説明

キッチンシンク及びその製造方法

【課題】耐食性を十分に有するとともに低価格帯商品として適用できるキッチンシンク及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材としたシンク2において、シンク底面部2aには、シンク底面部2aよりも段落ちするとともに排水部13が開口した段落部10が形成されており、段落部10のみが、耐食性を有する塗膜Tにより被覆されていることで、シンク2が高効率に耐食性を得られるばかりか、シンク全面に塗膜を被覆する場合に比べ製造コストを抑えることができるため、このシンク2を比較的低価格帯の製品として提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材としたキッチンシンクに関し、特に塗膜を被覆することでシンク底面部に開口した排水部周縁の腐食が防止されたキッチンシンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス製流し台のシンク底部に開設された排水穴に、ゴミ籠を着脱自在に収納するゴミ籠収納器を落とし込み、これを固定してなるゴミ籠収納器が装着されてなるシンクが公知である。このようなゴミ籠収納器が装着されてなるシンクには、排水穴の開口周縁部とゴミ籠収納器のフランジの間に、水密性を確保する目的からゴム製或いは軟質合成樹脂で形成されたパッキンが介装されており、水密性に優れたパッキンが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また従来、ステンレス鋼製流し台において、キッチンシンクの耐食性をより高めるため、水分と接するキッチンシンクの表面に、有機無機複合クリア塗膜を被覆しているものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4039473号公報(第2頁、第2図)
【特許文献2】特開2011−第38243号公報(第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された水密性に優れたパッキンを使用しても、使用環境によっては、あるいはシンク材に使用されるステンレス鋼種の種類によって、例えば低価格であるが耐食性に劣るSUS430等の場合には、別段の耐食処理を施す必要が生じていた。特に、シンク底部に設けられた、前記ゴミ籠収納器を設置するための段落部の、前記パッキンとの隙間付近において重点的に耐食処理を要していた。
【0006】
また一方で、特許文献2にあっては、キッチンシンクの材料となるステンレス基材の表面全面に亘り、耐水垢性と耐磨耗性に優れる有機無機複合クリア塗膜が被覆されており、また基材のステンレスも耐食性に優れたSUS304等が適用されているが、このようなキッチンシンクは塗布材料費等の製造コストが嵩むため、低価格帯商品としては採用できないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、耐食性を十分に有するとともに低価格帯商品として適用できるキッチンシンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のキッチンシンクは、
シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材としたキッチンシンクにおいて、シンク底面部には、該シンク底面部よりも段落ちするとともに排水部が開口した段落部が形成されており、該段落部のみが、耐食性を有する塗膜により被覆されていることを特徴としている。
この特徴によれば、キッチンシンクのシンク底面部よりも段落ちした排水部に向け排水が集中する段落部のみが、耐食性を有する塗膜により被覆されていることで、キッチンシンクが高効率に耐食性を得られるばかりか、キッチンシンク全面に塗膜を被覆する場合に比べ製造コストを抑えることができるため、このキッチンシンクを比較的低価格帯の製品として提供できる。
【0009】
本発明のキッチンシンクは、
前記塗膜は、前記段落部における前記排水部の内周面から前記シンク底面部への境界部まで連続して被覆していることを特徴としている。
この特徴によれば、塗膜が段落部における排水部の内周面からシンク底面部への境界部まで連続して被覆していることで、塗膜に塗りムラが生じた場合でも、段落部の全面に亘り確実に被覆できる。
【0010】
本発明のキッチンシンクは、
