説明

キメリズムを利用した幹細胞移植のための検査

【課題】幹細胞、特に臍帯血移植において、移植の成績、特にその生着および再発について診断するためのデータを提供し、それにより、よりよい移植後診断を可能にすること
【解決手段】本発明は、主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する工程を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法、システム、および関連技術に関する。特に、フローサイトメトリーを用いて得られたデータにより移植細胞の生着不全および再発について早期かつ正確な診断が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞移植において新規指標を提供し、それにより首尾よい幹細胞(特に、臍帯血細胞)の移植を行う方法およびそれらに関するキット、システム、組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
再生医学(再生医療)による疾患治療が最近注目を浴びている。しかし、これを臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。現在まで、そのような患者の治療として、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用がごく限られた患者に適応されているにすぎない。しかし、これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題であり、骨髄移植の場合、国内外で骨髄ないし臍帯血バンクが次第に充実してきたといっても、限られたサンプルを多くの患者に提供することが困難である。従って、これらの問題を克服するために幹細胞治療とその応用を中心とした再生医学に対する期待がますます高まっている。
【0003】
生物の体は一生の間に外傷や病気によって臓器の一部を失ったり、大きな傷害を受けたりする。その場合、損傷した臓器が再生できるか否かは、臓器によって(または動物種によって)異なる。自然には再生できない臓器(または組織)を再生させ、機能を回復させようというのが再生医学である。組織が再生したかどうかは、その機能が改善したかにどうかによって判定することができる。哺乳動物は、組織・器官(臓器)を再生する力をある程度備えている(例えば、皮膚、肝臓および血液の再生)。しかし、心臓、肺、脳などの臓器は再生能力に乏しく、一旦損傷すると、その機能を再生させることができないと考えられてきた。従って、従来であれば、例えば、臓器が損傷した場合、臓器移植による処置しかほとんど有効な措置がなかった。
【0004】
体内のあらゆる臓器には幹細胞が存在し、多かれ少なかれ、各臓器の再生を司っていることがわかってきた。また、各組織に存在する幹細胞には予想以上に可塑性があり、ある臓器中の幹細胞は他の臓器の再生にも利用できる可能性が指摘されている。
【0005】
幹細胞は今まで不可能であった臓器の再生にも利用できる可能性がある。幹細胞治療を中心として、再生医学はその注目度を増している。近年、医学・医療分野から再生に関する研究の必要性が高まるにつれて、幹細胞または器官形成に関する知見が毎年、増大している。特に、臍帯血は、幹細胞の宝庫であり、骨髄移植と異なりHLAの型を完全に合致させなくても移植がうまくいくことが知られていることもあり、骨髄よりも「再生能」に優れる面もあることから、近年その利用が増えている。
【0006】
非特許文献1では、臍帯血を用いて幹細胞移植を実現する方法を記載する。ここでは、悪性および良性の疾患について、臍帯血の移植が成功しているようであるが、その判定基準は明らかでなく、どのように治療を進めるべきかは明らかではない。たまたま成功したものを報告するにとどまっている。
【0007】
非特許文献2は、βサラセミアを臍帯血移植により処置する方法を記載する。ここでは、幼児の治療がなされている。臍帯血の移植が成功しているようであるが、その判定基準は明らかでなく、どのように治療を進めるべきかは明らかではない。たまたま成功したものを報告するにとどまっている。
【0008】
非特許文献3は、Wiskott−Aldrich症候群について、臍帯血移植により処置する方法を記載する。ここでは、臍帯血の移植が成功しているようであるが、その判定基準は明らかでなく、どのように治療を進めるべきかは明らかではない。たまたま成功したものを報告するにとどまっている。
【0009】
非特許文献4は、造血器悪性腫瘍において骨髄非破壊的前処置後に、臍帯血移植により処置する方法を記載する。ここでは、臍帯血の移植が成功しているようであるが、その判定基準は明らかでなく、どのように治療を進めるべきかは明らかではない。たまたま成功したものを報告するにとどまっている。
【0010】
非特許文献5は、鎌状赤血球について、臍帯血移植により処置する方法を記載する。ここでは、臍帯血の移植が成功しているようであるが、その判定基準は明らかでなく、どのように治療を進めるべきかは明らかではない。たまたま成功したものを報告するにとどまっている。
【0011】
このように、これまでは、臍帯血移植などの幹細胞の移植において生着または再発について判断基準があまりなかった。
【0012】
FACS(fluorescence activated cell sorter)が1980年代に実用化されて以来、FACSを使用した方法が造血幹細胞の濃縮・純化に多用されている。マウスでは多重染色した骨髄細胞からCD34KSL細胞を分離することによって純度の高い造血幹細胞が得られることが明らかになっている。ただし、ヒトにおいてはマーカーによる選択が100%移植適合性または幹細胞の未分化性と相関しているとはいえないことから、治療効果が必ずしも充分ではないと言うことも指摘されている。
【0013】
造血器腫瘍(白血病、リンパ腫、各種血液疾患)細胞の新しく有用な検査方法である骨髄モニタリング検査(Multi Diensioal FlowCytometry:MDF)により、近年の造血器腫瘍診断は大きく進歩した。
【0014】
現在日本国内で行われているフローサイトメトリー(本明細書においてFCMともいう)を用いた造血器腫瘍細胞の解析および造血幹細胞移植に関連した解析としては、1)治療前の病型分類、2)幹細胞移植術に必要な幹細胞数定量などが行われている。しかし、最も重要な3)患者体内のリンパ球細胞のモニタリングによる治療効果判定、再発の予知・予防に関する検査方法は確立されていない。
【0015】
現在、日本国内には、白血病3万人、リンパ腫5万人の患者がいるとされている。FCMを用いた治療前の病型分類を行われている症例はその内の一部であり、まして治療後のモニタリングを行われている症例は殆どいない。また、5万人いるとされる骨髄異形成症候群に関しては、治療前の病型分類さえ行われていない。
【0016】
造血器悪性腫瘍の診断や治療へのFCMの利用が限られているのは、従来のFCM検査は
役に立たないという認識があるからである。
【非特許文献1】Bradley MB,Cairo MS. Cord blood immunology and stem cell transplantation.HumImmunol. 2005 May;66(5):431-46. Epub 2005 Feb 26
【非特許文献2】Jaing TH, HungIJ, Yang CP, Chen SH, Sun CF, Chow R. Rapid andcomplete donor chimerism afterunrelated mismatched cord blood transplantationin 5 children withbeta-thalassemia major.Biol Blood Marrow Transplant. 2005May;11(5):349-53.
【非特許文献3】InagakiJ, Park YD, Kishimoto T, Yoshioka A. Successful unmanipulatedhaploidenticalbone marrow transplantation from an HLA 2-locus-mismatched motherforWiskott-Aldrich syndrome after unrelated cord blood stem celltransplantation.J Pediatr Hematol Oncol. 2005 Apr;27(4):229-31
【非特許文献4】Chao NJ,Koh LP, Long GD, Gasparetto C, Horwitz M, Morris A, LassiterM, Sullivan KM,Rizzieri DA. Adult recipients of umbilical cord bloodtransplants afternonmyeloablative preparative regimens.Biol Blood MarrowTransplant. 2004 Aug;10(8):569-75.
【非特許文献5】Adamkiewicz TV,Mehta PS, Boyer MW, Kedar A, Olson TA, Olson E, ChiangKY, Maurer D, Mogul MJ,Wingard JR, Yeager AM. Transplantation of unrelatedplacental blood cells inchildren with high-risk sickle cell disease.Bone MarrowTransplant. 2004 Sep;34(5):405-11.
【非特許文献6】北村聖(S.Kitamura)、サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174頁〜187頁、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、幹細胞、特に臍帯血移植において、移植の成績、特にその生着および再発について診断するためのデータを提供し、それにより、よりよい移植後診断を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、本発明者らが、フローサイトメトリー技術などを用いて、臍帯血移植などの幹細胞の移植後に、その移植の成績、特に生着および再発に関して的確な判断をすることができる指標を見出すことに成功し、上記課題を解決し、本発明を完成した。
【0019】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1) 主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する工程を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法。
(2) 上記主要組織適合遺伝子複合体がHLAであり、上記幹細胞移植はヒトにおいて行われる、項目1に記載の方法。
(3) 上記キメリズムは、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムを包含する、項目1に記載の方法。
(4) 上記キメリズムは、HLA−AおよびHLA−Bのキメリズムを包含する、項目1に記載の方法。
(5) 上記決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナー由来のサブクラスおよび少なくとも1つのレシピエント由来のサブクラスを用いてキメリズムを決定することを包含する、項目1に記載の方法。
(6)上記幹細胞移植は、臍帯血移植により実現される、項目1に記載の方法。
(7)上記臍帯血移植は、複数臍帯血移植である、項目6に記載の方法。
(8)上記臍帯血移植は、3人以上のドナーからの臍帯血移植である、項目7に記載の方法。
(9)上記キメリズムの決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRに含まれる8つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスムおよび少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致である場合、もしくはレシピエントのサブクラスが少なくとも1つ不一致の場合にキメリズム判定可能と判定することを包含する、項目1に記載の方法。
(10)上記キメリズムの決定は、移植後早期に行われることを特徴とする、項目1に記載の方法。
(11)上記早期における決定は、生着不全の指標である、項目10に記載の方法。
(12)上記決定は臍帯血移植を再度すべきか判断することに使用される、項目10に記載の方法。
(13)上記早期は、移植後4週間以内である、項目10に記載の方法。
(14)上記早期は、移植後3週間以内である、項目10に記載の方法。
(15)上記早期は、移植後2週間以内である、項目10に記載の方法。
(16)上記早期は、移植後1週間以内である、項目10に記載の方法。
(17)上記キメリズムの決定は、移植後一定期間後に行われることを特徴とする、項目1に記載の方法。
(18)上記一定期間後における決定は、再発の指標である、項目17に記載の方法。
(19)上記決定は追加の治療をすべきか判断することに使用される、項目17に記載の方法。
(20)上記追加の治療は、放射線治療、再度の幹細胞移植、化学療法、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目17に記載の方法。
(21)上記一定期間は、移植後4週間より長い、項目17に記載の方法。
(22)上記決定は、フローサイトメトリーを用いて行われる、項目1に記載の方法。
(23)上記フローサイトメトリーは、マルチカラー、系統検索パネルのマーカー、腫瘍マーカー、抗HLAマーカーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される特徴を有する、項目21に記載の方法。
(24)上記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血を検体として用いて行われる、項目22に記載の方法
(25)上記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血に含まれる血球系細胞の各系統別のキメリズムを決定することを包含する、項目22に記載の方法。
(26)上記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血に含まれる、好中球、単球、B細胞、NK細胞、CD4T細胞およびCD8T細胞の各キメリズムを決定する項目22に記載の方法
(27)項目1に記載の方法により得られた検査データを基に所望の分画の細胞を分取する工程、ならびに上記細胞の形態、染色および遺伝子解析結果を取得し、上記細胞の種類を同定する工程を包含する、移植のための血球系細胞の検査方法
(28)上記分取は、FACSソーティング技術により達成される、項目27に記載の検査方法。
(29)項目1に記載の方法により得られた検査データを基に所望の分画の細胞を分取する工程、ならびに上記細胞の形態、染色および遺伝子解析結果を取得し、その結果から白血病細胞を検出する工程を包含する、方法。
(30)上記白血病細胞の検出は、白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーを用いることにより達成される、項目29に記載の方法。
(31)上記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出を包含する、項目1に記載の方法。
(32)上記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出およびそれによる生着不全の判定を包含する、項目1に記載の方法。
(33)上記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出を包含し、上記レシピエント由来の細胞の増加は生着不全を示す、項目1に記載の方法。
(34)上記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含する、項目1に記載の方法。
(35)上記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出およびそれによる再発の判定を包含する、項目1に記載の方法。
(36)上記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含し、上記白血病細胞の存在は、白血病の再発を示す、項目1に記載の方法。
(37)上記白血病細胞は、白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーと異常発現マーカーとの組み合わせを用いることによって、決定される、項目27に記載の方法。
(38)上記系統検索パネルのマーカーは、骨髄系細胞について、CD13、CD33およびcMPOからなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD2、CD7およびcCD3からなる群より選択され、B細胞系細胞についてCD19およびcCD79aからなる群より選択され、ならびにその他の白血病マーカーとしてはCD34およびHLA−DRからなる群より選択され、ならびに上記異常発現マーカーは、骨髄系細胞について、CD10、CD19およびCD56からなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD33を含み、B細胞系細胞についてCD5、CD13、およびCD33からなる群より選択される、項目37に記載の方法。
(39) 主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する手段を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成するシステム。
(40)上記キメリズムを決定する手段は、HLA−AおよびHLA−Bに含まれる4つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスおよび少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致であるかどうかを決定する手段を備える、項目39に記載のシステム。
