説明

キムチソースの製造方法、キムチソース、キムチ

【課題】 果実の風味が残り、砂糖を加えないキムチソースの製造方法を提供する。
【解決手段】
りんご、唐辛子、大根、玉ねぎ、ニンニク、生姜、ネギ、塩エビ、イワシエキスを原材料とし、この内、りんごを40〜60重量%含むキムチソースの原材料を、常温で約1日なじませ、チルド温度帯で8〜25日熟成するキムチソースの製造方法。この際の常温は19℃〜22℃が好適であり、チルド温度帯は、−0.1℃〜+5.0℃であることが好適である。また、チルド温度帯にて熟成する際には、空気が混入しないように密閉した状態で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キムチソースの製造方法、キムチソース、キムチ、特にりんごを40〜60%含むキムチソースの製造方法、キムチソース、キムチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから、韓国、北朝鮮に古くから伝わる伝統醗酵食品の一種であるキムチが注目されている。
キムチは、お米を主食とする韓国人にもっとも好まれる副菜で、栄養価が高いだけでなく、近年の研究により様々な生理作用・効果があることが分かってきた:

1.乳酸菌による抗菌作用(腸内の異常発酵を防ぐ)。
2.食物繊維による腸炎、結腸炎の予防作用(食物繊維により便秘を予防し、腸炎や結腸炎等を予防する)。
3.整腸作用(ヨーグルトのように腸内の酸性度を下げるので、有害細菌の生育を抑制し、整腸作用を助ける)。
4.酸中毒症の予防(肉類等の酸性食品を摂取した際、血液の酸性化による酸性中毒症を予防する)。
5.成人病の予防(抗酸化作用により、肥満、高血圧、糖尿病、消火器系の癌予防に効果がある)。
6.抗動脈硬化及び抗酸化、抗老化機能(血中コレステロール値を下げ、動脈硬化の予防に効果がある。また、マウスの実験で肝脂肪値を下げることが明らかになった)。
7.抗癌効果(白菜などの野菜は大腸癌の予防效果があり、ニンニクは胃癌を予防する效果がある)。
8.生理代謝の活性化効果(唐辛子のカプサイシンによる、代謝活性化機能がある)。
9.栄養バランスの維持(キムチには動物性発酵食品の塩辛が使われ、アミノ酸を供給することで、栄養のバランスを維持させる)。
10.ビタミンが豊富(キムチは野菜のビタミンと、その他の副材料が持つ様々な栄養を提供し、体の生理機能の活性化を促す健康食品である)。
11.食欲増進効果(熟成したキムチは、有機酸、アルコール、エステルが含まれており、食欲を高める)。
12.低カロリー(キムチは熱量すなわちエネルギーではなく、様々なビタミンやミネラル成分のカルシウムを提供する食品である)。

キムチは、その独特な風味や味から、近年、我が国でも一般化している。それに加えて、これらの豊富な機能により、我が国でも健康食品としてのキムチが注目されてきている。
【0003】
しかし、キムチは、一般的に主婦等が製造するのは知識や手間が必要である。
このために、白菜等の野菜に混入してキムチを手軽に製造することができる、キムチソース(キムチのたれ、キムチの素)といったものがいくつか市販されている。
【0004】
これらの市販のキムチソースは、キタンサンガム等の増粘剤、タール系色素のような化学合成された着色料やカイガラムシ等から抽出される赤色色素等の着色料、うま味調味料(グルタミン酸、イノシン酸のナトリウム塩等)等の添加物が加えられているという問題があった。
これら添加物は、多量に摂取した際の人体への有害性が疑われ、さらにキムチの発酵の過程で害となり味を損ねるという問題がある。
このため、キムチを健康食品として用いるためには、添加物を加えないキムチソースでキムチを製造することが望ましい。
【0005】
そこで、特許文献1を参照すると、食品添加物を入れないキムチソース(キムチの素)が記載されている(以下、従来技術1とする。)。
従来技術1のキムチの素は、食品添加物を入れていないため、自然の風味で手軽に利用できるキムチソースを提供することができる。
このキムチソースを使用することで、添加物を加えないキムチソースを用いて、家庭で
