説明

ガラス成形体の成形型

【課題】 高い形状精度と表面性を持つ光学ガラス素子、磁気記録媒体用のガラス基板などのガラス成形体をプレス成形で得るために、成形型材料として高温で安定であり、成形面の肌荒れ、剥離がなく、離型性が良いガラス成形体の成形型を提供する。
【解決手段】 ガラス成形体を形成する成形型において、少なくとも成形面を構成する成分が、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種の成分とCr、Alの群から選ばれた少なくとも1種の成分との組み合わせからなり、前記Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種以上の成分の合計が50at%を超えるものとする。また、前記成形型を酸化雰囲気中で加熱することにより成形面の最表面にCrの酸化物、Alの酸化物のうち少なくとも1種の成分を含む層を形成してある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学ガラス素子、磁気記録媒体用のガラス基板などのガラス成形体を成形するための成形型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、光学ガラス素子、磁気記録媒体用のガラス基板などのガラス成形体の製造においては、ガラス素材を加熱しながら所望の形状にプレスして成形することが行われている。
【0003】プレス成形により、光学ガラス素子、磁気記録媒体用のガラス基板などのガラス成形体を高い形状精度と表面性を持つ状態で得るためには、ガラス成形体の成形型について、その型材料としては、高温で安定であり、成形面の面精度が優れ、ガラスと反応せず離型性が良いことが必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これらの要求に対して、超硬合金、セラミックスなどの成形型基材の成形面に種々の材料をコーティングすることが提案されている。
【0005】例えば、特開昭60−246230号公報には、超硬合金を基材(母材)として貴金属層を被覆した光学ガラス素子用の成形型について記載されている。
【0006】しかし、貴金属層はガラスに対する離型性は良いが、貴金属、貴金属合金を単独で成形面にしてあると、高温下で継続使用するうちに、貴金属層の摩滅や剥離が起こり、ガラス成型体の表面性を損ねるという問題を有している。
【0007】また、特開平2−26841号公報には、成型用型の少なくとも成形面が酸化クロム、酸炭化クロム、酸窒化膜および酸炭窒化クロムのうちの少なくとも1種のクロム含有物質からなる光学ガラス成形用型について記載されている。
【0008】しかし、これらのクロム含有物質はガラスに対する離型性は良いが、クロム含有物質を単独で成形面にしてあると、靱性が乏しく、耐衝撃性および耐熱衝撃性に劣り、また被膜として用いた場合は剥離するという問題を有している。
【0009】特開平2−26841号公報には、耐熱衝撃性を増すために、上記のクロム含有物質を、Nb、Ta、Cr、W、Ru、Rh、Pd、Re、Ir、Pt、Auのうちの少なくとも1種の金属または合金の50vol%以下でもって置換する場合も紹介されている。しかし、それだけでは、貴金属成分が少なく、クロム含有物質の量が多くなるため、最表面層の靭性が劣化し、クラックが生じたり、剥離が生じたりするおそれがある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、貴金属、貴金属合金またはクロム含有物質を単独で成形面に形成した場合の上記問題点を解決することを基準として、さらにはクロム含有物質を上記いずれかの貴金属で置換した場合の問題点をも解決するものである。
【0011】本発明のガラス成形体の成形型は、貴金属または貴金属合金の欠点である摩耗、剥離を改善するとともに、Cr酸化物の欠点である脆い性質を改善するために、ガラス成形体を形成する成形型において、少なくとも成形面を構成する成分が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)の群から選ばれた少なくとも1種の成分と、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の群から選ばれた少なくとも1種の成分との組み合わせからなり、前記Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種以上の成分の合計が50at%を超えることを特徴とするものである。なお、“at%”は、原子パーセントである。
【0012】本発明によるガラス成形体の成形型においては、実際のガラス素材の成形において、前記の組成の成形面が高温でガラスに接すると、ガラス中または成形雰囲気中の酸素、水分によって、成形面を構成する成分中のCrまたはAlが成形面の表面で選択的に酸化され、薄いCrの酸化物被膜またはAlの酸化物被膜が成形面の最表面に形成される。この場合、成形面の主たる成分はCrまたはAlを含む貴金属合金からなるため、成形面がCr酸化物単独の場合に比べて靱性が改善される。
【0013】また、成形面の最表面はCrまたはAlの酸化物被膜が形成されるためガラスに対して離型性に優れ、かつ成形面が貴金属合金単独の場合に比べて、繰り返し使用による貴金属被膜の肌荒れ、摩滅が抑えられる。
【0014】さらに、本発明の上記組成の成分を有する合金被膜を超硬合金またはセラミックスの成形型基材上に形成する場合、成分中のCrまたはAl成分の反応性が強いため、貴金属合金単独の場合に比べて被膜の密着性が改善される。
【0015】さらに、本発明の成分を有する合金被膜を超硬合金またはセラミックスの成形型基材上に形成する場合、Cr酸化物単独の場合に比べて熱膨張係数が成形型基材の熱膨張係数に近いため、被膜の高温での密着性が改善される。
【0016】本発明において、成形面上の合金皮膜を構成する成分としてPt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reといった貴金属を使う理由は、これらの貴金属以外の材料すなわちガラス成型温度において酸化物を容易に形成してしまう材料を用いると、成形面表面にCrまたはAl以外の酸化層が形成され、これらがガラスと反応しガラスが融着することになってしまうが、そのような不都合を回避するためである。
【0017】そして、本発明において成形面を構成する成分としてPt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種以上の成分の合計が50at%を超えるとする理由は、貴金属成分が50at%以下では、従来技術のように成形面最表面に形成されるCr酸化物、Al酸化物の量が多くなりすぎて最表面層の靭性が劣化しクラックが生じたり、剥離が生じることになってしまうが、そのような不都合を避けるためである。
