説明

ガラス繊維フィルタの製造方法

【課題】 高温環境下で使用することが可能で、しかも、繊維間の接着剤の粘着性の調整が容易なガラス繊維フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ガラス繊維を交差するように積層し、前記ガラス繊維間に水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を付着させてガラス繊維マットを形成する工程、前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程、前記樹脂を硬化させる工程、及び、前記ガラス繊維マットを伸長してガラス繊維フィルタとする工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維から構成されるガラス繊維マットを使用したガラス繊維フィルタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維を用いたガラス繊維フィルタ等のガラス繊維マットの製造方法として、例えば、特許文献1に開示がなされている。従来の製造方法は、回転ドラムに綾振しながらガラス繊維を巻回し、尿素樹脂やメラミン樹脂等を付着させて繊維間を結着することにより構成されたガラス繊維の積層体を、回転ドラムの軸方向に切り開いて平板状のガラス繊維積層体を形成する。そして、前記尿素樹脂やメラミン樹脂等が粘着性を有する状態で前記積層体を前記軸方向に伸長して厚さ方向に膨らませ(以下、「伸長工程」とする。)、その後、圧縮等を行ってガラス繊維マットとするものである。また、その他に、熱硬化性樹脂(特許文献2)、弾性的ポリエステル樹脂(引用文献3)又はアクリル系若しくはフェノール系等の熱硬化性水性組成物(引用文献4)を使用するものが提案されている。
【0003】
上記ガラス繊維間を接着する樹脂は、溶融ガラスを使用した高温下では、その伸長工程において粘着性を適切に保つことができず、不良品が発生しやすいという問題点があった。例えば、尿素樹脂やメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂の場合、重合反応が開始してしまうと反応を止めることはできず、図1に示すように樹脂の粘着性は急激に変化して粘着性を調整することができない。このため、ガラス繊維積層体を形成してからおおよそ24〜48時間以内に伸長工程を行う必要があった。
また、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂の場合、加熱により粘着性の制御は可能であるが、同樹脂は高温環境下で使用されるエアフィルタの用途には向かないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭41−4833号
【特許文献2】特公昭33−7795号
【特許文献3】特公昭45−10786号
【特許文献4】特開2008−23505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高温環境下で使用することが可能で、しかも、繊維間の接着剤の粘着性の調整が容易なガラス繊維フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究の結果、下記の解決手段を見いだした。
本発明のガラス繊維フィルタの製造方法は、請求項1に記載の通り、ガラス繊維を交差するように積層し、前記ガラス繊維間に水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を付着させてガラス繊維マットを形成する工程、前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程、前記ガラス繊維マットを伸長させる工程、及び、前記樹脂を効果してガラス繊維フィルタとする工程を有することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のガラス繊維フィルタの製造方法において、前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程は、大気下における前記樹脂の乾燥工程と、前記樹脂に水分を調整する水分調整工程とから構成されることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載のガラス繊維フィルタの製造方法において、前記乾燥工程は、温度20〜60℃及び相対湿度30〜80%で、大気圧下で1〜24時間おく工程であることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のガラス繊維フィルタの製造方法において、前記ガラス繊維マットを形成する工程は、ガラス繊維を回転ドラムに巻回しながら前記樹脂を付着させ、前記回転ドラムに巻回されたガラス繊維の積層体を前記回転ドラムの軸方向に切り開いて前記ガラス繊維マットを形成する工程であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載のガラス繊維フィルタの製造方法において、前記ガラス繊維マットを伸長させる工程は、前記ガラス繊維を前記ドラムの軸方向に伸長する工程であることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載のガラス繊維フィルタの製造方法において、前記ガラス繊維マットを形成する工程において、前記水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂の濃度を20〜70%とし、前記ガラス繊維マットに対して付着率(固形分換算)を10〜40%とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガラス繊維間の接着剤として水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を使用して、この樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下にガラス繊維マットをおく工程を設けることにより、ガラス繊維間の結着するまでの時間を、同樹脂の水分又は溶媒量を調整することにより任意に設定することができる。