説明

ガラスペーストおよびプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法

【課題】塗布、加熱処理を行った後も塗布膜の反射率のばらつきが少なく、フォトリソグラフィ法によりパターン加工を行う際の下地層として用いた場合に、パターンの底部幅のばらつきの少ないガラスペーストを提供する。
【解決手段】低軟化点ガラス粉末(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で示される化合物(C)およびビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を含むことを特徴とするガラスペーストとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスペーストおよびプラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPは液晶パネルに比べて高速の表示が可能であり、かつ大画面化が容易であることから、OA機器および公報表示装置などの分野に普及している。また、高品位テレビジョンの分野などでの進展が非常に期待されている。
【0003】
PDPは、ヘリウム、ネオン、キセノンなどから構成される希ガスを封入した密閉空間の電極対に電圧を印加し放電を発生させ、その放電現象を可視化することにより情報を表示する表示デバイスである。そのようなPDPを構成する部材において、大きなコストを占める部材として背面板があげられる。
【0004】
PDPを構成する部材のうち、背面板は、ガラス基板、電極、誘電体層、隔壁ならびに赤色、緑色および青色の蛍光体層等から構成される。また、最近では、隔壁がストライプ状の主隔壁と垂直方向に補助隔壁が設けられている場合も多い。いずれの形状の隔壁を有する背面板においても、電極パターンおよび隔壁パターンを高精細に形成する技術の進歩により、高精細な背面板が安定して生産できるようになってきたが、近年のPDPにおいては、さらなる大型化、画素数の高密度化が望まれている。
【0005】
ところで画素数をより高密度化させるためには、隔壁の幅および間隔を小さくすることが必要となる。従来、隔壁を形成する方法としては、隔壁の溝の形状や均一性の制御が行ないやすいという観点から、基板上に感光性ガラスペーストを塗布し、乾燥して感光性ガラスペースト塗布膜を形成し、該感光性ガラスペースト塗布膜をフォトマスクを介して紫外線により露光し、現像、焼成することによって隔壁を形成する感光性ペースト法が提案されている。例えば特許文献1には、低軟化点ガラス粉末、バインダー樹脂、架橋剤および熱重合開始剤を含む誘電体ペーストを塗布し、加熱処理を行った後、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後に、誘電体ペースト塗布膜および隔壁前駆体パターンを同時焼成することによって、焼成時の断線や亀裂などの欠陥のない背面板を製造する技術が開示されている。しかしながら、紫外線を照射すると隔壁の下層にある誘電体層で紫外線が乱反射を起こし、隔壁の底部が散乱光により硬化してしまうため、隔壁の底部幅が頂部幅よりも広くなり、断面が台形状になってしまい、緻密な隔壁パターンを有するPDP背面板を製造できないという問題が生じていた。
【0006】
そこで、誘電体ペーストに紫外線吸収剤を配合させることにより、露光の際に生じる誘電体層での乱反射を防ぐ方法が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2記載の発明においては、紫外線吸収剤は汎用的なものが用いられており、たとえば光源として水銀灯を用いた場合などの比較的長波長の光を吸収するには充分ではなかった。
【0007】
また、そこで、長波長側の光を吸収する紫外線吸収剤を含む誘電体ペーストを用いたPDP用部材の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の紫外線吸収剤を用いると、誘電体を乾燥等のために加熱処理する時に溶剤と共に紫外線吸収剤が揮発してしまい、装置起因の温度ムラによって紫外線吸収剤の残存量にばらつきが生じ、誘電体ペースト塗布膜の反射率がばらつくため、隔壁の底部幅がばらつきやすくなるという問題点があった。また、隔壁の底部幅がばらつくと、蛍光体塗布ムラができやすく、パネルを形成し、全点灯(白色表示)した時に色相にムラが見られる、いわゆる色ムラが発生するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−331650号公報
【特許文献2】特開平11−213877号公報
【特許文献3】特開2007−73279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、塗布、加熱処理を行った後も塗布膜の反射率のばらつきが少なく、フォトリソグラフィ法によりパターン加工を行う際の下地層として用いた場合に、パターンの底部幅のばらつきの少ないガラスペーストを得ること、およびこれを用いて、高精細かつ底部幅のばらつきの少ない隔壁を有するPDP用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明のガラスペーストは、以下の構成を有する。すなわち、低軟化点ガラス粉末(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(C)およびビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を含むことを特徴とするガラスペーストである。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。RおよびRはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジシアノビニル基、ビス(アルコキシカルボニル)ビニル基、ビス(アリールオキシカルボニル)ビニル基、ビスカルボキシルビニル基、置換アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、アシルビニル基、エチニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、ヒドロキシビニル基、またはチオカルボニル基を示し、同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環、またはハロゲン原子を示し、置換基を有していてもよい)。
