説明

ガラスヤーン回巻体、その製造方法及びガラスクロス

【課題】拡幅しやすく、内在歪みの小さい製織体を得るために、ガラスヤーンの巻き径に対応して撚糸条件を可変させることにより、均一な撚り数のガラスヤーン糸を提供する。
【解決手段】本発明のガラス繊維回巻体10は、ボビン30に加撚されたガラス長繊維ガラスストランド20が巻き取られたものであって、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンの撚り数が、巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンの撚り数よりも小さい部位のあるものである。また、また本発明のガラス繊維回巻体10の製造方法は、撚糸工程におけるボビン30のスピンドル50の回転数に対する給糸速度の比率を調整することによって製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板を構成するガラスクロスを製織するため使用される無機酸化物ガラス繊維をボビン等の軸体に巻き取ったガラスヤーン回巻体と、その製造方法及びガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを使用したガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板や各種のFRP成形体などの様々な構造材を製造するために、ガラス繊維を製織したガラスクロスが利用されている。このガラス繊維は、一般にガラスヤーンと呼ばれ、次のような製造工程で得られるものである。
【0003】
まず、所定機能を実現するように予め調整されたガラス原料を均質に熔融し、得られた熔融ガラスを多数のノズルを底部に有する白金製のブッシングより紡糸してガラスフィラメントを形成する。そしてこのガラスフィラメントの表面に集束剤などを塗布し、数十から数千本のガラスフィラメントを束ねたガラスストランドをケーキとして紙管や木管に巻き取る。次いでこのケーキの外層からガラスストランドを解舒して加撚しながらスピンドルに固定されたボビンやビーム等の軸体に巻き取ることによってガラスヤーン回巻体のパッケージとする。
【0004】
そしてガラスヤーン回巻体のパッケージを使用し、例えばプリント配線基板用の積層板を製作するには、次のような工程となる。ガラスヤーン回巻体のパッケージから解舒されたガラスヤーンを経糸ならびに緯糸に使用し、エアージェットルームを用いてガラスクロスを製織する。その後、ガラスクロスに付着している有機成分を加熱焼却することにより取り除き(加熱脱油)、そのガラスクロスに熱硬化性樹脂を含侵させ、積層して樹脂を硬化させることによってプリント配線基板用の積層板が製造される。プリント配線基板用として利用されるガラスクロスには、積層板の品質を低下させないため、毛羽立ちが少ないこと、加熱脱油性が良好なこと等が求められる。
【0005】
ところで、近年のプリント配線基板における配線の高密度化のため、プリント配線基板の誘電率の均一化および加工性の向上を目的として、拡幅されたガラスヤーンを使用し、繊維束間に存在するバスケットホール等の隙間の狭いガラスクロスが求められている。ガラスヤーンは撚り数が小さいほど拡幅しやすく、糸の解撚力によるプリプレグ(積層板)のカールが小さくなるため、ガラスクロスの隙間が狭く、解撚力に起因する内在歪みの小さいプリント配線基板を得るためには撚り数の小さいガラスヤーンが必要となる。
【0006】
撚糸工程においてガラスストランドに撚りを付与しながらボビンの軸方向から供給し、ボビン等に巻き取ってガラスヤーン回巻体のパッケージ(パーンともいう)とし、ガラスストランドの供給方向とは逆の方向に前記ガラスヤーン回巻体からガラスヤーンを外取りで解舒することによって、ガラスヤーンの撚りをほどく(例えば、特許文献1参照。)ことによって、より撚り数の小さいガラスヤーン糸(甘撚糸ともいう)が得られることが知られている。
【特許文献1】特開2004−003081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ガラスストランドに加撚を行う際に、ガラスヤーン糸の巻き取り径が大きくなると撚り数が大きくなり、一方、解舒の際の撚りは巻き径が大きくなるほど小さくなるため、特許文献1の解舒方法を用いても、解舒後の実際撚り数は巻き径が大きくなるほど撚り数が増加し、均一な実際撚り数のガラスヤーン糸を得ることができなかった。本発明は、ガラスヤーンの巻き径に対応して撚糸条件を可変させることにより、均一な撚り数のガラスヤーン糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維ストランドが撚糸されたガラスヤーンが軸体に巻き取られたガラスヤーン回巻体であって、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンに巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンよりも撚り数の小さい部位があることを特徴とする。
