キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法
【課題】イオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に効率よく行う方法を提供する。
【解決手段】桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1〜2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順1)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【解決手段】桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1〜2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順1)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法に関し、詳しくはイオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に安全に収率よく行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既に、発明者らは、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステルと、カフェオイルキナ酸(CQA)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、4,5−ジカフェオイルキナ酸(diCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)を酵素合成し得ることの知見を得ている(特許文献1の段落0055〜0065を参照。)。
【0003】
ここで、一方の基質であるカフェ酸ビニルエステルは有機溶媒に溶けやすいといった性質であり、他方の基質のカフェオイルキナ酸(CQA)は水に溶けやすいといった性質である。すなわち、カフェ酸ビニルエステルは疎水性イオン液体に溶解させ易く、カフェオイルキナ酸(CQA)は疎水性イオン液体に溶解させ難い。また、特許文献1に記載しているように、発明者らは、疎水性イオン液体が親水性イオン液体と比較してリパーゼ酵素の触媒反応が優れていることの知見を得ている。
【0004】
具体例として、クロロゲン酸(5−CQA)で説明する。クロロゲン酸は、疎水性イオン液体に溶解しないが、親水性イオン液体には溶解する。しかしながら、親水性イオン液体中では固定化リパーゼの酵素が失活する。そこで、固定化リパーゼの触媒反応に適している疎水性イオン液体と、クロロゲン酸の溶解に優れた親水性イオン液体を混合して酵素合成することを試みた。
すなわち、図1に示すように、疎水性イオン液体と親水性イオン液体を混合して作製した混合イオン液体中で、クロロゲン酸とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)の酵素合成を試みた。しかしながら、クロロゲン酸の溶解と酵素活性の発現を両立できる混合イオン液体を見出すことはできず、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)の酵素合成はできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2009−207492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況下、本発明は、リパーゼ酵素の活性が優れている疎水性イオン溶液および微生物が生産する酵素を用いて、桂皮酸類、特に生理活性が高いカフェ酸から付加価値の高いジカフェオイルキナ酸(diCQA)を少ない工程で工業生産レベルに酵素合成することを目的とする。
すなわち、本発明は、かかる目的を達成すべく、イオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に効率よく行う方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記状況下、本発明者らは、クロロゲン酸に修飾基をつけて疎水性にしておき、リパーゼの触媒反応として優れている疎水性イオン液体に溶解させ易くすれば、その後の酵素反応がスムーズに進むのではないかと仮説を立てた。
本発明者らは、このような事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、クロロゲン酸を疎水性にできる修飾基はメチル基以外にもあるが(例えば、エチル基,プロピル基,ブチル基など)、リパーゼ(LipozymeTL−IM)がカフェオイル基をエステル交換する基質に最も適しているのがメチルエステルであることを見出した。そして、キナ酸のカルボキシ基をメチル化し疎水性を上げたものと、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したものとを基質として、両者を疎水性イオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施すことにより、少ない工程でキナ酸ジエステル誘導体を高い収率で酵素合成できることの知見を得て、本発明に至った。
【0008】
すなわち、上記課題を達成すべく、本発明の第1の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1−1〜1−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順1−1)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順1−2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0009】
かかるキナ酸ジエステルの酵素合成法によれば、桂皮酸類のビニルエステルから目的とするキナ酸ジエステル誘導体を簡便かつ安全に、また高い収率で得ることができる。一段階の反応で目的生成物が得られ効率がよく、また本発明のエステル交換反応は一相系で行われるため多様な基質と酵素を使用でき、また有機溶媒類を用いないので環境に優しく、イオン液体および酵素がリサイクル利用できるといった利点を有する。
【0010】
ここで、上記のイオン液体は、疎水性のものであることが好適である。親水性のイオン液体よりも、疎水性のイオン液体の方が、エステル交換反応の変換率が極めて高いからである。
また、上記の固定化酵素は、リパーゼ類であることが好適である。更にかかるリパーゼ類は、Lipozyme(登録商標) TL−IMであることが好ましい。後述する酵素スクリーニング結果から、Lipozyme(登録商標) TL−IMが、キナ酸ジエステル誘導体のエステル交換反応を示すという知見を得たものである。
【0011】
また、桂皮酸類は、特に制限はないが、コーヒーなどの植物等の天然物中の成分として存在するものが好ましく、例えば、桂皮酸、カフェ酸、ヒドロキシ桂皮酸、フェルラ酸、ヘスペリチン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、およびシナピン酸の群から選択されたものである。
また、酵素反応に必要な物質は、基質と固定化された酵素、イオン液体だけで、アセトンなどの有機溶媒やポリエチレングリコール(PEG)の添加は行っていない。
また、疎水性イオン液体は、[Bdmim][NTf2],[Bmin] [NTf2],[Bmpro] [NTf2]のいずれかであることが好ましい。すなわち、疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]をもつことが好ましい。
【0012】
次に、本発明の第2の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1−1〜1−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順1−2)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順1−2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順1−3)エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0013】
