キクの品種識別方法
【課題】キク品種を識別する方法、それに用いるプライマーセット、およびキク品種識別用プライマーの作製方法を提供すること。
【解決手段】キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析する。
【解決手段】キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キクの品種識別方法に関する。さらに本発明は、キク品種識別用プライマーセット、およびキク品種識別用プライマーの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、核酸の塩基配列の違いを利用した、遺伝子型や個体、あるいは品種や種などを識別する方法が多く開発されてきた(例えば特許文献1、2、3および4)。これらの方法は、RNAあるいはゲノムDNAの部分を増幅させるプライマーを開発し、該プライマーを使用して対象のDNA断片を増幅し、DNA断片の有無あるいは分子量の相違によって、多型を解析することにより識別を行っている。
【0003】
一方、キク属植物の遺伝子型および品種の識別に関しては、従来、形状や栽培特性による識別が行われてきた。しかし、このような識別方法は、栽培中における外的要因によって影響を受けやすく、正確な識別ができない場合がある。また、識別するキクの栽培に労力、面積、時間を要するという問題もある。特に、キク属植物は栄養繁殖性であるため、一つの個体から多くのクローン個体を得ることが可能であり、登録品種の盗難や、育成者権者の許諾無しの栽培が行われることがある。このような事情に鑑み、栽培・販売されている品種について、より正確かつ迅速な品種識別方法が求められている。
【0004】
キクの形状や栽培特性による識別方法以外では、植物組織から抽出したフラボノイドの組成比率により品種を識別する方法(特許文献5)や、遺伝子を利用する方法が開発されている。しかし、後者の遺伝子を利用する方法については、汎用性に欠ける限定的な識別技術が報告されているに過ぎない。例えば、特許文献6は、キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセットを用いてキク由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のパターンに基づいて白系輪ギク品種を識別することを特徴とするキク品種の識別方法を記載しているが、この方法はイオンビームにより得られた特定の突然変異品種を識別するものである。また、非特許文献1および2は、各種の手法による品種識別が可能であることについての報告に過ぎない。さらに、特許文献7は、特定塩基配列のRNAを含有するキクBウイルスを菊品種に感染させて、該キクBウイルス感染菊品種を得、これを栄養繁殖させた後、その菊繁殖体のRNAを検査することにより菊の品種識別を行う方法を記載しているが、この方法は登録品種の正規品と侵害品を識別するものであって、具体的なキク品種を識別するものではない。このように、既存の技術は、特定のキク品種等にのみ適用可能な識別技術であり、またその適用範囲も限られていた。
【0005】
従って、従来のキク品種だけでなく、将来生まれる新品種にも適応可能な汎用性、発展性のある品種識別技術の確立が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特許第2818486号公報
【特許文献2】特許第3218318号公報
【特許文献3】特表2002−540799号公報
【特許文献4】特許第3236295号公報
【特許文献5】特開2008−096317号公報
【特許文献6】特開2007-244334号公報
【特許文献7】特開2007-185143号公報
【非特許文献1】Theor Appl Genet (1995) 91:439-447
【非特許文献2】J. Amer. Soc. Hort. Sci. (1996) 121:1043-1048
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、種々のキク品種を識別する方法、それに用いるプライマーセット、およびキク品種識別用プライマーの作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、キクのゲノムDNAのマイクロサテライトを利用することにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析することを特徴とする、キクの品種識別方法。
[2] プライマーセットが、以下の(a)〜(f)のうちの少なくとも1つである、[1]に記載の方法。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
[3] 識別されるキク品種が、以下のキク品種の少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の方法。
ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)
[4] 以下の(a)〜(f)のいずれかである、プライマーセット。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
[5] [4]に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
[6] キクのゲノムDNAから作製された2本鎖DNAプラスミドライブラリーと、任意のマイクロサテライトを含むプローブとを、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質の存在下で接触させ、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離し、単離されたプラスミドに挿入されたゲノムDNAの断片の塩基配列を決定し、該塩基配列に基づいて、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーを作製することを含む、キクの品種識別用プライマーの作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記プライマーセットを1つ、あるいは複数のプライマーセットを組み合わせて用いることにより、数多くのキク品種を識別することができる。また、形状や栽培特性の比較による従来の品種識別方法と比べて、外的要因によって影響を受けることが無くなり、用いる試料がより少なくて済み、少労力かつ短時間で、正確な品種識別結果を得ることができる。さらに、上記プライマーセットでは識別できないキク品種または新品種についても、それらの品種識別に用いることができるプライマーを適宜作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.マイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーセットの設計および作製
まず、任意のキクのゲノムDNAを抽出する。任意のキクは栽培ギク(市販されるキク)が好ましいが、特に限定されない。ゲノムDNAを抽出するための試料は、キク植物から採取した任意の組織(例えば、葉、花弁、茎、根、萼片、茎頂、カルスなど)でよく、特に限定されないが、新しい組織のものが好ましい。ゲノムDNAの抽出方法は、当技術分野で慣用される方法を用いればよく、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等が挙げられ、これらの方法を適宜改変してもよい。また、DNAの抽出後、必要に応じて、クロロホルム−イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール−クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱などの精製処理を行ってもよい。ゲノムDNAの抽出には、市販の植物ゲノムDNA抽出キット(例えば、Plant Genomic DNA Extraction Mini(VIOGENE社))を用いることもできる。
【0012】
得られたゲノムDNAを、超音波破砕や適切な制限酵素等で断片化し、DNA断片をプラスミドベクター(pBluescriptベクターあるいはpUCベクターなど)に挿入し、大腸菌などに形質転換してプラスミドベクターを増幅させ、ライブラリーを作製する。増幅したプラスミドを、例えばアルカリSDS法、煮沸法等で抽出し、マイクロサテライトを含むプラスミドをClone Capture法(国際公開特許公報WO2006/059386参照)などの手法を用い、濃縮する。Clone Capture法は、単純反復配列(SSR;Simple Sequence Repeat)を含む2本鎖DNAの単離方法であって、2本鎖DNAプラスミドライブラリーを、単離すべきSSRを含むプローブと、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質(Rad51タンパク質、Rad52タンパク質など)の存在下でインキュベーションし、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離する工程を含む方法である。ここで用いるプローブは、任意のマイクロサテライト(SSR)を含むように作製する。プローブの塩基配列には、SSRを構成する塩基配列そのもの、あるいはその相補配列が含まれる。また、プローブをビオチン、蛍光色素などで修飾することが好ましい。Clone Capture法は、例えば、pH7〜8の緩衝液中で、プローブとRecAタンパク質をATPとともに、20〜40℃、5分〜2時間インキュベーションを行う。次に、プラスミドを添加し、RecAタンパク質による2本鎖DNAに対するプローブのハイブリダイズが可能な条件、例えば20〜40℃、5分〜30分でインキュベーションする。プローブがプラスミドとハイブリダイズしたところは、2本鎖の間にプローブが入り込んだ3本鎖構造が形成される。ハイブリダイズしたプラスミドを単離すれば、目的とするSSRを含むクローンを得ることができる。プローブをビオチンで修飾しておけば、固相化したアビジンと結合させることにより、ハイブリダイズしたクローンを容易に回収することができる。なお、ハイブリダイズしたプラスミドを単離する前に、適宜、RecAタンパク質をプロティナーゼ等により分解してもよい。
