ガンマ線検出装置
【課題】検出できるエネルギーレンジを拡大したガンマ線検出装置を提供する。
【解決手段】ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器102,103の前方に、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器101を配置する。
【解決手段】ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器102,103の前方に、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器101を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガンマ線検出装置に関し、特にガンマ線の飛来方向を検出することのできるガンマ線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コリメータを用いることなくガンマ線の飛来方向あるいはガンマ線源の位置を検出することのできるガンマ線検出装置として、コンプトン散乱の運動学を利用するガンマ線検出装置が特開平9−101371号公報や特開2005−208057号公報に記載されている。このガンマ線検出装置は、位置分解能及びエネルギー分解能を有する2枚のゲルマニウム検出器を用い、前方のゲルマニウム検出器に入射してコンプトン散乱された後、後方のゲルマニウム検出器に入射して吸収されたガンマ線検出事象に着目し、2つのゲルマニウム検出器におけるガンマ線の検出位置及び検出エネルギーをもとにガンマ線源の存在する方向あるいは位置を演算するものである。T. Tanaka et al.: ”Development of a Si/CdTe semiconductor Compton telescope”, Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.には、シリコン検出器とテルル化カドミウム(CdTe)検出器を組み合わせ、同様の原理を応用したガンマ線天文学用の撮像装置が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−101371号公報
【特許文献2】特開2005−208057号公報
【非特許文献1】Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2枚のゲルマニウム検出器を用いるガンマ線検出装置は、広いエネルギー範囲のガンマ線を検出可能である。しかしながら、ガンマ線のエネルギーが低くなると、ゲルマニウム結晶中で光電吸収が起こる確率が高くなり、コンプトン散乱を利用するガンマ線の検出感度が低下する。図1は、ガンマ線のエネルギーをパラメータとして、コンプトン散乱の生起確率とゲルマニウムの厚さとの関係を示した図である。図から分かるように、ガンマ線のエネルギーが100keV程度まで低くなると、どんなにゲルマニウム結晶を厚くしたとしてもコンプトン散乱の起こる確率は2割程度にとどまり、検出効率が著しく低下してしまう。また、Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.に記載されているように、前面の検出器をシリコン半導体検出器にすると、ゲルマニウムに比べて、より低いエネルギーのガンマ線に対してもコンプトン散乱の生起確率を向上させることができる。しかしながらこの場合は、約200keV以上のガンマ線はシリコン検出器を透過し易くなり、コンプトン散乱の生起確率が低下してしまう。
【0005】
本発明は、検出できるエネルギーレンジを拡大したガンマ線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
2枚の位置感応型のゲルマニウム検出器の前方に、さらに位置感応型のシリコン検出器を追加する。そうすると、低いエネルギーのガンマ線のコンプトン散乱は主にシリコン検出器で起こり、散乱されたガンマ線は後方のゲルマニウム検出器で検出される。また、高いエネルギーのガンマ線はシリコン検出器を透過しやすくなるので、主に次段のゲルマニウム検出器中でコンプトン散乱され、散乱されたガンマ線は最後方の検出器で検出される。従って、低エネルギーから高エネルギーまでのガンマ線を高効率で撮像することが可能になる。これによって、2枚のゲルマニウム検出器を用いたガンマ線撮像装置では撮像が難しかった低エネルギーのガンマ線を放出するインビボ診断用のSPECT核種の撮像も可能になる。
【0007】
図2は、ゲルマニウム結晶とシリコン結晶中におけるコンプトン散乱の生起確率と結晶の厚さとの関係を示した図である。この図から明らかなように、1段目の検出器の素材をシリコンにすれば、エネルギーが100keV程度のガンマ線でもコンプトン散乱の生起確率を向上することができる。従って、1段目の検出器をシリコン、2段目の検出器をゲルマニウムやCdTeにすることが考えられる。しかし、ガンマ線のエネルギーが約200keV以上になると、シリコンよりもゲルマニウムの方がコンプトン散乱の生起確率が高いために、Si+CdTeなどの装置は高エネルギーのガンマ線の検出には向かない。
【0008】
そこで本発明では、相対的に高エネルギーのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高いガンマ線検出器(以下、高エネルギー用ガンマ線検出器という)を2枚配置した前方に、相対的に低エネルギーのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高いガンマ線検出器(以下、低エネルギー用ガンマ線検出器という)を配置した構成を採用する。
【0009】
すなわち、本発明のガンマ線検出装置は、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と、その前方に配置された、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器とを備える。高エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はゲルマニウム結晶を備え、低エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はシリコン結晶を備えるものとすることができる。
【0010】
低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器は、典型的には、エネルギー100keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より高く、エネルギー1000keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より低い検出器とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、低エネルギーのガンマ線から高エネルギーのガンマ線まで広いエネルギーレンジにわたって高い効率で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図3は、本発明によるガンマ線検出装置におけるガンマ線検出器の配置を示す模式図である。本発明によるガンマ線検出装置は、ガンマ線の入射側から、1段目の検出器101、2段目の検出器102、3段目の検出器103を順に平行に並べて配置した構造を有する。1段目の検出器101はシリコン半導体検出器からなる低エネルギー用ガンマ線検出器である。2段目の検出器102及び3段目の検出器103は、それぞれゲルマニウム半導体検出器からなる高エネルギー用ガンマ線検出器である。1段目の検出器101の材質はダイヤモンドとしてもよい。また、3段目の検出器103は、より原子番号が大きなCdTe検出器あるいはCdZnTe検出器などで代用することもできる。各ガンマ線検出器は、以下に説明するような原理でガンマ線との相互作用点の位置と相互作用によって検出器に与えられたエネルギーを測定可能な、位置感応型半導体検出器である。
【0013】
ガンマ線源から放出された100keV程度の低いエネルギーのガンマ線は主に1段目のシリコン検出器でコンプトン散乱される。その散乱されたガンマ線が2段目または3段目のゲルマニウム検出器で光電吸収されたとすると、それぞれの検出器で測定されたエネルギーをコンプトン散乱の運動学方程式に代入して散乱角を求めることができる。つまり、計測された2つの相互作用点を通る直線を軸とし、1段目の検出器中の相互作用点を頂点とした、散乱角の2倍の開角円錐が定まる。また、ガンマ線源から放出された約200keV以上の高いエネルギーのガンマ線は1段目のシリコン検出器を透過しやすくなり、主に2段目のゲルマニウム検出器でコンプトン散乱される。その散乱されたガンマ線が3段目の検出器で光電吸収されたとすると、低エネルギーガンマ線の場合と同様に、計測された2つの相互作用点を通る直線を軸とし、2段目の検出器中の相互作用点を頂点とした、散乱角の2倍の開角円錐が定まる。すなわち、コンプトンカメラ方式によって低エネルギーから高エネルギーまでのガンマ線を高効率で撮像することが可能になる。