前記塗膜は、ウレタンエマルジョン樹脂を主剤とする塗料からなり、該塗膜の膜厚が20μm以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、ウレタンエマルジョン樹脂を主剤とすることで、キッチンシンクに要求される耐水性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性等を満足でき、且つ膜厚が20μm以上であるので、ステンレス鋼材の素地に対しピンホールの無い健全な塗膜を形成できる。
【0011】
本発明のキッチンシンクは、
前記塗膜は、前記主剤に混合されるカップリング剤として、エポキシ基含有シランカップリング剤を有していることを特徴としている。
この特徴によれば、カップリング剤としてのエポキシ基含有シランカップリング剤と、主剤であるウレタンエマルジョン樹脂との反応により、架橋密度の高い塗膜が得られる。
【0012】
本発明のキッチンシンクの製造方法は、
シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材とし、シンク底面部には、該シンク底面部よりも段落ちするとともに排水部が開口した段落部が形成されたキッチンシンクの製造方法において、前記段落部まわりのシンク底面部にマスキングを施し、前記段落部に耐食性を有する塗料を吹付塗装し、前記マスキングを剥がすことを特徴としている。
この特徴によれば、段落部まわりのシンク底面部にマスキングを施し、吹付塗装後に剥がすことで、排水が集中する段落部のみを、作業手間をかけること無く耐食性を有する塗膜により被覆することができ、キッチンシンクが高効率に耐食性を得て且つ製造コストを抑えることができるため、このキッチンシンクを比較的低価格帯の製品として提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1におけるキッチンシンクを示す縦断側面図である。
【図2】実施例1におけるキッチンシンクの段落部の断面図である。
【図3】実施例1における段落部の塗膜を示す要部拡大断面図である。
【図4】(a)は、被覆態様の変形例における段落部の塗膜を示す要部拡大断面図であり、(b)は、被覆領域の変形例における段落部の塗膜を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るキッチンシンクを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係るキッチンシンクにつき、図1から図4を参照して説明する。先ず図1の符号1は、台所に配設される本発明のキッチンである。このキッチン1には、シンク2が設けられており、シンク底面部2aには、このシンク底面部2aよりも一段下方に段落ちした段落部10が連続形成されている。シンク底面部2a及び段落部10が形成されたシンク2は、例えばSUS430等の比較的廉価なステンレス鋼板を基材とし、当該シンク形状に絞り加工されたものである。
【0016】
段落部10には排水トラップ3が配置され、この排水トラップ3には、シンク底面部2a下方において、床下に配設される図示しない下水管に通じる排水管4が水密に接続されている。尚、キッチン1前面側には、シンク2下方の収納空間5を開放させることができる扉6が取り付けられている。
【0017】
図2に示されるように、段落部10は、シンク底面部2aに連続して比較的緩やかに段落ちする境界部14,14’と、この境界部14,14’に連続して比較的急峻に段落ちする平面視略円形の周壁からなり下方に向け漸次縮径して延びる筒部11,11’と、筒部11,11’下端に連続して内径方向に突出する突部12,12’とを有し、突部12の内端部が上下に開口した排水部13として形成されている。尚、図2に示されるように、本実施例の筒部11,11’の断面形状は、段落部10の周方向に均一形状ではなく、シンク2前側の筒部11’は後側の筒部11よりも上下に長寸に延びている。
【0018】
またシンク底面部2aは、その上面が段落部10に向け漸次緩やかに下方に傾斜して形成され、シンク底面部2a上面の排水が、段落部10の排水部13に導かれ集まるようになっている。
【0019】
図3に示されるように、この段落部10の突部12上面12a及び筒部11内周面11aは、その全面に亘り後述する耐食性を有する塗膜Tにより被覆されている。
【0020】