【0013】
濃縮したプラスミドをコンピテントセル(大腸菌など)に形質転換し、該プラスミドを有するセルを単離すれば、目的とするSSRを含むDNAを保持したプラスミドがクローニングされる。クローニングされたプラスミドを精製し、プラスミドが保持するSSRを含む塩基配列を決定する。
【0014】
得られた塩基配列の情報から、マイクロサテライトマーカーを決定し、該マイクロサテライトマーカーを検出するためのプライマーの設計を行う。マイクロサテライトマーカーは、例えば、SSRマーカー自動設計システム「Read2Marker」(Biotechniques.(2005) 39:472-476)を用いて決定することができる。このシステムを用いれば、SSR配列領域の検出、クローンの重複や多重遺伝子族と示唆される配列の排除などを自動的に行うことができる。マイクロサテライトマーカーは、1〜6塩基の繰り返し配列を含むDNAであり、キク品種間で多型を有する。本発明では、マイクロサテライトマーカーの反復配列のモチーフは特に限定されないが、例えば2塩基(AG、AC、AT、GA、GC、GT、CA、CG、CT、TA、TG、TC)のSSRのモチーフでは、CAまたはTAの繰り返しをモチーフに含み、繰り返しの数が5〜150回のものが好ましい。このようなマイクロサテライト(SSR)を含む5’上流および3’下流側の塩基配列に相補的な配列を用い、候補のプライマーセットを設計する。各プライマーの長さは特に限定されないが、好ましくは15〜30bp、より好ましくは18〜27bpである。さらにプライマーは、適宜、5’末端、3’末端に標識物質(蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチンなど)を有していてもよく、5’末端がリン酸化またはアミン化されていてもよく、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などの修飾塩基やペプチド核酸(PNA)を含んでいてもよい。
【0015】
2.プライマーセットの選抜
識別対象のキク品種から抽出されたDNAを鋳型とし、候補のプライマーセットを用いてPCRによる増幅を行う。1つの反応液にプライマーセットを1つ、あるいは2つ以上用いることもできるが、別々の反応液に各プライマーセットを用いることが好ましい。PCRを行う際の反応液組成やサイクリング条件は、当業者であれば、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜定めることができる。例えば、鋳型となる抽出DNAに耐熱性DNAポリメラーゼ及びプライマーを添加し、約90〜96℃の変性、約40〜70℃のアニーリング、約70〜75℃の伸長の3工程を20〜60サイクル繰り返す。これらPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。
【0016】
得られた増幅産物を、分子量サイズ、塩基長、塩基配列、または存在量(相対量もしくは絶対量)等に基づいて解析する。解析は、例えば、増幅産物の電気泳動、塩基配列決定などにより行うことができるが、本発明では電気泳動が好ましい。電気泳動としては、例えばアガロースゲル、変性及び非変性のアクリルアミドゲルを用いる方法等が挙げられる。電気泳動条件は、特に限定されないが、例えば0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い、0.5xTBEバッファー中で200V、100分行う。電気泳動バンドの検出はエチジウム染色により行うが、標識物質を用いた場合はその標識に応じて、例えば蛍光色素を付加したプライマーを用いた場合は、蛍光発色を指標として行ってもよい。電気泳動像に基づいて、多数の候補のプライマーセットのなかから、キク品種の識別に有用な、多型性に富み、増幅効率の高いプライマーセットを選抜する。
【0017】
以上のようにして選抜された本発明のプライマーセットは、上記の通りである。
また、これらのプライマーセットの少なくとも1つを含んでなるキットの形態にすることができる。このようなキットは、以下の3.で述べるように、キク品種識別のために使用することができる。
【0018】
3.選抜されたプライマーセットを用いたキクの品種識別方法
本発明のキクの品種識別方法では、上記のようにして選抜された、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAをPCRにより増幅し、増幅産物を解析し、品種識別を行う。識別対象となるキク品種は、特に限定されないが、例えば、ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)が挙げられる。
【0019】
識別対象のキクのゲノムDNAを上記方法で抽出する。DNA抽出試料は特に限定されないが、新しい組織が好ましい。抽出したゲノムDNAを鋳型とし、プライマーセット(a)〜(f)を用いて、上記条件でPCR増幅を行う。プライマーセットは、1つでもよいが、複数組み合わせてもよい。得られた増幅産物を、例えば上記条件で電気泳動に供試し、用いたプライマーセットに対応した増幅産物の有無に基づいて、品種識別を行う。具体例を、後述の実施例の表1および表2、図1A〜図1Fおよび図2A〜図2Fに挙げる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〕プライマーセットの設計
(1)試料からのDNA抽出
キク品種「セイプリンス」(販売元:有限会社精興園)の未展開葉1g(10〜12個)を液体窒素に浸漬させ凍結し、パウダー状になるまで粉砕した。凍結状態のサンプルに沸騰直前まで温めた1.5×CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)抽出バッファーを5ml加えてDNAを抽出し、等量のクロロホルム−イソアミルアルコール(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)を加え、遠心機で遠心分離(3000回転、常温、30分間)の後に上清を採取することによる除タンパク質処理を2回行った。
【0022】
その後CTAB沈殿バッファー7.5mlを加え析出したDNAをイノキュレーションループで掬いとり、10ng/ml RNaseを含む1M塩化ナトリウム2mlに再溶解した。水溶性の夾雑物と塩類を除去するために、エタノール2.5倍量を加え混和した後に、遠心分離して得た沈殿を70%エタノールで洗浄し、最終沈殿物をTE溶液100μlに溶解した。
【0023】
(2)DNAライブラリーの作製
得られた「セイプリンス」のゲノムDNA約3.0μgを超音波破砕した後、0.5 μl T4 polymeraseを加え、37℃で5分放置して末端の平滑化を行った。このDNAをアガロースゲル(1.2%)電気泳動(1.0%、0.5xTBEバッファー、100V、15分)により分離した後、1kbから1.5kbのDNA断片を回収した。回収したDNA断片3.5μl、ライゲーションバッファー0.5μl、プラスミドベクター(pUC18)0.5μl、T4リガーゼ0.5μl(1U/μl)を加えた反応液を調製し、一晩反応させてDNA断片をプラスミドベクターに挿入した。DNA断片を挿入したプラスミドベクターは、エレクトロポレーション法にてコンピテントセル(大腸菌株DH10B)へ形質転換させた。形質転換した細胞は、25ppmアンピシリンを含むLB寒天培地(1% Polypepton、0.5% Yeast Extract、1%塩化ナトリウム、1.5% Bacto Agar)上で、37℃で一晩培養し、生育するコロニーからなるライブラリーを作製した。得られた形質転換体約60万クローンをプール化し、アルカリSDS法を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0024】
(3)DNAライブラリーの濃縮
まず、以下の塩基配列からなる2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。(A)30は、30merからなるaの連鎖を、(CA)25と(TG)25は、それぞれcaとtgの25回の繰り返しを示す。
【0025】
CA−オリゴ:5’−(A)30(CA)25−3’(配列番号1、80mer)
TG−オリゴ:5’−(A)30(TG)25−3’(配列番号2、80mer)
