説明

キチン誘導体複合材料及び医療用材料

【課題】 ナノファイバーからなり力学的強度を有し組織再生足場材料として用いることができる複合材料の提供。
【解決手段】 水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーで形成された不織布と、高分子フィルムとから構成されるキチン誘導体複合材料とする。
【効果】ナノファイバーの不織布を有するので比表面積が大きく多量の生理活性物質の吸着や固定化が可能であり、キチン誘導体で構成されているため生分解性で生体適合性に優れ、高分子フィルムを有するので力学的強度も高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性キチン誘導体を用いた複合材料及び医療用材料に関し、特に足場材料として好適に用いられる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサン等のキチン誘導体は、成型加工性が良い、化学処理によって新しい機能を付与できる、生体に対して無害である、生物により分解される、といった優れた特性を有する。また、キチン誘導体は、食料廃棄物として大量に存在し、資源の枯渇がない。このような優れた諸性質を有しているため、キチン誘導体は、医療分野、食品分野、農業分野、工業分野及び環境分野などで注目されている。
【0003】
これまで、キチン誘導体を用いた繊維に関連した幾つかの技術が報告されている。例えば、原料キチンをアルカリ処理した後、CS2によって硫化し、キチンキトサンビスコースを製造し、そのまま又はセルロースビスコースとの任意の割合で混合してビスコース法の紡糸浴を使用して紡糸したもの(特許文献1)、キトサンをチオシアン酸ナトリウム水溶液に溶解して、アルコール類の凝固浴中で湿式紡糸を行ったもの(特許文献2)、キトサンの酢酸水溶液を、水溶性有機溶媒(アセトン、エタノール等)単独又はこれらの混合溶媒中に過剰量の塩基性溶液(水酸化ナトリウム等)を凝固浴として湿式紡糸を行い、イソシアネート類、エポキシ系架橋剤を用いて架橋繊維を製造したもの(特許文献3)、キチンをハロゲン化炭化水素とトリクロル酢酸の混合物、N−メチルピロリドン又はN,N−ジメチルアセトアミドと塩化リチウムとの混合物に溶解し、ノズルから水、アルコール類、ケトン類又はアルカリ液等の凝固液中に押出して凝固させた繊維からなる綿状物と、コットン不織布とを積層化することで作製された創傷被覆材(特許文献4)、キチン誘導体を酸水溶液とリン酸との混合溶液に溶解し、水酸化カルシウム水溶液とエタノールとの混合溶液を紡糸浴として作製されたキチン誘導体−リン酸カルシウム複合体繊維(特許文献5)等が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記文献に記載された繊維はμm以上のオーダーであるので、迅速な組織再生をするための多量の生理活性物質の吸着や固定化が困難なため、細胞足場材料として好適でない。
【0005】
一方、ポリマー紡糸方法として、エレクトロスピニング方法(Electrospinning(ELSP):「電界紡糸」とも言う)と呼ばれる方法がある。エレクトロスピニング方法は高電圧電場を用いる方法であり、nmオーダーの繊維(ナノファイバー)を作製することができる。このエレクトロスピニング方法に関して、エレクトロスピニング方法を用いた絹不織布(特許文献6)や、エレクトロスピニング方法による、ポリウレタン、コラーゲン、ゼラチン等を用いた不織布や人工血管(特許文献7)が開示されている。また、本発明者らは、キチン誘導体ナノファイバー不織布チューブをエレクトロスピニング方法により製造する方法について提案し、先に出願した(特願2005−122561号)。この他、キチン・キトサンを用いたエレクトロスピニング方法に関して報告が幾つかなされている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、これらはナノファイバーでできているため、多量の生理活性物質を吸着できる能力があるものの、足場材料等の再生医療材料としての強度に乏しいという問題がある。また、特許文献8には、キトサンを含む生体材料からなり出血を防ぐための創傷被覆材であって、生体材料がエレクトロスピニングによって形成されてもよいことが開示されている。しかしながら、この公報に記載された創傷被覆材は止血材であり、キトサンは水に溶ける状態、すなわちキトサン塩になっており、これと血液が接・混合してゲル化する事で、傷口を固めて止血するものである。即ち、キトサンがすぐに溶けるため、一定期間水中で構造を保つことが求められる足場材料として使用することができない。
【0007】
【特許文献1】特開平09−241928号公報
【特許文献2】特開平10−088429号公報
【特許文献3】特開2001−031702号公報
【特許文献4】特開2002−219143号公報
【特許文献5】特開2005−023464号公報
【特許文献6】特開2004−068161号公報
【特許文献7】特開2004−321484号公報
【特許文献8】特表2005−503197号公報
【非特許文献1】Kousaku Ohkawaら,「Macromolecular Rapid Communications」,2004年,第25巻,p.1600-1605
