説明

ガラス製造装置及びそれを用いたガラスの製造方法

【課題】溶融ガラス中に泡が発生しにくいガラス製造装置を提供する。
【解決手段】ガラス製造装置1は、ガラス製造用容器10と、水分含有量調整機構50とを備える。ガラス製造用容器10は、容器本体11と、電子供与体12とを備える。容器本体11は、貴金属または貴金属を含む合金からなる。容器本体11は、ガラス融液14と接触する内表面11bと、ガラス融液14と接触しない外表面11cとを有する。電子供与体12は、容器本体11の外表面11cに電気的に接続されている。電子供与体12は、使用温度において、容器本体11に電子を供与する電子供与性物質を含む。水分含有量調整機構50は、電子供与体12が配された雰囲気における水分の含有量を、1.0質量%〜5.0質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造装置及びそれを用いたガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスの工業的な製造方法として、ガラス原料を溶融する工程と、溶融ガラスを清澄する工程と、清澄後のガラスを成形する工程とを備える方法が一般的に用いられている。ガラスの製造を行うための容器としては、耐火物により形成された容器や、PtまたはPtを含む合金により形成された容器などが挙げられる。
【0003】
例えば、窓ガラスなどのように、異物や泡に関してそれほど高い品位が求められないガラスを製造する場合には、ガラス製造用の容器として耐火物製の容器が用いられることもあるが、例えば、液晶ディスプレイなどのディスプレイ用の基板ガラスなどのように、異物や泡に関して高い品位が求められるガラスを製造する際には、PtやIrやRhなどの貴金属や、PtやIrやRhなどの貴金属を含む合金からなる容器が一般的に用いられる。この理由は、PtやIrやRhなどの貴金属や、貴金属を含む合金からなる容器(以下、「貴金属容器」とする。)をガラスの製造に用いた場合、溶融ガラス中に容器から異物などが混入しにくいためである。
【0004】
しかしながら、貴金属容器をガラスの製造に用いた場合、ガラス中の水分に起因する泡が貴金属容器の溶融ガラス側の表面に発生する場合がある。この泡が発生する原因は、ガラス中に含まれる水が分解することで生じた水素が貴金属容器を透過して外部に放出されることによって、貴金属容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が増大するためであると考えられる。すなわち、下記の式(1)に示す反応により生じた水素ガスが貴金属容器を透過して外部に放出される一方、貴金属容器を透過しない酸素が貴金属容器の表面近傍に位置する溶融ガラス中に残存することにより、貴金属容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が増大し、泡が発生するものと考えられる。
【0005】
OH → 1/2O + 1/2H + e ・・・ (1)
【0006】
このような問題に鑑み、例えば、特許文献1では、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体の外表面に、使用温度において容器本体に電子を供与する電子供与性物質からなる電子供与体を電気的に接続することにより、泡の発生を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−068550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の製造容器を用いた場合であっても、ガラス融液中に泡が発生することがある。
【0009】
本発明は、溶融ガラス中に泡が発生しにくいガラス製造装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るガラス製造装置は、ガラス製造用容器と、水分含有量調整機構とを備える。ガラス製造用容器は、容器本体と、電子供与体とを備える。容器本体は、貴金属または貴金属を含む合金からなる。容器本体は、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有する。電子供与体は、容器本体の外表面に電気的に接続されている。電子供与体は、使用温度において、容器本体に電子を供与する電子供与性物質を含む。水分含有量調整機構は、電子供与体が配された雰囲気における水分の含有量を、1.0質量%〜5.0質量%とする。
【0011】
なお、本発明において、「ガラス製造用容器」とは、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有する部材のことを意味する。このため、「ガラス製造用容器」には、ガラス融液を溜めておくことができる部材(狭義の容器)、ガラス融液を輸送するためのパイプ、成形用部材等が含まれる。ここで、「成形用部材」とは、ガラス融液を所定の形状を有する部材に成形するために用いられる部材をいう。従って、「成形用部材」には、成型用スリーブ、ダウンドロー法に用いられる樋状の成形体、ノズル等が含まれる。
【0012】