【0026】
これらのプローブを、Amersham社のMegaprime DNA labeling systemを利用してビオチン化した。具体的な操作は次のとおりである。まず、CA−オリゴ200pmol とTG−オリゴ200pmol をアニーリング(室温で混合)させた。次いで、dATP、dGTP、dCTP、dTTPをそれぞれ20pmol加え、最後に、ビオチン21−dUTPを1000pmol加えた。更に、DNAポリメラーゼ(Klenow断片)を2ユニット加えて、室温で2時間反応させた。作製したビオチン化プローブを5分間煮沸後に氷上で急冷して1本鎖化した。1本鎖化したビオチン化プローブに2.5mM CoCl2、ATP (ATPとATP−gumma−Sの混合液)、およびRecAタンパク8μgを加えて、37℃で20分間インキュベートした。次いで、上記(2)で精製されたプラスミドライブラリー10μgを加えて37℃で1時間インキュベートして、3重鎖を形成させた。その後、0.1%SDS存在下でプロティナーゼK処理によってRecAを分解し、さらにPhenylmethylsulfonyl Fluoride(PMSF)を加えてプロティナーゼKを不活化した。ビオチン化プローブとプラスミドベクターを含む液を、緩衝液で平衡化したStreptavidin 磁気ビーズと混合した。室温で放置後、ストレプトアビジンと結合しなかったDNAを洗浄液(10mM Tris−HCl (pH7.5)、1mM EDTA、2M NaCl)で洗浄した。洗浄後にアルカリ液(0.1N NaOH、1mM EDTA)によって結合したDNAを溶出した。溶出されたプラスミドベクターはエタノール沈殿法で精製し、エレクトロポレーション法にてコンピテントセル(大腸菌株DH10B)へ形質転換させた。
【0027】
(4)挿入されたDNA断片の塩基配列決定
つづいて、整列化したクローンに挿入されているDNA断片の塩基配列を解読した。まず、大腸菌クローンを37℃で一晩、50ppmアンピシリンを含むLB(1% Polypepton、0.5% Yeast Extract、1% 塩化ナトリウム)液体培地で培養し、4,800クローンからアルカリ法(Molecular Cloning Second Edition 1.25-1.28 Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))にてプラスミドDNAを抽出し、MultiScreen NAとMultiScreen F(Millipore社)を用いて精製した。得られたプラスミドDNAを、Big Dye Terminater Ver. 3.1(アプライドバイオシステムズ社)を用いて反応させ、精製用磁性樹脂(CleanSeq(Beckman Coulter社)で未反応分の余剰色素を除去した。精製後のサンプルを、キャピラリーシーケンサ(ABI3730xl(アプライドバイオシステムズ社))を用いて解読した。
【0028】
(5)プライマーセットの設計
次に、このようにして得られた塩基配列情報を用いて、SSRマーカーを検出するためのプライマー情報の作成を行った。プライマー情報の作成には、SSRマーカー自動設計システム「Read2Marker」を使用した。得られた結果のうち2塩基(AG、AC、AT、GA、GC、GT、CA、CG、CT、TA、TG、TC)の単純反復配列のみを検出対象とするようなプライマーセットを抽出し、480プライマーセットを合成した。
【0029】
〔実施例2〕プライマーセットの選抜
(1)試料からのDNA抽出
キク8品種(ウッドペッカー、トゥアーマリン、フィアイビス、フィーリンググリーン、フェリスオーラ、エバーグレース、ユーロおよび神馬(いずれも販売元キリンアグリバイオ株式会社))のさし穂茎頂から、「DNeasy Plant Mini Kits」(QIAGEN社)を使用し、添付のプロトコールに従いゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAは260nmの吸光度から濃度を算出し、2ng/μlに希釈し、以降の実験に供試した。
【0030】
(2)多型の確認
設計したプライマーは、上記8品種から抽出したDNAを用いてPCRによる増幅を行い、多型を確認した。PCR反応液の組成は、DNA(2ng/μl)1μl、Go-Taq Green Master Mix(プロメガ社)5μl、プライマー(20μM)各0.2μl、滅菌水3.6μlとした。PCR反応は、94℃で2分間の後、94℃で30秒間(変性)、55℃(配列番号3および4のプライマーセット(a)のみ60℃)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長反応)を35サイクル、最後に72℃で5分間行った。増幅産物を0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い0.5xTBEバッファー中で200V、100分電気泳動した後、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外光下で増幅産物を検出した。電気泳動像は、ゲル撮影装置(BIO−Doc−It UVP社)により画像データとするとともに印刷し、多型の有無を評価した。なお、分子量マーカーとしてOneSTEP Ladder 50 (0.05-2.0kbp)(ニッポンジーン社)あるいは50bp DNA Step Ladder(プロメガ社)を同時に電気泳動した。このようにして、480プライマーセットから、多型性に富み、増幅のよい6プライマーセット((a)配列番号3および4、(b)配列番号5および6、(c)配列番号7および8、(d)配列番号9および10、(e)配列番号11および12、(f)配列番号13および14)を選抜した。
【0031】
〔実施例3〕プライマーセットを使用した品種識別
(1)試料からのDNA抽出
キク32品種(ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン:いずれも販売元キリンアグリバイオ株式会社)のさし穂茎頂から、「DNeasy Plant Mini Kits」(QIAGEN社)を使用し、添付のプロトコールに従ってゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAは260nmの吸光度から濃度を算出し、2ng/μlに希釈し、以降の実験に供試した。
【0032】
(2)DNA断片の増幅
上記(a)〜(f)の6プライマーセットのそれぞれについて、32品種のゲノムDNAを鋳型にPCR増幅を行った。PCR反応液の組成は、DNA(2ng/μl)1μl、Go-Taq Green Master Mix(プロメガ社)5μl、プライマー(20μM)各0.2μl、滅菌水3.6μlとした。PCR反応は、94℃で2分間の後、94℃で30秒間(変性)、55℃(プライマーセット(a)のみ60℃)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長反応)を35サイクル、最後に72℃で5分間行った。
【0033】
(3)増幅産物の可視化
増幅産物を、0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い、0.5xTBEバッファー中で200V、100分電気泳動した後、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外光下で増幅産物を検出した。電気泳動像は、ゲル撮影装置(BIO-Doc-It UVP社)により画像データとするとともに印刷し、以降の解析に用いた(図1)。なお、分子量マーカーとしてOneSTEP Ladder 50 (0.05-2.0 kbp)(ニッポンジーン社)あるいは50bp DNA Step Ladder(プロメガ社)を同時に電気泳動した。
【0034】
(4)電気泳動像の解析
図1A〜1F、図2A〜2Fに示す計12種の電気泳動像を用いて、キク32品種の多型解析による品種識別を試みた。図1A〜1Fではいずれの図においても、分子量マーカー(M)を除いて左から右に、ウッドペッカー(1)、キングフィッシャー(2)、ゴールドストックダークリネカー(3)、ジャジー(4)、スケアリー(5)、トゥアーマリン(6)、バロック(7)、フィアイビス(8)、フィーリンググリーン(9)、フィヴァチカン(10)、フィウォッカライム(11)、フィエナジー(12)、フィガーネット(13)、フィキャンドール(14)、フィスワン(15)、フィファルコン(16)である。図2A〜2Fではいずれの図においても、分子量マーカー(M)を除いて左から右に、フィプラネット(17)、フィムーンライト(ピンクムーン)(18)、フィレクシーレッド(19)、フィロリポップ(20)、プーマサニー(21)、フェリー(22)、フェリスオーラ(23)、フェリスハーモニー(24)、フルーリーピンク(25)、フロッギー(26)、ペリカン(27)、マラボウ(28)、デックモナ(29)、エバーグレース(30)、ゴールデンピンポン(31)、スーパーピンポン(32)である。また、プライマーセット(a)を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Aと図2Aに、プライマーセット(b) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Bと図2Bに、プライマーセット(c) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Cと図2Cに、プライマーセット(d) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Dと図2Dに、プライマーセット(e) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Eと図2Eに、プライマーセット(f) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Fと図2Fに示した。
