説明

ガラス融液ハンドリング装置及び方法

【課題】槽寿命を延ばし、槽のライフサイクル中のガラス融液品質を向上させる。
【解決手段】第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、ガラス融液を形成及び/または保持するための槽において、第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれが、(A)厚さTH1を有し、(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、前記ガラス融液に面する前部無電極表面、(A2)後部無電極表面、及び(A3)第1の耐火材料を有する無電極部分と、(B)厚さTH2を有し、(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、ガラス融液に面する前部電極表面、(B2)後部電極表面を有する、後部電極部分、及び(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料を有する少なくとも1つの電極と、少なくとも1つの電極を無電極部分に対して槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、電極推進機構と、を備える。0.01≦HT2/HT1<1.00である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス融液ハンドリング装置及び方法に関し、特に、ガラス材を溶融させるために電極を用いる電気ガラス溶融炉及び対応する溶融方法に関する。本発明は、例えば、LCDディスプレイ用ガラス基板のような、デバイスの光学コンポーネント及び/または電気コンポーネントに用いるに適する光学ガラス材の溶融に、有用である。
【背景技術】
【0002】
ガラス材は、カメラ及びプロジェクターのレンズ及びフィルタ、陰極線管、プラズマディスプレイ、ランプエンベロープ、並びにLCDTFT及びカラーフィルタの基板のような、光学デバイス及び光電デバイスに広く用いられている。これらの用途の多くに、特にLCDTFT及びカラーフィルタの基板においては、極めて一様な化学組成及び物理特性を有することがガラス材に要求される。ガラスシートの、気泡、たてすじ及び脈理、ストーン、白金混入、等のような、不均一性は、スクリーン上に表示される画像の望ましくない歪を生じさせ得る。
【0003】
上述したような用途に要求される高品質ガラス材を作製するためには、所望の化学組成を有する実質的に一様なガラス融液を得るに十分に原材料及びカレットが溶融され、続いて気泡除去及び撹拌を受けてから成形装置に送られる、特別なガラス溶融炉が望ましい。LCDTFT及びカラーフィルタの基板として用いられるガラス基板の場合、成形装置はフロート成形プロセスではスズ浴とすることができ、オーバーフローフュージョンダウンドロープロセスではアイソパイプとすることができる。米国ニューヨーク州コーニングにあるコーニング社(Corning Incorporated)は、オーバーフローフュージョンダウンドロープロセスを用いることによる、表面が精密で清純なLCDガラス基板の作製を専門にしている。
【0004】
ガラス溶融炉は、ガラス材の十分な溶融を可能にするため、非常に高い温度で動作する。LCD基板に一般に用いられる無アルカリホウケイ酸ガラスに対し、溶融温度は1500℃以上もの高温になり得る。そのような高温において、ガラス融液は炉の構築に用いられる耐火材料に対してさえも、極めて腐食性が高い。過酷な動作条件により、耐火材料の望ましくない分解がおこり、したがってガラス融液への分解物の取込みがおこり、溶融炉の推定稼働寿命の短縮がおこり得る。
【0005】
従来の溶融炉は、炉をガラス融液が得られる高動作温度にするに必要なエネルギーの少なくとも一部を供給するため、天然ガス等のような、燃料の燃焼炎を用いる。燃焼燃料を増強するため、ガラス融液に直接に接触する耐火電極によって供給される電流をガラス融液に通すことで実施されるジュール加熱をさらに用いることができる。白金及びその合金、モリブデン、SnOセラミック材料、黒鉛等のような、様々な導電性高温金属材料が電気ガラス溶融炉の電気材料として開示されている。電極は、炉の側壁または底壁を通してガラス融液に挿入できるであろう。しかし、これらの従来の電気増強溶融炉には必ず、1つのまたは別の欠点、とくに短い推定稼働寿命の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、改善されたガラス溶融炉が必要とされている。本発明の課題は、上記及びその他の要求を満たす、改善されたガラス溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のいくつかの態様が本明細書に開示される。これらの態様が相互に重複することもしないこともあり得ることは当然である。すなわち、1つの態様の一部が他の態様の範囲内に入り得るし、逆も同様である。
【0008】
それぞれの態様は、1つ以上の特定の態様を含み得る、多くの実施形態によって説明される。実施形態が相互に重複することもしないこともあり得ることは当然である。すなわち1つの実施形態の一部、またはその特定の実施形態が別の実施形態の範囲内に、またはその特定の実施形態に、入り得るし、逆も同様である。
【0009】
本開示の第1の態様は、第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、ガラス融液ハンドリングのための槽であって、
第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれが、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、ガラス融液に面している前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面、及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、ガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む後部電極部分、及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
−0.01≦HT2/HT1<1.00であり、
−少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
−少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液に実質的に耐え得る、実質的に連続な壁を形成する、
及び
少なくとも1つの電極を無電極部分に対して槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、電極推進機構、
を備える、
槽に関する。
【0010】
本開示の第1の態様にしたがう槽の、
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦1.00,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.90,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.80,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.70,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.60,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.50,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.40,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.30,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.20,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.10,
である。
【0011】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、槽はガラス溶融炉である。
【0012】
本開示の第1の態様にしたがう槽の、
いくつかの実施形態において、0.30≦HT2/HT1<1.00,
いくつかの実施形態において、0.50≦HT2/HT1<1.00,
いくつかの別の実施形態において、0.70≦HT2/HT1<1.00,
である。
【0013】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの電極は、連続モノリシック電極体を形成するための複数の電極材料ブロックのスタックからなる。
【0014】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、複数の電極材料ブロックは少なくとも2つのセグメントを形成し、それぞれのセグメントは、それぞれのセグメントを、個々独立に槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、個々独立の電極推進機構に連結される。
【0015】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部と直接または間接に連結された、外部推進力を電極後部にそれによってかけることができる、ロッドを備える。
【0016】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は、電極の水平傾角及び垂直傾角の内の少なくとも一方が制御及び調節可能であるように、複数の位置で電極後部と直接または間接に連結された、外部推進力を電極後部にそれらによってかけることができる、複数本のロッドを備える。
【0017】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部に直接または間接に連結された加力装置を断続的または連続的に駆動するように適合された自動化モーターを備える。
【0018】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は外部固定具及び電極後部に連結された可調ロッドを備え、可調ロッドの調節の結果、電極が推進されることになる。
【0019】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極は、白金及びその合金、モリブデン及びその合金、黒鉛、酸化スズセラミック並びにこれらの混合物及び組合せの内の少なくとも1つを含む。
【0020】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、第1の耐火材料は、アルミナ、酸化クロム、マグネシア、シリカ、ジルコン、ジルコニア並びにこれらの混合物及び組合せから選ばれる。