水分の含有量は、以下の式により算出することができる。
【0013】
水分の含有量(%)=62.1×平均蒸気圧/(平均気圧−平均蒸気圧)
【0014】
水分含有量調整機構は、ガラス製造容器の少なくとも電子供与体が配された部分を包囲する包囲部材を有することが好ましい。水分含有量調整機構は、包囲部材により構成されていてもよい。
【0015】
電子供与性物質は、500℃〜1800℃の温度範囲のうちの少なくとも一部の温度範囲において、容器本体に電子を供与するものであることが好ましい。
【0016】
電子供与性物質のフェルミ準位は、容器本体のフェルミ準位よりも高いエネルギー準位に位置していることが好ましい。
【0017】
電子供与性物質は、Zn、Mg、Ti、Sn及びAlからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物からなることが好ましい。
【0018】
容器本体は、Pt、Ir、Rh若しくはPt、Ir、Rhのうちの少なくとも一種を含む合金からなっていてもよい。
【0019】
電子供与体は、容器本体の外表面の一部分に接触しており、容器本体の外表面には、電子供与体に接触していない部分があってもよい。
【0020】
本発明に係るガラス製造装置は、電子供与体に電気的に接続されている電子受容体をさらに備えることが好ましい。
【0021】
電子受容体のフェルミ準位は、電子供与性物質のフェルミ準位よりも低いエネルギー準位に位置していることが好ましい。
【0022】
電子受容体は、Cu、Ni、Co、Mn及びLiからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物であることが好ましい。
【0023】
電子受容体は、LiがドープされたNiOであることが好ましい。
【0024】
本発明に係るガラスの製造方法では、本発明に係るガラス製造装置を用いてガラスを製造する。
【0025】
ガラスのβ−OH値が0.3/mm以上であってもよい。
【0026】
なお、本発明において「β−OH値」とは、ガラス中に含まれる水分量を示す指標であり、以下の式により表される。
【0027】
(β−OH値)=(1/X)log10(T/T
但し、
X:ガラスの厚さ(mm)、
:参照波長3846cm−1(=2600nm)における透過率(%)、
:水酸基吸収波長3600cm−1(=2800nm)付近(3400cm−1〜3700cm−1)における極小透過率(%)、
である。
【0028】
ガラスは、ディスプレイ用ガラス基板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス製造装置の模式的構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるガラス融液搬送用パイプの略図的横断面図である。
【図4】第1の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。
【図5】第1の変形例におけるガラス融液搬送用パイプの略図的横断面図である。
【図6】第2の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。
【図7】第3の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。
【図8】第1の実験例において、雰囲気中の水分の含有量が0.5質量%である場合のガラスの平面写真である。
【図9】第1の実験例において、雰囲気中の水分の含有量が1.5質量%である場合のガラスの平面写真である。
【図10】第2の実験例を説明するための略図的断面図である。
【図11】第2の実験例において、雰囲気中の水分の含有量が0.5質量%である場合のガラスの平面写真である。
【図12】第2の実験例において、雰囲気中の水分の含有量が1.5質量%である場合のガラスの平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明するが、本発明は、下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0031】
図1は、本実施形態に係るガラス製造装置1の模式的構成図である。ガラス製造装置1は、オーバーフローダウンドロー法によりディスプレイ用のガラス基板を成形するための装置である。
【0032】
ガラス製造装置1は、溶融用容器31と、清澄用容器32と、攪拌用容器33と、ポット34と、成形用部材35(forming member)と、図示しない発熱体とを備えている。溶融用容器31は、投入されたガラス原料(バッチ)の溶解を行うための容器である。溶融用容器31は、第1の接続部材36の内部に形成されている第1の接続通路36aによって、清澄用容器32に接続されている。清澄用容器32は、溶融用容器31から共有されたガラス融液を清澄するための容器である。清澄用容器32は、第2の接続部材37の内部に形成されている第2の接続通路37aによって、攪拌用容器33に接続されている。攪拌用容器33は、清澄されたガラス融液を攪拌し、均一化させるための容器である。攪拌用容器33は、第3の接続部材38の内部に形成されている第3の接続通路38aと、ポット34と、パイプ39とによって成形用部材35に接続されている。
