説明

ガラスの製造方法およびそれに用いるガラス溶融装置

【課題】 特に反応性に富む原料を用い、高品質のガラスを得るためのガラスの製造方法およびそれに用いるガラス溶融装置を提供する。
【解決手段】 加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、(1)溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入する、または(2)容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすと共に、該雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へ流しながら、ガラス原料を投入するガラスの製造方法、並びにこれらの方法に用いるガラス溶融装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法およびそれに用いるガラス溶融装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、特に反応性に富む原料を用い、高品質のガラスを得るためのガラスの製造方法およびそれに用いるガラス溶融装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率[nd]が低く、アッベ数[νd]が大きくて、正の異常分散性を示す光学ガラスは、二次スペクトルの修正に利用される光学設計上重要なガラスの一つである。このような光学ガラスとしては、特許文献1、特許文献2に記載されているフツリン酸ガラスが挙げられる。
【0003】
フツリン酸ガラスは、メタリン酸化合物M(PO3)xとフッ化合物MFx(ここで、Mはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、または他の金属元素、xはMの価数を示す。)を原料とし、これらの原料を溶融することにより、製造することができる。
【0004】
このフツリン酸ガラスは有用なガラスであるが、ガラス原料を溶融する際、極めて強い侵蝕性を示す。そのため耐侵蝕性に優れた白金製の容器を用いて溶融しても、白金を侵蝕し、侵蝕された白金が微小粒子となって溶融ガラス中に混入して光の散乱源となり、ガラスの品質を低下させてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、このような溶融容器の脆化損傷によるガラスの汚染を低減し、脱泡均質化を目的としたフッ素高含有ガラスの製造方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この製造方法では、脱泡促進効果は得られても、前記容器侵蝕により生じるガラスの汚染を完全には防止することができない。さらに、この方法は、原料組成が制限されるのを避けられないという問題もある。
【0006】
また、リン酸ガラスの原料であるメタリン酸塩M(PO3)xを加熱処理した後に溶融することにより、白金汚染を軽減する方法が報告されている(非特許文献1参照)。この方法は、ガラス原料を920〜1050℃で加熱処理してから溶融する方法である。しかしながら、この方法においては、ガラス化温度が1100〜1200℃と高いメタリン酸原料のみの場合は問題ないかも知れないが、700〜1000℃でガラス化してしまうフッ素化合物原料を混合した原料では使用できない。したがって、フツリン酸ガラスのようにガラス化温度が1000℃以下のガラス組成原料には適用できない。あえて適用しようとするとM(PO3)x原料を加熱処理する工程と、加熱処理したM(PO3)x原料と、もう一つの原料であるフッ素化合物MFx原料とを混合する工程が必要になり、製造工程が煩雑になって、製造コストが高くつくのを免れないという問題が生じる。
【0007】
さらに、フツリン酸ガラスの溶融では、溶融時のガラス蒸気や雰囲気中の水分との反応生成物が溶融容器内に凝固したり、ガラス原料と反応して原料投入口を塞いだり、あるいは凝固物が溶融ガラス中に落下し、激しく発泡したり、未溶解物としてガラス中に残留するなど、好ましくない事態を招来する。その結果、ガラスの品質や生産性の低下という問題が引き起こされている。
【0008】
以上のような理由により、高品質なフツリン酸ガラスの量産レベルでの製造が困難になっているというのが現状である。
【0009】
一方、ホウケイ酸ガラスの溶融でも、ガラス原料が溶融時に多量の水分を放出して原料
投入口を詰らせたり、ホウ酸が揮発して溶融容器に凝固してフツリン酸ガラスの溶融と同じような問題が起っている。
【特許文献1】特開昭60−81042号公報
【特許文献2】特開昭62−100452号公報
【特許文献3】特公平8−25749号公報
【非特許文献1】「プラチナ・メタルズ・レビュー」第36巻、第1号、第14〜25ページ(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情のもとで、フツリン酸ガラスやホウケイ酸ガラスの製造のように、溶融過程で高い反応性を示したり、揮発しやすい成分を含むガラス原料を用い、高品質のガラスを製造するためのガラスの製造方法、およびそれに用いるガラス溶融装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入する方法、あるいは容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすと共に、該雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へ流しながら、ガラス原料を投入する方法により、そしてこれらの方法を実施し得る特定構造のガラス溶融装置により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入することを特徴とするガラスの製造方法(以下、製造方法Iと称す。)、