手軽にキムチを製造することが可能になる。
【特許文献1】特開平7−213225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来技術1のキムチソースは、室温で7日間発酵させるため、発酵の過程で酸味が強くなりすぎ、特にキムチソースに添加したリンゴ等の果実の自然の風味が損なわれるという問題があった。
また、従来技術1のキムチソースは、砂糖(さんおん糖)を加えているために、野菜のもつ自然の甘みが充分に生かせないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のキムチソースの製造方法は、りんごを40〜60質量%含むキムチソースの原材料を混合し、常温で18〜30時間なじませ、チルド温度帯で8〜25日熟成することを特徴とする。
本発明のキムチソースの製造方法は、前記りんごは、前記混合する直前に摺り下ろすことを特徴とする。
本発明のキムチソースの製造方法は、前記常温は19℃〜22℃、前記チルド温度帯は、−0.1℃〜5.0℃であることを特徴とする。
本発明のキムチソースの製造方法は、前記チルド温度帯にて熟成する際には、空気が混入しないように密閉した状態で行うことを特徴とする。
本発明のキムチソースの製造方法は、前記キムチソースの原材料は、りんご、唐辛子、大根、玉ねぎ、ニンニク、生姜、ネギ、塩エビ、イワシエキスであることを特徴とする。
本発明のキムチソースは、本発明のキムチソースの製造方法で製造されたことを特徴とする。
本発明のキムチは、本発明のキムチソースと、野菜又は魚とを混合して製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1日常温で味をなじませた後に発酵させず低温熟成することにより、酸味が少なく風味豊かで、砂糖を入れる必要のないキムチソースを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施の形態>
本発明の実施の形態に係るキムチソースは、リンゴをすりつぶして40〜50%加え、1日なじませて、さらにチルド温度帯にて低温熟成することで製造する。これにより、キムチを製造する際に、砂糖や麦芽糖や還元糖等の糖分を加えずに、野菜の自然の甘みを引き出すことが可能になる。
また、余計な添加物を入れないために健康被害を心配する必要がない。さらに、リンゴの有機酸や風味も残っており、舌に心地よく美味なるキムチを製造することができる。
【0011】
以下で、本発明の実施の形態に係るキムチソースの配合例と、この配合例に従った製造方法の実施例について詳しく説明する。
【実施例】
【0012】
〔キムチソースの配合例〕
リンゴ 4000g
唐辛子 1500g
大根 1000g
玉ねぎ 500g
ニンニク 500g
生姜 200g
ネギ 300g
塩エビ(韓国製) 500g
イワシエキス(韓国製) 500g
【0013】
この配合例は、300g入りのキムチソースのパッケージを30個程度製造するときの例である。
このパッケージ1個は、後述するように、キムチを製造する際に解凍して一度に用いる。
【0014】
〔キムチソースの製造方法〕
図1を参照して説明すると、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、上述の配合例の配合に従って、以下のように製造する。
【0015】
(ステップS101)
まず、ステップS101において、野菜の準備を行う。
具体的には、以下のステップにおいて混合等を行う一晩程度以前に、上述の野菜(大根、タマネギ、ニンニク、生姜、ネギ)を、きれいに洗ってざるに上げ、水をしっかりと落とす処理を行う。
すなわち、野菜の表面に付着した水分を完全に除くことが重要である。本発明の実施の形態に係るキムチソースでは、水分と各種成分の割合が重要なためである。
【0016】
(ステップS102)
次に、ステップS102において、りんごの摺り下ろしを行う。
具体的には、りんごの皮を剥いて、種を取り除き、摺り下ろす。りんごは、混合前の酸化による変質をできるだけ抑えるために、混合処理の直前に摺り下ろすのが望ましい。