【0013】
また、基板上に上述のガラスペーストを塗布、加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成し、前記ガラスペースト塗布膜上に感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後、焼成することによって誘電体層および隔壁を形成するPDP用部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、塗布、加熱処理を行った後も塗布膜の反射率のばらつきが少なく、フォトリソグラフィ法によりパターン加工を行う際の下地層として用いた場合に、パターンの底部幅のばらつきの少ないガラスペーストを得ることができる。また、これを用いることによって、高精細かつ底部幅のばらつきの少ない隔壁を有するPDP用部材の製造方法が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、少なくとも低軟化点ガラス粉末(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で示される化合物(C)およびビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を含むことを特徴とするガラスペーストに関する。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明のガラスペーストは、低軟化点ガラス粉末(A)を含む。本発明のガラスペーストは最終的には焼成して低軟化点ガラスを主成分とする無機膜を形成するために用いられる。特にPDP用部材など、ガラス基板上に無機膜を形成する場合は、ガラス基板が軟化しない温度で焼成する必要があるため、低軟化点ガラス粉末(A)のガラス転移点400〜550℃、軟化点450〜600℃であることが好ましい。ガラス転移点を550℃以下、軟化点を600℃以下とすることで、高温焼成を必要とせず、ガラス基板上に無機膜を設ける場合であっても焼成の際にガラス基板に歪みを生じない。また、ガラス転移点を400℃以上、軟化点を450℃以上とすることで、焼成時の有機成分の除去性に優れ、PDP用部材に用いる場合は後工程の蛍光体層の焼成や封着の際の熱によって誘電体層に歪みを生じることがなく、膜厚精度を保つことができる。
【0018】
低軟化点ガラス粉末(A)の含有量は、ガラスペースト全重量に対し25〜50質量%の範囲が好ましい。25質量%より少なければ、焼成時の焼結性が悪くなり、50質量%を超えれば焼成後の膜に歪みが生じやすくなる。
【0019】
本発明のガラスペーストに配合される低軟化点ガラス粉末(A)は、酸化物換算表記で、
酸化ビスマス 10〜85質量%
酸化珪素 1〜50質量%
酸化ホウ素 5〜40質量%
酸化亜鉛 4〜40質量%
からなる組成を有するものが好ましい。この組成範囲であると530〜600℃で焼成することによって、ガラス基板上との接着性に優れた誘電体層を形成することができる。
【0020】
ガラス粉末中の酸化ビスマスは、10〜85質量%の範囲が好ましい。10質量%以上とすることで、焼き付け温度や軟化点を制御する効果が現れる。85質量%以下にすることによって、ガラスの耐熱温度が低くなりすぎることが防止されるので、ガラス基板上への焼き付けが適正に行われる。
【0021】
酸化珪素は、1〜50質量%の範囲で配合できるが、1質量%以上とすることにより、ガラス層の緻密性、強度や安定性を向上させ、また熱膨張係数がガラス基板の値と近いものとなり、従ってガラス基板とのミスマッチを防止することができる。50質量%以下とすることによって、軟化点やガラス転移点が低くなり、580℃以下でガラス基板上に緻密に焼き付けることができる。
【0022】
酸化ホウ素は5〜40質量%の範囲で配合することによって、電気絶縁性、強度、熱膨張係数、緻密性などの電気、機械および熱的特性を向上することができる。40質量%以下とすることによってガラスの安定性を保つことができる。
【0023】
酸化亜鉛は4〜40質量%の範囲で添加されるのが好ましい。4質量%以上にすることによって緻密性向上の効果が現れ、40質量%以下にすることによって焼き付け温度が低くなり過ぎて制御できなくなることを防ぎ、また絶縁抵抗を保持することができる。
【0024】
上記ガラス成分は、実質的にアルカリ金属を含まないことが好ましい。というのは、誘電体層は多くの場合、銀電極やガラス基板に接触して形成されるため、銀電極の銀イオンやガラス基板の成分とのイオン交換反応に帰因する黄色化などの問題を防ぐためである。実質的に含まないとは、具体的にはガラス成分中に、アルカリ金属の合計含有量が0.5質量%以下であること、好ましくは、0.1質量%以下であることを意味する。
【0025】
本発明のガラスペーストは、低軟化点ガラス粉末(A)以外に無機粉末としてフィラーを含むことが好ましい。本発明においてフィラーとは焼成時の温度で軟化しない無機粒子を指し、具体的には650℃未満に軟化温度を有さない無機粒子をいう。フィラーとして、軟化点650〜850℃の高融点ガラス、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、チタン酸バリウムおよび酸化ジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種以上が好ましく用いられる。
【0026】