(41)幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
方法。
(42)臨床データを相関付けて提供する工程をさらに包含する、項目41に記載の方法。
(43)上記シグナルは、上記被験体からの細胞集団に順番にゲートをかけて得られることを特徴とする、項目41に記載の方法。
(44)上記移植は、白血病患者に対して行われる、項目41に記載の方法。
(45)幹細胞移植における移植後診断のための検査データを格納する記録媒体を生産する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)作成された解析画像および統計処理されたデータを記録媒体に格納する工程、
方法。
(46)上記移植は、白血病患者に対して行われる、項目45に記載の方法。
(47) 幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、上記方法は:
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;および
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
プログラム。
(48)上記移植は、白血病患者に対して行われる、項目47に記載のプログラム。
(49) 幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムを格納した記録媒体であって、上記方法は:
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;および
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
記録媒体。
(50)上記移植は、白血病患者に対して行われる、項目49に記載の記録媒体。
(51) 幹細胞移植における移植後の治療の決定のための検査データを生成する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;および
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;を包含する、
方法。
(52)上記移植は、白血病患者に対して行われる、項目51に記載の方法。
(53)上記治療は、免疫抑制剤の投与の調節および再発防止手段からなる群より選択される少なくとも1つの方法を含む、項目51に記載の方法。
(54)上記治療は、免疫抑制剤の投与の調節であり、レシピエント細胞が消失しない場合、上記免疫抑制剤の投与を減少または中止することを包含する、項目51に記載の方法。
(55)上記免疫抑制剤はシクロスポリンAである、項目54に記載の方法。
(56)上記治療は、再発防止手段であり、再発防止手段は、通常のがん治療手段である、項目51に記載の方法。
(57)上記通常のがん治療手段は、化学療法剤および幹細胞供給源の利用からなる群より選択される、項目56に記載の方法。
(58)上記がん治療手段は、化学療法剤であり、上記化学療法剤は、シタラビン、ダウノルビシンおよびアドリアマイシンからなる群より選択される、項目57に記載の方法。
(59)上記がん治療手段は、幹細胞移植であり、上記幹細胞移植は臍帯血移植により実現される、項目57に記載の方法。
(60)上記臍帯血移植は、複数臍帯血移植である、項目59に記載の方法。
(61)上記治療は、複数の幹細胞供給源の利用であり、上記幹細胞供給源は、複数の臍帯血である、項目51に記載の方法。
(62)上記キメリズムの決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムの決定である、項目51に記載の方法。
(63)幹細胞移植における移植後の治療を決定するためのシステムであって、上記システムは、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する手段;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する手段;
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う手段;および
D)上記キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する手段
を備える、システム。
(64)幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納した記録媒体であって、上記方法は、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)上記キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する、記録媒体。
(65)幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、上記方法は、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)上記シグナルに基づいて上記検体のキメリズムを決定する工程;
C)上記キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)上記キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する、プログラム。
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、幹細胞移植において、従来にはできなかったほど早期(代表的には4週間以内、特に移植後1週間)にて生着不全を判定する指標が提供される。また、幹細胞移植において、従来にはできなかったほど正確な再発診断が可能となる。
【0022】
従来この方法をタンデム反復の可変数(variable number of tandem repeat)(VNTR)のPCRで行おうとすると、1回のPCRに必要なDNAがおよそ200ng(テンプレートとして)必要となる。それにはおよそ10の5乗個の細胞が必要で、白血球数の減少している移植後の患者末梢血では1〜2リットルの血液が必要となる計算であった。これは、すなわち実現不可能であった。これが本発明の方法で解決できるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0024】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0025】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0026】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。
【0027】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄球系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げ
られる。骨髄細胞系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0028】
本明細書において「臍帯血(さいたいけつ:へその緒の血液)」とは、胎盤および臍帯に存在する血液一般をいう。臍帯血には寛容性の高い幹細胞が多く存在しているといわれる。量は取れないが、生着がよいので、体格の小さな日本人では特に頻繁に使用されるようになっている。臍帯血の中にも造血幹細胞があることがわかってきており、これは臍帯血幹細胞と呼ばれる。
【0029】
臍帯血は移植用の臍帯血バンク(宮城さい帯血バンク、東京臍帯血バンク、東海大学さい帯血バンク、東海臍帯血バンク、兵庫さい帯血バンク)、各研究用幹細胞バンク(東北大学研究用幹細胞バンク、東京研究用幹細胞バンク、東海大学研究用幹細胞バンク、名古屋医療センター研究用幹細胞バンク、兵庫研究用幹細胞バンク)、理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)などから入手することができる。臍帯血移植は、従来の骨髄移植に比べて、提供者の負担が少ない、臍帯血幹細胞は増殖性が高い、凍結保存可能、拒絶反応が軽度で済むなどの特色を持つ。欠点として、とれる量が少ないことがあることから、幼児への移植が中心となっていたが、近年成人への移植が広がりつつある。
【0030】
本明細書において「組織幹細胞」とは、造血組織および腸上皮組織などの細胞新生系において細胞生産のもとになる幹細胞をいう。このうち造血幹細胞は、自己を保存するとともに、すべての血液系細胞に分化することができる。そのような血液細胞としては、例えば、単球系幹細胞、Bリンパ球系幹細胞、Tリンパ球系幹細胞、骨髄球系幹細胞、Tリンパ系細胞、Bリンパ系細胞、血小板系細胞、赤血球系細胞、単球系細胞などを挙げることができる。
【0031】
造血細胞は骨髄の中でつくられ、分化して、赤血球、血小板、白血球などになり末梢血液の中を流れる。骨髄球系細胞の分化を見ると、一番大元には多能性幹細胞があり、次に造血系細胞に特化した造血幹細胞があり、多能性前駆細胞へと分化し、さらに骨髄球系前駆細胞およびリンパ球系前駆細胞へと分化する。
【0032】
骨髄球系では多能性幹細胞からCFU−GEMMという細胞へ分化する。そのCFU−GEMMという細胞からCFU−GMという細胞へ、次いで骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球という形で分化する。これらは骨髄中に存在する細胞であり、これが分化すると好中球となって末梢血中を流れる。CFU−GMからは単球の方へも行き、単芽球、前単球、単球と分化する。この単球が末梢血へあらわれる。またCFU−GEMMという細胞からBFU−E細胞へと分化し、それから前赤芽球、赤芽球、赤血球へと分化する。また、巨核球系へと分化し、CFU−Meg(メガカリオサイトの略)、巨核芽球、巨核球、血小板へと分化する。
【0033】
白血病はこのような分化の過程での、多能性幹細胞の異常に起因する。したがって、本発明は、このような異常を改善する移植をサポートするという意味で白血病の治療にも応用され得る。
【0034】
リンパ球系では、多能性幹細胞からリンパ系の幹細胞へと分化し、Bリンパ球系とTリンパ球系とに分かれる。それと別個にNK細胞の方へ分かれていくというラインが存在する。Bリンパ球系のラインとしてはpre-pro-B細胞、pro-B細胞、pre-B細胞へと分化し、immature-B細胞、mature-B細胞を経て、抗体を産生する形質細胞(plasmacells)へと分化する。Tリンパ球系としては、胸腺前駆細胞、未成熟胸腺細胞、共通胸腺細胞(commonthymocytes)、成熟胸腺細胞へと分化する。成熟胸腺細胞からヘルパー/インデューサーTリンパ球へいく系統と、抑制/細胞傷害性Tリンパ球へと分化する系統が存在する。したがって、これらのTリンパ球および/またはBリンパ球の異常の処置または予防についても本発明の因子または組成物は有効であり得る。このような分化に関する模式的スキームを図Aに示す。図Aでは、分化において有用なマーカーも記載されている。このような分化に関するより詳細な説明については、赤司浩一、最新医学 56(2)、15−23,2001を参照のこと。この文献は、本明細書において参考として援用される。
【0035】
造血幹細胞移植には、少なくとも以下の2つの方法がある:1.他人から正常な造血幹細胞を提供してもらい、白血病に侵された骨髄を正常な骨髄に置換する;2.自分自身の造血幹細胞を使用して、強力な抗腫瘍療法による骨髄毒性(白血球減少などの骨髄に対する副作用)を軽減する。他人から造血幹細胞を提供してもらって行う移植を「同種造血幹細胞移植」、あるいは単に「同種移植」と呼ぶ。これには骨髄、末梢血、臍帯血のいずれを使うかによって、それぞれ「同種骨髄移植」、「同種末梢血幹細胞移植」、「臍帯血移植」がある。従来移植の結果に影響するHLAには主には6種類あるといわれており、それらが合っていることが必要であるとされている。兄弟、姉妹の場合にはその確率は25%である。両親、おじ、おば、いとこの間で合致者がいる確率は1%以下であるが、両親が親戚どうしの場合は確率が当然に上がる。通常、骨髄移植では、6種類すべてが合っている場合に移植可能と判断されている。HLAが合致しても麻酔が安全にかけられるかなどの条件があるので、その後に全身チェックを行って実際のドナーになれるかどうかもまた判断されている。
【0036】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。
【0037】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0038】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0039】
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的および/または機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別のタイプの細胞に分化することは例外的にしか起こらない。
【0040】
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に用いられ、細胞の性質をいい、1以上、好ましくは2以上の種々の組織または臓器に分化し得る能力をいう。従って、「多能性」および「多分化能」は、本明細書においては特に言及しない限り「未分化」と互換可能に用いられる。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官の構成細胞が別のもの細胞に変化することは少ない。従って多能性は通常失われている。とくに上皮性の細胞は他の上皮性細胞に変化しにくい。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。胚性幹細胞は、多能性を有する。組織幹細胞は、多能性を有する。本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は全能性といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ある細胞が多能性を有するかどうかは、たとえば、体外培養系における、胚様体(Embryoid Body)の形成、分化誘導条件下での培養等が挙げられるがそれらに限定されない。また、生体を用いた多能性の有無についてのアッセイ法としては、免疫不全マウスへの移植による奇形腫(テラトーマ)の形成、胚盤胞への注入によるキメラ胚の形成、生体組織への移植、腹水への注入による増殖等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
従って、本明細書において「胚性幹細胞」または「ES細胞」とは、交換可能に用いられ、初期胚に由来する任意の多能性幹細胞をいう。通常胚性幹細胞は、全能性またはほぼ全能性を有するとされる。この胚性幹細胞を正常な宿主胚盤胞へ導入し仮親子宮へ戻すことによってキメラ作製を行ったところ、高いキメラ形成能を持つ、生殖系列キメラ(胚性幹細胞由来の機能的生殖細胞を持つキメラマウス)が得られた(A.Bradley et al.:Nature,309,255,1984)。胚性幹細胞株は、培養下で、種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、レトロウイルスベクター法、リポゾーム法、エレクトロポレーション法等)の適用が可能である。また、遺伝子が組込まれた細胞を選別する方法を工夫し、相同遺伝子組換え(homologous recombination)を利用し、特定の遺伝子を狙って改変(置換、欠失、挿入)させた細胞のクローンを得ることもできる。インビトロでこのような処理をした胚性幹細胞株は生殖系列への分化能を保持することから、ある特定の遺伝子の機能を個体レベルで調べる研究が現在盛んに行われている(M.R.Capecchi:Science,244,1288,1989)。胚性幹細胞を利用したトランスジェニックマウス作出法は、ある特定の遺伝子のみを任意に改変させた個体を得ることを可能にした点でマイクロインジェクション法によるトランスジェニック動物作出法にはない多くの利点が考えられる。特に、特定の遺伝子を不活化させたノックアウト動物を作出できるようになり、遺伝子の機能を解明したり、外来性の遺伝子のみを発現させることができる。従って、胚性幹細胞の樹立が容易になれば、その効果は図り知れない。このような胚性幹細胞は、受精3.5日目のマウス胚盤胞の内部細胞塊の細胞をインビトロ培養に移し,細胞塊の解離と継代を繰り返すことにより,多分化能を保持し,正常核型を維持したまま無制限に増殖しつづける幹細胞を樹立することに作製することができる。通常、胚性幹細胞の多分化能を維持するには、STO細胞株および/またはマウス胎仔から調製した初代培養繊維芽細胞などのフィーダー細胞層上で胚性幹細胞を培養することが好ましいとされる。
【0042】
このように、本発明の診断において、当該分野において公知の技法(抗原抗体反応に基づく検出など)を用いて診断、検出の補助とすることができる。
【0043】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。好ましい実施形態では、そのような発現されたポリペプチドは、糖鎖修飾されたCD抗原であり得る。本発明では、発現は、転写および翻訳の両方を含むことが理解される。したがって、本発明においてHLAなどのCD抗原の遺伝子の発現を確認する場合、転写物の存在および翻訳物の存在の両方またはその一方を確認することが企図されることが理解されるべきである。
【0044】
本明細書において「発現」は、直接標識抗体(例えば、fluorescein isothiocyanate:FITC標識CD抗体、phycoerythrin:PE標識CD抗体、peridinin chlorophyll protein:PerCP標識CD抗体、allophycocyanin:APC標識CD抗体)、一次抗体(例えば、ビオチン化抗CD抗体)および二次抗体(例えば、フィコエリスリン(PE)標識ストレプトアビジン)を用いた際の蛍光強度(FI)で示すことができる。このような表示は、絶対レベルまたは相対レベルで表すことができる。
【0045】
mRNAレベルの発現強度は、RT−PCRまたはマイクロアレイを用いて解析することができる。RT−PCRを用いた場合は、相対的にデンシトメーターを用いて定量化することができ、より詳細に数値化する場合は、マイクロアレイにおいてハウスキーピング遺伝子であるHRPTに対してそれより少ない発現は陰性、同等を弱陽性およびそれより強い(統計学的に強い)レベルを強陽性であらわすことができる。