次に、本発明の第3の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順2−1〜2−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順2−1)カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2−2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0014】
次に、本発明の第4の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順2−1〜2−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順2−1)カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2−2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順2−3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0015】
次に、本発明の第5の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順3−1〜3−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順3−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順3−2)メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0016】
次に、本発明の第6の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順3−1〜3−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順3−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順3−2)メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順3−3)エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0017】
次に、本発明の第7の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順4−1〜4−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順4−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順4−2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0018】
次に、本発明の第8の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順4−1〜4−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順4−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順4−2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順4−3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【発明の効果】
【0019】
本発明により、イオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に効率よく行う方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来検討した酵素合成法のイメージ
【図2】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換のイメージ
【図3】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)のメチル化試験におけるHPLCクロマトグラム
【図4】5−カフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図5】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換とその条件および変換率を示す図
【図6】5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換イメージ
【図7】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とカフェ酸ビニルを用いた酵素反応試験におけるHPLCクロマトグラム
【図8】酵素反応液から新規ピークを精製した後のHPLCクロマトグラム
【図9】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とカフェ酸ビニルを用いた酵素反応試験における生成物質のLC−MS分析結果を示す図
【図10】ジカフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図11】4、5−ジカフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図12】diCQA合成における最適なイオン液体のスクリーニングに供したイオン液体の構造図
【図13】diCQA合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果の結果を示す図
【図14】5−CQAの構造図において、キナ酸の3位の位置、4位の位置がカフェ酸に置換されている3−CQA,4−CQAの説明に用いる図
【図15】キナ酸からキナ酸メチルへの変換イメージ
【図16】キナ酸メチルの構造図
【図17】キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチル(4−CQAメチル)への変換イメージ
【図18】カフェオイルキナ酸メチル合成における最適な酵素のスクリーニング結果を示す図
【図19】カフェオイルキナ酸メチル合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1は、以下の(1)〜(3)の処理を行って、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を酵素合成する方法について、カフェオイルキナ酸(CQA)としてクロロゲン酸(5−CQA)を用いた処理を詳細に説明する。
(1)カフェオイルキナ酸(CQA)のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0023】
(5−CQA−Meの合成)
先ず、クロロゲン酸(5−CQA)のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップについて説明する。図2に、クロロゲン酸からクロロゲン酸メチル(5−CQA−Me;5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換のイメージを示す。
図5に示すように、クロロゲン酸からクロロゲン酸メチルへの酵素変換は、具体的には、10.0ml用スクリューキャップ付きバイアル瓶に5−CQA 17.7mgと、もう1種類の基質であるメタノール
98 μl、[Bmim][NTF2] 0.902 ml、3オングストローム モレキュラーシーブ 15mgを加え、オイルバス中で40℃、10分間予備加温した。ここに、Novozyme435を1.5×104
Uを加え、40℃、200rpm (Magnetic stirrer SW−RS777D、NISSIN) で撹拌した。経時的にサンプリングし、HPLC分析に供した。クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換の変換率は、93%であった。
【0024】
反応液からサンプルを採取し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC;High
Performance Liquid Chromatography)にて分析を行なった。HPLC分析は、HITACHI D−2000 Elite(日立ハイテクノロジー)とCosmosil
