説明

ガラス組成物及びその用途

【課題】ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、良好かつ安定した品質を示すと共に、ガラス製造装置に対する負荷を軽減することができるガラス組成物及びその用途を提供する。
【解決手段】ガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)を含有するものである。そして、二酸化珪素50〜60質量%、酸化アルミニウム5〜15質量%、酸化マグネシウム1〜10質量%、酸化カルシウム10〜25質量%、酸化ストロンチウム8〜25質量%及び酸化ジルコニウム1〜7質量%に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特にポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして好適に用いることができるガラス組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4´−ヒドロキシフェニル)プロパン〕と、ホスゲン又は炭酸エステルとの反応で得られるポリ炭酸エステルである。このポリカーボネート樹脂は、他の樹脂材料に比較して、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性及び透明性に優れており、エンジニアリングプラスチックとして電気機器、自動車部品、建築材料などに用いられている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の機械的強度や耐熱性などをさらに向上させる場合には、ポリカーボネート樹脂にフィラーが配合される。一般的に、熱可塑性樹脂などの補強の目的で用いられるフィラーとしては、鱗片状、繊維状、粉末状、ビーズ状などの形態を有するガラスフィラーが使用されている。このガラスフィラーを形成するガラスの組成としては、Eガラスのような無アルカリ珪酸塩ガラス、Cガラスのような含アルカリ珪酸塩ガラス又は通常の板ガラス組成物が好適に用いられる。
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして、これらのガラス組成物を使用した場合には、ポリカーボネート樹脂の性能を損なうことがある。すなわち、Cガラス組成物や板ガラス組成物を用いた場合には、これらの組成物に含まれるアルカリイオンにより加水分解反応が起こり、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下する。その結果、ポリカーボネート樹脂成形品の機械的強度などが低下する。また、Eガラス組成物を用いた場合には、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーで屈折率が異なるため、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーの界面で光が散乱して、ポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれる。
【0005】
そこで、近年ポリカーボネート樹脂に配合する場合に適したガラスフィラーが実用化されている。例えば特許文献1には、ポリカーボネート樹脂の強化に用いられ、1.570〜1.600の屈折率を有し、着色も少なく、しかも樹脂の分子量の低下を引き起こすことがないガラス組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂の屈折率とほぼ同程度まで屈折率を高めることができ、ガラスフィラーで強化後に成形品の透明性を維持できるポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−155638号公報
【特許文献2】特開2007−153729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムはガラスの骨格を形成する成分であり、両成分の含有量が十分でないとガラスの化学的耐久性が不足する。酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化ストロンチウムは、ガラスの失透温度及び粘度を良好に調整する成分である。酸化ジルコニウムは、ガラスの屈折率を調整する成分であり、失透温度及び粘度を良好に調整する成分でもある。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているガラス組成物は、酸化チタンが必須成分であり、ポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして使用した場合には、ポリカーボネート樹脂成形体が着色するという問題があった。
【0009】
特許文献2に開示されているガラスフィラーでは、いずれの実施例も酸化バリウム又は酸化亜鉛が含まれている。この酸化亜鉛は揮発性に富む成分であることから、ガラス溶融時に飛散する可能性がある上に、ガラスの組成が変動して、ガラス組成物の品質の制御が困難になる。一方、酸化バリウムは比重が大きく、樹脂に対する分散性が悪く、さらに酸化バリウムの原料は一般的に高価であり、ガラスの製造コストを上げる一因となる。加えて、これらの原料には、取り扱いに配慮が必要なものが多い。
【0010】
そこで、本発明の目的とするところは、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、良好かつ安定した品質を示すと共に、ガラス製造装置に対する負荷を軽減することができるガラス組成物及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のガラス組成物は、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)を必須成分として含有し、各成分の含有量が質量%で表して、
50≦SiO≦60、
5≦Al≦15、
1≦MgO≦10、
10≦CaO≦25、
8≦SrO≦25、
1≦ZrO≦7
であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明のガラス組成物は、請求項1に係る発明において、質量%で表して、8≦SrO≦15の場合、
10≦CaO≦25、
と設定される。
【0013】
請求項3に記載の発明のガラス組成物は、請求項1に係る発明において、質量%で表して、15<SrO≦25の場合、
10≦CaO≦20、
と設定される。
【0014】
請求項4に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595である。
請求項5に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃である。