フィラーは、焼成時の収縮率を小さくし、基板にかかる応力を低下させるなどの効果がある。フィラー添加量はガラスペースト全重量に対し、5〜30質量%の範囲が好ましい。フィラー添加量を5質量%より少なくなると、焼成収縮率が大きくなり、熱膨張係数を制御する効果が得られない。また、フィラー添加量が30質量%を超えると、焼成後の誘電体層の緻密性や強度を保つことができず、同時に、クラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0027】
さらに、本発明のガラスペーストをPDP背面板の誘電体層の形成に用いる場合は、ガラスペーストの全重量に対し、導電性粉末を0.1〜5質量%含有することが好ましい。AC型プラズマディスプレイパネルにおいて、表示電極とアドレス電極間でプラズマ放電させると空間電荷が発生し、その大部分が表示電極上に形成されている誘電体層上に蓄積される。この蓄積された電荷による電圧で偶発的に放電が生じて画質を悪くするという問題が起こる。このような画質の劣化の原因となる電荷の蓄積を解消するために、誘電体層に導電性粉末を配合し、蓄積電荷をリークさせることが有効である。導電性粉末は、具体的には、クロムまたはニッケルから選んだ金属粉末や酸化インジュウム、酸化スズ、酸化チタンなどの金属酸化物に不純物を混入した半導体を使用することができる。導電性粉末の添加量は0.1〜5質量%であることが好ましい。0.1質量%以上とすることで、有効に電荷をリークすることができ、偶発放電を防ぐことができる。導電性粉末の添加量を5質量%以下とすることで、誘電体層の緻密性を保持することができる。
【0028】
ガラスペーストは、有機成分に低軟化点ガラス粉末(A)、フィラー、導電性粉末等の無機粉末を混合・分散した様態を有するものであり、無機粉末を有機成分の中に均一に混合・分散することが良好な塗布性のために好ましく、このようなペーストを得るため、無機粉末の平均粒径、最大粒径およびタップ密度などが適正な範囲にあることが好ましい。
【0029】
無機粉末の平均粒径は0.2〜3.0μm、最大粒径は10μm以下であることが好ましく、タップ密度が0.6g/cm以上であることが好ましい。このような範囲の粒度およびその分布、そして単位容積当たりの粉末質量を有するものが、ペーストへの充填性および分散性が良好であり、従って塗布性の優れたガラスペーストが調製できるので、緻密で均一な塗布膜を得ることが可能になる。無機粉末の粒径は、レーザ散乱・回折法で測定した値であり、平均粒径は体積基準の粒度分布曲線における50%粒径を用い、最大粒径は粒径の最大値を用いる。粒子の凝集力は表面積に依存するため、平均粒径を0.2μm以上とすることで凝集性を抑え、ペースト中での分散性がよくなり、緻密かつ均一な塗布膜が得られる。また、3.0μm以下とすることで形成された誘電体ペースト塗布膜の緻密性がよくなり、内部にボイドなどが発生しにくくなる。また、塗布膜表面に不要な凹凸も生じない。最大粒径を10μm以下にすることも、内部でのボイド発生や表面の不要な凹凸の発生を防止するために必要である。
【0030】
無機粉末のタップ密度無機粉末のタップ密度を0.6g/cm以上、好ましくは0.7g/cm以上とすると、粉末の充填性・分散性がよくなり、気泡や凝集物を生じにくくなる。
【0031】
本発明のガラスペーストは熱重合開始剤(B)を含む。熱重合開始剤を含むことによって、本発明のガラスペーストを塗布した後、熱処理を行うことによって、強固なガラスペースト塗布膜を形成することができる。特に、PDP用部材等においてフォトリソグラフィ法によるパターン加工の下地層として用いる場合に、あらかじめ熱処理を行い硬化させることによって、現像液に熔解せず均一な層を形成することができる。
【0032】
熱重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物から選ばれた少なくとも一種のラジカル重合開始剤を好ましく選択することができる。これらの具体例をあげると、有機過酸化物としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(メトキシイソプロピル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−yトリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、琥珀酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、シクロヘキサンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが上げられる。アゾ化合物としては、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシメチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]2,2’−アゾビス(N−ブチルーメチルプロピオンアミド)2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレイトなどが上げられる。本発明ではこれらを1種または2種以上使用することができる。
【0033】
熱重合開始剤は、ガラスペースト全重量に対し0.05〜10質量%の範囲で添加され、より好ましくは0.1〜5質量%である。熱重合開始剤の量が少なすぎれば、硬化が進まなく膜の強度不足が起こりやすくなり、熱重合開始剤の量が多すぎれば、硬化が進みすぎ、膜の剥離が発生しやすくなる。
【0034】
本発明のガラスペーストは、紫外線吸収剤としては、下記一般式(1)で示される化合物(C)を含むことが必須である。