5C18−ARIIカラム(4.6 mm I.D.× 250 mm、Nacarai
tesque Inc.) を用い、移動相に0.2%(v/v)酢酸とメタノールを用いた。10分間でメタノールが30%から60%(v/v)になるようにグラジエントをかけ、その後15分間100%メタノールを流した。カラム温度40℃、流速1.0
ml/minで分析し、330 nmにおける吸光度を検出した。
HPLCの分析結果を図3に示す。分析結果から、5−カフェオイルキナ酸のリテンションタイムとは全く異なる場所に新規ピークが生じていることが確認できた。
【0025】
5−CQAとメタノールをイオン液体[Bmim][NTf2]の存在下で、酵素反応によって生じた物質を単離し、NMR(Nuclear
Magnetic Resonance Spectroscopy)分析を行なった。NMR分析の結果、この酵素反応によって生じた物質は、図4に示す構造の5−CQA−Me(5−カフェオイルキナ酸メチル)であることが確認できた。なお、NMR分析に用いた分析機器は、BRUKER ULTRASHIELD 400 PLUSである。
NMR分析の結果について、下表1に示す。なお、対応する符号数字(1〜6,1´〜9´)は、図4の構造図に表記しているものに対応している。
【0026】
【表1】
【0027】
(diCQAの合成:酵素スクリーニング)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換が可能かどうかについて、市販の酵素製剤12種類を用いて酵素のスクリーニングを行なった。スクリーニングに用いたのは、5−カフェオイルキナ酸メチル(15mM;5.50mg)とカフェ酸ビニルエステル(85mM;17.5mg)である。これらを10.0 ml容スクリューキャップ付きバイアル瓶にイオン液体[Bmim] [NTf2] 0.5ml、3オングストローム モレキュラーシーブ 15 mgとともに添加し、オイルバス中で40℃、10分間予備加温した。さらに、リパーゼ酵素製剤5mgと共に、60℃,170
rpmで撹拌し反応開始した。144時間インキュベートしたところ(図6を参照)、Lipozyme TL−IMを使用したときのみ新規ピークの出現が確認できた。
【0028】
反応液からサンプルを採取し、HPLC分析を行なった。HPLCクロマトグラムを図7に示す。分析の結果、5−カフェオイルキナ酸およびカフェ酸ビニルのリテンションタイムとは全く異なる場所に新規ピークが生じていた(図8のHPLCクロマトグラムの拡大図を参照)。
【0029】
【表2】
【0030】
(反応生成物の精製)
反応液に対して、n−ヘキサン:2−プロパノール
/ 2:1(v/v) 3.0 mlを加えて激しく攪拌し、生成物と残存する基質を抽出した。得られた抽出液を減圧濃縮してシリカゲルカラム(径26mm×400mm、
ワコーゲル C−200)に供して、クロロホルム : 酢酸エチル/1 : 1(v/v)でカフェ酸ビニルエステルと反応副産物を溶出した。その後、メタノールで5−カフェオイルキナ酸メチルと新規ピーク物質を溶出させた。
次に、この工程で得たメタノール溶出画分を減圧乾固させ、HCl酸性水(pH3)に再溶解した。その後、HCl酸性水で活性化させたSP207カラム(径26mm×400mm)にサンプルをアプライした。HCl酸性水でSP207樹脂にサンプルを吸着させた後、まず30%(v/v)エタノール水溶液(pH3)で5−カフェオイルキナ酸メチルを溶出させ、その後、100%エタノールで新規ピーク物質を溶出させた。溶出画分を一つにまとめ、濃縮、凍結乾燥を行なった。
【0031】
(LC−MSによる分析)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルをイオン液体[Bmim] [NTf2]の存在下で、リパーゼ(LipozymeTL−IM)によって新たに生成した物質について、LC−MS分析(Negative ion mode)を行なった。LC−MSは以下のものを使用した。
・HPLC:Alliance
HPLC system(Waters Co.USA)
・MS:Q−TOF
Premier(Waters Co.USA)
ここで、LC−MS分析条件は、0.2%(v/v)酢酸:メタノール/ 70:30(v/v)で平衡化したカラムに、25.0分間でメタノールが30%から60%(v/v)になるようにグラジエントをかけ、その後37分間100%メタノールを流した後、13分間、最初の溶媒比率でカラムを再平衡化した。
【0032】
LC−MS分析結果を図9に示す。図9に示すように、LC−MS分析の結果、衝突エネルギーが5Vのときで529(m/z)が得られた。この新規反応生成物質の分子イオンピーク529(m/z)は、ジカフェオイルキナ酸メチルの分子量530と一致した。さらに衝突エネルギーが20Vのとき367(m/z)と179(m/z)が観察された。これらはそれぞれ、新規反応生成物質が開裂しカフェオイル基が脱離したもの、および脱離したカフェオイル基のフラグメントピークの(m/z)と一致した。これらの結果から、新規ピーク物質はジカフェオイルキナ酸メチルと同定した。
【0033】
(4,5−diCQA−Meの同定)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルをイオン液体[Bmim]
[NTf2]の存在下で、酵素反応によって生じた物質を単離し、NMR分析を行なった。NMR分析の結果、この酵素反応によって生じた物質は、図10に示す構造の4,5−diCQAメチル(4、5−ジカフェオイルキナ酸メチル)であることが確認できた。
NMR分析の結果について、下表3に示す。なお、対応する符号数字(1〜6,1´〜8´等)は、図11の構造図に表記しているものに対応している。
【0034】
【表3】
【0035】
(diCAQ−Meを合成できるイオン液体の探索)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換において、どのようなイオン液体を用いれば最も収率が適切かについて、下表4に示すイオン液体および有機溶媒(合計9種類)を用いて反応溶媒のスクリーニングを行なった。
【0036】
【表4】
【0037】
反応溶媒のスクリーニングは、カフェオイルキナ酸メチル(10.8mM;3.96mg)とカフェ酸ビニルエステル(43.2mM;8.90mg)、3オングストローム
モレキュラーシーブ 5mgとを上記表4に示すイオン液体および有機溶媒(合計9種類)0.25ml中に添加し、オイルバス中で60℃、10分間予備加温した。その後、LipozymeTL−IM
5mgと共に60℃、170rpmで144時間インキュベートした。
反応液からサンプルを採取し、HPLC分析を行なった。HPLC分析は、HITACHI
D−2000 EliteとCosmosil 5C18−ARIIカラム(4.6
mm I.D.×250mm)
を用い、移動相に0.2%(v/v)酢酸とメタノールを用いた。20分間でメタノールが20%(v/v)から100%になるようにグラジエントをかけ、その後15分間100%メタノールを流した。カラム温度40℃、流速1.0ml/minで分析し、330nmにおける吸光度を検出した。その結果、[Bdmim][NTf2]が最も効率よくジカフェオイルキナ酸メチルを生成することが確認できた。
ここで、図12は、上記表4に示すイオン液体の構造を示している。
【0038】
図13は、diCQAの酵素合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示したものである。図13から、カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応させるのに適したイオン液体としては、[Bdmim] [NTf2](1−Butyl−2,3−dimethylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)が最も相対活性が高く、次いで、[Bmim] [NTf2](1−Buthyl−3−methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)、[Bmpro] [NTf2](N−Buthyl−N−methylpyrrolidinium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)であった。アニオンに[NTf2]をもつ疎水性イオン液体は、[CF3SO3]をもつ親水性イオン液体や有機溶媒よりも新規ピーク物質の酵素合成に適していた。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2は、以下の(1)〜(3)の処理を行って、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を酵素合成する方法について、キナ酸とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を行わせる処理を詳細に説明する。
