説明

ガラス部材の製造方法及び加熱延伸装置

【課題】ガラス部材の加熱延伸法による製造において、寸法精度のばらつきを減少させ、製品検査の負担軽減と製造歩留まりを向上する。
【解決手段】可撓性を有するシート材の中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシート材の外周方向に向かう複数本の切れ目を形成した貴金属製のシート材8を、炉体7のガラス母材1の投入口に取り付け、上記切れ目によって通過口を広げながら且つ通過口側のシート材端部をガラス母材1に接触させながらガラス母材1を該通過口から炉体7内に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子・電気機器における一対の基板間に介在されて、該基板間を支持するスペーサ等、電子デバイスに用いられるガラス部材の製造方法とこれに用いられる加熱延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面伝導型の電子放出素子を基板上にマトリクス状に配置し、電子放出素子を気密に封入するように対向配置された基板上に設けられた蛍光体に放出電子を照射して画像を形成するパネル状ディスプレイの開発が進んでいる。
【0003】
このような、電子源が一対の基板間に気密に封入された電子線装置の基板間を支持するスペーサの製造方法としては、例えば、特許文献1に加熱延伸法が開示されている。この方法は、断面が長方形のガラス母材を加熱軟化させ、該ガラス母材の送り出す送り出しローラーの送り出し速度と、該ガラス母材を引き取る引き取りローラーによる引き取り速度の差によって延伸する方法である。延伸したガラス母材は延伸前のガラス母材と断面形状が相似形であり、これを切断して、所望の平板状スペーサとする。
【0004】
【特許文献1】特開2000−164129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペーサの主な役割は減圧状態となる基板間の距離(ギャップ)を保持してパネル外からの大気圧を支持することにある。しかしながら基板間のギャップを維持するスペーサの高さ方向の寸法ばらつきが大きいと、大気圧により基板が変形を起こす、更には基板が割れる恐れが増大する。
【0006】
これらの問題を防ぐための寸法ばらつきの許容値はディスプレイパネルのサイズや基板の厚さ、スペーサ材の配置によっても異なるが、30乃至60インチクラスのディスプレイにおいては、要求されるばらつき範囲は概ね8μm以下になる。これは、仮に基板間のギャップ設計値が1.6mm乃至2mmの範囲任意の値であるとすると、高さに対するばらつきの許容公差は±0.2乃至0.25%以下となる。
【0007】
ところが従来、上記加熱延伸法により加工したスペーサの外径寸法は一般的には±1%程度高精度な加工であっても±0.3乃至0.5%のばらつきを有するため製品を検査する負担の増大と、製造歩留まりの低下が問題となる。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、ガラス部材の加熱延伸法による製造において、寸法精度のばらつきを減少させ、製品検査の負担軽減と製造歩留まりを向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1は、電子デバイスに用いる平板状のガラス部材の製造方法であって、該ガラス部材と相似形状のガラス母材を、該ガラス母材の軟化温度以上に保持された炉体内に投入し、該炉体内において該ガラス母材を加熱延伸して炉体外に引き出す工程を有し、上記炉体の投入口において、ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽しながら該ガラス母材を炉体内に投入することを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス部材の製造方法においては、
前記ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽する手段が、可撓性を有するシート材の中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシート材の外周方向に向かう複数本の切れ目を形成した遮蔽部材であり、該シート材をガラス母材の進行方向を塞ぐように炉体に取り付け、上記切れ目によって通過口を広げながら且つ通過口側のシート材端部をガラス母材に接触させながらガラス母材を該通過口から炉体内に投入すること、
が好ましい。
【0011】
本発明の第2は、加熱延伸法によりガラス母材を加熱延伸してガラス部材を製造する加熱延伸装置であって、
ガラス母材を投入して加熱する炉体を有し、
該炉体のガラス母材の投入口において、ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽する遮蔽部材を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の加熱延伸装置においては、
前記遮蔽部材が、貴金属からなるシート材であって、該シート材が中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシートの外周方向に向かう複数本の切れ目を有し、炉体の投入口を塞ぐように該炉体に取り付けられていること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、加熱延伸法により平板状のガラス部材をより形状精度良く製造することが可能になり、特にスペーサにおいて、高さ寸法のバラツキを低減することで、製造工程の歩留まり向上と製品検査の負担軽減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者は、鋭意検討した結果、加熱延伸法によるガラス部材の製造工程において、ガラス母材を炉体に投入する際に、ガラス母材と炉体の内壁との間隙から炉体内に侵入する炉体外の外乱空気による影響が大きいことを知見し、本発明を達成した。