【0021】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部電極表面は前部無電極表面に対して共面に維持されるかまたは引き込まれたままであって、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD1であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D1≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦9.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦6.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦2.5cm,
である。
【0022】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部無電極表面は前部電極表面に対して引き下げられたままであって、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD2であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D2≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦19.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦2.5cm,
である。
【0023】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分は外部固定具に連結された拘束機構によって安定化される。
【0024】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、後部電極表面の少なくとも一部が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結される。
【0025】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、実質的に全後部電極表面が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結される。
【0026】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、後部電極表面の少なくとも一部が電源リードに接続される。
【0027】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットが電源リードに接続される。
【0028】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットは電極推進機構に連結される。
【0029】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分は複数の、第1の耐火材料を含む、れんがを有し、複数のれんがの少なくとも一部は外部固定具に連結されることで安定化される。
【0030】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極材料及び無電極部分材料は、製造キャンペインの間に、無電極部分がWR1のレートで減耗し、電極がWR2のレートで減耗して、WR1/WR2<1.0であるように、選ばれる。
【0031】
本開示の第1の態様にしたがう槽の、
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦0.5,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦1/3,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/4,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/6,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/8,
である、
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分から離脱した第1の耐火材料の150μm粒子が最終ガラス製品内の混入物になる確率は少なくとも5%であり、いくつかの実施形態では少なくとも10%、いくつかの別の実施形態では少なくとも20%である。
【0032】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分の底は底壁の上面よりも、無電極部分の底部分が底壁上面によって安定化されるように、低い。
【0033】
本開示の第2の態様は、第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、ガラス融液ハンドリングのための槽であって、
(A)第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれが、厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、ガラス融液に面している前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面,及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、ガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む電極後部,及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
を備え、
0.01≦HT2/HT1<1.00であり、
少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液を実質的に通さない実質的に連続な壁を形成し、
少なくとも1つの電極は、連続モノリシック電極体を形成するために複数の電極材料ブロックのスタックからなる、
槽に関する。
【0034】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、TH1/TH2≦1.00である。
【0035】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、槽はガラス溶融炉である。
【0036】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、槽は少なくとも1つの電極を無電極部分に対して槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された電極推進機構をさらに備える。
【0037】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、複数の電極材料ブロックは少なくとも2つのセグメントを形成し、それぞれのセグメントは、それぞれのセグメントを、個々独立に炉の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、個々独立の電極推進機構に連結される。
【0038】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部と直接または間接に連結された、外部推進力を電極後部にそれによってかけることができる、ロッドを備える。
【0039】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は、電極の水平傾角及び垂直傾角の内の少なくとも一方が制御及び調節可能であるように、後部電極の複数の側面と直接または間接に連結された、外部推進力を複数の側面にそれらによってかけることができる、複数本のロッドを備える。
【0040】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部に直接または間接に連結された加力装置を断続的または連続的に駆動するように適合された自動化モーターを備える。
【0041】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極推進機構は外部固定具及び電極後部に連結された可回転ねじを備え、ねじの回転の結果、電極が推進される。
【0042】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極は、白金及びその合金、モリブデン及びその合金、黒鉛、酸化スズセラミック並びにこれらの混合物及び組合せの内の少なくとも1つを含む。
【0043】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、第1の耐火材料は、アルミナ、酸化クロム、マグネシア、シリカ、ジルコン、ジルコニア並びにこれらの混合物及び組合せから選ばれる。
【0044】
本開示の第2の態様にしたがう槽の、
いくつかの実施形態において、0.10≦TH1/TH2<1.00,
いくつかの実施形態において、0.20≦TH1/TH2<1.00,
いくつかの実施形態において、0.0≦TH1/TH2≦0.80,
いくつかの実施形態において、0.30≦TH1/TH2<0.70,
いくつかの実施形態において、0.40≦TH1/TH2<0.60,
である。
【0045】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部電極表面は前部無電極表面に対して共面に維持されるかまたは引き込まれたままであって、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD1であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D1≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦9.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦8.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦7.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦6.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦2.5cm,
である。
【0046】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部無電極表面は前部電極表面に対して引き下げられたままであって、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD2であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D2≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦19.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦2.5cm,
である。
【0047】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分は外部固定具に連結された拘束機構によって安定化される。