【0017】
また、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、加えるりんごの量が、従来技術1のキムチソースよりかなり多いという特徴がある。このように、りんごを多く加える理由は、砂糖や化学調味料を一切使わずに、自然の甘み・旨みを出すためである。
このりんごを加える量(40〜50%)は、より好ましくは、一番糖度の高い時期に収穫したリンゴを冷蔵保存し、完熟したころ(7月〜8月頃)に45重量%程度、用いるのが好ましい。
この糖度の高い時期のリンゴを用いることにより、リンゴの蜜の部分にソルビトールが蓄積し、後述するように、キムチを製造した際に、辛さを抑え味をまろやかにする効果が得られる。
【0018】
また、リンゴは自然材料なので、通年で一定の味を保つために材料を調整することが重要である。
糖度が低いリンゴを使った場合は、より多くのリンゴ(50%に近い量)加える必要がある。また、水分含有量が低いリンゴを使用した場合には、より少なく(40%に近い量)を加えるのが好適である。
ここで、0%、20%などに減らした場合は、砂糖を使用しなければならないので、好ましくない。
一方、60%にした場合は、逆に甘すぎてしまい、野菜等キムチの材料の本来の味を相殺する可能性があるために、これも好ましくない。
なお、他の材料の量も、通年で製造する際に、含有成分の量により適宜調整することが望ましい。
【0019】
(ステップS103)
次に、ステップS103において、野菜の摺り下ろしを行う。
具体的には、上述の野菜の皮をむいて、摺り下ろす処理を行う。
この野菜のうち、ネギだけは、細かく千切りにする。ネギを千切りにすることで、ネギのもつ硫化アリル等の揮発成分の放散を抑えられ、キムチソースの食感がよくなるという効果が得られる。
【0020】
(ステップS104)
次に、ステップS104において、混合処理を行う。
具体的には、摺り下ろした野菜とりんごに加え、唐辛子とイワシエキス、塩えびを加えて、業務用ボールに入れて混合する。
このイワシエキスは、韓国製で、鰯を丸ごと室温で2年間熟成保存した、魚醤の一種である。
塩エビは、6〜8月頃に採れた韓国のエビを、塩漬け保存していたものを使用する。
唐辛子は、辛くてポリフェノールやカプサイシンの含有量が多い、最高グレードの韓国製又は日本製のものを使用するのが好適である。
【0021】
(ステップS105)
次に、ステップS105において、24時間常温なじませ処理を行う。
具体的には、上述の混合処理を行ったものを、ステンレスのボール等に入れて、常温(19℃〜22℃)で約24時間(18〜30時間程度)の熟成を行う。この際に、温度管理は確実に行い、時間も厳守する。
24時間、常温におくことによって、混合した材料がそれぞれなじみ、キムチソースとして安定する。
この状態では、自然の酵母や乳酸菌がlagフェイズで増殖していると考えられる。すなわち、活発な増殖が始まるまでの期間にあると考えられる。
しかし、従来技術1のキムチソースのように、酸味が強くなるような発酵はせず、温度の上昇や二酸化炭素の泡も見られない。
よって、酵母や乳酸菌が活発に活動し、有機物を分解して、様々な代謝産物をつくりだす(この代謝産物は、人間にとって有用な物質も含まれる)、いわゆる「発酵」が起こる直前にあると考えられる。
つまり、いわゆる「発酵」をさせないことにより、りんごの風味を残す等の様々な利点が得られる。
【0022】
(ステップS106)
次に、パッキング処理を行う。
具体的には、業務用のパッキング機械を用いて、上述の24時間熟成をおこなったものを、例えば500gずつ、空気が混入しないようにポリエチレンの袋等にパッキング(密閉)する。これにより、熟成の際の劣化を完全に抑えることが可能になる。
なお、ポリエチレンの袋以外にも、空気が入らないようにパッキングする、合成樹脂の袋、合成樹脂の容器、缶、ラミネートパウチ等の様々な食品用パッケージを用いることができる。
【0023】
(ステップS107)
次に、ステップS107において、チルド温度帯熟成を行う。