【0033】
本実施形態では、容器31〜33、ポット34、接続部材36〜38、パイプ39及び成形用部材35のうちの少なくともひとつが図2に示すガラス製造用容器10または図3に示すガラス融液搬送用パイプ20により構成されている。容器31〜33、ポット34、接続部材36〜38、パイプ39及び成形用部材35のなかでも、清澄が行われる部分以降に配される容器32,33、ポット34、接続部材38、パイプ39及び成形用部材35のうち、貴金属または貴金属合金を用いて構成された部材がガラス製造用容器10またはガラス融液搬送用パイプ20により構成されていることが好ましい。
【0034】
図2に示すように、ガラス製造用容器10は、容器本体11と、電子供与体12、電子受容体13とを備えている。ガラス製造用容器10は、耐火物15に形成された凹部15a内に配置されている。具体的には、凹部15a内に容器本体11が配置されている。容器本体11と、耐火物15との間には、電子供与体12と電子受容体13とが、容器本体11側からこの順番で配置されている。
【0035】
なお、本実施形態のガラス製造用容器10には、交流電源もしくは別途の加熱体が配置されており、ガラス製造用容器10は、交流電源による直接加熱もしくは別途の加熱体によって加熱されるものである。
【0036】
容器本体11は、貴金属または貴金属を含む合金からなる。貴金属の具体例としては、例えば、Pt、Au、Ir、Rhなどが挙げられる。貴金属を含む合金の例としては、Pt−Rh合金、Pt−Au合金、Ir−Rh合金、Pt−Ir合金などが挙げられる。中でも、容器本体11は、PtまたはPtを含む合金により形成されていることが好ましい。PtまたはPtを含む合金は高温下における強度が比較的高く、溶融ガラスへの溶出も少ないためである。
【0037】
また、容器本体11には、剛性や強度を向上することなどを目的として、ZrやZr酸化物などの他の金属や金属酸化物などの他の元素をドープしてもよい。例えば、容器本体11は、ZrがドープされたPtからなるものであってもよい。
【0038】
本実施形態では、容器本体11は、碗状に形成されており、容器本体11には、ガラス融液14が溜められる凹部11aが形成されている。すなわち、容器本体11は、ガラス融液14と接触する内表面11bと、ガラス融液14とは接触しない外表面11cとを有している。
【0039】
容器本体11の外表面11cには、電子供与体12が電気的に接続されている。具体的には、本実施形態では、容器本体11の外表面11cと直接接触するように、電子供与体12が設けられている。より具体的には、電子供与体12は、容器本体11の外表面11cのうち、凹部11aの外側に位置する部分の全面に接触するように配置されている。
【0040】
ここで、電子供与体12とは、500℃〜1800℃の温度範囲、好ましくは、1000℃〜1800℃の温度範囲のうちの少なくとも一部の温度範囲において、容器本体11に電子を供与する電子供与性物質からなるものである。すなわち、電子供与体12とは、ガラスを溶融するときの温度にまで加熱されたときに、容器本体11に電子を供与する電子供与性物質からなるものである。このため、本実施形態のガラス製造用容器10を用いてガラスを溶融した場合、ガラスの溶融中に、電子供与体12から容器本体11に電子(e)が供給されるため、酸素の泡を発生させる下記式(1)の進行を抑制することができる。従って、酸素の泡の発生を抑制することができる。
【0041】
OH → 1/2O + 1/2H + e ・・・ (1)
【0042】
本実施形態では、容器本体11が貴金属または貴金属を含む合金からなるため、容器本体11は導電性を有している。このため、電子供与体12から容器本体11に供給された電子は、容器本体11内を自由に移動できる。よって、容器本体11の一部に電子を供給することができれば、容器本体11の全体における電子濃度を高めることができる。従って、上記式(1)の進行を電子の供給により抑制する場合は、容器本体11の外表面11cの少なくとも一部に電子供与体12が電気的に接続されていればよい。例えば、容器本体11の外表面11cに、電子供与体12が電気的に接続されていない部分があってもよい。従って、本実施形態のガラス製造用容器10は、作製が容易である。
【0043】
また、容器本体の外表面にバリアコーティング層を形成する場合は、バリアコーティング層に亀裂が入ったり、バリアコーティング層が容器本体から剥離したりすると、泡の発生を十分に抑制できなくなるが、本実施形態のガラス製造用容器10では、容器本体11の外表面11cに電子供与体12に接触していない部分が生じた場合でも、泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0044】
本実施形態において、電子供与性物質は、ガラスの溶融温度において、容器本体11に電子を供給可能な物質である限りにおいて特に限定されない。電子供与性物質は、例えば、金属であってもよいし、酸化物であってもよい。また、電子供与体12は、酸化物セラミックなどのセラミックであってもよい。
【0045】