【0015】
請求項6に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項5のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃である。
【0016】
請求項7に記載の発明のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガラス組成物より形成されることを特徴とする。
請求項8に記載の発明のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、請求項7に係る発明において、前記ガラス組成物を溶融し、所定形態に加工してなるものである。
【0017】
請求項9に記載の発明のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、請求項7又は請求項8に係る発明において、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態を有するものである。
【0018】
請求項10に記載の発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム及び酸化ジルコニウムを含有する。言い換えれば、酸化チタンを必須成分としていないことからポリカーボネート樹脂に配合されたとき着色を抑制することができ、酸化亜鉛を必須成分としていないことからガラスの溶融時に飛散を抑えることができ、ガラスの組成変動を抑制して所定組成のガラス組成物を構成することができる。加えて、本発明のガラス組成物は、酸化バリウムを必須成分として含んでいないことから、ポリカーボネート樹脂に対する分散性を高めることができる。かつ、各必須成分の配合割合によってガラス組成物の融点を下げることができ、組成の均一化を容易に図ることができる。
【0020】
従って、ガラス組成物は、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、良好かつ安定した品質を示すと共に、ガラス製造装置に対する負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は実施形態における鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図、(b)は鱗片状ガラスを示す平面図。
【図2】鱗片状ガラスの製造装置を模式的に示す断面図。
【図3】チョップドストランドを製造するための紡糸装置を示す説明図。
【図4】図3の紡糸装置で得られたストランド巻体からチョップドストランドを製造するための装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
[ガラス組成物]
本実施形態のガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)を含有している。そして、各成分の含有量は、二酸化珪素50〜60質量%、酸化アルミニウム5〜15質量%、酸化マグネシウム1〜10質量%、酸化カルシウム10〜25質量%、酸化ストロンチウム8〜25質量%及び酸化ジルコニウム1〜7質量%に設定されている。
【0023】
このガラス組成物を構成する各成分について、以下詳細に説明する。
(二酸化珪素)
二酸化ケイ素は、ガラスの骨格を形成する主成分である。本明細書において、主成分とは含有量が最も多い成分であることを意味する。二酸化珪素は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、耐酸性を向上させる成分でもある。二酸化珪素の含有量がガラス組成物中に50質量%以上であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。また、ガラスの耐酸性も向上する。他方、二酸化珪素の含有量が60質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0024】
従って、二酸化珪素の含有量の下限は、50質量%以上であり、52質量%以上が好ましく、53質量%以上がより好ましく、54質量%以上が最も好ましい。二酸化珪素の含有量の上限は、60質量%以下であり、59質量%以下が好ましく、58質量%以下がより好ましく、57質量%以下が最も好ましい。二酸化珪素の含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、二酸化珪素の含有量は50〜58質量%が好ましく、52〜57質量%がより好ましい。
(酸化アルミニウム)
酸化アルミニウムは、ガラスの骨格を形成する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。酸化アルミニウムの含有量がガラス組成物中に5質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整や、耐水性の改善が容易になる。酸化アルミニウムの含有量が15質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。また、ガラスの耐酸性も向上する。
【0025】
従って、酸化アルミニウムの含有量の下限は、5質量%以上であり、7質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、9質量%以上が最も好ましい。酸化アルミニウムの含有量の上限は、15質量%以下であり、13質量%以下が好ましく、12質量%未満がより好ましい。酸化アルミニウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、酸化アルミニウムの含有量は5〜13質量%が好ましく、7〜12質量%がより好ましい。
(酸化マグネシウム)
酸化マグネシウムは、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。酸化マグネシウムの含有量がガラス組成物中に1質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化マグネシウムの含有量が10質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0026】
従って、酸化マグネシウムの含有量の下限は、1質量%以上であり、2質量%以上が好ましい。酸化マグネシウムの含有量の上限は、10質量%であり、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。酸化マグネシウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、酸化マグネシウムの含有量は1〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