【0014】
次に、本発明のガンマ線検出装置によるガンマ線源の検出原理について説明する。ここでは、ガンマ線の相互作用を検出した2つの検出器のうち、ガンマ線源により近い方の検出器でコンプトン散乱され、ガンマ線源からより遠い方の検出器で光電吸収された事象に着目し、前者の検出器を散乱検出器、後者の検出器を吸収検出器と呼ぶ。図3に示した検出器のうち、1段目の検出器101あるいは2段目の検出器102が散乱検出器となりうる。1段目の検出器101が散乱検出器の場合、吸収検出器となりうるのは2段目の検出器102と3段目の検出器103である。また、2段目の検出器102が散乱検出器の場合、吸収検出器となりうるのは3段目の検出器103である。
【0015】
図4は、散乱検出器と吸収検出器によるガンマ線源の検出原理を示した図である。
図示したガンマ線14,15は、散乱検出器11に入射してそこでコンプトン散乱された後、吸収検出器12に入射してそこで全エネルギーを失ったものであり、本発明ではこのような事象に注目する。なお、ガンマ線14とガンマ線15は別々の時間に検出部10に入射したものとする。
【0016】
この時、例えばガンマ線14は前方の散乱検出器11にE1のエネルギーを付与し、後方の吸収検出器12にE2のエネルギーを付与するため、次式(1)の関係が成り立つ。
【0017】
E=E1+E2 (1)
【0018】
この測定されたエネルギーEによって核種を識別することができる。そして、コンプトン散乱の運動学から、コンプトン散乱角θは次式(2)によって計算される。ここでmcは電子の静止質量、cは光速度である。
【0019】
【数1】
【0020】
これらの関係からガンマ線源13は、散乱検出器11中でガンマ線14がコンプトン散乱を起こした相互作用点と、散乱されたガンマ線が吸収検出器12で吸収された相互作用点を結ぶ直線に対して頂角が2θの円錐面上にあることが分かる。従って、このような事象を2組以上計測し、夫々の組み合わせに対して円錐面を作り、それらの円錐面が重なり合う位置を求めると、その位置はガンマ線源13の存在する位置の候補である。事象の計測数、すなわち円錐面の数を多くすればするほど、それらの重なり合う領域を狭めることができ、高い精度でガンマ線源の存在位置を求めることができる。
【0021】
図5は、個々のガンマ線検出器の構造例を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。ただし、本発明で使用できるガンマ線検出器は、図5に示す構造の検出器に限られず、ガンマ線との相互作用位置とエネルギーを検出できるガンマ線検出器であれば、どのような検出器でも使用可能である。
【0022】
図示のようにX、Y、Z座標系を設定して説明する。この検出器は、寸法a×b×cの平板型のガンマ線検出結晶20の両面に短冊状に分割された電極を形成したものである。平板型のガンマ線検出結晶20の一方の表面には、幅dで長さがaのX方向に細長い電極ストリップ21が複数本、密に並べて形成されている。また、平板型のガンマ線検出結晶20の反対側の表面には、幅dで長さがbのY方向に細長い電極ストリップ22が複数本、密に並べて形成されている。一方の表面の電極ストリップは陽極(以下、陽極ストリップという)とされ、反対側の表面面の電極ストリップは陰極(以下、陰極ストリップという)とされる。このように平板型のガンマ線検出結晶20の表面と裏面には、互いに直交する方向に延びる陽極ストリップ21と陰極ストリップ22がそれぞれ複数本設けられており、ガンマ線とガンマ線検出結晶との相互作用による信号が強く検出される陽極ストリップと陰極ストリップの組み合わせによって、相互作用点の大まかなXY座標が分かるようになっている。
【0023】
以下では、一例として、a=39mm、b=39mm、c=20mm、d=3mmとし、ガンマ線入射側の電極を陽極、反対側の電極を陰極とした例によって説明する。最初に、平板型のガンマ線検出結晶20内におけるガンマ線の相互作用点の結晶表面からの深さ方向の位置DOI(Depth of interaction)を求める方法について説明する。
【0024】
図6は、電極分割型平板ガンマ線検出器の内部でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用したとき、陽極ストリップ及び陰極ストリップから発生する出力信号をシミュレートした図である。図示した信号は相互作用点に最も近い陽極ストリップ及び陰極ストリップからの信号である。ガンマ線の相互作用点の深さ方向の位置(DOI)によって信号波形が変化する。
【0025】
図7は、1つの検出事象について、陽極ストリップ21で検出された信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間と陰極ストリップ22で検出された信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間の差と、DOIとの関係を図示したものである。この時間差とDOIとがほぼ直線関係にあることが分かる。従って、図7の関係を記憶しておき、測定された時間差を図7の関係に当てはめることによってDOI、すなわち相互作用点のガンマ線検出結晶の表面からの深さを知ることができる。
【0026】
電極分割型平板ガンマ線検出器内でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用すると、検出器の表面(ガンマ線入射側)に設けられた複数の陽極ストリップから信号が発生されるが、相互作用点に最も近い位置にある陽極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。同様に、陽極ストリップと直交するようにして検出器の裏面に設けられた複数の陰極ストリップから発生される信号も、相互作用点に最も近い陰極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。従って、複数の陽極ストリップの中で信号振幅が最大の陽極ストリップの位置と、複数の陰極ストリップの中で信号振幅が最大の陰極ストリップの位置から相互作用点のXY座標を知ることができるが、電極ストリップは幅dを有するため、この方法によって知ることのできる相互作用点のX座標及びY座標は、それぞれ最大d/2(図示の例ではd=3mm)の誤差を含んでいる。そこで、以下に説明する方法により、相互作用点のXY座標を電極ストリップの幅より小さな精度で決定する。
【0027】
図8は、ガンマ線検出結晶とガンマ線の相互作用点の横方向位置、すなわち電極ストリップの幅内における位置を高精度に測定する方法を説明する図である。電極分割型平板ガンマ線検出器内でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用すると、前述のように、検出器の表面に設けられた複数の陽極ストリップから信号が検出され、相互作用点に最も近い陽極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。同様に、検出器の裏面に設けられた複数の陰極ストリップからも信号が検出されるが、相互作用点に最も近い陰極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。
【0028】
図8は、最大の信号振幅を示す電極ストリップの両隣の電極ストリップによって検出される信号波形を示した図である。図8の左側のグラフは最大の信号振幅を示す電極ストリップの左隣の電極ストリップの信号波形、右側のグラフは最大の信号振幅を示す電極ストリップの右隣の電極ストリップの信号波形であり、上からDOI=1mm、5mm、10mmのときをシミュレーションしたものである。相互作用点の、幅3mmの電極ストリップの中心線からのずれ量(TOI:Transverse position of interaction)は全て同じで1mmである。右隣の電極ストリップの信号波形の最大振幅をA+、左隣の電極ストリップの信号波形の最大振幅をA-として、次式で表されるパラメータLを計算する。
【0029】
【数2】
【0030】
図9は、TOIと上式(3)で定義したパラメータLの関係を示す図である。図示するように、TOIとパラメータLはほぼ直線の関係を有する。従って、図9の関係を記憶しておき、最大の信号振幅を示す電極ストリップの両隣の電極ストリップの信号波形から測定された振幅A+、A-をもとに計算されるパラメータLを図9の関係に当てはめることによってTOI、すなわち電極ストリップの幅d内におけるガンマ線の相互作用点の位置を高精度に知ることができる。これをX方向に細長い陽極ストリップ21に関して行うことにより相互作用点のY座標位置を高精度に求めることができ、またY方向に細長い陰極ストリップ22に関して行うことにより相互作用点のX座標位置を高精度に求めることができる。
【0031】