【非特許文献2】Byung-Moo Minら,「Polymer」,2004年,第45巻,p.7137-7142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、ナノファイバーからなり力学的強度を有し組織再生足場材料として用いることができるキチン誘導体複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーで形成された不織布と、高分子フィルムとから構成される複合材料とすることで、生体適合性及び力学的強度を有し細胞足場材料として好適に用いることができることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の第1の態様は、水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーで形成された不織布と、高分子フィルムとから構成されることを特徴とするキチン誘導体複合材料にある。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記不織布と前記高分子フィルムとが積層されていることを特徴とする第1の態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0012】
本発明の第3の態様は、前記高分子フィルムが水不溶性キチン誘導体からなるフィルムであることを特徴とする第1又は2の態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0013】
本発明の第4の態様は、前記不織布が、エレクトロスピニング方法により得られるナノファイバーで形成されたことを特徴とする第1〜3の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0014】
本発明の第5の態様は、前記ナノファイバーの直径は5μm以下であることを特徴とする第1〜4の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0015】
本発明の第6の態様は、シート状またはチューブ状であることを特徴とする第1〜5の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0016】
本発明の第7の態様は、前記不織布が、成形されたシート又はチューブを不溶化処理に供することにより得られたものであることを特徴とする第6の態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0017】
本発明の第8の態様は、前記不織布と前記高分子フィルムとが接着剤を介さずに積層されていることを特徴とする第1〜7の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0018】
本発明の第9の態様は、前記水不溶性キチン誘導体は、脱アセチル化度が50〜100%のキトサンであることを特徴とする第1〜8の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料にある。
【0019】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に記載のキチン誘導体複合材料が用いられていることを特徴とする医療用材料にある。
【0020】
本発明の第11の態様は、足場材料であることを特徴とする第10に記載の医療用材料にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明のキチン誘導体複合材料は、ナノファイバーの不織布を有するので比表面積が大きく多量の生理活性物質の吸着や固定化が容易であり、当該不織布はキチン誘導体で構成されているため生分解性で生体適合性に優れており、さらに高分子フィルムを有するので力学的強度も高いという効果を奏する。したがって、組織再生足場材料等の医療用材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明のキチン誘導体複合材料は、不織布と高分子フィルムとから構成され、当該不織布は、水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーで形成されたものである。なお、不織布と高分子フィルムとは、接着剤を介して接合されていてもよく、また、接着剤を介さずに直接積層されていてもよい。
【0024】
本発明において、水不溶性キチン誘導体とは、キチンから化学変化によって生成する化合物であって水に対して不溶性のものを意味する。従って、キトサン塩等の水溶性のキチン誘導体は含まれない。このように、本発明のキチン誘導体複合材料は、水不溶性のキチン誘導体を用いるので、長期間水に曝露しても溶解せず、構造を維持できる。従って、水分が多い環境に暴露した状態で構造を維持する必要がある用途、例えば、生体内の組織を再生させるための細胞の足場材料(Scaffold)として好適に使用することができる。なお、足場材料とは、生体組織、例えば神経等の欠損部位で細胞が接着、増殖するための人工の細胞外マトリックスのことを示す。なお、キチン誘導体から形成されているので、本発明のキチン誘導体複合材料の不織布は、一定期間、例えば2〜3ヶ月構造を維持した後、最終的には生体内で酵素等により作用を受けて分解し生体内に吸収され(生分解性)、生体に悪影響を及ぼすことはない。
【0025】
不織布を形成している水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーは、例えば、キトサン、アルカリキチン、N−アリルキトサン、N−アルキルキトサン、0−アリルキトサン、0−アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キチン、トシル化キチン、ベンゾイル化キチン、及びリン酸エステル化キチン等を水不溶性化したものから構成される。特にキトサンが好ましい。これらの水不溶性キチン誘導体は、生分解性及び生体適合性に優れている。