また、電子供与体12は、粒子であってもよいし、例えば、セラミックである場合においては、焼結体の膜であってもよい。本実施形態においては、容器本体11の外表面11cが電子供与体12により完全に被覆されている必要はないため、電子供与体12が粒子であっても、泡の発生を抑制できる効果が十分に奏される。
【0046】
本実施形態では、具体的には、電子供与性物質からなる粒子により形成された層により構成されている電子供与体12が容器本体11の外表面11cのうち、凹部11aの外側に位置する部分の全面に接触するように充填されている。この構成の場合、容器本体11の形状寸法に関わらず、容易に電子供与体12を配置することができる。
【0047】
電子供与性物質は、例えば、フェルミ準位が、容器本体11のフェルミ準位よりも高いエネルギー準位に位置している、n型酸化物セラミックなどのn型セラミックであってもよい。
【0048】
電子供与性物質の好ましい具体例としては、例えば、Zn、Mg、Ti、Sn及びAlからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物が挙げられる。より具体的には、電子供与性物質としては、例えば、ZnO、SnO、TiO、SrTiOなどが挙げられる。中でも、より好ましい電子供与性物質としては、熱励起するn型内因性半導体セラミックの一種であるZnOセラミックや、Alなどの金属をドープしたZnOセラミックが挙げられる。
【0049】
また、本実施形態では、電子供与体12に電気的に接続するように設けられた電子受容体13をさらに備えている。具体的には、電子受容性物質からなる粒子により構成された層からなる電子受容体13が、電子供与体12に接触するように配置されている。電子受容体13は、電子供与体12の外側において、容器本体11の凹部11aの外側に位置する部分には接触しないように設けられている。
【0050】
このように、電子供与体12に電気的に接続するように電子受容体13を配置することにより、下記の実施例によっても裏付けられるように、ガラス融液中の水やOHイオンに起因する泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0051】
電子受容体13は、フェルミ準位が電子供与性物質のフェルミ準位よりも低いエネルギー準位に位置しているものであることが好ましい。電子受容体13は、例えば、室温、すなわち25℃においてp型特性を示すp型酸化物セラミックなどのp型セラミックであってもよい。具体的には、電子受容体13は、例えば、Cu、Ni、Co、Mn及びLiからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物からなるp型酸化物セラミックであってもよい。中でも、電子受容体13は、LiがドープされたNiOであることが好ましい。
【0052】
電子受容体13は、例えば、p型酸化物セラミックなどのp型セラミックであってもよい。具体的には、電子受容体13は、例えば、Cu、Ni、Co、Mn及びLiからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物からなるp型酸化物セラミックであってもよい。より具体的には、電子受容体13の例としては、例えば、LiがドープされたNiO、LiがドープされたCoO、LiがドープされたFeO、LiがドープされたMnO、BaがドープされたBi、MgがドープされたCr、SrがドープされたLaCrO、SrがドープされたLaMnOCuO、CuAlO、NaCo、CaMnO、などが挙げられる。中でも、電子受容体13は、LiがドープされたNiOであることが好ましい。その場合、例えば施工時に電子受容体13がPt等の貴金属容器に誤って接触しても、泡の発生を促進し難い。
【0053】
なお、電子受容体13は、容器本体11に直接接触するように配置されていてもよいが、容器本体11に電子を供与する部材は、電子供与体12であるため、容器本体11と電子供与体12との接触面積をより多くして、電子受容体13は、容器本体11に直接接触しないように配置することが好ましい。
【0054】
また、ガラス融液搬送用パイプ20も、ガラス製造用容器10と同様に、電子供与体12が筒状の容器本体11を覆うように配置されている。従って、ガラス融液搬送用パイプ20においても、泡の発生を抑制することができる。さらに、電子供与体12の外側には、電子供与体12を覆うように、電子受容体13が配置されている。従って、ガラス融液搬送用パイプ20においても、泡の発生をより効果的に抑制することができる。
【0055】
さらに、ガラス製造装置1では、ガラス製造用容器10とガラス融液搬送用パイプ20の電子供与体12が配された雰囲気における水分の含有量を、1.0質量%〜5.0質量%とする水分含有量調整機構50が設けられている。このため、ガラス製造用容器10とガラス融液搬送用パイプ20とにおける泡の発生がさらに効果的に抑制されている。従って、泡の残存が抑制されたガラスを製造することができる。
【0056】