【0048】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、後部電極表面の少なくとも一部が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結される。
【0049】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、実質的に全後部電極表面が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結される。
【0050】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、後部電極表面の少なくとも一部が電源リードに接続される。
【0051】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットが電源リードに接続される。
【0052】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットは電極推進機構に連結される。
【0053】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分は複数の、第1の耐火材料を含む、れんがを有し、複数のれんがの少なくとも一部は外部固定具に連結されることで安定化される。
【0054】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、電極材料及び無電極部分材料は、製造キャンペインの間に、無電極部分がWR1のレートで減耗し、電極がWR2のレートで減耗し、ここでWR1/WR2<1.0である。
【0055】
本開示の第2の態様にしたがう槽の、
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦0.5,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦1/3,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/4,
である。
【0056】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分から離脱した第1の耐火材料の10μm粒子が最終ガラス製品内の混入物になる確率は少なくとも5%であり、いくつかの別の実施形態では少なくとも8%、いくつかの実施形態では少なくとも10%、いくつかの別の実施形態では少なくとも20%である。
【0057】
本開示の第2の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分の底は底壁の上面よりも、無電極部分の底部分が底壁上面によってある程度は安定化されるように、低い。
【0058】
本開示の第3の態様は、ガラス融液ハンドリングのための方法であって、
(I)第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える炉を提供する工程、
−第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれは、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有するガラス融液に面している前部無電極部分表面、
(A2)後部無電極部分表面,及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有するガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む後部電極部分,及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
を備え、
−少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
−少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液を実質的に通さない実質的に連続な壁を形成し、
0.01≦HT2/HT1<1.00
であり、
−炉は少なくとも1つの電極を無電極部分に対して炉の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された電極推進機構をさらに備える、
及び
(II)製造キャンペインの間、電極の前部表面の減耗に適応するため、電極を炉の中心に向けて推進する工程、
を含む方法に関する。
【0059】
本開示の第3の態様にしたがう方法の、
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦1.00,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.90,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.80,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.70,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.60,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.50,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.40,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.30,
である。
【0060】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、炉はガラス溶融炉である。
【0061】
本開示の第3の態様にしたがう方法の、
いくつかの実施形態において、0.30≦HT2/HT1<1.00,
いくつかの実施形態において、0.50≦HT2/HT1<1.00,
いくつかの別の実施形態において、0.70≦HT2/HT1<1.00,
である。
【0062】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの電極は、連続モノリシック電極体を形成するための複数の電極材料ブロックのスタックからなる。
【0063】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、複数の電極材料ブロックは少なくとも2つのセグメントを形成し、それぞれのセグメントは、それぞれのセグメントを、個々独立に炉の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、個々独立の電極推進機構に連結される。
【0064】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部と直接または間接に連結された、外部推進力を電極後部にそれによってかけることができる、ロッドを備える。
【0065】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、電極推進機構は、電極の水平傾角及び垂直傾角の内の少なくとも一方が制御及び調節可能であるように、複数の位置で電極後部と直接または間接に連結された、工程(II)において外部推進力を電極後部にそれらによってかけることができる、複数本のロッドを備える。
【0066】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、電極推進機構は電極後部に直接または間接に連結された加力装置を断続的または連続的に駆動するように適合された自動化モーターを備え、モーターは、工程(II)において、モーターが加力装置を駆動し、よって電極を推進するように、断続的または連続的に作動される。
【0067】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、電極推進機構は、調節可能な長さを有する、外部固定具と電極後部に連結されたロッドを有し、工程(II)は外部固定具と電極後部の間の長さを調節し、よって電極を推進する工程を含む。
【0068】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、工程(II)において、電極は前部電極表面が前部無電極表面に対して共面に維持されるかまたは引き込まれるように推進され、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD1であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D1≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦9.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦8.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦7.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦6.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦2.5cm,
である。
【0069】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、工程(II)において、電極は前部無電極表面が前部電極表面に対して引き下げられたままであるように推進され、前部電極表面から前部無電極表面までの距離はD2であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D2≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦19.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦2.5cm,
である。
【0070】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、無電極部分は、工程(II)において、外部固定具に連結された拘束機構によって安定化される。
【0071】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、後部電極表面の少なくとも一部が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結され、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットによって冷却される。
【0072】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、水冷ジャケットまたは空冷ジャケットは電極推進機構に連結される。
【0073】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの間に、無電極部分がWR1のレートで減耗し、電極がWR2のレートで減耗し、ここでWR1/WR2<1.0である。
【0074】
本開示の第3の態様にしたがう方法の、