【0046】
本明細書において発現などの「レベル」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現されるレベルをいう。そのような発現レベルとしては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現レベル、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現レベルが挙げられる。「発現レベルの変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。発現レベルは、絶対レベルまたは相対レベルで評価され得る。
【0047】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。例えば、CD抗原を同定するためのツールは、プローブと呼ばれる。
【0048】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。好ましくは、プローブは標識で標識され得る。
【0049】
プローブとして通常用いられるタンパク質としては、例えば、抗体またはその誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。プローブとして、タンパク質が用いられる場合も、直接または間接的に標識で標識され得る。
【0050】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(たとえば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。上記の核酸断片および相補性を示すオリゴヌクレオチドを何れも蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。蛍光物質としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N2−
アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0051】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。また、本発明で使用されるヒトCD抗原(HLA抗原も含む)では、対
応するアミノ酸は、例えば、別の種の対応する抗原の同様の部位であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0052】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスのCD抗原(HLA抗原も含む)などの
遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスのCD抗原などの遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。そのようなCD抗原(HLA抗原も含む)は、当業者が本明細書において記載されるような表をもとに、検索することが可能である。
【0053】
本明細書において「CD抗原」とは、CDに対する任意の抗原をいう。ここで、CDとは、分化クラスターの省略形であり、ヒトの白血球分化抗原に対するモノクローナル抗体を,特性によって分類した群をいう。
【0054】
CD抗原は、国際ワークショップによって,主にそれが認識する抗原の生化学的特徴(とくに分子量)を基準として群別(cluster)して分類する(clustering)ことが合意された。これがCD分類(CD classification)とよばれるもので,これにより特定の白血球分化抗原を認識する多くの種類のモノクローナル抗体は,CDに続けて番号すなわちCD番号(CD number)をつけた形(例えばCD1,CD2など)の統一的な名称がつけられている。本明細書において使用される代表例の説明を以下に示す。
【0055】
CD1(4.3〜4.9):β2ミクログロブリンと非共有結合するMHCクラスI様分子(いわゆるMHCクラスIb抗原の一つ)。一部のTリンパ球への抗原提示を有する。CD1a,b,c,dの4種類があり,各々特有の臓器分布を示す。CD1aは、Tリンパ球表面糖タンパク質CD1A(Tリンパ球表面抗原T6/Leu−6)(HTA1胸腺細胞抗原)である。
【0056】
CD2(5)免疫グロブリンファミリーの膜貫通のタンパク質。LFA−3受容体で,ヒツジ赤血球とのロゼット形成に関与.Tリンパ球とNK細胞に発現する。
【0057】
CD3(1.6〜2.6):Tリンパ球抗原受容体に会合するシグナル伝達分子である。γ,δ,ε,ζ,ηの5種類分子種からなり,1分子のTCRにつきγ,δ,ε2,ζ2(またはζ,η)の6分子が会合し,機能的な抗原受容体複合体を形成.もっぱらTリンパ球に発現する。
【0058】
CD4(6.2)抗原提示細胞上のMHCクラスII分子に結合しTリンパ球抗原受容体複合体の共受容体として機能する。MHCクラスII拘束性のヘルパーTリンパ球に発現する。
【0059】
CD5:Tリンパ球表面糖タンパク質 CD5 (リンパ球糖タンパク質 T1/Leu-1)である。
【0060】
CD7:Tリンパ球抗原 CD7 (Gp40) (Tリンパ球白血病抗原) (Tp41) (Leu-9)である

【0061】
CD8(6.4):α鎖とβ鎖のS−S結合による二量体タンパク質である。抗原提示細胞上のMHCクラスI分子に結合し,Tリンパ球抗原受容体複合体の共受容体として機能する。MHCクラスI拘束性のキラーTリンパ球に発現する。
【0062】
CD10:ネプリリシン (EC 3.4.24.11) (中性エンドペプチダーゼ) (NEP) (エンケファリナーゼ) (共通急性リンパ性白血病抗原)(CALLA)である。
【0063】
CD11(18):白血球の接着因子β2インテグリン(α鎖とβ鎖からなる二量体)のα鎖である。ICAM−1、C3bi、フィブリノゲンなどの受容体として機能し、白血球の接着・遊走・貪食などに関与する。a(LFA−1),b(Mac−1),c(p150/90)の3種類が存在する。単球・顆粒球・リンパ球などに広く発現する。CD11cは、インテグリンα−X (白血球 接着糖タンパク質 p150,95α鎖) (白血球 接着レセプター p150,95) (Leu M5)である。
【0064】
CD13:アミノペプチダーゼ N (EC 3.4.11.2) (ミクロソーム アミノペプチダーゼ)(Gp150)である。
【0065】
CD14:単球分化抗原 CD14 (骨髄性細胞特異的 ロイシンリッチ糖タンパク質) (LPSレセプター)である。
【0066】
CD15:非タンパク質: Sialyl Lewis (sLE)である。
【0067】
CD19:B−リンパ球抗原CD19 (B−リンパ球表面抗原 B4) (Leu−12)である。
【0068】
CD20:B−リンパ球抗原CD20 (B−リンパ球表面抗原 B1) (Leu−16) (Bp35)である。
【0069】
CD22:B−細胞レセプターCD22 (Leu−14) (B−リンパ球細胞 接着分子) (BL−CAM)である。
【0070】
CD23(4.5):細胞外にレクチンドメインをもつ膜貫通タンパク質だが,一部は遊離型として血中にも存在し,IgEに結合.リンパ球・単球・血小板などに広く発現する。
【0071】
CD25:インターロイキン−2レセプターα鎖 (IL−2レセプターαサブユニット) (p55) (Tac抗原)である。
【0072】
CD33:骨髄性細胞表面抗原 CD33 (Gp67)である。
【0073】
CD34(10.5〜12) 膜貫通性糖タンパク質であり、造血幹細胞に選択的に発現されることから,マーカーとしてその同定や分離に汎用されている。
【0074】
CD38:ADP−リボシル シクラーゼ 1 (EC 3.2.2.5) (サイクリック ADP−リボースヒドロラーゼ 1)(リンパ球分化抗原 CD38)(急性リンパ芽球白血病細胞抗原 CD38)(T10)である。
【0075】
CD41a:インテグリンα−IIB(血小板膜糖タンパク質 IIb) (GP IIb)である。
【0076】
CD45(18〜20):大きな膜貫通タンパク質で細胞外には多くの糖鎖を,細胞内にはチロシン脱燐酸化活性ドメインをもつ。すべての白血球に発現される主要なタンパク質であり、各種の膜受容体からチロシンキナーゼを介するシグナル伝達の制御に関与する。少なくとも3種類(RO,RA,RB)のイソフォームがあり,各々異なった分布様式を示す。
【0077】
CD51:インテグリンα-V (ビトロネクチンレセプターαサブユニット)である。
【0078】
CD54:細胞間 接着分子-1 (ICAM-1) (主要グループ ライノウイルスレセプター)
である。
【0079】
CD55:補体 崩壊-加速因子である。
【0080】
CD56:神経細胞 接着分子 1である。
【0081】
CD71:トランスフェリンレセプタータンパク質 1 (TfR1) (TR) (TfR) (T9)である

【0082】
cCD79a:B-細胞抗原レセプター複合体関連タンパク質α鎖 (Ig-α) (MB-1膜糖タンパク質) (表面-IgM-関連タンパク質) (膜-bound免疫グロブリン関連タンパク質)である。
【0083】
CD117:マスト/幹細胞 増殖因子レセプター (EC 2.7.1.112) (SCFR) (プロトオンコジーン チロシン-プロテインキナーゼ KIT)(c-KIT)である。
【0084】
cMPO:ミエロペルオキシダーゼである。
【0085】
HLA−DR:ヒト白血球抗原の一種。HLA抗原は、クラスI抗原とクラスII抗原の2群に大別される。クラスI抗原としては、例えば、HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−E、HLA−F、HLA−Gなどが挙げられる。クラスI抗原は、ほとんどすべての有核細胞上に発現している。クラスI抗原は、細胞内で産生されるペプチドと複合体を形成し、その複合体を、CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球の抗原特異的Tリンパ球受容体に提示する。クラスII抗原としては、例えば、HLA−DR、HLA−DQ、HLA−DPなどが挙げられる。
【0086】
sIg:表面免疫グロブリンである。
【0087】
Gly−A:セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼである。
【0088】
上記抗原に対する抗体は、具体的には、BD Biosciences Pharmingen(USA;www.bdbiosciences.com)、Beckton Dickinson Immunocytometry Systems(San Jose,CA,USA)などから購入することができる。
【0089】
あるCD抗原がある細胞系統に特有かどうかは、その発現パターンを見て増減があるかないかをみることによって判別することができる。その方法は、以下の通りである。細胞は、その大きさと内部構造によって、リンパ球、単球、顆粒球、血小板、赤血球の系統に大別できる。任意のCD抗体を用いて、それぞれの細胞系統ごとに任意のCD抗体が反応して蛍光を発しているかどうかを検出する。本発明によれば、例示されるCD抗原の組み合わせ以外にも、このようなCD抗原から、ある細胞系(Tリンパ球、Bリンパ球、血小板、赤血球、単球など)に特有なCD抗原を同定することによって、種々の分析を行うことが可能であることが理解される。
【0090】
本明細書では、キメリズムはHLA抗原を指標に決定することができる。
【0091】
本明細書において、白血病タイピングの推奨パネルは、以下のように決定することができる。
【0092】
A)系統検索パネルの中から少なくとも1つ(好ましくは複数、より好ましくはすべて)のマーカーについて陽性であることを確認する;
B)必要に応じて分化段階検索パネルの中から少なくとも1つ(好ましくは複数、より好ましくはすべて)のマーカーについて陽性であることを確認し、分化段階を決定する;
C)異常発現マーカーパネルの中から少なくとも1つ(好ましくは複数、より好ましくはすべて)のマーカーについて陽性であるかどうかを確認し、陽性である場合、異常であると判断する。
【0093】
本明細書において使用される代表的な系統検索パネルは以下の通りである:
骨髄系細胞:CD13、CD33およびcMPO;
T細胞系細胞:CD2、CD7およびcCD3;
B細胞系細胞:CD19およびcCD79a;
その他:CD34およびHLA−DR。
【0094】
本明細書において使用される代表的な分化段階検索用パネルは以下の通りである:
骨髄系細胞: CD11c、CD14、CD15、CD64、CD65およびCD117;
T細胞系細胞:CD1a、CD4、CD5、CD8およびCD25;
B細胞系細胞:CD10、CD20、CD23、SmIgおよびcCD22;
その他:CD38、CD41a、CD56、CD51、CD71およびGly−A。
【0095】
本明細書において使用される代表的な異常発現マーカーは以下の通りである:
骨髄系細胞:CD10、CD19およびCD56;
T細胞系細胞:CD33;
B細胞系細胞:CD5、CD13、CD33。
【0096】
白血病細胞の検索は、骨髄液もしくは末梢血より溶血法を用いて白血球分離後または比重遠心分離法を用いて、単核球細胞を分離後にフローサイトメトリーにより表面抗原発現様式により行うことができる。診断のためには細胞の系統(lineage)、分化段階(stage)に関与するCD抗原などに対するモノクローナル抗体を用いる。特にFCMを用いた白血病細胞の解析は、どのようなCD抗原を、どのように組み合わせるかということが重要であり、白血病細胞の特徴を考えて解析パネル(抗体の組み合わせ〕を作成することが重要である。
【0097】
代表的な抗原は幹細胞抗原としてはCD34、CD117、骨髄球系としてはCD33、CD13、CD15、CD16、CDllb、単球系細胞としては、CD14、Bリンパ球系としては、CDI9、CD10、CD20、CD21、CD22、Tリンパ球系としてはCD7、CD2、CD3、CD4、CD8、CDla、NK細胞系としては、CD56がありこれらの抗原発現様式にて白血病細胞のlinageを決定することができる。これに加え、本発明において同定されるような他の抗原を用いることが可能である。
【0098】
さらに細胞質内myeloperoxidaso(MPO)、CD3、CD22およびCD79の発現、ならびに免疫グロブリン遺伝子やTリンパ球受容体遺伝子のクローナルな再構成、染色体分析などの結果とあわせることによって、より的確な診断が可能となる。AMLまたはALLを対象とする場合は、白血病細胞の系統(lineage)を明確にすることを念頭にパネルを作成することによって、病型をさらに詳細に分類することも可能である。
【0099】
時に白血病細胞では2種類以上の系統にわたる表面抗原を発現する場合が存在する(Lineage infidelity、1ineage promiscuity)。個々の白血病細胞に特異的なCD抗原を用いて解析パネルを作成することにより微小残存病変(Minimal Residual Disease:MRD)の検出も可能となる。
【0100】
その代表的な白血病である抗原発現異常白血病(aberrant antigen expression leukemia)を、その細胞学的・臨床病態的特性を簡潔に説明する。
【0101】
CD7急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia(AML)):CD7は汎Tリンパ球抗原であり、その発現はTリンパ球性白血病に見られるが、AMLの一部にも発現している。AMLにおけるCD7の発現は約40%に見られ、その発現は予後不良因子である可能性が報告されているが、別の検討では予後に差異は見られなかったとされている。おそらく、CD7AMLは多彩な白血病の集団であり、その発現はdenovoAMLのみならずMDSより移行したAMLにおいて高頻度で見られ、これらのMDS/AMLは難治性であることがCD7+AMLの病態に影響を及ぼしている可能性が推測される。また、慢性骨髄性白血病からの骨髄性急性転化例では高頻度にCD34、CD7の発現が認められることが報告されている。これらのことは幹細胞レベルの細胞が腫瘍化した場合にCD7が出現することを意味するようである。
【0102】
CD19AML:CD19は汎Bリンパ球抗原であるが、CD7と同様にAMLにもその発現を見る場合がある。CD7AMLが多彩な白血病細胞の集団であるのと異なり、CD19AMLのほとんどが染色体異常であるt(8;21)(q22;q22)を持ち、多くはFAB分類上M2に分類される。CD19 AMLは、成人によく見られ、白血病細胞は分化傾向を持ち、好酸球増加、予後良好などの特徴を持つ、またWHO分類では予後良好な単一疾患とされている。しかし、一部には予後不良群も存在しており、不良因子としてCD56の発現、付加的染色体異常、髄外腫瘤の存在などが示唆されている。
【0103】
CD56AML:CD56はNK細胞に見られる抗原であるがAML細胞に発現していることがある。上記のようにt(8;21)AMLにおけるCD56の発現は予後不良因子である可能性が示唆されているが、AMLM3に対する全トランスレチノイン酸(all−trans retinoic acid)を用いた治療においても予後不良因子であるようである。
【0104】
CD15CD117AML:CD15は顆粒球や単球に発現する一方、CD117は幹細胞抗原であり未分化細胞に発現する。双方の発現は正常細胞で同一細胞に見られることはないが、一部のAMLではそれらの発現が見られることがあり、これらの白血病は予後良好であるようである。
【0105】
CD33/CD13急性リンパ性白血病(acute lymphoid leukemia(ALL)):CD33、CD13はともに骨髄球系抗原であるが、ALLにそれらの発現が見られる症例があり、これらは骨髄球系抗原(myeloid antigen)ALLと呼ばれている。発現機序は不明であるもの臨床病態に差異はないとされている。また、Tリンパ球抗原であるCD2がB−ALLに見られることがあるが、このB−ALLは小児では予後良好であるとされている。
【0106】