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。RおよびRはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジシアノビニル基、ビス(アルコキシカルボニル)ビニル基、ビス(アリールオキシカルボニル)ビニル基、ビスカルボキシルビニル基、置換アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、アシルビニル基、エチニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、ヒドロキシビニル基、またはチオカルボニル基を示し、同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環、またはハロゲン原子を示し、同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい。)
上述の化合物(C)は紫外線吸収剤として働く。化合物(C)を含むことによって、特にPDP用部材等においてフォトリソグラフィ法によるパターン加工の下地層として用いる場合に、露光に用いる光がガラスペースト塗布膜から反射し、フォトリソグラフィ法により得られるパターンの底部幅が太くなってしまったり、現像後にパターンが剥がれやすくなってしまうという問題を防ぐことができる。紫外線吸収剤の中でも、上述の一般式(1)で示される構造を有する化合物(C)は、長波長側の光を有効に吸収するため、特に有効に働く。
【0037】
化合物(1)の含有量としては、ガラスペーストの全重量に対して0.001〜1.0質量%含むことが好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましく、0.03〜0.3質量%がさらに好ましい。含有量が0.001質量%より小さいと紫外線吸収剤添加の効果が十分ではない場合がある。一方、含有量が1.0質量%より大きいと焼成時の焼成残渣が多くなり、絶縁性が低下する傾向がある。
【0038】
このような構造を有する紫外線吸収剤のうち、長波長の光を効率よく吸収できる点や焼成時の焼成残渣を低減できる点から、インドール化合物を含む紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
【0039】
本発明のガラスペーストは、熱処理を行った場合に、熱重合開始剤から発生したラジカルにより硬化する成分を含むことが必須である。以下、この成分を総称して架橋剤と呼ぶ。熱重合開始剤と架橋剤を併用することによって、上述の通り、後の上層塗布工程における上層の染み込み耐性が向上する。後の現像工程における耐現像液性が向上する。また、焼成時に焼成応力による亀裂や断線が発生することを抑制する効果もある。
【0040】
本発明のガラスペーストでは上記架橋剤としてビスフェノール骨格を有するアクリレートモノマー(D)を含むことを必須とする。ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)は熱により重合して有機ネットワークを形成し、上述の化合物(C)とπ−π相互作用を持つため、ガラスペーストを塗布し、乾燥や加熱処理を行った際に化合物(C)が揮発するのを抑える働きをする。
【0041】
ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)をガラスペースト全重量に対して重量基準で0.1〜20質量%含むことが好ましい。0.1質量%より少ないと効果発現が小さくなる場合があり、20質量%を超えるとガラスペースト塗布膜が硬化不足になり、上層を形成するための感光性ペーストを塗布した時に膨潤し、露光、現像し、前駆体形成後焼成すると、パターンが剥離してしまう場合がある。
【0042】
化合物(C)1重量部に対するビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)の含有量は1〜100重量部の範囲ないであることが好ましい。ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)が少ないと化合物(C)の揮発抑制効果が小さくなる傾向があり、多すぎると加熱処理後のガラスペースト塗布膜が硬化不足になり感光性ペーストや現像液が染みこみ、一括焼成した際上層に形成したパターンが剥離してしまう場合がある。
【0043】
ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)の例としては、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのジ(メタ)アクリレートまたはそれらのアルキレンオキサイド変性物を好ましく用いることができる。具体的には、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールFジアクリレート、ビスフェノールFジメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジメタクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールFジメタクリレート等が好ましく用いられる。
【0044】
本発明のガラスペーストは、上述のビスフェノール骨格を有するアクリレートモノマー以外の架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては3次元網目構造を形成できる点で、架橋剤が主に3つ以上の官能基を有する化合物であることが好ましい。そのような官能基としては、活性な炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましく、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリレート基、アクリルアミド基を有する化合物が応用される。(メタ)アクリレート化合物には多様な種類の化合物が開発されているので、それらから反応性、屈折率などを考慮して選択し、場合によってはそれらを組み合わせることが可能である。また、ポリマーに炭素−炭素2重結合を有する側鎖を導入するなどの方法を用いることも好ましい。(メタ)アクリレート化合物としては、化学式(2)、(3)、(4)、(5)で示されるアルキル基を有するアクリル化合物またはメタクリル化合物が好ましく用いられる。化学式(5)で示される化合物が、官能基を3つ以上有するので、特に好ましい。