尚、排水トラップ3は、有底円筒状であって排水管4に連通形成されたトラップ本体8を有し、このトラップ本体8の上端に拡径形成された鍔部8aが防水用のパッキン材15を介して段落部10の突部12に水密に係合するとともに、突部12下方にてフランジ7と螺合してシンク2に組み付けられており、更にトラップ本体8の上端に連通する側方の開口部8bが、パッキンリング21を介し螺合したスリーブ20により排水管4と接続されている。
【0021】
次に、本実施例で適用される塗膜Tが被覆されたシンク2の製造方法について説明する。上述したように、シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材とし、シンク底面部2aには、このシンク底面部2aよりも段落ちするとともに排水部13が開口した段落部10が形成されたシンク2を用いる。先ず、段落部10まわりのシンク底面部2aに予めマスキングを施し、この段落部10に耐食性を有する塗料を吹付塗装し、後に前記したマスキングを剥がすことで、段落部10に塗膜Tが被覆されるようになっている。
【0022】
上記したシンク2の製造方法によれば、段落部10まわりのシンク底面部2aにマスキングを施し、吹付塗装後に剥がすことで、排水が集中する段落部10のみを、作業手間をかけること無く耐食性を有する塗膜Tにより被覆することができ、シンク2が高効率に耐食性を得て且つ製造コストを抑えることができるため、このシンク2を比較的低価格帯の製品として提供できる。
【0023】
次に、本実施例で適用される塗膜Tの被覆態様について、図3及び図4(a),(b)を参照して詳述する。尚、図3及び図4(a),(b)では、シンク2後側の筒部11及び突部12からなる段落部10の断面形状を示しているが、前側の筒部11’及び突部12’からなる段落部10についても同様の被覆態様であるとする。
【0024】
先ず図3に示されるように、本実施例における塗膜Tの被覆領域について説明すると、塗膜Tは、段落部10の突部12の上面12aから連続して筒部11の内周面11aまでの全面領域に亘り、後述する好適な20μm以上の膜厚で被覆している。
【0025】
尚、塗膜の被覆態様の変形例として、図4(a)に示されるように、塗膜Tの被覆対象となる例えば段落部10の突部12の上面12aから筒部11の内周面11aまでに亘る表面を、粗面Qとする粗面処理を予め施し、当該粗面処理の後に塗膜Tを被覆してもよく、このようにすることで粗面処理を施した粗面Qに塗膜Tが長期間に渡り被覆して、塗膜Tが剥れてしまう虞を回避できる。
【0026】
また、塗膜の被覆領域の変形例として、図4(b)に示されるように、塗膜T’が、段落部10の排水部13の内周面13aから、突部12の上面12a、筒部11の内周面11a、更にシンク底面部2aへの境界部14の上面までに亘る連続した領域を被覆するようにしてもよい。尚、上記した境界部14は、シンク底面部2aに連続して移行する部分を意味するが、より具体的には、筒部11の段落ち寸法よりも短寸であることが好ましい。
【0027】
図4(b)に示す塗膜の被覆領域の変形例のように、塗膜T’が排水部13の内周面13aから、突部12の上面12a、筒部11の内周面11a、更にシンク底面部2aへの境界部14の上面までに至る連続した領域を被覆していることで、塗膜T’に塗りムラが生じた場合でも、段落部10の全面に亘り確実に被覆できる。
【0028】
尚、上記した被覆領域の変形例において、特に図示しないが、被覆領域となる段落部10の排水部の内周面13aから、突部12の上面12a、筒部11の内周面11a、更にシンク底面部2aへの境界部14の上面までに至る連続した領域を、粗面とする粗面処理を予め施すようにしてもよく、このようにすることで、粗面処理を施した表面に塗膜が長期間に渡りしっかりと被覆して、塗膜が剥れてしまう虞を十分に回避できる。
【0029】
次に、本実施例のシンク2の段落部10を被覆した塗膜、すなわち耐食性及び耐水密性に優れたウレタンエマルジョン樹脂系塗膜について説明する。
【0030】
(主樹脂)
塗膜Tの主樹脂であるエマルジョン樹脂に関しては、一般的にはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などがあるが、本用途であるキッチンシンクのように、耐水性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性などが要求される過酷な環境下に於いて、要求特性を満足できる樹脂はウレタン樹脂をおいて他にない。エポキシ樹脂は基材であるステンレスに対する初期の密着性に優れるものの、耐水性や長期の耐久性に劣る。また、アクリル樹脂やポリエステル樹脂は耐水性に優れるものの、耐薬品性に劣る。一方、ウレタン樹脂は耐水性にも耐薬品性にも優れる。ただし、どのようなウレタンエマルジョン樹脂でも良いというわけではない。その理由は、使用されるシンクの環境は、水を使用したりお湯を使用したりとステンレスシンク自体が伸縮・膨張を繰り返す。そうした素地に対しては、より追従性の高い柔軟性のあるウレタン樹脂が望ましい。そうした柔軟性のあるウレタン樹脂としては、伸び率が150%以上である必要がある。その結果、柔軟な塗膜が形成されて、伸縮・膨張を繰り返す素材に対して追従して耐久性に優れた塗膜が得られる。伸び率が150%未満では柔軟性に乏しく、伸縮・膨張を繰り返す素材に対して追従できず耐久性に優れた塗膜が得られない。