CD4白血病:CD4はTリンパ球抗原のひとつであり、白血病細胞ではTリンパ球性腫瘍に見られる。しかし、MPO陽性白血病(CD4AML〕にも見られることがある。これらの白血病の多くはMO、M1、M4、M5(FAB分類)であり、未分化単球系細胞の腫瘍化である可能性が示唆されている。しかし、CD4AMLが疾患特異的な病態を示すかどうかは明らかではなく今後の解析が必要である。他方、MPO陰性であり、CD3、CD117、CD33、CD13抗原が全て陰性であるCD4CD56Leukemiaが報告されている。この表現型より樹上細胞(dendritic cell=メラニン形成細胞)の白血化が推測されている。この種の白血病は髄外(リンパ節、皮膚)に再発をきたしやすいとされている。
【0107】
CD56CD33CD7白血病:MPO陰性であり、CD56CD33CD7CD3の表現型を示す一群の白血病(骨髄球/NK細胞急性白血病=myeloid/NK cell acute leukemia)が存在することが報告されている。これらの白血病はリンパ節などの髄外腫瘤を高頻度に認め予後不良な疾患群である可能性が推測されている。
【0108】
抗原発現系統不全に基づいたAMLおよびALL細胞のフローサイトメトリーを用いたMRD解析が可能である。そのような解析は、正常骨髄血中または正常末梢血中細胞には存在しないが白血病細胞には存在する抗原発現異常(aberrant antigen expression)として前述した抗原発現不整、抗原欠損、抗原発現量異常、抗原発現系統不全(lineage infidelity)がある。これの抗原発現系統不全が認められる症例においては、その抗原発現系統不全をマーカーとして用いることによって、MRDの検出が行える場合がある。一方、AMLでは85%の症例において骨髄球系(myeloid)抗原(CD13、CD33、CD34、HLA−DR)とリンパ球系(lymphoid)抗原またはNK細胞抗原(CD2,CD5,CD7,CD10,CD19,CD25,CD56)が同時発現しており、ALLでは11%の症例においてmyeloid抗原が発現している。また特異的なマーカーとしては、フィラデルフィア(Philadelphia:Ph1)染色体陽性ALLにおいて、正常骨髄血中には存在しないCD19/KORSA3544細胞がほぼ全症例において見られる。このような抗原発現系統不全は白血病細胞の特異的マーカーと考えることがでる。
【0109】
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の方法またはシステムを使用することができる。
【0110】
本明細書において、免疫反応を利用してスクリーニングを行うことを、「免疫表現型分類(immunophenotyping)」ともいう。この場合、本発明の抗体または単鎖抗体は、細胞株および生物学的サンプルの免疫表現型分類のために利用され得る。本発明の遺伝子の転写産物・翻訳産物は、細胞特異的マーカーとして、あるいはより詳細には、特定の細胞型の分化および/または成熟の種々の段階で示差的に発現される細胞マーカーとして有用である。特異的エピトープ、またはエピトープの組み合わせに対して指向されるモノクローナル抗体は、マーカーを発現する細胞集団のスクリーニングを可能とする。種々の技術が、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングするために、モノクローナル抗体を用いて利用され得、そしてその技術には、抗体でコーティングされた磁気ビーズを用いる磁気分離、固体マトリクス(すなわち、プレート)に付着した抗体を用いる「パニング(panning)」、ならびにフローサイトメトリーが挙げられる(例えば、米国特許第5,985,660号;およびMorrisonら、Cell,96:737−49(1999)を参照)。
【0111】
(フローサイトメトリーを用いたヒト末梢血白血球の分離と、フローサイトメトリー法によるリンパ球サブセットの計測例)
本明細書において「フローサイトメトリー」とは、液体中に懸濁する細胞,個体およびその他の生物粒子の粒子数,個々の物理的・化学的・生物学的性状を計測する技術をいう。
【0112】
フローサイトメトリー技術を用いて種々の細胞の解析が行われるようになっている。特に、血液細胞の分化の判定が、フローサイトメトリー技術により可能となっている。このような分化判定は、研究用のほか診断にも利用されはじめている。
【0113】
フローサイトメトリーの利点としては、例えば、芽球の占める割合を把握しやすいこと、特異性および感度が高いこと、再現性が高いこと、多数の細胞を解析することができること、所要時間が短いことなどが挙げられる。
【0114】
この技術を用いた装置は、「フローサイトメーター」という。フローサイトメーターは、細胞の均一な浮遊液より、浮遊物(細胞)の光学特性を測定する機器である。細胞は液流に乗ってレーザー光の焦点を通過するが、その通過時に毎秒500−4,000個の細胞より前方散乱光、側方散乱光、及び1つ以上の異なる波長の蛍光の光学特性を、個々の細胞について同時に測定し、それら細胞の大きさ、内部構造、及び細胞膜・細胞質・核内に存在する種々の抗原あるいは核酸量等の、生物学的特性を迅速、かつ正確に測定することができる。
【0115】
散乱光とは、レーザーが細胞に当たって周囲に散乱した光である。前方散乱光(Forward Scatter:FSC)はレーザー光軸に対して前方で検出し、散乱光強度は細胞の表面積に比例する。すなわち、相対的にFSCの値が大きければ細胞も大きく、FSCの値が小さければ細胞も小さいと考えられる。側方散乱光(Side Scatter:SSC)はレーザー光軸に対して90度(直角)の位置で検出し、細胞の顆粒や細胞内構造の状態に散乱光強度が比例する。すなわち、相対的にSSCの値が大きければ細胞の内部構造は複雑であり、SSCの値が小さければ細胞の内部構造は単純であると考えられる。
【0116】
フローサイトメトリーの結果は、代表的には、FSCをX軸に、SSCをY軸にとったドットプロットとして表現され得る。各細胞は図の中の一つのドット(点)で示されており、それらの位置は、FSCとSSCとの相対値によって決められる。比較的サイズが小さく内部構造が単純なリンパ球は左下部に、サイズが大きく内部に顆粒を持つ顆粒球は右上部に、またサイズは大きいが内部構造が単純な単球はリンパ球と顆粒球の間に、それぞれお互いに分離した集団を作って表示される。
【0117】
蛍光とは、細胞に標識されている蛍光色素が照射されたレーザー光によって励起され、エネルギーを放出する際生じた光をいう。フローサイトメーター(例えば、製品名:Becton & Dickinson FACSCalibur)は、代表的には、488nmの単一波長レーザー光と635nmの単一波長レーザー光とを照射する。細胞はそれ自体も弱い蛍光を発する性質を有しているが(自家蛍光)、実際に細胞の持つ分子を蛍光を用いて特異的に検出しようとする場合は、あらかじめ何らかの形で細胞あるいはその持つ分子に蛍光色素を結合させる必要がある。例えば、FITC(Fluorescein
isothiocyanate)は、488nmの励起光を吸収し、主に530nmの蛍光(緑色)を発する。抗体にあらかじめFITCを標識しておけば、細胞の表面に存在する抗原量に応じて結合する抗体量に差が生じ、その結果FITCの蛍光強度が異なってくるため、その細胞の表面に存在する抗原量を推定することができる。例示的に使用され得るFACSCaliburは、異なる蛍光波長域を検出できる4本の蛍光検出器を搭載しており、異なった波長の光を発する複数の蛍光色素を用意しておけば、最大4つの異なる抗原を同時に検出することが可能である。488nmの単一波長レーザー光によって励起されるFITC以外の蛍光色素として、PE(phycoerythrin)は主に585nmの蛍光を発し、PerCP(peridinin chlorophyll protein)およびPE−Cy5(carbocyanin−5)は主に670nmの蛍光を発する。635nmの単一波長レーザー光によって励起される蛍光色素であるAPC(allophycocyanin)は、主に670nmの蛍光を発する。これらの蛍光色素が種々の抗体と組み合わされ、細胞の二重染色や三重染色に用いられる。Bリンパ球表面に発現しているCD19分子など、およびTリンパ球の表面に発現しているCD4およびCD8分子などを、これらと特異的に反応するモノクローナル抗体で検出することができる。
【0118】
厳密にいうと、フローサイトメーターには、細胞を解析するだけの機器と、解析した細胞を分取(ソーティング)することが可能な機器の2種類があり、後者は「FACS」と呼ばれる。本明細書において「FACS」とは、fluorescence−activated cell sorterの略で、レーザー光線を使ってリンパ球などの遊離細胞の表面抗原の解析をしたり、表面抗原の有無などによって、ある特定の細胞を分取する方法において用いられる装置をいう。
【0119】
フローサイトメトリーの結果は、ヒストグラム、ドットプロットなどで表すことができる。
【0120】
本明細書において「ヒストグラム」とは、フローサイトメーターを用いた蛍光測定において、各パラメータの光信号の強度をX軸に、細胞数をY軸にとったグラフをいう。このような形態により、総計で1万個以上の細胞を計数することが可能である。
【0121】
本明細書において「ドットプロット」とは、二種類の蛍光色素の蛍光強度をX軸とY軸にとったプロットをいう。二重染色および三重染色をした場合には、それぞれの蛍光強度をXあるいはY軸におき、個々の細胞が二次元グラフ上の一つ一つの点に対応するような表示方法を用いて解析することができる。
【0122】
例えば、末梢血もしくは骨髄液を採取後、溶血法か比重遠心法にて赤血球を除いた後に蛍光標識抗体(目的とする抗原に対する抗体とそのコントロール抗体)と反応させ、十分に洗浄してからフローサイトメトリーを用いて観察することができる。検出された散乱光や蛍光は電気信号に変換されコンピュータにより解析される。その結果は、FSCの強さは細胞の大きさを表しSSCの強さは細胞内構造を表すことによりリンパ球、単球、顆粒球を区別することが可能である。その後、必要に応じて目的とする細胞集団にゲートをかけて、それらの細胞における抗原発現様式を検討する。
【0123】
代表的な例として、ヒト末梢血単核白血球(単核球)の分離と生細胞数の算出は、フローサイトメトリーを用いて、以下のようなプロトコールをもとに行うことができる。
【0124】
採血:採血者は供血者の静脈穿刺部位より5cm以上近位に駆血帯をかけ、静脈を怒張させ固定させる。このとき、供血者に拳を握らせる。静脈穿刺部位を酒精綿でやや強くこするように消毒してから採血を行う。注射器に6mlの採血が終了したら駆血帯を外し、すばやく針を抜き、ただちに穿刺部位を酒精綿で圧する。出血がある程度止まったら、救急絆創膏を貼る。注射針を適切に処理し、採取した血液とヘパリン(または他の抗凝固剤)とを混和させるために注射器を数回転倒させる。
【0125】
血液希釈:採血した血液を注射器から15ml遠心分離管に6ml移す。6mlのリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)を加えて血液を2倍量に希釈する(採血量が6ml以下の場合は、添加するPBSを増やすことにより、希釈後の液量を12mlに調整する)。希釈血液はピペッティングにより、泡が立たないように攪拌する。
【0126】
比重遠心法による単核細胞の分離:予めリンパ球分離液(例えば、Ficoll−Paque;3ml)が入った遠心分離管を2本調製しておく。上記のように調製した希釈血液の6mlを、各遠心分離管のリンパ球分離液の上に、パスツールピペットを用いて静かに、分離液と希釈血液との界面を乱さないように重層する。分離液に希釈血液を重層させた遠心分離管を遠心分離器により1500rpmにて30分間遠心分離する。
【0127】
単核細胞の回収:リンパ球および単球を含む末梢血単核細胞は、血漿(黄色味を帯びる)と分離液(透明)との中間に、白い帯状の層として観察される。一方、赤血球および顆粒球は、遠心分離管の底に沈む。白い帯状の単核細胞層をパスツールピペットで吸い上げるように回収し、それを新しい15ml遠心分離管(細胞洗浄用)に入れる。2本の遠心分離管から回収した単核細胞浮遊液を同一の洗浄用遠心管にまとめ、それら細胞浮遊液に
適宜PBSを加えて、全液量を12mlにする。ピペッティングにより泡立てないように攪拌した後、1500rpm、10分間遠心分離することで細胞をペレット化する。遠心分離後、アスピレーターで上清を吸引除去する。細胞ペレットにPBSを10ml加えて、駒込ピペットで細胞を丁寧に再浮遊させ、再び1500rpm、10分間遠心した後、上清を吸引することにより、細胞からリンパ球分離液を完全に洗浄除去する。
【0128】
必要に応じて生細胞数の算定をする。上清を吸引除去した細胞ペレットに、ショートピペットでPBSを3ml加え、パスツールピペットを用いて細胞を再浮遊させる(細胞の固まりがなくなるまで十分攪拌する)。
【0129】
先端にチップを着けたマイクロピペットで遠心管の細胞浮遊液50μlを取り(浮遊液中の細胞が重力で下に沈まないよう、素早く操作する)、エッペンドルフチューブに移し、このチューブにあらかじめ入れてある0.1%トリパンブルー溶液(50μl)と細胞浮遊液を、ピペッティングにより丁寧に攪拌する。
【0130】
Burker−Turk血球計算盤にカバーガラスを載せ、計算盤とカバーガラスの隙間に、マイクロピペットでトリパンブルー液と混ぜた細胞浮遊液を入れる(毛細管現象で吸い込まれる)。計算盤とカバーガラスの隙間に入れる液量として、およそ7μlが適量であるが、カバーガラスの着け方(計算盤との位置関係)によっては、その液量を必要に応じて微調整する。液量が適当であれば、計算盤とカバーガラスの密着面にニュートンリングが確認できる。
【0131】
Burker−Turk計算盤を顕微鏡に載せ、コンデンサーの絞りを絞って目盛が見えるようにする。このタイプの血球計算盤には、右の図のように一辺1mmの正方形が9つある。細かく区画された中央の正方形は赤血球を数えるのに使う。今回は白血球を数えるので、四隅にある区画の大きい正方形のどれか一つを使う。外側を区画する三重線の一番外までが1mmの辺であることに注意する。
【0132】
1mm四方の正方形の中に含まれる細胞数を数えるが、青く染まっているのは死細胞、丸く透明に見えるのが生細胞である。1mm四方中の生細胞数と死細胞数の両方を数える。
【0133】
計算盤の目盛面とカバーガラスの間の隙間は0.1mmになるように作られている。従って、ここで数えた細胞の数は、底面が一辺1mmの正方形で、高さが0.1mmの直方体に相当する体積の浮遊液中にある細胞数となる。
【0134】
必要に応じて細胞浮遊液の濃度調整をする。上で計算した細胞密度を基に、最終的な細胞濃度が1.0×107個/mlになるように、細胞浮遊液にPBSを加えて調整する。
細胞浮遊液は冷蔵庫に保存する。
【0135】
上記のように調製したヒト末梢血単核細胞浮遊液(1.0×107/mlに調整済み)を用いて、以下の分析を行う。
【0136】
FITC標識抗CD抗体(例えば、FITC標識抗ヒトCD4またはHLA−A抗体)(50μg/mlに調整済み):20μl
PE標識抗CD抗体(例えば、PE標識CD8またはHLA−B抗体)(50μg/mlに調整済み):20μl
0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)入りPBS
マイクロピペッター、マイクロピペッター用チップ、エッペンドルフチューブ、ショートピペット、パスツールピペット、駒込ピペットなど
アスピレーター エッペンドルフチューブ用マイクロ遠心分離機。
【0137】
(操作手順)
A)エッペンドルフチューブを2本用意し、蓋にA、Bと記入し、上記のごとく作製した末梢血単核細胞の浮遊液をそれぞれのチューブに100μlずつ入れる(1チューブあたり1×10個の細胞が入ることになる)。マイクロ遠心分離機にて3,000rpmで3分間遠心して、細胞ペレットを残して上清のみを吸引除去する。
【0138】
B)Aと記入したチューブに、先端にチップを着けたマイクロピペッターで抗CD4またはHLA−A抗体液を20μl添加し、その同じチップのままでピペッティングにより、泡を立てずに、細胞を再浮遊させる。次に、マイクロピペッターのチップを新しいものに交換し、同じチューブに適切な、例えば、抗ヒトCD8またはHLA−B抗体液を20μl添加し、同様にして抗体液と細胞浮遊液を撹拌混合する。その後、チューブは氷上に置いて抗体を細胞に結合させる。
【0139】
C)Bと記入したチューブにマイクロピペットで、例えば、抗ヒトCD19またはHLA−DR抗体液を20μl添加し、同様にして抗体液と細胞浮遊液を撹拌した後、チューブを氷上に置く。
【0140】
D)チューブを氷上においてから30分が経過したら、それぞれのチューブに駒込ピペットでPBSを1mlずつ加え、マイクロ遠心分離機にて3,000rpm、3分間遠心分離して、上清を吸引除去する。
【0141】
E)細胞ペレットのみを残して上清を吸引した各チューブに、先端が細胞に触れないように注意しながらピペットでPBSを1mlずつ加え、パスツールピペットを使ってAのチューブの細胞に液を吹きかけるようにして丁寧に浮遊させる。次にパスツールピペットを新しいものに換えて、Bのチューブの細胞を浮遊させる。マイクロ遠心機にて3,000rpm、3分間遠心し、上清を吸引除去する。
【0142】
F)細胞ペレットのみを残して上清を吸引した各チューブに、先端が細胞に触れないように注意しながら駒込ピペットでPBSを0.5mlずつ加える。チューブを氷上に置く。
【0143】
G)細胞の浮遊液を目の粗いフィルターに通過させ、細胞の凝集塊などの大きなかたまりを除くと同時に、細胞浮遊液をフローサイトメーター解析用チューブに移し、蓋をする。再び細胞浮遊液の入ったチューブを氷上に置く。
【0144】
H)フローサイトメーターによって10,000個の単核細胞を解析し、データ解析ソフトウェア(例えば、FlowJo(商標),CellQuest(登録商標))を用いて染色データを可視化する。チューブAはFITCとPEとの2重染色なのでドットプロットで解析し、CD4またはHLA−A陽性細胞とCD8またはHLA−B陽性細胞の割合を調べる。チューブBは単染色なのでヒストグラムで解析し、細胞表面CD19またはHLA−DR陽性細胞の割合を調べる。
【0145】
(診断)