具体的には、チルド温度帯熟成においては、パッキングしたものを−0.1℃〜+5.0℃で8〜25日間熟成させる。より好適には、−0.15℃で15〜20日間熟成するのがよい。
本発明の発明者が鋭意実験と検討を行った結果、上述のパッキング処理したものをすぐ冷凍保存するのではなく、チルド温度帯で熟成を行うことで、混合した材料がよりなじみ、味に深みが出ることを見いだした。さらに、このキムチソースでキムチを製造した際に、臭みや腐敗的な発酵等を抑える効果が高まるという効果も得られる。
【0024】
ここで、チルド温度帯とは、昭和50年の農林水産省の報告書に記載された「食品の氷結点以上で、微生物の活動がほぼ停止する温度、−5℃〜+5℃の温度帯」のことをいう。すなわち、この熟成過程においても、従来技術1のキムチソースのような発酵は行われない。
また、本発明の実施の形態に係るキムチソースにおいては、塩分や糖分が含まれているために凝固点降下が起こり、0℃以下でも凍結しない。このため、0℃より少しだけ低い温度でチルド温度帯熟成を行うのが好適である。また、−5.0℃以下では、水分がシャーベット状に固まって、混合した素材が脱水されるため、熟成には不適である。
さらに、このチルド温度帯熟成においては、キムチソースが外気に触れると、酸化劣化や腐敗菌の混入のおそれがあるために完全にパッキングした状態で行う必要がある。
また、このチルド温度帯にて熟成させる期間としては、8日程度で効果が得られ、25日よりも長く熟成すると、キムチを製造する際に風味が落ちることがあるために好ましくない。よって、より好適には、15〜20日間熟成するのがよい。
さらに、チルド温度帯の管理は厳密に行う必要があるため、韓国製のキムチ専用冷蔵庫等、キムチに適応した温度管理が簡単に行うことができる冷蔵庫を用いることが好適である。
このチルド温度帯熟成の処理が終わると、本発明の実施の形態に係るキムチソースは完成する。この完成した状態のキムチソースの実施例を図2に示す。
このキムチソースは、そのまま用いてキムチを製造することも、以下のステップS108のように冷凍保存して用いることもできる。
なお、キムチを製造するのではなく、料理用にこのキムチソースを用いる場合には、チルド温度帯での熟成期間を、より長い期間にすることも可能である。
【0025】
(ステップS108)
ステップS108においては、冷凍保存の処理を行う。
具体的には、上述のチルド温度帯で熟成したキムチソースのパッケージを、−20℃以下で冷凍保存する。これにより、最低で1年以上劣化させずに、キムチソースを保存することが可能になる。
【0026】
上述の冷凍保存したキムチソースは、必ず自然解凍して、キムチの製造に用いる。これにより、1日の常温熟成で発酵が進む直前まで増殖していた自然の乳酸菌や酵母を殺さずにキムチの発酵に用いるようにすることができる。
また、解凍した1パッケージ(袋)分は、そのまま室温で置いたり再冷凍すると味が変化するため、キムチを製造する際には、必ず使い切る必要がある。
以下で、上述の冷凍された本発明の実施の形態に係るキムチソースを1袋用いて、実際にキムチを製造する際の製造方法について詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るキムチソースは、野菜や魚など、あらゆる原材料のキムチに用いることができる。
【0027】
〔野菜キムチの配合例/製造方法〕
(配合例)
野菜 1kg
キムチソース 1パッケージ(300g)
塩 適量
※ニラ、せり、煎りごま、松の実 (好みで)
【0028】
(製造方法)
1.キムチソース1袋を1〜2時間かけて、室温で自然解凍する。電子レンジ(マイクロウェーブ・オーブン)を用いてはいけない。これは、電子レンジを用いると、溶け方が不均一になり、自然の乳酸菌や酵母がダメージを受けて死滅するためである。
【0029】
2.好きな野菜を洗って食べやすい大きさに切り、軽く塩漬けして水分をしっかりと取り除いたもの1kgとソース1袋を混ぜる。
この野菜は、白菜、大根、キュウリ、ヤーコン、干し大根、かぶ、ナス、かぼちゃ、瓜、などどんな野菜でも可能である。ただし、レタス等、漬け物にした際に溶ける野菜は使用できない。
