースを有し、また、他の中性糖(グルコース及びマンノース)を有している点で、ビフィドバクテリウム・ロンガム高分子とは異なっている。
【0011】
クレブシエラ属のいくつかの細菌は、ガラクトースに富む細胞外ヘテロポリマーを生産する。例えば、クレブシエラ種K32系統は、不定量のピルビン酸を含有するガラクトース(45〜63%)とラムノース(12〜55%)とにより構成される多糖を生産する(例えば、非特許文献8参照)。クレブシエラ種S11は、少量のウロン酸を含有する、ガラクトース(62.5%)とグルコース(25%)とマンノース(12.5%)とにより構成される多糖を生産する(例えば、非特許文献9参照)。クレブシエラ・プランチコラ DSM 3092は、ガラクトース(38.2%)、マンノース(15.9%)、グルコース(1.7%)、グルクロン酸(17.5%)、酢酸塩(5.3%)、コハク酸塩(2.6%)及び硫酸塩(14.6%)により構成される多糖を生産する(例えば、特許文献1参照)。本発明の高分子は、これらの多糖と、その組成、即ち、ガラクトース、グルコース、マンノース及びラムノースが同時に存在し、並びにウロン酸が存在しないという点で異なっており、クレブシエラ・プランチコラにより生産された多糖とは区別される。
【0012】
ガラクトースに富むヘテロポリマーの生産はまた、メチロバクテリウム属の細菌内において行われる。例えば、メチロバクテリウム・オルガノフィラムにより生産される細胞外多糖メチランは、ガラクトース、グルコース及びマンノース(モル比で4:3:3)、アシル基(ピルビン酸塩及び酢酸塩)並びにウロン酸により構成されている(例えば、特許文献2参照)。本発明のポリマーは、より多量のラクトースを含有し、ウロン酸が存在しないという点で、前記多糖メチランと異なっている。
【0013】
エルウィニア属の植物病原性細菌の内、いくつかはガラクトースに富む多糖を生産する。例えば、エルウィニア・アミロボーラは、ガラクトース(約80%)及びグルクロン酸(約20%)、アシル基(酢酸塩及びピルビン酸塩)並びに微量のグルコースにより構成される細胞外多糖であるアミロボランを生産する(例えば、非特許文献10参照)。エルウィニア・ピリフォリアエは、アミロボランに類似するが、より多量の酢酸塩を含有すると共に、グルコースを含有しない細胞外多糖を生産する(例えば、非特許文献11参照)。エルウィニア・ステワルティ(パントエア・ステワルティ ssp. ステワルティ)は、アミロボランに類似するが、より高いグルコースを含有する莢膜多糖類であるステワルタンを生産する(例えば、非特許文献12参照)。エルウィニア・クリサンセミ Ech6は、(同量の)ガラクトース及びフコース、グルコース並びにグルクロン酸により構成される細胞外多糖を生産する(例えば、非特許文献13参照)。本発明の高分子は、グルクロン酸を含有しておらず、また、マンノース及びラムノースを含有している点で、これらの高分子と相違する。
【0014】
いくつかのエントラバクター種(例えば、エントラバクター・アムニゲナス、エントラバクター・クロアカ)は、ガラクトース(21〜24%)及びフコース(16〜27%)に富み、不定量のグルコース、マンノース及びラムノース、アシル基(酸酸塩及びピルビン酸塩)、並びにウロン酸(グルクロン酸又はガラクツロン酸)を含有するヘテロ多糖類を生産する(例えば、非特許文献14参照)。ガラクトース、フコース、グルコース及びグルクロン酸により構成されるコラン酸は、エントラバクター属の細菌により生産される典型的な細胞外多糖である(例えば、非特許文献15参照)。本発明の高分子は、ガラクトースの含有量がより高く、フコースの含有量が微量又は全くなく、ウロン酸が不存在である点で、これらの多糖とは相違する。
【0015】
ガラクトースに富むヘテロ多糖類の生産は、ビブリオ属の細菌内で行われる。例えば、ビブリオ・ハーベイ内では、主成分がガラクトース及びグルコースで、少量のラムノース、フコース、リボース、アラビノース、キシロース及びマンノースを含有する多糖が生産される(例えば、非特許文献16参照)。この多糖は、より高いウロン酸、即ち、ガラクツロン酸含有量を示すことで、本発明の高分子とは区別される。
【0016】
アルカリゲネス属由来の細菌、即ち、アルカリゲネス ATCC31961系統は、典型的にはグルコース及びラムノースを含有するが、さらに、グルクロン酸、ガラクトース、マンノース、アラビノース、フコース及びリボースを含有する多糖を生産することができるといわれている(例えば、特許文献3参照)。本発明の高分子は、ウロン酸を含有していない点で、このような多糖とは相違する。
【0017】
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属由来のいくつかの乳酸菌は、主成分がガラクトース及びグルコースである様々なヘテロ多糖類を生産する。これらの種としては、ラクトバチルス・デルブリュッキは、さらにガラクトース及びグルコース、ラムノース又はマンノースを含有するいくつかの多糖を生産する。ラクトバチルス・ラムノサス及びラクトバチルス・ケフィラノファシエンスは、ガラクトース及びN−アセチルガラクトサミンを含有する多糖を生産する(例えば、非特許文献17〜19参照)。ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスは、ガラクトース及びグルコースにより構成されるか、又はガラクトース、グルコース及びラムノースにより構成される多糖を生産する(例えば、非特許文献19参照)。ストレプトコッカス種は、ガラクトース及びグルコース、ラムノース、マンノース又はN−アセチルガラクトサミンを含有するいくつかの多糖を生産する(例えば、非特許文献19参照)。ストレプトコッカス・サーモフィルスは、ガラクトース及びラムノースを含有する多糖を生産するか(例えば、非特許文献20参照)、又はガラクトース、ラムノース及びグルコースを含有する多糖を生産する(例えば、特許文献4参照)。
【0018】