相互作用点に最も近いストリップであるか、その両隣のストリップであるかは、それらのストリップから得られる信号波形の違いを使って識別することができる。相互作用点に最も近いストリップの信号は、図6で例えば500nsのところで波高が±100になっているのに対し、両隣のストリップからの信号は、図8で例えば300nsのところで波高が0になっている。そこで、この波形の違いを識別するための波形弁別器を製作し適用すれば両者を識別でき、DOIを検出するためのストリップ(DOIストリップ)であるか、TOIを検出するためのストリップ(TOIストリップ)であるかがわかる。
【0032】
図10は、本発明によるガンマ線撮像装置の信号処理部の例を示す概略ブロック図である。検出部10の1段目、2段目及び3段目の検出器101,102,103は液体窒素容器内の液体窒素で冷却される銅製コールドフィンガーに固定されて冷却されている。1段目の検出器101に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号はそれぞれの前置増幅器によって増幅される。同様に、2段目の検出器102に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号、3段目の検出器103に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号もそれぞれの前置増幅器によって増幅される。図には、1段目の検出器101の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器1及び前置増幅器3で代表させて表示し、2段目の検出器102の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器2及び前置増幅器4で代表させて表示し、3段目の検出器103の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器5及び前置増幅器6で代表させて表示した。
【0033】
それぞれの前置増幅器の出力信号は、図11に詳細を示す信号処理回路32に入力される。この信号処理回路32は、入力信号がDOIストリップのものであったならば出力Aにエネルギー信号を出力し、出力Tに時間信号を出力する。DOIストリップのものでなかったならば出力Aの信号はTOIの測定に利用され、出力Tには信号を出力しない。図11に図示するように、信号処理回路32に入力された信号は4つに分けられ、それぞれ波形弁別器41、振幅測定器42、成形増幅器43、TFA44に入力される。
【0034】
ここで、図10及び図11に示した各要素回路の動作について説明する。前置増幅器31は電荷感応型前置増幅器と呼ばれるもので、ガンマ線の相互作用によって検出器中に生成される電荷量に比例した波高の信号を出力する。波形弁別器41は、前置増幅器31の出力波形が、ある閾値を超えた後、300ns後にもある波高を保っていればゲート信号を出力し、そうでなければ何も出力しないように設定されている。振幅測定器42は、前置増幅器31の出力の、最大値と最小値の差を出力する回路である。成形増幅器43は、前置増幅器31の波高に比例した波高の出力を精度良く出力するため、セミガウシアン型の波形を生成する。この回路は、CRの微分回路の後にRCの積分回路を多段つなげて実現される。TFA(タイミング・フィルタ・アンプ)44は、帯域通過回路になっている。ここでは、低域通過の時定数を50ns、高域通過の時定数を500nsとした。
【0035】
CFD45は、コンスタント・フラクション・ディスクリミネータと呼ばれる市販の回路であり、その動作原理を図12より説明する。(a)に示す入力信号51を2つに分け、(b)に示すように、入力信号51をtdだけ遅らせた信号52と、(c)に示すように、入力信号51を反転させ振幅をf倍した信号53を作る。その後、(d)に示すように、信号52と信号53を足し合わせた信号54を作ると、その波高が0になる時間tf は、入力信号51の波高が最大値のf倍になる時間にtdを加えた時間になる。こうして、立ち上がり波形あるいは立ち下がり波形の信号をCFDに通すことにより、波高の最大値のf倍になるまでの時間を知ることができる。
【0036】
同時計測回路33は、入力信号の時間差がある設定値より短かった場合、ゲート信号を出力する回路である。ゲート信号の幅と遅延時間は可変である。3つの検出器101,102,103のうちのどれか2つだけでガンマ線の相互作用を検出した事象を同時計測回路33で選択し、データを取得する。時間差記録器35は、同時計測回路33のゲート信号出力をスタート信号として使い、信号処理回路32の出力Tを遅延回路34で遅らせた信号をストップ信号として使い、スタート信号とストップ信号の時間差を記録する回路である。波高記録器36は、同時計測回路33のゲート信号が出力されている間の、信号処理回路32の出力Aの信号の波高の最大値を記録する回路である。
【0037】
次に、図10及び図11に示した信号処理部の動作について説明する。波形弁別器41では、入力された信号がDOIストリップのものであるか、そうでないかが調べられる。もしDOIストリップであったならばゲート信号を出力し、振幅測定器42の出力信号を出力しないようにすると同時に、成形増幅器43及びCFD44の出力信号を出力できるようにする。逆に、DOIストリップでなかったならば、ゲート信号を出力せず、振幅測定器42の出力信号を出力できるようにし、成形増幅器43及びCFD44の出力信号を出力しないようにする。振幅測定器42では、DOIストリップではなかった場合に、入力信号の最大値と最小値の差が測定され出力される。成形増幅器43からは、エネルギーの測定に適した波形の信号が生成される。TFA44では、時間の測定に適した波形の信号が生成される。TFA44の出力はCFD45に入力され、波高の最大値の50%になったときに出力信号を生成する。
【0038】
信号処理回路1、信号処理回路2及び信号処理回路6の信号がDOIストリップのものであったとすると、それぞれの出力Tの信号が同時計測回路33に入力される。それらの入力信号の間の時間差が、ある設定値よりも短かったならば、同時計測回路33からゲート信号が出力され、時間差記録器35及び波高記録器36を作動させる。時間差記録器35のストップ信号は、出力Tの信号を、遅延回路34を通して作られる。波高記録器36の入力には、出力Aの信号が入力される。
【0039】
上述のようにDOIストリップの信号に対してのみ、信号処理回路32の出力Tが出力される。つまり、時間差記録器35の、DOIストリップに対応するチャンネルにのみデータが作られる。そして、データ転送の処理により、波高記録器36のデータのうちで、このチャンネルに対応するデータと、その両隣のチャンネルのデータを転送する。時間差記録器35及び波高記録器36のデータは、測定事象ごとにコンピュータ37に転送され、画像生成のための処理が行われる。転送されるデータの内訳を図13に示す。
【0040】
図13において、t1からt4は時間差記録器35のデータである。t1及びt3は散乱検出器の陰極ストリップ及び陽極ストリップのデータであり、t2及びt4は吸収検出器の陰極ストリップ及び陽極ストリップのデータである。それぞれのデータには、チャンネルを特定するためのID情報とそのチャンネルから得られた数値が組になって記録されている。E1以降は波高記録器36のデータである。E1及びE3は散乱検出器のそれぞれ陰極及び陽極のDOIストリップによるデータであり、E2及びE4は吸収検出器のそれぞれ陰極及び陽極のDOIストリップによるデータである。A1+及びA1−は、散乱検出器の陰極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A2+及びA2−は、吸収検出器の陰極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A3+及びA3−は、散乱検出器の陽極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A4+及びA4−は、吸収検出器の陽極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。
【0041】