(2)加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、上記容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすと共に、該雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へ流しながら、ガラス原料を投入することを特徴とするガラスの製造方法(以下、製造方法IIと称す。)、
(3)ガラス原料を投入し、加熱、溶融して溶融ガラスを得るガラス溶融装置であって、ガラス原料を溶融する容器と、容器中の溶融ガラスに酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口と、前記酸化性ガス供給口の上方に配置されたガラス原料を投入する原料投入口を、主要構成要素として備えていることを特徴とするガラス溶融装置(以下、ガラス溶融装置Iと称す。)、及び
(4)ガラス原料を投入し、加熱、溶融して溶融ガラスを得るガラス溶融装置であって、ガラス原料を加熱、溶融するとともに、得られた溶融ガラスを貯める容器と、この容器に連接して設けられた原料投入口と、該容器内を満たす乾燥雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給口と、前記雰囲気ガスを排気する雰囲気ガス排気口を、主要構成要素として備え、かつ雰囲気ガス供給口からガラス原料投入経路に沿って溶融ガラス液面へと向かい、排気口に至る雰囲気ガスの流路が形成されるように、前記容器の内部が区分されていることを特徴とするガラス溶融装置(以下、ガラス溶融装置IIと称す。)、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラスの製造方法およびガラス溶融装置を用いることにより、反応性に富む原料を用い、高品質のガラス、特にリン酸ガラス、フッ化物ガラス、フツリン酸ガラス、ホウ酸含有ガラスなどを生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のガラスの製造方法は、加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、2つの態様、すなわち、(1)溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示す原料を投入する方法(製造方法I)、および(2)上記容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすと共に、該雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へ流しながら、ガラス原料を投入する方法(製造方法II)がある。
【0015】
上記製造方法Iにおいて、溶融される過程で還元性を示すガラス原料とは、上記容器(特に白金製あるいは白金合金製の容器)を溶融の過程で侵蝕する物質を生成する原料のことであり、リン酸ガラスの原料などがこのような原料に相当する。また酸化性ガスとは、上記ガラス原料より生成される還元性物質を酸化しうるガスのことであり、酸素ガスなどがこれに相当する。
【0016】
上記製造方法Iは、ガラス原料としてメタリン酸化合物を用い、リン酸ガラスを溶融する場合、特にガラス原料としてメタリン酸化合物とフッ素化合物を用い、フツリン酸ガラスを溶融する場合に、好ましく適用される。
【0017】
一方、製造方法IIは、ガラス原料としてフッ素化合物を用い、フッ化物ガラスを溶融する場合、特にフッ素化合物とメタリン酸化合物を用い、フツリン酸ガラスを溶融する場合、あるいはホウ酸化合物を用い、ホウ酸含有ガラスを溶融する場合に、好ましく適用される。
【0018】
フツリン酸ガラスは、光学ガラスとしてはフッ素元素によりνd値を大きくし、大きな正の異常分散性を示すガラスであり、フッ素化合物MFxおよびメタリン酸化合物M′(PO3)x′を原料とし、これらを溶融して作られる。ここで、M、M′はそれぞれ金属元素を示しており、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、あるいはその他の金属元素からなる1種または複数種の金属元素であり、x、x′は、それぞれM、M′の価数を示す。
【0019】
フツリン酸ガラスの原料としては、フッ化アルミニウムAlF3、フッ化マグネシウムMgF2、フッ化カルシウムCaF2、フッ化ストロンチウムSrF2、フッ化イットリウムYF3(以上、フッ素化合物)、メタリン酸アルミニウムAl(PO3)3、メタリン酸バリウムBa(PO3)2(以上、メタリン酸化合物)を調合したものを例示することができる。この他にKPO3、NaPO3、H3PO4、P2O5、Nd2(PO3)3などを用いてもよい。リン酸化合物は、リン酸ガラスの原料となる。
【0020】
このガラス原料は、800〜1000℃程度に加熱された容器中の溶融ガラス中に投入されるが、ガラス原料のうち、メタリン酸化合物M(PO3)xは溶融時に分解し、強い還元作用を示す遊離リンを発生する。この遊離リンが白金製の容器を侵蝕し、侵蝕された白金微粒子が溶融ガラスに混入し、光の散乱源となり、ガラスの品質を低下させる原因となる。
【0021】
このような問題を解決するために、本発明においては、前記の製造方法Iおよび製造方法IIを適用することができる。まず、製造方法Iについて説明する。
【0022】
本発明の製造方法Iにおいては、溶融ガラスに酸化性ガスを供給し、バブリングする。そして、酸化性ガスがバブリングされている位置に、メタリン酸化合物を投入する。投入されたメタリン酸化合物は分解して強い還元作用を示す遊離リンを発生させるが、遊離リ
