説明

キャスト塗被紙の製造方法

【課題】 ラインの高速化に対応しつつキャスト塗被面の光沢の悪化を防止することができるとともに、設備コストの高騰を伴うことなくキャスト塗被紙の幅方向全域に渡って適切にカールを防止することができるキャスト塗被紙の製造方法を提供する。
【解決手段】 顔料と接着剤を主成分とする塗被層が裏面に形成されたシート状の支持体1の表面にキャスト用塗被組成物を塗被したあと、その支持体1の表面をキャストドラム5に圧接して乾燥させることにより、支持体1の表面にキャスト塗被層を仕上げ形成するようにしたキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラム5に巻き付いている支持体1の裏面側に加湿ロール9を圧接させて裏面塗被層に液体を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にキャスト塗被層を有し、かつ、裏面に顔料と接着剤を主成分とする塗被層を有するキャスト塗被紙の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面側のみをキャストドラムの鏡面で平滑化してなるキャスト塗被紙は、そのキャスト塗被層が高い光沢を有する特長があることから、雑誌の表紙や化粧包装箱用などに広く用いられている。特に、雑誌の表紙用では、本文に塗被紙が広く用いられていることから、それに合わせて裏面側の非キャスト面に塗被層を有する片面キャスト塗被紙が主に使用されている。
【0003】
上記のような片面のみをキャストドラムに圧着して乾燥させるキャスト塗被紙においては、カールが発生し易く印刷工程に支障を及ぼす恐れがあるという問題がある。かかる問題を解消する方法として、キャスト塗被面に蒸気等を作用させる方法(特許文献1参照)や、キャストドラムでの圧着及び乾燥後に、更にロール転写方式で非キャスト面(裏面塗被層)に液体を塗布し、通紙方向の拘束を伴う乾燥(シリンダドライヤによる乾燥)を行う方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−94692号公報
【特許文献1】特開2003−293289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したキャスト塗被紙のカール防止方法のうち、キャスト塗被面に蒸気等を作用させる方法(特許文献1)では、ラインを高速化した場合には蒸気を十分に塗布できず効果が不十分になることがあり、しかも、キャスト塗被面の光沢が悪化しやすいという問題がある。
一方、キャストドラムでの圧着及び乾燥後にロール転写方式で非キャスト面に液体を塗布する方法(特許文献2)では、上記の不都合は解消される反面、転写ロールの下流側にシリンダドライヤ等の特別の乾燥装置を設ける必要があるので、設備コストが高くなるという欠点がある。
【0006】
また、当該方法では、通紙ラインの途中で転写ロールによって塗被紙を圧接させているため、液体をシート幅方向に均一に塗布し難く、このため、シート幅方向の一部の部分についてカールの防止を適切に行えない恐れがある。
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、ラインの高速化に対応しつつキャスト塗被面の光沢の悪化を防止することができるとともに、設備コストの高騰を伴うことなくキャスト塗被紙の幅方向全域に渡って適切にカールを防止することができるキャスト塗被紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明は、顔料と接着剤を主成分とする塗被層が裏面に形成されたシート状の支持体の表面にキャスト用塗被組成物を塗被したあと、その支持体の表面をキャストドラムに圧接して乾燥させることにより、前記支持体の表面にキャスト塗被層を仕上げ形成するようにしたキャスト塗被紙の製造方法において、前記キャストドラムに巻き付いている前記支持体の裏面側に加湿ロールを圧接させて前記裏面塗被層に液体を塗布することを特徴とする。
【0008】
上記の本発明によれば、表面のキャスト塗被層と裏面塗被層を有する片面キャスト塗被紙において、加湿ロールで支持体の裏面側(裏面塗被層)に液体を塗布するようにしているので、ラインを高速化しても確実に液体を裏面塗被層に塗布することができ、しかも、キャスト塗被面に対しては液体を塗布しないので、同キャスト塗被面の光沢が悪化することがない。
【0009】
また、キャストドラムに巻き付いている支持体の裏面側に加湿ロールを圧接させて前記裏面塗被層に液体を塗布するようにしたので、加湿ロールで塗布された液体は即座に当該キャストドラムで加熱されて乾燥する。このため、加湿ロールの下流側に更にシリンダドライヤ等の特別の乾燥装置を設ける必要がなく、設備コストの高騰が防止される。