水分含有量調整機構50を設け、電子供与体12が配された雰囲気における水分の含有量を、1.0質量%〜5.0質量%とすることにより泡の発生が抑制できる理由としては、水分が電子供与体12に作用し、電子供与体12の電子許容能を高めていることが考えられる。
【0057】
水分含有量調整機構50は、電子供与体12が配された雰囲気における水分の含有量を制御できるものである限りにおいて特に限定されない。例えば、水分含有量制御機構50は、ガラス製造用容器10の少なくとも電子供与体12が配された部分を包囲する包囲部材51を有していてもよい。水分含有量制御機構50は、包囲部材51のみにより構成されていてもよいし、包囲部材51と、包囲部材51の内部に水分を供給する水分供給機構52とを有していてもよい。本実施形態では、包囲部材51は、具体的には、ポット34、接続部材38、パイプ39を包囲している。
【0058】
上記の泡の発生を抑制できる効果は、どのような種類のガラスを溶融する際にも得られるものである。従って、本実施形態のガラス製造用容器10は、どのような種類のガラスの溶融にも好適に用いられるものである。ガラス製造用容器10は、例えば、珪酸塩ガラス、硼珪酸塩ガラス、硼リン酸ガラス、リン酸塩ガラスなどの溶融に好適に用いられる。中でも、β−OH値が0.3/mm以上であるガラスを製造する際には、泡が発生しやすいため、本実施形態のガラス製造用容器10は、β−OH値が0.3/mm以上であるガラスの製造により好適に用いられる。さらには、β−OH値が0.35/mm以上、より好ましくは0.4/mm以上のガラスの製造に、本実施形態のガラス製造用容器10がより好適に適用される。
【0059】
また、ディスプレイ用ガラス基板を製造する場合、泡がガラス中に残存していないことがより強く望まれるため、本実施形態のガラス製造用容器10は、ディスプレイ用ガラス基板の製造により好適に用いられる。
【0060】
以下、ガラス製造用容器の変形例について説明する。なお、以下の変形例の説明において、上記実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0061】
(第1の変形例)
図4は、第1の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。図5は、第1の変形例におけるガラス融液搬送用パイプの略図的横断面図である。
【0062】
上記実施形態では、電子受容体13が設けられている場合について説明したが、第1の変形例では、上記図4及び図5に示すように、電子供与体12のみが設けられており、電子受容体13が設けられていない。この場合であっても、ガラス融液中の水やOHイオンに起因する泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0063】
(第2及び第3の変形例)
図6は、第2の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。図7は、第3の変形例におけるガラス製造用容器の略図的断面図である。
【0064】
上記実施形態では、容器本体11の凹部11aの外側部分の全面に電子供与体12を接触させる場合について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、第2の変形例では、図6に示すように、容器本体11のガラス融液14の界面との接触部近傍の外側にのみ電子供与体12を接触させている。また、第3の変形例では、図7に示すように、容器本体11の底部の外側にのみ電子供与体12を接触させている。このような構成においても、ガラス融液中の水やOHイオンに起因する泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0065】
容器本体11のどの部分に電子供与体12を接触させるかは、容器本体11の内表面11bのどの部分で泡が発生しやすいかによって適宜決定することができる。
【0066】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0067】
(第1の実験例)
まず、厚みが0.05mmのPt板の上に、β−OH値が0.55/mmである無アルカリガラスを配し、雰囲気中の水分の含有量を0.5質量%または1.5質量%とし、1550℃で15分間放置した。その後、室温にまで冷却し、ガラス中の泡を目視確認した。雰囲気中の水分の含有量が0.5質量%である場合のガラスの写真を図8に示す。雰囲気中の水分の含有量が1.5質量%である場合のガラスの写真を図9に示す。
【0068】
図8及び図9から、電子供与体をPt容器に接触させない場合は、雰囲気中の水分の含有量に関わらず泡が多数発生していることが分かる。また、雰囲気中の水分の含有量が0.5質量%である場合と、雰囲気中の水分の含有量が1.5質量%である場合とで、泡の発生状況はほぼ同じであった。このことから、Pt容器に電子供与体が電気的に接続されていない場合は、雰囲気中の水分の含有量を変化させても泡の発生を抑制できないことが分かる。
【0069】
(第2の実験例)