本明細書において「診断」とは、被検体における疾患、障害、状態などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、体内の細胞の分化段階を調べることができ、そのような情報を用いて、被検体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。
【0146】
本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができることから、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。
【0147】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいう。
【0148】
本明細書において「被検体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被検体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0149】
本発明が対象とする「疾患」は、細胞の分化段階が関連するかまたは処置時にその分化段階が関連する、任意の疾患であり得る。そのような疾患としては、貧血、がん(例えば、癌、白血病、リンパ腫など)、免疫疾患などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0150】
本発明が対象とする「障害」は、分化段階が関連する任意の障害であり得る。
【0151】
そのような疾患、障害または状態の具体例としては、例えば、循環器系疾患、貧血[例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、がん性貧血など]、がんまたは腫瘍(例えば、白血病、多発性骨髄腫など)、免疫系疾患(慢性関節リウマチなど)、呼吸器系疾患(肺がん、気管支がんなど)、消化器系疾患(原発性肝がんなど)、泌尿器系疾患(膀胱がんなど)、生殖器系疾患[男性生殖器疾患(前立腺がん、精巣がんなど)、女性生殖器疾患(子宮がん、卵巣がんなど)など]などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0152】
本明細書において「がん」または「癌」は、互換可能に用いられ、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、がんは固形がんおよび造血器腫瘍を含むがそれらに限定されない。
【0153】
本明細書において「白血病」または「造血器腫瘍」とは、交換可能に用いられ、未熟な造血細胞の腫瘍性増殖を伴う疾患を総称して言う。増殖する白血球細胞が骨髄球系かリンパ系かにより,骨髄性白血病とリンパ性白血病とに大別される。
【0154】
本明細書において「骨髄性白血病(myelogenous leukemia)」とは、臨床的に急性と慢性に分類される.未熟な白血球の腫瘍性増殖と蓄積を伴うだけでなく,正常の骨髄球の増殖や分化過程も抑制することが知られる。
【0155】
本明細書において「慢性骨髄性白血病」は骨髄幹細胞の腫瘍化によるものが多いと考えられる。腫瘍細胞は多分化能をもち,さまざまな分化段階の腫瘍細胞が認められている。従って、分化段階を種々に判定することは、テイラーメイド治療には必要である。
【0156】
本明細書において「急性骨髄性白血病」は白血球の各成熟段階の未熟骨髄球の腫瘍性増殖からなり,その特殊なものとして,急性前骨髄球性白血病や急性単球性白血病などがある。慢性骨髄性白血病と同様、骨髄・肝臓・脾臓などを侵し,一般に予後不良である。急性骨髄性白血病は家族集積性も報告されており、さまざまな染色体異常を伴うことが知られている。従って、分化段階を種々に判定することは、テイラーメイド治療には必要である。特に、多くの場合、赤血球、白血球、血小板の3系統のうち1〜3系統の細胞数が減少することが知られており、貧血や感染症にかかりやすくなったり、出血が止まらなくなるという症状が起こることも頻繁に生じることから、系統に応じた治療を行うことが重要である。
【0157】
本明細書において「リンパ性白血病(lymphocytic leukemia)」とは、若年者にみられることが多く,その大部分は急性リンパ性白血病である.腫瘍細胞はBリンパ球(B細胞)またはTリンパ球(T細胞)の形質を示すものと,それをもたないものに大別される.日本の九州地方やカリブ海沿岸諸国にみられる成人T細胞白血病(adult T cell leukemia, ATL)は50歳前後の成人にみられる慢性リンパ性白血病である。HTLV−IがCD4リンパ球に感染して発生する.主な感染経路は母子感染で,現在日本には約120万人の感染者が存在し,約1700人に1人の割合で成人T細胞白血病が発生すると考えられている。治療法としては,代謝拮抗剤・アルキル化剤・一部の抗生物質・植物アルカロイド・副腎皮質ホルモンなどの投与が行われる。
【0158】
造血器腫瘍、特に白血病の分類はFAB(French−American−British classificaton)による形態学的・細胞化学的分類によってなされていたが、近年では白血病の病因・病態をより反映しうる特徴的な染色体異常によって層別化されている(WHO分類)。しかし、白血病は非常に多様な疾患が混在しており、これらの分類だけではその白血病細胞の特性を正確に理解することは困難である。したがって、表面抗原、免疫遺伝子解析、特異的遺伝子変異の検索、などは白血病細胞の特性のみならず、治療戦略を考える上でも重要であり、本発明を利用した分析およびその結果を利用することは重要であると考えられる。フローサイトメトリーを用いた腫瘍細胞の表面抗原発現様式の検討は、細胞のクロナリティ、細胞起源、診断、治療法、予後予測のためには不可欠な検査となっているが、その検査法における長所と短所を十分理解している必要がある。
【0159】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、抗体、標識など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、抗体などを記載した指示書などが含まれる。
【0160】
本明細書において「指示書」は、本発明の試薬の使用方法、反応方法、測定方法などを使用者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の酵素反応などの手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要に応じて本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、瓶に貼り付けられたフィルム、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。本発明のキットは、フローサイトメトリーの反応のための試薬をさらに含む。
【0161】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.AssociatESand Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0162】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Press、Immunophenotyping.Edited by Carlton C.Stewart,Janet K.Nicholson.Wiley−Liss,2000.などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0163】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0164】
1つの局面において、本発明は、主要組織適合遺伝子複合体(HLAなどのMHC)のキメリズムを決定する工程を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法を提供する。ここで、MHCのキメリズムの決定は、どのようなものでもよいが、好ましくは、フローサイトメトリーなどのタンパク質レベルでの発現量測定に用いる。発現量が正確に測定することができ、より適切な診断に結びつけることができるからである。
【0165】
このましい実施形態では、上記主要組織適合遺伝子複合体がHLAであり、幹細胞移植はヒトにおいて行われる。ヒトを対象とする場合は、HLAは、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の名称であり、歴史的にはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen)の略称として使用されていた。現在では単に記号として用いられていることから、本明細書においてもそのように使用する。
【0166】
HLA遺伝子は、ヒトの第6染色体短腕上に1.8cMの長さの領域にわたって存在する遺伝子領域に存在し、これまでに,HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−DR、HLA−DPおよびHLA−DQの少なくとも6遺伝子座あるいは領域が同定されている。HLA−A,B,C遺伝子はそれぞれ,HLA−A、HLA−BおよびHLA−C抗原をコードする.各遺伝子ともきわめて高度な多型性を示し,数十種の対立遺伝子が存在する.HLA−DR、HLA−DPおよびHLA−DQ領域には,HLA−D抗原のα鎖とβ鎖の構造遺伝子座が存在し,通常は同一領域内のα鎖とβ鎖遺伝子産物同士が結合してD抗原(DR抗原、DP抗原およびDQ抗原)を作る。HLA−D抗原のα鎖とβ鎖の構造遺伝子座が存在し,通常は同一領域内のα鎖とβ鎖遺伝子産物同士が結合してD抗原(DR抗原、DP抗原およびDQ抗原)を作る.DP領域およびDQ領域には一つずつのα鎖およびβ鎖の機能的遺伝子が存在するが,DR領域には一つのα鎖遺伝子と少なくとも三つのβ鎖遺伝子が同定されている.これらの各遺伝子座にも,多くの対立遺伝子が存在する。
【0167】
HLA抗原とはヒトの主要組織適合抗原遺伝子複合体すなわちHLA遺伝子複合体の産物をいう。
【0168】
本明細書において使用される場合は、キメリズムはどのようなHLA抗原を使用しても良いが、好ましくは、キメリズムは、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムを包含する。より好ましくは、キメリズムは、HLA−AおよびHLA−Bのキメリズムを包含する。理論に束縛されることを望まないが、特にMHCのクラスI抗原は全身のほとんどすべての細胞が発現し、ほとんどすべての細胞種のキメリズムの測定に利用できるので、少なくともHLA−AおよびHLA−Bについての判定を下すだけで、移植後の生着または再発の状況を確認することができるからである。
【0169】
より好ましい実施形態では、決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムのうち、少なくとも1つのドナー由来のキメリズムおよび少なくとも1つのレシピエント由来のキメリズムを決定することを包含する。
【0170】
本発明が対象とする検査は、幹細胞移植における生着または再発などの診断に用いるものであれば、どのようなものを対象としてもよいが、好ましくは臍帯血移植によるものが対象である。臍帯血移植は、ドナーとレシピエントのHLAの不一致が許容される代表的な例であるからである。理論に束縛されことを望まないが、臍帯血がHLAが不一致でも移植できる理由としては、骨髄移植との相違点を念頭に説明すると、臍帯血に含まれるT細胞は、ほとんどがナイーブ・フェノタイプ(まだ何に対するメモリーも持っていない細胞)で、他人の細胞に対する反応性(アロ反応性)は弱いと考えられているからであり、他方、骨髄移植で投与される移植片には、成人の末梢血T細胞が多数含まれているが、これらの約半数はメモリー細胞でアロ反応性は強いと考えられるからである。臍帯血移植の問題点として、骨髄移植に比べて生着遅延および生着不全の頻度が高いとされているが、本発明の技術を用いることにより、この問題を解決することができるからである。また、複数のドナー由来の臍帯血(特に、3人以上のドナー由来)のものであっても本発明の技術を用いれば解析可能であることから、複数臍帯血移植でもこのキメリズム解析法が可能であり、それにより生着不全や再発の診断が同様にできる。したがって、複数臍帯血移植も有効な処置方法として活用する価値を飛躍的に高めることになる。
【0171】
このようなT細胞の違いにより、HLAが不一致の場合、骨髄移植では激しいGVHD(移植片中のT細胞が患者の皮膚・肝臓・消化管を攻撃する炎症反応)が起きやすいが、臍帯血移植では重症のGVHDは起こりにくいので、移植が可能なのであると考えられている。しかし、不一致の程度が大きいと、臍帯血移植でも生着不全となる確率が高くなり、追加の治療が必要となる可能性が高まるので、生着不全の早期かつより正確な診断法の開発が求められていた。このような診断をするためには、好ましくは、フローサイトメトリーによる診断を用いる。フローサイトメトリーを用いれば、4週間以内という早期の診断が可能となる。フローサイトメトリーを用いれば、好ましくは3週間以内、2週間以内、より好ましくは1週間以内でも早期診断が可能となり、追加の移植の必要性、追加治療の必要を判定することができる。理論に束縛されることは望まないが、PCRを用いた場合は、試料の採取が移植後の最初の4週間では十分取れないこと、および一定期間後は、増幅の度合いが多すぎることで検出感度が高すぎることで、正確な判定が阻害されるなどの欠点がある。これは、フローサイトメトリーの採用によってすべて解決し、移植の際のキメリズムを簡便で、効率よく、正確に判定することを可能にしたという効果を奏する。このような効果は、フローサイトメトリーの技術自体からは予測不可能であった効果であるといえる。
【0172】
1つの具体的な実施形態では、キメリズムの決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRに含まれる8つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスおよび少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致である場合にキメリズム判定可能と判定する。このような判定でもキメリズム判定が可能であることは、従来明らかではなかった。従って、本発明は、予想外に簡便な検査方法を提供する。
【0173】
1つの実施形態では、本発明の方法は、早期検査において使用される。従って、本発明のキメリズムの決定は、移植後早期に行われる。早期に検査されるときは、生着不全の指標となり得る。生着不全が認められるときは臍帯血の再移植が検討され得る。従って、本発明において、キメリズム決定は臍帯血移植を再度すべきか判断することに使用される。
【0174】
本明細書において、早期とは移植したものが生着するまでの期間をいい、代表的には、移植後1ヶ月以内をさし、特に、移植後4週間以内をさす。好ましくは、早期とは、移植後3週間以内をさし、さらに好ましくは、早期とは移植後2週間以内をさし、最も好ましくは、早期とは移植後1週間以内をさす。
【0175】
他の実施形態において、本発明の検査は、疾患(例えば、白血病)の再発を診断することに用いられる。再発したかどうかは、移植後一定期間後に判断することができる。本明細書において、一定期間とは、代表的に移植後4週間以後をさす。4週間以後であれば、終期に限定は無く、いつであっても再発であると認定される。従って、本発明において、一定期間後におけるキメリズム決定は、再発の指標である。
【0176】
1つの実施形態において、一定期間後のキメリズム決定は追加の治療をすべきか判断することに使用される。このような追加の治療としては、例えば、放射線療法、化学療法、漢方、追加の移植(例えば、再度の幹細胞移植(骨髄移植、臍帯血移植など))等またはそれらの組み合わせを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0177】
1つの実施形態において、本発明のキメリズムはフローサイトメトリーで決定される。ここで、好ましくは、フローサイトメトリーは、マルチカラー、系統検索パネルのマーカー、腫瘍マーカー、抗HLAマーカーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される技術的特徴により実施される。
【0178】
1つの具体的な実施形態では、キメリズム決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出をさらに包含する。レシピエントの細胞が検出されると、それは、生着がうまくいっていないことの指標となり得る。従って、好ましい実施形態では、本発明の方法は、レシピエント由来の細胞の検出およびそれによる生着不全の判定を包含する。より具体的には、キメリズム決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出を包含し、該レシピエント由来の細胞の増加は生着不全を示す。レシピエント由来の細胞の増加は、ドナー由来の細胞の数との比較で行うことができる。
【0179】
別の具体的な実施形態では、本発明のキメリズム決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含する。白血病細胞の検出は、系統検索パネルによる系統決めのち、異常発現マーカーを検出することによって実施できる。白血病細胞の検出は、白血病の再発の指標であるといえる。本発明は、好ましくは、白血病の再発の判定を包含し得る。
【0180】
より具体的には、本発明のキメリズム決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含し、該白血病細胞の存在は、白血病の再発を示す。
【0181】
より具体的には、白血病細胞は、白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーと異常発現マーカーとの組み合わせを用いることによって、決定される。
【0182】
さらに具体的な実施形態では、系統検索パネルのマーカーは、骨髄系細胞について、CD13、CD33およびcMPOからなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD2、CD7およびcCD3からなる群より選択され、B細胞系細胞についてCD19およびcCD79aからなる群より選択され、ならびにその他の白血病マーカーについてCD34およびHLA−DRからなる群より選択され、ならびに異常発現マーカーは、骨髄系細胞について、CD10、CD19およびCD56からなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD33を含み、B細胞系細胞についてCD5、CD13、およびCD33からなる群より選択される。