ガラクトースに富む多糖の生産はまた、シュードモナス属の細菌内で行われる。例えば、シュードモナス・マルギナリスは、等モル量のガラクトース及びグルコースにより構成される細胞外多糖を生産する(例えば、非特許文献21参照)。シュードモナス・フルオレセンスは、主成分がガラクトース、マンノース及びアラビノースである細胞外多糖を生産する(例えば、非特許文献22参照)。シュードモナス・パウシモビリスは、典型的にはグルコース及びラムノースを含有するが、グルクロン酸、ガラクトース、マンノース、アラビノース、フコース及びリボースもまた含有する多糖を生産する(例えば、特許文献3参照)。シュードモナス種ATCC 53923は、マンノース、ガラクトース及びグルコースをモル比で1.3:1.0:1.3で含有し、10〜25%のウロン酸及び10〜15%の酢酸塩を含有する多糖を生産する(例えば、特許文献5参照)。本発明の高分子は、マルギナランが、主成分としてガラクトース及びグルコースに加えて、マンノース及びラムノースもまた含有する点で相違する。シュードモナス・フルオレセンスによって生産された多糖内においてアラビノースが存在しているのに対して、本発明の多糖はアラビノースが微量しか存在しないか、又は全く存在しないため区別される。本発明の高分子はまた、シュードモナス・パウシモビリス及びシュードモナス種ATCC 53923が主にウロン酸を含有していない点で相違する。
【0019】
本発明の高分子は、他のガラクトースに富む多糖と、微生物起源、即ち、主成分としてガラクトースに加えて、中性糖、グルコース、マンノース及びラムノースを含有しており、さらに、ウロン酸及びアミノ糖が存在しない点で区別される組成を有している。
【0020】
本発明の高分子は、細胞外生成物であり、細菌の細胞壁又は色部若しくは藻類の細胞壁の組成であるいくつかの多糖に比較して、その抽出が比較的容易な工程である。
【0021】
その生分解性により、ガラクトースに富む高分子は、いかなる環境問題も引き起こさない。本発明の多糖は、レオロジー特性、即ち、その偽塑性流体としての性質及びその優れた粘度、広範囲のpH及び温度に対する安定性を有する水溶液を形成する能力に対して関心が持たれている。
【0022】
微生物により生産された多糖の組成及び量は、遺伝子的に決定された特徴であるけれども、培養条件を変化させることにより影響を与えることができる。多糖の生産は一般的には、他の栄養素(例えば、窒素又はリン)による制限と併用しての過度の炭素源の存在、微好気性若しくは嫌気条件又は過剰曝気、塩ストレス、陽イオンの存在(例えば、Ca2+、Sr2+)又は毒性化合物若しくは微生物増殖阻害剤(例えば、抗生物質又はH)を好適とするストレス応答の一端として誘導される。生産される多糖の量は、培地組成及びインキュベーション条件、特に、細胞内及び細胞外の両方における炭素利用能及び炭素と他の栄養との間の割合により影響される。
【0023】
細胞外細菌多糖類を生産するための大抵の発酵工程は、純粋培養で行われる(例えば、特許文献5〜8参照)。2又はそれ以上の微生物の混合培養を用いることも可能ではあるが、少なくとも1つの微生物が対象とする高分子を生産することができる必要がある。この具体例としては、シュードモナス・マルトフィリアDSM 2130と、アグロバクテリウム・トゥメファシエンスDSM 2128との混合培養によって細胞外多糖が生産される。
【0024】
細菌多糖類の生産は、通常、最も一般的に用いられる炭素源として糖(例えば、グルコース、スクロース、でんぷん)の存在下、好気性発酵によって行われる。上述した微生物性のガラクトースに富む多糖を製造するための大抵の工程では、主にグルコース、又はいくつかの場合ではスクロース若しくはラクトースを、炭素源の糖として用いている。メチロバクテリウム・オルガノフィラムによりメチランを生産するためには、メタノールを炭素源として用いるか、代替的にメタノールと、グルコース、マンノース、ガラクトース又はコハク酸塩の混合物を用いる。本発明の方法は、微生物発酵のために、グリセロール又はグリセロールに富む基質を炭素源として用いる。グリセロールの使用は、グリセロールを消費(例えば、バイオディーゼル生産由来のグリセロールに富む製品)に対する商品価格変動を抑えることができるという利点があり、このため炭素源に関連する生産コストを低減することができる。本発明の方法は、グリセロール又はその混合物を代替となる他の炭素源(例えば、糖、メタノール)としての使用を考慮することもできるため、より多目的な方法とすることができる。
【0025】
好気性発酵において、培養ブロスの粘度は継続的に増大し、高粘度状態に到達してしまうため、このような方法における主な困難さの一つは、ブロスにおける効率的な酸素及び栄養の分布を維持することである。このことは、しばしば、高い曝気率又は高い攪拌率を維持することにより生じる。一方、物質移動及び高分子の回収を向上させるための粘度の減少は、ヌクレアーゼを添加して細胞溶解物とするか、又はヌクレアーゼ産生能を備えるように設計された微生物系統を用いることで達成される。実際、ラルストニア・ユートロファ、メタロバクテリウム・オルガノフィラム、エロモナス・キャビエ、アゾトバクター・ビネランジー、アルカリゲネス・レータス、エシェリキア・コリ及びクレブシエラのような細菌と同様に、シュードモナス属も、遺伝子的に操作され、ポリヒドロキシアルカノエート及び多糖を生産する間、ヌクレアーゼを生産する(例えば、特許文献8参照)。これらの方法は、生産される多糖の型及び用いられる炭素源において、本発明とは異なっている。本発明の方法において、ガラクトースに富む高分子の生産は、曝気を最小限にすることができる低溶存酸素濃度で行うことができるので、運用コストを減少することができる。
【0026】
細胞外多糖及び細胞内生体高分子、即ち、ポリヒドロキシルアルカノエート(PHA)の共生産は、特定の増殖条件下、いくつかの微生物において自然に行われる。多糖とPHAとを同時に生産することができる微生物として、例えば、以下の細菌を挙げることができる。リゾビウム属の細菌(例えば、リゾビウム・メリロッティ)は、細胞内予備物質としてポリヒドロキシブチラート(PHB)を蓄積すると共に、グルコース、ガラクトース及びグルクロン酸により構成される細胞外多糖を生産する(例えば、非特許文献23参照)。アゾトバクター・ビネランジー及びシュードモナス・エルジノーサは、細胞外多糖、アルギン酸塩を生産すると共に、細胞内PHBを蓄積する(例えば、非特許文献24、25参照)。本発明の方法は、細胞内生体高分子、即ちPHAを生産すると同時に、ガラクトースに富む細胞外高分子を生産するために用いることができる。
【0027】