【0009】
ここで、ガラス長繊維ストランドが加撚されたガラスヤーンが巻き取られたガラスヤーン回巻体であって、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンに巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンよりも撚り数の小さい部位があるとは、無機ガラス繊維に撚りを加えて巻き取ったガラスヤーンパッケージについて、直径の大きい巻き径の部位にあるガラスヤーンの撚り数値が、それよりも直径の小さい巻き径の部位にあるガラスヤーンの撚り数値よりも小さい値となる個所が存在することを意味している。
【0010】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、その形状がボビンと呼ばれる円柱状の軸体に無機ガラス繊維のストランドに撚りを加えてヤーンとして巻き取ったものであって、その外観形態は円錐型形状(ダブルテーパー形状ともいう)、牛乳瓶型形状(片テーパー形状ともいう)又はフランジ型形状(ダブルスクエア形状ともいう)のいずれであってもよく、ストランドの撚りの方向もS撚り(撚り方向が左ねじの方向の撚り)であってもZ撚り(撚り方向が右ねじの方向の撚り)であっても差し支えはない。また単糸を加撚した片撚糸であっても、2本以上を撚り合わせた撚り糸であってもよい。
【0011】
そして本発明のガラスヤーン回巻体を構成するガラス長繊維ストランドが加撚されたガラスヤーンの撚り数は、JIS R3420(ガラス繊維一般試験方法)に記載された方法を応用するもので、すなわち検撚機を使用して、ボビンの側面からガラスヤーンの撚り数が変化することのないようにボビン等を回転させながら取り出したガラスヤーンの撚り数を計測することによって決定されるものである。よってここでの撚り数は、ボビン等に巻き取られたガラスヤーン回巻体形状となった状態に於いての撚り数のことであって、ガラスヤーンを解舒する操作法によって影響されない計測に基づく数値である。
【0012】
そして直径の大きい巻き径部にあるガラスヤーンの撚り数値が、それよりも直径の小さい巻き径部にあるストランドの撚り数値よりも小さい値となる部位が存在するというのは、少なくとも1つのガラスヤーン回巻体について、巻き取られたガラスヤーンの任意の1点を注視し、その1点より直径の小さい他の点にあるストランドのいずれかは、必ず巻き取られたガラスヤーンの任意の1点の撚数よりも大きい値となる個所のあることを表している。
【0013】
またガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンを構成するガラス長繊維の材質については、ガラスヤーン回巻体の仕様用途に応じてどのような材質のものであっても支障はない。具体的に示すならば、材質としてEガラス(無アルカリガラス組成)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス組成)、Cガラス(耐酸性のアルカリ石灰含有ガラス組成)、Dガラス(低誘電率を実現する組成)、Mガラス(高弾性率を実現するベリリウム含有ガラス組成)、Sガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Tガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)そしてHガラス(高誘電率を実現する組成)を必要に応じて採用することができる。ただ特にプリント配線基板用とする場合には、Eガラス、DガラスあるいはHガラスの材質とするのが好ましい。
【0014】
また本発明のガラスヤーン回巻体を構成するボビンの材質としては、ガラスヤーンを巻き取ることのできる強度と耐摩耗性を有し、成型し易い材質であるならば特に限定されるものではない。例えば、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレテレフタレート)等の有機材料、アルミニウム、チタン等の金属材料、木材、紙材、FRP等の複合材料を単独あるいは複数種必要に応じて使用することで構成することができる。またその形状についても、ガラスヤーンを巻き取ることができる外表面状態を有する円筒、円柱であるならばよい。
