説明

キトサン配合飲料

【課題】従来問題とされていた、キトサンの渋味が改善された、極めて服用しやすい飲料を提供する。
【解決手段】キトサン、及びコンドロイチン硫酸又はその塩を配合することを特徴とする飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサン、及びコンドロイチン硫酸又はその塩を配合した飲料に関し、医薬品、医薬部外品及び食品の分野に応用することができる。
【背景技術】
【0002】
キトサンは機能性食物繊維の一種であり、一般的にカニ、エビ、オキアミ等の甲殻類の甲皮、カブトムシ、バッタ等の昆虫類の甲皮、イカの骨等を脱カルシウム処理し、除タンパク質処理して得られるキチンを脱アセチル化処理することで製造される。キトサンは、脂質の消化吸収を阻害する効果(特許文献1参照)、血清コレステロール濃度上昇抑制効果(非特許文献1参照)、血清尿酸値上昇抑制効果や血清尿酸値改善効果等(特許文献2参照)を有することが知られている。またこの他にも、キトサンは抗菌性、創傷治癒作用、凝集性、保湿性等において優れた作用を有する。このため、キトサンを含む製品が開発されているが、キトサンは中性付近では水に溶解しにくく、酸性で溶解させてpHを中性付近に戻す方法でも、キトサン特有の渋味が生じるため飲料にはあまり適していなかった。
【0003】
また、キトサンを低分子化(分子量1万以下)した水溶性キトサンは酸性だけでなく中性でも容易に水に溶解することが知られている。水溶性キトサンは、低分子となっても優れた生理作用をもち、免疫賦活効果、肝機能改善効果,血糖値低下効果等が報告されている(非特許文献2参照)。しかし、水溶性キトサンもキトサン特有の渋味を有しており、この渋みは飲料としての継続的な摂取の障害となっている。
そこで、キトサン及び水溶性キトサンを含む製品の風味改善方法として、ゼインのマトリックスでキトサン及び水溶性キトサンを固定化する方法(特許文献3参照)、アルギン酸塩を配合する方法(特許文献4参照)等が報告されているが、前者は固形物であり、後者は溶液の粘度が非常に高くなるため飲料を提供する際には適さない。
【0004】
一方、コンドロイチン硫酸は動物の軟骨に多く存在する物質であり、注射液剤として腰痛症、関節痛、肩関節周囲炎(五十肩)等の治療 点眼液で角膜表層の保護等に用いられている。この様に、コンドロイチン硫酸は無色または白色の結晶粉末で臭いも味もなく、生理活性物質として利用されている。塩基性薬物の苦味や痺れ感を抑制する報告(特許文献5参照)はあるが、渋味に対するマスキング効果の報告は無い。
【0005】
【特許文献1】特許第2667351号公報
【特許文献2】特開2001−163788号公報
【特許文献3】特開2003−104899号公報
【特許文献4】特開2000−270809号公報
【特許文献5】特開2005−41887号公報
【非特許文献1】前崎ら、1998年、FOOD Style 21、67−71
【非特許文献2】川口光朗、1998年、応用糖質化学 45 4 415−419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、キトサンに起因する渋みを抑制し、飲料としての粘性に問題の無い、日常的に無理なく摂取可能な服用性の良いキトサン配合飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キトサン溶液に、コンドロイチン硫酸又はその塩を配合することにより、キトサンが溶解した際に生じる渋味が改善され、飲料としての粘性も適当な、服用し易いキトサン配合飲料が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明はキトサン、及びコンドロイチン硫酸又はその塩を配合することを特徴とする飲料である。
【0009】
本発明の他の態様としては、キトサンが、水溶性キトサンである前記飲料であり、また、他の態様としては、前記水溶性キトサンが、キトサンオリゴ糖である前記飲料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、キトサンに起因する渋味が改善され、且つ極めて服用しやすいキトサン配合飲料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるキトサンとは、β−1,4-ポリ-D-グルコサミンを示し、エビ、カニをはじめとして、昆虫、貝、キノコなどから得られるキチンをアルカリ処理することによって得られる。
【0012】
本発明における水溶性キトサンとは、分子量が1万以下のキトサンを示し、製造方法等の違いにより分子量や分子量分布の異なる種々の水溶性キトサンが得られるが、本発明における水溶性キトサンとは、これらすべてを含む。一部の水溶性キトサンは、キトサンに分離膜工法(米国特許第5730876号参照)を適用することによって得ることができる。また、水溶性キトサンの1種であるキトサンオリゴ糖は、キトサンを塩酸或いは酵素により直接加水分解(特開昭61−21102号又は特開昭61−21103号参照)を行うことにより得ることができる。キトサンオリゴ糖はキトサン分解物、オリゴグルコサミン、グルコサミンオリゴマーとも呼ばれ、グルコサミンが2〜10個程度つながった構造である。また、本発明における水溶性キトサンとは、渋味を有する水溶性キトサンを含んでいる限り、水溶性キトサンの精製の度合いに制限はなく、未精製品あるいは部分精製品も含まれる。
