説明

キャスト塗被紙の製造方法及びその製造装置

キャスト塗被紙製造後のカールの大きさ及び吸湿等が原因で発生するカールや波打ち状の変形が抑制され、キャスト塗被面の表面性に優れたキャスト塗被紙の製造方法を提供することである。原紙の片面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を塗被し、湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥してなるキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラムの圧着、乾燥後に、高温、高湿度の空気中を(20秒以上)通過させることにより水分を付与するキャスト塗被紙の製造方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、キャストコート紙の製造方法及びその製造装置に関するものであり、特に広範囲の環境下でのカール及び、印刷・記録する際に発生するカールを効果的に防止できるインクジェット記録用キャストコート紙の製造方法に関するものである。
【背景技術】
キャストコート紙は、キャストドラムの鏡面の面状が転写されるため、一般のコート紙より高い白紙光沢と、表面性に優れるなどの特徴がある。従来、雑誌の表紙、ポスターなどの一般印刷用途、高級ショッピングバック、化粧包装箱等に使用される袋用途、粘着ラベルの上紙として使用される粘着ラベル用途、インクジェットプリンター用紙に使用されるインクジェット記録用途などに広く用いられている。特に最近ではインクジェット記録用途において、インク吸収性、画像再現性等のインクジェット記録方式への適性を改良することにより、銀塩写真方式に近い非常に品質の高いフルカラー印刷が可能となってきている。
一般にキャストコート紙の製造方法は、原紙表面に塗被液を塗被した後、塗被層を湿潤状態のまま直ちにフォーミングロールによってキャストドラムに圧着させる直接法と、塗被液を塗被した後、塗被層を凝固浴に通し変形可能な可塑性を持ったゲル状態に凝固させた後、キャストドラムに圧着させる凝固法と、塗被液を塗被した後一旦乾燥させて乾燥塗被面を得た後、その後塗被面を水または適当な再湿潤液で再湿可塑化させ、キャストドラムに圧着させる再湿潤法などに大別される。
これらの方法は、いずれも顔料及び接着剤を有する塗被液を原紙に塗被し、水で可塑状態にある塗被層を、鏡面を有し加熱したキャストドラム表面にフォーミングロール(プレスロール)で圧着し、乾燥、離型させて強光沢仕上げする点で共通している。一般にキャストコート紙は、表裏の塗工量差が大きく、例えば環境湿度を変化させた場合等に、一般の塗工紙と比べてカールが発生しやすい傾向にある。特に塗被層としてインクジェット印刷適性を付与させたキャストコート紙については、水との親和性が良いことが主な理由であると考えられるが、環境湿度を変化させた際に大きなカールを発生させる傾向が強い。
また、平板へ断裁後に、キャスト塗被面、もしくはその反対面にオフセット印刷を行う場合など、断裁後に長時間静置するような場合、用紙の形状がフラットに近いことが求められるが、用紙の水分が低い場合、断裁積層後に周辺の雰囲気により吸湿し、カールが発生したり、波打ち状に変形してトラブルになることが多い。
インクジェット記録方式は、種々の機構によりインクの小滴を吐出し、記録紙上に付着させることによりドットを形成し記録を行うものであり、フルカラー化が容易である上、高速印字が可能であるなどの利点がある。その一方、水性のインクである場合、基紙の繊維を膨潤させ、その後、乾燥させることにより収縮させてしまうため、紙の性質によっては印字後に大きなカールを発生させてしまうという欠点がある。このカールを抑制するために、非キャスト塗被面に水蒸気を作用させ、紙1m当たりの1.0gの水分を付与させた(特開平9−11607号公報(第3〜9頁)参照)が、製品が被キャスト塗被面方向へ大きく曲がってしまった。さらに、波打ちや環境変化を与えた際のカールを抑制するには不十分であった。
【発明の開示】
以上の状況に鑑み、本発明の課題は、キャスト塗被紙製造後のカールの大きさが抑制され、キャスト塗被面の表面性に優れたキャスト塗被紙であって、さらに吸湿や脱湿によるカールや波打ち状の変形を生じさせず、特に、インクジェット印字を行った際に発生するカールの大きさを極力抑制したキャスト塗被紙を製造する方法を提供することである。