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦0.5,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦1/3,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦0.5,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦1/3,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/4,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/8,
である。
【0075】
本開示の第3の態様にしたがう方法のいくつかの実施形態において、無電極部分の材料は、無電極部分から離脱した第1の耐火材料の10μm粒子が最終ガラス製品内の混入物になる確率が少なくとも5%であり、いくつかの実施形態では少なくとも8%、いくつかの実施形態では少なくとも10%、いくつかの別の実施形態では少なくとも20%であるように、選ばれる。
【0076】
本開示の1つ以上の実施形態は以下のような利点の1つ以上を有する。第1に、消耗した電極材料を補償するために電極を推進することで槽の寿命を延ばすことができ、よってガラス溶融炉は同じ炉で作製される製品の単位当たりコストを極めて大きく、効率的に低減する。第2に、大寸モノリシック電極ブロックを使用することにより、複数の小寸電極の使用に比較して、電極と無電極部分に耐火材料の間の界面面積を小さくし、側壁から離脱してガラス融液内に入る無電極部分の耐火材料の量を有効に減らすことができ、よって槽の耐火材料が原因になる、脈理、たてすじ及び混入物を低減することができる。第3に、大面積モノリシック電極の使用により、電極を通過する電流密度を低めて電極の温度を有効に下げることができ、よって電極寿命を延ばし、隣接する無電極部分耐火材料の浸蝕を低減することができる。第4に、推進可能電極により、前部電極表面を最適位置に配置してガラス融液内部の最適電流密度を維持することが可能になり、よって、より良好な温度勾配、より良好な混合及び溶解、したがってより高い溶融ガラス材の品質を得ることが可能になる。第5に、スタック化された複数の小寸電極ブロックで作製された大寸モノリシック電極の使用により、単一体大寸モノリシック電極ほどの禁止的コストをかけずに、大寸電極の恩恵が得られる。第6に、複数のブロックからなるスタック電極の使用により、個々独立に推進可能な電極部分のセグメント化が可能になり、大寸電極ブロックの構成、保守及び推進が経済的に可能になる。最後に、本発明は、無電極部分耐火材料より減耗レートがかなり高い電極を備える炉、例えば溶融ジルコニアれんがで構成され、側壁SnO電極をもつ、ガラス溶融槽に対して特に有利である。
【0077】
本発明のさらなる特徴及び利点は以下の詳細な説明に述べられ、ある程度は、当業者にはその説明から容易に明らかであろうし、記述及び添付される特許請求の範囲に、また添付図面にも、説明されるように本発明を実施することによって認められるであろう。
【0078】
上述の全般的説明及び以下の詳細な説明が本発明の例示に過ぎず、特許請求されるような本発明の本質及び特質を理解するための概要または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。
【0079】
添付図面は本発明のさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み入れられて、本明細書の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、無電極部分耐火壁に埋め込まれた電極のアレイを備える、本開示の一実施形態にしたがうガラス融液ハンドリング槽の側壁の前面の簡略な図である。
【図2】図2は、無電極部分耐火壁に埋め込まれた大モノリシック電極のアレイを備える、本開示の別の実施形態にしたがうガラス融液ハンドリング槽の側壁の前面の簡略な図である。
【図3】図3は、電極ブロックのスタックで形成された大モノリシック電極を備える、本開示の別の実施形態にしたがうガラス融液ハンドリング槽の一部の断面の簡略な図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下の詳細な説明においては、限定ではなく例示の目的のため、特定の詳細を開示する実施形態例が本発明の完全な理解を提供するために述べられる。しかし、本開示の恩恵を有する当業者には、本発明が本明細書に開示される特定の詳細にとらわれない別の実施形態で実施され得ることが明らかであろう。さらに、周知のデバイス、方法及び材料の説明は本発明の記述が曖昧にならないように省略される。最後に、可能であれば必ず、同様の参照数字は同様の要素を指す。
【0082】
ガラス品は一般に、初めに原材料及び/またはカレットを、原材料が反応して流動ガラス融液を形成する高温に原材料を加熱する、溶融槽内で溶融させることによって作製される。ガラス融液は次いで、気泡を除去するための清澄化工程、撹拌のような均一化工程のような状態調整工程にかけられ、次いで、フロートプロセスにおけるスズ浴、フュージョンダウンドロープロセスにおけるアイソパイプ、スロットダウンドロープロセスにおけるスリット付コンテナ、成形またはプレス成形プロセスにおける金型、または圧延プロセスにおけるローラーのような、成形装置に送られ、成形装置において、比較的低粘度のガラス融液が、ガラスシート、ガラスランプエンベロープ、CRTガラスエンベロープ、ニアネットシェイプ光学レンズ、チューブ、等のような、所望の形状及び寸法を有する製品に形成される。
【0083】
カメラレンズ、LCDディスプレイまたはプロジェクターディスプレイのような光学用途または光電用途に用いるためのガラス品が作製される場合、そのようなガラス品には一般に非常に高い組成品質及び光学品質が要求される。すなわち、気泡、混入物、脈理、たてすじ、等として表れる組成異常は極めて低レベルでしか許容されない。ガラス作製及びハンドリングプロセスにおけるそのような欠陥の原因は厳密に特定され、低減され、理想的には排除される。
【0084】
ガラス作製プロセスは、ガラス融液に直接に接触する処理装置を構成するために耐火材料を必要とする、高温作業である。そのような耐火材料は、耐火セラミック、耐火金属またはこれらの組合せとすることができる。例えば、白金及びその合金は、耐火性であり、高温においてもガラス融液に対して耐腐食性であることから、溶融温度が高い高品質ガラスを作製するためのガラス融液送配系の内張材料として用いられることが多い。それにもかかわらず、高コストの故に、可能であればPt及び合金の代替材料が用いられる。
【0085】
例えば、少なくとも1つの側壁、底壁及び、必要に応じて、頂冠を備える、代表的なガラス溶融槽に対し、ガラス融液に直接に接触する側壁及び底壁は、また頂冠も、通常は、アルミナ、マグネシア、石英、ジルコニア、ジルコン、酸化クロム並びにこれらの組合せ及び混合物のような、耐火セラミックれんがで作られる。これらのセラミックれんがは、高温炉に対して、様々なレベルの、高温耐火性、耐腐食性並びに機械的な頑健性及び結合性を提供する。
【0086】
ガラス溶融/送配系のガラス融液と接触している耐火壁材料が最終ガラス品内の組成異常の原因になり得ることが知られている。例えば、稼働中に耐火材料の粒子が壁から離脱して、ガラス融液に取り込まれ得る。耐火材料粒子が完全に溶融して実施的に均一に最終ガラス製品内に分布していれば、欠陥は検出不能になり得る。他方で、粒子が溶融しなければ、粒子は、周囲のガラスマトリクスと実質的に異なる光学特性をもつ混入物としてその存在を表し得る。撹拌のようなガラス均一化工程の後にしか粒子が完全に溶解しなければ、局所的な組成及び特性の非一様性で示される脈理ができるであろう。
【0087】
ガラス溶融/送配系の熱プロファイル及びガラス融液と耐火材料の間の反応及び耐火材料の機械的磨耗は、とりわけ、耐火材料の減耗の決定にかかわる。ある特定のタイプの耐火材料は与えられたガラス材に対して別の耐火材料より耐腐食性が高いであろう。同じ耐火材料が、別の場所より高温のある場所においてはより重大な減耗を受けるであろう。耐火材料の領域が異なれば、異なるレベル及びパターンのガラス融液対流に、また異なる度合いの固体粒子磨耗に、さらされ得るであろう。
【0088】
多くのガラス溶融炉には、上述したように、溶融を容易にするためにジュール加熱を提供するための電極が備えられる。電極は側壁または底壁を通して設けることができる。大電流が流れることから、電極は周囲の耐火材料より高温になる傾向がある。このため、周囲の耐火材料が加熱されて、隣接領域の過剰な減耗が生じるであろう。電極が側壁を通して挿入されている炉においては、電流によるガラス融液の加熱の結果、ガラス融液の上方に向かう対流が生じ、直上の耐火材料は下の材料より強い減耗を受ける。電極材料及び耐火材料に依存して、電極と周囲の壁は異なるレートで減耗し得る。本発明の発明者等は、例えば、ジルコニアれんがで構築された壁及びSnOセラミック材料で構成された側壁電極を備えるガラス溶融炉の場合、無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスが炉内で溶融されると、電極はZrO側壁耐火材料よりも高いレートで減耗する傾向があることを見いだした。したがって、一定の長さしかない静置電極が炉に装着されると、与えられた時間が過ぎた後、電極の表面は、電極がガラス融液を炉から流出させないでおくことができないほど大きく、隣接するジルコニアれんがの外部表面近くまで後退するであろう。これがおこりそうになると、新しい電極が装着されなければならず、電源遮断、生産運転停止、さらには既存の槽の取り外しまでが必要になり、これらは組み合わさって、かなりなコストに達し得る。
【0089】
本開示は上記問題の1つ以上に対処する。
【0090】
すなわち、本開示の第1の態様は、
第1の側壁、第2の側壁及び底壁、
を備え、
第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれが、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、ガラス融液に面している前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面,及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、ガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む後部電極部分,及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
−0.01≦HT2/HT1<1.00であり、
−少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
−少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液を実質的に通さない実質的に連続な壁を形成する、
及び
少なくとも1つの電極を無電極部分に対して槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、電極推進機構、
を備える、
ガラス融液ハンドリングのための槽に向けられる。
【0091】