(酸化カルシウム)
酸化カルシウムは、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。しかし、好ましい酸化カルシウムの含有量は、酸化ストロンチウムの含有量により異なる。
【0027】
酸化ストロンチウムの含有量が8≦SrO≦15の場合における酸化カルシウムの含有量について説明する。この場合に酸化カルシウムの含有量は、10≦CaO≦25に設定される。酸化カルシウムの含有量が10質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化カルシウムの含有量が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。従って、酸化カルシウムの含有量の下限は、10質量%以上であり、12質量%以上が好ましい。酸化カルシウムの含有量の上限は、25質量%以下であり、22質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下が最も好ましい。酸化カルシウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、酸化カルシウムの含有量は10〜20質量%が好ましく、12〜20質量%がより好ましい。
【0028】
酸化ストロンチウムの含有量が15<SrO≦25の場合における酸化カルシウムの含有量について説明する。この場合に酸化カルシウムの含有量は、10≦CaO≦20に設定される。酸化カルシウムの含有量が10質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化カルシウムの含有量が20質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。従って、酸化カルシウムの含有量の下限は、10質量%以上であり、12質量%以上が好ましく、14質量%以上がより好ましく、15質量%より大きいことが最も好ましい。酸化カルシウムの含有量の上限は、20質量%以下であり、18質量%以下が好ましい。酸化カルシウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、酸化カルシウムの含有量は12〜20質量%が好ましく、14〜18質量%がより好ましい。
(酸化ストロンチウム)
酸化ストロンチウムは、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。係る酸化ストロンチウムの含有量は、8≦SrO≦25すなわち8≦SrO≦15及び15<SrO≦25である。酸化ストロンチウムの含有量が8質量%以上であれば、失透温度、粘度及び屈折率の調整が容易になる。他方、酸化ストロンチウムの含有量が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0029】
従って、酸化ストロンチウムの含有量の下限は、8質量%以上であり、10質量%より大きいことが好ましく、11質量%より大きいことがより好ましく、12質量%以上が最も好ましい。酸化ストロンチウムの含有量の上限は、25質量%以下であり、22質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下が最も好ましい。
(酸化ジルコニウム)
酸化ジルコニウムは、ガラスの屈折率を調整する成分であるとともに、溶融性及び化学的耐久性を向上させる成分である。酸化ジルコニウムの含有量が1質量%以上であれば、屈折率の調整が容易になる。また、失透温度及び粘度の調整も容易になる。酸化ジルコニウムの含有量がガラス組成物中に7質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。また、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0030】
従って、酸化ジルコニウムの含有量の下限は、1質量%以上であり、2質量%以上が好ましい。酸化ジルコニウムの含有量の上限は、7質量%以下であり、6質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。酸化ジルコニウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、酸化ジルコニウムの含有量は1〜6質量%が好ましい。
(三酸化二ホウ素)
三酸化二ホウ素(B)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度及び粘度を調整する成分でもある。三酸化二ホウ素の含有量が10質量%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯や蓄熱窯の炉壁を浸食して窯の寿命を著しく低下させる。従って、三酸化二ホウ素の上限は、10質量%以下が好ましく、5質量%未満がより好ましく、2質量%未満がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
(酸化バリウム)
酸化バリウム(BaO)は、その原料の取扱いに配慮を要すると共に、高価である。従って、酸化バリウムは実質的に含有させないことが好ましい。
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛(ZnO)は、揮発しやすいため、ガラスの溶融時に飛散する可能性がある。従って、酸化亜鉛は実質的に含有させないことが好ましい。
(酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム)
アルカリ金属酸化物〔酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)〕は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。アルカリ金属酸化物は必須ではないが、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計量(LiO+NaO+KO)が2質量%未満であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。その上、失透温度に対して作業温度が高くなり、失透のないガラスを容易に製造できる。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとして配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させることがない。
【0031】
