説明

ガラスの製造方法及びガラス原料投入具

【課題】バッチロスを低減させ、光透過率を改善するガラスの製造方法及びこのガラス原料投入具を提供する。
【解決手段】ガラス原料投入具10は、ガラス原料Gを収容する凹部11を形成し、冷却媒体が循環するバケット1と、一端側はバケット1に結合し、他端側はバケット1を軸周りに反転させるハンドル3を設けるアーム2と、を備える。アーム2は、冷却媒体が供給されてバケット1内に冷却媒体を送出する内管21と、内管21を囲い、バケット1内から冷却媒体を排出する外管22と、を有する。ガラス原料Gの投入前後において、ガラス原料投入具10を200℃以下に冷却維持することにより、ガラス原料投入具10からガラスへの不純物の混入が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法及びガラス原料投入具に関する。特に、ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を含むガラスの製造方法、及びこのガラス原料投入具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラスを製造する場合には、粉末状又は粒状のガラス原料を高温の溶解槽に投入して、溶融されたガラスを製造する工程を含んでいる。例えば、溶融されたガラスは冷却された後に粉砕され、いわゆるカレットが製造される。次に、このカレットが再び溶融され、溶融したガラスが排出されて各種光学ガラス、光学素子用プリフォーム、光学素子又は光ファイバなどの母材となるプリフォームが成形される。
【0003】
例えば、ガラス原料を溶解槽に投入する工程を含むガラスの製造方法において、溶解槽内へ粉体のガラス原料を分離させることなく、かつ、均等に投入し、溶融ガラス生地の品質の均一化を図ると共に、装置の簡素化と保守管理を容易にするガラス原料投入装置が発明されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によるガラス原料投入装置は、ベッドとスライダー及びバケット支承アームを備えている。ベッドは、ベース上を前後方向に移動自在に設けられている。スライダーは、ベッド上を左右方向に移動自在に設けられている。バケット支承アームは、スライダー上で軸周方向に回転自在に設けられ、かつ、先端にバケットを有している。そして、バケットが溶解槽の原料投入口より出入自在に設置されている。
【0005】
特許文献1によるガラス原料投入装置は、以上のように構成されているので、ガラス原料はコンベヤーや振動フィーダー等による連続供給方式ではなく、バケットによる間欠供給方式であるので、コールドトップ方式あるいはホットトップ方式いずれの溶解槽であっても、粉末ガラス原料を分離させることなく、かつ、溶解槽内に均等に投入できて溶融ガラス生地の均質化をはかることができ、バッチストーンやガスによる泡の発生も防止できて、製品の品質の向上と均一化に役立つ、としている。
【0006】
又、ホットトップ方式の溶解槽に特許文献1によるガラス原料投入装置を使用する場合には、バケット支承アームに冷却機構が備えられ、溶解槽の原料投入口に開閉扉が備えられることが好ましい、としている。そして、溶解槽がホットトップ方式の場合、溶解槽内に挿入されるバケット支承アームを冷却すれば、溶解槽内全面にガラス原料を均等に投入することができて、溶解槽内各所の温度差を可及的に小さくでき、ガラスの対流による泡やバッチストーンの発生を防止し、小容量の溶解槽においても溶融ガラス生地の均質化をはかることができる、としている。
【特許文献1】特開平6−80426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バケットを備えるガラス原料投入具を用いて、比較的小型のホットトップ方式の溶解槽にガラス原料を投入する工程を採用している場合には、特許文献1のように、溶解槽の熱により短期間でバケット支承アームが変形、損傷を受けるおそれはないので、バケット支承アームを冷却していない。又、特許文献1では、バケット支承アーム内を中空として、その中空部内に冷却水を循環させ、更に、バケットを2重壁とし、その2重壁の空間に冷却水を循環させていないため、バケットの冷却効果が不十分であった。
【0008】
ガラス原料を溶解槽に投入する工程では、混合されたガラス原料(いわゆるバッチ)がバケットに収容され、このバケットが溶解槽内に挿入され、次に、バケットが反転されて溶解槽内にバッチが投入される。そして、バケットが溶解槽から引き出され、次のバッチがバケットに収容される。このような動作を繰り返すことにより、所定量のバッチが溶解槽に投入される。
【0009】
バケットが溶解槽内に滞留している時間が、例えば、5秒程度の短時間であっても、前述の動作が繰り返されることにより、バケットが次第に加熱されてくる。そして、バケット内にバッチが付着する現象が発生する。このバッチが付着する状態は、緩やかであるが次第に残留する。この残留した付着バッチをバケットから強制剥離又は自然脱落するまでは、バケットの一回当たりの投入量を低減させる、いわゆるバッチロスとなるという問題がある。