槽は、例えば、ガラス溶融炉、清澄化装置のようなガラス状態調整槽、高温配送パイプ、撹拌室、またはこれらの組合せ、あるいはガラス融液の加熱が必要なその他のいずれかの装置とすることができる。したがって、「ガラス融液ハンドリング」には、とりわけ、溶融、清澄化、状態調整、保持、撹拌、化学反応可能化、ガスのバブリング、冷却、加熱、成形、保持及び流動が含まれる。この態様の特に有益な実施形態は、ガラス原材料、カレット等が加熱され、反応し、混合される、溶融炉である。電極から供給され、ガラス融液を通る、電流によって与えられるジュール加熱に加えて、ガラス融液及び/またはその原材料に、ガラス融液の表面上方の燃焼炎、側壁及び/または底壁の内の1つ以上を加熱する外部加熱源、あるいは、例えば耐火壁の少なくとも一部が白金またはその合金のような耐火金属で構成されている場合の、耐火壁を通る電流のような、その他の熱エネルギー源をさらに与えることができる。そのような白金壁を通る電流によって直接加熱される白金システムは直接電気加熱白金システムと呼ばれることがある。
【0092】
槽は、少なくとも、第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、壁は合わせて、ガラス融液のような液体をこぼさずに保持することができる内部空間を定める。内部空間は、円筒形、変形円筒形、立方体形、直方体形、台形体形、円錐体形、截頭円錐体形またはこれらの組合せのような、様々な形状をとることができる。第1の側壁及び第2の側壁は、対向関係にある、立方体または直方体の2つの側壁、または円筒形槽の連続円筒壁の2つの対向部分とすることができる。いずれの側壁も、いくつかの実施形態において有利な態様でガラス融液に耐え得る連続壁を合わせて形成する、少なくとも1つの電極及び無電極部分を有する。無電極部分は第1の耐火材料からなり、電極は第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料からなる。底壁は第1の耐火材料と同じかまたは異なる耐火材料からなることができる。いくつかの有利な実施形態において、底壁も第1の耐火材料からなる。さらに、底壁には、第2の耐火材料であってもなくとも差し支えない耐火材料からなる、底壁電極を備えることができる。第1の側壁及び第2の側壁の電極は、また場合に応じて底壁電極も、交流電圧を供給することが有利な電源に接続され、電源は所望の電流密度分布をもってガラス融液を通る制御された電流を供給し、電流はジュールの法則P=IRにしたがってガラス融液に所望の熱エネルギーを発生する。ここで、Pは加熱電力、Iは電流、Rは溶融条件下のガラス融液の電気抵抗である。熱エネルギーは次いで、例えば対流または伝導によって、ガラス融液の他の部分に伝達され得る。室温のような低温において、ほとんどのガラス材は不良電気伝導体であることが知られているが、高温においては、ガラス材内に含まれる金属イオンの移動度が高くなることからガラス材の電気抵抗が相当低くなることができ、ジュール加熱が可能になる。
【0093】
本明細書に用いられるように、電極または無電極部分あるいは側壁の高さは重力ベクトルに平行な方向のそれぞれの寸法であり、厚さは、重力ベクトルに垂直で、電極及び/または無電極部分の前部表面に実質的に垂直な方向の寸法であり、幅は厚さ及び高さのいずれにも垂直な方向の寸法である。
【0094】
いくつかの実施形態において、槽の第1の側壁と第2の側壁は槽の中心面に関して実質的に対称である。そのような実施形態において、第1の側壁及び第2の側壁の様々な部分、領域及びコンポーネントの、高さ、厚さ、長さ等のような寸法は実質的に同じである。
【0095】
別の実施形態において、槽の第1の側壁と第2の側壁は槽の中心面に関して実質的に非対称である。したがって、そのような実施形態においては、第1の側壁及び第2の側壁の様々な部分、領域及びコンポーネントの、高さ、厚さ、長さ、等のような寸法は必ずしも同じではない。したがって、厚さTH1に言及する場合、第1の側壁の高さTH1は個々独立に第2の側壁のTH1と同じであるかまたは異なることができる。TH2,HT1,HT2,WT1,WT2,並びにその他の寸法及びパラメータの値についても同じことが成り立つ。
【0096】
図1は、第1の耐火材料でつくられた無電極部分101,及び第2の耐火材料でつくられた、合わせて3×3アレイをなす、複数の電極103a,103b、103c、103d、103e,103f,103g,103h及び103iを有する、本開示の特定の実施形態の1つにしたがう側壁の前面図を簡略に示す。他方の、対向する側壁が実質的に対称な構造、すなわち耐火壁に埋め込まれた3×3電極アレイを有する構造を有することが有利である。一方の側壁上の電極は単電源の一方の極に、例えばトランスの二次巻線の単リードに接続することができ、他方の側壁上の電極は同じ単電源の他方の極に接続することができる。特に有利な実施形態において、同じ側の電極は、それぞれが個々独立に制御される、複数の個別電源に接続されて、他方の側壁上に対応する電極と複数の電気ループを形成する。多数の電極の使用が、電極が側壁の全体の大きさに比較して小さい場合に、溶融炉のような極めて大きなガラスハンドリング装置に対して必要になり得る。図1の特定の実施形態において、側壁の無電極部分はHT1の全高を有し、それぞれの電極は大まかに同じHT2の高さを有していて、HT2/HT1<1/3である。同じ側壁上のそれぞれの電極は、個々独立に、機械的に制御することができ、以下に説明されるように、推進可能とすることができる。ガラス溶融炉のような比較的小さいガラスハンドリング槽に対し、図1に示される実施形態の構成には1つの欠点がある。上述したように、側壁の電極と無電極部分の間の界面は、ガラス融液の高温及び強い対流により、より高いレートの磨耗を受け易い。すなわち、壁に埋め込まれた比較的寸法が小さい複数の電極は電極と無電極部分に含まれる第1の耐火材料の間に比較的大きな総界面面積及び/または総界面長を生じ、これにより、結果的に最終ガラス製品内の混入物、脈理またはその他の組成不均一性をもたらす第1の耐火材料の望ましくない高レベルの磨耗が生じ得る。
【0097】
図2は本開示のガラスハンドリング槽の第2の実施形態にしたがう側壁の前面図を示す。本実施形態において、それぞれの側壁は、(i)第1の耐火材料からなり、高さHT1及び幅WT1を有する、無電極部分201,及び(ii)無電極部分に埋め込まれた、第2の耐火材料からなり、それぞれが高さHT2及び幅WT2を有する、複数の電極203a,203b及び203c,を有し、ここでHT2/HT1≧0.5である。図1の実施形態と比較すると、図2の実施形態はかなり大きなHT2/HT1比を有する電極を利用する。したがって、図2の側壁が図1の側壁と同じ高さを有していれば、電極203a,203b及び203cは電極103a,103b、103c、103d、103e,103f,103g,103h及び103iのいずれよりもかなり背が高いであろう。電極203a,203b及び203cのそれぞれは、通常のガラスハンドリング作業の間、ガラス融液と直接に接触している前面を有することが有利である。そのような大寸モノリシック電極ブロック203a,203b及び203cの使用により、電極と無電極部分耐火性材料の間の接触界面がかなり減じ、図1の実施形態に比較して第1の耐火材料の腐蝕を低減する。
【0098】
図3は、図2に示される実施形態と同様の大寸モノリシック電極ブロックを利用している実施形態にしたがうガラス融液ハンドリング槽の断面の一部を簡略に示す。図3において、側壁301は、第2の耐火材料からなる小ブロック307a,307b、307c及び307dのスタックで形成されたモノリシック電極ブロック307,及び第1の耐火材料の複数のブロック303a,303b及び303cからなる無電極部分303を有する。無電極部分は全高HT1及び厚さTH1を有する。モノリシック電極ブロックは、高さHT2及び厚さTH2を有する。無電極部分の前部無電極表面は槽300の中心線に対面し、通常の運転の間、ガラス融液(図示せず)に直接に接触する。電極ブロック307の前部電極表面は、槽の通常運転の間、ガラス融液に接触する。図3に示される特定の実施形態において、前部電極表面の下端は底壁の上面の上方にあり、前部電極表面の下端と底壁の上面の間の距離はHT3である。
【0099】
本開示の第1の態様にしたがえば、0.01≦HT2/HT1≦1.00である。すなわち、電極は無電極部分より小さい高さを有する。電極は側壁の全高に対して比較的小さい高さを有することができる。例えば、HT2/HT1比は、0.01,0.05,0.10,0.15,0.20,0.25,等とすることができる。そのような場合、同じ側壁上に複数の電極が存在して、図1の実施形態に示されるように、高さ方向の列のそれぞれにM個の電極及び幅方向の行のそれぞれにN個の電極を有する、M×Nアレイを形成することができる。そのような電極アレイは、高さが少なくとも2m、いくつかの実施形態では少なくとも3mのガラス溶融装置のような、非常に大きなガラスハンドリング槽に対して有利であり得る。しかし、無電極部分を形成する第1の耐火材料の腐蝕の低減に関して上述した理由のため、少なくとも0.30の大HT2/HT1比を示す大きな電極が、例えば、
いくつかの実施形態において、HT1≦2.0m、
いくつかの実施形態において、HT1≦1.8m、
いくつかの実施形態において、HT1≦1.6m、
いくつかの実施形態において、HT1≦1.4m、
いくつかの実施形態において、HT1≦1.2m、
いくつかの実施形態において、HT1≦1.0m、
いくつかの実施形態において、HT1≦0.9m、
いくつかの実施形態において、HT1≦0.8m、
の比較的小さな側壁全高を有する実施形態においては特に有利である。いくつかの実施形態においては0.50≦HT2/HT1<1.00であり、いくつかの実施形態では0.70≦HT2/HT1<1.00であることがさらに一層有利である。それにもかかわらず、最下段の電極の下端とガラス融液ハンドリング槽の底壁の上面の間に少なくとも無視できない距離HT3があるように、前面電極表面の下端が底壁の上面の上方にあることが望ましい。無視できない距離HT3の存在がガラス融液内部に所望の電流密度分布の形成に役立つことが分かっていて、
いくつかの実施形態において、HT3≧5cm、
いくつかの実施形態において、HT3≧10cm、
いくつかの実施形態において、HT3≧15cm、
いくつかの実施形態において、HT3≧20cm、
であることが望ましい。
【0100】