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、原紙の片面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を塗被し、湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥してなるキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラムへの圧着、乾燥後巻き取り前に、20〜80℃、50〜95%RHの高温度、高湿度に制御されたチャンバーの中に保持させることにより、塗被紙に水分を付与した結果、製造直後のカールを抑制でき、キャスト塗被面の表面性に優れたキャスト塗被紙を得ることができた。
また、本発明者等は、上記方法を具体的に実施する手段として、(1)原紙の片面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を塗被するコーターヘッド、(2)湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥するためのキャストドラム及び(3)キャスト塗被紙のウェブの入り口及び出口を有している恒温恒湿チャンバー、をその順に有しており、前記チャンバーは、前記チャンバー内に恒温恒湿空気を送入する送風機と接続しており、かつ恒温恒湿空気排出口を有しており、これにより、前記チャンバー内は、20℃〜80℃、50〜95%RHの雰囲気に調温・調湿され、前記ウェブを前記チャンバー内に20秒以上保持する、キャスト塗被紙の製造装置により、製造直後のカールを抑制でき、キャスト塗被面の表面性に優れたキャスト塗被紙を得ることができること見いだした。キャストドラムへの圧着、乾燥直後では、キャスト塗被紙のウェブの温度は非常に高い。恒温恒湿のチャンバーにウェブを送り込む際、ウェブの温度が高いままよりも、チャンバー直前で紙面温度を下げた場合の方が、ウェブへの水分付着量が多く、チャンバーでの水分付与効率が高いため、チャンバー直前にウェブの温度を低下させる装置を設置することが望ましい。
ウェブの温度を低下させる方法としては、冷却装置や冷却水等を内部に有する金属ロール表面に接触させる方法や、低温の空気を吹付ける方法などがある。
また、チャンバー直後では、ウェブの温度はチャンバー内の温度とほぼ同じになっているが、このままでは、付着した水分が離脱しやすく、また、温度が高いまま巻き取ってしまうと、巻グセがつきやすいなどの問題が起こるため、チャンバー直後にもウェブの温度を低下させる前記装置を設置することが望ましい。前記コーターヘッドの後、前記キャストドラムの前に凝固液塗布装置を設置することができ、前記キャストドラムの後、恒温恒湿チャンバーの前に、塗被面の反対面に水を塗布する水塗り装置を設置することができ、前記チャンバー内の前記ウェブ表面に空気を吹付ける空気吹きつけノズルを設置することもできる。なお、前記ウェブを前記チャンバー内に20秒以上保持させるため、前記ウェブは、前記チャンバー内で、ループ状を繰り返して走行させることができる。この際、特にチャンバー内の温湿度を高く設定すると、紙が急激に吸湿した結果、走行方向と垂直な方向に急激に伸びてしまう。前記ウェブをチャンバー内に20秒以上保持するために、ループ状に紙を走行させる際に、通常のペーパーロールを使用して紙の走行方向を変えると、紙の伸びを吸収できずにロール上でシワが発生してしまう場合が多い。このため、特にチャンバーで前記ウェブが走行する初期の段階で紙を横方向に延ばす効果のあるエキスパンダーロールを使用することが望ましい。
また、通常、キャストドラムへの圧着、乾燥後のキャスト塗被紙の水分は1.5〜4%程度と低く、製造後に断裁し、吸湿によりカールや波打ち状のシワの発生などといった形状変化によるトラブルが発生しやすいが、製品の水分を好ましくは5%以上と高くしておくことにより、これらのトラブルについても回避できる。
さらに、高温度、高湿度のチャンバーを通す際に、キャスト塗被面とその反対面に、そのチャンバーとほぼ同じ温度及び湿度の空気を吹付けると、キャスト塗被面の表面性を損なうことなく、水分付与効率を高くすることができ、またその空気の風量をキャスト塗被面とその反対面でそれぞれ調整することにより、カールの大きさ、形状も細かく制御することが可能であることが分かった。
また、環境湿度を変化させた場合やオフセット印刷及びインクジェット印字後に発生するカールを、より小さくするためには、キャストドラムの圧着、乾燥直後に、更にキャスト塗被面の反対面に水もしくは水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布し、乾燥を行った後に高温・高湿度に制御された部屋で水分を付与する、もしくは、高温・高湿度に制御した部屋で水分を付与した後、キャスト塗被面の反対面への水付与・乾燥を行うことが、望ましいことが分かった。
本発明によってキャスト塗被紙の水分が付与されることにより、カールが改善される理由については、キャスト塗被紙の水分が上昇した結果、上記のように外気に接触した際の吸湿する量が少なくなるために、カールや波打ち状の形状変化が抑えられることに加え、水分上昇に伴ってキャスト塗被紙の曲げ剛度が低下するために、平板に断裁後、平置き時のカールが小さくなる効果も挙げられる。