従って、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計量(LiO+NaO+KO)の上限は、2質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
(酸化チタン)
酸化チタン(TiO)は、ガラスの屈折率を調整する成分であるが、ガラスを着色させるため、実質的に含有させない。
(鉄)
通常、ガラス中に含まれる鉄(Fe)は、Fe3+又はFe2+の状態で存在する。Fe3+はガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分であり、Fe2+はガラスの熱線吸収特性を向上させる成分である。鉄は、意図的に含ませなくとも、他の工業用原料から不可避的にガラス組成物に混入する場合がある。鉄の含有量が少なければ、ガラスの着色を防止することができる。このようなガラスをフィラーとして用いることにより、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を損なうことがない。
【0032】
従って、鉄の含有量は小さいほうが好ましく、三二酸化鉄(Fe)に換算して0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
(三酸化硫黄)
三酸化硫黄(SO)は必須成分ではないが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用すると、ガラス組成物中に三酸化硫黄が0.5質量%以下の量で含まれることがある。
(フッ素)
フッ素(F)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があると共に、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。従って、フッ素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0033】
ここで、物質を実質的に含有させないとは、例えば工業用原料から不可避的に混入される場合を除き、当該物質をガラス組成物に意図的に含ませないことを意味する。具体的には、当該物質の含有量がガラス組成物中に0.1質量%未満の含有量であることをいう。この含有量は好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.03質量%未満である。
【0034】
以上のように、ガラス組成物は、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム及び酸化ジルコニウムを必須成分とする。このガラス組成物は、これらの必須成分のみで構成されていてもよく、或いはこれらの必須成分の他に、必要に応じて、三酸化二ホウ素、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)、酸化鉄(FeO、Fe)及び三酸化硫黄が含まれていてもよい。
[ガラス組成物の物性]
次に、ガラス組成物の物性について、以下詳細に説明する。
(溶融特性)
溶融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)のときの温度は、当該ガラスの作業温度と呼ばれ、ガラスの成形に最も適した温度である。鱗片状ガラスやガラス繊維を製造する場合、ガラスの作業温度が1100℃以上であれば、鱗片状ガラスの厚みやガラス繊維径のばらつきを小さくできる。他方、作業温度が1300℃以下であれば、ガラスを溶融する際の燃料費を低減できる。また、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。
【0035】
従って、作業温度の下限は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。作業温度の上限は、1300℃以下が好ましく、1280℃以下がより好ましく、1260℃以下がさらに好ましく、1250℃以下が最も好ましい。作業温度の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、作業温度は1100〜1300℃が好ましく、1100〜1280℃がより好ましく、1150〜1260℃がさらに好ましい。
【0036】
また、作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きくなるほど、ガラス成形時に失透が生じ難くなり、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。従って、ΔTは0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましく、40℃以上が最も好ましい。但し、ΔTを150℃未満とするならば、ガラス組成の調整が容易となるため好ましい。ΔTは120℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましく、100℃以下が最も好ましい。例えば、ΔTは0〜150℃が好ましく、30〜120℃がより好ましく、40〜110℃がさらに好ましい。
【0037】
なお、失透とは、溶融ガラス素地中に生成して成長した結晶により、白濁を生じることをいう。このような溶融ガラス素地から製造したガラス中には、結晶化した塊が存在することがあるので、ポリカーボネート樹脂のフィラーとして用いる場合に好ましくない。
(光学特性)
ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率が等しければ、ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の界面における光の散乱がないため、ポリカーボネート樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物の屈折率は、ポリカーボネート樹脂の屈折率に近いことが好ましい。黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率は、通常1.585程度である。従って、ガラス組成物の屈折率nは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。
【0038】
ガラス組成物とポリカーボネート樹脂の屈折率の差としては、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0039】
また、ガラスフィラーの屈折率は、ポリカーボネート樹脂の屈折率に近いことが好ましい。黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率は、通常1.585程度である。従って、ガラスフィラーの屈折率nは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。
【0040】
ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率の差としては、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
(化学的耐久性)
前記ガラス組成物の組成範囲内であれば、ガラス組成物は耐酸性、耐水性、耐アルカリ性などの化学的耐久性に優れている。従って、そのようなガラス組成物から形成されるガラスフィラーであれば、ポリカーボネート樹脂に好適に配合できる。
[ガラスフィラー]
前記ガラス組成物は例えば鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズなどの所定形態に成形され、ガラスフィラーとして用いられる。
【0041】
図1(a)は、鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図であり、図1(b)はその鱗片状ガラスを示す平面図である。図1(a)及び(b)に示すように、鱗片状ガラス10は、例えば平均厚さtが0.1〜15μm、平均粒子径aが0.2〜15000μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子である。ここで、図1(b)に示すように、鱗片状ガラス10の平均粒子径aは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積Sの平方根(a=S1/2)として定義される。
【0042】
この鱗片状ガラス10は、例えば図2に示した製造装置を用いて製造できる。この図2に示すように、耐火窯槽12で溶融された前記ガラス組成を有するガラス素地11が、ブローノズル13に送り込まれたガスにより風船状に膨らみ、中空状ガラス膜14となる。この中空状ガラス膜14を一対の押圧ロール15で粉砕することにより、鱗片状ガラス10が得られる。
【0043】
前記チョップドストランドは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜1000の寸法を有するガラス繊維である。該チョップドストランドは、例えば図3及び図4に示した装置を用いて製造できる。
【0044】
図3に示すように、前記耐火窯槽12内で溶融された前記ガラス組成を有するガラス素地11が、底部に多数(例えば2400本)のノズルを有するブッシング20から引き出されて、多数のガラスフィラメント21が形成される。該ガラスフィラメント21は、冷却水を吹きかけられた後、バインダアプリケータ22の塗布ローラ23によりバインダ(集束剤)24が塗布される。バインダ24が塗布された多数のガラスフィラメント21は、補強パッド25により、各々が例えば800本程度のガラスフィラメント21からなる3本のストランド26として集束される。各ストランド26は、トラバースフィンガ27で綾振りされつつコレット28に嵌められた円筒チューブ29に巻き取られる。そして、ストランド26が巻き取られた円筒チューブ29をコレット28から外して、ケーキ(ストランド巻体)30が得られる。
【0045】
次に、図4に示すように、クリル31に前記ケーキ30を収容し、そのケーキ30からストランド26を引き出して、集束ガイド32によりストランド束33として束ねる。このストランド束33に、噴霧装置34より水又は処理液を噴霧する。さらに、このストランド束33を切断装置35の回転刃36で切断して、チョップドストランド37が得られる。
【0046】
前記ミルドファイバーは、繊維径が1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜500の寸法を有するガラス繊維である。このようなミルドファイバーは、公知の方法に従って製造できる。
【0047】
ガラス粉末としては、1〜500μmの平均粒子径を有するものがガラスフィラーを形成するために好ましい。ここで、平均粒子径は、ガラス粉末粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラス粉末は、公知の方法に従って製造できる。
【0048】
ガラスビーズとしては、1〜500μmの粒子径を有するものがガラスフィラーを形成するために好ましい。ここで、粒子径は、ガラスビーズ粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラスビーズは、公知の方法に従って製造できる。
[ポリカーボネート樹脂組成物]
前記ガラス組成物から形成されるガラスフィラーはポリカーボネート樹脂に配合されることにより、優れた性能を有するポリカーボネート樹脂組成物として用いられる。ガラス組成物から形成されるガラスフィラーは、ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が小さく、アルカリ成分の溶出が少なく、化学的耐久性に優れている。従って、得られるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と同等の透明性と、ポリカーボネート樹脂よりも優れた機械的強度や耐熱性を兼ね備えている。
【0049】
ポリカーボネート樹脂組成物は、公知の方法に従って製造できる。具体的には、混合機などを用いて加熱しながらポリカーボネート樹脂とガラスフィラーを溶融混練すればよい。前記ポリカーボネート樹脂としては、公知のものを使用できる。前記ガラスフィラーの形態としては、1種類に限らず、複数種のものを組み合わせて配合してもよい。また、ポリカーボネート樹脂組成物の性能を向上させる目的で、必要に応じて各種カップリング剤や添加剤を配合してもよい。溶融混練の温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0050】
このようなポリカーボネート樹脂組成物を成形して成形品とすることにより、電気機器、自動車部品、建築材料などに好適に使用できる。成形は公知の方法に従って行えばよく、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形によるシート成形法などが採用される。なお、成形時の加熱温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
[実施形態による効果のまとめ]
(1) 本実施形態のガラス組成物は、酸化チタンを必須成分としていないためポリカーボネート樹脂に配合されたとき着色を抑えることができると共に、酸化亜鉛を必須成分としていないためガラスの溶融時に飛散を抑えることができ、ガラスの組成変動を抑制することができる。さらに、ガラス組成物は酸化バリウムを必須成分としていないため、ポリカーボネート樹脂に対する分散性を向上させることができる。かつ、各必須成分の配合割合によってガラス組成物の融点を下げることができ、低温にてガラス組成物を調製できると同時に、ガラス組成の均一化を図ることができる。