【0035】
電気泳動像に現れる増幅産物のバンドは、電気泳動ごとに、バンドの位置がずれたり、薄いバンドによる誤認が生じうる。そこで、電気泳動像の増幅産物のバンドの区別化のため、各図において、以下のように分子量に基づいた領域を設定し、該領域を四角で囲んだ。
【0036】
図1Aと図2Aでは、領域(i)(250bp近辺)、領域(ii)(200bp近辺)、領域(iii)(約150bp〜約200bp)、領域(iv)(約100bp〜約150bp)、領域(v)(100bp近辺)を設定した。
【0037】
図1Bと図2Bでは、領域(i)(約250bp〜約350bp)、領域(ii)(200bp近辺)、領域(iii)(100bp近辺)を設定した。
【0038】
図1Cと図2Cでは、領域(i)(約300bp〜約350bp)、領域(ii)(約250bp〜約300bp)を設定した。
【0039】
図1Dと図2Dでは、領域(i)(約250bp〜約300bp)、領域(ii)(約200bp〜約250bp)を設定した。
【0040】
図1Eと図2Eでは、領域(i)(約250bp〜約300bp)、領域(ii)(約200bp〜約250bp)、領域(iii)(200bp近辺)を設定した。
【0041】
図1Fと図2Fでは、領域(i)(約550bp〜約700bp)、領域(ii)(約250bp〜約300bp)を設定した。
【0042】
これらの設定された合計17の領域について、各領域に1つ以上のバンドが明確に認められれば「1」とし、当該領域に明確に認められるバンドがなければ「0」とした。「1」または「0」を用いて、図1A〜1Fと図2A〜2Fの各領域のバンドについてまとめたものが、それぞれ表1と表2である。なお、表1に記載の品種番号1〜16は、図1A〜1Fの付番と、表2に記載の品種番号17〜32は、図2A〜2Fでの付番と一致する。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
キク32品種のうち、「1」と「0」の異なるパターンを示す28品種は、個別のマーカー型を持ち、相互に識別が可能であることが示された。しかし、品種番号9(フィーリンググリーン)と品種番号26(フロッギー)間、および品種番号31(ゴールデンピンポン)と品種番号32(スーパーピンポン)間は、それぞれ「1」と「0」のパターンが同一であったため、プライマーセット(a)〜(f)を用いたときに他の28品種とは識別できるものの、それぞれ2品種間の識別ができないことが示された。特に、品種番号31と32は枝変わり間であり、遺伝的に非常に近縁であることが予想された。
【0046】
本発明のキク品種識別用プライマーの作製方法を用いることにより、これらの識別できなかった品種も識別できる新たなプライマーの開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】プライマーセット(a)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは、M:分子量マーカー、1:ウッドペッカー、2:キングフィッシャー、3:ゴールドストックダークリネカー、4:ジャジー、5:スケアリー、6:トゥアーマリン、7:バロック、8:フィアイビス、9:フィーリンググリーン、10:フィヴァチカン、11:フィウォッカライム、12:フィエナジー、13:フィガーネット、14:フィキャンドール、15:フィスワン、16:フィファルコンである。各領域は、(i):250bp近辺、(ii):200bp近辺、(iii):約150bp〜約200bp、(iv):約100bp〜約150bp、(v):100bp近辺である。
【図1B】プライマーセット(b)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約350bp、(ii):200bp近辺、(iii):100bp近辺である。
【図1C】プライマーセット(c)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約300bp〜約350bp、(ii):約250bp〜約300bpである。
【図1D】プライマーセット(d)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約300bp、(ii):約200bp〜約250bpである。
【図1E】プライマーセット(e)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約300bp、(ii):約200bp〜約250bp、(iii):200bp近辺である。
【図1F】プライマーセット(f)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約550bp〜約700bp、(ii):約250bp〜約300bpである。
【図2A】プライマーセット(a)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは、M:分子量マーカー、17:フィプラネット、18:フィムーンライト(ピンクムーン)、19:フィレクシーレッド、20:フィロリポップ、21:プーマサニー、22:フェリー、23:フェリスオーラ、24:フェリスハーモニー、25:フルーリーピンク、26:フロッギー、27:ペリカン、28:マラボウ、29:デックモナ、30:エバーグレース、31:ゴールデンピンポン、32:スーパーピンポンである。各領域は、図1Aと同様である。
【図2B】プライマーセット(b)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Bと同様である。
【図2C】プライマーセット(c)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Cと同様である。
【図2D】プライマーセット(d)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Dと同様である。
【図2E】プライマーセット(e)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Eと同様である。
【図2F】プライマーセット(f)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Fと同様である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キクの品種識別方法に関する。さらに本発明は、キク品種識別用プライマーセット、およびキク品種識別用プライマーの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、核酸の塩基配列の違いを利用した、遺伝子型や個体、あるいは品種や種などを識別する方法が多く開発されてきた(例えば特許文献1、2、3および4)。これらの方法は、RNAあるいはゲノムDNAの部分を増幅させるプライマーを開発し、該プライマーを使用して対象のDNA断片を増幅し、DNA断片の有無あるいは分子量の相違によって、多型を解析することにより識別を行っている。
【0003】
一方、キク属植物の遺伝子型および品種の識別に関しては、従来、形状や栽培特性による識別が行われてきた。しかし、このような識別方法は、栽培中における外的要因によって影響を受けやすく、正確な識別ができない場合がある。また、識別するキクの栽培に労力、面積、時間を要するという問題もある。特に、キク属植物は栄養繁殖性であるため、一つの個体から多くのクローン個体を得ることが可能であり、登録品種の盗難や、育成者権者の許諾無しの栽培が行われることがある。このような事情に鑑み、栽培・販売されている品種について、より正確かつ迅速な品種識別方法が求められている。
【0004】
キクの形状や栽培特性による識別方法以外では、植物組織から抽出したフラボノイドの組成比率により品種を識別する方法(特許文献5)や、遺伝子を利用する方法が開発されている。しかし、後者の遺伝子を利用する方法については、汎用性に欠ける限定的な識別技術が報告されているに過ぎない。例えば、特許文献6は、キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセットを用いてキク由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のパターンに基づいて白系輪ギク品種を識別することを特徴とするキク品種の識別方法を記載しているが、この方法はイオンビームにより得られた特定の突然変異品種を識別するものである。また、非特許文献1および2は、各種の手法による品種識別が可能であることについての報告に過ぎない。さらに、特許文献7は、特定塩基配列のRNAを含有するキクBウイルスを菊品種に感染させて、該キクBウイルス感染菊品種を得、これを栄養繁殖させた後、その菊繁殖体のRNAを検査することにより菊の品種識別を行う方法を記載しているが、この方法は登録品種の正規品と侵害品を識別するものであって、具体的なキク品種を識別するものではない。このように、既存の技術は、特定のキク品種等にのみ適用可能な識別技術であり、またその適用範囲も限られていた。