図10に示すように、Liを固溶させたNiO粉末からなる電子受容体13の上に、Alを固溶させたZnO粉末からなる電子供与体12を配し、さらに、電子供与体12の上にPt容器40を配した。そして、そのPt容器40の上に、第1の実験例で使用した無アルカリガラスと実質的に同じ、β−OH値が0.55/mmである無アルカリガラス41を配し、雰囲気中の水分の含有量を0.5%または1.5%とし、1550℃で15分間放置した。その後、室温にまで冷却し、ガラス中の泡を目視確認した。雰囲気中の水分の含有量が0.5質量%である場合のガラスの写真を図11に示す。雰囲気中の水分の含有量が1.5質量%である場合のガラスの写真を図12に示す。
【0070】
まず、図8と図11との比較から、電子供与体12と電子受容体13とを配することにより、泡の発生を抑制できることが分かる。
【0071】
また、図11と図12との比較から、雰囲気中の水分の含有量を1.5質量%以上とすることにより、泡の発生をさらに効果的に抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1…ガラス製造装置
10…ガラス製造用容器
11…容器本体
11a…凹部
11b…内表面
11c…外表面
12…電子供与体
13…電子受容体
14…ガラス融液
15…耐火物
15a…凹部
20…ガラス融液搬送用パイプ
31…溶融用容器
32…清澄用容器
33…攪拌用容器
34…ポット
35…成形用部材
36…第1の接続部材
36a…第1の接続通路
37…第2の接続部材
37a…第2の接続通路
38…第3の接続部材
38a…第3の接続通路
39…パイプ
40…Pt容器
50…水分含有量調整機構
51…包囲部材
52…水分供給機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属または貴金属を含む合金からなり、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有する容器本体と、前記容器本体の外表面に電気的に接続されており、使用温度において、前記容器本体に電子を供与する電子供与性物質を含む電子供与体とを備えるガラス製造用容器と、前記電子供与体が配された雰囲気における水分の含有量を、1.0質量%〜5.0質量%とする水分含有量調整機構とを備えるガラス製造装置。
【請求項2】
前記水分含有量調整機構は、前記ガラス製造容器の少なくとも前記電子供与体が配された部分を包囲する包囲部材を有する、請求項1に記載のガラス製造装置。
【請求項3】
前記電子供与性物質は、500℃〜1800℃の温度範囲のうちの少なくとも一部の温度範囲において、前記容器本体に電子を供与する、請求項1または2に記載のガラス製造装置。
【請求項4】
前記電子供与性物質のフェルミ準位は、前記容器本体のフェルミ準位よりも高いエネルギー準位に位置している、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス製造装置。
【請求項5】
前記電子供与性物質は、Zn、Mg、Ti、Sn及びAlからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス製造装置。
【請求項6】
前記容器本体は、Pt、Ir、Rh若しくはPt、Ir、Rhのうちの少なくとも一種を含む合金からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス製造装置。
【請求項7】
前記電子供与体は、前記容器本体の外表面の一部分に接触しており、前記容器本体の外表面には、前記電子供与体に接触していない部分がある、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス製造装置。
【請求項8】
前記電子供与体に電気的に接続されている電子受容体をさらに備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス製造装置。
【請求項9】
前記電子受容体のフェルミ準位は、前記電子供与性物質のフェルミ準位よりも低いエネルギー準位に位置している、請求項8に記載のガラス製造装置。
【請求項10】
前記電子受容体は、Cu、Ni、Co、Mn及びLiからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む酸化物である、請求項8または9に記載のガラス製造装置。
【請求項11】
前記電子受容体は、LiがドープされたNiOである、請求項8または9に記載のガラス製造装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラス製造装置を用いたガラスの製造方法。
【請求項13】
ガラスのβ−OH値が0.3/mm以上である、請求項12に記載のガラスの製造方法。
【請求項14】
ガラスは、ディスプレイ用ガラス基板である、請求項12または13に記載のガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−95638(P2013−95638A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240403(P2011−240403)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)