(1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0040】
実施例1に示したように、イオン液体にクロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とメタノールを溶解し、リパーゼを反応させるとクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)を得ることができた。
そこで、他のカフェオイルキナ酸、具体的には、3−CQA(3−カフェオイルキナ酸)、4−CQA(4−カフェオイルキナ酸)でも同様の反応生成物が得られるか否か実験を行なった。しかしながら、3−CQA、4−CQAではメチル化反応を行うことは困難であった。
なお、3−CQA、4−CQAの構造は、図14のクロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)の構造式において、キナ酸の3位の位置、4位の位置がカフェ酸に置換されているものがそれぞれ3−CQA、4−CQAである。
【0041】
実施例2においては、3−CQA(3−カフェオイルキナ酸)、4−CQA(4−カフェオイルキナ酸)では、クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とは異なり、メチル化物が生成され難いことに鑑みて、先ず、キナ酸をメチル化してから、メチル化されたキナ酸メチルとカフェ酸ビニルとを作用させて、エステル交換によりクロロゲン酸メチルを合成する方法を説明する。
【0042】
(キナ酸メチルの合成)
キナ酸メチルの合成は、キナ酸とメタノールの存在下において、塩酸を添加し60℃で1日反応させることにより合成した。そして、反応液を減圧乾固させ、クロロホルムに懸濁し、クロロホルム:メタノール=90:10(v/v)で抽出を行った。この抽出液をサンプルとして薄層クロマトグラフィー(展開溶媒=クロロホルム:メタノール=70:30(v/v))を行い、リンモリブデン酸試薬によってキナ酸メチルと同じRf値にあるスポットを確認した。
そして、この薄層上にあるスポット部分を回収して、NMR分析に供した。
図15は、キナ酸からキナ酸メチルへの変換イメージを示している。
【0043】
(キナ酸メチルの同定)
キナ酸とメタノールの存在下において、塩酸を添加し60℃で1日反応させた。生じた物質を単離し、NMR分析を行なった。その結果、キナ酸メチルであることを確認できた。また、収率は60.2%であった。
NMR分析の結果について、下表5に示す。なお、対応する符号数字(1〜6)は、図16の構造図に表記しているものに対応している。
【0044】
【表5】
【0045】
(カフェオイルキナ酸メチルの合成における酵素スクリーニング)
キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチルへの変換が可能かどうかについて、市販の酵素製剤7種類(下記表6を参照)を用いて酵素のスクリーニングを行なった。
カフェ酸ビニル、キナ酸メチルをイオン液体[Bmim] [NTf2]に添加し、さらにリパーゼ酵素製剤と共に60℃でインキュベートした。この反応液からサンプルを採取し、ヘキサンと2−プロパノール=2:1の混合液で抽出を行い、HPLCにて分析を行なった。その結果、リパーゼPLを用いたときは図にみられるように4−カフェオイルキナ酸メチルおよび5−カフェオイルキナ酸メチルと思われるピークが多く生じていた。
図17に、キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチル(4−CQAメチル)への変換イメージを示す。
また、図18は、カフェオイルキナ酸メチル合成における最適な酵素のスクリーニング結果を示すグラフである。
【0046】
【表6】
【0047】
(カフェオイルキナ酸メチルを合成できるイオン液体のスクリーニング)
キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチルへの変換において、どのようなイオン液体を用いれば最も収率が良いかについて、下記表7に示すイオン液体および有機溶媒(合計7種類)を用いて反応溶媒のスクリーニングを行なった。カフェ酸ビニルおよびキナ酸メチルを表に示すイオン液体に添加し、リパーゼPLと共に40℃、200rpmで144時間インキュベートした。反応液からサンプルを採取し、ヘキサンと2−プロパノール=2:1の混合液で抽出を行い、HPLCにて分析を行なった。HPLC分析の結果、[Bdmim] [NTf2]をはじめ、疎水性イオン液体が効率よくカフェオイルキナ酸メチルを生成することが確認できた。
図19は、カフェオイルキナ酸メチル合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示すグラフである。
【0048】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体を簡便かつ安全に高い収率で酵素合成できる方法として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法に関し、詳しくはイオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に安全に収率よく行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既に、発明者らは、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステルと、カフェオイルキナ酸(CQA)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、4,5−ジカフェオイルキナ酸(diCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)を酵素合成し得ることの知見を得ている(特許文献1の段落0055〜0065を参照。)。
【0003】
ここで、一方の基質であるカフェ酸ビニルエステルは有機溶媒に溶けやすいといった性質であり、他方の基質のカフェオイルキナ酸(CQA)は水に溶けやすいといった性質である。すなわち、カフェ酸ビニルエステルは疎水性イオン液体に溶解させ易く、カフェオイルキナ酸(CQA)は疎水性イオン液体に溶解させ難い。また、特許文献1に記載しているように、発明者らは、疎水性イオン液体が親水性イオン液体と比較してリパーゼ酵素の触媒反応が優れていることの知見を得ている。
【0004】
具体例として、クロロゲン酸(5−CQA)で説明する。クロロゲン酸は、疎水性イオン液体に溶解しないが、親水性イオン液体には溶解する。しかしながら、親水性イオン液体中では固定化リパーゼの酵素が失活する。そこで、固定化リパーゼの触媒反応に適している疎水性イオン液体と、クロロゲン酸の溶解に優れた親水性イオン液体を混合して酵素合成することを試みた。
すなわち、図1に示すように、疎水性イオン液体と親水性イオン液体を混合して作製した混合イオン液体中で、クロロゲン酸とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)の酵素合成を試みた。しかしながら、クロロゲン酸の溶解と酵素活性の発現を両立できる混合イオン液体を見出すことはできず、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)の酵素合成はできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2009−207492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況下、本発明は、リパーゼ酵素の活性が優れている疎水性イオン溶液および微生物が生産する酵素を用いて、桂皮酸類、特に生理活性が高いカフェ酸から付加価値の高いジカフェオイルキナ酸(diCQA)を少ない工程で工業生産レベルに酵素合成することを目的とする。