CH=CRCOO−R10 (2)
CH=CRCOO−R10−OCOCHR=CH (3)
CH=CRCOO−R10−OCO−R12−COO−R10−OCOCHR=CH (4)
(CH=CRCOO−(CHCHR12O)m)n−R13 (5)
ここにおいて、RおよびR12は水素またはメチル基、R10は炭素数1〜20のアルキル基、R11は炭素数3以上のヒドロキシアルキル基、R13は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、mは0〜30の整数、nは3〜6の整数である。
【0045】
式(5)で表される化合物の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、およびそれらのアルキレンオキサイド変成物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
架橋剤の添加量は、ガラスペースト全重量に対し5〜25質量%の範囲で添加されることが好ましい。5質量%より少なくなると加熱処理後のガラスペースト塗布膜が硬化不足になり感光性ペーストや現像液が染みこみ、一括焼成した際上層に形成したパターンが剥離してしまう傾向がある。25質量%を超えると、焼成時の収縮応力が大きくなり、誘電体層に亀裂が発生する場合がある。
【0047】
また、本発明のガラスペーストは、これらの他にもさらに必要に応じて、バインダー樹脂、分散剤、安定剤、消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、重合禁止剤、有機溶媒などを添加することもできる。
【0048】
本発明のガラスペーストはバインダー樹脂をペースト全重量に対して0.1〜50質量%含むことが好ましい。含有量が0.1質量%より小さいと誘電体ペーストの粘度が低下し、誘電体ペーストの組成を安定化することが困難になる。一方、含有量が50質量%より大きいと誘電体ペーストの粘度が高くなりすぎることによる塗布不良や、焼成収縮が大きくなることによる亀裂等の問題が生じる傾向がある。
【0049】
バインダー樹脂の具体例としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、シリコーンポリマー(例えば、ポリメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン)、ポリスチレン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、高分子量ポリエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリアクリルアミドおよび種々のアクリルポリマーやセルロース化合物などがあげられる。このなかで、アクリルポリマーまたはセルロース化合物を用いることが焼成時の焼成残渣を低減する点で好ましい。
【0050】
アクリルポリマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキル類を単独または共重合させたものが好ましく、ペーストに好ましい特性を与えるように適宜に選択することができる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ヘキシルなどの単独重合体やこれらの重合体を構成するモノマーの組合せで得られる共重合体などが好ましい。セルロース化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルヒドロキシセルロースなどを好ましく用いることができる。
【0051】
本発明のガラスペーストは、各種成分を所定の組成となるように調合し、プラネタリーミキサー等のミキサーによって予備分散した後、3本ローラーなどの分散機で分散・混練手段によって均質に製造される。製造後は、濾過を行い、異物を取り除くことが好ましい。
【0052】
次に、本発明のガラスペーストを用いたプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法について説明する。
【0053】
本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法は、必要に応じ電極または電極前駆体を設けた基板上に上述のガラスペーストを塗布、加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成し、前記ガラスペースト塗布膜上に感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後、焼成することによって誘電体層および隔壁を形成することを特徴とする。この方法において、上述のガラスペーストは誘電体層を形成するために用いられる。
【0054】
本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法は、上記ガラスペーストを基板上に塗布して乾燥する工程の前に、基板上に電極パターンを形成する工程を、上記ガラスペーストを基板上に塗布して加熱処理する工程の後に、該誘電体層上に隔壁パターンを形成する工程を含むことが好ましい。
【0055】
次に、本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法の好ましい例について、詳細に説明する。
【0056】
まず、基板上に、書き込み電極として、感光性銀ペーストを用いてフォトリソグラフィー法により、ストライプ状の電極を形成し、この基板に本発明のガラスペーストをスクリーン印刷法により塗布する。
【0057】
誘電体層の厚みは、焼成後で4〜18μmの範囲、より好ましくは8〜15μmの範囲であることが、均一で緻密な誘電体層を形成するために好ましい。厚さを18μm以下とすることで、焼成の際の脱バインダー性が良好となり、バインダーの残存に起因するクラックが生じない。またガラス基板にかかる応力も小さくなるので基板が反るなどの問題も生じない。また、4μm以上とすることで平坦性で均一かつ緻密な誘電体層を形成することができ、電極部分の凹凸によって誘電体層にクラックが入るなどの問題が生じない。