【0010】
一方、光透過率が重要視される光ファイバ用のガラスには、求める光透過率が得られないことがあった。光ファイバ用のガラスに、光透過率を阻害する着色成分をときとして含有することがあった。発明者は、ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程に、その要因があると考えた。バケットを構成する部材には、例えば、着色成分となる鉄(Fe)クロム(Cr)等の遷移金属成分を含んでいるからである。又、これら着色成分の混入のルートとして、前記付着バッチとバケット表面が、熔解炉内の高温で化学的に反応し、本来バケットに混入されているFe、Cr成分等の遷移金属成分がバッチ原料と共に溶融ガラス内に入ることも考えられる。
【0011】
本発明者は、バケットを備えるガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程において、バッチロスを低減させるガラスの製造方法及びガラス原料投入具を考え、この製造方法で得られたガラス成分を分析した結果、着色成分が著しく低減した結果が得られた。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、バッチロスを低減させると共に光透過率を改善するガラスの製造方法及びこのガラス原料投入具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ガラス原料投入具を所定の温度以下に冷却維持することにより、バッチロスを低減させると共に光透過率を改善することを見出し、以下のような新たなガラスの製造方法及びガラス原料投入具を発明した。
【0014】
(1) ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を含むガラスの製造方法であって、前記ガラス原料の投入前後において、前記ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することにより、当該ガラス原料投入具からガラスへの不純物の混入が抑制されるガラスの製造方法。
【0015】
(1)の発明によるガラスの製造方法は、ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を含んでいる。そして、ガラス原料の投入前後において、ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することにより、ガラス原料投入具からガラスへの不純物の混入が抑制される。
【0016】
ここで、ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することが好ましく、ガラス原料投入具を100℃以下に冷却維持することがより好ましく、ガラス原料投入具を60℃以下に冷却維持することが最も好ましい。ガラス原料投入具は、後述するように、内部から冷却されることが好ましいが、ガラス原料の投入前後において、ガラス原料投入具を200℃以下に外部から冷却維持することを排除するものではない。
【0017】
発明者は、内部から冷却可能なガラス原料投入具を製作し、このガラス原料投入具を冷却した場合と常温で使用した場合で、冷却効果によるバッチロスを比較検証した。その結果、冷却効果によりバッチロスが著しく減少する好結果が得られた。又、このガラス原料投入具を冷却したときに得られたガラス製品の透過波長と、ガラス原料投入具を冷却せずに使用したときに得られたガラス製品の透過波長と、を測定して比較検証した。その結果、冷却効果により透過波長を改善する好結果が得られた。すなわち、ガラス原料投入具からガラスへの不純物の混入が抑制されたと考える。
【0018】
ここで、バケットの温度が上昇するとガラス原料中に不純物、特に着色成分が混入し易くなるメカニズムは、詳しく解明できていないが、上述のように、バケットを構成する材質中に含まれる着色成分(例えば、ニッケル合金に含まれる微量の鉄、クロム)と、SiO、B、Pなどのガラス原料とが、高温で化学結合し、生成物が溶融ガラス内に落下混入することが要因の一つと推測される。
【0019】
(2) 前記ガラス原料投入具は、前記ガラス原料を収容する凹部を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有するバケットと、一端側は前記バケットに結合し、他端側は前記バケットを軸周りに反転させるハンドルを設けるアームと、を備え、前記アームは、他端側から前記冷却媒体が供給されて前記二重壁内に当該冷却媒体を送出する内管と、この内管を囲い、前記二重壁内から当該冷却媒体を他端側に排出する外管と、を有し、前記バケットは、前記凹部の底面側から開口側に向けて前記冷却媒体が前記二重壁内の全領域に循環するように当該二重壁内に複数の仕切り壁を有し、前記ガラス原料を投入する工程において、前記ガラス原料の残留が軽減されるように前記バケットが冷却される(1)記載のガラスの製造方法。
【0020】