【0005】
従って、従来のキク品種だけでなく、将来生まれる新品種にも適応可能な汎用性、発展性のある品種識別技術の確立が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特許第2818486号公報
【特許文献2】特許第3218318号公報
【特許文献3】特表2002−540799号公報
【特許文献4】特許第3236295号公報
【特許文献5】特開2008−096317号公報
【特許文献6】特開2007-244334号公報
【特許文献7】特開2007-185143号公報
【非特許文献1】Theor Appl Genet (1995) 91:439-447
【非特許文献2】J. Amer. Soc. Hort. Sci. (1996) 121:1043-1048
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、種々のキク品種を識別する方法、それに用いるプライマーセット、およびキク品種識別用プライマーの作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、キクのゲノムDNAのマイクロサテライトを利用することにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析することを特徴とする、キクの品種識別方法。
[2] プライマーセットが、以下の(a)〜(f)のうちの少なくとも1つである、[1]に記載の方法。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
[3] 識別されるキク品種が、以下のキク品種の少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の方法。
ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)
[4] 以下の(a)〜(f)のいずれかである、プライマーセット。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
[5] [4]に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
[6] キクのゲノムDNAから作製された2本鎖DNAプラスミドライブラリーと、任意のマイクロサテライトを含むプローブとを、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質の存在下で接触させ、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離し、単離されたプラスミドに挿入されたゲノムDNAの断片の塩基配列を決定し、該塩基配列に基づいて、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーを作製することを含む、キクの品種識別用プライマーの作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記プライマーセットを1つ、あるいは複数のプライマーセットを組み合わせて用いることにより、数多くのキク品種を識別することができる。また、形状や栽培特性の比較による従来の品種識別方法と比べて、外的要因によって影響を受けることが無くなり、用いる試料がより少なくて済み、少労力かつ短時間で、正確な品種識別結果を得ることができる。さらに、上記プライマーセットでは識別できないキク品種または新品種についても、それらの品種識別に用いることができるプライマーを適宜作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.マイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーセットの設計および作製
まず、任意のキクのゲノムDNAを抽出する。任意のキクは栽培ギク(市販されるキク)が好ましいが、特に限定されない。ゲノムDNAを抽出するための試料は、キク植物から採取した任意の組織(例えば、葉、花弁、茎、根、萼片、茎頂、カルスなど)でよく、特に限定されないが、新しい組織のものが好ましい。ゲノムDNAの抽出方法は、当技術分野で慣用される方法を用いればよく、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等が挙げられ、これらの方法を適宜改変してもよい。また、DNAの抽出後、必要に応じて、クロロホルム−イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール−クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱などの精製処理を行ってもよい。ゲノムDNAの抽出には、市販の植物ゲノムDNA抽出キット(例えば、Plant Genomic DNA Extraction Mini(VIOGENE社))を用いることもできる。
【0012】
得られたゲノムDNAを、超音波破砕や適切な制限酵素等で断片化し、DNA断片をプラスミドベクター(pBluescriptベクターあるいはpUCベクターなど)に挿入し、大腸菌などに形質転換してプラスミドベクターを増幅させ、ライブラリーを作製する。増幅したプラスミドを、例えばアルカリSDS法、煮沸法等で抽出し、マイクロサテライトを含むプラスミドをClone Capture法(国際公開特許公報WO2006/059386参照)などの手法を用い、濃縮する。Clone Capture法は、単純反復配列(SSR;Simple Sequence Repeat)を含む2本鎖DNAの単離方法であって、2本鎖DNAプラスミドライブラリーを、単離すべきSSRを含むプローブと、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質(Rad51タンパク質、Rad52タンパク質など)の存在下でインキュベーションし、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離する工程を含む方法である。ここで用いるプローブは、任意のマイクロサテライト(SSR)を含むように作製する。プローブの塩基配列には、SSRを構成する塩基配列そのもの、あるいはその相補配列が含まれる。また、プローブをビオチン、蛍光色素などで修飾することが好ましい。Clone Capture法は、例えば、pH7〜8の緩衝液中で、プローブとRecAタンパク質をATPとともに、20〜40℃、5分〜2時間インキュベーションを行う。次に、プラスミドを添加し、RecAタンパク質による2本鎖DNAに対するプローブのハイブリダイズが可能な条件、例えば20〜40℃、5分〜30分でインキュベーションする。プローブがプラスミドとハイブリダイズしたところは、2本鎖の間にプローブが入り込んだ3本鎖構造が形成される。ハイブリダイズしたプラスミドを単離すれば、目的とするSSRを含むクローンを得ることができる。プローブをビオチンで修飾しておけば、固相化したアビジンと結合させることにより、ハイブリダイズしたクローンを容易に回収することができる。なお、ハイブリダイズしたプラスミドを単離する前に、適宜、RecAタンパク質をプロティナーゼ等により分解してもよい。
【0013】
濃縮したプラスミドをコンピテントセル(大腸菌など)に形質転換し、該プラスミドを有するセルを単離すれば、目的とするSSRを含むDNAを保持したプラスミドがクローニングされる。クローニングされたプラスミドを精製し、プラスミドが保持するSSRを含む塩基配列を決定する。
【0014】
得られた塩基配列の情報から、マイクロサテライトマーカーを決定し、該マイクロサテライトマーカーを検出するためのプライマーの設計を行う。マイクロサテライトマーカーは、例えば、SSRマーカー自動設計システム「Read2Marker」(Biotechniques.(2005) 39:472-476)を用いて決定することができる。このシステムを用いれば、SSR配列領域の検出、クローンの重複や多重遺伝子族と示唆される配列の排除などを自動的に行うことができる。マイクロサテライトマーカーは、1〜6塩基の繰り返し配列を含むDNAであり、キク品種間で多型を有する。本発明では、マイクロサテライトマーカーの反復配列のモチーフは特に限定されないが、例えば2塩基(AG、AC、AT、GA、GC、GT、CA、CG、CT、TA、TG、TC)のSSRのモチーフでは、CAまたはTAの繰り返しをモチーフに含み、繰り返しの数が5〜150回のものが好ましい。このようなマイクロサテライト(SSR)を含む5’上流および3’下流側の塩基配列に相補的な配列を用い、候補のプライマーセットを設計する。各プライマーの長さは特に限定されないが、好ましくは15〜30bp、より好ましくは18〜27bpである。さらにプライマーは、適宜、5’末端、3’末端に標識物質(蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチンなど)を有していてもよく、5’末端がリン酸化またはアミン化されていてもよく、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などの修飾塩基やペプチド核酸(PNA)を含んでいてもよい。