【0058】
ガラスペースト塗布膜を形成した後、加熱処理を行う。加熱処理して硬化させることにより、後の上層塗布工程における上層の染み込み耐性に優れ、後の現像工程における現像液耐性に優れ、焼成工程における電極パターンや隔壁パターンの収縮による応力にガラスペースト塗布膜が耐えることができるようになる。
ガラスペースト塗布膜を加熱処理する条件としては、100〜300℃の温度範囲で3〜30分の時間範囲が好ましい。好ましくは、130〜250℃の温度範囲で5〜30分の時間範囲である。
【0059】
次いで、隔壁パターンを形成する。隔壁パターンの形成には、スクリーン印刷法、サンドブラスト法、感光性ペースト法、プレス成型法等が用いられる。パターンの高精細化や工程の簡略化が可能である点から、感光性ペースト法が特に好ましい。以下に、感光性ペースト法の手順について説明する。
【0060】
ガラスペースト塗布膜の上に、感光性ガラスペーストを全面に、もしくは部分的に塗布する。感光性ペーストの塗布は、スクリーン印刷法、バーコーター法、ロールコータ法、ドクターブレード法などの一般的な方法で行なうことができる。塗布厚さは、所望の隔壁の高さとペーストの焼成による収縮率を考慮して決めることができる。通常、焼成後の隔壁の好ましい高さは60〜170μmの範囲であり、焼成収縮を考慮すると、塗布する感光性ガラスペースト塗布膜の厚さは80〜400μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
塗布された感光性ガラスペーストは、乾燥され、露光される。露光に使用される活性光線は、紫外線が最も好ましく、その光源として、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプなどが使用される。超高圧水銀灯を光源とした平行光線を用いる露光機が一般的である。
【0062】
露光後、露光部分と未露光部分の現像液に対する溶解度差を利用して、現像を行ない、隔壁前駆体パターンを形成する。現像には、浸漬法、スプレー法、ブラシ法などが用いられる。現像液には、感光性隔壁ペースト中の有機成分、特にポリマーが溶解可能な溶液を用いるとよい。本発明では、アルカリ水溶液で現像することが好ましい。隔壁のパターニングは、焼成による収縮を考慮して行なうとよい。隔壁パターンは、主としてストライプ状に形成されるが、特に限定されず、格子状である場合もある。本発明のガラスペーストを用いると、格子状の隔壁を形成した場合でも、誘電体層に亀裂が生じることはない。
【0063】
隔壁前駆体パターンを形成した後に、電極または電極前駆体、ガラスペースト塗布膜および隔壁前駆体パターンを同時に焼成して、電極、誘電体層および隔壁を形成する。焼成雰囲気や温度は、ペーストや基板の特性によって異なるが、通常は空気中で焼成される。焼成炉としては、バッチ式の焼成炉やベルト式の連続型焼成炉を用いることができる。バッチ式の焼成の場合、ガラスペースト塗布膜の上に隔壁パターンが形成されたガラス基板を、室温から500℃程度まで数時間掛けてほぼ等速で昇温した後、さらに焼成温度として設定された500〜580℃に30〜40分間で上昇させて、15〜30分間保持して焼成を行なうことが好ましい。
【0064】
焼成温度を580℃以下、焼成時間を15〜30分の範囲に設定することで、焼成残渣や隔壁のダレなどを抑制することができる。
【0065】
このようにして形成された隔壁に、蛍光体ペーストを形成する。蛍光体の形成方法は特に限定されないが、例えば、スクリーン印刷法、口金から蛍光体ペーストを吐出する方法、感光性ペースト法などがあげられるが、この中でも口金から蛍光体ペーストを吐出する方法が簡便で、低コストのPDPを得ることができるため好ましい。蛍光体ペーストを塗布して乾燥させた後、例えば、500℃で30分焼成して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成する。なお、蛍光体塗布ムラ、つまり蛍光体厚みばらつきは、パネル化した際に表示ムラの原因となる。
【0066】
本発明のPDP用部材の製造方法においては、上述の化合物(C)およびビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を含むガラスペーストを用いるため、熱処理後のガラスペースト塗布膜の反射率ばらつきを抑え、隔壁を形成する工程で、底部幅の面内ばらつきが小さい緻密な隔壁パターニング形成を施すことが可能である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
評価方法
(1)隔壁前駆体形成性
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像した際、底部幅45μmの隔壁パターンが剥がれなく作れるかどうかの確認を行った。
○:剥がれなし
×:剥がれあり
(2)反射率の面内ばらつき
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、加熱処理を行った基板(感光性ガラスペースト塗布前)の、電極前駆体パターンと誘電体層が積層されている部分の乾燥膜42インチ基板面内25箇所の波長410nmの反射率(%)をコニカミノルタ(株)社製CM2500dにより測定し、その最大値と最小値の差をばらつきの範囲とした。また、全ての反射率の測定値の標準偏差を求めた。反射率の面内ばらつきの範囲および標準偏差は小さいほど好ましいが、ばらつきの範囲は0.6%以内、標準偏差は0.15以内が好ましい。
(3)隔壁底部幅の面内ばらつき
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像し、その後一括焼成した42インチ基板(蛍光体層形成前)について、面内25箇所のパターン底部幅をキーエンス社製リアルサーフェスビュー(VE−7800)により測定し、その最大値と最小値の差をばらつきの範囲とした。また、全ての底部幅の測定値の標準偏差を求めた。底部幅のばらつきの範囲および標準偏差は小さいほど好ましいが、ばらつきの範囲は5μm以内、標準偏差は2以内が好ましい。