コンピュータ37によるデータの処理の流れを図14に示す。この処理は、検出事象の数だけ繰り返し行われる。ステップ11にてデータを読み込んだのち、ステップ12で検出パターンの検査を行う。この検出パターンの検査は、時間差記録器35のデータにより行う。時間差記録器35のあるチャンネルにデータが存在した場合、そのデータの元となったストリップはDOIストリップであったことになる。ここでは、散乱検出器及び吸収検出器のそれぞれの陰極及び陽極のストリップのうちでそれぞれ1つだけがDOIストリップであった場合にのみ次の処理に進む。検出器に同時に2個のガンマ線が入射するなどしてDOIストリップの信号が2つ以上となった場合、その事象は後の解析から除外する。次に、ステップ13においてエネルギーの検査を行う。このエネルギーの検査は、波高記録器36のE1及びE2を使って行う。E1とE2の和が目的のガンマ線のエネルギーと等しい場合にのみ次の処理に進む。ステップ14のDOIの演算は、時間差記録器35のデータを使って行う。t1とt3の差から散乱検出器におけるDOIが計算され、t2とt4の差から吸収検出器におけるDOIが計算される。続くステップ15のTOIの演算は、波高記録器36のデータを使って行う。ここでは、陰極の分割の方向をX方向、陽極の分割の方向をY方向とする。A1+及びA1−から散乱検出器のX方向のTOIが計算され、A3+及びA3−から散乱検出器のY方向のTOIが計算される。同様にして、A2+及びA2−から吸収検出器のX方向のTOIが計算され、A4+及びA4−から吸収検出器のY方向のTOIが計算される。こうして、散乱検出器中と吸収検出器中での相互作用点が高精度に求められる。次に、ステップ16に進み、散乱検出器で検出されたエネルギーE1と吸収検出器で検出されたエネルギーE2を上式(2)に当てはめてコンプトン散乱角θを計算する。
【0042】
こうして複数の検出事象の各事象毎に、散乱検出器中での相互作用点、吸収検出器中での相互作用点、コンプトン散乱角θの情報をもとに図4に示したような円錐面が計算される。そこで、検出されたガンマ線エネルギーE(=E1+E2)から同一核種から放出されたガンマ線に起因すると判断される事象を集め、その事象の集合に属する円錐面を重ねることによってその核種の存在位置を求めることができ、線源の空間分布を像として表示することができる。
【0043】
E1とE2の和が複数あってガンマ線源として複数の核種が存在する場合には、コンプトン散乱の運動学で計算された円錐面をエネルギーによって核種毎にグループ化し、それぞれの核種に対して独立して円錐面を重ねることによって各核種の存在位置を分離して求めることができる。
【0044】
本発明のガンマ線検出装置を使うと、低いエネルギーのガンマ線は主にシリコン検出器でコンプトン散乱され、散乱されたガンマ線は後方のゲルマニウム検出器で検出される。一方、高いエネルギーのガンマ線はシリコン検出器を透過しやすくなるので、従来通りの2枚のゲルマニウム検出器によって検出することができる。これによって、約100keV程度の低エネルギーのガンマ線から2MeV程度の高エネルギーのガンマ線まで高効率で検出することが可能になる。
【0045】
ここで、本発明によってどの程度、検出効率が改善するかを評価した例を示す。図15に示したガンマ線検出器の組み合わせについて、ガンマ線の検出効率を比較した。図15(a)は、本発明のガンマ線検出装置が採用した検出器の組み合わせであり、1段目の検出器は厚さ10mmのシリコンからなり、2段目の検出器は厚さ10mmのゲルマニウム、3段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなるものとした。図15(b)は、比較例のガンマ線検出装置を示し、1段目の検出器は厚さ10mmのシリコンからなり、2段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなる。図15(c)も、比較例のガンマ線検出装置を示し、1段目の検出器は厚さ10mmのゲルマニウムからなり、2段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなる。いずれの場合も、検出器の縦・横の寸法は39mm×39mmとし、検出器の間隔は30mm、ガンマ線源は1段目の検出器の前方30mmの位置にあるとした。
【0046】
図15に示した各検出器の組み合わせについて、ガンマ線源から放出される100keV及び1000keVのガンマ線を撮像した場合の検出効率をモンテカルロシミュレーションによって比較した。図16はガンマ線のエネルギーが100keVの場合の検出効率を示し、図17はガンマ線のエネルギーが1000keVの場合の検出効率を示している。
【0047】
図16及び図17中の「Ge+Ge」は図15(c)に示した比較例のガンマ線検出装置、「Si+Ge」は図15(b)に示した低エネルギー用のガンマ線検出装置、そして「Si+Ge+Ge」は図15(a)に示した本発明によるガンマ線検出装置を示す。ガンマ線のエネルギーが100keVのとき、Ge+Geの組み合わせの検出装置は検出効率が著しく低下しているが、Si+Ge+Geの組み合わせの検出装置はSi+Geの組み合わせの検出装置と同等の検出効率が得られることがわかる。また、ガンマ線のエネルギーが1000keVの場合、本発明の検出装置はSi+Geの組み合わせの検出装置に比べて2倍以上の検出効率が得られていることがわかる。こうして、本発明によると、エネルギーが約100keVから2MeVの範囲のガンマ線を、高解像度・高効率で撮像可能な装置をコンプトンカメラ方式で実現することができる。
【0048】
図18は、本発明によるガンマ線検出装置で撮像した場合に、どの検出器の組み合わせでどのような頻度で相互作用が起こるかを示す図である。図中のGe1+Ge2、Si+Ge2及びSi+Ge1はそれぞれ2段目と3段目、1段目と3段目及び1段目と2段目の検出器の組み合わせを示す。エネルギーが100keVの場合は94.28%がSi+Ge1で相互作用が起こっており、3段目の検出器の寄与は小さい。しかし、エネルギーが1000keVの場合は、63.44%がGe1+Ge2で相互作用が起こっていることがわかる。つまり、この発明によって、低エネルギーから高エネルギーまで検出効率が改善されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コンプトン散乱の生起確率を説明する図。
【図2】ゲルマニウム結晶とシリコン結晶中におけるコンプトン散乱の生起確率と結晶の厚さとの関係を示した図。
【図3】本発明によるガンマ線検出装置におけるガンマ線検出器の配置を示す模式図。
【図4】本発明によるガンマ線撮像装置の検出部の概略構成図と、ガンマ線源の検出原理を示した図。
【図5】本発明による電極分割型平板ガンマ線検出器の構造例を示す図。
【図6】電極分割型平板ガンマ線検出器の陽極及び陰極の出力信号をシミュレーションした図。
【図7】陽極と陰極間における、信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間の差とDOIの関係を示す図。
【図8】ガンマ線の相互作用点の横方向の位置の測定法の説明図。
【図9】TOIと図6で定義したパラメータの関係を示す図。
【図10】本発明によるガンマ線撮像装置の信号処理部の例を示す概略ブロック図。
【図11】信号処理回路の詳細図。
【図12】CFDの動作原理を説明する図。
【図13】コンピュータに転送されるデータの内訳を示す図。
【図14】コンピュータによるデータ処理のフローチャート。
【図15】ガンマ線検出装置の構成例を示す図。
【図16】ガンマ線検出装置の検出効率を比較して示した図。
【図17】ガンマ線検出装置の検出効率を比較して示した図。
【図18】相互作用した検出器の組み合わせの説明図。
【符号の説明】
【0050】
10:検出部、11:散乱検出器、12:吸収検出器、13:ガンマ線源、14,15:ガンマ線、20: ガンマ線検出結晶、21:陽極ストリップ、22:陰極ストリップ、31:前置増幅器、32:信号処理回路、33:同時計測回路、34:遅延回路、35:時間差記録器、36:波高記録器、37:コンピュータ、41:波形弁別器、42:振幅測定器、43:成形増幅器、44:TFA、45:CFD、101:1段目の検出器、102:2段目の検出器、103:3段目の検出器
【技術分野】
【0001】
本発明はガンマ線検出装置に関し、特にガンマ線の飛来方向を検出することのできるガンマ線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コリメータを用いることなくガンマ線の飛来方向あるいはガンマ線源の位置を検出することのできるガンマ線検出装置として、コンプトン散乱の運動学を利用するガンマ線検出装置が特開平9−101371号公報や特開2005−208057号公報に記載されている。このガンマ線検出装置は、位置分解能及びエネルギー分解能を有する2枚のゲルマニウム検出器を用い、前方のゲルマニウム検出器に入射してコンプトン散乱された後、後方のゲルマニウム検出器に入射して吸収されたガンマ線検出事象に着目し、2つのゲルマニウム検出器におけるガンマ線の検出位置及び検出エネルギーをもとにガンマ線源の存在する方向あるいは位置を演算するものである。T. Tanaka et al.: ”Development of a Si/CdTe semiconductor Compton telescope”, Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.には、シリコン検出器とテルル化カドミウム(CdTe)検出器を組み合わせ、同様の原理を応用したガンマ線天文学用の撮像装置が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−101371号公報