【0026】
ここで、キトサンは、キチンを濃アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)中で加熱することで得られる脱アセチル化物である。純粋なキチンの脱アセチル化度を0%とし、純粋なキトサンの脱アセチル化度を100%とした場合、脱アセチル化度は一本の高分子におけるキトサンユニット%として表わすことができる。キトサンを使用する場合、脱アセチル化度は、溶媒への溶解性やキチン誘導体複合材料の用途に応じて適宜選択することができるが、特に、キチン誘導体として、脱アセチル化度が50〜100%、好ましくは75〜100%、特に好ましくは85〜100%のキトサンを用いることができる。
【0027】
水不溶性キチン誘導体のナノファイバーの直径は、実質的にナノオーダーであればよく、例えば直径5μm以下、好ましくは直径0.01〜3μm、特に好ましくは直径0.1〜1μmである。このように、ナノファイバーで形成された不織布を有するので、本発明のキチン誘導体複合材料は、迅速な組織再生をするために多量の生理活性物質の吸着や固定化が容易にできる。
【0028】
本発明のキチン誘導体複合材料を構成する高分子フィルムの高分子としては、例えば、水不溶性キチン誘導体、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の生体高分子や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びそれらの共重合体、ε−カプロラクトン等の合成生分解性高分子や、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの合成高分子等を挙げることができる。このような高分子フィルムを、不織布に積層等することにより、力学的強度に優れた複合材料となる。不織布と高分子フィルムとの構成比(重量比)は、好ましくは999:1〜1:999、より好ましくは99:1〜1:99、更に好ましくは99:1〜50:50である。なお、高分子フィルムも不織布と同様に水不溶性キチン誘導体であると、キチン誘導体複合材料全体として生体適合性及び生分解性が良好で、また接着剤を用いずに不織布と高分子フィルムとを接合できるため、特に好ましい。
【0029】
本発明の複合材料の形状は特に限定されないが、シート状またはチューブ状とすることができる。例えば、チューブ状であると、特に曲げ回復性能が高いため、関節等の曲げの動作が行われる箇所の足場材料としても用いることができる。チューブ状の場合は、例えば、内層の不織布の内径0.3〜10mm、肉厚0.1〜5.0mm、外層の高分子フィルムの内径が0.5〜20mmで肉厚が0.05〜5.0mm程度とすることができる。また、シート状の場合は、下層の不織布の厚さが0.1〜5.0mm、上層の高分子フィルムの厚さが0.05〜5.0mm程度とすることができる。
【0030】
本発明のキチン誘導体複合材料は、ナノファイバー面(不織布)と平滑なフィルム面(高分子フィルム)を併せ持つため、比表面積が大きく細胞が吸着しやすくまた迅速な組織再生のための多量の生理活性物質の吸着・固定化ができ、且つ力学的強度にも優れているので、組織再生足場材料として好適である。また、水不溶性なので、組織再生足場材料として有用であり、さらに組織再生足場材料以外にも、人工血管、神経再生チューブとして使用することができる。
【0031】
本発明のキチン誘導体複合材料の製造方法の一例を以下に説明する。まず、キチン誘導体溶液を作製する。キチン誘導体の原料となるキチンは、例えばカニ等の甲殻類の殻を室温で塩酸処理して、抽出し、調製する等の公知の方法を用いて調製することができる。あるいは、市販されているキチンを使用してもよい。
【0032】
次いで、キチンからキチン誘導体を生成し、得られたキチン誘導体を適当な溶媒に溶解することで、キチン誘導体溶液を調製する。使用する溶媒は特に限定されないが、後述するエレクトロスピニング方法に適合したものを適宜選択することが好ましい。例えば、キチン誘導体に対する高い溶解性、低表面張力及び低い沸点といった特性を有する溶媒を、キチン誘導体に対する溶媒として使用することができる。
【0033】
キチン誘導体溶液としてキトサン溶液を得る場合には、キチンを濃アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)中で加熱することで、所望の脱アセチル化度を有するキトサンを調製する。あるいは、市販のキトサン(例えば、北海道曹達株式会社製)を用いることもできる。このようにして得られたキトサンを、適当な溶媒に溶解し、キトサン溶液として使用することができる。キトサンに対する溶媒としては、例えば、トリフルオロ酢酸、並びにトリフルオロ酢酸と塩化メチレン、ギ酸、酢酸及び/又はリン酸との混合溶媒が挙げられる。当該混合溶媒におけるトリフルオロ酢酸に混合する他の溶媒の割合は、例えば、0〜50%、好ましくは0〜30%、特に好ましくは0〜20%である。また、キトサンをトリフルオロ酢酸と塩化メチレンとの混合溶媒で、例えば50℃で12時間溶解させることで粘度を減少させたものをキトサン溶液とすることができる。
【0034】
