説明

キャスター用車輪

【課題】サスペンション機構を組み込んだベアリング入りキャスターの高機能車輪における使用ベアリングを小径化することにより、著しいコストの低減をはかる。
【解決手段】環状の接地部内周側に取り付けられたサスペンション部を跨いで左右の両足片が車軸寄りに伸びる固定側ディスクと、該固定側ディスクの左右の両足片間に介在され、同じくサスペンション部を跨ぐように断面略U字状に構成してサスペンション部の外周端に固定されたところの、左右両足片が車軸寄りに延びるようにした可動側ディスクとの両足片間にベアリングを介在させるようにしたため、サスペンション部を跨ぐ固定側ディスクと可動側ディスクの車軸寄りに伸びる左右の両足片の長さ分だけベアリングを小径化することができ、その結果ベアリング単体価格として平均10分の1程度の極端に安価な小径ベアリングを用いるため、大幅なコストの低減をはかることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばストレッチャーや配膳車など病院内で使用に供される各種の移動用具、あるいは汎用の車椅子、ベビーカー、その他工場内において使用される精密部品・機器類搬送用台車などに使用されるキャスター用車輪に関し、走行に際して垂直方向のみならず進行方向からの路面ならびに段差乗り越え時の衝撃吸収性を著しく向上させて静粛性と路面衝撃吸収性を向上させるとともに、とくにベアリングの小径化による著しいコストの低減をはかり、しかも横軸キャンバー剛性を高めることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
路面からの衝撃を吸収する構造を備えたキャスターとしては、これまでに例えば車体下部に回転体を回転自在に設けるとともに、該回転体に対してアームの一端を、アームが斜め下方に向けて回転自在に結合させ、さらに該アームの下部に車輪を取り付けるとともに、前記回転体の軸受部とアームとの間に、アームの回転変位を規制する回転変位制限機構を設けることにより、路面からの衝撃を緩衝するようにした構造のキャスターが知られる(特開2000−135901号公報参照)。
【0003】
また、車体側に取り付けられるブラケットに対してリンク機構を介して車輪を取り付けるとともに、リンクとブラケットの間に、上記リンクの回動に伴って伸縮作動する油圧ダンパを介在させ、しかも該油圧ダンパに高粘度の作動油を封入してブラケットに懸かる荷重を支持させるようにし、これによって路面衝撃を吸収できるようにしたものである(特開2001−277809号公報参照)。
【0004】
さらに、車体に取り付けられる支持金具に支点軸を介して、下端に車輪5を有する搖動ブラケットを取り付けるとともに、上記車輪の支点軸が搖動ブラケットの支点軸よりも水平方向に変位した位置となるようにすることにより、車椅子にて段差を乗り越える際の衝撃を緩衝させ、しかも始動抵抗を少なくするようにした構造のものも知られている(実用新案登録第3094703号公報参照)。
【0005】
さらに対向する一対のホイール板により車輪のリム部分を挟圧することによりタイヤ内部のスポンジ材が圧迫されるようにし、このスポンジ材の圧迫の度合いによりタイヤの硬さを任意に調整して走行路面の状況に合わせてクッション性を可変可能にしたものも知られている(特開2004−97420号公報参照)。
【特許文献1】特開2000−135901号公報
【特許文献2】特開2001−277809号公報
【特許文献3】実用新案登録第3094703号公報
【特許文献4】特開2004−97420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、構造上から前後(走行)方向の振動緩和が殆どなく、またアームの長さをある程度長くする必要があり、そのために全体として部品の大型化が避けられず、しかも部品点数が多くなるためにコスト上昇が避けられない。また特許文献2に記載のものは、油圧ダンパ機構を用いるところから、構造がより複雑となり、必然的にコストの上昇が避けられない。
【0007】
さらに特許文献3に記載のものは、比較的構造が簡単で低コストではあるが、段差を乗り越えるには都合がよいものの、とくに上下方向の衝撃吸収に不向きであり、平坦路面での乗り心地向上には殆ど寄与しない。 また特許文献4に記載のものは、路面状況に合わせてタイヤのスポンジ材の硬さをいちいち調整しなければならず、実際的ではない。
【0008】
さらに上記したもののほかに、車輪の回転を円滑にする目的のもとに多くの場合、回転軸とタイヤとの間に環状のベアリングを介在させているが、ベアリングは径大となるにつれて加速度的にコスト高となり、比較的大きな径のキャスター用車輪に用いることは大幅なコストアップとなることから改善が望まれているところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明は上記の課題を解決し、この種のキャスターにおける高コストの元凶ともいわれるベアリングを低コスト化し、車輪の回転を円滑かつ静粛にするとともに、走行時における衝撃吸収性を向上させて車体走行上の乗り心地性を良好にすることを目的とするものである。