【0015】
2.プライマーセットの選抜
識別対象のキク品種から抽出されたDNAを鋳型とし、候補のプライマーセットを用いてPCRによる増幅を行う。1つの反応液にプライマーセットを1つ、あるいは2つ以上用いることもできるが、別々の反応液に各プライマーセットを用いることが好ましい。PCRを行う際の反応液組成やサイクリング条件は、当業者であれば、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜定めることができる。例えば、鋳型となる抽出DNAに耐熱性DNAポリメラーゼ及びプライマーを添加し、約90〜96℃の変性、約40〜70℃のアニーリング、約70〜75℃の伸長の3工程を20〜60サイクル繰り返す。これらPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。
【0016】
得られた増幅産物を、分子量サイズ、塩基長、塩基配列、または存在量(相対量もしくは絶対量)等に基づいて解析する。解析は、例えば、増幅産物の電気泳動、塩基配列決定などにより行うことができるが、本発明では電気泳動が好ましい。電気泳動としては、例えばアガロースゲル、変性及び非変性のアクリルアミドゲルを用いる方法等が挙げられる。電気泳動条件は、特に限定されないが、例えば0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い、0.5xTBEバッファー中で200V、100分行う。電気泳動バンドの検出はエチジウム染色により行うが、標識物質を用いた場合はその標識に応じて、例えば蛍光色素を付加したプライマーを用いた場合は、蛍光発色を指標として行ってもよい。電気泳動像に基づいて、多数の候補のプライマーセットのなかから、キク品種の識別に有用な、多型性に富み、増幅効率の高いプライマーセットを選抜する。
【0017】
以上のようにして選抜された本発明のプライマーセットは、上記の通りである。
また、これらのプライマーセットの少なくとも1つを含んでなるキットの形態にすることができる。このようなキットは、以下の3.で述べるように、キク品種識別のために使用することができる。
【0018】
3.選抜されたプライマーセットを用いたキクの品種識別方法
本発明のキクの品種識別方法では、上記のようにして選抜された、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAをPCRにより増幅し、増幅産物を解析し、品種識別を行う。識別対象となるキク品種は、特に限定されないが、例えば、ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)が挙げられる。
【0019】
識別対象のキクのゲノムDNAを上記方法で抽出する。DNA抽出試料は特に限定されないが、新しい組織が好ましい。抽出したゲノムDNAを鋳型とし、プライマーセット(a)〜(f)を用いて、上記条件でPCR増幅を行う。プライマーセットは、1つでもよいが、複数組み合わせてもよい。得られた増幅産物を、例えば上記条件で電気泳動に供試し、用いたプライマーセットに対応した増幅産物の有無に基づいて、品種識別を行う。具体例を、後述の実施例の表1および表2、図1A〜図1Fおよび図2A〜図2Fに挙げる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〕プライマーセットの設計
(1)試料からのDNA抽出
キク品種「セイプリンス」(販売元:有限会社精興園)の未展開葉1g(10〜12個)を液体窒素に浸漬させ凍結し、パウダー状になるまで粉砕した。凍結状態のサンプルに沸騰直前まで温めた1.5×CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)抽出バッファーを5ml加えてDNAを抽出し、等量のクロロホルム−イソアミルアルコール(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)を加え、遠心機で遠心分離(3000回転、常温、30分間)の後に上清を採取することによる除タンパク質処理を2回行った。
【0022】
その後CTAB沈殿バッファー7.5mlを加え析出したDNAをイノキュレーションループで掬いとり、10ng/ml RNaseを含む1M塩化ナトリウム2mlに再溶解した。水溶性の夾雑物と塩類を除去するために、エタノール2.5倍量を加え混和した後に、遠心分離して得た沈殿を70%エタノールで洗浄し、最終沈殿物をTE溶液100μlに溶解した。
【0023】
(2)DNAライブラリーの作製
得られた「セイプリンス」のゲノムDNA約3.0μgを超音波破砕した後、0.5 μl T4 polymeraseを加え、37℃で5分放置して末端の平滑化を行った。このDNAをアガロースゲル(1.2%)電気泳動(1.0%、0.5xTBEバッファー、100V、15分)により分離した後、1kbから1.5kbのDNA断片を回収した。回収したDNA断片3.5μl、ライゲーションバッファー0.5μl、プラスミドベクター(pUC18)0.5μl、T4リガーゼ0.5μl(1U/μl)を加えた反応液を調製し、一晩反応させてDNA断片をプラスミドベクターに挿入した。DNA断片を挿入したプラスミドベクターは、エレクトロポレーション法にてコンピテントセル(大腸菌株DH10B)へ形質転換させた。形質転換した細胞は、25ppmアンピシリンを含むLB寒天培地(1% Polypepton、0.5% Yeast Extract、1%塩化ナトリウム、1.5% Bacto Agar)上で、37℃で一晩培養し、生育するコロニーからなるライブラリーを作製した。得られた形質転換体約60万クローンをプール化し、アルカリSDS法を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0024】
(3)DNAライブラリーの濃縮
まず、以下の塩基配列からなる2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。(A)30は、30merからなるaの連鎖を、(CA)25と(TG)25は、それぞれcaとtgの25回の繰り返しを示す。
【0025】
CA−オリゴ:5’−(A)30(CA)25−3’(配列番号1、80mer)
TG−オリゴ:5’−(A)30(TG)25−3’(配列番号2、80mer)
【0026】
これらのプローブを、Amersham社のMegaprime DNA labeling systemを利用してビオチン化した。具体的な操作は次のとおりである。まず、CA−オリゴ200pmol とTG−オリゴ200pmol をアニーリング(室温で混合)させた。次いで、dATP、dGTP、dCTP、dTTPをそれぞれ20pmol加え、最後に、ビオチン21−dUTPを1000pmol加えた。更に、DNAポリメラーゼ(Klenow断片)を2ユニット加えて、室温で2時間反応させた。作製したビオチン化プローブを5分間煮沸後に氷上で急冷して1本鎖化した。1本鎖化したビオチン化プローブに2.5mM CoCl2、ATP (ATPとATP−gumma−Sの混合液)、およびRecAタンパク8μgを加えて、37℃で20分間インキュベートした。次いで、上記(2)で精製されたプラスミドライブラリー10μgを加えて37℃で1時間インキュベートして、3重鎖を形成させた。その後、0.1%SDS存在下でプロティナーゼK処理によってRecAを分解し、さらにPhenylmethylsulfonyl Fluoride(PMSF)を加えてプロティナーゼKを不活化した。ビオチン化プローブとプラスミドベクターを含む液を、緩衝液で平衡化したStreptavidin 磁気ビーズと混合した。室温で放置後、ストレプトアビジンと結合しなかったDNAを洗浄液(10mM Tris−HCl (pH7.5)、1mM EDTA、2M NaCl)で洗浄した。洗浄後にアルカリ液(0.1N NaOH、1mM EDTA)によって結合したDNAを溶出した。溶出されたプラスミドベクターはエタノール沈殿法で精製し、エレクトロポレーション法にてコンピテントセル(大腸菌株DH10B)へ形質転換させた。
【0027】
(4)挿入されたDNA断片の塩基配列決定
つづいて、整列化したクローンに挿入されているDNA断片の塩基配列を解読した。まず、大腸菌クローンを37℃で一晩、50ppmアンピシリンを含むLB(1% Polypepton、0.5% Yeast Extract、1% 塩化ナトリウム)液体培地で培養し、4,800クローンからアルカリ法(Molecular Cloning Second Edition 1.25-1.28 Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))にてプラスミドDNAを抽出し、MultiScreen NAとMultiScreen F(Millipore社)を用いて精製した。得られたプラスミドDNAを、Big Dye Terminater Ver. 3.1(アプライドバイオシステムズ社)を用いて反応させ、精製用磁性樹脂(CleanSeq(Beckman Coulter社)で未反応分の余剰色素を除去した。精製後のサンプルを、キャピラリーシーケンサ(ABI3730xl(アプライドバイオシステムズ社))を用いて解読した。