【0031】
一方、塗膜に水分が浸入する(透水すると)と塗膜を膨潤させる。塗膜が膨潤すると、塗膜とステンレス鋼板との界面に膨潤力が作用して密着力を低下させると考える。そのため、塗膜を膨潤させないためには、まずは透水性の低い塗膜であることが第1である。さらに、塗膜の膨潤を防ぐためには、塗膜が強靭である事が必要である。そのためには、伸び率のみならず、引張り強度も高くないといけない。塗膜に水が浸入してきて、塗膜を膨潤させようとする時にそれを防ぐためには、引張り強度が400kg/cm2である必要がある。引張り強度が 400kg/cm2未満では強靭な塗膜が得られず、水分の浸入に耐えられず膨潤してしまい、素地に対する密着性が低下してしまう。
【0032】
従って、ウレタンエマルジョン樹脂の機械的性質として、伸び率が150%以上、引張り強度が400kg/cm2以上であることが必要である。
【0033】
(カップリング剤)
カップリング剤もシラン系、アルミ系、チタン系など色々な物が公知であるが、本用途に対しては、シラン系カップリング剤が適している。加水分解により生成された水酸基がステンレス表面に強固に結合して耐水性に優れた密着性を提供する。また、有機官能基としては、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、アミン基などが上げられるが、その中でもエポキシ基を有機官能基として有するシランカップリング剤が特に良い。
【0034】
具体的には、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが上げられる。
【0035】
上記カップリング剤を使用すると、カップリング剤のエポキシ基と主樹脂であるウレタンエマルジョン樹脂の水素との間で付加反応が起こり、架橋密度の高い塗膜が得られる。また、更にはシランカップリング剤の水酸基とウレタンエマルジョン樹脂の水素の結合による脱水縮合反応も起きていると考えられ、さらに架橋反応が進んで架橋密度の高い塗膜が得られる。その結果、シンクのような厳しい耐水性が要求される用途においても、水分の透過を防止し、耐水性に優れた塗膜を提供できる。さらに、カップリング剤の加水分解により生成された水酸基はステンレス表面と強固に結合することから、下地ステンレスに対して強固な密着性を有する塗膜を提供できる。
【0036】
(その他添加剤)
その他塗膜として添加される物としては、色を付けるための着色剤、塗装時の塗膜の平坦性を上げるレベリング剤、塗料の攪拌時あるいは塗装時に発生する泡を消す働きのある消泡剤などがある。また、光沢を調整するためにつや消し剤も添加しても良い。
【0037】
また、主樹脂に対するカップリング剤とその他の添加剤の添加量に関しては、主剤のウレタンエマルジョン樹脂固形分:100質量%に対して,カップリング剤:3〜30質量%,その他添加剤(着色剤、レベリング剤、消泡剤など):3〜30質量%が望ましい。カップリング剤が3質量%未満では、その効果が不十分であり、30%を超えても性能上は変わらず、カップリング剤は一般的に高価であるので、コストに影響する。その他添加剤に関しては、適宜入れれば良いが、レベリング剤は0.3%〜6%、消泡剤であれば0.3%〜3%程度が一般的には良い。
【0038】
また、塗料の塗装方法は、ステンレス素地を清浄にした上で、ハケまたはスプレー塗装を行う。乾燥条件は120℃×10分程度の強制乾燥が望ましいが、それだけの時間が取れない場合には、ドライヤーで塗料が垂れない程度に水を蒸発させてから、その後常温で硬化させても良い。塗膜厚に関しては、20μm以上が望ましい。すなわち、20μm未満だとステンレス鋼材の素地に対してピンホールの無い健全な保護膜が形成しづらく、欠陥部分から腐食成分が侵入して、ステンレス素地を腐食したり、水分が浸入することにより、塗膜剥れの問題が生ずるが、膜厚が20μm以上であれば、ステンレス鋼材の素地に対しピンホールの無い健全な塗膜を形成できる。