このため、樹脂付着後に、ガラス繊維マットに余熱が残っていたとしても、早期に硬化させずに水分調整を行うことにより、後に続く工程を急いで行う必要がなく、円滑な作業工程を確保することができる。また、ガラス繊維マットを形成する工程のみを行った後、異なる場所に輸送してからでもガラス繊維フィルタを作製することが可能となる。
また、水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を用いることより、水分が存在する間は重合反応が起らないため、繊維交点でずれないように適切な粘着性を保つことができる。また、伸長工程前に硬化をすることで、樹脂を支点に繊維の移動が可能となるため繊維が破断することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来の熱硬化樹脂の粘着性変化を示す説明図
【図2】本発明の一実施の形態の熱硬化樹脂の粘着性変化を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態は、
(a)Eガラス、Cガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス繊維を交差するように積層し、前記ガラス繊維間にアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、尿素系、メラミン系、フェノール系等の水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を付着させてガラス繊維マットを形成する工程
(b)前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程
(c)前記ガラス繊維マットを伸長させる工程、及び、
(d)前記樹脂を硬化してガラス繊維フィルタとする工程
を有するものである。
尚、水溶性又は溶媒溶解性型の樹脂は乾燥して固形分濃度が増大していくにつれて粘着性は徐々に上がるのに比べて、エマルジョン型の樹脂は、乾燥の初期ではあまり粘度は変化せず、終期で急激に変化しるため粘着性の制御が難しく、しかも、粘度が小さくガラス繊維マットに付着しにくいので好ましくない。
【0010】
工程(a)、工程(c)及び工程(d)に関しては、特許文献1等に開示された公知の方法を使用することができる。例えば、工程(a)は、ガラス繊維を回転ドラムに巻回しながら前記樹脂を付着させ、前記回転ドラムに巻回されたガラス繊維の積層体を前記回転ドラムの軸方向に切り開いて前記ガラス繊維マットを形成する工程となる。
工程(a)において形成されるガラス繊維マットの形状等は特に制限はないが、通常は、平均繊維径10〜30μmのガラス長繊維から構成される。
【0011】
工程(b)は、前記ガラス繊維マットを前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気におくものである。具体例を挙げるとすると、樹脂を硬化しないように乾燥させる工程となる。本発明では、前記樹脂として、水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を使用する。同樹脂の水分又は溶媒量を調整することによりガラス繊維マットを構成するガラス繊維間の結着の時間を任意に調整できるからである。また、同樹脂の粘着性を調整することにより、硬化時に結着部位がずれることなくガラス繊維の破断を防ぐことができる。尚、同樹脂の反応開始温度は100℃以上のものであることが好ましい。
また、同樹脂をガラス繊維に付着させる方法としては、特に制限するものではないが、例えば、噴霧、塗布、浸漬等する方法を挙げることができる。
また、前記樹脂の濃度についても、硬化後にガラス繊維間を結着し、工程(c)の際に結着部位が支点となってガラス繊維間の関係を維持した状態で伸長できるものであれば特に制限するものではない。一例を挙げると、その濃度を20〜70%とし、ガラス繊維の全重量(g)に対する付着量(g)を固形分付着率とし、10〜30%とすることが好ましい。
【0012】
工程(b)の条件は、後の工程において、ガラス繊維間を結着させることができる程度に、ガラス繊維マット全体で水分又は溶媒量を均一にする必要があり、温度20〜60℃及び相対湿度30〜80%で、大気圧下で1〜24時間程度とすることが好ましい。これにより、図2に示すように、ガラス繊維マットが適度な粘着性を有する伸長領域に到達した時点で乾燥工程を停止すれば、前記樹脂の反応開始温度以下なので重合反応が起こらず、粘着性を一定に保つことができ、結着部位が支点となってガラス繊維間の関係を維持した状態で工程(c)を行うことが可能となる。従って、乾燥を防ぐことが可能な適切な保管状態であれば、数日〜数ヶ月の間粘着性はほぼ変化することなく、長期の保管が可能となる。