図1に示されるような、大寸モノリシック電極体は第2の耐火材料の単ブロックで作製することができる。すなわち、市販の単ブロックを側壁の無電極部分に挿入して、電極としてはたらかせることができる。図2及び3に示される実施形態、特に大きくて背の高い電極が望ましい実施形態のような、いくつかの実施形態において、市場で容易に入手できる第2の耐火材料でつくられた複数のブロックを上下に積み重ねて、単モノリシック電極を組み上げることができる。小寸ブロックのスタックを用いる大寸モノリシック電極の構築には、スタックと同じ大きさの単モノリシック電極の作製に対して、いくつかの際だった利点がある。第1に、許容できる品質をもつ単体大寸モノリシック耐火電極材料は極めて高価になり得る。M個の小寸ブロックのスタックと体積が等価な単体の大寸ブロックのコストは、M個の小寸ブロックを合わせたコストよりかなり高くなり得る。第2に、非常に大寸の電極が用いられる場合、総重量が大きくなり過ぎて、単体としての推進が困難になり得る。複数のブロックのスタックは、それぞれが個々独立に推進可能である、いくつかの小さくて軽量の群に分けて形成することができる。第3に、槽の構築中の複数の小寸ブロックの取扱いは大きく扱い難い単体よりもずっと容易であり、重機を必要とせずに手作業でブロックを動かすことが可能になる。これはスペースが限られたプラントにおいて重要であり得る。さらに、複数の電極ブロックのスタックは、電気性能に関する限り単体の大寸ブロックと実質的に同じレベルで機能し得ることが示された。第2の耐火材料の複数のブロックからなるスタック電極においては、電極全体としての満足できる電気的、熱的及び機械的な性能を保証するため、個々のブロック内部及び隣接ブロック間に実質的なボイドまたは間隙がないことが極めて望ましい。ボイドまたは間隙は電流密度に不均一性を生じさせ、温度勾配、稼働中の電極の非一様減耗、電極ブロックの応力及び破壊を生じさせ得る。組成一様性が高く、ボイドの無い電極材料として一般に用いられる単体の大寸セラミックブロックを作製することは困難である。さらに、製造の困難さが増すことにより、セラミックの寸法が大きくなるほど、電極の長期安定性に有害になり得る残留応力が益々問題になるであろう。
【0101】
したがって、本開示のいくつかの有利な実施形態においては、複数の電極ブロックが、上下に積み重ねられた少なくとも2つのセグメントを形成し、それぞれのセグメントは、セグメントを個々独立に炉の中心に向けて内側に動かすため推進するように適合された、個々独立な電極推進機構に連結される。図3はこのタイプの特定の実施形態を簡略に示す。本図において、ブロック307a及び307bは合わせて上部セグメントを形成し、ブロック307c及び307dは合わせて下部セグメントを形成する。上部セグメントの後面は可撓性中間金属メッシュ309aを介して水冷ジャケット311aに連結され、下部セグメントの後面は可撓性中間金属メッシュ309bを介して水冷ジャケット311bに連結される。推進ロッド315bが、一端で水冷ジャケット311aの背面に、また他端で(槽を収める構造体の金属フレームのような)固定具317に連結され、推進ロッド315cが、一端で水冷ジャケット311bの背面に、また他端で固定具317に連結される。金属メッシュ309a及び309bは水冷ジャケットと上部セグメント及び下部セグメントの後面の間の可撓性電気接続を提供し、よって接触界面の電気抵抗を低減する。推進ロッド315b及び315cの末端はボルト/ナット構造によって固定具317に固定される。したがって、ナット319b及び319cを回すことにより、固定具317と水冷ジャケットの間の長さを大きくし、電極の後面を槽の中心に向けて有効に推進することができる。本図において、無電極部分の様々なれんが303a及び303bは、推進ロッド315b及び315dと同様に、ナット319a及び319dによってそれぞれ固定される、安定化バー315a及び315dを介して同じく固定具317に連結されることで安定化される。したがって、電極ブロック307が槽の中心に向けて推進されると、303a,303b及び303を含む無電極部分は電極ブロックとともには移動せずに実質的に所定の位置にとどまるであろう。
【0102】
電極の推進作業のタイミング、大きさ及び頻度は、側壁の電極及び無電極部分の前部表面の減耗レートによって決定される。本明細書に用いられるように、減耗レートまたは磨耗レートは、通常の稼働中の、厚さの平均減少速度として定義される。したがって、電極減耗速度は電極の厚さ減少を、その間に減少がおこった時間で割ることで得られる。同様に、無電極部分減耗レートはその厚さの減少を、その間に減少がおこった時間で割ることで得られる。したがって、
WR1=ΔTH1/t,
WR2=ΔTH2/t,
である。ここで、ΔTH1及びΔTH2はそれぞれ電極及び無電極部分の厚さ変化であり、tはΔTH1及びΔTH2が生じた時間間隔である。WR1及びWR2はそれぞれ、推進が全く無いとしたときの、電極及び無電極部分の前部表面の減少速度に概ね相当する。
【0103】
一般に、前部電極表面の減耗レートが高くなるほど、与えられた時間の経過後に減耗を補償するために電極を大きく推進すべきである。側壁の電極及び無電極部分の前部表面の正確な減耗レートは、モデル化によるか、経験的にか、または両者によって決定することができる。例えば、稼働サイクルの終了時に、または炉寿命が尽きたときに、残っている側壁の電極及び無電極部分の寸法を測定することによって決定することができる。次いで、同様の炉に対する同様の条件下での与えられた時間の経過後の正確な減耗量が経験データに基づいて計算されるであろう。推進は、炉のライフサイクル中、比較的緩いペースで連続とすることができる。一般に、減耗は比較的低速で、例えば週に数mmないしさらに遅いスケールで、生じる。これは、電極ブロックの精密な小移動距離を達成することの困難さ及びそれに必要なコストのため、定常推進を望ましくないものにする。したがって、電極ブロックは断続的に、例えば、炉の稼働の必要に応じて、月に1回、四半期に1回、6ヶ月毎に1回、18ヶ月毎に1回、2年毎に1回、等で、推進されることが望ましい。いくつかの実施形態において、電極は、炉の稼働開始時に、槽の通常の稼働に最適な位置に設置されることが望ましい。電極の前部表面が減耗してあるレベルまで下がった後に、電極は前部表面が実質的に同じ位置に達するように推進される。
【0104】
推進は、加力装置によって電極の後部に推進力を手動でかけることで実施することができる。本開示のいくつかの実施形態において、電極推進機構は後部電極部分に直接または間接に連結されたロッドを有し、このロッドを介して外部推進力を後部電極部分にかけることができる。例えば、いくつかの実施形態において、槽の中心に向かう方向にロッドが押されたときに電極も概ね同じ方向に推進されるように、後部電極部分の背面の中心にロッドを噛み合わせることができる。
【0105】
本開示のいくつかの実施形態において、電極推進機構は複数の位置で後部電極部分に直接または間接に連結される複数本のロッドを有し、これらのロッドを介して、電極の水平傾角及び垂直傾角の内の少なくとも一方が制御及び調節され得るように、外部推進力を後部部分にかけることができる。例えば、いくつかの実施形態において、それぞれが電極スタックの一部だけを押すように応答できる、2本のロッドを後部電極部分の背面の相異なる位置と噛み合わせることができる。2本のロッドは異なる時点で、または実質的に同時に、押されることができ、よって、槽の稼働の特定の必要に応じて、電極の2つのセグメントを個々独立に推進することができる。別の例においては、4本の別々のロッドが電極ブロックの4つのコーナーの近傍の位置で電極ブロックと噛み合わされる。この複数のコンタクト噛合わせにより、電極ブロックの推進及び所望の方向への前部電極表面の傾けのいずれもが可能になる。ロッドの電極ブロックとの噛合わせは、例えばロッドを電極の後部に直接に押し当てることによる、直接噛合わせとすることができる。あるいは、いくつかの有利な実施形態において、ロッドは、水冷ジャケットまたは空冷ジャケット、鋼製プレート、または電極の背面を全体にまたはある程度覆う鋼製キャップのような、中間構造体を介して間接に電極後部に噛み合わされる。中間プレートまたは中間キャップの使用は、中間プレートまたは中間キャップが、推進ロッドの末端によって印加される力を電極後部の比較的広い面積に伝達し、推進ロッドの小さな末端が電極ブロックを直接に押しことが可能であれば生じ得たであろう破壊のリスク無しに脆い電極材料を押すことを可能にする、力拡散具として機能するであろうという点で有利である。
【0106】
本開示のいくつかの実施形態において、電極推進機構は後部電極部分と直接または間接に連結された加力装置を断続的にまたは連続的に駆動するように適合された自動化モーターを備える。モーターはいくつかの実施形態においてコンピューターによって制御することができる。例えば、上述した推進ロッドが槽の中心に向けて電極ブロックを推進するために用いられる場合、電気モーターで駆動される電動機構によってそれぞれの推進ロッドを押すことができる。電動機構及びモーターは、モーターが断続的に作動され、それぞれの推進動作においてあらかじめ定められた時間の間の運転が可能にされ、よってロッドがあらかじめ定められた距離だけ押されて、電極ブロックの所望の推進量が達成されるように、構成され、制御される。
【0107】
いくつかの実施形態において、電極推進機構は外部固定具及び後部電極部分に連結された可調ロッドを有し、可調ロッドの調節の結果、電極の推進がおこる。ロッドの推進はロッドが噛み合う電極の背面と外部固定具の間のロッド長を調節することによって実施することができる。距離が大きくなると、外部固定具は動かないであろうから、電極ブロックに推進力がかけられるであろう。一実施形態において、ロッドはねじが切られた末端で外部固定具に取り付けられ、ロッドの回転により固定具と電極に噛み合うロッドの末端の間の距離が延ばされる。
【0108】
電極は、側壁の無電極部分を構成する第1の耐火材料とは異なる、第2の耐火材料からなる。槽の動作温度において十分に電気伝導性であるいずれの材料も用いることができる。電極のためのそのような第2の耐火材料の非限定的例には、白金及びその合金、モリブデン及びその合金、黒鉛、酸化スズセラミック並びにこれらの混合物及び組合せがある。いくつかの実施形態において、酸化スズセラミック材料が、白金よりかなり低い価格で比較的大きな寸法につくることができ、高温においてモリブデン及び黒鉛よりかなり高い耐酸化性を有するから、特に有利である。さらに、酸化スズ電極は、腐蝕しても、ガラス融液内に融解し、清澄化槽内で、ガラス融液内の気泡の除去に役立つ、清澄化剤として機能することができる。
【0109】
側壁の無電極部分を構成する第1の耐火材料は、特定の溶融条件の下でガラス組成の要件に適合する、いずれかの耐火材料とすることができる。第1の耐火材料の非限定的例には、アルミナ、酸化クロム、マグネシア、シリカ、ジルコン、ジルコニア並びにこれらの混合物及び組合せがある。
【0110】
本開示の槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部電極表面は前部無電極部分表面に対して共面に維持されるかまたは引き込まれたままであって、前部電極表面と前部無電極表面の間の距離はD1であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D1≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D1≦9.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D1≦2.5cm,
である。無電極部分に対して共面であるかまたは引き込まれている電極を含むこれらの実施形態においては、基本的に電極ブロックの前部電極表面だけがガラス融液にさらされる。(以下でさらに詳細に論じられる)突出電極に比較して、この共面電極または引込み電極の構成により、さらに容易に制御され、ガラス融液にさらされる面積全体にわたってさらに一様な、電流密度分布が得られ、したがってさらに一様な温度、及び電極ブロックの前面のさらに均一な減耗が得られる。逆に、突出電極構成においては、前部電極表面だけでなく、4つの側面もガラス融液にさらされる。ガラス融液にさらされる前面部分の不正規なコーナーは、前面部分の非一様な腐蝕を生じさせ、電極の前面部分からの第2の耐火材料の大径粒子の離脱及び大径片の剥離さえも生じさせる、ガラス融液の対流、異なる温度及び異なる不正規な電流密度を受け得る。そのような大径粒子及び剥離片は完成ガラスにおける混入物及び脈理の重大な原因になり得る。第2の耐火材料が第1の耐火材料よりかなり低い腐蝕レートを有する実施形態においては、引込電極構成が特に有利であり得る。それにもかかわらず、前部電極表面から前部無電極部分表面までの距離D1は、余りに大きくはできないが、それでも、電極がガラス融液を引き留め、電極と無電極部分の界面を通る槽からのガラス融液の流出を防止することができるような大きさである。この目的のため、