【特許文献2】特開2005−208057号公報
【非特許文献1】Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2枚のゲルマニウム検出器を用いるガンマ線検出装置は、広いエネルギー範囲のガンマ線を検出可能である。しかしながら、ガンマ線のエネルギーが低くなると、ゲルマニウム結晶中で光電吸収が起こる確率が高くなり、コンプトン散乱を利用するガンマ線の検出感度が低下する。図1は、ガンマ線のエネルギーをパラメータとして、コンプトン散乱の生起確率とゲルマニウムの厚さとの関係を示した図である。図から分かるように、ガンマ線のエネルギーが100keV程度まで低くなると、どんなにゲルマニウム結晶を厚くしたとしてもコンプトン散乱の起こる確率は2割程度にとどまり、検出効率が著しく低下してしまう。また、Proceedings of SPIE 5501(2004) pp.229-240.に記載されているように、前面の検出器をシリコン半導体検出器にすると、ゲルマニウムに比べて、より低いエネルギーのガンマ線に対してもコンプトン散乱の生起確率を向上させることができる。しかしながらこの場合は、約200keV以上のガンマ線はシリコン検出器を透過し易くなり、コンプトン散乱の生起確率が低下してしまう。
【0005】
本発明は、検出できるエネルギーレンジを拡大したガンマ線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
2枚の位置感応型のゲルマニウム検出器の前方に、さらに位置感応型のシリコン検出器を追加する。そうすると、低いエネルギーのガンマ線のコンプトン散乱は主にシリコン検出器で起こり、散乱されたガンマ線は後方のゲルマニウム検出器で検出される。また、高いエネルギーのガンマ線はシリコン検出器を透過しやすくなるので、主に次段のゲルマニウム検出器中でコンプトン散乱され、散乱されたガンマ線は最後方の検出器で検出される。従って、低エネルギーから高エネルギーまでのガンマ線を高効率で撮像することが可能になる。これによって、2枚のゲルマニウム検出器を用いたガンマ線撮像装置では撮像が難しかった低エネルギーのガンマ線を放出するインビボ診断用のSPECT核種の撮像も可能になる。
【0007】
図2は、ゲルマニウム結晶とシリコン結晶中におけるコンプトン散乱の生起確率と結晶の厚さとの関係を示した図である。この図から明らかなように、1段目の検出器の素材をシリコンにすれば、エネルギーが100keV程度のガンマ線でもコンプトン散乱の生起確率を向上することができる。従って、1段目の検出器をシリコン、2段目の検出器をゲルマニウムやCdTeにすることが考えられる。しかし、ガンマ線のエネルギーが約200keV以上になると、シリコンよりもゲルマニウムの方がコンプトン散乱の生起確率が高いために、Si+CdTeなどの装置は高エネルギーのガンマ線の検出には向かない。
【0008】
そこで本発明では、相対的に高エネルギーのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高いガンマ線検出器(以下、高エネルギー用ガンマ線検出器という)を2枚配置した前方に、相対的に低エネルギーのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高いガンマ線検出器(以下、低エネルギー用ガンマ線検出器という)を配置した構成を採用する。
【0009】
すなわち、本発明のガンマ線検出装置は、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と、その前方に配置された、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器とを備える。高エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はゲルマニウム結晶を備え、低エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はシリコン結晶を備えるものとすることができる。
【0010】
低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器は、典型的には、エネルギー100keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より高く、エネルギー1000keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より低い検出器とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、低エネルギーのガンマ線から高エネルギーのガンマ線まで広いエネルギーレンジにわたって高い効率で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図3は、本発明によるガンマ線検出装置におけるガンマ線検出器の配置を示す模式図である。本発明によるガンマ線検出装置は、ガンマ線の入射側から、1段目の検出器101、2段目の検出器102、3段目の検出器103を順に平行に並べて配置した構造を有する。1段目の検出器101はシリコン半導体検出器からなる低エネルギー用ガンマ線検出器である。2段目の検出器102及び3段目の検出器103は、それぞれゲルマニウム半導体検出器からなる高エネルギー用ガンマ線検出器である。1段目の検出器101の材質はダイヤモンドとしてもよい。また、3段目の検出器103は、より原子番号が大きなCdTe検出器あるいはCdZnTe検出器などで代用することもできる。各ガンマ線検出器は、以下に説明するような原理でガンマ線との相互作用点の位置と相互作用によって検出器に与えられたエネルギーを測定可能な、位置感応型半導体検出器である。
【0013】
ガンマ線源から放出された100keV程度の低いエネルギーのガンマ線は主に1段目のシリコン検出器でコンプトン散乱される。その散乱されたガンマ線が2段目または3段目のゲルマニウム検出器で光電吸収されたとすると、それぞれの検出器で測定されたエネルギーをコンプトン散乱の運動学方程式に代入して散乱角を求めることができる。つまり、計測された2つの相互作用点を通る直線を軸とし、1段目の検出器中の相互作用点を頂点とした、散乱角の2倍の開角円錐が定まる。また、ガンマ線源から放出された約200keV以上の高いエネルギーのガンマ線は1段目のシリコン検出器を透過しやすくなり、主に2段目のゲルマニウム検出器でコンプトン散乱される。その散乱されたガンマ線が3段目の検出器で光電吸収されたとすると、低エネルギーガンマ線の場合と同様に、計測された2つの相互作用点を通る直線を軸とし、2段目の検出器中の相互作用点を頂点とした、散乱角の2倍の開角円錐が定まる。すなわち、コンプトンカメラ方式によって低エネルギーから高エネルギーまでのガンマ線を高効率で撮像することが可能になる。
【0014】
次に、本発明のガンマ線検出装置によるガンマ線源の検出原理について説明する。ここでは、ガンマ線の相互作用を検出した2つの検出器のうち、ガンマ線源により近い方の検出器でコンプトン散乱され、ガンマ線源からより遠い方の検出器で光電吸収された事象に着目し、前者の検出器を散乱検出器、後者の検出器を吸収検出器と呼ぶ。図3に示した検出器のうち、1段目の検出器101あるいは2段目の検出器102が散乱検出器となりうる。1段目の検出器101が散乱検出器の場合、吸収検出器となりうるのは2段目の検出器102と3段目の検出器103である。また、2段目の検出器102が散乱検出器の場合、吸収検出器となりうるのは3段目の検出器103である。
【0015】
図4は、散乱検出器と吸収検出器によるガンマ線源の検出原理を示した図である。
図示したガンマ線14,15は、散乱検出器11に入射してそこでコンプトン散乱された後、吸収検出器12に入射してそこで全エネルギーを失ったものであり、本発明ではこのような事象に注目する。なお、ガンマ線14とガンマ線15は別々の時間に検出部10に入射したものとする。
【0016】
この時、例えばガンマ線14は前方の散乱検出器11にE1のエネルギーを付与し、後方の吸収検出器12にE2のエネルギーを付与するため、次式(1)の関係が成り立つ。
【0017】
E=E1+E2 (1)
【0018】
この測定されたエネルギーEによって核種を識別することができる。そして、コンプトン散乱の運動学から、コンプトン散乱角θは次式(2)によって計算される。ここでmcは電子の静止質量、cは光速度である。
【0019】
【数1】
【0020】
これらの関係からガンマ線源13は、散乱検出器11中でガンマ線14がコンプトン散乱を起こした相互作用点と、散乱されたガンマ線が吸収検出器12で吸収された相互作用点を結ぶ直線に対して頂角が2θの円錐面上にあることが分かる。従って、このような事象を2組以上計測し、夫々の組み合わせに対して円錐面を作り、それらの円錐面が重なり合う位置を求めると、その位置はガンマ線源13の存在する位置の候補である。事象の計測数、すなわち円錐面の数を多くすればするほど、それらの重なり合う領域を狭めることができ、高い精度でガンマ線源の存在位置を求めることができる。