また、反対面への水性分散液の塗布、乾燥によって、環境湿度の変化に伴って発生するカールが改善される理由については、キャストドラムの圧着、乾燥後に形成したキャスト面の反対面に、水もしくは水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布し、再度乾燥を行うことで、キャスト面の反対面が伸ばされ、その後適度に縮み、またキャスト面側に近い繊維についても、キャストドラムにおける乾燥時に蓄積した収縮応力が開放されるため、カールを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の製造装置の概略図である。
図2は、本発明の製造装置の概略図である。
図3は、本発明の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のキャスト塗被紙原紙としては、例えば、パルプ繊維を離解してスラリーとし、必要に応じて填料やサイズ剤、他の添加剤を添加し、抄紙機で抄造し乾燥するか、または抄造後、澱粉や高分子物質の水溶液などをサイズプレスし、乾燥してマシンカレンダーをかけて得ることができる。使用するパルプとしてはL(広葉樹)材およびN(針葉樹)材の化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプなど、通常の抄紙において使用されるパルプの中から適宜選択して使用することが出来、内添填料としては、例えばタルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等、通常使用される填料の中から適宜選択して使用することができる。本発明で使用するキャスト用原紙としては、一般の印刷用塗被紙やキャストコート紙に用いられる坪量50〜400g/mの原紙であり、目的により、上質紙、中質紙、再生紙等を選択して使用する。また、本発明におけるキャスト塗被紙の原紙は、上記原紙に顔料と接着剤を含有する塗料による下塗りを塗被紙として使用しても良い。下塗りの際の塗工方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、スプレーコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
本発明のキャスト塗被紙のキャスト加工する際の塗被層に使用する顔料としては、例えば無定形シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、サチンホワイト、二酸化チタン、珪酸アルミニウム、コロイダルシリカ、モンモリロナイト、プラスチックピグメント等の顔料を単独でもしくは2種類以上併用して使用することができる。
本発明の塗被層に使用する接着剤としては、例えばカゼイン、大豆蛋白や合成蛋白、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロール、ヒドロキシセルロース、スチレン/ブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、ポリウレタン等の中から選択される、単独もしくは2種類以上の接着剤を使用することができる。更に、本発明の塗被液には、一般の塗料に使用される分散剤、流動性変性剤、消泡剤、染料、滑剤、保水剤、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの、各種の助剤を添加する事もできる。
キャスト用原紙に塗被液を塗工する方法は、前記下塗層の塗工方法と同様に、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択することができる。塗被層の塗工量は、原紙の表面を覆い、かつ充分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、片面あたりの固形分換算量で5〜30g/mであることが望ましく、特に10〜25g/mであることが望ましい。
かくして原紙上に形成された塗被層は、湿潤状態で加熱された鏡面を有するキャストドラムに圧着・乾燥されて製造される。湿潤状態の塗被層を鏡面ドラムに圧着・乾燥する方法としては、塗被後の未乾燥状態のままキャストドラムに圧着する直接法、塗被後に凝固液で塗被層をゲル状態にして圧着する凝固法、あるいは塗被後一旦乾燥した塗被層に再湿潤液により可塑化して圧着する再湿潤法を用いることができる。
本発明においては、特に湿潤状態の塗被層を有機酸、オキソ酸、あるいはそれらの酸の金属塩を含有する凝固液でゲル化させて鏡面ドラムに圧着・乾燥する凝固法が、直接法、再湿潤法に比べてキャスト塗被層の表面性に優れる。