【0015】
本発明のガラスヤーン回巻体を製造する方法としては、溶融ガラスから直接紡糸することで行われるものであっても、紡糸工程で得られた無撚り糸に後工程で撚りを付与するものであってもよい。
【0016】
また本発明のガラス繊維回巻体は、上述に加え軸体に巻き取られたガラスヤーンから巻き取り方向と逆方向に外取りすることで解舒されるガラスヤーンの撚り数が、0〜0.07回/インチとなるように加撚されたものであるならば、開繊操作を施すことによってストランドが拡幅され易いものであるあるため好ましい。
【0017】
ここで、ガラスヤーン回巻体から巻き取り方向と逆方向に外取りすることで解舒されるガラスヤーンの撚り数が、0〜0.07回/インチとなるように加撚されたものとは、撚糸工程において、ガラスストランドに撚りを付与しながらガラスヤーンとして給糸する方向とは逆方向に、ボビン等の回転軸、すなわちスピンドルを中心にボビン等を自転させることなくパッケージを固定した状態のままで軸方向から外取りでガラスヤーンを解舒することによって得られたガラスヤーンの撚り数が0回/インチから0.07回/インチの範囲内となるような加撚状態であることを表している。
【0018】
ガラスストランドが加撚されたガラスヤーンの撚りの方向は、右撚りであっても左撚りであっても支障はなく、そのガラスヤーンの撚り数が0.07回/インチ以下となるものであればよい。ガラスヤーンの撚り数が0.07回/インチを越えると、ガラスストランドの拡幅を充分に行い難くなる虞があるため好ましくない。
【0019】
また、軸体に巻き取られたガラスヤーンを巻き取り方向と逆方向に外取りするために、本発明のガラスヤーン回巻体は、巻き取り方向を特定できるようなものであることが必要である。例えば、それはボビン等に施されたラインや円、矢印、点といったマークや表示、あるいは回巻体全体の外観形状、パッケージへのステッカー等の注意を喚起するためのシール類の貼付、ボビン等の軸方向に対してのガラス繊維の巻き取り位置を意図的に軸の長手方向の中心から偏らせた位置に巻き取ったもの、さらにボビン端部の形状の変更を施すといった手段によって、巻き取り方向と逆方向にガラス繊維を解舒する方向を容易に識別できることが好ましい。
【0020】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加えガラスヤーンは、軸体に巻き取るときに、巻き径の最大部に対するガラス長繊維ストランドの給糸速度と軸体を回転させるスピンドルの回転数とを調整して撚糸されたものであれば、ボビン等に巻き取られるときに、ガラスストランドの加撚状態を適切な撚り数に維持されたものとできるため好ましい。
【0021】
ここで、ガラスヤーンは、軸体に巻き取るときに、巻き径の最大部に対するガラス長繊維ストランドの給糸速度と軸体を回転させるスピンドルの回転数とを調整して撚糸されたものとは、ボビンに巻き取られつつあるガラスヤーンの直径に対して、ガラス長繊維ストランドの供給速度、すなわちケーキを固定したコレット等の回転によって送り出される給糸速度と、ガラスとボビンを固定したスピンドルの回転速度との間に一定の設定条件を設け、その設定条件から外れることなくガラス長繊維ストランドの供給速度とスピンドルの回転速度の両方、あるいはその内の一方を調整することによって加撚を行うことを意味している。
【0022】
ガラス長繊維ストランドの供給速度とスピンドルの回転速度との間の設定条件としては、適切な上限値と下限値を設定した状態で、予めプログラムされた条件に従う撚糸であってもよいし、ボビンに巻き取られつつある巻き径の計測値をモニターしつつ、その測定値に従うガラス長繊維ストランドの供給速度とスピンドルの回転速度の設定をマニュアルに従って行い続けるという半自動の機構によるものであってもよい。ただ半自動の装置を使用する場合には、設定を越えないような管理保護システムを系全体に組み込んだものとすることが好ましい。
【0023】
本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は、上述のいずれかのガラスヤーン回巻体を、軸体を回転させるスピンドルの回転数に対する給糸速度の比率を調整することによって製造することを特徴とする。
【0024】