【0021】
図5は、個々のガンマ線検出器の構造例を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。ただし、本発明で使用できるガンマ線検出器は、図5に示す構造の検出器に限られず、ガンマ線との相互作用位置とエネルギーを検出できるガンマ線検出器であれば、どのような検出器でも使用可能である。
【0022】
図示のようにX、Y、Z座標系を設定して説明する。この検出器は、寸法a×b×cの平板型のガンマ線検出結晶20の両面に短冊状に分割された電極を形成したものである。平板型のガンマ線検出結晶20の一方の表面には、幅dで長さがaのX方向に細長い電極ストリップ21が複数本、密に並べて形成されている。また、平板型のガンマ線検出結晶20の反対側の表面には、幅dで長さがbのY方向に細長い電極ストリップ22が複数本、密に並べて形成されている。一方の表面の電極ストリップは陽極(以下、陽極ストリップという)とされ、反対側の表面面の電極ストリップは陰極(以下、陰極ストリップという)とされる。このように平板型のガンマ線検出結晶20の表面と裏面には、互いに直交する方向に延びる陽極ストリップ21と陰極ストリップ22がそれぞれ複数本設けられており、ガンマ線とガンマ線検出結晶との相互作用による信号が強く検出される陽極ストリップと陰極ストリップの組み合わせによって、相互作用点の大まかなXY座標が分かるようになっている。
【0023】
以下では、一例として、a=39mm、b=39mm、c=20mm、d=3mmとし、ガンマ線入射側の電極を陽極、反対側の電極を陰極とした例によって説明する。最初に、平板型のガンマ線検出結晶20内におけるガンマ線の相互作用点の結晶表面からの深さ方向の位置DOI(Depth of interaction)を求める方法について説明する。
【0024】
図6は、電極分割型平板ガンマ線検出器の内部でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用したとき、陽極ストリップ及び陰極ストリップから発生する出力信号をシミュレートした図である。図示した信号は相互作用点に最も近い陽極ストリップ及び陰極ストリップからの信号である。ガンマ線の相互作用点の深さ方向の位置(DOI)によって信号波形が変化する。
【0025】
図7は、1つの検出事象について、陽極ストリップ21で検出された信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間と陰極ストリップ22で検出された信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間の差と、DOIとの関係を図示したものである。この時間差とDOIとがほぼ直線関係にあることが分かる。従って、図7の関係を記憶しておき、測定された時間差を図7の関係に当てはめることによってDOI、すなわち相互作用点のガンマ線検出結晶の表面からの深さを知ることができる。
【0026】
電極分割型平板ガンマ線検出器内でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用すると、検出器の表面(ガンマ線入射側)に設けられた複数の陽極ストリップから信号が発生されるが、相互作用点に最も近い位置にある陽極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。同様に、陽極ストリップと直交するようにして検出器の裏面に設けられた複数の陰極ストリップから発生される信号も、相互作用点に最も近い陰極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。従って、複数の陽極ストリップの中で信号振幅が最大の陽極ストリップの位置と、複数の陰極ストリップの中で信号振幅が最大の陰極ストリップの位置から相互作用点のXY座標を知ることができるが、電極ストリップは幅dを有するため、この方法によって知ることのできる相互作用点のX座標及びY座標は、それぞれ最大d/2(図示の例ではd=3mm)の誤差を含んでいる。そこで、以下に説明する方法により、相互作用点のXY座標を電極ストリップの幅より小さな精度で決定する。
【0027】
図8は、ガンマ線検出結晶とガンマ線の相互作用点の横方向位置、すなわち電極ストリップの幅内における位置を高精度に測定する方法を説明する図である。電極分割型平板ガンマ線検出器内でガンマ線がガンマ線検出結晶と相互作用すると、前述のように、検出器の表面に設けられた複数の陽極ストリップから信号が検出され、相互作用点に最も近い陽極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。同様に、検出器の裏面に設けられた複数の陰極ストリップからも信号が検出されるが、相互作用点に最も近い陰極ストリップから発生される信号が最大の振幅を示す。
【0028】
図8は、最大の信号振幅を示す電極ストリップの両隣の電極ストリップによって検出される信号波形を示した図である。図8の左側のグラフは最大の信号振幅を示す電極ストリップの左隣の電極ストリップの信号波形、右側のグラフは最大の信号振幅を示す電極ストリップの右隣の電極ストリップの信号波形であり、上からDOI=1mm、5mm、10mmのときをシミュレーションしたものである。相互作用点の、幅3mmの電極ストリップの中心線からのずれ量(TOI:Transverse position of interaction)は全て同じで1mmである。右隣の電極ストリップの信号波形の最大振幅をA+、左隣の電極ストリップの信号波形の最大振幅をA-として、次式で表されるパラメータLを計算する。
【0029】
【数2】
【0030】
図9は、TOIと上式(3)で定義したパラメータLの関係を示す図である。図示するように、TOIとパラメータLはほぼ直線の関係を有する。従って、図9の関係を記憶しておき、最大の信号振幅を示す電極ストリップの両隣の電極ストリップの信号波形から測定された振幅A+、A-をもとに計算されるパラメータLを図9の関係に当てはめることによってTOI、すなわち電極ストリップの幅d内におけるガンマ線の相互作用点の位置を高精度に知ることができる。これをX方向に細長い陽極ストリップ21に関して行うことにより相互作用点のY座標位置を高精度に求めることができ、またY方向に細長い陰極ストリップ22に関して行うことにより相互作用点のX座標位置を高精度に求めることができる。
【0031】
相互作用点に最も近いストリップであるか、その両隣のストリップであるかは、それらのストリップから得られる信号波形の違いを使って識別することができる。相互作用点に最も近いストリップの信号は、図6で例えば500nsのところで波高が±100になっているのに対し、両隣のストリップからの信号は、図8で例えば300nsのところで波高が0になっている。そこで、この波形の違いを識別するための波形弁別器を製作し適用すれば両者を識別でき、DOIを検出するためのストリップ(DOIストリップ)であるか、TOIを検出するためのストリップ(TOIストリップ)であるかがわかる。
【0032】
図10は、本発明によるガンマ線撮像装置の信号処理部の例を示す概略ブロック図である。検出部10の1段目、2段目及び3段目の検出器101,102,103は液体窒素容器内の液体窒素で冷却される銅製コールドフィンガーに固定されて冷却されている。1段目の検出器101に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号はそれぞれの前置増幅器によって増幅される。同様に、2段目の検出器102に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号、3段目の検出器103に設けられた複数の陽極ストリップ及び複数の陰極ストリップからの信号もそれぞれの前置増幅器によって増幅される。図には、1段目の検出器101の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器1及び前置増幅器3で代表させて表示し、2段目の検出器102の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器2及び前置増幅器4で代表させて表示し、3段目の検出器103の陰極ストリップ及び陽極ストリップに接続されている前置増幅器を、それぞれ前置増幅器5及び前置増幅器6で代表させて表示した。
【0033】
それぞれの前置増幅器の出力信号は、図11に詳細を示す信号処理回路32に入力される。この信号処理回路32は、入力信号がDOIストリップのものであったならば出力Aにエネルギー信号を出力し、出力Tに時間信号を出力する。DOIストリップのものでなかったならば出力Aの信号はTOIの測定に利用され、出力Tには信号を出力しない。図11に図示するように、信号処理回路32に入力された信号は4つに分けられ、それぞれ波形弁別器41、振幅測定器42、成形増幅器43、TFA44に入力される。