すなわち、本発明は、かかる目的を達成すべく、イオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に効率よく行う方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記状況下、本発明者らは、クロロゲン酸に修飾基をつけて疎水性にしておき、リパーゼの触媒反応として優れている疎水性イオン液体に溶解させ易くすれば、その後の酵素反応がスムーズに進むのではないかと仮説を立てた。
本発明者らは、このような事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、クロロゲン酸を疎水性にできる修飾基はメチル基以外にもあるが(例えば、エチル基,プロピル基,ブチル基など)、リパーゼ(LipozymeTL−IM)がカフェオイル基をエステル交換する基質に最も適しているのがメチルエステルであることを見出した。そして、キナ酸のカルボキシ基をメチル化し疎水性を上げたものと、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したものとを基質として、両者を疎水性イオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施すことにより、少ない工程でキナ酸ジエステル誘導体を高い収率で酵素合成できることの知見を得て、本発明に至った。
【0008】
すなわち、上記課題を達成すべく、本発明の第1の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1−1〜1−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順1−1)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順1−2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0009】
かかるキナ酸ジエステルの酵素合成法によれば、桂皮酸類のビニルエステルから目的とするキナ酸ジエステル誘導体を簡便かつ安全に、また高い収率で得ることができる。一段階の反応で目的生成物が得られ効率がよく、また本発明のエステル交換反応は一相系で行われるため多様な基質と酵素を使用でき、また有機溶媒類を用いないので環境に優しく、イオン液体および酵素がリサイクル利用できるといった利点を有する。
【0010】
ここで、上記のイオン液体は、疎水性のものであることが好適である。親水性のイオン液体よりも、疎水性のイオン液体の方が、エステル交換反応の変換率が極めて高いからである。
また、上記の固定化酵素は、リパーゼ類であることが好適である。更にかかるリパーゼ類は、Lipozyme(登録商標) TL−IMであることが好ましい。後述する酵素スクリーニング結果から、Lipozyme(登録商標) TL−IMが、キナ酸ジエステル誘導体のエステル交換反応を示すという知見を得たものである。
【0011】
また、桂皮酸類は、特に制限はないが、コーヒーなどの植物等の天然物中の成分として存在するものが好ましく、例えば、桂皮酸、カフェ酸、ヒドロキシ桂皮酸、フェルラ酸、ヘスペリチン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、およびシナピン酸の群から選択されたものである。
また、酵素反応に必要な物質は、基質と固定化された酵素、イオン液体だけで、アセトンなどの有機溶媒やポリエチレングリコール(PEG)の添加は行っていない。
また、疎水性イオン液体は、[Bdmim][NTf2],[Bmin] [NTf2],[Bmpro] [NTf2]のいずれかであることが好ましい。すなわち、疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]をもつことが好ましい。
【0012】
次に、本発明の第2の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順1−1〜1−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順1−2)キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順1−2)メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順1−3)エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0013】
次に、本発明の第3の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順2−1〜2−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順2−1)カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2−2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0014】
次に、本発明の第4の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順2−1〜2−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順2−1)カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順2−2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順2−3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0015】
次に、本発明の第5の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順3−1〜3−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順3−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順3−2)メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0016】
次に、本発明の第6の観点によれば、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、手順3−1〜3−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順3−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順3−2)メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順3−3)エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0017】
次に、本発明の第7の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順4−1〜4−2を備えたキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法が提供される。
(手順4−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順4−2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
【0018】
次に、本発明の第8の観点によれば、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、手順4−1〜4−3を備えたキナ酸ジエステルの酵素合成法が提供される。
(手順4−1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(手順4−2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(手順4−3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【発明の効果】
【0019】
本発明により、イオン液体中でのエステル交換反応により、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成を簡便に効率よく行う方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来検討した酵素合成法のイメージ