【0051】
従って、ガラス組成物は、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、良好かつ安定した品質を示すと同時、ガラス製造装置に対する負荷を軽減することができる。
【0052】
(2) ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595であることにより、ポリカーボネート樹脂に配合されたとき、光の散乱が抑制され、ポリカーボネート樹脂の透明性を保持することができる。
【0053】
(3) ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃であることにより、ガラスフィラーを製造したときその厚みや繊維径のばらつきを抑えることができると共に、ガラス製造装置の腐食を抑制し、装置寿命を延長させることができる。
【0054】
(4) ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃であることにより、ガラス成形時に失透が生じ難く、均質なガラスを収率良く製造することができると共に、ガラス組成の調整を容易にすることができる。
【0055】
(5) ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、前述のガラス組成物から容易に形成することができる。具体的には、ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーはガラス組成物を溶融した後、所定形状の形態に加工して成形される。ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーの形態としては、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態が好適に採用される。
【0056】
(6) ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と上記のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを含有するものである。このポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品は、透明性、機械的強度、耐熱性などに優れている。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜30及び比較例1〜10)
表1〜表4に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合して、実施例及び比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。各バッチについて、電気炉を用いて1400〜1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラスを鉄板上に流し出して、電気炉中で室温まで徐冷し、ガラス(ガラス組成物)を得た。
【0058】
このようにして作製したガラスについて、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度の関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に白金球を浸し、その白金球を等速運動で引き上げる際の負荷荷重(抵抗)と、白金球に働く重力や浮力などの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度の関係を示したストークス(Stokes)の法則に当てはめて粘度を測定する方法である。
【0059】
また、粒子径1.0〜2.8mmに粉砕したガラスを白金ボートに入れ、温度勾配(900〜1400℃)のついた電気炉にて2時間加熱し、結晶の出現位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。なお、電気炉内の場所による温度は、予め測定して求めてあり、所定の場所に置かれたガラスは、その温度で加熱される。ΔTは作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
【0060】
さらに、屈折率は、前記のガラス組成物について、プルフリッヒ屈折率計にて、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)の屈折率nを求めた。鱗片状ガラスについては、浸液法により、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)の屈折率nを求めた。
【0061】
これらの測定結果を表1〜表4に示した。なお、表中のガラス組成は、すべて質量%で表示した値である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

実施例1〜30のガラス組成物の作業温度は、1222℃〜1279℃であった。これは、ガラスフィラーを成形する場合に好適な温度である。また、実施例1〜30のガラス組成物のΔT(作業温度−失透温度)は、40℃〜114℃であった。これは、ガラスフィラーの製造工程において、ガラスの失透が生じない温度差である。さらに、実施例1〜30のガラス組成物の屈折率nは、1.577〜1.590であった。
【0066】
一方、比較例1のガラス組成物は、特開2007−153729号公報の実施例9に記載されているガラス組成と同様であり、SrOが含まれておらず、本発明のガラス組成の範囲外である。このガラス組成物のΔTは7℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより小さいことが分かる。比較例2のガラス組成物は、SiO及びAlの含有量が本発明のガラス組成の範囲外であり、このガラス組成物は失透のため均質なガラスが得られなかった。
【0067】
比較例3のガラス組成物は、SiO及びAlの含有量が本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−104℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより極めて小さいことが分かる。比較例4のガラス組成物は、Alの含有量が本発明のガラス組成の範囲外であり、このガラス組成物は失透のため均質なガラスが得られなかった。
【0068】