【0030】
3.製造者の好みやバリエーションとして、ニラ、せり、煎りごま、松の実などを加えてもよい。
ニラ、せりを加える場合は、洗って2〜3センチくらいなるように切って、一緒に混ぜる。
【0031】
4.プラスチック容器等に入れて、家庭用の冷蔵庫等を用いて冷暗所(3℃〜10℃程度)で保存する。通常、この保存した状態ですぐ食すことができる。
また、この状態で保存しておくと、日が経つにつれ、酸味が増す。これを利用して、好みにより、酸味を増すために、室温や冷暗所で保存してもよい。また、冷蔵しておけば、数週間は食すことができる。
【0032】
本発明の実施の形態に係るキムチソースにより製造されたキムチは、砂糖等の糖類も加えていない完全に無添加のキムチであって、砂糖の甘さにより野菜の甘みが相殺されることがなく、野菜の甘みやうま味を引き出すことができる。
また、熟成することで乳酸菌による低温の発酵が起こり、様々な有益な有機物が産生され、栄養価が増すという効果が得られる。
このため、酸味が増すほど栄養価が高まるという効果が得られる。
【0033】
〔魚キムチの配合例/製造方法〕
(配合例)
イカ または たこ 500g
大根 100g
キュウリ 2本
人参 50g
ニラ 100g
キムチソース 1袋(300g)
塩 適量
※煎りごま、松の実 (好みで)
【0034】
作り方
(製造方法)
1.上述の野菜キムチと同様に、本発明の実施の形態に係るキムチソースを自然解凍する。
2.イカはふわたを取って洗い、軽く茹でて冷まし、短冊切りにする。
3.大根、キュウリ、人参を洗って短冊切りにする。
4.ニラは2〜3センチの長さに切る。
5.野菜を軽く塩漬けにして、水をしっかり絞る。
6.イカと野菜と本発明の実施の形態のキムチソースを混ぜると、すぐ食すことができる。
【0035】
魚キムチは、野菜キムチと違って、腐敗菌が増殖する可能性がないとも言えないので、なるべく早く食べきる必要がある。すなわち、必ず冷蔵保存し、一週間以内に食べることが重要である。
タコのキムチも、上述の製造方法で、同様に製造することができる。
【0036】
〔従来技術との比較〕
本発明の発明者は、本発明の実施の形態に係るキムチソースの効果について検証するために、まず、該キムチソースを用いて上述の配合例で野菜キムチを製造した(以下、実施例1とする。)。
次に、従来技術1のキムチソースと同様の組成でキムチソースを試験的に作成し、このソースにより、従来技術1のレシピと同様の配合例にて野菜キムチを製造した(以下、比較例1とする。)。
その上で、実施例1と比較例1のキムチを試食して検討した。
この従来技術1と本発明の実施の形態のキムチとの仕様上の違いと、比較結果を表1に示す。
なお、この比較結果は客観的な意見に基づいており、実施例1のキムチの試食は約20人に対して行われた。
【0037】
【表1】

【0038】
まず、従来技術1のキムチソースでは、7日間、室温で発酵させると、加えた砂糖がそのまま発酵に用いられて非常に酸味が強くなることが分かった。また、発酵により、せっかく混入したリンゴの風味が完全に損なわれることも分かった。
これに対し、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、室温24時間で材料をなじませた後にチルド温度帯熟成をするという製造方法により、発酵させないため、キムチソースの状態では酸味は強くない。また、リンゴの風味も感じられる。
【0039】
次に、表の1日目の状態、すなわち、実施例1と比較例1のキムチソースが完成した状態で、このキムチソースと白菜等の野菜を用いてキムチを製造し、2時間冷蔵庫に保存した。この後に、味見をしたところ、―見、甘さが強いように感じられるが、複数人に試食してもらったところ実施例1のキムチは美味であった。よって、実施例1のキムチの評価を「○」(良好)とした。
また、比較例1のキムチソースを用いたキムチも、通常の市販キムチと遜色ない味であるため、比較例1のキムチの評価を「△」(普通)とした。
【0040】
次に、冷蔵庫に保存して3日目の状態で、同様にキムチの味の比較を行った。この際にも、実施例1のキムチの方が美味であった。