ここで、上述のいずれかのガラスヤーン回巻体を、軸体を回転させるスピンドル回転数に対する給糸速度の比率を調整するとは、上述した上限値と下限値の範囲内となるようにボビンのスピンドル回転数の値をコレットの回転によって生み出される給糸速度の値で除した数値をコントロールすることで、ガラス長繊維ストランドの加撚を行うことによってガラスヤーン回巻体の製造を行うということである。
【0025】
ボビンのスピンドル回転数に対するコレットの回転による給糸速度の比率の調整について、より具体的には、数1に示した式に従い、ボビンのスピンドル回転数N(単位は回/minまたはrpm)に対するコレットの回転による給糸速度V(単位はcm/min)の比率、すなわちN/Vの値が、巻き取り中のガラスヤーン巻き径の最大部R(単位はcm)の関数として表示した2/πR以上の値であって、かつ(2/πR+0.03)の値以下の数値となるように、ボビンのスピンドル回転数Nとコレットの回転による給糸速度Vの両方、あるいは片方を適宜変更することで調整を行うものである。
【0026】
【数1】

【0027】
ボビンのスピンドル回転数N(単位は回/min)に対するコレットの回転による給糸速度V(単位はcm/min)の比率、すなわちN/Vの値が、2/πRより小さい値になると撚糸の際にガラスストランドに均一な引張力が働きにくくなり、回巻体のガラスヤーンに弛みや緩みが生じ、その結果回巻体を解舒して使用する場合に、ほぐれが生じる虞があるので好ましくない。またボビンのスピンドル回転数N(単位は回/min)に対するコレットの回転による給糸速度V(単位はcm/min)の比率、すなわちN/Vの値が(2/πR+0.03)の値より大きい値となると、ガラススヤーンを拡幅しにくくなり、製織した後に繊維束間の隙間の大きいガラスクロスとなってしまう虞があるため好ましくない。
【0028】
本発明のガラスクロスは、上述に記載のガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを使用することにより製織されるものであることを特徴とする。
【0029】
ここで、上述に記載のガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを使用することにより製織されるものとは、上記のように加撚されたガラス長繊維ストランドが撚されて巻き取られたガラスヤーン回巻体で、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンの撚り数が、巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンの撚り数よりも小さい部位があるガラスヤーン回巻体であって、軸体に巻き取られたガラスヤーンを、その巻き取り時の方向とは逆方向に外取りすることで解舒されるガラスヤーンの撚り数が、0回/インチ〜0.07回/インチの範囲内となるように加撚されたものであり、加撚方法として、軸体に巻き取るときに、巻き径の最大部に対するガラス長繊維ストランドのコレットの回転により送り出される給糸速度と、ボビンのスピンドル回転数とを調整して撚糸されたガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを経糸や緯糸などとして使用することによって織られたガラスクロスを表すものである。
【0030】
ここで、ガラスクロスの製織方法などは問わず、どのような方法によって織られたものでもよい。例えば、平織り、綾織り、朱子織り、絡み織りといった織り方を採用することができる。
【0031】
また、本発明のガラスクロスを構成するガラス繊維には、カップリング剤等の集束剤が塗布されていることが好ましく、集束剤を構成する他の成分としては、必要に応じて例えば、被膜形成剤、潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の各種薬剤を適量混合して利用することが可能である。そしてカップリング剤としては、例えばエポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、ウレイドシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、各種官能基付きシランカップリング剤などがあるが、カップリング剤の種類は特に限定されず、マトリックスとの相性により選択することができる。
【発明の効果】
【0032】