【0013】
本発明におけるコンドロイチン硫酸とは、ムコ多糖の一種で、D-グルクロン酸とN−アセチル−D−ガラクトサミンを主要繰り返し単位とする化合物を示し、例えば、硫酸基の置換位置により、コンドロイチン4硫酸(コンドロイチン硫酸Aとも呼ばれる)、コンドロイチン硫酸6硫酸(コンドロイチン硫酸Cとも呼ばれる)が挙げられ、硫酸基の置換位置が異なるコンドロイチン硫酸の混合物も含む。コンドロイチン硫酸を製造する方法としては化学合成の他に、サメ、鮭、イカ若しくはウシ等の動植物の骨、軟骨又は皮等の原料から抽出する方法が知られており、本発明においては、化学合成品の他にこれら抽出物も利用することができる。コンドロイチン硫酸の塩としては、例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。コンドロイチン硫酸又はその塩の配合量は、キトサン又は水溶性キトサン1質量部に対して0.1〜30質量部であり、好ましくは1〜20質量部である。この配合量により、キトサン又は水溶性キトサンが呈する強い渋味を無味無臭のコンドロイチン硫酸又はその塩が効果的に低減することができる。
【0014】
本発明における飲料のpHは、キトサンを用いる場合には、2.0〜7.0であり、より好ましくは2.5〜6.5である。水溶性キトサンを用いる場合には、特に限定はされないが、かかる範囲のpHに設定することによって、本発明を飲料として提供した際、より服用感が向上することが確認されている。
【0015】
pHを上記範囲に保つために、必要に応じてpH調整剤を配合することができる。pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの塩類、塩酸などの鉱酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基等が挙げられる。
【0016】
本発明の飲料にはその他の成分として、ビタミン、ミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0017】
本発明の飲料を調製する方法において、キトサンを用いる場合には、キトサンが中性付近では水に溶解しにくいため、溶液を一度酸性にする必要がある。キトサンを溶解させた酸性溶液は、後に中性に戻すこともでき、約pH7付近の飲料として調製することもできる。水溶性キトサンを用いる場合には、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではなく、例えば、各成分を適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、更に精製水を加えて容量調整し、必要に応じて濾過、滅菌処理を施す方法が挙げられ、本発明の飲料を得ることができる。
【0018】
本発明の飲料は、ドリンク剤、シロップ等の医薬品及び医薬部外品の他、健康飲料、茶飲料、スポーツドリンク等の各種食品として提供することができる。
【0019】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
本検討では水溶性キトサンとしてキトサンオリゴ糖(COS−YS)(焼津水産化学工業(株))を、キトサンとしてキトサン5(和光純薬(株))を用いた。
[試験液調製]
各試験液の処方は表1〜4に示す。
【0021】
水溶性キトサンを配合する場合は、精製水に水溶性キトサンを溶かし、その溶液にコンドロイチン硫酸ナトリウム又は各多糖類を添加し、溶解させ、精製水を加えて全量100mLとし,塩酸及び水酸化カリウムでpHを調整した。
【0022】
キトサンを配合する場合は、精製水にキトサンを添加して塩酸でpHを2以下とし、溶解させ,その溶液にコンドロイチン硫酸ナトリウムを添加、溶解させ,精製水を加えて全量100mLとし、水酸化カリウムでpHを調整した。
【0023】
pHを調整した各溶液をガラスビンに充填し、キャップを施して80℃-20分殺菌を行い、試験液を得た。
[官能試験方法(渋味の評価)]
沈殿が無く、飲料としての粘性に問題が無いと判断した試験液の渋味について、成人男女計5名からなるパネラーによる官能評価を行った。
【0024】
試験方法:各試験液約10mLを5秒間口に含んだ時に感じる渋味について、「非常に渋い」:5点、「とても渋い」:4点、「渋い」:3点、「少し渋い」:2点、「わずかに渋い」:1点、「何も感じない」:0点から選択させ、その平均点を用いて評価した。なお、官能評価は各表毎に行い、表中の各試験液の官能評価は30分以上の間隔をおいて実施した。
[結果]
(1)コンドロイチン硫酸の効果(pH4.5)
水溶性キトサンとコンドロイチン硫酸ナトリウム(生化学工業(株))を配合し、pHを4.5に調整した処方を実施例1とした。実施例1からコンドロイチン硫酸ナトリウムを抜いた処方を比較例1、コンドロイチン硫酸ナトリウムの代わりに同じ多糖類であるデキストリン(和光純薬(株))、アルギン酸ナトリウム(和光純薬(株))、ペクチン(和光純薬(株))、λ-カラギーナン(和光純薬(株))、を配合した処方を比較例2〜5とした。実施例1及び比較例1の水溶性キトサンをキトサンに置き換えたものを実施例5及び比較例9とした。各処方と、各試験液調製直後の目視による沈殿の有無及び飲料としての粘性の適否、並びに官能試験の結果を表1に記載した。
【0025】
【表1】