ンは容器内面に接触する前に酸化性ガスの泡により速やかに酸化され、容器侵蝕が防止される。
【0023】
このようにメタリン酸化合物の分解生成物である遊離リンを酸化することにより、ガラスの溶融は促進され、リン酸ガラスを効率よく得ることもできる。
【0024】
酸化性ガスは、単に遊離リンを酸化させるだけでなく、メタリン酸化合物が投入される位置に上向きの対流を生じさせる。通常、投入された原料は沈降して容器底部に達するが、バブリングによる対流により、原料の沈降スピードが遅くなる。したがって、容器底部に達する前に原料は分解し、発生した遊離リンも酸化されるので、容器底部の侵蝕を効果的に防止することができる。
【0025】
この製造方法Iにおいては、溶融ガラス液面の中央部に酸化性ガスをバブリングし、そのバブリング位置にメタリン酸化合物を投入することが好ましい。このようにすることにより、原料の分解により生じた遊離リンが容器壁面に達しにくくすることができるとともに、容器中の溶融ガラスが攪拌される。
【0026】
バブリングに使用する酸化性ガスとしては、酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスの混合ガスのような酸素ガスを含む乾燥ガスが好ましい。また、酸化性ガスは後述する理由より、乾燥状態のものを用いることが望ましく、バブリングガス中の水分の含有量が4.25容量ppm以下、又は露点が−70℃以下となるガスを使用することが好ましい。酸素ガスの量は50〜500cc/分とすることが好ましい。
【0027】
ガラス原料であるフッ素化合物におけるフッ素と金属の結合解離エネルギーは、F−Mgでは511.7kJ/mol、F−Alでは587.7kJ/mol、F−Caでは556.17kJ/molと概ね500kJ/mol以上となっている。一方、O−Mgの結合解離エネルギーは336.87kJ/mol、O−Alでは、478.7kJ/molというようにFとの結合解離エネルギーよりも小さいので、バブリングした酸素ガスが、フッ素と金属の結合を断ち切り、フッ素をガラス中から追い出してしまうことはない。したがって、酸素ガスは遊離リンを酸化するが、フッ素を酸化してガラス中のフッ素含有量を減少させにくいので、フツリン酸ガラスを製造する際のバブリングガスとしては好適である。特に、フツリン酸ガラスを光学ガラスとして用いる場合、低屈折率低分散特性が求められるが、フッ素が酸素と置換してしまうとνd値(アッベ数)が減少することになる。しかし、酸化性ガスとして乾燥酸素ガスを選ぶことにより、このνd値の減少を防ぐことができる。
【0028】
酸化性ガスの流量は、原料の投入量や、溶融ガラスの生産量にも依るが、1〜4リットル/分とすることが好ましく、溶融容器内に供給する前の容器外部での温度を20〜60℃、溶融ガラスに供給する際の温度を700〜800℃にすることが好ましい。
【0029】
原料投入位置における溶融ガラスの深さ(この位置における容器底部と溶融ガラス液面の高低差)を深くし、溶融ガラス液面を基準にした原料を投入する高さを低くすることにより、投入原料が容器底部に到達する時間を長くすることができ、それによって侵蝕性のある原料を多量に投入しても、容器壁面の侵蝕を防止することができる。原料投入口が溶融ガラス液面に近づきすぎずに上記効果を得るためには、ガラス原料を投入する位置における溶融ガラスの深さを、溶融ガラスの液面を基準にした原料投入高さの1.5〜3倍にすることが好ましく、1.6〜2.5倍にすることがより好ましい。この溶融ガラス液面の高さは、溶融ガラスへのガラス原料の供給量または容器からの溶融ガラスの排出量、あるいは上記供給量および排出量の両方を制御することにより行うことができる。
【0030】
なお、ガラス原料の供給は、連続して投入することが好ましい。一定量のガラスを生産する場合、ガラス原料を間欠的に投入する方法では、一回に原料投入量が多くなり、一度に多量の遊離リンが発生することになる。連続投入では、投入量を時間に対して平均化することができ、発生した遊離リンを着実に酸化することができ、容器の侵蝕防止、ガラスの溶融促進の観点から有利である。
【0031】
したがって、溶融ガラスの液面を上記所定の範囲内に保つため、ガラス原料を連続して投入するとともに、溶融ガラスの排出も連続して行うことが好ましい。
【0032】
溶融ガラスは、容器の排出口より清澄槽へと送られ、清澄、攪拌され、均一で光散乱源となる微粒子や泡を含まない高品質なガラスとなる。このガラスは高品質なので光学ガラスとして好適に用いられ、レンズ、プリズム、光ファイバーなどの光学素子やレーザーガラスなどとして使用することができる。
【0033】
以上の方法はフツリン酸ガラスの溶融を例にしたものであるが、リン酸ガラスの溶融にも適用することができる。
次に製造方法IIについて説明する。
【0034】
フツリン酸ガラスの原料であるフッ素化合物には、AlF3(1260〜1272℃で昇華)のように昇華しやすいものが多い。AlF3は、300〜400℃の水蒸気に触れると一部分解してフッ化水素と酸化アルミニウムを生じる。AlF3の蒸気圧は2.19kPa(1098℃)、0.102MPa(1294℃)である。また、P2O5は気化しやすい性質がある。このため溶融ガラスが触れる雰囲気中にOH基または水蒸気が有ると、AlF3蒸気及びP2O5蒸気とOH基またはH2O蒸気とが反応し、難溶性のAlPO4が生成し、溶融容器内の溶融ガラス液面上方に凝縮する。凝固したAlPO4は、不定期的にガラス内に落下混入することになるが、AlPO4が溶融ガラス中に落ちると激しく発泡しながら反応し、ガラス中に泡を残存させる。また、AlPO4の融点は1500℃以上と極めて高く、溶融ガラス中に落下しても溶融しにくい。したがって、落下したAlPO4は微小物として残り、微粒子散乱の原因になり、ガラスの品質を著しく低下させる。この微小物を溶融するために、ガラスの溶融温度を1100〜1150℃程度よりも高くすると、昇華しやすい原料がガラス中より抜けるおそれがあるので、目的とする組成のガラスを得ることができにくくなる。