(2)の発明によるガラスの製造方法は、ガラス原料投入具がバケットとアームを備えている。バケットは、ガラス原料を収容する凹部を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有している。アームの一端側はバケットに結合し、アームの他端側は、バケットを軸周りに反転させるハンドルを設けている。
【0021】
又、アームは、内管と外管を有している。内管は、他端側から冷却媒体が供給されて、二重壁内に冷却媒体を送出する。外管は、内管を囲い、二重壁内から冷却媒体を他端側に排出する。バケットは、二重壁内に複数の仕切り壁を有し、凹部の底面側から開口側に向けて冷却媒体が二重壁内の全領域に循環する。そして、ガラス原料を投入する工程において、ガラス原料の残留が軽減されるように、バケットが冷却される。
【0022】
例えば、ガラス原料投入具は、箱状のバケットと二重パイプからなるアームを備えている。箱状のバケットは、直方体状に形成されてもよく、楕円柱状に形成されてもよく、ガラス原料を収容する凹部を形成している。冷却媒体が循環する二重壁は、凹部が内壁であって、凹部以外の部位が外壁ということもできる。バケットは、二重壁内に冷却媒体が循環できるように密閉構造となっている。
【0023】
冷却媒体は、ランニングコストを考慮すれば、水を利用することが考えられ、ガラス原料投入具が水冷される。冷却媒体として、例えば、窒素などの不燃性の気体を使用することにより、ガラス原料投入具を軽量化できる。冷却媒体に不燃性の油を使用し、この不燃性の油をガラス原料投入具外で放熱冷却して循環すれば、資源を有効利用できる。
【0024】
ハンドルは、アームの中心軸に直交する一対の軸であってもよく、一対の軸を把持して、バケットを軸周りに反転することができる。ハンドルは、アームに軸止された円環状ハンドルであってもよい。
【0025】
アームは、バケットの二重壁内に冷却媒体を送出する内管と、この内管の同心円上に位置する外管と、を有している。アームは、内管と外管との同心二重構造からなる二重管構造となっている。内管と外管は剛性管が好ましく、更に、溶接可能な金属管が好ましい。内管及び外管の一端側にバケットを密閉可能に溶接で結合できる。
【0026】
例えば、内管の他端側にゴムホースを接続し、このゴムホースから内管に冷却媒体を供給することができる。外管の他端側にゴムホースを接続し、外管からこのゴムホースに冷却媒体を排出することができる。可撓性を有するゴムホースをアームに接続することにより、アームの回転動作が容易となる。
【0027】
又、(2)の発明によるガラスの製造方法は、バケットが、凹部の底面側から開口側に向けて冷却媒体が二重壁内の全領域に循環するように、二重壁内に複数の仕切り壁を有している。そして、ガラス原料を投入する工程において、ガラス原料の残留が軽減されるように、バケットが冷却される。
【0028】
溶解炉に挿入されるガラス原料投入具は、バケットの凹部の底面にガラス原料が付着し易く、ガラス原料の残留が最も多い。凹部の底面を囲う内壁もガラス原料が付着し易く、凹部の底面の次に、ガラス原料の残留が多い実態となっている。
【0029】
したがって、(2)の発明によるガラスの製造方法で用いられるガラス原料投入具は、バケットの二重壁内に複数の仕切り壁を構成し、凹部の底面側から開口側に向けて冷却媒体が二重壁内の全領域に循環する構造とすることにより、冷却効率を良好として、ガラス原料の残留を軽減するようにした。
【0030】
(3) 前記バケットの二重壁は、金属材料からなる(2)記載のガラスの製造方法。
【0031】
(3)の発明によるガラスの製造方法は、バケットの二重壁が金属材料からなることが好ましい。この金属材料は、耐食性や耐熱性に優れた合金がより好ましい。バケットに好適な耐熱合金として、例えば、Ni−Cr系耐熱合金であるHA230(三菱マテリアル製)やステンレス鋼SUS304が挙げられる。バケットの二重壁をSUS304で製作し、ガラス原料が収容される凹部にHA230を溶射して形成することも考えられる。バケットをHA230で形成し、アームをSUS304で形成し、相互に溶接する態様も考えられる。
【0032】
(4) ガラス原料を溶解槽に投入するためのガラス原料投入具であって、前記ガラス原料を収容する凹部を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有するバケットと、一端側は前記バケットに結合し、他端側は前記バケットを軸周りに反転させるハンドルを設けるアームと、を備え、前記アームは、他端側から前記冷却媒体が供給されて前記二重壁内に当該冷却媒体を送出する内管と、この内管を囲い、前記二重壁内から当該冷却媒体を他端側に排出する外管と、を有し、前記バケットは、前記凹部の底面側から開口側に向けて前記冷却媒体が前記二重壁内の全領域に循環するように当該二重壁内に複数の仕切り壁を有するガラス原料投入具。
【0033】
(5) 前記バケットの二重壁は、金属材料からなる(4)記載のガラス原料投入具。
【発明の効果】
【0034】