次いで得られたキチン誘導体溶液の液滴を電場に曝露し、キチン誘導体の繊維を形成し、形成された繊維からチューブを成形する。具体的には、キチン誘導体溶液をエレクトロスピニング方法に供する。図1に、エレクトロスピニング方法を用いてキチン誘導体溶液からチューブの成形までを行う装置の模式図を示す。当該装置は、インフュージョンポンプ1、注射器2、液滴供給部3、高圧直流定電圧電源4、電極板5、回転支持体6及び回転モーター7から構成されている。図1に示す装置に基づいて、キチン誘導体溶液からチューブの成形までを以下に説明する。
【0035】
まず、注射器2中にキチン誘導体溶液8を充填する。また、シリンジ針等の液滴供給部3に注射器2を接続する。さらに、注射器2をインフュージョンポンプ1にセットする。一方、液滴供給部3は、高圧直流定電圧電源4の陽極に接続する。また、電極板5を高圧直流定電圧電源4の陰極に接続する。さらに、棒状の回転支持体6を回転モーター7に接続する。
【0036】
次いで、液滴供給部3と電極板5との間に高圧直流定電圧電源4を使用して、高電圧をかけることで電場を発生させる。その電場に対して、インフュージョンポンプ1からキチン誘導体溶液8を押出し、液滴供給部3から液滴が形成されるように、キチン誘導体溶液8を噴射する。このようにして形成された液滴が電荷反発と電場によって、細分化し、延伸する。同時に、液滴中のほとんどの溶媒が蒸発する。このようにして、不織布状の繊維が形成される。この際、回転モーター7の駆動によって、回転モーター7に接続した回転支持体6を回転させることで、回転支持体6の表面に繊維が形成されるととともに、チューブが直接成形されることとなる。
【0037】
なお、液滴を形成する際のインフュージョンポンプ1の送液速度は、0〜30mL/時間、好ましくは0〜10mL/時間、特に好ましくは0〜5mL/時間とする。また、電場を発生させるための電圧は、1〜100kV、好ましくは1〜50kV、特に好ましくは10〜30kVとする。本発明では、直径5μm以下、好ましくは直径0.01〜3μm、特に好ましくは直径0.1〜1μmの繊維が形成される。
【0038】
また、インフュージョンポンプ1からのキチン誘導体溶液8の噴出量、回転支持体6の種類や径の大きさ及び回転支持体6の回転速度を変えることで、チューブの寸法、密度、強度等を任意に設定することができる。
【0039】
上記のエレクトロスピニング方法によれば、液滴供給部3と電極板5との間に回転支持体6を載置し、この回転支持体6にナノファイバーを巻き取るので、電極に直接ナノファイバーを巻き取る場合のように電場に影響を与えることはないため、繊維が均一で且つ継ぎ目のないチューブ状の不織布を成形することが可能となる。また、電極板5が形成された繊維によって覆われることはない。従って、常に一定の高電圧をかけることで、厚みのあるチューブ、例えば、0.1〜5.0mm程度の厚さを有するチューブを成形することができる。
【0040】
その後、成形されたチューブをさらに不溶化処理に供する。これにより、製造されたキチン誘導体不織布チューブを生体内などの水分が多い環境に曝露しても溶解しないものとすることができる。不溶化処理として、例えば残存する溶媒に対して脱溶媒や中和処理を行った後、水による洗浄を行う。特に、キチン誘導体溶液の作製に使用した溶媒を完全に除去すべく、アンモニア水や水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ水溶液中(例えば、1〜50%の濃度)に、成形されたチューブを1〜100時間、好ましくは1〜50時間、特に好ましくは1〜20時間浸漬することで、不溶化処理を行う。
【0041】
なお、チューブ状の不織布を製造する例を示したが、シート状のものを製造する場合は、例えば、図1の装置を用いて回転支持体6等の代わりにステンレス製等の板を載置し、この板にキチン誘導体溶液8を噴射すれば、シート状の不織布が製造できる。また、エレクトロスピニング方法により製造する例を示したが、ナノファイバーにより形成された不織布を形成することができれば、その他の方法でもよい。
【0042】
このように製造された不織布を、高分子フィルムと接合することにより、本発明のキチン誘導体複合材料を得ることができる。接合する方法としては、高分子の溶液を不織布上に塗布する方法が挙げられる。また、シート状のキチン誘導体複合材料を製造する場合は、高分子溶液を板上に塗布して塗布膜を形成しその上にシート状の不織布を貼り付けてもよい。なお、これらの場合、不織布と高分子フィルムとが接着剤を介さずに積層することができる。接着剤を使用せずに接合することにより、接着剤による生体適合性等への悪影響がなく、優れた医療用材料となる。また、予めチューブ状やシート状に成形した高分子フィルムを、予めチューブ状やシート状に成形した不織布上に積層する方法が挙げられる。さらに、シート状に成形した高分子フィルムをステンレス製等の板に被覆して、その上にエレクトロスピニング方法で不織布を形成する方法でもよい。
【0043】
以上に説明した本発明のキチン誘導体複合材料は、ナノファイバーの不織布を有するので比表面積が大きく多量の生理活性物質の吸着や固定化が容易であり、当該不織布はキチン誘導体で構成されているため生分解性で生体適合性に優れており、さらに高分子フィルムを有するので力学的強度も高いという効果を奏する。したがって、組織再生における新しい細胞足場材料や、人工血管、神経再生チューブ等の医療用インプラント材料として好適である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)キトサン溶液の作製