【0028】
(5)プライマーセットの設計
次に、このようにして得られた塩基配列情報を用いて、SSRマーカーを検出するためのプライマー情報の作成を行った。プライマー情報の作成には、SSRマーカー自動設計システム「Read2Marker」を使用した。得られた結果のうち2塩基(AG、AC、AT、GA、GC、GT、CA、CG、CT、TA、TG、TC)の単純反復配列のみを検出対象とするようなプライマーセットを抽出し、480プライマーセットを合成した。
【0029】
〔実施例2〕プライマーセットの選抜
(1)試料からのDNA抽出
キク8品種(ウッドペッカー、トゥアーマリン、フィアイビス、フィーリンググリーン、フェリスオーラ、エバーグレース、ユーロおよび神馬(いずれも販売元キリンアグリバイオ株式会社))のさし穂茎頂から、「DNeasy Plant Mini Kits」(QIAGEN社)を使用し、添付のプロトコールに従いゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAは260nmの吸光度から濃度を算出し、2ng/μlに希釈し、以降の実験に供試した。
【0030】
(2)多型の確認
設計したプライマーは、上記8品種から抽出したDNAを用いてPCRによる増幅を行い、多型を確認した。PCR反応液の組成は、DNA(2ng/μl)1μl、Go-Taq Green Master Mix(プロメガ社)5μl、プライマー(20μM)各0.2μl、滅菌水3.6μlとした。PCR反応は、94℃で2分間の後、94℃で30秒間(変性)、55℃(配列番号3および4のプライマーセット(a)のみ60℃)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長反応)を35サイクル、最後に72℃で5分間行った。増幅産物を0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い0.5xTBEバッファー中で200V、100分電気泳動した後、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外光下で増幅産物を検出した。電気泳動像は、ゲル撮影装置(BIO−Doc−It UVP社)により画像データとするとともに印刷し、多型の有無を評価した。なお、分子量マーカーとしてOneSTEP Ladder 50 (0.05-2.0kbp)(ニッポンジーン社)あるいは50bp DNA Step Ladder(プロメガ社)を同時に電気泳動した。このようにして、480プライマーセットから、多型性に富み、増幅のよい6プライマーセット((a)配列番号3および4、(b)配列番号5および6、(c)配列番号7および8、(d)配列番号9および10、(e)配列番号11および12、(f)配列番号13および14)を選抜した。
【0031】
〔実施例3〕プライマーセットを使用した品種識別
(1)試料からのDNA抽出
キク32品種(ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン:いずれも販売元キリンアグリバイオ株式会社)のさし穂茎頂から、「DNeasy Plant Mini Kits」(QIAGEN社)を使用し、添付のプロトコールに従ってゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAは260nmの吸光度から濃度を算出し、2ng/μlに希釈し、以降の実験に供試した。
【0032】
(2)DNA断片の増幅
上記(a)〜(f)の6プライマーセットのそれぞれについて、32品種のゲノムDNAを鋳型にPCR増幅を行った。PCR反応液の組成は、DNA(2ng/μl)1μl、Go-Taq Green Master Mix(プロメガ社)5μl、プライマー(20μM)各0.2μl、滅菌水3.6μlとした。PCR反応は、94℃で2分間の後、94℃で30秒間(変性)、55℃(プライマーセット(a)のみ60℃)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長反応)を35サイクル、最後に72℃で5分間行った。
【0033】
(3)増幅産物の可視化
増幅産物を、0.5xTBEバッファーで作製した3%アガロースゲルを用い、0.5xTBEバッファー中で200V、100分電気泳動した後、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外光下で増幅産物を検出した。電気泳動像は、ゲル撮影装置(BIO-Doc-It UVP社)により画像データとするとともに印刷し、以降の解析に用いた(図1)。なお、分子量マーカーとしてOneSTEP Ladder 50 (0.05-2.0 kbp)(ニッポンジーン社)あるいは50bp DNA Step Ladder(プロメガ社)を同時に電気泳動した。
【0034】
(4)電気泳動像の解析
図1A〜1F、図2A〜2Fに示す計12種の電気泳動像を用いて、キク32品種の多型解析による品種識別を試みた。図1A〜1Fではいずれの図においても、分子量マーカー(M)を除いて左から右に、ウッドペッカー(1)、キングフィッシャー(2)、ゴールドストックダークリネカー(3)、ジャジー(4)、スケアリー(5)、トゥアーマリン(6)、バロック(7)、フィアイビス(8)、フィーリンググリーン(9)、フィヴァチカン(10)、フィウォッカライム(11)、フィエナジー(12)、フィガーネット(13)、フィキャンドール(14)、フィスワン(15)、フィファルコン(16)である。図2A〜2Fではいずれの図においても、分子量マーカー(M)を除いて左から右に、フィプラネット(17)、フィムーンライト(ピンクムーン)(18)、フィレクシーレッド(19)、フィロリポップ(20)、プーマサニー(21)、フェリー(22)、フェリスオーラ(23)、フェリスハーモニー(24)、フルーリーピンク(25)、フロッギー(26)、ペリカン(27)、マラボウ(28)、デックモナ(29)、エバーグレース(30)、ゴールデンピンポン(31)、スーパーピンポン(32)である。また、プライマーセット(a)を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Aと図2Aに、プライマーセット(b) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Bと図2Bに、プライマーセット(c) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Cと図2Cに、プライマーセット(d) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Dと図2Dに、プライマーセット(e) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Eと図2Eに、プライマーセット(f) を用いた増幅産物の電気泳動像は図1Fと図2Fに示した。
【0035】
電気泳動像に現れる増幅産物のバンドは、電気泳動ごとに、バンドの位置がずれたり、薄いバンドによる誤認が生じうる。そこで、電気泳動像の増幅産物のバンドの区別化のため、各図において、以下のように分子量に基づいた領域を設定し、該領域を四角で囲んだ。
【0036】
図1Aと図2Aでは、領域(i)(250bp近辺)、領域(ii)(200bp近辺)、領域(iii)(約150bp〜約200bp)、領域(iv)(約100bp〜約150bp)、領域(v)(100bp近辺)を設定した。
【0037】
図1Bと図2Bでは、領域(i)(約250bp〜約350bp)、領域(ii)(200bp近辺)、領域(iii)(100bp近辺)を設定した。
【0038】
図1Cと図2Cでは、領域(i)(約300bp〜約350bp)、領域(ii)(約250bp〜約300bp)を設定した。
【0039】
図1Dと図2Dでは、領域(i)(約250bp〜約300bp)、領域(ii)(約200bp〜約250bp)を設定した。
【0040】
図1Eと図2Eでは、領域(i)(約250bp〜約300bp)、領域(ii)(約200bp〜約250bp)、領域(iii)(200bp近辺)を設定した。
【0041】
図1Fと図2Fでは、領域(i)(約550bp〜約700bp)、領域(ii)(約250bp〜約300bp)を設定した。
【0042】
これらの設定された合計17の領域について、各領域に1つ以上のバンドが明確に認められれば「1」とし、当該領域に明確に認められるバンドがなければ「0」とした。「1」または「0」を用いて、図1A〜1Fと図2A〜2Fの各領域のバンドについてまとめたものが、それぞれ表1と表2である。なお、表1に記載の品種番号1〜16は、図1A〜1Fの付番と、表2に記載の品種番号17〜32は、図2A〜2Fでの付番と一致する。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