本発明によるガラスの製造方法は、ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を含むガラスの製造方法であって、ガラス原料の投入前後において、ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することにより、ガラス原料投入具に残留するガラス原料を軽減できた。そして、ガラス原料投入具に対する冷却効果により、光透過率を阻害する不純物が著しく減少した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0036】
図1は、本発明によるガラスの製造方法において、一実施形態のガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を示す斜視外観図である。図2は、前記実施形態によるガラス原料投入具の平面図である。図3は、前記実施形態によるガラス原料投入具の正面図である。図4は、前記実施形態によるガラス原料投入具の右側面図である。
【0037】
図5は、前記実施形態によるガラス原料投入具の縦断面図であり、図2のA−A矢視断面図である。図6は、前記実施形態によるガラス原料投入具の横断面図であり、図2のB−B矢視断面図である。図7は、前記実施形態によるガラス原料投入具の横断面図であり、図2のC−C矢視断面図である。図8は、前記実施形態によるガラス原料投入具の水平断面図であり、図3のD−D矢視断面図である。
【0038】
最初に本発明によるガラス原料投入具の構成を説明する。図1において、ガラス原料投入具(以下、投入具と略称する)10は、バケット1とアーム2を備えている。バケット1は、ガラス原料Gを収容する凹部11を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有している。アーム2の一端側はバケット1に結合し、アーム2の他端側は、バケット1を軸周りに反転させるハンドル3を設けている。
【0039】
図1において、バケット1は、二重壁内に冷却媒体が循環できるように密閉構造となっている。冷却媒体は、ランニングコストを考慮して水が利用され、ガラス原料投入具10が水冷される。
【0040】
図2又は図5において、バケット1は、直方体の箱状に形成され、アーム2は二重パイプで構成されている。なお、バケットの形は直方体に限定されるものではない。アーム2は、バケット1の二重壁内に冷却媒体を送出する内管21と、内管21の同心円上に位置する外管22と、を有している。アーム2は、内管21と外管22との同心二重構造からなる二重管構造となっている。外管22は、内管21を囲い、バケット1の二重壁内から冷却媒体を他端側に排出する。
【0041】
図2又は図5において、内管21と外管22は剛性管が好ましく、更に、溶接可能な金属管が好ましい。内管21及び外管22の一端側に、バケット1を密閉可能に溶接で結合している。図4において、ハンドル3は、アーム2の中心軸に直交する一対の軸3a・3bで構成され、一対の軸3a・3bを把持して、バケット1を軸周りに反転することができる(図1参照)。
【0042】
図1又は図3において、内管21の他端側に図示されないホースを接続し、このホースから内管21に冷却媒体を供給することができる。外管22の他端側に図示されないホースを接続し、外管22からこのホースに冷却媒体を排出することができる。可撓性を有するホースをアーム2に接続することにより、アーム2の回転動作が容易となる。
【0043】
次に、本発明によるガラス原料投入具の冷却構造を説明する。図5において、内管21の一方の管端は、バケット1を形成する第1側壁w1に連通しており、内管21に供給された冷却媒体は、二重壁で構成された第1側壁w1内に流入する。第1側壁w1内では、内管21の一方の管端が、仕切り壁1a・1b・1cで囲われ(図7参照)、第1側壁w1内の冷却媒体は、バケット1を形成する底壁w5に流入する。
【0044】
図5又は図8において、二重壁で構成された底壁w5内には、複数の仕切り壁1d・1e・1f・1gが設けられている。そして、第1側壁w1から流入した冷却媒体は、底壁w5内のほぼ全領域を流通して、バケット1を形成する第2側壁w2内に流入する(図8参照)。第2側壁w2内に流入した冷却媒体は、凹部11の底面側から開口側に向けて流出していく(図5参照)。
【0045】
図6に示されるように、第2側壁w2内は、上方で第3及び第4側壁w3・w4内にそれぞれ連通している。又、各第3及び第4側壁w3・w4内には、複数の仕切り壁1h・1j・1k・1mが設けられている。そして、第2側壁w2から流入した冷却媒体は、各第3及び第4側壁w3・w4内のほぼ全領域を流通して、第1側壁w1内に流入する(図3参照)。第1側壁w1内に流入した冷却媒体は、仕切り壁1a・1b・1cで囲われているので、外管22に排出される(図5参照)。
【0046】
このように、投入具10は、内管21、第1側壁w1、底壁w5、第2側壁w2、第3及び第4側壁w3・w4、第1側壁w1、外管22、の経路を冷却媒体が循環しているので、ガラス原料の残留が軽減されるように、バケット1が効率よく冷却される。
【0047】