いくつかの実施形態において、D1≦3/4TH1,
いくつかの別の実施形態において、D1≦2/3TH1,
いくつかの別の実施形態において、D1≦1/2TH1,
いくつかの別の実施形態において、D1≦1/3TH1,
いくつかの別の実施形態において、D1≦1/4TH1,
であることが有利である。
【0111】
本開示の槽のいくつかの実施形態において、製造キャンペインの大半の間、前部無電極部分表面は前部電極表面に対して引き下げられたままであって、前部電極表面から前部無電極部分表面までの距離はD2であり、
いくつかの実施形態において、0cm≦D2≦20cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦18.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦16.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦14.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦12.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦10.0cm,
いくつかの実施形態において、0.5cm≦D2≦19.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦8.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦5.0cm,
いくつかの別の実施形態において、0.5cm≦D2≦2.5cm,
である。これは上で論じた「突出」電極構成である。この実施形態は上述した欠点を有するが、それにもかかわらず、(i)第2の耐火材料が頑健であり、動作条件の下で耐磨耗性であることが知られている場合、または(ii)突出電極対は短縮された前部電極表面距離を有するであろうから、電極対の前部電極表面間の距離が小さいことが望ましい場合の実施形態のような、別の実施形態において望ましいことがあり得る。前部電極表面距離が短くなるほど、加熱電流を高くすることができ、したがって、電極間のガラス融液の温度を高くして、槽内のガラス融液の対流をさらに強め、ガラス融液の混合を高めることができるであろう。
【0112】
本開示のいくつかの実施形態において、無電極部分の少なくとも一部は外部固定具に連結された拘束機構に連結されることで安定化される。そのような安定化は、電極が推進されているときに無電極部分が電極とともに動くことを防止するであろうから、いくつかの実施形態において有利であり得る。いくつかの実施形態において、側壁の無電極部分は第1の耐火材料からなる複数のれんがで構成され、これらのれんがの少なくともいくつかは外部固定具に連結されることで安定化される。
【0113】
いくつかの実施形態において、電極の後部が冷却されることが有利である。そのような冷却は、例えば、後部に吹き付けられる空気ジェット、空冷ジャケットまたは水冷ジャケットを用いることで、行うことができる。上で論じたように、空冷ジャケットまたは水冷ジャケットが用いられる場合、冷却ジャケットは中間金属メッシュを用いずに後部電極表面に直接に取り付けることができ、推進ロッドのような推進機構を、ロッドが押されたときに推進力が冷却ジャケット構造により比較的大きな面積にわたって拡散されるように、冷却ジャケットに取り付けることができる。冷却ジャケットが電極の後部に取り付けられる場合、冷却ジャケットは後部電極表面を、ある程度または全体に、覆うことができる。
【0114】
ケーブルリードを介して電極ブロックに電力が供給される。電気リードケーブルは、例えば、ねじ等により、電極の後部の比較的小さい面積に接続することができる。他方で、電極ブロックの後部に冷却ジャケットが取り付けられていれば、ジャケットの金属表面に電気ケーブルを直接に接続することが有利であり、これにより、電極とジャケットの間の比較的大きな接触面積を介して電流を電極に伝えることが可能になるであろう。
【0115】
本開示の槽の特に有利な実施形態において、無電極部分は電極より遅いレートで減耗する。したがって、無電極部分がレートWR1で減耗し、電極がレートWR2で減耗するとすれば、WR1/WR2<1.0であり、
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦0.5,
いくつかの実施形態において、WR1/WR2≦1/3,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/4,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/6,
いくつかの別の実施形態において、WR1/WR2≦1/8,
である。これらの実施形態において、製造キャンペイン中のガラス融液に向かう電極の推進により、電極の相異なる減耗が補償され、よって槽の動作サイクルまたは動作寿命を延ばすことが可能になるであろう。WR1/WR2比が小さくなるほど、製造キャンペイン中の電極の推進の利点が益々顕著になる。例えば、電極がSnOセラミックブロックからなるいくつかの実施形態において、減耗レート比WR1/WR2は1/2より小さくなることができ、SnOセラミックブロック電極の推進は、推進できない電極ブロックを備える、他の点では同等な槽に比較して槽寿命を倍に延ばすことができる。さらに、電極ブロックの推進動作により、製造キャンペイン中に前部電極表面が最適位置の近くにあり、よって溶融効率が高められ、電気加熱パターンが改善され、ガラス融液内の望ましい温度及び温度分布が達成され、槽内に所望の対流パターがつくられて、第1の耐火材料または第2の耐火材料によって生じる混入物及び脈理が低減されることが保証される。
【0116】
0.1≦WR1/WR2≦0.5であるいくつかの実施形態においては、前部電極表面がガラス融液に面している前部無電極部分表面に対して迅速に後退し、最適位置からの前部電極表面の偏差が比較的速く大きくなるから、比較的頻繁な電極の推進が望ましい。
【0117】
0.5<WR1/WR2<1.0であるいくつかの実施形態においても、電極の推進はまた、前部電極表面を最適位置に維持し、電極ブロックの過剰な減耗によるガラス融液の漏れを防止するために有利である。
【0118】
いくつかの実施形態において、電極の厚さTH2は無電極部分の厚さTH1より小さい。すなわち、TH1/TH2>1.0である。これらの実施形態において、前部電極表面及び後部電極表面の内の少なくとも一方は、同じ側の隣接する無電極表面に対して引き込まれる。そのような実施形態においても、後部電極表面が後部無電極表面に対して引き込まれているか否かにかかわらず、まだ電極の推進は可能であり、推進は、無電極部分に対する電極ブロックの最適位置を維持し、よって側壁の機械的結合性及び最適電流加熱パターンを保証するから、槽寿命を延ばし、溶融の効率及び品質を向上させることができる。
【0119】
いくつかの特に有利な実施形態において、電極の厚さTH2は無電極部分の厚さTH1と少なくとも同じ大きさである。すなわち、TH1/TH2≦1.00であり、
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.90,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.80,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.70,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.60,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.50,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.40,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.30,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.20,
いくつかの実施形態において、TH1/TH2≦0.10,
である。これらの実施形態において、消耗及び推進に利用できる電極材料の量によって、延長された槽ライフサイクル中の電極の長距離推進が可能になる。すなわち、そのような実施形態は、WR1/WR2比が小さい(例えば0.1≦WR1/WR2≦0.5の)槽及び減耗レートWR2が高い電極に対して特に有利である。これらの有利な実施形態のいくつかの例において、電極ブロックの総厚のかなりの部分が後部無電極部分表面から突出し、その末端に、水冷ジャケット、推進ロッドと噛み合うための固定具、等のような、付随する装置コンポーネントを側壁の無電極部分の、熱い、後部表面に触れずに、簡便に取り付けることができる。これらの実施形態において、電極ブロックの突出部分の底面が、電極ブロックの突出部分の重量を少なくともある程度支持することができ、同時に電極ブロックがガラス融液の中心に向けて推進されるときの電極ブロックの滑動を容易にする、ローラーまたは同様の構造体で支持されることがさらに望ましい。支持構造体無しでは、電極ブロックの無支持突出部分の重量のため、前部電極表面が上向きに傾けられ、電極ブロックと無電極部分の間の界面に間隙が形成され、ガラス融液がその間隙から流出することになり得る。
【0120】
本開示の第1の態様にしたがう電極の推進の結果として、側壁の無電極部分からの大径粒子の離脱の確率が低められる。すなわち、本開示の第1の態様にしたがう槽は、最終ガラス製品内の混入物になる、第1の耐火材料の150μm粒子の無電極部分からの離脱の確率が少なくとも5%、いくつかの実施形態では少なくとも8%、いくつかの実施形態では少なくとも10%、いくつかの実施形態では少なくとも20%の、ガラス溶融炉のような槽に特に有用である。この確率が高くなるほど、第1の態様にしたがえば、大寸電極ブロックの使用により電極と無電極部分の界面面積が有意に減少し、よって第1の耐火材料のそのような大径粒子の発生確率が本来小さくなるから、本開示の第1の態様が益々有利になる。
【0121】
本開示の第1の態様にしたがう槽のいくつかの実施形態において、無電極部分の最下端部は、無電極部分の最下端部が底壁によってある程度安定化されるように、底壁の上面より下にある。これらの実施形態においては、電極ブロックが槽の中心に向けて推進されるときに、電極ブロックの直下の無電極部分の、電極ブロックと無電極部分の間の摩擦力の結果としての、電極ブロックと一緒の移動が低減されるかまたは完全に排除される。
【0122】