【0018】本発明において上記では、成形型の最表面の酸化層は、ガラス成形時に酸化されて形成されてその効果を発揮するものであるが、本発明において別の手段として、ガラス成形体を形成する成形型において、少なくとも成形面を構成する成分がPt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種の成分と、Cr、Alの群から選ばれた少なくとも1種の成分との組み合わせからなる成形型を酸化雰囲気中で加熱することにより、成形面の最表面にあらかじめCrの酸化物、Alの酸化物のうち少なくとも1種の成分を含む層を形成するのでもよい。
【0019】このようにあらかじめ酸化雰囲気中で成形型を加熱すると、成形面を構成する成分中のCrまたはAlが成形面の表面で選択的に酸化され、薄いCrまたはAlの酸化物被膜が成形面の最表面に形成されるため、上記同様の効果を発揮する
【0020】また、本発明の成形型は大気中において使用する場合にも、成形面を構成する成分中のCrまたはAlが成形面の表面で選択的に酸化され、薄いCrまたはAlの酸化物被膜が成形面の最表面に形成されるため、上記同様の効果を発揮する
【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明にかかわるガラス成形体の成形型の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】(実施の形態1)図1は本発明の実施の形態1のガラス成形体の成形型の概略構成を示す断面図である。図1において、1は超硬合金またはセラミックスからなる成形型基材、2は成形型基材1の表面である成形面、3は成形面2の最表面にスパッタ法により成膜されたPt‐Ir‐Cr合金被膜である。
【0023】表1に示すように、Pt‐Ir‐Cr合金被膜3の組成を変えてサンプルを作製した。
【0024】1つはPt、Ir、Crの成分割合が40対40対20の40at%Pt‐40at%Ir‐20at%Cr合金被膜である。この場合、PtとIrの貴金属成分の割合の合計が80%となっている。なお、Pt‐Ir‐Cr合金被膜3の膜厚を1μmとしたが、本発明はこのことによって何ら限定されるものではない。
【0025】もう1つが20at%Pt‐20at%Ir‐60at%Cr合金被膜である。この場合、PtとIrの貴金属成分の割合の合計が40%である。
【0026】比較のために、Pt‐Ir合金被膜単独とCr酸化物被膜単独を成形面に形成した成形型の結果も示す。
【0027】いずれのサンプルについても、窒素ガス雰囲気中および大気中において、600℃でガラスをプレス成形した。それぞれのサンプルについて、1000回の試行を行った総合の結果を表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】本発明による40at%Pt‐40at%Ir‐20at%Cr合金被膜にあっては、窒素ガス雰囲気中、大気中のいずれの場合も、成形面肌荒れ、皮膜の剥離は無く、しかも、ガラスの離型性は良好であった。
【0030】比較例の20at%Pt‐20at%Ir‐60at%Cr合金被膜にあっては、窒素ガス雰囲気中で成形面肌荒れ、皮膜の剥離にやや劣るところがあった。大気中では良くなかった。
【0031】ここではPt‐Ir‐Cr合金についての結果を示したが、他のPt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reのうち少なくとも1種類の成分の合計が50at%を超える合金皮膜についても同様に成形面肌荒れ、皮膜の剥離はなく、ガラスの離型性は良好であった。
【0032】(実施の形態2)図2は本発明の実施の形態2のガラス成形体の成形型の概略構成を示す断面図である。図2において、1は超硬合金またはセラミックスからなる成形型基材、2は成形型基材1の表面である成形面、3は成形面2にスパッタ法により成膜されたPt‐Ir‐Cr合金被膜、4は酸化雰囲気中で加熱することによりPt‐Ir‐Cr合金被膜3の最表面に形成されたCr酸化物を含む層すなわちPt‐Ir合金とCr酸化物との混合層である。
【0033】この実施の形態2についても、上記実施の形態1の場合と同様にサンプルを作製し、同様に試行したところ、40at%Pt‐40at%Ir‐20at%Cr合金皮膜の場合をはじめとして、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reのうち少なくとも1種類の成分の合計が50at%を超える合金皮膜の場合に、成形面肌荒れ、皮膜の剥離は無く、しかも、ガラスの離型性は良好であった。
【0034】
【発明の効果】以上のようにガラス成形体の成形型についての本発明によれば、光学ガラス素子、磁気記録媒体用のガラス基板などのガラス成形体を成形する場合、ガラスとの離型性が良く、成形面の肌荒れ、剥離が無い良品質の、そして長期間にわたり繰り返し使用可能なガラス成形体の成形型を提供できるに至った。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1のガラス成形体の成形型の概略構成を示す断面図
【図2】 本発明の実施の形態2のガラス成形体の成形型の概略構成を示す断面図
【符号の説明】
1 成形型基材
2 成形面
3 Pt‐Ir‐Cr合金被膜
4 Pt‐Ir合金とCr酸化物との混合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス成形体を形成する成形型において、少なくとも成形面を構成する成分が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)の群から選ばれた少なくとも1種の成分と、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)の群から選ばれた少なくとも1種の成分との組み合わせからなり、前記Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Reの群から選ばれた少なくとも1種以上の成分の合計が50at%を超えることを特徴とするガラス成形体の成形型。
【請求項2】 酸化雰囲気中での加熱により前記成形面の最表面にCrの酸化物、Alの酸化物のうち少なくとも1種の成分を含む層があらかじめ形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス成形体の成形型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−48744(P2003−48744A)
【公開日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−237470(P2001−237470)
【出願日】平成13年8月6日(2001.8.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】