【0035】
また、フツリン酸ガラスのように大きなνd値を得るため、酸素の代わりにフッ素を大量に含んだガラスは、水と反応しやすく、溶融工程において溶融ガラスに水分が直接触れたり、溶融雰囲気への水蒸気混入は避けなければならない。溶融状態のフツリン酸ガラスがOH基や水蒸気に触れると、フッ素イオンが酸素イオンと置換し、フッ素はHFガスとしてガラスより抜け出てしまう。そのため、ガラスとしての安定性が損なわれたり、光学ガラスとして使用する場合においては、νd値が減少してしまう。発生したHFガスは有害であり、環境にも悪影響を及ぼす。
【0036】
このような問題を解消して、高品質なフツリン酸ガラスを得るには、溶融ガラスや溶融雰囲気中の水分やOH基を低減する必要がある。したがって、製造方法IIにおいては、加熱されている容器内に蓄積されている溶融状態のフツリン酸ガラスに、フツリン酸ガラスの原料を投入、溶融する工程で、この容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすとともに、雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へと流しながら、ガラス原料の投入を行う。
【0037】
この方法により、容器内は乾燥状態の雰囲気ガスで満たされ、雰囲気中の水分を低減することができる。また、雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へと
投入するので、ガラス原料が僅かに水分を吸着していても、雰囲気ガスと混じり合うことで、投入される原料が吸着している水分量を減少させることができる。雰囲気ガスは、溶融ガラス液面に達した後、容器の外へと排気され、容器中の雰囲気は乾燥状態に保たれ、溶融ガラスとOH基または水分との反応を抑えることができる。
【0038】
また、雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って流しているので、溶融ガラスから発生するガスがガラス原料の供給口に達し、ガラス原料を凝固させてガラス原料供給口を塞いだり、ガラス原料が上昇気流によって舞い上がり、原料供給口を塞ぐのを防ぐことができる。
【0039】
乾燥雰囲気ガスとしては、乾燥した不活性ガス、乾燥した酸素ガス、または不活性ガスと酸素ガスの乾燥した混合ガスが好ましい。
【0040】
さらに、上述したAlPO4、AlF3、その他のフッ素化合物のガラス成分等からなる気化したガラス蒸気が凝固して、雰囲気ガスを容器から排気する排気口を閉塞するのを防ぐため、排気口の温度を好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上になるように加熱することが好ましい。
【0041】
ガラス原料を連続して投入する場合、乾燥雰囲気ガスにより容器内を容器外に対して陽圧に保つことにより、原料供給とともに水蒸気が容器内に侵入するのを防ぐことができる。容器内外の圧力差は、10〜30Pa以上とすることが好ましい。
【0042】
溶融ガラスは、容器の排出口より清澄槽へと送られ、清澄、攪拌され、均一で光散乱源となる微粒子や泡を含まない高品質なガラスとなる。このガラスは高品質なので光学ガラスとして好適に用いられ、レンズ、プリズム、光ファイバーなどの光学素子やレーザーガラスなどとして使用することができる。
【0043】
以上の方法はフツリン酸ガラスの溶融を例にしたものであるが、リン酸ガラスの溶融にも適用することができる。
【0044】
また、上記方法をホウ酸含有のガラス、例えばホウケイ酸ガラスの溶融にも適用することができる。ホウ酸含有ガラスは、溶融時に多量の水分を発生させるとともに、ホウ酸が揮発性を有しているため、溶融容器のガラス液面上方にガラス蒸気が凝固しやすいという問題がある。ホウ酸含有ガラスの製造でも、同様の方法で雰囲気ガスを流し、溶融容器内で所定の流路を形成するとともに、ガラス原料供給方法を上述のようにすることにより、ガラス蒸気凝固による問題を解決し、ガラス原料を円滑に供給できるとともに、高品質なガラスを生産性よく製造することができる。
【0045】
さらに、この製造方法IIにおいては、前述の製造方法Iのように、溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせるとともに、容器内を乾燥雰囲気ガスで満たし、この雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へと流しながら、溶融ガラスの酸化性ガスがバブリングされている位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入して、ガラスを溶融することもできる。
【0046】
バブリングガスが湧き出す位置(ガラス原料の投入位置でもある。)では、雰囲気中に上昇気流が生じるが、原料投入経路に沿って雰囲気ガスを流すことにより、ガラス原料が舞い上げられるのを抑えることができる。溶融ガラス液面より湧き出たバブリングガスを、雰囲気ガスが排気口へと送り出す働きをし、酸化性ガスが容器中に淀むおそれがない。この方法は、リン酸ガラス、フッ化物ガラス、フツリン酸ガラス、およびホウケイ酸ガラスのようなホウ酸含有ガラスの製造に好適であるとともに、低粘性のシリケートガラスの
製造にも利用できる。
【0047】