【0010】
具体的には車軸部の周りにサスペンション部およびベアリングを介して環状の接地部を有するキャスター用車輪において、ベアリングは環状の接地部内周側に取り付けられたところの、サスペンション部を跨いで左右の両足片が車軸寄りに延びる可動側ディスクと、該可動側ディスクの左右の両足片間に介在され、同じくサスペンション部を跨ぐように断面略U字状に構成してサスペンション部の外周端に固定されたところの、左右両足片が車軸寄りに延びるようにした可動側ディスクとの両足片間に介在させるようにしたことを特徴とするキャスター用車輪に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記した通り、環状の接地部内周側に取り付けられたところの、サスペンション部を跨いで左右の両足片が車軸寄りに伸びる固定側ディスクと、該固定側ディスクの左右の両足片間に介在され、同じくサスペンション部を跨ぐように断面略U字状に構成してサスペンション部の外周端に固定されたところの、左右両足片が車軸寄りに延びるようにした可動側ディスクとの両足片間にベアリングを介在させるようにしたために、サスペンション部を跨ぐ固定側ディスクと可動側ディスクの車軸寄りに伸びる左右の両足片の長さ分だけベアリングを小径化することができ、その結果ベアリング単体価格として平均10分の1程度の極端に安価な小径ベアリングを用いることによって大幅なコストの低減をはかることができ、しかも横軸のキャンバー剛性を向上させることができる。
【0012】
またサスペンション部が、車軸の長さ方向と平行な一定幅を有する弾性体支承部を有し、しかも該弾性体支承部の内側に、一定深さの弾性体受容室を有するとともに、車軸側外周面あるいは接地部側内周面の何れか一方に上記弾性体支承部を取り付け、さらに他方側には先端を上記弾性体支承部内に向けて進退自在とした支柱の基部を取り付け、さらに該支柱の先端には前記弾性体支承部内に嵌装可能であって、車軸の長さ方向に向けた一定幅を有するとともに、車軸部にかかる荷重を十分に支えることが可能な厚みを有する弾性体を取り付けたものであるために、部品点数が少なく比較的単純構造であり、とくに小型のキャスターであっても前後走行方向の大きな振れ(ストローク長さ)を十分に吸収することができ、これによってとくに旋回時における始動抵抗の低減、ならびに病院内等での良床面走行時の異音(スキール音)発生を抑えることができ、また前後(走行)方向をはじめとした全方向にわたる過大な衝撃吸収を実現することができる。
【0013】
さらに上記サスペンション部が、車軸の長さ方向に向けた一定幅を有するとともに、車軸部にかかる荷重を十分に支えることが可能な厚みを有する弾性体を用いているために、とくに、例えば段差の乗り越え時における10Hz以下の低周波側衝撃の緩和が可能となるのみならず、路面の表面性状に起因した30〜60Hz以上の高周波側衝撃の緩和も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において本発明の具体的な内容を図1〜6の実施例をもとに説明する。 なお各図において同一又は相当部分には同一符号を付して説明する。 先ず図1および図2には本発明にかかるキャスター用車輪の第1実施例があらわされている。 すなわち図1および図2において1はキャスターの車輪をあらわしており、車輪1は車軸部2と該車軸部2の周りにサスペンション部SおよびベアリングBを介して組み込まれた環状の接地部10を有する。
【0015】
さらに具体的には、車軸部2は管状をなし、中心孔2a内に軸棒を通して該軸棒の両端部をそれぞれキャスターの左右の支承アーム(図示省略)に支承させるようになっている。 つぎに該車軸部2の外周側に取り付けられるサスペンション部Sについて説明をすると、車軸部2の中央部外周面側には放射外方向に向けた支柱3を介して弾性体支承部4が溶接等により一体に取り付けられている。
【0016】
この弾性体支承部4は放射外方に向けて拡開させたところの、車軸部2の長さ方向に平行な一定幅を有する弾性体嵌合部4bを有し、しかも該弾性体嵌合部4bの内奥方に、一定深さの弾性体受容室4aを有する。 なお該弾性体受容室4aの底部(内奥部)には外表面に向けて突起が形成(図示省略)されているゴム製の緩衝ストッパー5が取り付けられている。 なお緩衝ストッパー5は発泡材からなるものであってもよい。
【0017】