キク32品種のうち、「1」と「0」の異なるパターンを示す28品種は、個別のマーカー型を持ち、相互に識別が可能であることが示された。しかし、品種番号9(フィーリンググリーン)と品種番号26(フロッギー)間、および品種番号31(ゴールデンピンポン)と品種番号32(スーパーピンポン)間は、それぞれ「1」と「0」のパターンが同一であったため、プライマーセット(a)〜(f)を用いたときに他の28品種とは識別できるものの、それぞれ2品種間の識別ができないことが示された。特に、品種番号31と32は枝変わり間であり、遺伝的に非常に近縁であることが予想された。
【0046】
本発明のキク品種識別用プライマーの作製方法を用いることにより、これらの識別できなかった品種も識別できる新たなプライマーの開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】プライマーセット(a)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは、M:分子量マーカー、1:ウッドペッカー、2:キングフィッシャー、3:ゴールドストックダークリネカー、4:ジャジー、5:スケアリー、6:トゥアーマリン、7:バロック、8:フィアイビス、9:フィーリンググリーン、10:フィヴァチカン、11:フィウォッカライム、12:フィエナジー、13:フィガーネット、14:フィキャンドール、15:フィスワン、16:フィファルコンである。各領域は、(i):250bp近辺、(ii):200bp近辺、(iii):約150bp〜約200bp、(iv):約100bp〜約150bp、(v):100bp近辺である。
【図1B】プライマーセット(b)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約350bp、(ii):200bp近辺、(iii):100bp近辺である。
【図1C】プライマーセット(c)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約300bp〜約350bp、(ii):約250bp〜約300bpである。
【図1D】プライマーセット(d)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約300bp、(ii):約200bp〜約250bpである。
【図1E】プライマーセット(e)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約250bp〜約300bp、(ii):約200bp〜約250bp、(iii):200bp近辺である。
【図1F】プライマーセット(f)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図1Aと同様である。各領域は、(i):約550bp〜約700bp、(ii):約250bp〜約300bpである。
【図2A】プライマーセット(a)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは、M:分子量マーカー、17:フィプラネット、18:フィムーンライト(ピンクムーン)、19:フィレクシーレッド、20:フィロリポップ、21:プーマサニー、22:フェリー、23:フェリスオーラ、24:フェリスハーモニー、25:フルーリーピンク、26:フロッギー、27:ペリカン、28:マラボウ、29:デックモナ、30:エバーグレース、31:ゴールデンピンポン、32:スーパーピンポンである。各領域は、図1Aと同様である。
【図2B】プライマーセット(b)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Bと同様である。
【図2C】プライマーセット(c)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Cと同様である。
【図2D】プライマーセット(d)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Dと同様である。
【図2E】プライマーセット(e)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Eと同様である。
【図2F】プライマーセット(f)を用いたPCRによる増幅産物の電気泳動像を示す。各レーンは図2Aと同様である。各領域は図1Fと同様である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析することを特徴とする、キクの品種識別方法。
【請求項2】
プライマーセットが、以下の(a)〜(f)のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
【請求項3】
識別されるキク品種が、以下のキク品種の少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)
【請求項4】
以下の(a)〜(f)のいずれかである、プライマーセット。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
【請求項5】
請求項4に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
【請求項6】
キクのゲノムDNAから作製された2本鎖DNAプラスミドライブラリーと、任意のマイクロサテライトを含むプローブとを、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質の存在下で接触させ、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離し、単離されたプラスミドに挿入されたゲノムDNAの断片の塩基配列を決定し、該塩基配列に基づいて、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーを作製することを含む、キクの品種識別用プライマーの作製方法。
【請求項1】
キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅し得るように設計されたプライマーセットを用いて、識別対象のキクから抽出されたDNAを鋳型としてPCRにより増幅し、増幅産物を解析することを特徴とする、キクの品種識別方法。
【請求項2】
プライマーセットが、以下の(a)〜(f)のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
【請求項3】
識別されるキク品種が、以下のキク品種の少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
ウッドペッカー、キングフィッシャー、ゴールドストックダークリネカー、ジャジー、スケアリー、トゥアーマリン、バロック、フィアイビス、フィーリンググリーン、フィヴァチカン、フィウォッカライム、フィエナジー、フィガーネット、フィキャンドール、フィスワン、フィファルコン、フィプラネット、フィムーンライト(ピンクムーン)、フィレクシーレッド、フィロリポップ、プーマサニー、フェリー、フェリスオーラ、フェリスハーモニー、フルーリーピンク、フロッギー、ペリカン、マラボウ、デックモナ、エバーグレース、ゴールデンピンポン、スーパーピンポン(ただし、フィーリンググリーンとフロッギー間の品種識別、およびゴールデンピンポンとスーパーピンポン間の品種識別を除く。)
【請求項4】
以下の(a)〜(f)のいずれかである、プライマーセット。
(a)配列番号3と配列番号4のプライマーセット
(b)配列番号5と配列番号6のプライマーセット
(c)配列番号7と配列番号8のプライマーセット
(d)配列番号9と配列番号10のプライマーセット
(e)配列番号11と配列番号12のプライマーセット
(f)配列番号13と配列番号14のプライマーセット
【請求項5】
請求項4に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
【請求項6】
キクのゲノムDNAから作製された2本鎖DNAプラスミドライブラリーと、任意のマイクロサテライトを含むプローブとを、RecAタンパク質またはそれと同等の機能を有するタンパク質の存在下で接触させ、プローブとハイブリダイズしたプラスミドを単離し、単離されたプラスミドに挿入されたゲノムDNAの断片の塩基配列を決定し、該塩基配列に基づいて、キク品種間で多型を有するマイクロサテライトマーカーを増幅するプライマーを作製することを含む、キクの品種識別用プライマーの作製方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【公開番号】特開2010−35499(P2010−35499A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203104(P2008−203104)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(593027587)社団法人農林水産先端技術産業振興センター (7)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(593027587)社団法人農林水産先端技術産業振興センター (7)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】
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