【0183】
別の局面において、本発明は、主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する手段を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成するシステムを提供する。システムにおいてもまた、本発明の方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0184】
1つの好ましい実施形態では、本発明のシステムにおいて備えられるキメリズムを決定する手段は、HLA−AおよびHLA−Bに含まれる4つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスが不一致であること、および少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致であることを利用して、キメリズムを決定する手段を備える。このような手段は、抗原抗体反応を決定するアッセイキットまたはそれを実現する装置であり得る。
【0185】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、抗体、標識など)から構成されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、抗体などを記載した指示書などが含まれる。
【0186】
本明細書において「指示書」は、本発明の試薬の使用方法、反応方法、測定方法などを使用者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の酵素反応などの手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要に応じて本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、瓶に貼り付けられたフィルム、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。本発明のキットは、フローサイトメトリーの反応のための試薬をさらに含む。
【0187】
別の局面において、本発明は、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法を提供する。この方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;およびC)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する。
【0188】
この方法では、シグナルの入手は、どのような方法であってもよく、例えば、電気信号に変換して入力する方法、画像化してその画像データをピクセル変換する方法などを挙げることができる。
【0189】
本発明の1つの実施形態では、本発明の方法は、臨床データを相関付けて提供する工程をさらに包含する。
【0190】
1つの実施形態では、本発明において使用されるシグナルは、被験体からの細胞集団に順番にゲートをかけて得られることを特徴とする。このようなゲートは当該分野において公知の任意の手法を用いることができる。検査データを基に所望の分画の細胞を分取する工程、ならびに該細胞の形態、染色および遺伝子解析結果を取得し、該細胞の種類を同定する工程を包含してもよい。
【0191】
別の局面において、本発明は、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを格納する記録媒体を生産する方法を提供する。この方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;およびD)作成された解析画像および統計処理されたデータを記録媒体に格納する工程を包含する。この方法でもまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段および/または記録媒体を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0192】
別の局面において、本発明は、細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムを提供する。このプログラムにおいて実行される方法は:A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;およびC)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する。このプログラムにおいてまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0193】
別の局面において、本発明はまた、幹細胞移植における移植後診断のための検査データ
を生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムを格納した記録媒体を提供する。格納されるプログラムにおいて実行される方法は:A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;およびC)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する。この方法でもまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0194】
本発明の検査または検査データ生成方法を実行するコンピュータ構成あるいはそれを実現するシステムの例を図4を参照して示す。図4は、本発明の方法を実行するコンピュータの500の構成例を示す。
【0195】
コンピュータ500は、入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504と、バス505とを備える。入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504とは、バス505によって相互に接続されている。入力部501と出力部503とは入出力装置506に接続されている。
【0196】
コンピュータ500によって実行される細胞状態提示の処理の概略を説明する。
【0197】
本発明の方法を実行させるプログラム(以下、プログラムという)は、例えば、メモリ502に格納されている。あるいは、プログラムは、それぞれ独立してあるいは一緒に、フロッピー(登録商標)ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、DVD−ROMのような任意のタイプの記録媒体に記録され得る。あるいは、アプリケーションサーバに格納されていてもよい。そのような記録媒体に記録されたプログラムは、出入力装置506(例えば、ディスクドライブ、ネットワーク(例えば、インターネット))を介してコンピュータ500のメモリ504にロードされる。CPU502がプログラムを実行することによって、コンピュータ500は、本発明の方法の処理を実行する装置として機能する。
【0198】
入力部501を介して、疾患、細胞に関する情報などを入力する。また、測定されたプロファイルのデータも入力される。必要に応じて、既知の情報に関する情報も入力してもよい。
【0199】
CPU502は、入力部501で入力された情報をもとに、データおよび既知情報から表示データを生成し、メモリ504に表示データを格納する。その後、CPU502は、これらの情報をメモリ504に格納し得る。その後、出力部503は、CPU502が選択した情報を表示データとして出力する。出力されたデータは、入出力装置506から出力され得る。
【0200】
(幹細胞移植における治療)
1つの局面において、本発明は、幹細胞移植における治療をコントロールする方法を提供する。この方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;およびC)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を行った後、得られた情報に基づいて、次の治療方針(例えば、免疫抑制剤の投与の調節、再発防止手段および複数の幹細胞供給源の利用等)を決定することを包含する。このような治療方針としては、例えば、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリンA=CyA)の投与の調節において、レシピエント細胞が消失しない場合、免疫抑制剤の投与を減少または中止することなどを含む。理論に束縛されることを望まないが、ドナー由来のT細胞は、生着を促進させる機能を持つことから、移植後早期に末梢血の混合キメリズムをモニターしながら、生着遅延すなわちレシピエント細胞がなかなか消失しない際は、CyAを減量または中止する方法がよいと考えられるからである。あるいは、がんの再発が見られる場合は、適切ながん治療(例えば、化学療法)を行ってもよい。標準的前処置後に臍帯血移植を受けた急性骨髄性白血病(AML、M2)の症例で、移植後の骨髄細胞のキメリズムを適宜解析し、腫瘍細胞の増加がみられないかを監視することによって、術後の再発による不都合を回避することができる。本発明では、移植の一般的な手段として、複数の幹細胞供給源(特に、複数臍帯血)の利用を行う場合にも、移植後の骨髄細胞のキメリズムを適宜解析し、腫瘍細胞の増加がみられないかを監視することによって術後の再発による不都合を回避することができる。このことは、予想外の発見である。なぜなら、臍帯血移植の問題点として、骨髄移植に比べて生着遅延および生着不全の頻度が高いとされているが、本発明の技術を用いることにより、この問題を解決することができるからである。また、複数のドナー由来の臍帯血(特に、3人以上のドナー由来)のものであっても本発明の技術を用いれば解析可能であることから、複数臍帯血移植でもこのキメリズム解析法が可能であり、それにより生着不全や再発の診断が同様にできる。したがって、複数臍帯血移植も有効な処置方法として活用する価値を飛躍的に高めることになる。
【0201】
したがって、本発明は、別の局面において、幹細胞移植における移植後の治療の決定のための検査データを生成する方法および幹細胞移植における移植後の治療の決定の方法を提供する。この方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;およびC)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する。治療の決定の方法の場合は、D)キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する。この移植は、白血病患者に対して行われることがあり得る。このような検査データは、上記治療の方針を決定するために使用され得る。このような治療の種類としては、例えば、免疫抑制剤の投与の調節、再発防止手段および複数の幹細胞供給源の利用を挙げることができる。ここで、キメリズムの決定には、主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムの決定などの種類があり得、本明細書において他の場所において詳述されている任意の形態を使用することができることが理解される。ここで、キメリズムの決定には、主要組織適合遺伝子複合体(例えば、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DR等)のキメリズムの決定などの種類があり得、本明細書において他の場所において詳述されている任意の形態を使用することができることが理解される。
【0202】
別の局面において、本発明は、幹細胞移植における治療の決定のための検査データを生成するのに使用するためのシステムを提供する。このシステムは、主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する手段を備える。ここで、キメリズムを決定する手段には、主要組織適合遺伝子複合体(例えば、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DR等)のキメリズムを決定する手段などの種類があり得、本明細書において他の場所において詳述されている任意の形態を使用することができることが理解される。
【0203】
別の局面において、本発明は、幹細胞移植における移植後の治療を決定するためのシステムを提供する。このシステムは、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する手段;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する手段;C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う手段;およびD)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する手段を備える。このシステムにおいてまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0204】
別の局面において、本発明は、幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納した記録媒体を提供する。ここで使用される方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;およびD)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する。この方法でもまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段および/または記録媒体を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。
【0205】
他の局面において、本発明は、幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供する。このプログラムにおいて実行される方法は、A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;およびD)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する。このプログラムにおいてまた、本発明の上記検査方法において好ましいとされた任意の実施形態に対応する手段を備えていても良いことが理解され得る。そのような手段は当該分野において公知の技術を用いて実施可能であることが理解される。プログラムとしては、どのような言語を用いてもよいことが理解される。
【0206】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0207】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0208】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)、などから市販されるものを用いた。ヒト患者に対する処置においては、厚生労働省などにおいて規定される規準を遵守して行った。血中の未熟細胞表面抗原の解析には、インフォームド・コンセントを行った後の患者より採取された血を用いた。
【0209】
(実施例1:臍帯血の採取)
現在我が国には、14か所の公的臍帯血バンクが稼働中で、臍帯血バンクネットワークにより保存臍帯血の品質管理が行われている。これらのバンクはそれぞれ許可を与えた採取病院を持ち、インフォームド・コンセントを取った後、娩出後の胎盤・臍帯から抗凝固剤を用いて臍帯血を採取している。採取された臍帯血は、各バンクに搬送された後、採取されてから24時間以内の60ml以上の臍帯血について、ハイドロキシエチルスターチを用いて遠心法で細胞を分取している。一定量の細胞数があるとわかった臍帯血のみ、凍害保護液を添加した後プログラムフリーザーで液体窒素の入ったタンクに凍結保存している。
【0210】
本実施例では、臍帯血を、そのようなバンクから入手したか、またはインフォームド・コンセントを取った被験者から、娩出後の胎盤・臍帯から抗凝固剤を用いて臍帯血を採取することによって、臍帯血を採取した。
【0211】
(実施例2:臍帯血の移植)
東京大学医科学研究所附属病院において、成人の造血器悪性腫瘍患者を対照に、全身放射線照射(12 Gy)を含んだ標準的前処置後に臍帯血移植を受けさせた。以下にそのプロトコールを示す。
【0212】
(臍帯血移植の手順)
1) 臍帯血の検索
日本臍帯血バンクネットワークのホームページにアクセスし、検索を行った。
2) 臍帯血の申し込み
移植候補臍帯血の申し込みは臍帯血の登録移植医療機関のみが可能である。本実施例でも、そのように申し込みがあった物を利用した。
3) 適応判定
申し込みのあった患者の移植適応は、当該臍帯血バンクの判定委員会でその可否が決定した。
4) 出庫前検査、搬送
移植適応ありと判定された臍帯血を、移植病院に提供した。臍帯血は、原則として移植前処置開始前に移植病院に到着するように配慮した。
5) 移植前処置
レシピエントの免疫細胞を減らすこと、および腫瘍細胞を可級的に減らすことを目的として移植前処置を行った。
6) 解凍、移植
臍帯血の解凍は37℃の温浴にて急速に行い、解凍後は直ちに患者に輸注した。
7) GVHD 予防
移植直前から移植後にかけて、臍帯血T細胞のアロ反応性によるGVHDを抑制するために行った。
【0213】
(実施例3:移植後の検査)
実施例2のように移植した患者について、検査を行った。以下にそのプロトコールを示す。
【0214】
(対象患者、試薬および方法)
(対象患者および採血のタイミング)
移植臍帯血の生着不全を可及的早期に診断できるかについての検証では、東京大学医科学研究所附属病院で全身放射線照射(12 Gy)を含んだ標準的前処置後に臍帯血移植を受けた成人の造血器悪性腫瘍患者を対象にフォローアップした。移植後1、2、3、4週間後、および2、3、(必要に応じて4)ヶ月目に末梢血10 mlをヘパリン採血し、系統検索パネルのマーカー解析と共にキメリズム解析を行った。骨髄穿刺が行われた場合は、その検体も解析した。他方、移植後の白血病再発を診断するのに役立つかの検証では、上記フォローアップで移植後2ヶ月以降に白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーと異常発現マーカーの解析とともにキメリズム解析を行った。