また、保管により粘着性が伸長可能領域を超えたとしても、加湿等の水分を付与することで粘着性を伸長可能領域にすることができる
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
[実施例1]
軸方向の長さ1800mm、直径1500mmの回転ドラムを145rpmで回転させ、直径約4mmのノズルから1300℃で溶融させたガラス繊維を綾振幅50mmで巻回し、その際に、55%に調製された水溶性熱硬化型アクリル樹脂(製品名 A−600、ロームアンドハース社製)を噴霧してガラス繊維に対して均一に塗布するようにした。巻回されたガラス繊維積層体を前記回転ドラムの軸方向に切り開いて長さ1200mm、幅4700mmのガラス繊維マットを得た。
その後、ガラス繊維マットを30℃、相対湿度50%の乾燥室で24時間乾燥後、常温で保管した後、前記軸方向に伸長して、温度230℃で樹脂を加熱硬化し、厚さ18mm、長さ40000mm、幅1600mmの樹脂付着率20%、密度5.8kg/mのガラス繊維フィルタを得た。このときの伸長可能期間は3ヶ月以上であった。尚、同フィルタの初期圧力損失は20Pa、捕集効率は81%であった。
【0014】
[比較例1]
水溶性熱硬化型アクリル樹脂に代えて、尿素メラミン樹脂(製品名 PUM−10、昭和高分子社製)を使用した以外は実施例1と同様にした。このときの伸長可能期間は約20hであった。得られたガラス繊維フィルタは、厚さ15mm、長さ40000mm、幅1600mmであり、樹脂付着率30%、密度8.4kg/mであった。尚、同フィルタの初期圧力損失は23Pa、捕集効率は83%であった。
【0015】
尚、上記フィルタ特性については、捕集効率、圧力損失をJIS B 9908(換気用エアフィルタ、電気集じん機の性能試験方法)の形式1(計数法)を適用して試験した。
【0016】
上記実施例1は、水溶性熱硬化型アクリル樹脂を用いているため、常温では反応が開始せず、水分調整を行うことが容易であったため、常温保管を3ヶ月以上した後でも伸長してガラス繊維フィルタを得ることができた。また、3ヶ月保管したガラス繊維マットから得られたガラス繊維フィルタは、圧力損失及び捕集効率も目標値(初期圧力損失30Pa以下、捕集効率60%以上)を満たしていた。
一方、比較例1は、尿素メラミン樹脂の反応開始温度が30〜70℃であるため、水の蒸発とともに重合が開始され、一度反応が開始されると逐次進行するため2日以上保管したものは伸長してガラス繊維フィルタを得ることができなかった。尚、24時間保管してガラス繊維フィルタとしたものは、圧力損失及び捕集効率の性能は目標値を満たしていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を交差するように積層し、前記ガラス繊維間に水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂を付着させてガラス繊維マットを形成する工程、前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程、前記ガラス繊維マットを伸長させる工程、及び、前記樹脂を効果してガラス繊維フィルタとする工程を有することを特徴とするガラス繊維フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂の反応開始温度以下の雰囲気下に前記ガラス繊維マットをおく工程は、大気下における前記樹脂の乾燥工程と、前記樹脂に水分を調整する水分調整工程とから構成されることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、温度20〜60℃及び相対湿度30〜80%で、大気圧下で1〜24時間おく工程であることを特徴とする請求項2に記載のガラス繊維フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス繊維マットを形成する工程は、ガラス繊維を回転ドラムに巻回しながら前記樹脂を付着させ、前記回転ドラムに巻回されたガラス繊維の積層体を前記回転ドラムの軸方向に切り開いて前記ガラス繊維マットを形成する工程であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のガラス繊維フィルタの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維マットを伸長させる工程は、前記ガラス繊維を前記ドラムの軸方向に伸長する工程であることを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス繊維マットを形成する工程において、前記水溶性又は溶媒溶解性で、かつ熱硬化型樹脂の濃度を20〜70%とし、前記ガラス繊維マットに対して付着率(固形分換算)を10〜40%とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のガラス繊維フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−92842(P2011−92842A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248181(P2009−248181)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】