この方法で得られた溶融ガラスは、容器の排出口より清澄槽へと送られ、清澄、攪拌され、均一で光散乱源となる微粒子や泡を含まない高品質なガラスとなる。このガラスは高品質なので光学ガラスとして好適に用いられ、レンズ、プリズム、光ファイバーなどの光学素子やレーザーガラスなどとして使用することができる。
【0048】
本発明のガラス溶融装置は、ガラス原料を投入し、加熱、溶融して溶融ガラスを得るガラス溶融装置であって、2つの態様、すなわち(1)ガラス原料を溶融する容器と、容器中の溶融ガラスに酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口と、この酸化性ガス供給口の上方に配置されたガラス原料を投入する原料投入口を、主要構成要素として備えているもの(ガラス溶融装置I)、および(2)ガラス原料を加熱、溶融するとともに、得られた溶融ガラスを貯める容器と、前記容器に連接して設けられた原料投入口と、容器内を満たす乾燥雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給口と、前記雰囲気ガスを排気する雰囲気ガス排気口を、主要構成要素として備え、かつ雰囲気ガス供給口からガラス原料投入経路に沿って溶融ガラス液面へと向かい、排気口に至る雰囲気ガスの流路が形成されるように、前記容器の内部が区分されているもの(ガラス溶融装置II)がある。
【0049】
まず、ガラス溶融装置Iについて説明する。
ガラス溶融装置Iにおいて、ガラス原料を溶融する容器の外部には、容器内に貯められた溶融ガラスと、容器に投入されたガラス原料を加熱するためのヒーターが取付けられている。この容器の溶融ガラスが貯められる部分の底部には、乾燥した酸素ガスなどの酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口が、1つまたは複数個設けられている。そして、酸化性ガス供給口の上方には、容器にガラス原料を投入する原料投入口が設けられている。原料投入口の数も1つに限定されるものではない。本装置の動作時には、容器内に溶融ガラスが貯められ、前述した酸化性ガス供給口より酸化性ガスが溶融ガラス中に供給され、バブリングが行われる。
【0050】
そして、原料投入口からガラス原料が投入され、溶融ガラスの酸化性ガスでバブリングされている位置へと落下する。投入されたガラス原料は分解し、強い還元作用を示す中間生成物を発生するが、酸化性ガスによるバブリングによって速やかに酸化され、容器内壁の侵蝕が防止されるとともに、ガラスの溶融が促進される。
【0051】
ガラス原料の投入口は、投入された原料が容器壁面に触れにくい構造とするため、容器中央の上方に設けることが好ましく、原料投入口の位置に合わせ、酸化性ガス供給口も容器中央部に設けることが好ましい。
【0052】
本発明の装置Iは、フッ素化合物とメタリン酸化合物を原料としたフツリン酸ガラスの溶融、製造に好適であり、酸化性ガスは乾燥状態の酸素ガス、または酸素ガスを含む乾燥ガスを用いることが望ましい。酸化性ガスの温度および供給量、その他の条件については、上述したガラスの製造方法Iに関する説明と同様である。また容器は、少なくとも溶融ガラスが触れる部分を白金製又は白金合金製にしておくことが望ましい。
【0053】
この装置Iは、容器へのガラス原料投入量を制御する投入機構、容器からの溶融ガラスの排出量を制御する排出量制御機構を備えるものが望ましい。これらの制御機構により、容器中の溶融ガラスのガラス原料を投入する位置における深さが、溶融ガラスの液面を基準にした原料投入高さの1.5〜3倍、好ましくは1.6〜2.5倍になるように、原料供給量や溶融ガラス排出量を制御することができ、投入されたガラス原料が容器底部に達する前に、原料を溶融することができる。それによって、容器の侵蝕を防止し、容器壁面を構成する物質が溶融ガラスに混入し、ガラスを汚染することを防止できる。
【0054】
また、上記原料投入機構は、原料を連続して投入する方式のものが望ましい。原料を連続して投入することにより、原料の投入量が時間的に均一化され、一度に多量の還元性物質が分解によって生成することを回避できる。なお、連続式の原料投入機構の1例は、次の通りである。原料を乾燥状態に保てるように、乾燥雰囲気で満たした予備室と、予備室から原料投入口へ連接する原料供給通路を備え、予備室と供給通路内にスクリューが設けられ、スクリューを一定の回転数で連続して回転させることにより、予備室に蓄積された原料が供給通路を通って原料投入口へ押し出され、原料が投入口より連続して容器へと投入される。
【0055】
上記装置Iは、リン酸ガラスの製造にも好適に用いることができる。
次に、ガラス溶融装置IIについて説明する。
【0056】
このガラス溶融装置IIにおいては、前述の製造方法IIで説明したように、容器内は乾燥雰囲気ガスによって満たされるので、雰囲気中の水分を低減することができる。また、雰囲気ガスをガラス原料とともに、原料に投入経路に沿って、溶融ガラス液面へと流すので、ガラス原料が僅かに水分を吸着していても、雰囲気ガスと混じり合うことで、投入される原料が吸着している水分量を減少させることができる。雰囲気ガスは、溶融ガラス液面に達した後、容器の外へと排気され、容器中の雰囲気は乾燥状態に保たれ、溶融ガラスとOH基または水分との反応を抑えることができる。
【0057】
さらに、雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って流しているので、溶融ガラスから発生するガスがガラス原料の供給口に達し、ガラス原料を凝固させてガラス原料供給口を塞いだり、ガラス原料が上昇気流によって舞い上がり、原料供給口を塞ぐのを防ぐことができる。
【0058】
この装置IIは、フッ素化合物とメタリン酸化合物を原料とし、これを溶融してフツリン酸ガラスを得る装置として好適であり、その際、乾燥雰囲気ガスとして、乾燥した不活性ガス、乾燥した酸素ガス、または不活性ガスと酸素ガスの乾燥した混合ガスを供給することが好ましい。