(4)誘電体層硬化性
以下(a)項で説明するに説明するPDP背面板の作製方法(ガラスペースト塗布膜の加熱処理温度:150℃)およびガラスペースト塗布膜の加熱処理温度を140℃に変更した以外は(a)項で説明するPDP背面板の作製方法と同様の方法の2種類の方法でPDP背面板を作製した。<焼成>まで行った後、<蛍光体層の形成>を行う前の段階の基板について、それぞれ焼成後の隔壁を観察し、剥離の有無を確認し、以下のように判定した。150℃の加熱処理を行った場合に剥離がないことが必要であるが、加熱処理の条件をより低い温度である140℃に変更した場合も剥離がないことがより好ましい。
◎:加熱処理温度140℃の場合、150℃の場合の両方において剥離なし
○:加熱処理温度140℃の場合は剥離があるが、加熱処理温度150℃の場合は剥離なし
×:加熱処理温度140℃の場合、150℃の場合の両方において剥離あり
(5)焼成残渣
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像し、その後一括焼成した42インチ基板(蛍光体層形成前)について、面内25箇所の色度(L*)をコニカミノルタ株式会社製CM2500dにより測定した。得られたL*値に応じ、焼成残渣を以下のように評価した。×評価の場合、ガラスペースト膜の絶縁性が低下し、パネルを作製した時、異常放電が見られることがある。
◎:Lが65を超える
○:Lが63を超え65以下
×:Lが63以下
(6)蛍光体層塗布ムラ
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像し、その後一括焼成し、蛍光体を塗布、焼成した42インチ基板について、面内25箇所の蛍光体膜厚をキーエンス社製リアルサーフェスビュー(VE−7800)により測定し、その最大値と最小値の差をばらつきの範囲とした。はらつき範囲により蛍光体塗布ムラを以下のように評価した。×評価の場合、パネルを作製し、全点灯(白色表示)した時に色相にムラが見られる。
○:ばらつき範囲が4μm以下
×:ばらつき範囲が4μmより大きい
(7)PDP背面板総合評価
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体パターンを形成し、ガラスペーストを塗布、熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像し、その後一括焼成し、蛍光体を塗布、焼成した42インチ基板について、上記(1)〜(6)の評価より以下のように総合評価した。
隔壁底部幅のばらつきが5μm以内、かつ隔壁前駆体形成性が○、誘電体層硬化性が◎、焼成残渣が◎、蛍光体塗布ムラが○の全てを満たす場合、総合評価として優れているため◎とした。
隔壁底部幅のばらつきが5μm以内、かつ壁前駆体形成性、誘電体層硬化性、焼成残渣、蛍光体塗布ムラが全て○以上だが、誘電体層硬化性および焼成残渣の一方または両方が○である場合、、十分実用に耐えるが◎の場合と比較してややプロセス、製品のマージンがやや劣るため○とした。
隔壁底部幅のばらつきが5μmを超えるか、壁前駆体形成性、誘電体層硬化性、焼成残渣、蛍光体塗布ムラのいずれかが×の場合、PDP背面板として問題となるため×とした。
(実施例1〜17、比較例1〜6)
(a)PDP背面板の作製方法
340×260×1.8mmサイズのガラス基板(旭硝子(株)製“PD−200”)を使用してAC(交流)型PDPの背面板を形成した。以下に各手順を示す。
<電極前駆体パターンの形成>
基板上に、書き込み電極の電極前駆体パターンを形成するため、感光性銀ペースト(東レ(株)製)を乾燥後の厚みが5μmになるようにスクリーン印刷(印刷版:SUS#325)し、100℃で30分熱風乾燥機(タバイ(株)製)を用いて乾燥した。乾燥後、ピッチ140μm、線幅50μmのストライプパターンを有するフォトマスクをセットして、露光装置(大日本スクリーン(株)製)を用いて50mJ/cmの露光量で露光した後、0.5質量%のエタノールアミン水溶液で現像した。その後、熱風乾燥機(タバイ(株)製)を用いて200℃で15分の熱処理を行なった。
<ガラスペースト塗布膜の形成>
誘電体層の形成に用いるガラスペーストに用いた材料は以下の通りである。
・低融点ガラス粉末(Bi:45質量%、SiO:3質量%、B:17質量%、ZnO:22質量%、Al:3質量%、BaO:10質量%からなるガラスを粉砕、分級して平均粒子径を1.8μmとしたもの、軟化点487℃):40質量%
・フィラー粉末(酸化ケイ素粒子、日本アエロジル(株)製“アエロジル”350):20質量%
・バインダー樹脂(エチルセルロース、ハーキュレス社製):5質量%
・熱重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、日本ヒドラジン(株)製):2質量%
架橋剤D1〜D7:ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)として、以下のものを用いた。
・架橋剤D1:ビスフェノールAジアクリレート
・架橋剤D2:エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(エチレンオキサイド平均付加量:4)
・架橋剤D3:プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(プロピレンオキサイド平均付加量:4)
・架橋剤D4:ビスフェノールFジアクリレート
・架橋剤D5:エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート(エチレンオキサイド平均付加量:4)
・架橋剤D6:プロピレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート(プロピレンオキサイド平均付加量:4)