【0034】
ここで、図10及び図11に示した各要素回路の動作について説明する。前置増幅器31は電荷感応型前置増幅器と呼ばれるもので、ガンマ線の相互作用によって検出器中に生成される電荷量に比例した波高の信号を出力する。波形弁別器41は、前置増幅器31の出力波形が、ある閾値を超えた後、300ns後にもある波高を保っていればゲート信号を出力し、そうでなければ何も出力しないように設定されている。振幅測定器42は、前置増幅器31の出力の、最大値と最小値の差を出力する回路である。成形増幅器43は、前置増幅器31の波高に比例した波高の出力を精度良く出力するため、セミガウシアン型の波形を生成する。この回路は、CRの微分回路の後にRCの積分回路を多段つなげて実現される。TFA(タイミング・フィルタ・アンプ)44は、帯域通過回路になっている。ここでは、低域通過の時定数を50ns、高域通過の時定数を500nsとした。
【0035】
CFD45は、コンスタント・フラクション・ディスクリミネータと呼ばれる市販の回路であり、その動作原理を図12より説明する。(a)に示す入力信号51を2つに分け、(b)に示すように、入力信号51をtdだけ遅らせた信号52と、(c)に示すように、入力信号51を反転させ振幅をf倍した信号53を作る。その後、(d)に示すように、信号52と信号53を足し合わせた信号54を作ると、その波高が0になる時間tf は、入力信号51の波高が最大値のf倍になる時間にtdを加えた時間になる。こうして、立ち上がり波形あるいは立ち下がり波形の信号をCFDに通すことにより、波高の最大値のf倍になるまでの時間を知ることができる。
【0036】
同時計測回路33は、入力信号の時間差がある設定値より短かった場合、ゲート信号を出力する回路である。ゲート信号の幅と遅延時間は可変である。3つの検出器101,102,103のうちのどれか2つだけでガンマ線の相互作用を検出した事象を同時計測回路33で選択し、データを取得する。時間差記録器35は、同時計測回路33のゲート信号出力をスタート信号として使い、信号処理回路32の出力Tを遅延回路34で遅らせた信号をストップ信号として使い、スタート信号とストップ信号の時間差を記録する回路である。波高記録器36は、同時計測回路33のゲート信号が出力されている間の、信号処理回路32の出力Aの信号の波高の最大値を記録する回路である。
【0037】
次に、図10及び図11に示した信号処理部の動作について説明する。波形弁別器41では、入力された信号がDOIストリップのものであるか、そうでないかが調べられる。もしDOIストリップであったならばゲート信号を出力し、振幅測定器42の出力信号を出力しないようにすると同時に、成形増幅器43及びCFD44の出力信号を出力できるようにする。逆に、DOIストリップでなかったならば、ゲート信号を出力せず、振幅測定器42の出力信号を出力できるようにし、成形増幅器43及びCFD44の出力信号を出力しないようにする。振幅測定器42では、DOIストリップではなかった場合に、入力信号の最大値と最小値の差が測定され出力される。成形増幅器43からは、エネルギーの測定に適した波形の信号が生成される。TFA44では、時間の測定に適した波形の信号が生成される。TFA44の出力はCFD45に入力され、波高の最大値の50%になったときに出力信号を生成する。
【0038】
信号処理回路1、信号処理回路2及び信号処理回路6の信号がDOIストリップのものであったとすると、それぞれの出力Tの信号が同時計測回路33に入力される。それらの入力信号の間の時間差が、ある設定値よりも短かったならば、同時計測回路33からゲート信号が出力され、時間差記録器35及び波高記録器36を作動させる。時間差記録器35のストップ信号は、出力Tの信号を、遅延回路34を通して作られる。波高記録器36の入力には、出力Aの信号が入力される。
【0039】
上述のようにDOIストリップの信号に対してのみ、信号処理回路32の出力Tが出力される。つまり、時間差記録器35の、DOIストリップに対応するチャンネルにのみデータが作られる。そして、データ転送の処理により、波高記録器36のデータのうちで、このチャンネルに対応するデータと、その両隣のチャンネルのデータを転送する。時間差記録器35及び波高記録器36のデータは、測定事象ごとにコンピュータ37に転送され、画像生成のための処理が行われる。転送されるデータの内訳を図13に示す。
【0040】
図13において、t1からt4は時間差記録器35のデータである。t1及びt3は散乱検出器の陰極ストリップ及び陽極ストリップのデータであり、t2及びt4は吸収検出器の陰極ストリップ及び陽極ストリップのデータである。それぞれのデータには、チャンネルを特定するためのID情報とそのチャンネルから得られた数値が組になって記録されている。E1以降は波高記録器36のデータである。E1及びE3は散乱検出器のそれぞれ陰極及び陽極のDOIストリップによるデータであり、E2及びE4は吸収検出器のそれぞれ陰極及び陽極のDOIストリップによるデータである。A1+及びA1−は、散乱検出器の陰極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A2+及びA2−は、吸収検出器の陰極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A3+及びA3−は、散乱検出器の陽極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。A4+及びA4−は、吸収検出器の陽極のDOIストリップの両隣のストリップ(TOIストリップ)によるデータである。
【0041】
コンピュータ37によるデータの処理の流れを図14に示す。この処理は、検出事象の数だけ繰り返し行われる。ステップ11にてデータを読み込んだのち、ステップ12で検出パターンの検査を行う。この検出パターンの検査は、時間差記録器35のデータにより行う。時間差記録器35のあるチャンネルにデータが存在した場合、そのデータの元となったストリップはDOIストリップであったことになる。ここでは、散乱検出器及び吸収検出器のそれぞれの陰極及び陽極のストリップのうちでそれぞれ1つだけがDOIストリップであった場合にのみ次の処理に進む。検出器に同時に2個のガンマ線が入射するなどしてDOIストリップの信号が2つ以上となった場合、その事象は後の解析から除外する。次に、ステップ13においてエネルギーの検査を行う。このエネルギーの検査は、波高記録器36のE1及びE2を使って行う。E1とE2の和が目的のガンマ線のエネルギーと等しい場合にのみ次の処理に進む。ステップ14のDOIの演算は、時間差記録器35のデータを使って行う。t1とt3の差から散乱検出器におけるDOIが計算され、t2とt4の差から吸収検出器におけるDOIが計算される。続くステップ15のTOIの演算は、波高記録器36のデータを使って行う。ここでは、陰極の分割の方向をX方向、陽極の分割の方向をY方向とする。A1+及びA1−から散乱検出器のX方向のTOIが計算され、A3+及びA3−から散乱検出器のY方向のTOIが計算される。同様にして、A2+及びA2−から吸収検出器のX方向のTOIが計算され、A4+及びA4−から吸収検出器のY方向のTOIが計算される。こうして、散乱検出器中と吸収検出器中での相互作用点が高精度に求められる。次に、ステップ16に進み、散乱検出器で検出されたエネルギーE1と吸収検出器で検出されたエネルギーE2を上式(2)に当てはめてコンプトン散乱角θを計算する。
【0042】
こうして複数の検出事象の各事象毎に、散乱検出器中での相互作用点、吸収検出器中での相互作用点、コンプトン散乱角θの情報をもとに図4に示したような円錐面が計算される。そこで、検出されたガンマ線エネルギーE(=E1+E2)から同一核種から放出されたガンマ線に起因すると判断される事象を集め、その事象の集合に属する円錐面を重ねることによってその核種の存在位置を求めることができ、線源の空間分布を像として表示することができる。
【0043】
E1とE2の和が複数あってガンマ線源として複数の核種が存在する場合には、コンプトン散乱の運動学で計算された円錐面をエネルギーによって核種毎にグループ化し、それぞれの核種に対して独立して円錐面を重ねることによって各核種の存在位置を分離して求めることができる。
【0044】
本発明のガンマ線検出装置を使うと、低いエネルギーのガンマ線は主にシリコン検出器でコンプトン散乱され、散乱されたガンマ線は後方のゲルマニウム検出器で検出される。一方、高いエネルギーのガンマ線はシリコン検出器を透過しやすくなるので、従来通りの2枚のゲルマニウム検出器によって検出することができる。これによって、約100keV程度の低エネルギーのガンマ線から2MeV程度の高エネルギーのガンマ線まで高効率で検出することが可能になる。
【0045】