また、この状態では、比較例1のキムチは既に酸味が非常に強くなっており、味が平板に感じられるようになっていた。
これに対して、実施例1のキムチは、自然の甘味が野菜とほどよく調和して、絶妙な旨みを引き出すことができた。
【0041】
更に、冷蔵庫に保存して7日目の状態で、キムチの味の比較を行った。このときにも、同様に、実施例1のキムチの方が美味であった。
この状態で、風味、味の複雑さ、雑味・腐敗臭について検討した。
すると、比較例1は、酸敗に近い状態になっており、にがみや腐敗臭のような雑味もある状態となっていた。すなわち、風味が損なわれているだけでなく、味も平板であり、そもそも、賞味期限を切れかけている状態と考えられることが分かった。この状態の比較例1のキムチは、直接食用にせず、キムチチャーハン等に加工して用いるしかないと思われる。
逆に、実施例1のキムチは、果物の風味がまだ残っており、発酵により、より複雑でうま味成分が多い美味な味になっていた。また、この状態のキムチは、ヨーグルトのような適度な酸味があり、雑味や腐敗臭はまったくしない。
【0042】
このような結果になった理由としては、従来技術1のキムチソースは、7日間の熟成で、乳酸菌がlogフェイズ(階乗の増殖状態)で大量に増えている状態になっているためであることが考えられる。すなわち、この従来技術1のキムチソースを用いて白菜のキムチを製造すると、発酵による野菜の熟成が進まないうちに、1週間程度経過後に、賞味期限を過ぎてしまうと考えられる。
また、殺菌したキムチソースを使ったとしても、一旦、logフェイズになった状態では、既に酸味が強く、すぐにまた乳酸菌が増える状態になるため、同様に賞味期限が短くなることが考えられる。
加えて、このように酸味が強くなりすぎるために、砂糖を加える必要があったものと考えられる。
【0043】
これに対して、本発明の実施の形態に係るキムチソースで野菜キムチを実際に製造すると、野菜の発酵とキムチソースに含まれる糖分の発酵が同時に、穏やかに起こる。そのために、酸味の生成も緩やかになる。
また、冷凍される前のキムチソースは、乳酸菌や酵母がlagフェイズ状態で、あまり数が増えていなかったため、製造したキムチの中で飽和するまでの時間がかかるものと考えられる。
よって、冷蔵しておくと、野菜が熟成してうま味が増しこそすれ、酸味が強すぎて食せなくなるということはない。
すなわち、砂糖を加える必要がなくなるという効果が得られる。
実際に、本発明の発明者が研究を行ったところ、3週間程度は冷蔵保存しておいても、まったく問題なく食すことができるという効果が得られる。
さらに数年単位でチルド温度帯で保存しておいても、酸味が多少強まるが、より栄養価が高くなり、まったく問題なく食すことができる。
【0044】
また、表1の最下段を参照すると、実施例1と従来例1について、3日目の状態で、キムチに含まれる唐辛子について、どのように辛さを感じるかについて比較を行った。
ここで、従来例1のキムチは、すぐに口腔内がほてって、食し続けることに躊躇を感じる状態となった。
これに比べて、実施例1のキムチは、辛さは感じるものの、食べ続けても口腔内に耐え難いような熱さを感じることが少ない。
すなわち、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、従来技術1ソースと同程度の唐辛子を入れても、辛さの感じ方が抑えられるという効果が得られる。よって、辛さに慣れていない日本人でも、良好に摂取することが可能になる。
【0045】
この、実施例1の辛さの感じ方を抑えられるという効果は、上述のチルド温度帯での熟成で、唐辛子粉と他の材料がまろやかに混じり合ったことが理由の1つである。すなわち、本発明の実施の形態のキムチソースは、従来技術1のキムチソースのように、発酵の過程で、唐辛子粉が細かくなり、表面積が増えるということがない。
さらに、本発明の実施の形態に係るキムチソースにおいては、糖度が高まったりんごを40〜50%使用するため、糖アルコールであるソルビトールが多く含まれていることが作用している。糖度が高いりんごには、ソルビトールが多く含まれており、糖度が高まったりんごの「蜜」の部分は、ソルビトールが蓄積されていることを示しているためである。