更に、キャストドラムに巻き付いている支持体の裏面側(裏面塗被層)に加湿ロールを圧接させているので、加湿ロールによって液体をシート幅方向に均一に塗布することができ、シート幅方向においてカールの防止効果に変動が発生し難く、幅方向全域に渡って適切なカール防止効果を得ることができる。
【0010】
本発明において、加湿ロールによる液体の塗布量は、20〜40g/m2 とすることが好ましい。液体の塗布量をこの範囲に設定しておけば、カールの発生を確実に防止しつつ塗被層の品質を所望以上に維持でき、好適である。
また、本発明において、加湿ロールの構造や材質は特定のものに限定されないが、外周面がウレタン樹脂又はウレタン樹脂誘導体より形成されものを採用することが好ましい。かかるウレタン製の塗布面を有する加湿ロールを採用すれば、他の樹脂に比べて耐熱性が高いためメンテナンスコストが低減できるとともに、適度な弾性と液体(特に水)との親和性を有しているため、液体の被膜を裏面塗被層に均一に塗布することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り、本発明によれば、キャストドラムに巻き付いている片面キャスト塗被紙の裏面側に加湿ロールを圧接させて裏面塗被層に液体を塗布するようにしたので、ラインの高速化に対応しつつキャスト塗被面の光沢の悪化を防止することができるとともに、設備コストの高騰を伴うことなくキャスト塗被紙の幅方向全域に渡って適切にカールを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明のキャスト塗被紙とその製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
本発明は、裏面に顔料と接着剤を主成分とする裏面塗被層を形成した支持体の表面にキャスト用塗被組成物を塗被し、その支持体の表面を鏡面加工されたキャストドラムに圧接して乾燥させ、支持体の表面にキャスト塗被層を仕上げ形成するキャスト塗被紙の製造方法において、キャストドラムの径外部に配置した加湿ロールで支持体の裏面塗被層に対して液体を塗布するようにしたものである。
【0013】
図1は、本実施形態の製造方法が適用される塗被紙の塗工ラインを示している。
図1において、裏面塗被層が塗工された支持体としての原紙1は、リール2から繰り出され、塗工装置3によってその表面にキャスト用塗被組成物が塗工され、その後、乾燥部4を通過する間に乾燥される。次いで、その原紙1は、外周面が鏡面仕上げされかつ所定温度(概ね100°C程度)に加熱されているキャストドラム5に、そのキャスト用塗被組成物が塗布された塗工面が圧接されて乾燥され、これによってキャスト面が形成されるようになっている。
【0014】
本実施形態の塗工ラインでは、キャストドラム5の下方にロール転写式の加湿装置6が配置されており、この加湿装置6は水、水溶液もしくは水性分散液等の液体7が貯留された貯留槽8と、この貯留槽8に一部が浸かった状態でかつキャストドラム5の径内側に付勢されて当該ドラム5の下方に配置された加湿ロール9とから構成されている。
従って、上記原紙1は、キャストドラム5に巻き付いている途中で、その裏面塗被層に対して加湿ロール9で液体が塗布されるようになっており、その後、赤外線ヒータ10にて乾燥され、最終的にリール11に巻き取られるようになっている。
【0015】
次に、上記の塗工ラインにて製造する本実施形態のキャスト塗被紙の構成と同塗被紙の製造方法に説明する。
まず、支持体としての原紙1の原料パルプは、特に限定されない。既知のKPのような化学パルプ、PGW、SGP、RGP、BCTMP、CTMP等の機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプ、あるいはケナフ、竹、麻、藁等の非木材パルプ等を、単独であるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0016】
特に、同一秤量の他のパルプと比較して不透明度が高く、森林資源保護に寄与する古紙パルプを用いるのが好ましく、また原紙を嵩高とするためには化学パルプに比して機械パルプや古紙パルプの配合量を10重量%以上、好適には50重量%以上とするのが好ましい。原紙1の坪量は特に限定されず、一般の印刷用塗被紙の坪量である、30〜400g/m2 程度とすることができる。
なお、支持体は原紙に限らず、多孔性合成樹脂フィルムや不織布等を用いることもできる。
【0017】
キャスト用塗被組成物としては、従来から汎用されている顔料及び接着剤を主成分とするキャスト塗被紙用塗被液を適用できる。顔料としては、デラミネートクレー、炭酸カルシウム、カオリン、焼成クレー、サチンホワイト、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、シリカ、活性白土、珪藻土、レーキ等の無機顔料や、スチレン−アクリル共重合体などの有機顔料などを1種又は複数種を適宜選択して混合したものが使用される。