【0059】
さらに、上述した難溶性のAlPO4が容器から雰囲気ガスの排気口に凝固し、閉塞するのを防止するため、雰囲気ガス排気口を加熱するための排気口ヒーターを設けることが望ましい。ヒーターによって加熱された排気口には、AlPO4が凝固せず、気体の状態で雰囲気ガスとともに容器外へ排気される。雰囲気ガスを排気する部分は、600℃以上に加熱されていることが好ましい。
【0060】
この装置IIにおいては、前述の装置Iと同様に、原料投入機構は、連続式のものが好ましいが、原料の供給とともに、容器外部より水分が侵入するのを防ぐため、容器内部は外部に対して陽圧になるように乾燥雰囲気ガスの圧力を調整する機構を設けておくことが好ましい。
【0061】
また、原料投入口から原料投入経路を囲むように、溶融ガラス液面付近へと延びる隔壁によって容器内部を区分し、雰囲気ガス排気口は、この隔壁によって原料投入口と隔てられた部分に設けることが望ましい。隔壁をこのように設けることにより、容器内の雰囲気を常時置換できるとともに、雰囲気ガスが上記所定の流路に沿って確実に流れるようにすることができる。また投入された原料が、溶融ガラス内へ確実に投入され、原料が排気口より直接排出されてしまうのを防止することができる。
【0062】
容器は円筒形状のものが好ましく、その側面に容器内に貯められた溶融ガラスを加熱す
る加熱部が取付けられているものが好ましい。さらに、容器の底面を基準にした溶融ガラスの液面の高さが、容器の内径の好ましくは2.5〜10倍、より好ましくは3〜6倍の範囲内に保たれるように、ガラス原料の投入量、溶融ガラスの排出量の少なくとも一方を制御する制御機構を備えていることが望ましく、ガラス原料の投入量及び溶融ガラスの排出量の両方を制御する制御機構を備えていることがより望ましい。この装置の特徴は、容器中の溶融ガラスの体積に対する溶融ガラスが雰囲気ガスに触れる面積の割合を小さくできる点、および溶融ガラスの体積に対する溶融ガラスが容器と接する面積を大きくできる点が挙げられる。これらの特徴により、溶融ガラスが雰囲気に触れる面積を小さくすることができ、水分との反応及びガラス成分の揮発量を低減することができ、溶融ガラスの加熱を効率よく行うことができる。
【0063】
容器の底面を基準にした溶融ガラスの液面の高さが、容器の底面の直径の2.5倍未満だと、上記効果が十分得られにくく、10倍を超えると雰囲気ガスの安定した供給、排気を行うことが難しくなる。
【0064】
溶融ガラスは、容器の排出口より清澄槽へと送られ、清澄、攪拌され、均一で光散乱源となる微粒子や泡を含まない高品質なガラスとなる。このガラスは高品質なので光学ガラスとして好適に用いられ、レンズ、プリズム、光ファイバーなどの光学素子やレーザーガラスなどとして使用することができる。
【0065】
上記装置IIは、フツリン酸ガラスの製造のみに限られず、フッ化物ガラスの製造、ホウケイ酸ガラスのようなホウ酸含有ガラスの製造にも好適に用いることができる。
【0066】
さらに、この溶融装置IIにおいては、溶融ガラス中に乾燥した酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口を設けると共に、原料投入口を酸化性ガス供給口の上方に配置することができる。このように、前記溶融装置Iの構成を備えることにより、該溶融装置Iの特徴も有し、前述の製造方法IIで説明したように、リン酸ガラス、フッ化物ガラス、フツリン酸ガラス、およびホウケイ酸ガラスのようなホウ酸含有ガラスの製造に好適に用いられると共に、低粘性のシリケートガラスの製造にも用いることができる。
【0067】
なお、本発明のガラス溶融装置I、IIは、必要に応じて溶融装置に連結して、清澄槽や攪拌槽を設けることができる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって、なんら限定されるものではない。
実施例1
図1は、本実施例で用いた本発明のガラス溶融装置の垂直断面模式図である。
【0069】
ガラスを溶融する容器10は、内径0.28m、高さ0.95mの白金製円筒状容器である。
容器10の上部中央には、容器中に原料を投入する原料投入口5が設けられ、原料投入口5に連通するように、原料投入機構1と雰囲気ガス供給口6が設けられている。
【0070】
原料投入機構1は、予め調合された原料が収納されている予備室13、原料を投入口5へと供給する原料供給通路14、原料供給通路14と予備室13に挿通されたスクリュー2、このスクリュー2を回転するモーター3、そして原料の供給量を制御する制御機構(図示せず)を備えている。予備室13に収納されたガラス原料は、モーター3を駆動することによりスクリュー2により供給通路14へと押し出され、原料排出口4を通って、原料投入口5から容器10の内部へと投入される。原料の供給量はモーター3の回転数によ
って決められているので、上記制御機構がモーター3の回転数を増減させることにより、原料供給量を増減することができる。予備室13にも乾燥雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給口6′が設けられている。前述の雰囲気ガス供給口6とともに雰囲気ガス供給口6′からは容器10へ乾燥状態の雰囲気ガスが供給される。
【0071】
容器10の中央、上部には投入口5より投入されたガラス原料の投入経路を囲むように、円筒状の隔壁9が設けられている。また、容器10の上部、周縁部には、雰囲気ガス供給口6、6′より供給され、原料投入口5、容器10の内部を通過した雰囲気ガスを排気するための排気口7が設けられている。排気口7には、ガラス溶融時に発生するガラス蒸気などが冷えて凝固し、排気口を閉塞しないよう、加熱装置8が設けられている。なお、隔壁9は、容器10に溶融ガラスを貯めた状態で、雰囲気ガスの流れを妨げない長さにしなければならない。