【図2】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換のイメージ
【図3】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)のメチル化試験におけるHPLCクロマトグラム
【図4】5−カフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図5】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換とその条件および変換率を示す図
【図6】5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換イメージ
【図7】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とカフェ酸ビニルを用いた酵素反応試験におけるHPLCクロマトグラム
【図8】酵素反応液から新規ピークを精製した後のHPLCクロマトグラム
【図9】クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とカフェ酸ビニルを用いた酵素反応試験における生成物質のLC−MS分析結果を示す図
【図10】ジカフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図11】4、5−ジカフェオイルキナ酸メチルの構造図
【図12】diCQA合成における最適なイオン液体のスクリーニングに供したイオン液体の構造図
【図13】diCQA合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果の結果を示す図
【図14】5−CQAの構造図において、キナ酸の3位の位置、4位の位置がカフェ酸に置換されている3−CQA,4−CQAの説明に用いる図
【図15】キナ酸からキナ酸メチルへの変換イメージ
【図16】キナ酸メチルの構造図
【図17】キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチル(4−CQAメチル)への変換イメージ
【図18】カフェオイルキナ酸メチル合成における最適な酵素のスクリーニング結果を示す図
【図19】カフェオイルキナ酸メチル合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1は、以下の(1)〜(3)の処理を行って、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を酵素合成する方法について、カフェオイルキナ酸(CQA)としてクロロゲン酸(5−CQA)を用いた処理を詳細に説明する。
(1)カフェオイルキナ酸(CQA)のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(2)メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0023】
(5−CQA−Meの合成)
先ず、クロロゲン酸(5−CQA)のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップについて説明する。図2に、クロロゲン酸からクロロゲン酸メチル(5−CQA−Me;5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換のイメージを示す。
図5に示すように、クロロゲン酸からクロロゲン酸メチルへの酵素変換は、具体的には、10.0ml用スクリューキャップ付きバイアル瓶に5−CQA 17.7mgと、もう1種類の基質であるメタノール
98 μl、[Bmim][NTF2] 0.902 ml、3オングストローム モレキュラーシーブ 15mgを加え、オイルバス中で40℃、10分間予備加温した。ここに、Novozyme435を1.5×104
Uを加え、40℃、200rpm (Magnetic stirrer SW−RS777D、NISSIN) で撹拌した。経時的にサンプリングし、HPLC分析に供した。クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)からクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)への酵素変換の変換率は、93%であった。
【0024】
反応液からサンプルを採取し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC;High
Performance Liquid Chromatography)にて分析を行なった。HPLC分析は、HITACHI D−2000 Elite(日立ハイテクノロジー)とCosmosil
5C18−ARIIカラム(4.6 mm I.D.× 250 mm、Nacarai
tesque Inc.) を用い、移動相に0.2%(v/v)酢酸とメタノールを用いた。10分間でメタノールが30%から60%(v/v)になるようにグラジエントをかけ、その後15分間100%メタノールを流した。カラム温度40℃、流速1.0
ml/minで分析し、330 nmにおける吸光度を検出した。
HPLCの分析結果を図3に示す。分析結果から、5−カフェオイルキナ酸のリテンションタイムとは全く異なる場所に新規ピークが生じていることが確認できた。
【0025】
5−CQAとメタノールをイオン液体[Bmim][NTf2]の存在下で、酵素反応によって生じた物質を単離し、NMR(Nuclear
Magnetic Resonance Spectroscopy)分析を行なった。NMR分析の結果、この酵素反応によって生じた物質は、図4に示す構造の5−CQA−Me(5−カフェオイルキナ酸メチル)であることが確認できた。なお、NMR分析に用いた分析機器は、BRUKER ULTRASHIELD 400 PLUSである。
NMR分析の結果について、下表1に示す。なお、対応する符号数字(1〜6,1´〜9´)は、図4の構造図に表記しているものに対応している。
【0026】
【表1】
【0027】
(diCQAの合成:酵素スクリーニング)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換が可能かどうかについて、市販の酵素製剤12種類を用いて酵素のスクリーニングを行なった。スクリーニングに用いたのは、5−カフェオイルキナ酸メチル(15mM;5.50mg)とカフェ酸ビニルエステル(85mM;17.5mg)である。これらを10.0 ml容スクリューキャップ付きバイアル瓶にイオン液体[Bmim] [NTf2] 0.5ml、3オングストローム モレキュラーシーブ 15 mgとともに添加し、オイルバス中で40℃、10分間予備加温した。さらに、リパーゼ酵素製剤5mgと共に、60℃,170
rpmで撹拌し反応開始した。144時間インキュベートしたところ(図6を参照)、Lipozyme TL−IMを使用したときのみ新規ピークの出現が確認できた。
【0028】
反応液からサンプルを採取し、HPLC分析を行なった。HPLCクロマトグラムを図7に示す。分析の結果、5−カフェオイルキナ酸およびカフェ酸ビニルのリテンションタイムとは全く異なる場所に新規ピークが生じていた(図8のHPLCクロマトグラムの拡大図を参照)。
【0029】
【表2】
【0030】
(反応生成物の精製)
反応液に対して、n−ヘキサン:2−プロパノール
/ 2:1(v/v) 3.0 mlを加えて激しく攪拌し、生成物と残存する基質を抽出した。得られた抽出液を減圧濃縮してシリカゲルカラム(径26mm×400mm、
ワコーゲル C−200)に供して、クロロホルム : 酢酸エチル/1 : 1(v/v)でカフェ酸ビニルエステルと反応副産物を溶出した。その後、メタノールで5−カフェオイルキナ酸メチルと新規ピーク物質を溶出させた。
次に、この工程で得たメタノール溶出画分を減圧乾固させ、HCl酸性水(pH3)に再溶解した。その後、HCl酸性水で活性化させたSP207カラム(径26mm×400mm)にサンプルをアプライした。HCl酸性水でSP207樹脂にサンプルを吸着させた後、まず30%(v/v)エタノール水溶液(pH3)で5−カフェオイルキナ酸メチルを溶出させ、その後、100%エタノールで新規ピーク物質を溶出させた。溶出画分を一つにまとめ、濃縮、凍結乾燥を行なった。
【0031】