さらに上記した弾性体嵌合部4bには弾性体6が嵌合される。 この弾性体6は支柱7の先端部に一体に取り付けられている。 すなわち、環状の接地部10の内周側に取り付けられたところの、サスペンション部Sを跨いで左右の両足片が車軸2寄りに伸びる固定側ディスク8の中央部内周側に取り付けられたところの、先端を前記した弾性体受容室4a内に向けて進退自在とした支柱7が一体に取り付けられており、該支柱7の先端には前記弾性体支承部嵌合部4b内に嵌装可能であって、車軸部2の長さ方向に向けた一定幅を有するとともに、該車軸部2にかかる荷重を十分に支えることが可能な厚みを有する弾性体6を一体に取り付けてなる。
【0018】
ここで用いられる弾性体6については、ゴムあるいはウレタンなどの弾性の材質のものが用いられ、支柱7の先端および弾性体嵌合部4bに対して加硫接着又は接着剤を用いて接着されている。 なお、この第1実施例においては弾性体6を用いたサスペンション部Sが図1にあらわされているように車軸部2とベアリング部Bの固定側ディスク8との間において上下一対および左右一対の周方向間歇箇所(4箇所)に設けられているが、必ずしもこれに限られるものではなく、周方向少なくとも3箇所以上であればよい。
【0019】
一方環状の接地部10は、ゴムあるいはウレタンその他の弾性材質からなり、内周側を左右両端に放射方向に起立させたフランジ11a・11aを有した環状のリム11により保持されている。
【0020】
さらにベアリング部Bについて説明すると、ここで使用されるベアリングB1は環状のボールベアリングであるが、環径が大きいベアリングほど加速度的に市場価格が高価となる。 したがってここでは如何に安価な小径のベアリングを用いることができるかが開発の焦点となる。 そこで本発明においては以下のように工夫した。
【0021】
具体的には、一端を環状の接地部10を支承する環状のリム11両端部にそれぞれ一体に固定させるとともに、環状の接地部10の内周側であって、サスペンション部Sを跨いで左右の両足片が車軸2寄りに平行に伸びる可動側ディスク12の自由端と、該可動側ディスク12の内側であって、同じくサスペンション部Sを跨ぐように断面略U字状に構成してサスペンション部Sの外周端である支柱7の端部に固定されたところの、左右両足片が車軸2寄りに平行に伸びるようにした固定側ディスク8との両足片先端部間に環状のベアリングB1が介在される。
【0022】
なお本実施例においては固定側ディスク8の先端部は、それぞれ車軸2に沿わせて可動側ディスク12側へ直角に折り曲げてベアリングB1を受けるためのベアリング受け9・9が形成されている。
【0023】
上記した第1実施例の構成において、図1および図2(A)の状態にある車輪1をキャスターに組み付けて使用に供した場合、走行に伴って固定側ディスク8先端に対して可動側ディスク12がベアリングB1によりスムースに回転することができ、また路面の例えば段部を通過する際に接地部10が衝撃を受けると、これに伴って地面側に位置しているベアリング部Bおよび固定側ディスク8から支柱7の先端が弾性体支承部4bの弾性体受容室4a内に進入し、その結果図2の(B)にあらわしたように支柱7の先端に取り付けられた弾性体6の中央部が該弾性体6の弾性力に抗して弾性体受容室4a内に向けて湾曲状態で撓み込み、これによって路面の衝撃を吸収することができる。
【0024】
なおこの場合において、荷重が大きい場合や衝撃力が過大であり、弾性体6の弾性吸収能力の限界を超える場合には支柱7の先端が緩衝ストッパー5に突き当たってそれ以上の弾性体11の変形を抑制することができる。 なおこの場合において、路面からの衝撃により変形した弾性体11の、路面から最も離れた側(上側)は、これに対応して逆に弾性体受容室4aから外方に向けて突出する側に撓み変形する〔図2(C)参照〕。
【0025】
また図3および図4には本発明の第2実施例があらわされており、この場合においてはサスペンション部Sが前記した第1実施例の場合とは逆向きの方向に取り付けられている。 すなわち先端に弾性体6を一体に取り付けた支柱7は、その基部を固定側ディスク8の内周面中央部ではなく車軸部2の外周面に溶接等により直接に取り付けられ、またかかる弾性体6を受け入れる弾性体支承部4は、その支柱3を固定側ディスク8の内周面中央部に溶接等により固定されている。
【0026】
なお、この第2実施例の構成においては、上記したようにサスペンション部Sが前記した第1実施例の場合とは逆向きの方向に取り付けられているほかはすべて既述した第1実施例の場合と同様であり、機能および作用についても同様である。
【0027】
さらに図5には本発明の第3実施例があらわされている。 既述した第1実施例においてはサスペンション部Sが図1にあらわされているように車軸部2とベアリング部Bとの間において上下方向一対と左右方向一対の周方向間歇箇所(4箇所)に設けられているが、この第2実施例の場合にはサスペンション部Sが周方向無端状に設けられている。 これによってさらに十分なサスペンション効果を得ることができる。