【0072】
容器10の外側面には、ガラスを溶融するための加熱を行うべくヒーター(図示せず)が設けられており、溶融ガラスの加熱は、容器10の側面を介して行われる。
【0073】
容器10の底部周縁部には容器内で溶融されたガラスを排出するための排出口12が設けられ、ここから排出した溶融ガラスは、清澄槽へと送られ、清澄される。
【0074】
容器10の底部中央には酸化性ガスを供給するためのバブリングパイプ11が設けられており、そこから乾燥状態の酸素ガスが溶融ガラスへと供給され、酸素ガスによるバブリングが行われる構造になっている。
【0075】
容器10およびこれに連接する原料投入機構1内は、雰囲気ガス供給口6、6′より供給される雰囲気ガスとバブリングパイプ11より供給される酸化性ガス以外は、外部から水蒸気を含んだ空気が侵入しないよう、陽圧に保たれている。
【0076】
このようなガラス溶融装置を用いて、フツリン酸ガラスの溶融、製造を行った。容器10には、容器外側面に設けられたヒーターにより、800〜1000℃、好ましくは950〜1000℃に加熱された溶融ガラスが貯められている。バブリングパイプ11から乾燥した酸素ガスを溶融ガラス中に供給し、溶融ガラス中央部を酸素ガスでバブリングする。
【0077】
原料投入機構1の予備室13には乾燥した調合済みのガラス原料を入れ、雰囲気ガス供給口6、6′より乾燥したガス(乾燥酸素ガス、乾燥不活性ガス、又は乾燥酸素ガスと乾燥不活性ガスの混合ガス)を連続供給する。
【0078】
フツリン酸ガラスの原料としては、AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、YF3(以上、フッ素化合物)、Al(PO3)3、Mg(PO3)2、Ca(PO3)2、Sr(PO3)2、Ba(PO3)2(以上、メタリン酸化合物)を調合したものを用いた。
【0079】
雰囲気ガスは、原料投入口5を通り、隔壁9に導かれて溶融ガラス液面へと向かい、隔壁9と溶融ガラス液面の間を通り、容器10の内壁側面と隔壁9の間を通り、排気口7より排気される。このようにして容器10内を乾燥雰囲気ガスで満たした状態で、原料投入機構1のモーター3を一定の回転数で回転し、予備室13のガラス原料を一定の供給量で連続して投入口5へ押し出す。ガラス原料は投入口5から隔壁9で囲まれた部分を通り、酸素ガスがバブリングされている溶融ガラス中央に液面に落下する。この際、原料の投入経路に沿って、雰囲気ガスを流しているので、原料が容器10内の対流やバブリングガスによる上昇気流によって舞い上げられることがない。また、溶融ガラスから発生するガラス蒸気がガラス原料に吸着して原料投入口に付着し、原料投入を妨げるのを防止すること
ができる。
【0080】
投入されたガラス原料のうち、メタリン酸化合物は溶融ガラス中で分解し、還元性が極めて強い遊離リンを生成するが、溶融ガラスにバブリングされている酸素ガスにより速やかに酸化され、溶融される。そのため、ガラスの溶融が効率よく行われるとともに、メタリン酸化合物や遊離リンが白金製の容器10の内壁に達するのを防ぐことができ、容器10の侵蝕を防止することができる。したがって、容器10の白金微粒子が溶融ガラス中に混入することもない。
【0081】
溶融ガラス液面から容器10の内壁側面と隔壁9の間へ向かう雰囲気ガスは、溶融ガラスから発生するガラス蒸気を含んでいるが、この蒸気が微少な水分と反応して難溶性のリン酸アルミニウムとなり、雰囲気ガスとともに排気口7へと向かう。排気口7は加熱されているので、リン酸アルミニウムは排気口7に凝固せず、雰囲気ガスの流れが妨げられることはなく、凝固したリン酸アルミニウムが溶融ガラスに落下、混入することもないので、発泡などの問題も回避できる。
【0082】
原料供給量制御機構による原料投入量の制御、及び溶融ガラス排出量制御機構による溶融ガラス排出量の制御によって、溶融ガラスの深さ(容器底部中央から計った溶融ガラス液面の高さ)が、溶融ガラス液面を基準にした原料投入口5の高さの、好ましくは1.6〜2.5倍になるように保たれている。したがって、原料投入口5より投入された原料は、容器10の底部に到達する前に溶融され、容器内面の白金が侵蝕されるおそれがない。
【0083】
さらに、上記溶融ガラス液面の高さの制御によって、溶融ガラスの深さは、容器10の内径の、好ましくは3〜6倍に保たれ、雰囲気ガスの流路を妨げることなしに、溶融ガラス体積あたりの雰囲気ガスに触れる面積を小さくすることができる。
【0084】
容器10中で得られた溶融ガラスは排出口12より、清澄槽(図示せず)へと送られて清澄され、残留泡や白金微粒子等の不純物を含まない高品質の光学ガラスとなる。
【0085】
以上のように、雰囲気ガス、バブリングガスを連続して供給しながら、ガラス原料を連続投入して、白金微粒子等の不純物や泡を含まない高品質な光学ガラスを連続して生産性よく作製することができた。
実施例2
実施例1で用いた装置と同じ装置を用い、実施例1と同様にしてホウケイ酸ガラスの溶融を行った。
【0086】
ホウケイ酸塩原料とケイ酸塩原料、及びその他の原料を混合して原料投入機構1に供給し、乾燥雰囲気ガスを流しながら原料投入口5より、溶融ガラスに連続投入してホウケイ酸ガラスを得た。本実施例においても、泡や不純物を含まない高品質の光学ガラスを連続して生産性よく得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のガラスの製造方法およびガラス溶融装置を用いることにより、反応性に富む原料を用い、高品質のガラス、特にリン酸ガラス、フッ化物ガラス、フツリン酸ガラス、ホウ酸含有ガラスなどを生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例で用いた本発明のガラス溶融装置の垂直断面模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1 原料投入機構