実施例及び比較例の評価を行った結果、比較例3は粘度が非常に高く、また比較例4及び5のサンプルは沈殿が生じたため、飲料としては適していなかった。
【0026】
官能評価値より水溶性キトサン又はキトサン配合溶液にコンドロイチン硫酸を添加することで、比較例1、2及び9で認められている渋味が良好に改善されていることがわかった。
(2)水溶性キトサンの渋味に対するコンドロイチン硫酸とpHの影響
実施例1のpHを2.5及び6.5に調整したものを各々実施例2及び3とし、実施例2及び3からコンドロイチン硫酸ナトリウムを抜いた処方を各々比較例6及び7とした。
【0027】
【表2】

水溶性キトサンはpHが低いほど渋味が強いが、水溶性キトサン配合溶液にコンドロイチン硫酸を添加することで、比較例6、1及び7でそれぞれ認められている水溶性キトサンの渋味が各pHで良好に改善されていることがわかった。
(3)キトサンの渋味に対するコンドロイチン硫酸とpHの影響
表2における実施例1〜3並びに比較例1、6及び7の水溶性キトサンを、キトサンに置き換えたものを実施例4〜6及び比較例8〜10とした。
【0028】
【表3】

キトサンはpHが低いほど渋味が強いが、キトサン配合溶液にコンドロイチン硫酸を添加することで、比較例8〜10でそれぞれ認められているキトサンの渋味が各pHで良好に改善されていることがわかった。
(4)水溶性キトサンの渋味に対するコンドロイチン硫酸配合量の影響
実施例1から水溶性キトサンとコンドロイチン硫酸ナトリウムの配合比を変化させたものを実施例7〜11及び比較例11とした。
【0029】
【表4】

水溶性キトサン配合溶液に、水溶性キトサンの0.1重量部以上のコンドロイチン硫酸ナトリウムを配合することで渋味がマスキングされ、1重量部以上のコンドロイチン硫酸ナトリウムを配合することで渋味がほとんど無くなることがわかった。
【0030】
以上のように、水溶性キトサン又はキトサン配合溶液にコンドロイチン硫酸ナトリウムを配合することで、水溶性キトサン又はキトサンに起因する渋みを優位に抑制し、且つ飲料に適した粘性を有する溶液の調製ができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、キトサンにより生じる渋味が改善された、極めて服用しやすい飲料を、医薬品及び医薬部外品並びに食品領域の飲料として提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン、及びコンドロイチン硫酸又はその塩を配合することを特徴とする飲料。
【請求項2】
pHが2.0〜7.0である請求項1記載の飲料。
【請求項3】
キトサンが、水溶性キトサンである請求項1記載の飲料。
【請求項4】
水溶性キトサンが、キトサンオリゴ糖である請求項3記載の飲料。

【公開番号】特開2009−55882(P2009−55882A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228408(P2007−228408)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】