図1又は図2において、バケット1は、Ni−Cr系耐熱合金で形成されている。Ni−Cr系耐熱合金は市販されたもの、例えば、三菱マテリアル製HA230が使用できる。バケット1は、ステンレス鋼、例えば、SUS304で形成されてもよい。又、アーム2及びハンドル3はSUS304で形成されている。バケット1とアーム2を溶接するための固定部材や補強リブや、アーム2とハンドル3を溶接するための固定部材や補強リブもステンレス鋼(SUS304)を使用した。
【0048】
次に、本発明によるガラス原料投入具を用いたガラスの製造方法を説明する。図1において、投入具10は、アーム2がスタンド4で支持されている。スタンド4は、回転軸41と支持脚42で構成されている。床面に設置される支持脚42に対して、回転軸41が回転可能に連結している。回転軸41の先端部には、アーム2をスライド可能に支持するU字状に開口した軸受を設けている。
【0049】
図1において、ハンドル3を把持して、バケット1をX1又はX2の方向にスライドできる。又、ハンドル3を把持して、回転軸41の先端部を支点にバケット1を揺動することもできる。更に、ハンドル3を把持して、アーム2の回転中心回りに回動することもできる。
【0050】
図1において、エリアF1では、例えばホッパー(図示せず)から混合されたガラス原料Gがバケット1の凹部11に所定量収容される。次に、バケット1は、エリアF2側に移動される。エリアF2には、図示されない溶解槽が設置されており、バケット1が溶解槽内に挿入される。次に、バケット1が反転されて溶解槽内にガラス原料Gが投入される。そして、バケット1が溶解槽から引き出され、次のガラス原料Gがバケット1に収容される。このような動作を繰り返すことにより、所定量のガラス原料Gが溶解槽に投入される。
【0051】
図1において、ガラス原料を溶解槽に投入する工程では、バケット1内に冷却媒体が常時循環しており、ガラス原料Gを溶解槽に投入前後において、投入具10を200℃以下に冷却維持している。そして、バケット1の冷却効果により、凹部11内のガラス原料Gの付着を減少させている。その結果、投入具10からガラスへの不純物の混入が抑制される。
【実施例】
【0052】
次に、ガラス原料投入具の冷却効果によるバッチロスの減少量を測定した結果を説明する。バケット1がNi−Cr系耐熱合金(HA230)で形成された投入具10(図2〜図8参照)を用いて、バケット1の内部に冷却水を循環させた場合のバッチロス量と、バケット1の内部が空洞の場合(非水冷)のバッチロス量とを、複数回のロットで比較した。その結果を表1に示す。
【0053】
なお、表1では第1〜7のロット番号で計7回の試験を行っているが、各ロットともガラス原料として359kgの粉体原料を70リットル収容可能なバケットに10回に分けて坩堝に投入した。また、バッチロス量とはバケットに入れた粉体原料のうち、10回のそれぞれの投入においてバケットに付着して坩堝に投入できなかった粉体原料の合計重量である。下表にあるように、ロット番号1〜4は水冷しないバケットを、ロット番号5〜7は水冷したバケットを使用した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示されるとおり、第1回目から第4回目にわたる非水冷のバッチロス量は、総重量が47.2kgであり、平均は11.8kgであった。一方、第5回目から第6回目にわたる水冷のバッチロス量は、総重量が4.7kgであり、平均は1.57kgの結果となった。このように、ガラス原料投入具を冷却することにより、バッチロス量が総重量及び平均で約1/10に減少した。
【0056】
なお、内部が水冷されたガラス原料投入具は、供給する水の温度は19℃、ガラス原料を溶解槽に投入する前後のバケットの表面温度は59℃、排出された水の温度が33℃であった。一方、非水冷のガラス原料投入具は、ガラス原料を溶解槽に投入する前後のバケットの表面温度は250℃〜317℃であった。
【0057】
次に、ガラス原料投入具の冷却効果による光ファイバ用のガラスの透過率への影響を測定した結果を説明する。バケットがステンレスで形成された非水冷のガラス原料投入具を用いて得られたガラスの透過率と、バケットがHA230で形成された水冷のガラス原料投入具を用いて得られたガラスの透過率とを、比較検証した結果を表2に示す。なお、表2において表示された透過波長は、前段の数値が透過率80%のときの透過波長であり、後段の数値が透過率5%のときの透過波長である。80%/5%の透過率を、例えば、325/266(単位nm)のように透過波長を表記している。そして、これらの透過波長が短いほど透過率が良いことになる。
【0058】
ここで、表2中、量産テスト品2では計3回の試験を行い、その結果の範囲を、量産テスト品3では計2回の試験を行い、その結果の範囲を示したものである。全ての量産テスト品でガラス組成は同じである。ただし量産テスト品2と3ではロットが異なっている。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示されるように、ガラス原料投入具を冷却することにより、ガラスの透過率80%のときは、透過波長が約18nm改善され、ガラスの透過率5%のときは、透過波長が39nm改善された。ガラス原料投入具を冷却することにより、バッチロスが減少し、バケットを構成する材質中に含まれる着色成分と、ガラス原料とが、高温で化学結合することを阻止したと推測される。