【0015】
本発明の特徴は、ガラス母材を炉体に投入する際に、該炉体の投入口における炉体の内壁とガラス母材との間隙を遮蔽することにある。具体的には、該遮蔽手段として、可撓性を有するシート材の中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシートの外周方向に向かう複数本の切れ目を形成した遮蔽部材が好ましく用いられる。該シート材は、投入口を塞ぐように、即ち、ガラス母材の進行方向を塞ぐように炉体に取り付けられ、ガラス母材は上記通過口を切れ目によって広げながら通過する。その際、シート材の通過口側端部は通過するガラス母材表面に接触することで、良好にガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽する。
【0016】
本発明において、上記シート材としてはPt等の貴金属からなる箔材が好ましく用いられる。
【0017】
図1は本発明のガラス部材の製造方法を良好に実施しうる本発明の加熱延伸装置の一実施形態の構造を示す、鉛直方向(延伸方向)断面模式図である。図中、1はガラス母材、1’は延伸後のガラス母材、2はガラス部材、3はヒーター、4はメカチャック、5はローラー、6はカッター、7は炉体、8はシート材である。また、図2(a)は図1のシート材8の平面図であり、図中21は母材通過口、22は切れ目である。さらに、図2(b)は、該シート材8の母材通過口21をガラス母材1が通過する状態を示す鉛直方向断面模式図である。
【0018】
本例において、遮蔽部材であるシート材8の母材通過口21は、ガラス母材1の断面(延伸方向に対して直行する方向の断面)よりも小さく形成されているため、このままではガラス母材1は母材通過口21を通過できない。しかしながら、該通過口21からシート材8の外周に向かって複数本の切れ目22が形成されているため、該切れ目22によって通過口21が広がることができる。よって、図2(b)に示すように、ガラス母材1の表面に通過口側のシート材端部が接触しながらガラス母材1が通過口21を通過して炉体7内に投入される。この時、ガラス母材1と炉体7の内壁との間隙は、該シート材8の通過口側端部によって良好に遮蔽されるため、ガラス母材1が炉体7内に投入される際に、炉体外の外乱空気の影響が投入口より炉体内へ侵入するのを防止することができる。そして、係る外乱空気の侵入を防止することにより、炉体内の温度変動が抑制され、精度良くガラス部材を加熱延伸することができる。
【0019】
尚、本発明において該シート材8は1枚でもガラス母材1と炉体7の内壁との間隙をほぼ遮蔽することができるが、より高い遮蔽効果を得るために、切れ目22の位置を互いにずらせた複数枚のシート材を重ねて用いることも好ましく適用される。複数枚重ねて用いることで、1枚目の切れ目が広がった箇所や、シート材とガラス母材表面とが非接触であいた隙間を2枚目以降のシート材で遮蔽することができ、ほぼ完全に上記間隙を遮蔽することができる。
【0020】
また、シート材8の母材通過口21からシート材8の外周に向けて形成した切れ目22の、外周側端部を繋いだ線で形成される形状は、図2(a)においてはガラス母材1の断面に相似形の長方形であるが、本発明はこれに限定されるものではない。より良好な遮蔽効果が得られる範囲で、該形状を円、楕円、或いは矩形の角部を欠いた形状など、適宜選択される。またさらに、複数枚のシート材を重ねて用いる場合には、シート材毎に係る形状が異なっていても良い。
【0021】
図1において、ガラス母材1に対して熱源であるヒーター3はガラス母材1の延伸方向に直行する断面の各外辺から概等距離に配置されている。本例におけるガラス母材1の断面形状は長方形であるが、本発明はこのような断面形状のガラス母材1に限らず、縦横の寸法が異なる断面形状のガラス母材1、例えば断面形状が楕円形、台形などのガラス母材1に対しても有効である。このようにガラス母材1の断面形状が複雑な場合でも、切れ目22を形成したシート材8を複数枚重ねることで同様の遮蔽効果を得ることが可能である。
【0022】
図1の装置においては、ガラス母材1をメカチャック4で締め付け保持し、シート材8の通過口21を通過したガラス母材1の下部はヒーター3でガラス母材1の軟化温度以上に加熱され、延伸したガラス母材1’の下部を引き取りローラー5間に挟み込む。この状態で、メカチャック4を徐々に下降させながら、引き取りローラー5を回転させ、メカチャック4の下降速度より速い引き取り速度で延伸ガラス母材1’を引き取る。同時に、上記メカチャック4と引き取りローラー5間で、ヒーター3によりガラス母材1を軟化温度以上に加熱し軟化させる。
【0023】
すると、メカチャック4の下降速度と引き取りローラー5による引き取り速度の速度差によって、軟化温度以上に加熱されて軟化したガラス母材1が延伸され、該ガラス母材1と断面形状がほぼ相似形状の延伸ガラス母材1’が連続して形成される。
【0024】
そして、冷却固化した状態で引き取りローラー5を通過した延伸ガラス母材1’をカッター6で切断することで、所望の薄さの平板状(柱状を含む)のガラス部材2とすることができる。
【0025】
図3は、図1の装置で得られるガラス部材2の一例の斜視図であり、表示装置におけるスペーサとして用いられるものである。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