(1)以上のように、本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維ストランドが撚糸されたガラスヤーンが軸体に巻き取られたガラスヤーン回巻体であって、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンに巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンよりも撚り数の小さい部位があるため、1つのパーンから解舒されたガラスヤーンの撚り数に大きい変動がなく、甘撚り状態となっているので、プリント配線基板用のガラスクロスとして製織した時に均質な材質のクロスを得ることが容易なものである。
【0033】
(2)本発明のガラス繊維回巻体は、軸体に巻き取られたガラスヤーンから巻き取り方向と逆方向に外取りすることで解舒されるガラスヤーンの撚り数が、0〜0.07回/インチとなるように加撚されているものであれば、ガラス繊維の拡幅が行い易く、拡幅度合いの乱れの少ないストランドが得られるため、ガラスクロスとした時に繊維束間の隙間の狭いガラスクロスが得られるものである。
【0034】
(3)さらに本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラスヤーンは、軸体に巻き取るときに、巻き径の最大部に対するガラス長繊維ストランドの給糸速度と軸体を回転させるスピンドルの回転数とを調整して撚糸されたものであれば、解撚力に起因する内在歪みの小さいガラスクロスを得ることができるものである。
【0035】
(4)本発明のガラス繊維回巻体の製造方法は、上述のいずれかのガラスヤーン回巻体を、軸体を回転させるスピンドルの回転数に対するガラスヤーンの給糸速度の比率を調整することによって製造するものであるため、ガラス糸の解撚力によって発生するプリプレグ(積層板)のカールの大きさを小さくできるものである。
【0036】
(5)本発明のガラスクロスは、上述のガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを使用することにより製織されるものであるため、ガラス繊維の毛羽立ちが少ないので、本発明のガラスクロスで構成された積層板は高密度化が可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に本発明のガラスヤーン回巻体とその製造方法、及びガラスヤーン回巻体を利用するガラス製織体に関して、実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0038】
[実施例]ガラス熔融炉からブッシングにより成形された無アルカリガラス(Eガラス)製のガラスフィラメント400本の表面に集束剤を塗布し、1本のガラスストランドとして束ね、ケーキとして巻き取った。次いで図1に示すように、このケーキ90をコレット80にセットし、そこからコレット80の回転によって給糸方向Mにガラスストランド20を解舒し、リング60上を走行するトラベラー70によって撚りを付与しながら風乾して直径77mm、軸方向寸法350mmの形状を有するボビン30に巻き幅283mmにて長さ寸法70000mのガラスヤーンをダブルテーパー形状となるようにスピンドル50の回転方向Mで巻き取り、巻き取り途中のガラスヤーンの巻き径の最大部Rの変化に対して、ガラスストランドが加撚されたガラスヤーンの給糸速度Vとボビン30のスピンドル回転数Nとの比率を下記の数2に記載した式の条件となるように給糸速度とボビン30のスピンドル回転数とを設定して巻き取り操作を行った。数2の式中のπは、円周率(3.14)を表している。本発明のガラスヤーン回巻体10の製造時の具体的なガラスヤーンの巻き径に対するガラスヤーンの給糸速度Vとスピンドル回転数の比率、N/Vの値を変更した状況を示す設定数値を、表1に示す。こうして得られたガラスヤーンパッケージ10について、JIS R3420に記載された撚り数計測法を応用した手順によって、ボビンに巻き取られた状態でのガラスストランド20の撚り数を計測するために撚り数の計測を行うと表1に示す測定値となった。なお、ここでは、JISの規定の内容を応用して評価の精度を向上するため、所定長さ(つかみ間隔1000mm)について、回転回数をインチ当たりに換算したものでの評価を行ったものである。
【0039】
【数2】

【0040】
また、図2に示したように、このガラスヤーンパッケージ10から外取りでマーキング40を施したボビン軸方向の供給方向とは逆方向に解舒したガラスストランド20の実際撚りを計測すると、表1に示したように、0.07回/インチ以下の実際撚り数の小さいものであり、撚り方向はZ撚りであった。
【0041】
以上より、撚り数についてのJIS規定に従う計測結果から、作製したガラス繊維回巻体10については、巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンの撚り数が、巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンの撚り数よりも小さい部位のある状態となっていることが確認できた。