比較例5のガラス組成物は、MgOが含まれておらず本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−60℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより小さいことが分かる。比較例6のガラス組成物は、MgOの含有量が過剰で本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−79℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより相当に小さいことが分かる。
【0069】
比較例7のガラス組成物は、ZrOが含まれておらず本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−62℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより極めて小さいことが分かる。比較例8のガラス組成物は、ZrOの含有量が過剰で本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−121℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより極めて小さいことが分かる。
【0070】
比較例9のガラス組成物は、SrOの含有量が過少で本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−105℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより極めて小さいことが分かる。比較例10のガラス組成物は、SrOの含有量が過剰で本発明のガラス組成の範囲外である。このため、ガラス組成物のΔTは−38℃であり、実施例1〜30のガラス組成物のΔTより相当に小さいことが分かる。
【0071】
以上のように、実施例1〜30に示す本発明のガラス組成物であれば、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合する場合に適した屈折率を有すると共に、ガラスフィラーの成形に適した溶融特性を有することが分かる。
(実施例31〜60)
実施例1〜30のガラス組成物を電気炉で再溶融し、その後冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図2に示す製造装置に投入して、表5〜表7に示すように平均厚さが0.5〜1μm及び平均粒子径が1〜1000μmである実施例31〜60の鱗片状ガラスを作製し、これらの鱗片状ガラスの屈折率(n)を測定した。それらの測定結果を表5〜表7に示した。鱗片状ガラスの平均厚さは、電子顕微鏡((株)キーエンス、リアルサーフェスビュー顕微鏡、VE−7800)を用い、100粒の鱗片状ガラスの断面から鱗片状ガラスの厚さを測定し、それらを平均して求めた。
【0072】
これらの鱗片状ガラス(ガラスフィラー)を各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製した。
【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

表5〜表7に示した結果より、実施例31〜60の屈折率(n)は1.573〜1.587の範囲であり、ポリカーボネート樹脂の屈折率(nが1.585)に近い値を示した。
(実施例61〜90)
実施例1〜30のガラス組成物を電気炉で再溶融し、その後冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図3及び図4に示す製造装置に投入して、平均繊維径が10〜20μm、長さが3mmの実施例61〜90のチョップドストランド(ガラスフィラー)を作製した。これらのチョップドストランドを、各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製した。
【0076】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 前記二酸化珪素と酸化アルミニウムの合計量の範囲を設定し、ガラスの骨格を良好に維持できるように構成することも可能である。その合計量の範囲として、例えば55〜75質量%が挙げられる。
【0077】
・ 酸化マグネシウムと酸化カルシウムと酸化ストロンチウムの合計量、或いは酸化マグネシウムと酸化カルシウムと酸化ストロンチウムと酸化ジルコニウムの合計量の範囲を設定し、ガラスの失透温度及び粘度を良好に保持できるように構成することも可能である。その合計量の範囲として、例えば19〜60質量%或いは20〜67質量%が挙げられる。
【0078】
・ ガラスフィラーとして、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズの2種以上を適宜組合せて使用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
10…ガラスフィラーとしての鱗片状ガラス、37…ガラスフィラーとしてのチョップドストランド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)を必須成分として含有し、各成分の含有量が質量%で表して、
50≦SiO≦60、
5≦Al≦15、
1≦MgO≦10、
10≦CaO≦25、
8≦SrO≦25、
1≦ZrO≦7
であることを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
質量%で表して、8≦SrO≦15の場合、
10≦CaO≦25、
と設定される請求項1のガラス組成物。
【請求項3】
質量%で表して、15<SrO≦25の場合、
10≦CaO≦20、
と設定される請求項1のガラス組成物。
【請求項4】
前記ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガラス組成物より形成されることを特徴とするポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項8】
前記ガラス組成物を溶融し、所定形態に加工してなる請求項7に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項9】
鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態を有する請求項7又は請求項8に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂と請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−162415(P2011−162415A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28954(P2010−28954)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】