【0028】
また図6には本発明の第4実施例があらわされている。 この場合においては基本的に第3実施例とは同様の構成であるが、サスペンション部Sが前記した第3実施例の場合とは逆向きの方向に取り付けられている。 すなわち先端に弾性体6を一体に取り付けた支柱7は、その基部を固定側ディスク8の内周面中央部ではなく車軸部2の外周面に溶接等により直接に取り付けられ、またかかる弾性体6を受け入れる弾性体支承部4は、その支柱3を固定側ディスク8の内周面中央部に溶接等により固定されている。
【0029】
さらに、ゴム製の緩衝ストッパー5については、支柱7の先端部に装着するようにしてもよく、また支柱7の先端部と、弾性体受容室4aの底部との両方に対応させて装着するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明における第1実施例であるキャスター用車輪部分の半裁拡大側面図。
【図2】図1におけるAーA線矢視方向の拡大縦断面図およびその変形状態説明図。
【図3】本発明における第2実施例であるキャスター用車輪部分の半裁拡大側面図。
【図4】図3におけるBーB線矢視方向の拡大縦断面図およびその変形状態説明図。
【図5】本発明における第3実施例であるキャスター用車輪部分の半裁拡大側面図(A)および同図におけるCーC線矢視方向の拡大縦断面図(B)。
【図6】本発明における第4実施例であるキャスター用車輪部分の半裁拡大側面図(A)および同図におけるDーD線矢視方向の拡大縦断面図(B)。
【符号の説明】
【0031】
1 車輪
2 車軸部
2a 中心孔
3 支柱
4 弾性体支承部
4a 弾性体受容室
4b 弾性体嵌合部
5 緩衝ストッパー
6 弾性体
7 支柱
8 固定側ディスク
9 ベアリング受け
10 環状の接地部
11 リム
11a フランジ
12 可動側ディスク
S サスペンション部
B ベアリング部
B1 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸部の周りにサスペンション部およびベアリングを介して環状の接地部を有するキャスター用車輪において、ベアリングは環状の接地部内周側に取り付けられたところの、サスペンション部を跨いで左右の両足片が車軸寄りに伸びる可動側ディスクと、該可動側ディスクの左右の両足片間に介在され、同じくサスペンション部を跨ぐように断面略U字状に構成してサスペンション部の外周端に固定されたところの、左右両足片が車軸寄りに伸びるようにした固定側ディスクとの両足片間に介在させるようにしたことを特徴とするキャスター用車輪。
【請求項2】
サスペンション部を跨ぐべくサスペンション部の外周端に固定された固定側ディスクの左右両足片先端部は、共に車軸方向に平行となるように外方水平方向に折り曲げてなり、ベアリングが該固定側ディスクの水平折り曲げ部と可動側ディスク先端との間に介在されているものであるところの請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項3】
サスペンション部は、車軸の長さ方向と平行な一定幅を有する弾性体嵌合部と、該弾性体嵌合部の内奥方に、一定深さの弾性体受容室とを有する弾性体支承部とからなり、車軸部側外周面あるいは固定側ディスク内周面の何れか一方に上記弾性体支承部を取り付け、さらに他方側には先端を上記弾性体受容室内に向けて進退自在とした支柱の基部を取り付け、さらに該支柱の先端には前記弾性体嵌合部内に嵌装可能であって、車軸の長さ方向に向けた一定幅を有するとともに、車軸部にかかる荷重を十分に支えることが可能な厚みを有する弾性体を取り付けてなるものである請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項4】
サスペンション部が周方向無端状に連続しているところの請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項5】
サスペンション部が周方向間歇箇所に複数設けられているところの請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項6】
弾性体支承部における一定深さの弾性体受容室内奥部には緩衝ストッパーが設けられているところの請求項1に記載のキャスター用車輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−290106(P2006−290106A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112130(P2005−112130)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【出願人】(591159055)トヨタテクノクラフト株式会社 (19)