【0215】
移植後の急性GVHD、サイトメガロウイルス抗原血症、感染症、生着不全および再発などの臨床データは、適時収集して個人情報の管理を念頭に置いて管理した。
【0216】
(細胞の調製)
末梢血および臍帯血よりFicoll−Paque(Pharmacia、Uppsala、Sweden)で単核球、顆粒球、および血小板分画を分離した。染色は、細胞の分離後ただちに行った。
【0217】
(染色とフローサイトメトリーによる解析)
系統検索パネルのマーカーと共にキメリズム解析を行う場合は、単核球分画はFITC−HLA1/PE−HLA2/PE−Cy7−CD3/APC−CD56/APC−Cy7−CD19/Alexa Fluor 405−CD45(BD Bioscience)で、顆粒球分画はFITC−HLA1/PE−HLA2/PE−Cy7−CD3/APC−CD11b/Alexa Fluor 405−CD45(BD Bioscience)で、血小板分画はFITC−HLA1/PE−HLA2/APC−CD42b(BD Bioscience)の抗体の組み合わせで細胞を染色した。
【0218】
腫瘍マーカーとともにキメリズム解析を行う場合は、骨髄系腫瘍の場合はFITC−HLA1/PE−HLA2/PE−Cy7−CD33/APC−CD34/APC−Cy7−CD14/Alexa Fluor 405−CD45(BD Bioscience)で、T細胞系腫瘍の場合はFITC−HLA1/PE−HLA2/PerCP−Cy5.5−CD8/PE−Cy7−CD5/APC−CD4/APC−Cy7−CD3/Alexa Fluor 405−CD45(BD Bioscience)で、B細胞系腫瘍の場合はFITC−HLA1/PE−HLA2/PerCP−Cy5.5−CD38/PE−Cy7−CD10/APC−CD34/APC−Cy7−CD19/Alexa Fluor 405−CD45(BD Bioscience)で細胞を染色した。
【0219】
測定直前にヨウ化プロピジウム(PI、Sigma)を添加して死細胞を染色した(PE−TRの検出器で測定)。抗HLA抗体は、Serotec社、One Lambda社、およびUS Biological社から購入した。その他の系統検索パネルのマーカーに対する抗体や腫瘍マーカーに対する抗体は、すべてBD Bioscience社より購入した。
【0220】
染色した細胞は、FACS AriaTMとDiVaTM ソフトウェア[Becton Dickinson Immunocytometry Systems (BDIS)、San Jose、CA]を用いて測定した。得られたデータはFlowJoTMソフトウェア(Tree Star、San Carlos、CA)で解析し、図および表を作成した。
【0221】
FlowJoで解析したFACSデータと臨床データをJMPソフトウェア(SAS Institute、Cary、NC)に入力し、適宜統計学的解析を行った。
【0222】
(症例1)
図1に症例1の患者の検査結果を示す(それぞれ、8日目、14日目、21日目、28日目、および60日目)。21日目までは混合キメリズムが認められたが、28日目以後はレシピエント由来細胞は完全に消失し、ドナー由来細胞に完全に置き換わった。すなわち、生着して完全キメリズムの状態になったことが明らかになった。
【0223】
症例1の患者の症状、所見および経過情報は以下の通りである。
【0224】
50歳の女性で、急性骨髄製白血病を発症後、2005年4月に臍帯血移植を受けた。移植後8日目、14日目、21日目、28日目、および60日目に末梢血のキメリズム解析を行ったが、28日目に完全にドナー由来の血液に置き換わってからは経過は順調である。
【0225】
(症例2)
図2に症例2の患者の検査結果を示す。
【0226】
症例2の患者の症状、所見および経過情報は以下の通りである。
【0227】
46歳の女性で、急性骨髄製白血病を発症後、2005年8月に臍帯血移植を受けた。移植後半年後に末梢血および骨髄のキメリズム解析を行ったが、完全にドナー由来の血液に置き換わっていた。再発の徴候はなく、経過は順調である。
【0228】
(症例3)
図3に症例3の患者の検査結果を示す。
【0229】
症例3の患者の症状、所見および経過情報は以下の通りである。
【0230】
52歳の女性で、急性骨髄製白血病を発症後、2003年3月に臍帯血移植を受けた。移植後2年後に末梢血および骨髄のキメリズム解析を行ったが、完全にドナー由来の血液に置き換わっていた。再発の徴候はなく、経過は順調である。
【0231】
いずれの例においても現時点で、HLAの抗原2個の不一致で行った臍帯血移植で白血病が完治したことが明らかになった。
【0232】
(実施例4:生着不全の場合の処置例)
生着不全の場合の処置例を提示する。
【0233】
50歳の男性で、急性骨髄製白血病を発症後、2005年8月に臍帯血移植を受けた。移植後7日目、14日目、21日目、28日目に末梢血のキメリズム解析を行った。14日目の時点でレシピエント由来の細胞が末梢血で70%近くを占めており、生着不全が疑われた。その後21日目になってもドナー由来細胞が増加する傾向はみられず、再移植が必要と判断された。臍帯血バンクネットワークを介して検索が行われ、HLAが1個不一致の臍帯血が、最初の移植から40日目で行われた。
【0234】
(実施例5:再発の場合の処置例)
再発の場合の処置例を提示する。
【0235】
44歳の男性で、原疾患は骨髄異形成症候群から発症した急性骨髄製白血病の患者である。1回目の臍帯血移植後再発の傾向はなく、1年目の時点でVNTRを用いたキメリズム解析の結果、ドナー由来細胞が100%であった。経過観察の目的で、移植後2年目の2005年6月来院し、抗HLA抗体を用いたキメリズム解析が行われた。その結果、末梢血で30%の細胞がレシピエント由来であり、その表面マーカーはCD33CD34HLADRCD4で、急性骨髄性白血病初発時の白血病細胞マーカーと同様であった。本患者は再発と診断され、直ちに入院して化学療法が施行された後、2回目の臍帯血移植が行われた。現在、末梢血および骨髄中に白血病細胞は検出されず、経過は良好である。
【0236】
(実施例6:移植後早期のキメリズム解析が、免疫抑制剤の投与量のコントロールに役立つ可能性を示唆した症例)
本症例は、医科研附属病院で標準的前処置後に臍帯血移植を受けた骨髄異形成症候群(MDS)の症例で、混合キメリズムの推移をFACS法とSTR−PCR法により移植後1週間から10週間まで週1回解析した。
【0237】
末梢血単核細胞におけるドナー細胞とレシピエント細胞の割合を解析した結果を図5に示す。死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した(図5上段)。測定はBD社のFACS Ariaを用い、得られたデータはFlowJoソフトウェア(TreeStar社)で解析した。図5では、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目(以上2段目)、41日目、49日目、56日目、63日目および70日目(以上3段目)のHLA−A24(ドナー;x軸)−HLA−A26(レシピエント;y軸)のFACS分布図を示す。移植後2週目まではレシピエント細胞は順調に減少し、STR−PCR法では2週目には検出できなかった。しかしながら3週目以降、レシピエント細胞が再び増加し、FACS法とSTR−PCR法のいずれにおいても混合キメリズムが検出された。図6では、3週目(21日目)において、キメリズムをさらに詳細に分析した結果を示す。図6では、ゲートしていない細胞(二段目左から3番目)をPIとFSCで展開し、PI細胞について、さらに、CD3およびCD19(二段目左から4番目)あるいはCD13およびSSC(二段目左から二番目)について展開した。CD3細胞について、さらに、CD4およびCD8について展開した。CD14細胞(すなわち、単球)についてさらに、HLA−A9(ドナー)およびHLA−A26(レシピエント)にて展開した。他方、CD3CD19細胞について、CD4およびCD56にて展開した(3段目右から2番目)。ついでCD56細胞(NK細胞)についてさらに、HLA−A9(ドナー)およびHLA−A26(レシピエント)にて展開した。
【0238】
3週目に増加しているレシピエント細胞のフェノタイプを解析したところ、単球、NK細胞で混合キメリズムが検出された(図6)。一方、CD4T細胞とCD8T細胞では、レシピエント細胞は検出されなかった(図6上段、右から1番目(CD8)および3番目(CD4))。臍帯血由来T細胞の機能が抑制されている可能性を疑い、移植後投与されていたシクロスポリン(Cyclosporine)A(CyA)の投与量を通常より速く減量した。CyAの投与量は、移植前日より点滴(10時間)で200mg/dayでスタートし、29日目で130mg/day(2mg/kg)、43日目で65mg/day、49日目で40mg/dayに減量した。55日目からは内服(75mg/day)に移行し、77日目から内服を中止した。43日目に点滴を半減(130mg/day−−>65mg/day)させた後レシピエント細胞は急速に減少し、49日目に4.91%にまで半減した。さらに、55日目から内服に切り替えたところ、63日目には1%以下の頻度になり、その後も減少を続けている。
【0239】
ドナー由来のT細胞は、生着を促進させる機能を持つ。したがって、移植後早期に末梢血の混合キメリズムをモニターしながら、生着遅延すなわちレシピエント細胞がなかなか消失しない際は、CyAを減量または中止する方法がよいと考えられる。
【0240】
今回の症例では、移植後ドナーT細胞のサイトカイン産生能が極めて低いことが判明しており、サイトカイン産生能とともに混合キメリズムを解析することが、ドナーT細胞の機能を適切に制御して、急性GVHDの発症を避けながら生着を促進させる治療法のモニタリングに利用できる可能性が示された。
【0241】
(実施例7:キメリズム解析により再発の早期診断が可能であった症例)
本症例では、医科研附属病院で標準的前処置後に臍帯血移植を受けた急性骨髄性白血病(AML、M2)の症例で、移植後159日目から骨髄細胞のキメリズムを適宜解析し、腫瘍細胞の増加がみられないかを監視した。染色に用いた蛍光標識抗体は、FITC−HLA−A9、PE−HLA−A11、PerCP−Cy5.5−HLA−DR、PE−Cy7−CD33、APC−CD34、APC−Cy7−CD56、Alexa Fluor 405−CD45である。死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した(図7下段左)。測定はBD社のFACS Ariaを用い、得られたデータはFlowJoソフトウェア(TreeStar社)で解析した。移植後159日目では、骨髄単核細胞中2.48%がCD34CD45dim分画(正常な造血幹・前駆細胞や白血病細胞のフェノタイプ)に属し(図7下段中央)、そのうち0.22%(全骨髄単核細胞中0.01%)がレシピエント由来であった(図7上段左)。281日目に同様の解析(図7上段中央)を行ったところ、CD34CD45dim細胞の5.96%がレシピエント由来で、白血病の再発を疑わせる明確な細胞集団の増加が認められた。しかしながら、レシピエント由来CD34CD45dim細胞は全骨髄単核細胞中0.37%しか存在しておらず、形態学的解析(ライト−ギムザ染色)およびAML1/ETOのFISH法による解析では再発かどうかは判断できなかった。すなわち、FACSによるキメリズム解析法が、患者の再発を最も速く診断することができた。本症例のレシピエント由来CD34CD45dim細胞が腫瘍細胞であることを確認する目的で、320日目(図7上段右)にドナー由来のCD34CD45dim細胞とレシピエント由来のCD34CD45dim細胞(図8上段左のHLA−A9はドナー由来、HLA−A11はレシピエント由来)をそれぞれソーティングしてFISH法で解析したところ(図8下段)、後者のみがすべてAML1/ETOの融合シグナル(白血病細胞マーカー)が陽性であった(図8下段左はレシピエント、右はドナーを示す。この患者は、その後入院して化学療法(シタラビン、ダウノルビシン、アドリアマイシン投与)を行い、完全緩解に入っている。
【0242】
(実施例8:複数臍帯血移植(multi−cord transplantation)における生着モニタリングへ応用可能であることを示すコントロール実験のデータ)
臍帯血移植の問題点として、骨髄移植に比べて生着遅延および生着不全の頻度が高いことが報告されている。臍帯血細胞の生着を促進させる目的で、複数の臍帯血を同時に投与する複数臍帯血移植(multi−cord transplantation)の試みがなされており、その有効性も報告されている。
【0243】
FACSを用いたキメリズム解析法が、2個以上のドナー臍帯血移植においても可能であるか検証する目的で、3名の健常人末梢血を混合して人工キメラ検体を作製し、3つの異なるHLAをマーカーとするトリプル−キメリズム解析を試みた。染色に用いた蛍光標識抗体は、FITC−HLA−B7、PE−HLA−A2、PerCP−Cy5.5−CD8、PE−Cy7−CD56、APC−HLA−B5、APC−Cy7−CD19、Pacific Blue−CD4、およびAmCyan−CD3である。死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陽性細胞を検出した。測定はBD社のFACS Ariaを用い、得られたデータはFlowJoソフトウェア(TreeStar社)で解析した。その結果を、図9に示す。
【0244】
図9では、まず、FSCおよびSSCを用いて血球を展開し、単球およびリンパ球に関して展開した(左欄中)。このうち、リンパ球の画分を、死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、FSCおよびPIにより展開し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した。このPI陰性細胞について、CD3およびCD19により展開した結果を右から2番目の欄の上から2つのパネルにおいて示す。CD19細胞はB細胞である。CD3細胞については、さらに、CD4およびCD8について展開した(右から二番目の欄の一番上のパネル)。CD3CD19細胞については、CD56およびFSCで展開し(右から二番目の欄の上から3番目のパネル)、CD56細胞(NK細胞)を分離した。単球については、FSCおよびPIにて展開し(左から二番目の欄の一番下のパネル)、PI細胞をCD4およびCD8にて展開して単球を分離した(右から二番目の欄の一番下のパネル)。図9一番右で示すように、これら5画分をHLA−A2およびHLA−B7にて展開し、上から、CD4T細胞、CD8T細胞、B細胞、NK細胞、および単球におけるキメリズム(B7、B5およびA2の各々の個体)についてのパーセンテージを求めた。
【0245】
図9に示すように、CD4T細胞、CD8T細胞、B細胞、NK細胞、および単球における、3名の細胞の割合を求めることが可能であった。
【0246】
FACSによるキメリズム解析法は、複数臍帯血移植法における生着のモニタリングや、生着促進のメカニズムの解明にも利用できるものと期待される。
【0247】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0248】
本発明は、白血病などの疾患に関して、より適切な診断を行うための情報を提供することができ、従って、医薬および医療に関連する種々の産業において有用性が認められるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0249】
【図1】図1は、症例1(生着不全診断)の例を示す。生着不全診断のため、移植後早期に解析を行った。患者血液検体を移植後8日、14日、21日、28日、60日で採取し、ドナー由来HLA−A9(横軸)とレシピエント由来HLA−A11(縦軸)で染色した像を示す。図は上からT細胞、B細胞、NK細胞、好中球、単球を示している。移植後28日では全ての細胞種類がドナー由来細胞になっており、移植したドナー由来の細胞が生着していることが分かる。
【図2】図2は、症例2(移植後0.54 年後の再発診断)を示す。再発診断のため、移植後0.54年後に解析を行った。患者血液検体および骨髄検体をレシピエント由来HLA−B7(横軸)とドナー由来HLA−B13,15(縦軸)で染色した像を示す。図はT細胞、B細胞、NK細胞、好中球、単球、骨髄細胞の像を示している。梢血における全ての細胞種、および骨髄における造血幹・前駆細胞マーカー陽性の細胞がドナー由来細胞になっており、移植が成功したことを示す。
【図3】図3は、症例3(2.22年後の再発診断)を示す。再発診断のため、移植後2.22年後に解析を行った。患者血液検体および骨髄検体を、ドナー由来HLA−A9(横軸)とレシピエント由来HLA−A25、25(縦軸)で染色した像を示す。図はT細胞、B細胞、NK細胞、好中球、単球、骨髄細胞の像を示している。梢血における全ての細胞種、および骨髄における造血幹・前駆細胞マーカー陽性の細胞がドナー由来細胞になっており、移植が成功したことを示す。
【図4】本発明のシステム模式図である。
【図5】図5は、実施例6において、末梢血単核細胞におけるドナー細胞とレシピエント細胞の割合を解析した結果である。死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した(図5上段)。測定はBD社のFACS Ariaを用い、得られたデータはFlowJoソフトウェア(TreeStar社)で解析した。図5では、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目(以上2段目)、41日目、49日目、56日目、63日目および70日目(以上3段目)のHLA−A24(ドナー;x軸)−HLA−A26(レシピエント;y軸)のFACS分布図を示す。
【図6】図6は、実施例6において、3週目(21日目)において、キメリズムをさらに詳細に分析した結果を示す。図6では、ゲートしていない細胞(二段目左から3番目)をPIとFSCで展開し、PI細胞について、さらに、CD3およびCD19(二段目左から4番目)あるいはCD13およびSSC(二段目左から二番目)について展開した。CD3細胞について、さらに、CD4およびCD8について展開した。CD14細胞(すなわち、単球)についてさらに、HLA−A9(ドナー)およびHLA−A26(レシピエント)にて展開した。他方、CD3CD19細胞について、CD4およびCD56にて展開した(3段目右から2番目)。ついでCD56細胞(NK細胞)についてさらに、HLA−A9(ドナー)およびHLA−A26(レシピエント)にて展開した。