従来技術である水蒸気を使用して水分を付与する場合、水分は付与できるものの、キャスト塗被面から水蒸気付与する場合には、キャスト塗被面の表面性を損ねてしまうため、キャスト塗被面の反対面からしか水蒸気を付与することができない。また、水蒸気を多量に使用した場合、周辺設備への結露の発生が問題となるため、水分を多く付与する方法としては好ましくない。これに対し、高温高湿度に調節された空気中を通過させる場合、キャスト塗被面の表面性を損なうことなく紙の両面から水分を付与することができ、さらに結露の発生も抑制できるため、水蒸気を使用する場合よりも水分を多く付与できる。また、両面からの水分付与が可能であるため、水分付与によるカールの発生も抑制できる。
水分を付与するための装置としては、キャスト塗被面形成後の用紙が通過する周囲を高温、高湿度にすることが望ましく、用紙が通過する際に結露などを起こさないために、温度及び湿度を一定に保つことが望ましい。さらに、多くの水分を付与するためには、パスライン長を比較的長く設計し、通過するのに要する時間を30秒以上とすることが望ましい。構成例としては、図2に示されるものが考えられる。
温度、湿度をそれぞれ高めることで、水分が付与される速度が上昇するため、水分付与効率は高くなる。しかし、現実的には温湿度の非常に高い環境とした場合には、作業環境の悪化や周辺設備における結露の発生などが問題となりやすくなるため、40〜60℃、60〜90%RHに調節することが好ましい。また、キャスト塗被面の性質、及び要求される品質レベルにもよるが、製品水分を8%以上とすると、キャスト塗被面の表面性を若干損ねてしまうため、最終的な製品水分としては、5.5から8%程度とするのが望ましい。
キャスト塗被紙は、多くの場合、片面塗工紙であるため、環境湿度を変化させた場合、及びオフセット印刷やインクジェット印字後にカールが発生しやすい傾向にある。この傾向を解消するためには、湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥してなるキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラムの圧着、乾燥後に、更にキャスト塗被面の反対面に水もしくは澱粉などの水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布し、乾燥を行うことにより、好ましくは乾燥時のCD方向への拘束力が大きいシリンダードライヤーで乾燥を行い、さらに好ましくは、シリンダー表面にキャスト塗被面を圧接して行うことが有効であることを見出した。
キャストドラムに圧着、乾燥してキャスト塗被面を形成した後に、更にキャスト塗被面の反対面に水もしくは澱粉などの水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布する方法としては、均一に塗布されるものであれば、特に限定されるものではなく、どのような装置を用いても良い。一般的には、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、スプレーコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の公知の塗工機を用いた塗工方法の中から適宜選択して使用される。また、一般にキャスト塗工時の塗工速度は一般塗被紙の塗工時と比べて遅く、均一な塗布プロファイルを得ることが難しい。このため適切な塗布量を得るために、公知の塗工方法による塗布装置を、塗工方向に複数個配置しても良い。反対面への水の塗布を行う際の水分量は、目的、品質特性により、0.1〜20g/mの中から、望ましくは1〜10g/mの範囲から任意に選択される。
また、CD方向への拘束を伴う乾燥を行う方法としては、回転する熱のかかったシリンダーに圧接した状態で乾燥させるシリンダードライヤー、シリンダーなどに紙を圧接した状態で熱風を吹付けるタイプのドライヤー、2枚のベルトやカンバスの間に紙を挟んだまま熱をかけて乾燥させるタイプのドライヤーなどが挙げられる。一般にキャストドラムによる乾燥方法は、シリンダードライヤーの乾燥機構と同様なものであり、乾燥時のCD方向への拘束力が強いため、反対面への塗布処理後の乾燥方法についてもシリンダードライヤーなどのCD方向の拘束を与えた状態で乾燥を行うことにより、表裏それぞれの乾燥におけるバランスが取れ、カール発生をより抑制することができる。乾燥後のキャスト塗被紙の水分は、キャスト面の表面性及びカール抑制の点から、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは3〜8重量%である。