【0039】
このとき、薄く着色した塗料を使えば、当該塗料の着色具合により十分な膜厚を塗装したか否か目視で確認できる。尚、段落部10は、通常の使用時ではトラップ本体8の鍔部8aで覆われ露出しないので、着色しても問題は生じない。段落部10まわりのシンク底面部2aは、マスキングにより着色を防ぐことができる。
【0040】
本発明の耐食性及び耐水密着性に優れた上述のウレタンエマルジョン樹脂系塗膜が被覆されたシンク2の排水部13が開口した段落部10は、腐食性の厳しい環境に置かれても、腐食され難い。
【0041】
(ウレタンエマルジョン樹脂系塗料の調製)
下記の配合表 表1のように塗料の調製を行った。カップリング剤の添加量を3水準として、ウレタンエマルジョン樹脂系塗料3種類を得た。なお、ここでのウレタンエマルジョン樹脂の不揮発分は30%である。
【0042】
【表1】

【0043】
塗装原板には板厚:0.7mmのSUS430 No.9仕上げのステンレス鋼板を用い、シンク形状に絞り加工した(図1及び図2参照)。成形後のシンク2の基材をアルカリ脱脂した後、上記ウレタンエマルジョン樹脂系塗料3種類をシンクの排水部13を有する段落部10にスプレー塗布し、その後ドライヤーで水を蒸発させてから常温で乾燥硬化させた。なお、乾燥膜厚は25μmとした。
【0044】
なお、ここで使用したウレタンエマルジョン樹脂は、実施例3の実験No.7と同じ樹脂を使用し、この樹脂の機械的性質は伸び率200%、引張り強度450kg/cm2である。
【0045】
シンク2の段落部10は筒部11と突部12から構成されるが、腐食による穴開きは実際には筒部11及び突部12共に認められる事から、塗膜Tは筒部11及び突部12の両方共に被覆される(図3参照)。
【0046】
塗装されたステンレス鋼製シンク2の排水部13が開口した段落部10から試験片を切り出し、耐温水性試験、耐洗剤性試験に供した。
【0047】
〔耐温水性試験〕
80℃の温水にサンプルを168時間連続浸漬した後、乾燥し、テープ剥離試験で温水環境下での塗膜密着性を調査した。10面積%以上の剥離が生じた塗膜を×,点状に剥離した塗膜を△,全く剥離しなかった塗膜を○として耐温水性を評価した。
【0048】
〔耐洗剤性試験〕
市販の洗剤A(K社製)と洗剤B(U社製)をそれぞれサンプル塗膜表面に1CC滴下し、24時間放置する。その後水道水で洗浄後、外観確認を行い異常が無いか確認する。これを4回、96時間繰り返し行う。塗膜が剥げた場合は×、塗膜にシミ、変色などの外観変化が見られた場合は△、全く異常が無かった場合は○として耐洗剤性を評価した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の試験結果通り、シランカップリング剤の添加量が0.5%と少ない実験No.1では耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも不良の結果となった。一方、添加量が2%以上であるNo.2とNo.3のサンプルは、耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも良好な結果となった。
【実施例2】
【0051】
表1の実験No.2の塗料を用いて、実施例1と同様の手順でシンク2の排水部13が開口した段落部10に膜厚が異なる3水準(10μm、20μm、30μm)で塗装を行い、段落部10から試験片を切り出し、耐温水性試験、耐洗剤性試験に供した。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の試験結果通り、膜厚が10μmと薄い実験No.4では耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも不良の結果となった。一方、膜厚が20μm以上であるNo.5とNo.6のサンプルは、耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも良好な結果となった。
【実施例3】
【0054】
下表4の通り、伸び率と引張り強度の異なる2種類のウレタンエマルジョン樹脂を用いた塗料組成の塗料を用いて、実施例1と同様の手順でシンク2の段落部10に膜厚が20μmとなるように塗装を行い、段落部10から試験片を切り出し、耐温水性試験、耐洗剤性試験に供した。なお、ウレタンエマルジョン樹脂2種類の不揮発分はいずれも30%である。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