細胞外細菌多糖類を回収するために、通常細胞の分離工程を備えており、続いて、高分子を不溶性にするため、水混和性溶媒を添加することにより、高分子を沈殿させる工程を備える(例えば、特許文献5参照)。高分子の目的とする使用方法によって、さらに付加的な精製工程を行ってもよい。一方、高純度にする必要がない場合には、培養ブロスから直接用いるようにしてもよい(例えば、特許文献9参照)。
【0028】
多糖は、医療産業、食品産業、製薬産業、化学産業等、広範囲に応用することができる(例えば、特許文献7参照)。
【0029】
食品産業においては、ガラクトースに富む多糖は、液体系における増粘剤、結合剤、ゲル化剤、テクスチャリング剤(texturing agent)、乳化剤及び安定剤として、例えば、サラダドレッシング、酢、アイスクリーム、ケチャップ、マスタード、乾燥製品(例えば、スープ、ソース、シリアル及びパン粥)、及び肉製品(例えば、ソーセージ)に適用することができる。製薬産業においては、結合剤及び薬剤放出性助剤として用いることができる。
【0030】
いくつかの細菌多糖類は凝集活性を備えており、単独又は他の生体高分子、例えばキチン誘導体、ガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸塩及びでんぷん等と混合して用いることができる(例えば、特許文献3参照)。凝集剤は、コロイド及び細胞集合中で有益であり、例えば、水処理、食品産業及び鉱業、現在産業的等に用いられている。無機凝集剤及び合成有機凝集剤は、安価な製品であるが、生分解性が低い。一方で、これら凝集剤のいくつかは、ヒトの健康に対して危険である。即ち、ポリアクリルアミドは、そのモノマーが神経毒性を有し、ポリ塩化アルミニウムは、アルツハイマー病を引き起こす。天然凝集剤は、通常低い凝集活性を有するけれども、安全、かつ生分解可能であり、近い将来確実にその利用が増すであろう。
【0031】
多糖のような微生物によって生産される高分子化合物は、高い割合で存在すると、有毒金属の固定能を有する。この能力は、化学組成及び生体高分子の分子構造に依存する。アルギン酸塩及びキサンタンゴムなどの細菌多糖類は、アクチニド(例えば、プルトニウム)を固定し、耐食性凝集体を形成する。土壌及び水に混入した有毒金属を取り除くための細菌多糖類の使用は、大きな将来性を有しており、その適用関心が増大している。
【0032】
ガラクトースに富む多糖、即ち、グァーガムは、現在、他の業界において、例えば、紙特性(紙強度及び印刷に対する表面の改良)の向上のため製紙業に、スラリー爆薬中の結合剤として、若しくは棒状火薬の防水剤として爆薬に、掘削井戸における懸濁液として石油産業に、用いられるスラリーの増粘付与部分に併合されたハイドロマルチング(hydromulching)に、染色の増粘剤として繊維工業に用いられている。
【0033】
その生分解性により、多糖は、包装用フィルムの製造にも適用されていることが分かる。アルギン酸塩、キトサン、でんぷん、ジェラン及びペクチンのような生体高分子は、気体(二酸化炭素及び酸素)に対する低い透過性を備えているため、食品包装用の生分解性フィルムの開発に用いられている。
【0034】
ガラクトースに富む多糖はまた、オリゴ糖(2〜10個のモノマーからなる高分子)に転換され得るため、食品産業に利用されてもよい。従来の食品添加物が、消費者にとって人気がなくなってきているため、これらの天然化合物をプレバイオティクス(非発癌性、非消化性及び低カロリー化合物であり、消化管における微生物叢の発展を刺激する)として用いる関心が高まっている。近年、大量のオリゴ糖を得る最善の戦略は、物理的処理(マイクロウェーブ処理、加熱処理、放射線処理、超音波処理)、化学的処理(酸加水分解)、酵素反応(微生物酵素を用いる)又は特定の微生物の作用により多糖を分解することを基本とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】欧州特許第0184755号明細書
【特許文献2】米国特許第5064759号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0471597号明細書
【特許文献4】米国特許第5965127号明細書
【特許文献5】欧州特許第0410604号明細書
【特許文献6】スペイン国特許第8701838号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0197877号明細書
【特許文献8】国際公開第99/50389号
【特許文献9】米国特許出願公開第2006−0147582号明細書
【非特許文献】
【0036】
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【非特許文献18】Vanhaverbeke C, Bosso C, Colin-Morel P, Gey C, Gamar-Nourani L, Blondeau K, Simonet J-M, Heyraud A (1998) Carbohydr Res, 314, 211-220.
【非特許文献19】Yang Z (2000) Academic Dissertation, University of Helsinki.
【非特許文献20】Vaningelgem F, Van der Meulen R, Zamfir M, Adriany T, Laws AP, De Vuyst L (2004) Int Dairy Journal, 14, 857-864.
【非特許文献21】Osman SF, Fett WF (1989) J Bacteriol, 171(3), 1760-1762.
【非特許文献22】Hung C-C, Santischi PH, Gillow JB (2005) Carbohydr Pol, 61, 141-147.
【非特許文献23】Tavernier P, Portais J, Nava S, Courtois J, Courtois B, Barbotin J (1997) J Appl Environ Microbiol, 63(1), 21-26.
【非特許文献24】Galindo E, Pena C, Nunez C, Segura D, Espin G (2007) Microbial Cell Factories , 6(7), 1-16.
【非特許文献25】Pham TH, Webb JS, Rehm BHA (2004) Microbiology, 150, 3405-3413.