【0061】
なお、表2に示された測定は、1260℃〜1280℃のガス溶解槽を使用し、ガラス原料を70リットル収容可能なバケットを有するガラス原料投入具を使用した。そして、このガラス原料投入具を水冷又は非水冷(常温)することで得られたガラス製品の透過波長を測定した。そして、非水冷ステンレス製のガラス原料投入具と、水冷されたNi−Cr系耐熱合金(HA230)製のガラス原料投入具との各溶解槽に投入する前後のバケットの表面温度は、表3に示すとおりであった。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示されるように、ガラス原料投入具を60℃以下に冷却維持することがガラスの透過率を改善する上で最も好ましく、ガラス原料投入具を100℃以下に冷却維持することで、相当の改善効果が期待され、ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することにより、最低限の改善効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明によるガラスの製造方法において、一実施形態のガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を示す斜視外観図である。
【図2】前記実施形態によるガラス原料投入具の平面図である。
【図3】前記実施形態によるガラス原料投入具の正面図である。
【図4】前記実施形態によるガラス原料投入具の右側面図である。
【図5】前記実施形態によるガラス原料投入具の縦断面図であり、図2のA−A矢視断面図である。
【図6】前記実施形態によるガラス原料投入具の横断面図であり、図2のB−B矢視断面図である。
【図7】前記実施形態によるガラス原料投入具の横断面図であり、図2のC−C矢視断面図である。
【図8】前記実施形態によるガラス原料投入具の水平断面図であり、図3のD−D矢視断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 バケット
2 アーム
3 ハンドル
10 ガラス原料投入具(投入具)
G ガラス原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料投入具を用いてガラス原料を溶解槽に投入する工程を含むガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料の投入前後において、前記ガラス原料投入具を200℃以下に冷却維持することにより、当該ガラス原料投入具からガラスへの不純物の混入が抑制されるガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料投入具は、前記ガラス原料を収容する凹部を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有するバケットと、一端側は前記バケットに結合し、他端側は前記バケットを軸周りに反転させるハンドルを設けるアームと、を備え、
前記アームは、他端側から前記冷却媒体が供給されて前記二重壁内に当該冷却媒体を送出する内管と、この内管を囲い、前記二重壁内から当該冷却媒体を他端側に排出する外管と、を有し、
前記バケットは、前記凹部の底面側から開口側に向けて前記冷却媒体が前記二重壁内の全領域に循環するように当該二重壁内に複数の仕切り壁を有し、
前記ガラス原料を投入する工程において、前記ガラス原料の残留が軽減されるように前記バケットが冷却される請求項1記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
前記バケットの二重壁は、金属材料からなる請求項2記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
ガラス原料を溶解槽に投入するためのガラス原料投入具であって、
前記ガラス原料を収容する凹部を形成し、冷却媒体が循環する二重壁を有するバケットと、一端側は前記バケットに結合し、他端側は前記バケットを軸周りに反転させるハンドルを設けるアームと、を備え、
前記アームは、他端側から前記冷却媒体が供給されて前記二重壁内に当該冷却媒体を送出する内管と、この内管を囲い、前記二重壁内から当該冷却媒体を他端側に排出する外管と、を有し、
前記バケットは、前記凹部の底面側から開口側に向けて前記冷却媒体が前記二重壁内の全領域に循環するように当該二重壁内に複数の仕切り壁を有するガラス原料投入具。
【請求項5】
前記バケットの二重壁は、金属材料からなる請求項4記載のガラス原料投入具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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