北海道曹達株式会社製キトサン(脱アセチル化度98%)1.6gを、トリフルオロ酢酸(和光純薬工業株式会社製)20mLに50℃で12時間かけて溶解した。次いで、この溶液に塩化メチレンを5mL加えて希釈することで、キトサン溶液の粘度を減少させた。当該キトサン溶液を以下の実施例で使用した。
【0046】
(実施例2)キトサンナノファイバー不織布(シート状)の作製
図2にエレクトロスピニング装置の写真を示す。エレクトロスピニング装置は高圧直流定電圧電源(日本スタピライザー株式会社製 HPS−30k−2)、インフュージョンポンプ(HARVARD APPRATUS製 11plus)、針(テルモ株式会社製 シェアフィールド SVセット 22G)、電極板(アルミ箔、ステンレス板、銅板など)で構成される。実施例1で作製したキトサン溶液2mLを、注射器(テルモ株式会社製 テルモシリンジ SS−10SZ)に入れて、針につないだ後にインフュージョンポンプにセットした。インフュージョンポンプの送液速度を1mL/時間で針と電極板との間に高圧直流定電圧電源を使用して、25kVの電圧をかけたまま、針からキトサン溶液を2時間かけて噴出した。SEM観察の結果より、作製したキトサンナノファイバー不織布は、1μm以下のキトサンナノファイバーでできていることが判った。
【0047】
(実施例3)キトサンナノファイバー不織布(シート状)の水に対する不溶化処理
実施例2において作製したキトサンナノファイバー不織布を、水酸化ナトリウム200gを水500mLに溶解した水溶液に12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で当該不織布を洗浄することで、吸着した水酸化ナトリウムを完全に除去した。これにより、キトサン塩を中和して純粋なキトサンにし、キトサンナノファイバー不織布を水不溶性にした。SEM観察の結果より、水に対する不溶化処理を施した後のキトサンナノファイバー不織布は、エレクトロスピニング直後のナノファイバーの形状、即ち、実施例2の形状を保っていることが判った。
【0048】
(実施例4) キトサン複合材料(二重シート状)の作製
実施例3で作製した不溶化キトサンナノファイバー不織布(シート状)を縦5.0cm横1.0cmに切断した。この不織布の重量は0.087gであった。別に、縦5cm、横10cm、厚さ0.5mmのステンレス板の表面にキトサン濃度5重量%のキトサン酢酸溶液をまんべんなく均一に塗布した。このときのキトサン酢酸溶液の塗布量は1cm2当たり0.35gであった。このキトサン酢酸溶液を塗布したステンレス板の面に縦5.0cm横1.0cmの不溶化キトサンナノファイバー不織布(シート状)を貼り付け、不織布を貼り付けたまま、ステンレス板を水酸化ナトリウム200gを水500mLに溶解した水溶液に12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で洗浄することで、吸着した水酸化ナトリウムを完全に除去した。水洗浄後、ステンレス板からキトサンナノファイバー不織布をはがしたところ、その表面はキトサンフィルムが形成されており、不溶化キトサンナノファイバー不織布の表面にキトサンフィルムがコーティングされた二重シートの構造を有していた。得られた二重シート状のキトサン複合材料は、縦5.2cm横1.1cm、重量は0.18gであった。この二重シート中の総キトサンに占めるキトサンナノファイバー不織布とキトサンフィルムの割合は、重量比でおよそ50:50であった(試料B1)。同様にして二重シートを試料B1以外に4枚作成した(試料B2〜B5)。また、比較用に、実施例3と同様の方法で作製した二重化していない単なる不溶化したキトサンナノファイバー不織布のシート(縦5.0cm横1.0cm)5枚(試料A1〜A5)も作製した。各シート試料におけるナノファイバー不織布重量、キトサンフィルム重量、及びナノファイバー不織布とキトサンフィルムの重量比を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(試験例1) 力学特性評価
表1に記載した各不織布シートA1〜A5及び二重シートB1〜B5を、最細部で幅3mmのダンベル状にカットして、引っ張り試験機(ORIENTEC社製、STA−1150A)により、引っ張り速度:1mm/minにて力学特性の評価を行った。
【0051】
この結果、不織布(シート状)のみの場合(A1〜A5)のヤング率、破断歪み、破断強度はそれぞれ、10.98±2.22MPa、11.22±1.97、0.64±0.04MPaであったのに対し、二重シート(B1〜B5)のヤング率、破断歪み、破断強度はそれぞれ、8.94±1.82MPa、24.71±0.61、1.74±0.14MPaとなった。これらの結果から、二重化することで、ヤング率は変化しなかったが、破断歪み、破断強度が増大したため、より丈夫になることがわかった。
【0052】
(試験例2) 形態観察
キトサンナノファイバー不織布(シート状)とキトサンフィルムの割合が、重量比で99:1となるようにした以外は実施例4と同様にして作製した二重シートのフィルム面及びファイバー面を、SEMにより形態観察した。結果を図3に示す。なお、図3(a)及び図3(b)は1500倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは20μmである。また、図3(c)は、15000倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、2μmである。
【0053】
この結果、フィルム面は平滑な表面形状をしているのに対し、ファイバー面では、1μm以下のナノファイバーが形成されている。このことから、実施例4のキトサンナノファイバー複合材料は、ナノファイバーとフィルム両方の構造をもった二重シートである事が確認された。