【非特許文献26】Verhoef R, Waard P, Schols HA, Siika-aho M, Voragen AGJ (2003) Carbohydr Res, 338, 1851-1859.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、ガラクトース、グルコース、マンノース及びラムノースにより構成される高分子量の多糖を主要構成要素とする生体高分子に関する。前記多糖は、さらに、微量のキシロース、フコース、リボース、アラビノース又はフルクトース及びアシル基のような非糖成分を含んでもよい。本発明の高分子は、有機溶媒に不溶であり、偽塑性流体の性質を有する高粘性水溶液を形成する。前記高分子の水溶液は、pHが3〜10の範囲の間で粘度が安定しており、そして、温度が0℃から100℃に上昇するのに伴い、その粘度が低下する。本発明の高分子は、凝集活性及び乳化活性、並びに膜形成能を備える。
【0038】
本発明はまた、曝気され、攪拌されている生物反応器において、炭素源としてグリセロール又はグリセロールに富む基質を用いる微生物発酵によりガラクトースに富む高分子を生産する方法を提供することを目的とする。本発明の方法によれば、グリセロール又はグリセロールを有する混合物中における代替物として、他の炭素源(例えば、糖、アルコール、有機酸又はアルカン)を用いることができるだろう。本発明の方法は、さらに、食品又は産業廃棄物、例えば、乳清又はオリーブオイル生産廃棄物などのバイオディーゼル生産由来のグリセロールに富む製品を用いることができるだろう。
【0039】
本発明の発酵工程における微生物培養は、例えば、シュードモナス属、クレブシエラ属、メチロバクテリウム属、エルウィニア属、アルカリゲネス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属又はラルストニア属由来の細菌が用いられる。前記微生物培養は、好ましくは、シュードモナス・オレボランス系統が用いられる。前記微生物培養は、ガラクトースに富む高分子を生産することができるものの中で、野生型又は変異型の微生物が用いられる。このような微生物培養は、ガラクトースに富む高分子を生産することができる少なくとも一つの微生物の純粋培養又は混合培養とすることができる。
【0040】
ガラクトースに富む高分子の生産に用いられる発酵工程は、曝気されている水性栄養培地において微生物を培養し、増殖させる工程からなる。前記発酵工程は、高溶存酸素濃度において開始されるが、細胞が増殖するにつれて、当該溶存酸素濃度は徐々に低下させられ、30%以下、好ましくは10%以下若しくは0%に制御される。ガラクトースに富む高分子は、窒素制限及び炭素利用可能条件下において、低溶存酸素濃度を維持しつつ生産される。
【0041】
本発明は、発酵工程が終了し、乾燥工程を経た後、培養ブロスの直接使用によりガラクトースに富む高分子を回収する方法を提供することを目的とする。本発明はまた、天然型のガラクトースに富む高分子の抽出工程と同様に、その精製工程を提供することを目的とする。本発明の高分子の抽出工程は、培養ブロスを遠心分離することによる細胞体の除去と、その後、沈殿剤(例えば、エタノール、アセトン)を添加することによる高分子の沈殿とからなる。前記高分子の精製工程は、1つ以上の追加工程(例えば、高分子水溶液の透析、限外ろ過又はダイアフィルトレーション(diafiltration))を含む。
【0042】
本発明はまた、ガラクトースに富む高分子を、いくつかの食品及び工業への応用(例えば、製薬、工業、紙、繊維製品、爆発物等)に利用すること及びそのオリゴ糖源としての使用、並びに生分解性フィルムの製造に関する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】20℃の温度で、0.01g/mL(0.1M−NaCl)の濃度において、定常応力スウィープテストにより測定した、市販のキサンタン(◇)、グァーガム(▽)、カルボキシメチルセルロース(△)、アルギン酸塩(○)及びガラクトースに富む高分子(□)の溶液の粘度に依存するせん断率を示す図。
【図2】本発明の高分子を生産するための発酵工程における炭素源(グリセロール)及び窒素源(アンモニウム)の消費の経時変化、並びにバイオマス及び天然高分子の生産を示す図。グリセロール及びアンモニウムは、発酵の20時間後、生物反応器内に継続的に供給される。
【図3】発酵96時間後における発酵ブロスのレオロジー特性(粘度及び応力・歪み対せん断率)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
1.高分子の特徴付け
本発明は、ガラクトース(50〜90%)、グルコース(1〜25%)、マンノース(1〜25%)及びラムノース(0.5〜20%)を備える高分子量(10以上)のヘテロ多糖類を主成分とする生体高分子に関する。本発明の多糖は、さらに、微量のキシロース、リボース、フコース、アラビノース又はフルクトースを含んでもよい。このようなガラクトースに富む高分子は、非糖成分として、アシル基、即ち、酢酸エステル、ピルビン酸ケタール及びスクシニル半エステル、並びに無機残渣、即ち、リン酸塩及び金属カチオンを含む。本発明の多糖の成分分析によれば、ウロン酸及びアミノ糖が存在しないことが確認された。
【0045】
本発明の高分子の物理特性、即ち、その溶解度及びその水溶液の粘度を、異なる起源、即ち、植物(グァーガム、アラビアゴム及びペクチン)、藻類(アルギン酸ナトリウム、κ−カラギーナン及び寒天)及び細菌(キサントモナス・カンペストリス由来のキサンタンガム、スフィンゴモナス・パウチモビリス由来のジェランガム)由来の他の多糖と比較する。その結果、本発明の高分子は、有機化合物(例えば、ヘキサン、ブタノール、酢酸エチル、クロロホルム及びトルエン)に不溶であり、粘性水溶液を形成する点において、参照した異なる多糖に類似する挙動を示すことが分かる。
【0046】
本発明のガラクトースに富む高分子の水溶液の粘度を考慮すると、当該高分子は、せん断率の減少に伴う粘度の増加及びせん断応力の減少によって特徴付けられる偽塑性流体としての挙動を示す。前記高分子の水溶液は、実際にはpH値が3〜11の範囲の間で粘度が一定であり、pHが3より小さいか、又は11を越えると、部分的に粘度が低下する。この水溶液粘度の低下は、前記高分子が、pH値が3より小さいか、又は11より大きくなると、部分的に分解されることに関する。前記高分子の水溶液は、温度が100℃より低くなると、4℃に到達するまでその粘度が上昇する。前記ガラクトースに富む高分子を高温(80〜100℃)及びオートクレーブ処理(120℃、1気圧、20分間)に曝すと、偽塑性流体としての挙動が維持される。
【0047】