(LC−MSによる分析)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルをイオン液体[Bmim] [NTf2]の存在下で、リパーゼ(LipozymeTL−IM)によって新たに生成した物質について、LC−MS分析(Negative ion mode)を行なった。LC−MSは以下のものを使用した。
・HPLC:Alliance
HPLC system(Waters Co.USA)
・MS:Q−TOF
Premier(Waters Co.USA)
ここで、LC−MS分析条件は、0.2%(v/v)酢酸:メタノール/ 70:30(v/v)で平衡化したカラムに、25.0分間でメタノールが30%から60%(v/v)になるようにグラジエントをかけ、その後37分間100%メタノールを流した後、13分間、最初の溶媒比率でカラムを再平衡化した。
【0032】
LC−MS分析結果を図9に示す。図9に示すように、LC−MS分析の結果、衝突エネルギーが5Vのときで529(m/z)が得られた。この新規反応生成物質の分子イオンピーク529(m/z)は、ジカフェオイルキナ酸メチルの分子量530と一致した。さらに衝突エネルギーが20Vのとき367(m/z)と179(m/z)が観察された。これらはそれぞれ、新規反応生成物質が開裂しカフェオイル基が脱離したもの、および脱離したカフェオイル基のフラグメントピークの(m/z)と一致した。これらの結果から、新規ピーク物質はジカフェオイルキナ酸メチルと同定した。
【0033】
(4,5−diCQA−Meの同定)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルをイオン液体[Bmim]
[NTf2]の存在下で、酵素反応によって生じた物質を単離し、NMR分析を行なった。NMR分析の結果、この酵素反応によって生じた物質は、図10に示す構造の4,5−diCQAメチル(4、5−ジカフェオイルキナ酸メチル)であることが確認できた。
NMR分析の結果について、下表3に示す。なお、対応する符号数字(1〜6,1´〜8´等)は、図11の構造図に表記しているものに対応している。
【0034】
【表3】
【0035】
(diCAQ−Meを合成できるイオン液体の探索)
5−カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルからジカフェオイルキナ酸メチルへの変換において、どのようなイオン液体を用いれば最も収率が適切かについて、下表4に示すイオン液体および有機溶媒(合計9種類)を用いて反応溶媒のスクリーニングを行なった。
【0036】
【表4】
【0037】
反応溶媒のスクリーニングは、カフェオイルキナ酸メチル(10.8mM;3.96mg)とカフェ酸ビニルエステル(43.2mM;8.90mg)、3オングストローム
モレキュラーシーブ 5mgとを上記表4に示すイオン液体および有機溶媒(合計9種類)0.25ml中に添加し、オイルバス中で60℃、10分間予備加温した。その後、LipozymeTL−IM
5mgと共に60℃、170rpmで144時間インキュベートした。
反応液からサンプルを採取し、HPLC分析を行なった。HPLC分析は、HITACHI
D−2000 EliteとCosmosil 5C18−ARIIカラム(4.6
mm I.D.×250mm)
を用い、移動相に0.2%(v/v)酢酸とメタノールを用いた。20分間でメタノールが20%(v/v)から100%になるようにグラジエントをかけ、その後15分間100%メタノールを流した。カラム温度40℃、流速1.0ml/minで分析し、330nmにおける吸光度を検出した。その結果、[Bdmim][NTf2]が最も効率よくジカフェオイルキナ酸メチルを生成することが確認できた。
ここで、図12は、上記表4に示すイオン液体の構造を示している。
【0038】
図13は、diCQAの酵素合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示したものである。図13から、カフェオイルキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応させるのに適したイオン液体としては、[Bdmim] [NTf2](1−Butyl−2,3−dimethylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)が最も相対活性が高く、次いで、[Bmim] [NTf2](1−Buthyl−3−methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)、[Bmpro] [NTf2](N−Buthyl−N−methylpyrrolidinium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)であった。アニオンに[NTf2]をもつ疎水性イオン液体は、[CF3SO3]をもつ親水性イオン液体や有機溶媒よりも新規ピーク物質の酵素合成に適していた。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2は、以下の(1)〜(3)の処理を行って、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を酵素合成する方法について、キナ酸とカフェ酸ビニルエステルとを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を行わせる処理を詳細に説明する。
(1)キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップ
(2)メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップ
(3)エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップ
【0040】
実施例1に示したように、イオン液体にクロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とメタノールを溶解し、リパーゼを反応させるとクロロゲン酸メチル(5−カフェオイルキナ酸メチル)を得ることができた。
そこで、他のカフェオイルキナ酸、具体的には、3−CQA(3−カフェオイルキナ酸)、4−CQA(4−カフェオイルキナ酸)でも同様の反応生成物が得られるか否か実験を行なった。しかしながら、3−CQA、4−CQAではメチル化反応を行うことは困難であった。
なお、3−CQA、4−CQAの構造は、図14のクロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)の構造式において、キナ酸の3位の位置、4位の位置がカフェ酸に置換されているものがそれぞれ3−CQA、4−CQAである。
【0041】
実施例2においては、3−CQA(3−カフェオイルキナ酸)、4−CQA(4−カフェオイルキナ酸)では、クロロゲン酸(5−カフェオイルキナ酸)とは異なり、メチル化物が生成され難いことに鑑みて、先ず、キナ酸をメチル化してから、メチル化されたキナ酸メチルとカフェ酸ビニルとを作用させて、エステル交換によりクロロゲン酸メチルを合成する方法を説明する。
【0042】
(キナ酸メチルの合成)
キナ酸メチルの合成は、キナ酸とメタノールの存在下において、塩酸を添加し60℃で1日反応させることにより合成した。そして、反応液を減圧乾固させ、クロロホルムに懸濁し、クロロホルム:メタノール=90:10(v/v)で抽出を行った。この抽出液をサンプルとして薄層クロマトグラフィー(展開溶媒=クロロホルム:メタノール=70:30(v/v))を行い、リンモリブデン酸試薬によってキナ酸メチルと同じRf値にあるスポットを確認した。
そして、この薄層上にあるスポット部分を回収して、NMR分析に供した。
図15は、キナ酸からキナ酸メチルへの変換イメージを示している。
【0043】
(キナ酸メチルの同定)
キナ酸とメタノールの存在下において、塩酸を添加し60℃で1日反応させた。生じた物質を単離し、NMR分析を行なった。その結果、キナ酸メチルであることを確認できた。また、収率は60.2%であった。
NMR分析の結果について、下表5に示す。なお、対応する符号数字(1〜6)は、図16の構造図に表記しているものに対応している。
【0044】
【表5】
【0045】
(カフェオイルキナ酸メチルの合成における酵素スクリーニング)
キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチルへの変換が可能かどうかについて、市販の酵素製剤7種類(下記表6を参照)を用いて酵素のスクリーニングを行なった。