【0054】
また、この二重シートを3ヶ月水に浸漬しても、全く溶解しなかった。
【0055】
(実施例5)キトサンナノファイバー不織布(チューブ状)の作製
本実施例では、実施例2で用いた図2に示すエレクトロスピニング装置に、さらに回転モーター及び回転支持体を配設した装置を用いた。
【0056】
実施例1で作製したキトサン溶液2mLを、注射器(テルモ株式会社製 テルモシリンジ SS−10SZ)に入れて、針につないだ後にインフュージョンポンプにセットした。針先に高圧直流定電圧電源の陽極を接続した。また、回転支持体として直径1.8mmのステンレス棒を針の向きに対して垂直かつ同じ高さになるように配設し、ステンレス棒の一方の端を回転モーターと連結し、自動で回転できるようにした。さらに針とは逆のステンレス棒の後方に電極板として縦100mm横50mmのステンレス板を配設し、これに高圧直流定電圧電源の陰極を接続した。ここで針先とステンレス棒との距離を15cm、ステンレス棒と電極板との距離を5cm、ステンレス棒の回転速度は100rpmとした。インフュージョンポンプの送液速度を2mL/時間とし、針と電極板との間に高圧直流定電圧電源を使用して、25kVの電圧をかけたまま、針からキトサン溶液を1時間かけて噴出した。また、同時に回転モーターによってステンレス棒を回転させた。このようにして、噴出と同時にステンレス棒の表面にキトサンナノファイバーが生成し、ステンレス棒が回転することで自動的に巻き取られナノファイバーはチューブ状に形成され、不織布チューブとなった。なお、得られた不織布チューブは、長さ約5.5cm、外径5.1mm、内径1.9mmであり、重量は1cm当たり0.035gであった。
【0057】
(実施例6)キトサンナノファイバー不織布(チューブ状)の水に対する不溶化処理
実施例5において作製したキトサンナノファイバー不織布チューブを28%アンモニア水50gに12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で当該不織布チューブを洗浄することで、吸着したアンモニア水を完全に除去した。こうして得られた不溶化した不織布チューブは、長さ約5.5cm、外径4.3mm、内径1.7mmであり、重量は1cm当たり0.021gであった。また、SEM観察の結果より、水に対する不溶化処理を施した後のキトサンナノファイバー不織布は、エレクトロスピニング直後のナノファイバーの形状、即ち、実施例5の形状を保っていることが判った。さらに、このキトサンナノファイバーチューブを3ヶ月水に浸漬しても、全く溶解しなかった。
【0058】
(実施例7) キトサン二重チューブの作製
実施例6で作製した不溶化したキトサンナノファイバー不織布(チューブ状)の表面に、キトサン濃度8重量%のキトサン酢酸溶液をまんべんなく均一に塗布した。このときのキトサン酢酸溶液の塗布量はチューブ1cm当たり0.0019gであった。このキトサン酢酸溶液を塗布したキトサンナノファイバー不織布(チューブ状)を28%アンモニア水50gに12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で当該不織布チューブを洗浄することで、吸着したアンモニア水を完全に除去した。水洗浄後のキトサンナノファイバー不織布チューブの表面は、キトサンフィルムが形成されており、キトサンナノファイバー不織布チューブの表面にキトサンフィルムがコーティングされた二重チューブの構造を有していた。こうして得られたキトサン二重チューブは、長さ約5.5cm、外径4.3mm、内径1.7mmであり、重量は1cm当たり0.022gであった。この二重チューブ中の総キトサンに占めるキトサンナノファイバー不織布チューブとキトサンフィルムの割合は重量比でおよそ99:1であった(試料D1)。同様にして二重チューブを試料D1以外に5本作成した(D2〜D6)。また、比較用に、実施例6と同様の方法で作製した二重化していない単なる不溶化したキトサンナノファイバー不織布のチューブ(長さ約5.5cm、内径1.7〜1.8mm)6本(試料C1〜C6)も作製した。各試料の外径、ナノファイバー不織布重量、キトサンフィルム重量及びナノファイバー不織布とキトサンフィルムの重量比を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(試験例3) 曲げ回復性評価試験
表2に記載した各不織布チューブC1〜C6及び二重チューブD1〜D6から任意に選んだ5本ずつについて、曲げ回復性評価を行った。以下に曲げ回復性評価の方法を、上から見た図である図4を用いて説明する。
【0061】
まず、ガラス製深型シャーレ20(容量290mL、内径11.5cm)に蒸留水200mL(液面高さ2cm)を入れ、試料21(チューブ)の中心がシャーレ20中央の位置にくるように試料21の片端をピンセットで挟み固定位置22で固定した(図4(a))。このとき試料21の高さ位置は、蒸留水の液高さの中央の位置とした。次に、固定した状態で室温、2分間浸漬させた後、試料21を半分に折り曲げて、固定していない端を固定している端に合わせて解除機能付きのストッパー23で仮固定した。このとき両端の距離を1cmとする(図4(b))。次いで、折り曲げた状態で室温、1分間保持した後、仮固定していたストッパー23を解除すると同時に時間計測を開始し、最初に固定した端とストッパーを解除して元に戻ろうとする端との角度が160°を超えるまでの時間(回復時間:秒)を計測した(図4(c))。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示すように、不織布チューブC1〜C5に比べて、二重チューブD1〜D5は曲げてから回復するまでの時間が速く、二重チューブは不織布チューブよりも曲げ回復性能が高かった。