ガラクトースに富む高分子水溶液は、5Pa・sに到達するゼロせん断粘度を有する低いせん断率において、ニュートン挙動を示すが、一方、せん断ひ薄化挙動(shear thinning behavior)は、1s−1を越えるせん断率が観察される。この流動作用は、事実上、グァーガム溶液により示される作用と同様である。粘度増強特性の観点から、本発明の高分子は、カルボキシメチルセルロース及びアルギン酸塩の両方より優れており、アルギン酸塩は、より小さいゼロせん断粘度を示し、また、より少ないせん断ひ薄化を示す。反対に、ガラクトースに富む高分子水溶液は、キサンタン溶液より小さな粘度を示す。
【0048】
ガラクトースに富む高分子は、凝集活性及び乳化活性の両方を有しており、膜形成能を備える。
【0049】
2.高分子の生産
2.1.微生物の培養
ガラクトースに富む高分子は、微生物発酵工程により得られる。前記培養される微生物は、シュードモナス属、クレブシエラ属、メチロバクテリウム属、エルウィニア属、アルカリゲネス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属又はラルストニア属の一つに属する細菌であるだろう。培養される微生物は、好ましくは、シュードモナス・オレボランス系統である。
【0050】
培養される微生物は、ガラクトースに富む高分子を生産することができる野生型の微生物、又はその変異型であってもよい。代替的に、純粋培養又は2又はそれ以上の微生物であって、少なくとも1つは本発明のガラクトースに富む高分子を生産することができる微生物の混合培養を行ってもよい。
【0051】
2.2.培地
微生物発酵に用いられる培地は、炭素源、窒素源及び無機塩を含む栄養水性培地からなる。炭素源は、好ましくはグリセロール又はグリセロールに富む基質である。代替的に、炭素源は、単量体の糖、二量体の糖若しくはオリゴ糖(例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、マニトール、ソルビトール)、有機酸(例えば、クエン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、オクタン酸塩)、アルカン(例えば、ヘキサン、オクタン)又はそれらの混合物であってもよい。炭素源は、例えば、糖液、バイオディーゼル生産由来のグリセロールに富む製品、乳清又はオリーブオイル生産廃棄物等の上記参照された1つ以上の化合物を含んでいてもよい。
【0052】
微生物発酵に用いられる窒素源は、無機塩(例えば、アンモニウム塩、硝酸塩)、有機窒素化合物(例えば、尿素、アミノ酸)若しくはそれらの混合物又は、例えば、大豆粉末、酵母抽出物、小麦のふすま又は尿素等の窒素源化合物を含む食品又は産業廃棄物であってもよい。
【0053】
培地はまた、特に、SO2−、Cl、CO2−からなるアニオンを備える塩を含む。培地はまた、ナトリウム、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、鉄及びマグネシウムなどの微量金属を含む。
【0054】
上述した培地は、単に用いることができる広範な種類の培地を説明するためのものであり、これらに限定するものではない。
【0055】
2.3.発酵条件
発酵工程は、圧縮された空気による曝気下、上述した水性栄養培地に、微生物培養のための植菌を行うことにより開始される。温度は、5〜75℃の範囲の間、好ましくは26〜37℃の範囲の間に管理され、pHは、4.0〜9.0の範囲の間、好ましくは6.0〜7.5の範囲の間に管理される。曝気速度は、発酵の間、溶存酸素濃度管理として、0.1〜2.0vvmの範囲の間で一定に維持するか、又は0〜2.0vvmの範囲の間で可変にしてもよい。
【0056】
発酵工程の開始時は、溶存酸素濃度が細菌の細胞増殖を促進することができる80%以上に維持される。細胞増殖に伴い、溶存酸素濃度を、80%以上の初期値から徐々に減少させて約50%にする。その後、培地と全く同一の組成か、又は炭素源が2〜5倍高い濃度の供給溶液を、断続的に、又は継続的に供給する。培養が安定増殖期に入り、高分子が生産されるときには、供給する溶液は窒素源を全く含まないものであってよい。結果的に、培養は窒素制限(窒素濃度は0又は0.3g/L以下、好ましくは0.1g/L以下)、及び利用可能炭素制限(炭素濃度は10〜100g/L、好ましくは10〜20g/L)条件下で行われる。
【0057】
細胞増殖に伴い、この瞬間から、0〜2000rpmの範囲の間で、好ましくは400〜800rpmの範囲の間で機械的攪拌を自動変化させることにより、溶存酸素濃度を徐々に減少させ、30%以下の値に、好ましくは10%以下、若しくは0%にさえ到達させる。このような条件下、即ち、窒素制限及び利用可能炭素制限において、約10〜30時間の範囲の間で、溶存酸素濃度が0%又は10%以下になるのに伴い、ガラクトースに富む高分子の生産に関連して、培養ブロス粘度が急増する。
【0058】
ガラクトースに富む高分子の生産は、粘度の上昇によって、発酵工程を96〜160時間の範囲の期間で維持される。発酵のいくつかの時点において、培養ブロスは、高粘度になり、生物反応器内の混合、密集度、酸素、熱伝導の観点において均一性が損なわれる。最大高分子生産は、培養の管理条件及び発酵時間と同様に、高分子の純度にも依存して、1〜50g/Lの範囲の間で変動するだろう。
【0059】
ガラクトースに富む高分子の生産工程の結果、細胞内生体高分子、即ち、ポリヒドロキシアルカノエートが共生産され、脂肪乾燥重量の60%以上を示すかも知れない。
【0060】
3.発酵産物の抽出及び精製
発酵終了後、ガラクトースに富む高分子は、発酵ブロスを単に80℃以上の温度にして乾燥させることにより、又は凍結乾燥することにより、直接回収することができる。
【0061】
代替的に、ガラクトースに富む高分子を、その天然型において、当該高分子が不溶性である場合、水混和性溶媒からなる沈殿剤、好ましくは、例えば、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)又はケトン(例えば、アセトン)等を添加することにより、培養ブロスから沈殿させてもよい。ガラクトースに富む高分子を、培養ブロス1リットルあたり、沈殿剤を1〜5リットル添加することにより沈殿させる。高分子を、細胞及び塩と共に共沈殿させて、そして80℃以上の温度にして乾燥させ、又は凍結乾燥させる。代替的に、沈殿させられた高分子は、乾燥又は凍結乾燥の前に、水に溶解してもよい。
【0062】
もう一つの抽出工程において、高分子は培養ブロスを遠心分離する(20000rpm、30分)ことにより細胞を除去する工程を含んでおり、続いて、沈殿剤(培養ブロス1リットルに対して1〜5リットルの沈殿剤)を添加することにより沈殿させる。細胞の除去は、遠心分離に先立って、培養ブロスの希釈(培養ブロス1リットルに対して1〜9リットルの脱イオン水の添加)により容易にされる。沈殿された高分子は、続いて、乾燥された沈殿物を、又は水で希釈した後、80℃以上の温度にすることで乾燥させてもよく、又は凍結乾燥させてもよい。