本発明のキャスト塗被紙は、雑誌の表紙、ポスターなどの一般印刷用途、高級ショッピングバック、化粧包装箱等に使用される袋用途、粘着ラベルの上紙として使用される粘着ラベル用途、インクジェットプリンター用紙に使用されるインクジェット記録用途などに使用できるが、カールを起こしやすいインクジェット記録用途として特に有効である。
【実施例】
以下に、本発明の実施例、比較例をあげて本発明をより具体的に説明するが、勿論これらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り重量部、及び重量%を示す。尚、各評価項目の評価方法は、下記の通りである。
〈評価方法〉
(1)波打ち、カールの評価
各比較例、実施例に従って製造されたキャスト塗被紙を、各々A4サイズ(297×210mm)の大きさに断裁し、直ちに200枚重ねて23℃、50%RHの環境下に4時間以上静置する。断裁面に発生する波打ち状の変形の様子を目視にて評価した。
○:波打ちは発生しておらず、良好な断裁面を有する。
△:若干波打ちが見られるが、比較的断裁面は良好である。
×:波打ちがひどい。
カールについては、100mm×100mmに断裁後、キャスト塗被面を上にして4時間以上静置した後に評価した。カールの計測は、カール内側の面が上になるように各試料を平らな板の上に載せ、各試料の4隅の高さを測ることによって行った。表に示す値は、4隅の高さの平均値である。また、キャスト塗被面を内側にしてカールした場合に正の値、反対面を内側にしてカールした場合に、負の値とした。このため、カールは表中の数値の絶対値が小さいほど良好である。
(2)キャスト塗被面の表面性
キャスト塗被面の表面性を目視で評価した。
○:鏡面模様が良好に再現され、平滑な面状を有する。
△:鏡面模様が十分に再現されず、若干の光沢ムラを生じる。
×:鏡面模様の再現が不十分であり、光沢ムラを生じる。
(3)白紙光沢度
JISP8142に準じて75℃光沢度で測定した。
【実施例1】
坪量180g/mの上質紙を原紙とし、これにロールコーターを用いて、顔料としてシリカを121部、バインダーとしてウレタンを35部、カゼインを10部、及び離型剤4.7部配合した塗工液を塗工量が20g/mとなるように原紙の片面に塗工した後、蟻酸アンモニウムを主に配合して調製した凝固液で凝固処理し、塗工層が湿潤状態にあるうちに、105℃に加熱した鏡面(キャストドラム)に圧着し、乾燥してキャスト塗被層を得た。その後、45℃、75%の雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙することにより、水分を7%としたキャスト塗被紙を得た(図1)。
【実施例2】
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙する際に、キャスト塗被面及びその反対面にそれぞれ7m/secの風速で45℃、75%RHに調整された空気を片面あたり18個のノズルで吹付けることにより、水分を7.3%としたキャスト塗被紙を得た(図1)。
【実施例3】
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、45℃、75%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙する際に、キャスト塗被面に5m/sec、その反対面に10m/secの風速で45℃、75%RHに調整された空気を片面あたり18個のノズルで吹付けることにより、水分を7.3%としたキャスト塗被紙を得た(図1)。
【実施例4】
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、キャスト塗被面の反対面に、ロールコーターを用いて水を6.1g/m塗布し、シリンダードライヤーを用いて乾燥した後、45℃、75%の雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒間通紙することにより、水分を7%としたキャスト塗被紙を得た。シリンダードライヤーで乾燥する際は、キャスト塗被面がシリンダードライヤーに接触するようにして乾燥を行った(図3)。
【実施例5】
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、50℃、85%RHの雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに60秒通紙する際に、キャスト塗被面及びその反対面にそれぞれ7m/secの風速で、50℃、85%RHに調整された空気を片面あたり18個のノズルで吹付けることにより、水分を8.1%としたキャスト塗被紙を得た。この際、エキスパンダーロールを使用した加湿装置を用いた(図2)。
[比較例1]
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、水分付与を行うことなく水分3%のキャスト塗被紙を得た。