このソルビトールは、口腔内ですーっとした感じの清涼感を与える。よって、唐辛子により口腔内がほてった感じが和らげられるという効果が得られる。また、りんごの果糖のさわやかな甘み加わって、還元水飴のような添加される糖類よりも、唐辛子の辛さを和らげる働きが強いと考えられる。
【0046】
また、唐辛子に含まれる辛み成分であるカプサイシンを細胞表面で検知するレセプター(受容器)として、6回膜貫通タンパクであるTRPファミリーのレセプターが知られている。また、このTRPのスーパーファミリーである、冷感刺激を感じるレセプター(TRPM8等)も近年、研究が進んできている。ソルビトールやメントールは、この冷感レセプターで検知されて、競争阻害が起こり、辛さが感じられなくなるという可能性も考えられる。
【0047】
さらに、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、摺り下ろした玉ねぎも含まれているため、この糖分も唐辛子の辛さを和らげる働きを強める効果がある。
なお、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、無添加であるのが特徴であるが、りんごの熟成が足りない等の場合には、自然成分であるソルビトールを加えることもできる また、ソルビトールの清涼感を与える効果は、糖アルコール一般(キシリトール、メントール等)に共通するため、これを加えることもできる。
【0048】
また、従来技術1のように砂糖を加えた場合は、乳酸発酵が急激に進むため、りんごの風味を損なうことになり、味が急激に悪くなる。
しかし、リンゴには同等の糖分が含まれていても、有機酸等の細菌の繁殖を抑える成分も含まれているために、乳酸発酵が除々に進んで、すぐに味は変わらないという効果が得られる。
【0049】
さらに、従来技術1のキムチソースは、魚キムチのような動物性の原料を用いてキムチを製造すると、生臭さが残るために不適である。
これに対して、本発明の実施の形態に係るキムチソースでは、魚キムチを始めとする、様々なキムチに対してユニバーサルに用いることができるという効果が得られる。
さらに、キムチを用いたキムチチャーハンや、チゲ(キムチ鍋)等、様々な料理に用いた場合でも、キムチソースと野菜とが発酵して生成した有機酸やうまみ成分等により、料理に深い味わいを加えることが可能であるという効果が得られる。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係るキムチソースをキムチチャーハンや、チゲ等の別の料理に直接用いる場合は、このキムチソースを冷蔵庫内や室温において、適宜、発酵・熟成させて、好みの味で用いることも可能である。
【0051】
〔キムチにリンゴを入れた比較例との比較〕
上述したように、従来技術1のキムチソースはりんごの風味が失われるが、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、りんごの風味が残っているという効果が得られる。
この従来技術1のキムチソースに対して、キムチソースではなくキムチそのものにリンゴやパイナップル等を加えることでフルーティーな風味のキムチを製造する方法も、特開2006−174713号公報等で知られている。
よって、本発明の発明者は、これと同様の方法で、りんごを入れないキムチソースを製造し、その後、キムチにリンゴを混入して、風味等がどうなるかについても検証した(以下、比較例2とする。)。この比較例2においては、上述の特開2006−174713号公報の段落〔0034〕に示されているように、細切りした状態でリンゴ等の果実を加えた。
【0052】
この結果、比較例2にりんごをキムチに直接混入した場合でも、上述の比較例1とほぼ同様の結果となった。すなわち、りんごを直接混入したキムチも、一週間程度で、酸味が強すぎ、賞味期限を過ぎてしまうことが分かった。
これは、比較例2のキムチソースを製造する際に、比較例1と同様に、7日間、室温で発酵させるというプロセスを経るためであると考えられる。