【0063】
高純度の高分子を得るために、高分子はさらに1つ又はいくつかの後工程に供せられる。前記後工程は、(1g/L未満に)希釈された水溶液から高分子を再沈殿させる工程、タンパク質分解酵素(例えば、トリプシン)又は細胞溶解酵素(例えば、リゾチーム)を使用する工程、タンパク質沈殿剤(トリクロロ酢酸)又は核酸を添加する工程、高分子の水溶液の透析、限外ろ過又はジアフィルトレーションである。精製工程の後、沈殿工程に続いて、又は水で希釈した後、高分子を80℃以上の温度にすることで乾燥させてもよく又は凍結乾燥させてもよい。
【0064】
4.ガラクトースに富む高分子の適用
本発明の高分子は、乳化活性及び凝集活性を有しており、pH、イオン強度及び温度変化に対して安定した粘度を有する粘性溶液を形成する。この方法によれば、この高分子は、アルギン酸塩、カラギーナン、グァーガム及びキサンタンガムと同一の領域、例えば、食品業界及び製薬業界と同様に、化粧品業界等の分野に適用することができる。
【0065】
ガラクトースに富む高分子は、技術的にかつ食品に適用する際に、増粘剤、結合材、ゲル化剤、乳化剤、テクスチャリング剤及び懸濁剤として、単独、又はアルギン酸塩、カラギーナン、グァーガム、ジェランガム及びキサンタンガム等の他の高分子と混合して用いてもよい。ガラクトースに富む高分子を食品に適用する具体例として、サラダドレッシング、酢、アイスクリーム、ケチャップ、マスタード、フルーツジュース、野菜ジュース、乾燥製品(例えば、スープ、ソース、シリアル)及び肉製品(例えば、ソーセージ、及びフルオフ(full offes))を挙げることができる。
【0066】
この高分子は、紙の表面密度を増加させ、印刷を容易にするための増粘剤として製紙工業において用いることもできる。グァーガムと同様に、シート形成を強化し、紙強度を増加させることができる。
【0067】
ガラクトースに富む高分子は、製薬業界における結合材及び崩壊剤として及び化粧品製品(例えば、歯磨き粉)の増粘剤として適用してもよい。
【0068】
前記高分子を単独、又は他の生体高分子、例えば、でんぷん、ペクチン、アルギン酸塩、カラギーナン、グルテン、ジェラン及びキトサン等と組み合わせて、生分解フィルムの開発に用いることができる。このようなフィルムは、気体(酸素及び二酸化炭素)の透過性が低いので、特定の食品に対する包装用物質として適しているだろう。
【0069】
キトサン、でんぷん及びグァーガム等の多糖は、放出制御薬物のためのミクロスフィアの製造において検証される。本発明の高分子は、同様に、単独又は他の生体高分子と混合されて用いられてもよい。
【0070】
本発明の高分子と同様の化学組成を有する多糖であるグァーガムは、他の適用として
・スラリー爆薬中の結合材として、又は棒状火薬の防水剤として爆薬(例えば、硝酸アンモニウム、及びニトログリセリン)に、
・掘削井戸における懸濁液として石油産業に、
・染色の増粘剤として繊維工業に
・凝集剤として、水処理及び鉱業に
広く用いられる。
【0071】
ガラクトースに富む高分子はまた、物理的処理(マイクロウェーブ、加熱処理、放射線処理、超音波処理)、化学的処理(酸加水分解)、酵素反応(微生物酵素を用いる)又は特定の微生物の作用によりオリゴ糖に転換されてもよい。得られたオリゴ糖は、消化管における微生物叢(Bifidobacteria e Lactobacilli)の刺激を含むのと同様に、有害な微生物(エシェリキア・コリ、クロストリジウム種及びサルモネラ)の増殖を阻害するプレバイオティクス特性を有していてもよい。また、これらのオリゴ糖は、医療特性、即ち、結腸癌の予防及び抗炎症作用を有しているかもしれない。
【実施例】
【0072】
[実施例1]シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子の生産
シュードモナス・オレボランスNRRL B−14682を表1に示す組成を有する栄養培地8Lに植菌した。生物反応器(Biostat B−plus(商品名)、Sartorius社製)の条件は、管理される温度が30℃であり、1M−NaOH又は1M−HSOの自動添加により、管理されるpHが6.75〜7.00の範囲の間であり、曝気速度が0.5vvmに対応する4slpm(標準リットル/分(standard liters per minute))で一定とした。細胞増殖に伴い、溶存酸素濃度を発酵開始時点における80%から徐々に低下させ、20時間以内に約50%とした。
【0073】
培養が開始された瞬間から、グリセロール濃度が200g/Lであることを除き、表1に示す組成と全く同一の供給溶液を継続的に供給した(約21ml/分)。従って、培養は、窒素制限(アンモニウム濃度を0.3g/L以下)及び利用可能炭素制限(グリセロール濃度を20g/Lより高く維持)条件下で行われた。



【0074】
攪拌速度を400〜800rpmの範囲の間で自動可変にすることにより、溶存酸素濃度を、細胞増殖に伴い徐々に低下させ、(発酵46時間以内に)10%にまで到達させた。この条件下で約20時間後、ガラクトースに富む高分子の生産の結果、培養ブロス粘度が急激に上昇した。
【0075】
ガラクトースに富む高分子の生産は、発酵時間の96時間以上に渡って維持され、天然型の高分子の濃度が23g/L(図2)に到達した。その時には、高い粘度のため、均一な培養ブロスを維持することができなくなり、発酵工程を終了とした。
【0076】
[実施例2]シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子の抽出及び精製
実施例2に記載したように、発酵工程が終了した後、天然型であるガラクトースに富む高分子を、エタノールを添加(1Lの栄養ブロスに対して3Lの96%エタノール)し、その混合物を−20℃で1時間保管することにより、培養ブロスから沈殿させた。所定の時間が経過した後、沈殿された高分子を遠心分離(10000rpm、5分)によって回収し、得られた画分を37℃で48時間乾燥させ、残りを凍結乾燥(24時間)した。この高分子は、前記乾燥した高分子の脱イオン化水(1g/Lの濃度)中における分解、細胞を除去するための遠心分離(20000rpm、30分)、エタノールの添加による再沈殿、最終的な凍結乾燥により、さらに精製された。
【0077】
[実施例3]シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子の化学的分析