【0018】
また、塗被液に使用される接着剤としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体、及びポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成接着剤、酸化でんぷん、エステル化でんぷん、酵素変性でんぷんやそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性でんぷん、カゼイン、大豆蛋白等の天然系接着剤等を用い得る。
【0019】
これらの接着剤は、顔料100重量部に対して5〜50重量部、より好ましくは10〜30重量部の範囲で用いるのが好適である。接着剤が上記範囲より少ないと接着性が劣り、多いと光沢性の発現を低下させる。また、塗被液には、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等の補助剤が含有される。
また、支持体の裏面の裏面塗被層を形成する塗被液についても、従来から汎用されている顔料及び接着剤を主成分とする塗被液を適用でき、その顔料や接着剤としては、上記キャスト塗被紙用塗被液と基本的に同様のものを用いることができる。
【0020】
支持体への塗被液の塗工方法は、ブレードコータ、エアナイフコータ、ロールコータ、ブラシコータ、カーテンコータ、バーコータ、グラビアコータ、サイズプレスコータ等の塗工装置によって一層又は多層に分けて行うことができる。
塗工量は、キャスト塗被層については、乾燥重量で15〜30g/m2 、好適には15〜25g/m2 の範囲に調整される。また、裏面塗被層については、乾燥重量で5〜20g/m2 、好適には5〜15g/m2 の範囲に調整される。塗工量が、上記範囲未満では、原紙の被覆性に劣り、塗工層が形成され難く、また原紙の地合いの影響を受けて平滑度が不充分となり、上記範囲を越えると紙のこしがなくなるとともにコスト高となる。
【0021】
上記のようにキャスト塗被層を形成した後、そのキャスト塗被層をキャストドラム5に圧着するように巻き付けてキャストコートする。本実施形態の塗工ラインでは、このキャストドラム5に巻き付いている支持体の裏面側に加湿ロール9を圧接することにより、支持体の裏面塗被層に対してキャストコート時に液体を供給し、これによって支持体の表裏の含水量を微調整してカールを防止するようにしている。
【0022】
加湿ロール9を用いた液体の塗布量は、概ね20〜40g/m2 の範囲に設定されている。その理由は、液体の塗布量が、上記範囲未満ではカール防止効果が不十分となり、逆に上記範囲を越えると、裏面塗工層の白紙光沢や平滑度などの品質に悪影響を与えることになるからである。塗布する液体の種類としては、水でも良いが、その他にカール防止剤を用いて裏面塗被層の改質を図るようにすることもできる。また、滑材としてタルクやシリコンを含有する水性分散液を使用することもできる。
【0023】
このように、キャストコート中に加湿ロール9で液体を所定量塗布することにより、100m/min以上の高速にて塗工してキャストを行っても、裏面塗被層の白紙光沢が、JIS P8142による75°光沢度試験で55%〜70%で、かつ1辺10cmの正方形の試験片を温度25℃、湿度80%の環境下に24時間放置後における4つの角のカール高さの最大値が10mm以下の片面キャスト塗被紙を得ることができる。
【0024】
本実施形態の加湿ロール9は、外周面がウレタン樹脂又はウレタン樹脂誘導体より形成れている。その理由は、かかる樹脂は他の樹脂に比べて耐熱性が高いためメンテナンスコストが低減できるとともに、適度な弾性と液体(特に水)との親和性を有しているため、液体の被膜を裏面塗被層に均一に塗布できるからである。
また、加湿ロール9のキャストドラム5への圧着力は、概ね1.5〜2.5kg/cm2に設定されている。その理由は、当該圧着力が1.5よりも低いと、原紙1に液体が付着し過ぎて前記した塗布量の範囲を上回り、逆に、当該圧着力が2.5よりも高いと、原紙1に液体が付着し難くなり過ぎて前記した塗布量の範囲を下回ってしまうからである。
【実施例】
【0025】
次に、本発明のいくつかの実施例と比較例を説明する。
片面キャスト塗被紙において、その裏面塗被層に対する水の塗布形態によるカール防止効果に対する影響について調査する実験を行うため、試料として次のものを用意した。
【0026】
原紙:フリーネス350mlとした古紙パルプと、フリーネス450mlとしたLBKPを配合し、硫酸バンドの助剤を添加し、抄紙した。
【0027】