カフェ酸ビニル、キナ酸メチルをイオン液体[Bmim] [NTf2]に添加し、さらにリパーゼ酵素製剤と共に60℃でインキュベートした。この反応液からサンプルを採取し、ヘキサンと2−プロパノール=2:1の混合液で抽出を行い、HPLCにて分析を行なった。その結果、リパーゼPLを用いたときは図にみられるように4−カフェオイルキナ酸メチルおよび5−カフェオイルキナ酸メチルと思われるピークが多く生じていた。
図17に、キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチル(4−CQAメチル)への変換イメージを示す。
また、図18は、カフェオイルキナ酸メチル合成における最適な酵素のスクリーニング結果を示すグラフである。
【0046】
【表6】
【0047】
(カフェオイルキナ酸メチルを合成できるイオン液体のスクリーニング)
キナ酸メチルとカフェ酸ビニルからカフェオイルキナ酸メチルへの変換において、どのようなイオン液体を用いれば最も収率が良いかについて、下記表7に示すイオン液体および有機溶媒(合計7種類)を用いて反応溶媒のスクリーニングを行なった。カフェ酸ビニルおよびキナ酸メチルを表に示すイオン液体に添加し、リパーゼPLと共に40℃、200rpmで144時間インキュベートした。反応液からサンプルを採取し、ヘキサンと2−プロパノール=2:1の混合液で抽出を行い、HPLCにて分析を行なった。HPLC分析の結果、[Bdmim] [NTf2]をはじめ、疎水性イオン液体が効率よくカフェオイルキナ酸メチルを生成することが確認できた。
図19は、カフェオイルキナ酸メチル合成における最適なイオン液体のスクリーニング結果を示すグラフである。
【0048】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、キナ酸ジエステル及びキナ酸ジエステル誘導体を簡便かつ安全に高い収率で酵素合成できる方法として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項2】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
前記エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項3】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項4】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項5】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項6】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
前記エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項7】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項8】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項9】
前記疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]を有するものである請求項1,3,5,7のいずれかのキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項10】
前記疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]を有するものである請求項2,4,6,8のいずれかのキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項1】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項2】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸の桂皮酸エステルとを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸の桂皮酸エステルのキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したものと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
前記エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項3】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項4】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、カフェオイルキナ酸(CQA)とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
カフェオイルキナ酸のキナ酸部位のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したカフェオイルキナ酸メチル(CQA−Me)とカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項5】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項6】
桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基にエステル交換した桂皮酸類ビニルエステルと、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化酵素によるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルと桂皮酸類ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
前記エステル交換反応のステップにより得られたキナ酸ジエステル誘導体のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備えたことを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項7】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項8】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)と、キナ酸とを基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応であって、
キナ酸のカルボキシ基をメチルエステル化するステップと、
メチルエステル化したキナ酸メチルとカフェ酸ビニルエステルとを疎水性イオン液体中でエステル交換反応させるステップと、
エステル交換反応で得られたジカフェオイルキナ酸メチル(diCQA−Me)のメチルエステル結合を加水分解するステップと、
を備え、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)を合成することを特徴とするキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【請求項9】
前記疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]を有するものである請求項1,3,5,7のいずれかのキナ酸ジエステル誘導体の酵素合成法。
【請求項10】
前記疎水性イオン液体は、アニオンに[NTf2]を有するものである請求項2,4,6,8のいずれかのキナ酸ジエステルの酵素合成法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−147681(P2012−147681A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6528(P2011−6528)
【出願日】平成23年1月16日(2011.1.16)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月16日(2011.1.16)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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