【0064】
(試験例4) 形態観察
二重チューブD1の断面、外側、内側を、SEMにより形態観察した。結果を図5に示す。なお、図5(a)及び図5(c)は1500倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは20μmである。また、図5(b)は、80倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、500μmである。図5(d)は、15000倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは2μmである。
【0065】
図5(b)に示すように、断面は幾層ものキトサンが重なったチューブ構造を取っている。また、図5(a)に示すように、チューブ外側はキトサンフィルムがコーティングされ、一部その下にファイバーの構造が見えている。一方、図5(c)及び(d)に示すように、チューブの内側は1μm以下のナノファイバーが形成している。この事から、ナノファイバーとフィルム両方の構造をもった二重チューブである事が確認された。
【0066】
また、この二重チューブを3ヶ月水に浸漬しても、全く溶解しなかった。
【0067】
(試験例5) 表面保護性評価試験
表2に記載した各不織布チューブC1〜C6及び二重チューブD1〜D6から任意に選んだ5本ずつについて、表面保護性評価を行った。以下に曲げ表面保護性評価の方法を説明する。
【0068】
まず、ガラス製ビーカー(容量100mL)に蒸留水50mLを入れ、そこにマグネチックスターラー用攪拌子(テフロン(登録商標)製、長さ3cm)にて室温、800rpmで蒸留水を攪拌した。このビーカーに試料を入れ、ビーカー内で試料を室温、3分間攪拌させた。所定時間の攪拌後に試料のチューブ本体をピンセットで取り出し、ビーカー内に残る試料剥離物を、メンブレンフィルター(ADVANTEC製、「MIXED CELLULOSE ESTER」、外径47mm、孔径0.45μm)にてろ過分離した。分離した試料剥離物を適当なガラス製容器に流し入れ、試薬特級酢酸(純度99.6%)を0.1mL加えて試料剥離物(キトサン)を溶解させ、試料剥離物溶解液を得た。試料チューブの剥離物の状態、試料剥離物溶解液中の剥離物量(キトサン量)及び剥離率から、チューブの表面保護性を比較した。なお、剥離物溶解液中の剥離物量は、下記の式から求めた。また、剥離率(%)とは、剥離前の試料重量に対する剥離物量の重量割合である。結果を表4及び図6に示す。
[数1]
試料剥離物溶解液中の剥離物量(g)=a/b
a:試料剥離物溶解液のトルイジンブルーを指示薬としたN/400ポリビニル硫酸カリウムの滴定量(mL)
b:原料キトサン(北海道曹達株式会社製キトサン、脱アセチル化度98%)1gのトルイジンブルーを指示薬としたN/400ポリビニル硫酸カリウムの滴定量(mL/g)
【0069】
【表4】

【0070】
表4及び図6に示すように、不織布チューブC1〜C6は外部からの刺激によってナノファイバーが剥離した。一方、二重チューブD1〜D6は主にフィルムが剥離し、ナノファイバーの損傷はわずかであった。また、不織布チューブに比べて二重チューブは、剥離率も非常に小さく、外部からの刺激に対してチューブを保護する性能が高いことがわかった。
【0071】
(実施例8) キトサンナノファイバー不織布(チューブ状)の作製
回転支持体として直径1.2mmのステンレス棒を用い、針からキトサン溶液を40分かけて噴出した以外は、実施例5と同様にして、不織布チューブを得た。なお、得られた不織布チューブは、長さ約5.5cm、外径2.1mm、内径1.3mmであり、重量は1cm当たり0.009gであった。
【0072】
(実施例9)キトサンナノファイバー不織布(チューブ状)の水に対する不溶化処理
実施例8で作製したキトサンナノファイバー不織布チューブを、実施例6と同様の操作を行って、水に対する不溶化処理をした。得られた不溶化した不織布チューブは、長さ約5.5cm、外径2.0mm、内径1.2mmであり、重量は1cm当たり0.006gであった。
【0073】
(実施例10) キトサン二重チューブの作製
直径2.0mmのステンレス棒の表面に濃度5重量%のキトサン酢酸溶液をまんべんなく均一に塗布した。塗布した後、ステンレス棒を28%アンモニア水50gに4時間浸漬した。その後、3回蒸留水でステンレス棒を洗浄した。水洗浄後のステンレス棒の表面にはキトサンフィルムが形成されており、ステンレス棒からキトサンフィルムを抜き取るとチューブ形状のキトサンフィルムが得られた。このキトサンフィルムチューブは、長さ約5.6cm、外径2.1mm、内径2.0mmであり、重量は1cm当たり0.0038gであった。
【0074】