2 スクリュー
3 モーター
4 原料排出口
5 原料投入口
6 雰囲気ガス供給口
6′ 雰囲気ガス供給口
7 排気口
8 加熱装置
9 隔壁
10 容器
11 バブリングパイプ
12 溶融ガラス排出口
13 予備室
14 原料供給通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入することを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項2】
加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、溶融ガラスに酸素ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、リン酸ガラスの原料を投入することを特徴とするリン酸ガラスの製造方法。
【請求項3】
ガラス原料としてメタリン酸化合物を用い、リン酸ガラスを溶融する請求項1または2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
ガラス原料として、さらにフッ素化合物を用い、フツリン酸ガラスを溶融する請求項3に記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
ガラス原料を投入する位置における溶融ガラスの深さが、溶融ガラスの液面を基準にした原料投入高さの1.5〜3倍になるようにガラス原料の供給量および/または溶融ガラスの排出量を制御する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
加熱された容器内の溶融ガラスに、該ガラスの原料を投入して溶融する工程を備えたガラスの製造方法であって、上記容器内を乾燥雰囲気ガスで満たすと共に、該雰囲気ガスをガラス原料の投入経路に沿って溶融ガラス液面へ流しながら、ガラス原料を投入することを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項7】
ガラス原料としてフッ素化合物を用い、フッ化物ガラスを溶融する請求項6に記載のガラスの製造方法。
【請求項8】
ガラス原料として、さらにメタリン酸化合物を用い、フツリン酸ガラスを溶融する請求項7に記載のガラスの製造方法。
【請求項9】
ガラス原料としてホウ酸化合物を用い、ホウ酸含有ガラスを溶融する請求項6に記載のガラスの製造方法。
【請求項10】
溶融ガラスに酸化性ガスをバブリングさせると共に、そのバブリング位置に、溶融される過程で還元性を示すガラス原料を投入する請求項6ないし9のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項11】
ガラス原料を投入し、加熱、溶融して溶融ガラスを得るガラス溶融装置であって、ガラス原料を溶融する容器と、容器中の溶融ガラスに酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口と、前記酸化性ガス供給口の上方に配置されたガラス原料を投入する原料投入口を、主要構成要素として備えていることを特徴とするガラス溶融装置。
【請求項12】
容器中の溶融ガラスのガラス原料を投入する位置における深さが、溶融ガラスの液面を基準にした原料投入高さの1.5〜3倍になるようにガラス原料の供給量および/または溶融ガラスの排出量を制御する制御機構を有する請求項11に記載のガラス溶融装置。
【請求項13】
ガラス原料を投入し、加熱、溶融して溶融ガラスを得るガラス溶融装置であって、ガラス原料を加熱、溶融するとともに、得られた溶融ガラスを貯める容器と、この容器に連接して設けられた原料投入口と、該容器内を満たす乾燥雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給口と、前記雰囲気ガスを排気する雰囲気ガス排気口を、主要構成要素として備え、かつ雰囲気ガス供給口からガラス原料投入経路に沿って溶融ガラス液面へと向かい、排気口に至る雰囲気ガスの流路が形成されるように、前記容器の内部が区分されていることを特徴とするガラス溶融装置。
【請求項14】
円筒形状を有する容器の側面より溶融ガラスを加熱する加熱部と、上記容器の底面を基準にした溶融ガラスの液面の高さが、該容器内径の25〜10倍の範囲内に保たれるように、ガラス原料の投入量および/または溶融ガラスの排出量を制御する制御機構とを備えた請求項13に記載のガラス溶融装置。
【請求項15】
溶融ガラス中に乾燥した酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給口を
備え、かつ原料投入口が酸化性ガス供給口の上方に配置されている請求項13または14に記載のガラス溶融装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186421(P2007−186421A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91472(P2007−91472)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2001−241987(P2001−241987)の分割
【原出願日】平成13年8月9日(2001.8.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】