[比較例2]
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、45℃、85%の雰囲気に調温・調湿されたチャンバーに15秒間通紙することにより、水分が4.2%であるキャスト塗被紙を得た。
[比較例3]
実施例1と同様にキャスト塗被面を得た後、キャスト塗被面の反対面に蒸気加湿を用いた加湿処理を行い、紙中水分が4.7%であるキャスト塗被紙を得た。

実施例1〜3、比較例1〜3について、断裁面の波打ちの評価、キャスト面の表面性、白紙光沢度及びIJ印字を行った際のカールについて、評価した結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、本発明の方法で得られたキャスト塗被紙は、比較例と比べると吸湿による波打ちが少なく、キャスト面の表面性に優れ、インクジェット記録適性も良好である。
【発明の効果】
本発明により、断裁後の吸湿による波打ちやカール発生が抑制され、キャスト塗被面の表面性に優れたキャスト塗被紙を得ることができる。この効果は、特に水との親和性が高いインクジェット印刷用キャスト塗工紙において顕著にあらわれる。
【符号の説明】
1 キャストドラム
2 コーターヘッド(塗工部)
3 凝固液塗布装置
4 裏面水塗り装置
5 シリンダードライヤー
6 空気吹付けノズル
7 恒温恒湿チャンバー
8 送風機
9 エキスパンダーロール
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の片面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を塗被し、湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥してなるキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラムの圧着、乾燥後、20℃〜80℃、50〜95%RHに調節された空気中に20秒以上保持させることにより水分を付与した後に巻き取る、キャスト塗被紙の製造方法。
【請求項2】
前記の調節された空気を、キャスト塗被面とその反対面のそれぞれに吹付けることにより、キャスト塗被紙へ水分付与を行うことを特徴とする請求項1に記載のキャスト塗被紙の製造方法。
【請求項3】
前記の調節された空気を吹付けて紙を加湿する際、エキスパンダーロールを使用してシワの発生を抑制することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のキャスト塗比紙の製造方法。
【請求項4】
キャストドラムの圧着、乾燥直後かつ前記の空気中に保持する前に、更にキャスト塗被面の反対面に水もしくは水溶液もしくは顔料などの水性分散液を塗布し、乾燥を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキャスト塗被紙の製造方法。
【請求項5】
キャスト塗被紙がインクジェット記録用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のキャスト塗被紙の製造方法。
【請求項6】
(1)原紙の片面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を塗被するコーターヘッド、(2)湿潤状態にある塗被層をキャストドラム鏡面に圧着、乾燥するためのキャストドラム及び(3)キャスト塗被紙のウェブの入り口及び出口を有している恒温恒湿チャンバー、をその順に有しており、前記チャンバーは、前記チャンバー内に恒温恒湿空気を送入する送風機と接続しており、かつ恒温恒湿空気排出口を有しており、これにより、前記チャンバー内は、20℃〜80℃、50〜95%RHの雰囲気に調温・調湿され、前記ウェブを前記チャンバー内に20秒以上保持する、キャスト塗被紙の製造装置。
【請求項7】
前記恒温恒湿チャンバー内に、シワの発生を抑制するためにエキスパンダーロールを設置していることを特徴とする請求項6のいずれかに記載のキャスト塗被紙の製造装置。
【請求項8】
前記キャストドラムの後、恒温恒湿チャンバーの前に、塗被面の反対面に水若しくは水溶液、又は顔料などの水性分散液を塗布する水塗り装置を有する、請求項6又は7いずれか記載のキャスト塗被紙の製造装置。

【国際公開番号】WO2004/088038
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504283(P2005−504283)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004689
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】