ここで、本発明によってどの程度、検出効率が改善するかを評価した例を示す。図15に示したガンマ線検出器の組み合わせについて、ガンマ線の検出効率を比較した。図15(a)は、本発明のガンマ線検出装置が採用した検出器の組み合わせであり、1段目の検出器は厚さ10mmのシリコンからなり、2段目の検出器は厚さ10mmのゲルマニウム、3段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなるものとした。図15(b)は、比較例のガンマ線検出装置を示し、1段目の検出器は厚さ10mmのシリコンからなり、2段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなる。図15(c)も、比較例のガンマ線検出装置を示し、1段目の検出器は厚さ10mmのゲルマニウムからなり、2段目の検出器は厚さ20mmのゲルマニウムからなる。いずれの場合も、検出器の縦・横の寸法は39mm×39mmとし、検出器の間隔は30mm、ガンマ線源は1段目の検出器の前方30mmの位置にあるとした。
【0046】
図15に示した各検出器の組み合わせについて、ガンマ線源から放出される100keV及び1000keVのガンマ線を撮像した場合の検出効率をモンテカルロシミュレーションによって比較した。図16はガンマ線のエネルギーが100keVの場合の検出効率を示し、図17はガンマ線のエネルギーが1000keVの場合の検出効率を示している。
【0047】
図16及び図17中の「Ge+Ge」は図15(c)に示した比較例のガンマ線検出装置、「Si+Ge」は図15(b)に示した低エネルギー用のガンマ線検出装置、そして「Si+Ge+Ge」は図15(a)に示した本発明によるガンマ線検出装置を示す。ガンマ線のエネルギーが100keVのとき、Ge+Geの組み合わせの検出装置は検出効率が著しく低下しているが、Si+Ge+Geの組み合わせの検出装置はSi+Geの組み合わせの検出装置と同等の検出効率が得られることがわかる。また、ガンマ線のエネルギーが1000keVの場合、本発明の検出装置はSi+Geの組み合わせの検出装置に比べて2倍以上の検出効率が得られていることがわかる。こうして、本発明によると、エネルギーが約100keVから2MeVの範囲のガンマ線を、高解像度・高効率で撮像可能な装置をコンプトンカメラ方式で実現することができる。
【0048】
図18は、本発明によるガンマ線検出装置で撮像した場合に、どの検出器の組み合わせでどのような頻度で相互作用が起こるかを示す図である。図中のGe1+Ge2、Si+Ge2及びSi+Ge1はそれぞれ2段目と3段目、1段目と3段目及び1段目と2段目の検出器の組み合わせを示す。エネルギーが100keVの場合は94.28%がSi+Ge1で相互作用が起こっており、3段目の検出器の寄与は小さい。しかし、エネルギーが1000keVの場合は、63.44%がGe1+Ge2で相互作用が起こっていることがわかる。つまり、この発明によって、低エネルギーから高エネルギーまで検出効率が改善されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コンプトン散乱の生起確率を説明する図。
【図2】ゲルマニウム結晶とシリコン結晶中におけるコンプトン散乱の生起確率と結晶の厚さとの関係を示した図。
【図3】本発明によるガンマ線検出装置におけるガンマ線検出器の配置を示す模式図。
【図4】本発明によるガンマ線撮像装置の検出部の概略構成図と、ガンマ線源の検出原理を示した図。
【図5】本発明による電極分割型平板ガンマ線検出器の構造例を示す図。
【図6】電極分割型平板ガンマ線検出器の陽極及び陰極の出力信号をシミュレーションした図。
【図7】陽極と陰極間における、信号波形の振幅が最大値の50%に達するまでの時間の差とDOIの関係を示す図。
【図8】ガンマ線の相互作用点の横方向の位置の測定法の説明図。
【図9】TOIと図6で定義したパラメータの関係を示す図。
【図10】本発明によるガンマ線撮像装置の信号処理部の例を示す概略ブロック図。
【図11】信号処理回路の詳細図。
【図12】CFDの動作原理を説明する図。
【図13】コンピュータに転送されるデータの内訳を示す図。
【図14】コンピュータによるデータ処理のフローチャート。
【図15】ガンマ線検出装置の構成例を示す図。
【図16】ガンマ線検出装置の検出効率を比較して示した図。
【図17】ガンマ線検出装置の検出効率を比較して示した図。
【図18】相互作用した検出器の組み合わせの説明図。
【符号の説明】
【0050】
10:検出部、11:散乱検出器、12:吸収検出器、13:ガンマ線源、14,15:ガンマ線、20: ガンマ線検出結晶、21:陽極ストリップ、22:陰極ストリップ、31:前置増幅器、32:信号処理回路、33:同時計測回路、34:遅延回路、35:時間差記録器、36:波高記録器、37:コンピュータ、41:波形弁別器、42:振幅測定器、43:成形増幅器、44:TFA、45:CFD、101:1段目の検出器、102:2段目の検出器、103:3段目の検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と、
その前方に配置された、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と
を備えることを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のガンマ線検出装置において、前記高エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はゲルマニウム結晶を備え、前記低エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はシリコン結晶を備えることを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガンマ線検出装置において、前記低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器は、エネルギー100keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より高く、エネルギー1000keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より低いことを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のガンマ線検出装置において、前記3個の位置敏感型ガンマ線検出器のうちの2個だけでガンマ線の相互作用を検出した事象のみを取り出す同時計測回路を有することを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項1】
ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる一対の高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と、
その前方に配置された、ガンマ線との相互作用位置及びエネルギーを検出できる低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器と
を備えることを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のガンマ線検出装置において、前記高エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はゲルマニウム結晶を備え、前記低エネルギーガンマ線用の位置敏感型ガンマ線検出器はシリコン結晶を備えることを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガンマ線検出装置において、前記低エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器は、エネルギー100keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より高く、エネルギー1000keVのガンマ線に対するコンプトン散乱の生起確率が高エネルギーガンマ線用の位置感応型ガンマ線検出器より低いことを特徴とするガンマ線検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のガンマ線検出装置において、前記3個の位置敏感型ガンマ線検出器のうちの2個だけでガンマ線の相互作用を検出した事象のみを取り出す同時計測回路を有することを特徴とするガンマ線検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−45948(P2008−45948A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220446(P2006−220446)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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