【図7】図7は、実施例7において、標準的前処置後に臍帯血移植を受けた急性骨髄性白血病(AML、M2)の症例で、移植後159日目から骨髄細胞のキメリズムを解析した結果を示す。死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した(図7下段左)。測定はBD社のFACS Ariaを用い、得られたデータはFlowJoソフトウェア(TreeStar社)で解析した。移植後159日目では、骨髄単核細胞中2.48%がCD34CD45dim分画(正常な造血幹・前駆細胞や白血病細胞のフェノタイプ)に属し(図7下段中央)、そのうち0.22%(全骨髄単核細胞中0.01%)がレシピエント由来であった(図7上段左)。281日目および320日目に同様の解析(図7上段中央および右)を行った結果を示す。右下には、HLA−A11およびHLA−A9にてCD34CD45細胞を展開してドナー由来およびレシピエント由来を分離した結果を示す。
【図8】図8は、図7上段右の320日目でのドナー由来のCD34CD45dim細胞とレシピエント由来のCD34CD45dim細胞をそれぞれソーティングしてFISH法で解析した結果を示す。図8上段左のHLA−A9はドナー由来、HLA−A11はレシピエント由来を示す。図8下段には、ドナー由来のCD34CD45dim細胞とレシピエント由来のCD34CD45dim細胞をそれぞれソーティングしてFISH法で解析した結果を示す。図8下段左はレシピエント、右はドナーを示す。
【図9】図9は、FACSを用いたキメリズム解析法が、2個以上のドナー臍帯血移植においても可能であるか検証する目的で、3名の健常人末梢血を混合して人工キメラ検体を作製し、3つの異なるHLAをマーカーとするトリプル−キメリズム解析を試みた結果を示す。図9では、まず、FSCおよびSSCを用いて血球を展開し、単球およびリンパ球に関して展開した(左欄中)。このうち、リンパ球の画分を、死細胞除去の目的で測定直前にPIを添加し、FSCおよびPIにより展開し、PE−TR(610/20)の検出器でPI陰性細胞を検出した。このPI陰性細胞について、CD3およびCD19により展開した結果を右から2番目の欄の上から2つのパネルにおいて示す。CD19細胞はB細胞である。CD3細胞については、さらに、CD4およびCD8について展開した(右から二番目の欄の一番上のパネル)。CD3CD19細胞については、CD56およびFSCで展開し(右から二番目の欄の上から3番目のパネル)、CD56細胞(NK細胞)を分離した。単球については、FSCおよびPIにて展開し(左から二番目の欄の一番下のパネル)、PI細胞をCD4およびCD8にて展開して単球を分離した(右から二番目の欄の一番下のパネル)。図9一番右で示すように、これら5画分をHLA−A2およびHLA−B7にて展開し、上から、CD4T細胞、CD8T細胞、B細胞、NK細胞、および単球におけるキメリズム(B7、B5およびA2の各々の個体)についてのパーセンテージを求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する工程を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法。
【請求項2】
前記主要組織適合遺伝子複合体がHLAであり、前記幹細胞移植はヒトにおいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キメリズムは、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キメリズムは、HLA−AおよびHLA−Bのキメリズムを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナー由来のサブクラスおよび少なくとも1つのレシピエント由来のサブクラスを用いてキメリズムを決定することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記幹細胞移植は、臍帯血移植により実現される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記臍帯血移植は、複数臍帯血移植である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記臍帯血移植は、3人以上のドナーからの臍帯血移植である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記キメリズムの決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRに含まれる8つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスムおよび少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致である場合、もしくはレシピエントのサブクラスが少なくとも1つ不一致の場合にキメリズム判定可能と判定することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記キメリズムの決定は、移植後早期に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記早期における決定は、生着不全の指標である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記決定は臍帯血移植を再度すべきか判断することに使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記早期は、移植後4週間以内である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記早期は、移植後3週間以内である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記早期は、移植後2週間以内である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記早期は、移植後1週間以内である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記キメリズムの決定は、移植後一定期間後に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記一定期間後における決定は、再発の指標である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記決定は追加の治療をすべきか判断することに使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記追加の治療は、放射線治療、再度の幹細胞移植、化学療法、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記一定期間は、移植後4週間より長い、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記決定は、フローサイトメトリーを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記フローサイトメトリーは、マルチカラー、系統検索パネルのマーカー、腫瘍マーカー、抗HLAマーカーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される特徴を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血を検体として用いて行われる、請求項22に記載の方法
【請求項25】
前記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血に含まれる血球系細胞の各系統別のキメリズムを決定することを包含する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記決定は、移植患者の末梢血および骨髄血に含まれる、好中球、単球、B細胞、NK細胞、CD4T細胞およびCD8T細胞の各キメリズムを決定する請求項22に記載の方法
【請求項27】
請求項1に記載の方法により得られた検査データを基に所望の分画の細胞を分取する工程、ならびに該細胞の形態、染色および遺伝子解析結果を取得し、該細胞の種類を同定する工程を包含する、移植のための血球系細胞の検査方法
【請求項28】
前記分取は、FACSソーティング技術により達成される、請求項27に記載の検査方法。
【請求項29】
請求項1に記載の方法により得られた検査データを基に所望の分画の細胞を分取する工程、ならびに該細胞の形態、染色および遺伝子解析結果を取得し、その結果から白血病細胞を検出する工程を包含する、方法。
【請求項30】
前記白血病細胞の検出は、白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーを用いることにより達成される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出およびそれによる生着不全の判定を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記決定は、移植後早期に行われ、レシピエント由来の細胞の検出を包含し、該レシピエント由来の細胞の増加は生着不全を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出およびそれによる再発の判定を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記決定は、移植後一定期間後に行われ、白血病細胞の検出を包含し、該白血病細胞の存在は、白血病の再発を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記白血病細胞は、白血病タイピングに用いられる系統検索パネルのマーカーと異常発現マーカーとの組み合わせを用いることによって、決定される、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
前記系統検索パネルのマーカーは、骨髄系細胞について、CD13、CD33およびcMPOからなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD2、CD7およびcCD3からなる群より選択され、B細胞系細胞についてCD19およびcCD79aからなる群より選択され、ならびにその他の白血病マーカーとしてはCD34およびHLA−DRからなる群より選択され、ならびに前記異常発現マーカーは、骨髄系細胞について、CD10、CD19およびCD56からなる群より選択され、T細胞系細胞についてCD33を含み、B細胞系細胞についてCD5、CD13、およびCD33からなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
主要組織適合遺伝子複合体のキメリズムを決定する手段を包含する、幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成するシステム。
【請求項40】
前記キメリズムを決定する手段は、HLA−AおよびHLA−Bに含まれる4つのHLAのサブクラスのうち、少なくとも1つのドナーのサブクラスおよび少なくとも1つのレシピエントのサブクラスが不一致であるかどうかを決定する手段を備える、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
方法。
【請求項42】
臨床データを相関付けて提供する工程をさらに包含する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記シグナルは、前記被験体からの細胞集団に順番にゲートをかけて得られることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記移植は、白血病患者に対して行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
幹細胞移植における移植後診断のための検査データを格納する記録媒体を生産する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)作成された解析画像および統計処理されたデータを記録媒体に格納する工程、
方法。
【請求項46】
前記移植は、白血病患者に対して行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、該方法は:
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;および
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
プログラム。
【請求項48】
前記移植は、白血病患者に対して行われる、請求項47に記載のプログラム。
【請求項49】
幹細胞移植における移植後診断のための検査データを生成する方法をコンピュータに実現させるプログラムを格納した記録媒体であって、該方法は:
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;および
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程を包含する、
記録媒体。
【請求項50】
前記移植は、白血病患者に対して行われる、請求項49に記載の記録媒体。
【請求項51】
幹細胞移植における移植後の治療の決定のための検査データを生成する方法であって、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;および
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;を包含する、
方法。
【請求項52】
前記移植は、白血病患者に対して行われる、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記治療は、免疫抑制剤の投与の調節および再発防止手段からなる群より選択される少なくとも1つの方法を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記治療は、免疫抑制剤の投与の調節であり、レシピエント細胞が消失しない場合、該免疫抑制剤の投与を減少または中止することを包含する、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記免疫抑制剤はシクロスポリンAである、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記治療は、再発防止手段であり、再発防止手段は、通常のがん治療手段である、請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記通常のがん治療手段は、化学療法剤および幹細胞供給源の利用からなる群より選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記がん治療手段は、化学療法剤であり、該化学療法剤は、シタラビン、ダウノルビシンおよびアドリアマイシンからなる群より選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記がん治療手段は、幹細胞移植であり、該幹細胞移植は臍帯血移植により実現される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記臍帯血移植は、複数臍帯血移植である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記治療は、複数の幹細胞供給源の利用であり、該幹細胞供給源は、複数の臍帯血である、請求項51に記載の方法。
【請求項62】
前記キメリズムの決定は、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRからなる群より選択されるHLAのキメリズムの決定である、請求項51に記載の方法。
【請求項63】
幹細胞移植における移植後の治療を決定するためのシステムであって、該システムは、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する手段;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する手段;
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う手段;および
D)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する手段
を備える、システム。
【請求項64】
幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納した記録媒体であって、該方法は、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する、記録媒体。
【請求項65】
幹細胞移植における移植後の治療の決定する方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、該方法は、
A)被験体の検体から抗原抗体反応によるシグナルを入手する工程;
B)該シグナルに基づいて該検体のキメリズムを決定する工程;
C)該キメリズムの解析画像の作成および統計処理を行う工程;および
D)該キメリズムのC)における解析に基づいて移植後の治療を決定する工程を包含する、プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−105037(P2007−105037A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251856(P2006−251856)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【Fターム(参考)】