顔料:クレー(商品名:ウルトラホワイト90/エンゲルハード社製)を有機顔料との合計で60重量部、デラミネートクレー(商品名:ハイドラプリント/ヒューバー社製)20重量部、炭酸カルシウム(商品名:FMT90/ファイマテック社製)20重量部の混合顔料を用いた。
【0028】
接着剤:リン酸エステル化でんぷん(日本食品化工製)とスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(旭化成工業製)を1対3で配合したものを用いた。
【0029】
実施例1〜4及び比較例1〜3として、顔料として上記混合顔料を調整し、コーレス分散機を用いて水に分散して顔料分散液を調整し、顔料分散液100重量部に対して接着剤を20重量部配合し、塗被液を調製した。
これを原紙の裏面側にブレードコータで塗工量が15g/m2 となるように塗工して裏面塗被層を形成した。次に、この裏面塗被層が形成された原紙の表面側に、エアナイフコータでキャスト塗被層として塗工量が19g/m2となるように塗工した。この塗被紙の表面側をキャストドラムに圧着させてキャストコートを行った。
【0030】
その後、カールを防止するために裏面塗被層に対して水を塗布するに当たり、実施例1〜5では、前記加湿装置6を用いて、液体の塗布量を20g/m2 、25g/m2 、30g/m2 、40g/m2 の間で変化させて塗布した。
なお、実施例5では、液体として水にカール防止剤を添加したものを使用して、塗布量を30g/m2 とした。また、比較例2として、塗布量を50g/m2 で塗布し、比較例3として水を塗布しなかった。
【0031】
以上の各実施例及び比較例について、得られたキャスト塗被紙の裏面の白紙光沢とカールの発生について調査した。その評価結果を、以下の〔表1〕に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、上記〔表1〕において、白紙光沢は、JIS P 8142 に基づいて測定した。また、カールは、1辺10cmの正方形の試験片を作製し、それを温度25℃、湿度80%の環境下に24時間放置した後、4つの角のカール高さの最大値を測定した。
【0034】
表1の実施例1〜4から、塗布量を20〜40g/m2 とすることで、白紙光沢が60%以上で、カールが5mm以下の片面キャスト塗被紙が得られることが分かる。
【0035】
一方、比較例1から、塗布量が50g/m2 になると、カールの発生は防止できても白紙光沢が52%となり、所望の55%以上の白紙光沢が得られず、また、比較例3から、水を塗布しない場合は、白紙光沢が65%と、所望の55%以上の白紙光沢が得られるが、カールが20mmとなってカールの発生を防止できないことが分かる。
【0036】
上記した各実施形態は例示的なものであって限定的なものではない。
すなわち、本発明の範囲は冒頭の特許請求の範囲によって示され、その請求項の意味に入るすべての変形例は本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係るキャストコート工程の模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 原紙(支持体)
2 リール
3 塗工装置
4 乾燥装置
5 キャストドラム
6 加湿装置
7 液体
8 貯留槽
9 加湿ロール
10 赤外線ヒータ
11 リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と接着剤を主成分とする塗被層が裏面に形成されたシート状の支持体の表面にキャスト用塗被組成物を塗被したあと、その支持体の表面をキャストドラムに圧接して乾燥させることにより、前記支持体の表面にキャスト塗被層を仕上げ形成するようにしたキャスト塗被紙の製造方法において、
前記キャストドラムに巻き付いている前記支持体の裏面側に加湿ロールを圧接させて前記裏面塗被層に液体を塗布することを特徴とするキャスト塗被紙の製造方法。
【請求項2】
前記液体の塗布量は、20〜40g/m2であることを特徴とする請求項1に記載のキャスト塗被紙の製造方法。
【請求項3】
前記加湿ロールは、外周面がウレタン樹脂又はウレタン樹脂誘導体より形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャスト塗被紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−37244(P2006−37244A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214445(P2004−214445)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】