図3に示されるガラス部材2を、図1に示した加熱延伸装置で作製した。ガラス母材1としては、断面形状が6.2mm×49mmの長方形のものを用いた。また、遮蔽部材としては、厚さ0.03mmの白金製シート材8の中央近傍に、図2(a)に示されるように5.2mm×40mmの長方形の通過口21と、該通過口21から外周に向けてピッチ3mm、切り込み量5mmの切れ目22を入れた。そして、該シート材8を炉体7のガラス母材1の投入口に、該投入口を塞ぐように取り付けた。
【0027】
上記ガラス母材1を、V1=2.5mm/minの速度でメカチャック4を降下させることにより送り出し、ヒーター3で約780℃に加熱した。そして、ヒーター3の下方に配置された引き取りローラー5にてV2≒2700mm/minの速度で引き取ることで加熱延伸し、最後にカッター6にて長さが850mmになるように切断した。
【0028】
本例で得られたガラス部材2の高さ(図3参照)をレーザー式測長機において、1mmピッチで300本測定したところ、全ての測定点で1.5965mm乃至1.6035mm(レンジ7.0μm)の範囲であった。また、ばらつきの3σは±3.2μm(±0.2%)であった。
【0029】
(比較例1)
シート材8の母材通過口21を7.2mm×50mm(ガラス母材1の外径より各辺0.5mmずつ大きくした)とし、切れ目22を形成しない以外は実施例1と同様にしてガラス部材2を作製した。
【0030】
本例のガラス部材を実施例1と同様の測定をしたところ1.5946mm乃至1.6069mm(レンジ12.3μm)の範囲であり、ばらつきの3σは±6.7μm(±0.42%)であった。
【0031】
(比較例2)
シート材8の母材通過口21を8.2mm×51mm(ガラス母材1の外径より各辺1mmずつ大きくした)とし、切れ目22を形成しない以外は実施例1と同様にしてガラス部材を作製した。
【0032】
本例のガラス部材を実施例1と同様の測定をしたところ1.5940mm乃至1.6012mm(レンジ12.2μm)の範囲であり、ばらつきの3σは±5.4μm(±0.34%)であった。
【0033】
(比較例3)
シート材8の母材通過口21を12.2mm×55mm(ガラス母材1の外径より各辺3mmずつ大きくした)とし、切れ目22を形成しない以外は実施例1と同様にしてガラス部材を作製した。
【0034】
本例のガラス部材を実施例1と同様の測定をしたところ1.5950mm乃至1.6098mm(レンジ14.8μm)の範囲であり、ばらつきの3σは±6.0μm(±0.38%)であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の加熱延伸装置の一例の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の加熱延伸装置の炉体に取り付けたシート材の平面図と、該シート材の通過光をガラス母材が通過している状態を示す断面模式図である。
【図3】本発明で得られるガラス部材の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ガラス母材
1’ 延伸ガラス母材
2 スペーサ
3 ヒーター
4 メカチャック
5 ローラー
6 カッター
7 炉体
8 シート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスに用いる平板状のガラス部材の製造方法であって、該ガラス部材と相似形状のガラス母材を、該ガラス母材の軟化温度以上に保持された炉体内に投入し、該炉体内において該ガラス母材を加熱延伸して炉体外に引き出す工程を有し、上記炉体の投入口において、ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽しながら該ガラス母材を炉体内に投入することを特徴とするガラス部材の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽する手段が、可撓性を有するシート材の中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシート材の外周方向に向かう複数本の切れ目を形成した遮蔽部材であり、該シート材をガラス母材の進行方向を塞ぐように炉体に取り付け、上記切れ目によって通過口を広げながら且つ通過口側のシート材端部をガラス母材に接触させながらガラス母材を該通過口から炉体内に投入する請求項1に記載のガラス部材の製造方法。
【請求項3】
加熱延伸法によりガラス母材を加熱延伸してガラス部材を製造する加熱延伸装置であって、
ガラス母材を投入して加熱する炉体を有し、
該炉体のガラス母材の投入口において、ガラス母材と炉体の内壁との間隙を遮蔽する遮蔽部材を有することを特徴とする加熱延伸装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が、貴金属からなるシート材であって、該シート材が中央にガラス母材の断面よりも小さい母材通過口と、該通過口からシートの外周方向に向かう複数本の切れ目を有し、炉体の投入口を塞ぐように該炉体に取り付けられている請求項3に記載の加熱延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126725(P2009−126725A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300516(P2007−300516)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】