表5の試験結果通り、伸び率が200%、引張り強度が450kg/cm2の実験No.7は耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも良好な結果となった。一方伸び率が100%、引張り強度が300kg/cm2の実験No.8は、耐温水性試験、耐洗剤性試験のいずれでも不良な結果となった。
【実施例4】
【0058】
実施例3の実験No.7と同じ塗装品と無塗装品(板厚:0.7mmのSUS430 No.9仕上げのステンレス鋼板)の排水口を準備して、ごみ籠収納器をそれぞれのシンク排水口にゴムパッキンを介して締付けリングにより取付けて、耐食性の試験に供した。
【0059】
〔耐食性試験〕
下記の環境条件下にサンプルを置いて、順次サイクル的に環境を変えて、1回の環境サイクルを1サイクルとして、50サイクルまで試験を行い、評価は発錆状況と腐食の最大浸食深さを測定した。
【0060】
(1)塩水噴霧(5%NaCl、35℃×15min)→(2)乾燥(30%R.H.、60℃×1h)→(3)湿潤(95%R.H.、50℃×3h)→ここまでで、1サイクル。(1)に戻る。
50サイクルの試験の結果、実験No.7の塗装品は全く錆が認められなかった。一方、無塗装品は、パッキン最外周部で部分的に腐食が発生しており、最大侵食深さは0.16mmであった。この結果からも塗装品は耐食性に極めて優れる事が分かった。
【0061】
以上説明したように、本発明のシンク2によれば、シンク2のシンク底面部2aよりも段落ちした排水部13に向け排水が集中する段落部10のみが、耐食性を有する塗膜Tにより被覆されていることで、シンク2が高効率に耐食性を得られるばかりか、キッチンシンク全面に塗膜を被覆する場合に比べ製造コストを抑えることができるため、このシンク2を比較的低価格帯の製品として提供できる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0063】
例えば、前記実施例では、段落部10は、筒部11,11’及び突部12,12’を有しているが、シンクの底面部よりも下方に段落ちし排水部が開口形成したものであれば、例えば段落部は、上下略鉛直方向に延びる直管状の周壁部のみから成ってもよいし、あるいは下方に向け緩やかに縮径する漏斗部のみから成っても構わない。
【符号の説明】
【0064】
1 キッチン
2 シンク
2a シンク底面部
3 排水トラップ
4 排水管
10 段落部
11 筒部
12 突部
13 排水部
14 境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材としたキッチンシンクにおいて、シンク底面部には、該シンク底面部よりも段落ちするとともに排水部が開口した段落部が形成されており、該段落部のみが、耐食性を有する塗膜により被覆されていることを特徴とするキッチンシンク。
【請求項2】
前記塗膜は、前記段落部における前記排水部の内周面から前記シンク底面部への境界部まで連続して被覆していることを特徴とする請求項1に記載のキッチンシンク。
【請求項3】
前記塗膜は、ウレタンエマルジョン樹脂を主剤とする塗料からなり、該塗膜の膜厚が20μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のキッチンシンク。
【請求項4】
前記塗膜は、前記主剤に混合されるカップリング剤として、エポキシ基含有シランカップリング剤を有していることを特徴とする請求項3に記載のキッチンシンク。
【請求項5】
シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼材を基材とし、シンク底面部には、該シンク底面部よりも段落ちするとともに排水部が開口した段落部が形成されたキッチンシンクの製造方法において、前記段落部まわりのシンク底面部にマスキングを施し、前記段落部に耐食性を有する塗料を吹付塗装し、前記マスキングを剥がすことを特徴とするキッチンシンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2196(P2013−2196A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136062(P2011−136062)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】