本開示の第2の態様は、第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備え、第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれが
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、ガラス融液に面している前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面,及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、ガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む後部電極部分,及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
を備え、
0.10≦HT2/HT1≦1.00であり、
少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液を実質的に通さない実質的に連続な壁を形成し、
少なくとも1つの電極は、連続モノリシック電極体を形成するために複数の電極材料ブロックのスタックからなる、
ガラス融液ハンドリングのための槽に関する。
【0123】
すなわち、本開示の第2の態様は、第1の態様には電極を動かす目的のために電極推進機構が存在し、電極は複数のブロックのスタックであることもないこともあり得るが、第2の態様では電極が複数のブロックのスタックからなり、槽が電極推進機構を有していることもいないこともあり得る点で、第1の態様と異なる。第1の態様と第2の態様は相互に重複する。上で要約して説明した第2の態様の様々な実施形態は第1の態様の範囲内に入ることも入らないこともあり得るし、逆の同様である。したがって、第2の態様の様々な実施形態の詳細及び利点は共通の特徴を有する第1の態様の様々な実施形態の上記説明から推しはかることができる。
【0124】
本開示の第3の態様は、本開示の第1の態様または第2の態様にしたがう槽を用いる、ガラス融液のハンドリングのための方法に向けられる。本方法は、
(I)第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える炉を提供する工程、
−第1の側壁及び第2の側壁のそれぞれは、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有するガラス融液に面している前部無電極部分表面、
(A2)後部無電極部分表面,及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有するガラス融液に面している前部電極表面、
(B2)後部電極表面を含む後部電極部分,及び
(B3)第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
を備え、
−少なくとも1つの電極は無電極部分内部に埋め込まれ、
−少なくとも1つの電極及び無電極部分は、ガラス融液を実質的に通さない実質的に連続な壁を形成し、
TH1/TH2≦1.00であり
0.50≦HT2/HT1≦1.00であって、
−炉は少なくとも1つの電極を無電極部分に対して炉の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された電極推進機構をさらに備える、
及び
(II)製造キャンペインの間、電極の前部表面の減耗に適応するため、電極を炉の中心に向けて推進する工程、
を含む。
【0125】
したがって、上で要約して説明した第3の態様の様々な実施形態の詳細及び利点は、第1の態様及び第2の態様の様々な実施形態の上記説明を参照することによって推しはかることができる。
【0126】
詳しくは、本開示の第3の態様にしたがう方法は、製造キャンペイン中に電極を減耗に適応するために炉の中心に向けて内側に推進する工程を含む。電極の推進の態様及びタイミングは第1の態様及び第2の態様の様々な実施形態に関して上述してある。推進が炉を担当している作業者によって手動で行われる場合、作業者の安全を保証するため、電極の電気リードへの電力供給が遮断されることが望ましい。推進作業は溶融プロセスのようなガラスハンドリングの中断を最小限に抑えるために短時間で行われることがさらに望ましい。所望の推進量が達成された直後に作業者は槽から離れて、電源が回復され、よって通常運転が再開される。電極対のそれぞれの推進作業は2時間以内、いくつかの実施形態においては1時間以内、いくつかの実施形態では30分以内、いくつかの実施形態においては15分以内に完了し、したがって、ガラス製造作業への妨害は、すこしはあるとしてもごく僅かでしかないことが実証されている。
【0127】
本発明の範囲及び精神を逸脱することなく本発明に様々な改変及び変更がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、本発明の改変及び変形が添付される特許請求項及びそれらの等価形態の範囲内に入れば、本発明はそのような改変及び変形を包含するとされる。
【符号の説明】
【0128】
201 無電極部分
203A,203b,203c 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、ガラス融液を形成及び/または保持するための槽において、
前記第1の側壁及び前記第2の側壁のそれぞれが、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、前記ガラス融液に面する前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面、及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、前記ガラス融液に面する前部電極表面、
(B2)後部電極表面を有する、後部電極部分、及び
(B3)前記第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
−0.01≦HT2/HT1<1.00であり、
−前記少なくとも1つの電極は前記無電極部分内部に埋め込まれ、
−前記少なくとも1つの電極及び前記無電極部分は実質的に連続な壁を形成する、
及び
前記少なくとも1つの電極を前記無電極部分に対して前記槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された、電極推進機構、
を備える、
ことを特徴とする槽。
【請求項2】
前記槽がガラス溶融炉であることを特徴とする請求項1に記載の槽。
【請求項3】
0.30≦HT2/HT1<1.00であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の槽。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電極が、連続モノリシック電極体を形成するための、前記電極材料の複数のブロックのスタックを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の槽。
【請求項5】
前記電極材料の前記複数のブロックが少なくとも2つのセグメントを形成し、前記少なくとも2つのセグメントのそれぞれが、前記セグメントを個々独立に前記槽の中心に向けて内側に動かすために推進するように適合された個々独立の電極推進機構に連結されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の槽。
【請求項6】
前記電極が、白金、モリブデン、黒鉛、酸化スズセラミック、並びにこれらの混合物及び組合せの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の槽。
【請求項7】
前記第1の耐火材料が、アルミナ、酸化クロム、マグネシア、ジルコン、ジルコニア、並びにこれらの混合物及び組合せから選ばれることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の槽。
【請求項8】
製造キャンペインの大半の間、前記前部電極表面が前記前部無電極表面に対して共面に維持されるかまたは引き込まれたままであって、前記前部電極表面から前記前部無電極表面までの距離はD1であり、0cm≦D1≦20cmであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の槽。
【請求項9】
前記後部電極表面の少なくとも一部が水冷ジャケットまたは空冷ジャケットに連結されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の槽。
【請求項10】
前記後部電極表面の少なくとも一部が電源リードに接続されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の槽。
【請求項11】
製造キャンペインの間、前記無電極部分がレートWR1で減耗し、前記電極がレートWR2で減耗して、WR1/WR2<1.0であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の槽。
【請求項12】
請求項11に記載の槽において、WR1/WR2≦0.5であることを特徴とする槽。
【請求項13】
前記無電極部分から離脱する前記第1の耐火材料の150μm粒子が最終ガラス製品内の混入物になる確率が少なくとも5%であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の槽。
【請求項14】
第1の側壁、第2の側壁及び底壁を備える、ガラス融液を形成及び/または保持するための槽において、
前記第1の側壁及び前記第2の側壁のそれぞれが、
(A)厚さTH1を有し、
(A1)高さHT1及び幅WT1を有する、前記ガラス融液に面する前部無電極表面、
(A2)後部無電極表面、及び
(A3)第1の耐火材料、
を有する無電極部分、及び
(B)厚さTH2を有し、
(B1)高さHT2及び幅WT2を有する、前記ガラス融液に面する前部電極表面、
(B2)後部電極表面を有する後部電極部分、及び
(B3)前記第1の耐火材料とは異なる第2の耐火材料、
を有する少なくとも1つの電極、
−TH1/TH2≦1.00であって,
−0.10≦HT2/HT1≦1.00であり、
−前記少なくとも1つの電極が前記無電極部分内部に埋め込まれ、
−前記少なくとも1つの電極及び前記無電極部分が、前記ガラス融液を実質的に通さない、実質的に連続な壁を形成する、
を備え、
前記少なくとも1つの電極が、連続モノリシック電極体を形成するため、前記電極材料の複数のブロックのスタックを含む、
ことを特徴とする槽。
【請求項15】
ガラス融液を形成及び/または保持するための方法において、
(I)請求項1から14のいずれかに記載の槽を提供する工程、及び
(II)製造キャンペインの間、前記電極の前記前部表面の減耗に適応するため、前記電極を前記槽の中心に向けて内側に推進する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−250906(P2012−250906A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−121664(P2012−121664)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】