・架橋剤D7:ビスフェノールAジメタクリレート
・架橋剤E1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学(株)製)
・架橋剤E2:トリメチロールプロパントリアクリレート
・架橋剤E3:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
・紫外線吸収剤C1〜C4(化合物(C)):一般式(1)を満足し、R〜Rとして表1に記載の置換基を有するものを用いた。
・紫外線吸収剤F1:2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
・紫外線吸収剤F2:4−t−ブチルフェニルサシレート
・有機溶剤:テルピネオール
【0068】
【表1】

【0069】
表2〜4に記載の各成分を3本ローラーの混練機で混練して誘電体層形成用ペーストを作製した。得られた誘電体層形成用ペーストを乾燥後の厚みが15μmになるようにスクリーン印刷(印刷版:SUS#200)し、150℃で15分熱風乾燥機(タバイ(株)製)を用いて加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成した。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
<隔壁前駆体パターンの形成>
次に、感光性ガラスペースト(東レ(株)製)を乾燥後厚み180μmになるようにダイコーター(東レ(株)製)で塗布し、100℃で60分熱風乾燥機(タバイ(株)製)を用いて乾燥した。乾燥後、ピッチ140μm、線幅25μmのストライプパターンを有するフォトマスクをセットして、露光装置(大日本スクリーン(株)製)を用いて100mJ/cmの露光量で露光した後、0.5質量%のエタノールアミン水溶液で現像した。
<焼成>
上記の電極パターン、誘電体層および隔壁パターンを形成した後に、これらを同時に焼成した。焼成は、570℃で10分間ローラーハース焼成炉(光洋サーモテック(株)製)を用いて行なった。
<蛍光体層の形成>
このようにして形成された隔壁に、蛍光体ペーストを口金から蛍光体ペーストを吐出する方法を用いて乾燥後厚み10μmになるように塗布、乾燥(150℃、30分)し、焼成(500℃、30分)して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成した。
【0074】
評価結果を表5、表6に示す。実施例1〜17で作成したPDP背面板は、反射率の面内ばらつきが少なく、隔壁底部幅の面内ばらつきも小さいものであった。そのため蛍光体塗布ムラの評価結果も良好であった。また、誘電体層硬化性、焼成残渣の評価結果も優れていた。一方、比較例1、3〜6で作成したPDP用背面板は、すべて背面板の隔壁底部幅ばらつきが大きく、蛍光体塗布ムラが見られた。比較例2で作成したPDP背面板は、隔壁前駆体の一部が剥がれてしまった。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低軟化点ガラス粉末(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で示される化合物(C)およびビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を含むことを特徴とするガラスペースト。
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。RおよびRはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジシアノビニル基、ビス(アルコキシカルボニル)ビニル基、ビス(アリールオキシカルボニル)ビニル基、ビスカルボキシルビニル基、置換アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、アシルビニル基、エチニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、ヒドロキシビニル基、またはチオカルボニル基を示し、同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環、またはハロゲン原子を示し、同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記化合物(C)を0.001〜1.0質量%含むことを特徴とする請求項1に記載のガラスペースト。
【請求項3】
前記ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)を0.1〜20質量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載のガラスペースト。
【請求項4】
前記化合物(C)1重量部に対すると前記ビスフェノール骨格を有するアクリルモノマー(D)の含有量が1〜100重量部の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラスペースト。
【請求項5】
基板上に請求項1〜4のいずれかに記載のガラスペーストを塗布、加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成し、前記ガラスペースト塗布膜上に感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後、焼成することによって誘電体層および隔壁を形成することを特徴とするプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法。

【公開番号】特開2012−164540(P2012−164540A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24558(P2011−24558)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】