次に、実施例9で作製した不溶化したキトサンナノファイバー不織布チューブを、上記キトサンフィルムチューブの内筒に組み込み、キトサンナノファイバー不織布チューブの外側にキトサンフィルムが積層されたキトサンナノ二重チューブを得た。こうして得られたキトサン二重チューブは、長さ約5.5cm、外径2.1mm、内径1.2mmであり、重量は1cm当たり0.0094gであった。この二重チューブ中の総キトサンに占めるキトサンナノファイバー不織布チューブとキトサンフィルムの割合は重量比でおよそ60:40であった(試料F1)。同様にして二重チューブを試料F1以外に5本作成した(F2〜F6)。また、比較用に実施例9と同様の方法で作製した二重化していない単なる不溶化したキトサンナノファイバー不織布のチューブ(長さ約5.5cm、内径1.1〜1.3mm)6本(試料E1〜E6)も作製した。各試料の外径、ナノファイバー不織布重量、キトサンフィルム重量及びナノファイバー不織布とキトサンフィルムの重量比を表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
(試験例6) 曲げ回復性評価試験
表5に記載した各不織布チューブE1〜E6及び二重チューブF1〜F6から任意に選んだ5本ずつについて、試験例3と同様の方法で曲げ回復性評価を行った。結果を表6に示す。
【0077】
【表6】

【0078】
表6に示すように、不織布チューブE1〜E5に比べて、二重チューブF1〜F6は曲げてから回復するまでの時間が速く、二重チューブは不織布チューブよりも曲げ回復性能が高かった。また、試験例3の結果と比較して、予め成形した不織布とフィルムのチューブ同士を組み込んだ実施例10の二重チューブは、不織布チューブに溶液を塗布することによりフィルムを作製した実施例7の二重チューブよりも曲げ回復性能が高かった。
【0079】
(試験例7) 表面保護性評価試験
表5に記載した各不織布チューブE1〜E6及び二重チューブF1〜F6から任意に選んだ5本ずつについて、試験例5と同様の方法で曲げ回復性評価を行った。結果を表7及び図7に示す。
【0080】
【表7】

【0081】
表7及び図7に示すように、不織布チューブE1〜E6は外部からの刺激によってナノファイバーが剥離した。一方、二重チューブF1〜F6は主にフィルムが剥離し、ナノファイバーの損傷はわずかであった。また不織布チューブに比べて二重チューブは剥離率も非常に小さく、外部からの刺激に対してチューブを保護する性能が高いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】エレクトロスピニング方法を用いてキチン誘導体溶液からチューブの成形までを行う装置の模式図を示す。
【図2】エレクトロスピニング装置の写真である。
【図3】実施例4で作製したキトサンナノファイバー不織布のSEM写真である。
【図4】曲げ回復評価試験の方法を示す平面図である。
【図5】実施例7で作製したキトサンナノファイバー不織布のSEM写真である。
【図6】試験例5の結果を示す図である。
【図7】試験例7の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 インフュージョンポンプ
2 注射器
3 液滴供給部
4 高圧直流定電圧電源
5 電極板
6 回転支持体
7 回転モーター
8 キチン誘導体溶液
20 シャーレ
21 試料
22 固定位置
23 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性キチン誘導体からなるナノファイバーで形成された不織布と、高分子フィルムとから構成されることを特徴とするキチン誘導体複合材料。
【請求項2】
前記不織布と前記高分子フィルムとが積層されていることを特徴とする請求項1に記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項3】
前記高分子フィルムが水不溶性キチン誘導体からなるフィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項4】
前記不織布が、エレクトロスピニング方法により得られるナノファイバーで形成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項5】
前記ナノファイバーの直径は5μm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項6】
シート状またはチューブ状であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項7】
前記不織布が、成形されたシート又はチューブを不溶化処理に供することにより得られたものであることを特徴とする請求項6に記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項8】
前記不織布と前記高分子フィルムとが接着剤を介さずに積層されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項9】
前記水不溶性キチン誘導体は、脱アセチル化度が50〜100%のキトサンであることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のキチン誘導体複合材料。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のキチン誘導体複合材料が用いられていることを特徴とする医療用材料。
【請求項11】
足場材料であることを特徴とする請求項10に記載の医療用材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−236551(P2007−236551A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61770(P2006−61770)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【Fターム(参考)】