実施例1記載の発酵工程及び実施例2記載の抽出及び精製工程により得られた高分子のグリコシル組成を、試料から酸性メタノリスによって生産された単糖類メチルグリコシドのper−O−トリメチルシリル(TMS)誘導体のガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)の組み合わせにより分析した。
【0078】
メチルグリコシドを、先ず80℃(18〜22時間)でメタノール中における1M−HCl内において、メタノリシスにより乾燥試料から製造し、続いて、メタノール中においてピリジン及び無水酢酸(アミノ糖の検出のため)を有するre−N−アセチル化を行った。得られた試料を、その後、Tri−Sil(商品名、Pierce社製)により80℃で(0.5時間)処理することによりper−O−トリメチルシリル化した。TMSメチルグリコシドのGC/MS分析を、インターフェースで5970MSD(商品名)に接続されたHP5890GC(商品名)により、シリカキャピラリーカラム(30m・0.25mmID)に結合されたAll Tec EC−1(商品名)を用いて行った。イノシトールを内部標準として、誘導体化する前に試料に添加した(各試料に対して20μg)。単糖類を、内部標準に比較した滞留時間により同定し、質量分析によりこれらの特徴を証明した。分析された試料は、主にガラクトース及び少量のマンノース、グルコース及びラムノースと、微量のキシロース、リボース又はフコースを含んでいた。
【0079】
グリコシル結合のため、乾燥された試料をペルメチル化、解重合、還元及びアセチル化した。その結果生じた部分メチル化アルジトール酢酸(PMAA)をGC/MSにより分析した。先ず、試料の一定分量を、乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)中の水酸化ナトリウム及びメチルヨウ化物で処理することでペルメチル化した。ペルメチル化は、高分子を完全にメチル化するために2回繰り返して行った。試料の詳細な分析に続いて、ペルメチル化物質を2Mのトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて加水分解し(シールド管中、121℃で2時間)、NaBDにより還元し、そして無水酢酸/TFAを用いてアセチル化した。生じたPMAAをインターフェースで5970MSDに接続されたHewlett Packard 5890GC(質量選択検出器、電子衝突電離モード)を用いて分析し、シリカキャピラリーカラムに結合された30mSupelco2330結合相上で分離を行った。得られた結果物は、高分子が高度の複雑性を有し、おそらく、高度に分枝していることを示した。全ての単量体がピラノース環形状内に存在していた。
【0080】
ガラクトースに富む高分子に存在するアシル基に対して、有機酸を検出するために、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により分析を行った。精製された高分子の乾燥試料を、99%TFA(高分子の水溶液2mlに対して25μlのTFA、120℃、2時間)を用いて加水分解し、UV検出器に接続されたAminex HPX−87H(商品名、Biorad社製)を用いるHPLCにより分析した。移動相は、50℃の温度で0.6mL/分の流速でHSO(0.01N)であった。その結果、いくつかの有機酸、特に、ピルビン酸塩及び酢酸塩が検出された。アシル基の含有量は、高分子の精製に依存しており、天然高分子から粗製ポリマー及び精製ポリマーへとその量が減少する。
【0081】
[実施例4]シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子の粘度測定
培養ブロスの粘度を、ブルックフィールドデジタル粘度計を用いて、実施例1の発酵工程中に測定した。測定により得られた結果から、シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子は、偽塑性流体挙動を有する溶液に由来すると結論付けることができる(図3)。
【0082】
精製された高分子0.5g/Lを有する生産された溶液の粘度は、pHにより異なる値が測定された。前記溶液のpHは、酸(HCL)又は塩基(NaOH)を添加することにより、pHの値を2〜13の範囲で変動させた。実際、pHが3〜11の範囲の間では、粘度は一定のままであり(12rpmで測定したとき、6.0〜7.0cpsの範囲の間であった)、pHが3より小さくなると、又は11を越えると、粘度は減少した(12rpmで測定したとき、pHが2及び13に対する平均値は、2.5cpsであった)。
【0083】
粘度に対する温度の影響もまた判定した。この研究は、精製された高分子の0.5g/Lの溶液を用い、4〜100℃の範囲の間において、加熱及び冷却を行って測定した。水溶液の粘度は、100℃における2.2cpsから、4℃に温度が減少するにつれて徐々に粘度は上昇し、21.5cpsとなった(粘度は12rpmで測定した)。大気温度(20〜25℃)における粘度は、11.0〜13.0cps(12rpmで測定)であった。
【0084】
[実施例5]シュードモナス・オレボランスのグリセロール発酵により生産されたガラクトースに富む高分子を用いる生分解フィルムの製造
実施例1で得られたガラクトースに富む高分子を、細胞を除去するために培養ブロスを遠心分離処理し、トリクロロ酢酸(TCA)(全容積である275mlに対して100%w/wTCA溶液を25ml含む)でタンパク質の沈殿を行い、遠心分離によりその分離を行い、最後に、96%の冷したエタノール(1:3)により高分子の沈殿を行い、さらに凍結乾燥(24時間)を行った。
【0085】
精製された高分子(0.5g)を、脱イオン水(100ml)中に溶解し、均一な溶液が形成されるまで攪拌を行った。少量のアジ化ナトリウムを添加し、微生物の増殖を阻害した。
【0086】
得られた溶液を減圧条件下に置いて気泡を取り除いた。この混合液をその後所定の容器に移動させ、室温で乾燥させた。形成された膜は、20〜50±5μmの厚さを示し、他の多糖、即ち、アルギン酸塩、ペクチン及びカラギーナンにより得られるフィルムと同様の外観を呈した。
【0087】
相対湿度が58%であり、15.6%に等しい含水量を備えるデシケータ内に試料を配置した。このような条件下、フィルムのヤング係数は10MPaであり、破壊強度が21.2MPaであり、破断歪みが3.6%であり、ガラス転移温度が73℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトース(50〜90%)、グルコース(1〜25%)、マンノース(1〜25%)及びラムソース(0.5〜20%)からなり、任意に微量のキシロース、リボース、フコース、アラビノース又はフルクトースと、非糖成分、即ちアシル基とを含むことを特徴とするガラクトースに富む高分子。