【0042】
【表1】

【0043】
そしてこのガラスヤーンを使用し、プリント配線基板に使用することができる平織りのガラスクロスを作製したところ、ガラスヤーンの繊維束の拡幅が行い易く、隙間の狭い均一な密度のガラスクロスとなり、糸の解撚力によるプリプレグ(積層板)のカールが小さくなり、解撚力に起因する内在歪みの小さいプリント配線基板が得られた。
【0044】
[比較例]一方、比較例として実施例と同様にEガラス材質のガラスストランドを使用して作製したケーキから400本の表面に集束剤を塗布し、1本のガラスストランドとして束ね、ケーキとして巻き取った。そして、ガラスヤーンの給糸速度Vとスピンドル回転数Nとの比率、N/Vの比率を0.096の一定値に維持したまま撚りを付与し、風乾して実施例と同様に直径77mm、軸方向寸法350mmの形状を有するボビン30に巻き幅283mmにて長さ寸法70000mのガラスヤーンをダブルテーパー形状となるように巻き取った。
【0045】
そして、実施例と同様にJIS R3420に記載された撚り数計測法に従った手順によってボビン30に巻き取られたガラスヤーンの実際撚り数を計測すると、表2に示したような結果となり、ガラスヤーンの実際撚り数はボビン30の巻き数に依存して大きくなり、実際撚り数の均一なガラスヤーンを得ることはできていないことが判明した。また、撚り数についてのJIS規定に従う計測結果から、作製したガラス繊維回巻体については、大きな巻き径部に位置するガラスヤーンの撚り数が、小さな巻き径部に位置するガラスヤーンの撚り数よりも小さいストランド部位のある状態となっていないことも確認することができた。
【0046】
【表2】

【0047】
以上のように、本発明のガラスヤーン回巻体は、巻き径に依存せず実際撚り数が小さいガラスヤーンを得ることができるものであり、このガラスヤーンを使用して製織したガラスクロスは、高い密度を有するものであり、優れた品位のものとなることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のガラスロヤーン回巻体にガラスヤーンを巻き取る操作を説明する斜視図。
【図2】本発明のガラスヤーン回巻体からガラスヤーンを解舒する操作を説明する斜視図。
【符号の説明】
【0049】
10 ガラスヤーン回巻体(ガラスヤーンパッケージ)
20 ガラスストランド
30 ボビン
40 マーキング
50 スピンドル
60 リング
70 トラベラー
80 コレット
90 ケーキ
M スピンドル回転方向
W 給糸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス長繊維ストランドが撚糸されたガラスヤーンが軸体に巻き取られたガラスヤーン回巻体であって、
巻き径の大きい位置にあるガラスヤーンに、巻き径の小さい位置にあるガラスヤーンよりも撚り数の小さい部位があることを特徴とするガラスヤーン回巻体。
【請求項2】
軸体に巻き取られたガラスヤーンから巻き取り方向と逆方向に外取りすることで解舒されるガラスヤーンの撚り数が、0〜0.07回/インチとなるように加撚されていることを特徴とする請求項1に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項3】
ガラスヤーンは、軸体に巻き取るときに、巻き径の最大部に対するガラス長繊維ストランドの給糸速度と軸体を回転させるスピンドルの回転数とを調整して撚糸されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかのガラスヤーン回巻体を、軸体を回転させるスピンドルの回転数に対するガラスヤーンの給糸速度の比率を調整することによって製造することを特徴とするガラスヤーン回巻体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒されたガラスヤーンを使用することにより製織されるガラスクロス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−219770(P2006−219770A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32924(P2005−32924)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】