さらに、比較例2のキムチソースは、りんご等の果実の風味はもちろん残るものの、果実の糖分が発酵にあまり用いられないために、糖分を多く加える必要があることも分かった。よって、味が平板になり、浅漬けに唐辛子を混ぜたような味となる。
【0053】
また、キムチの本場の韓国では、実際にはキムチには果物を殆ど使用しない。しかしながら、韓国でも催事の際には、りんごやなしを刻んでキムチに混入した食品を製造することがあり、比較例2のキムチに関しては、その種のものと同様の、あまり日常的に食すものではないようなデザート的なキムチとなった。
【0054】
これに対して、実施例1のキムチは、リンゴの果実の風味を残しつつ、発酵が進むことで深い味わいと風味をもったキムチになる。よって、日常的に食すことができるキムチとして用いることができる。
さらに、砂糖を加える必要もないという効果が得られる。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、糖度の高い完熟したりんごを40〜60%加えることで、完全無添加で、砂糖を加えずにキムチを製造できるという効果が得られる。
また、このキムチソースを室温で24時間熟成し、さらにチルド温度帯で熟成することで、賞味期限が長く、熟成することでさらに味わい深くうま味が増すキムチを提供することができる。
さらに、糖度の高いりんごのソルビトールや果糖等の効果により、唐辛子の辛さによる、口腔内のほてりを抑え、清涼感があり、食欲を増進させるキムチを製造することができる。
さらに、好きな野菜と合わせて野菜キムチを製造できるだけでなく、魚キムチや鍋料理等の様々な料理にも使用可能な、キムチソースを提供することができる。
【0056】
加えて、本発明の実施の形態に係るキムチソースは、韓国製の塩エビを使用しており、この塩エビには、トレハロースが多く含まれているために、トレハロースの保水効果によりキムチソースの各種成分を安定化し、さらに賞味期限を延ばすという効果も得られる。
【0057】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態に係るキムチソースの製造方法のフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係るキムチソースの実施例の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
りんごを40〜60質量%含むキムチソースの原材料を混合し、
常温で18〜30時間なじませ、チルド温度帯で8〜25日熟成する
ことを特徴とするキムチソースの製造方法。
【請求項2】
前記りんごは、前記混合する直前に摺り下ろすことを特徴とする請求項1に記載のキムチソースの製造方法。
【請求項3】
前記常温は19℃〜22℃、
前記チルド温度帯は、−0.1℃〜5.0℃である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のキムチソースの製造方法。
【請求項4】
前記チルド温度帯にて熟成する際には、空気が混入しないように密閉した状態で行う
ことを特徴とする請求項3に記載のキムチソースの製造方法。
【請求項5】
前記キムチソースの原材料は、
りんご、唐辛子、大根、玉ねぎ、ニンニク、生姜、ネギ、塩エビ、イワシエキスである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のキムチソースの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキムチソースの製造方法で製造された
ことを特徴とするキムチソース。
【請求項7】
請求項6のキムチソースと、野菜又は魚とを混合して製造された
ことを特徴とするキムチ。

【図1】
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【図2】
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