【請求項2】
請求項1記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記ガラクトースに富む高分子は、グリセロール又はグリセロールに富む基質を炭素源として用いる微生物発酵により得られることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記微生物は、好ましくは細菌であり、より好ましくは、シュードモナス属に属し、さらに好ましくは、シュードモナス・オレボランス系統であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記微生物は、微生物の変異体であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
純粋培養又は混合培養が、請求項3又は請求項4記載の微生物が少なくとも1種存在するようにいくつかの微生物を備えること特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項6】
請求項2記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
a.請求項2〜5により、炭素源、窒素源及び無機塩と、溶存酸素濃度を80%以上に維持する曝気手段と、5〜75℃の範囲の温度、好ましくは26〜36℃の範囲の温度と、4.0〜9.0の範囲のpH、好ましくは6.0〜7.5の範囲のpHとを有する水性栄養培地に植菌する工程と、
b.培養ブロス中の前記溶存酸素濃度が、50%以下の水準に到達し、従って、炭素源が10〜100g/Lの範囲の濃度、好ましくは10〜20g/Lの範囲の濃度に維持され、窒素源が消費し尽くされるか、又は0.3g/L以下の濃度となるように、窒素源を有するか又は有さずに、炭素源及び無機塩からなる供給溶液を培養に供給する工程と、
c.生物反応器内の培養ブロス中の溶存酸素濃度が、30%以下の水準に、好ましくは10%以下若しくは全く存在しないように管理し、炭素源を10〜100g/Lの範囲に、好ましくは10〜20g/Lの範囲に維持し、窒素源が消費し尽くされるか又は0.3g/l以下の濃度に維持する工程とを備えることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記炭素源は、グリセロール又はグリセロールに富む基質、
又はa.単量体の糖、二量体の糖又はオリゴ糖、好ましくはグルコース、フルクトース又はラクトース、
b.アルコール、好ましくはメタノール、
c.有機酸、好ましくはクエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩又はオクタノエート、
d.アルカン、好ましくはヘキサン又はオクタン
の内、少なくとも1つの化合物、その混合物又はグリセロールとの混合物からなる化合物であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記炭素源は、例えば、糖液、バイオディーゼル生産由来のグリセロールに富む製品、乳清又はオリーブオイル生産廃棄物等の請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の化合物を1つ又はいくつかからなる食品又は産業廃棄物であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項9】
請求項6記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記窒素源は、無機塩、有機窒素化合物又はその混合物であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項10】
請求項6記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
前記窒素源は、例えば、大豆粉末、酵母抽出物、小麦ふすま又は尿素などの窒素化合物を含む食品又は産業廃棄物であることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項11】
請求項2乃至請求項10のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
請求項1記載の高分子は、乾燥若しくは凍結乾燥又は代替的に、前記培養ブロスを連続的に、
a.前記培養ブロスから、好ましくは、遠心分離、ろ過、沈殿又はヒドロサイクルにより微生物細胞を除去する工程と、
b.極性溶媒、好ましくはアセトン、エタノール又はプロパノールの添加により多糖を沈殿する工程と、
c.沈殿した高分子を、好ましくは遠心分離及びろ過により分離する工程と、
からなる工程により抽出することによって、前記培養ブロスから直接回収されることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項12】
請求項2乃至請求項11のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法において、
請求項1記載の高分子は、
a.透析工程と、
b.超音波処理工程と、
c.沈殿により遊離タンパク質の除去、好ましくは、60〜120℃の範囲の温度による加熱処理若しくはオートクレーブ処理又はトリクロロ酢酸の添加に続く遠心分離又はタンパク質分解酵素を添加する工程と、
からなる工程の少なくとも1つからなる精製工程によるものであることを特徴とするガラクトースに富む高分子の製造方法。
【請求項13】
請求1記載のガラクトースに富む高分子を製造するために、請求項2乃至請求項12記載のガラクトースに富む高分子の製造方法を適用する方法。
【請求項14】
請求項1記載のガラクトースに富む高分子の製造と同時に、ポリヒドロキシアルカノエートの共生産を行うために請求項2乃至請求項10記載のいずれか1項記載のガラクトースに富む高分子の製造方法を用いる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−523789(P2010−523789A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502962(P2010−502962)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/PT2008/000015
【国際公開番号】WO2008/127134
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509282479)
【氏名又は名称原語表記】73100−SETENTA E TRES MIL E CEM,LDA
【Fターム(参考)】