説明

キャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトル

【課題】 キャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルにおいて、良好なガスバリアー性、シール性及び開栓性を有すること。
【解決手段】 ボトルの口金部を封じるキャップ1の内部に設けられるキャップ用ライナー5であって、少なくとも口金部に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されている。さらに、エラストマーが、スチレン系エラストマーであることが好ましい。また、炭化水素樹脂が、芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアー性、シール性及び開栓性等に優れたキャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラスビン、PETボトル、アルミボトル等のキャップ(容器蓋)は、合成樹脂製ライナーを具備したものが広く使用されている。金属性キャップの場合は、アルミ薄板、ブリキ薄板、クロム鍍金薄板(TFS)等の両面に数回の塗装を繰り返し、打ち抜き成形したものをキャップシェル(キャップ殻体)とし、これに予めディスク状に成形したもの(ディスク成形体)を挿入する方式(ディスク挿入方式)、ディスク成形体を挿入後中心部で熱接着する方式(ディスク挿入接着方式)、塩ビゾルのようにライナー材をキャップシェルに流し込み、加熱によりゲル化と同時に接着する方式(ライニング方式)、溶融樹脂をキャップシェルの中に入れ熱接着、型押しする方式(インシェルモールド方式)などがある。特に、近年はインシェルモールド方式が主流である。
【0003】
このインシェルモールド方式では、主にポリエチレンにエラストマーを混練したものを主体としたライナー材が使用されている。また、レトルト用ライナーなど耐熱性が必要なものには、ポリエチレンより融点の高いポリプロピレン系樹脂とエラストマー、時には柔軟材としての流動パラフィン、滑剤等を混練したものを主体としたものが使用されている。
【0004】
このように上記インシェルモールド方式のライナー材は、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のオレフィン樹脂にエラストマーを混練したものである。このライナー材では、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等の単独では柔軟性が不足していて容器口頸部にライナーを完全が密着できないため、柔軟なエラストマーを混練し、柔軟性を付与してライナー材の密封機能を向上させている。しかしながら、これらは単独のポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンより全て酸素バリアー性が劣る。
【0005】
これは、エラストマーのバリアー性が低いことに起因している。したがって、これらのライナー材を使用したキャップ(容器蓋)は酸素の浸入により、劣化が進む内容物に対しては長期の品質保証が得られない。これは、密封性が優れていても、ライナー材自体を透過した酸素が内容物に影響を与えることを、防ぐことはできないことによる。特に、ポリプロピレン樹脂を主体としたものは、ポリプロピレンの硬度が高いために、単にエラストマーを混練しただけでは充分な柔軟性が得られないので、流動パラフィン等の柔軟材を相当程度使用する。このため、酸素バリアー性は著しく劣化する。このシール性は良好であるが、長期保存は難しいという状態になる。
【0006】
このため、従来、ライナーを多層にして容器口頸部に接する面に無機化合物の皮膜を積層し、ライナー材のバリアー性を上げる方法が提案されている(特許文献1参照)。また、同様の思想であるが、容器蓋のパッキンまたは中栓の内容物に接する面に、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜を設けることにより、ガスバリアー性を上げる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−344269号公報
【特許文献2】特開2002−179126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記従来のライナーでは、良好なガスバリアー性を示すが、内容物と接する面が硬質であるため、ライナー材が容器口部のバラツキを充分吸収できず、完全に密着できない部分が発生して完全なシール性は得られない。また、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂に、ブチルゴム、ポリイソブチレン等のブチル系ゴムをブレンドしてガスバリアー性を上げるという技術もあるが、これらは滑性が悪いため、開栓トルクが高くなり、回転して開けるという容器蓋には適さない。さらに、この技術は、高温時の圧縮変形が大きいため、充填品にレトルト処理が加えられるようなレトルト用ライナーなどの場合には使用できない。
【0009】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、良好なガスバリアー性、シール性及び開栓性を有することが可能なキャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明のキャップ用ライナーは、ボトルの口部を封じるキャップの内部に設けられるキャップ用ライナーであって、少なくとも前記口部に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0011】
このキャップ用ライナーでは、少なくともボトルの口部に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されているので、オレフィン樹脂とエラストマーとの基本組成により良好なシール性及び開栓性を得ると共に、これに加えた炭化水素樹脂によりライナーとしての酸素バリアー性を著しく向上させることができる。
一般に、エラストマーは、ポリエチレンやポリプロピレンに比べ酸素バリアー性が劣る。また、柔軟材を使用した場合、ライナー材は樹脂単独の場合に比べ更にガスバリアー性は劣る。しかしながら、本発明のキャップ用ライナーでは、オレフィン樹脂をベースにエラストマーを混練し、さらに炭化水素樹脂を加えることで、ガスバリアー性を著しく向上させている。
【0012】
また、第2の発明のキャップ用ライナーは、前記エラストマーが、スチレン系エラストマーであることが好ましい。すなわち、このキャップ用ライナーでは、スチレン系エラストマーを採用するので、炭化水素樹脂を加えることで生じるガスバリアー性(酸素バリアー性)向上効果がオレフィン系エラストマーよりも大きく得られる。
【0013】
また、第3の発明のキャップ用ライナーは、前記炭化水素樹脂が、芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂であることが好ましい。すなわち、このキャップ用ライナーでは、芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂を採用するので、脂肪族系よりも良好な酸素バリアー性を得ることができる。
【0014】
さらに、第4の発明のキャップ用ライナーは、第3の発明において、前記炭化水素樹脂が、水素が添加されて水素飽和化していることが好ましい。すなわち、このキャップ用ライナーでは、水素が添加されて水素飽和化している炭化水素樹脂を採用するので、無味無臭なライナーが得られる。
【0015】
また、第5の発明のキャップ用ライナーは、第3の発明において、前記炭化水素樹脂の添加量が、3〜20%であることが好ましい。すなわち、このキャップ用ライナーでは、炭化水素樹脂の添加量を3〜20%の範囲に設定しているので、より良好な酸素バリアー性を得ることができると共に、良好な官能性を得ることができる。なお、より好ましくは、炭化水素樹脂の添加量が5〜15%の範囲に設定される。
【0016】
第6の発明のキャップは、天板部と該天板部の周縁から垂下した筒状周壁部とからなるキャップ本体と、前記天板部の内面に設けられた第1から第5の発明のいずれか一つのキャップ用ライナーとを備えていることを特徴とする。
第7の発明のボトルは、キャップを備えたボトルであって、前記キャップが、第6の発明のキャップであることを特徴とする。
すなわち、これらのキャップ及びキャップ付きボトルでは、上記本発明のキャップを備えているので、高いガスバリアー性、良好な開栓性及びシール性等を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るキャップ用ライナーによれば、少なくともボトルの口部に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されているので、オレフィン樹脂とエラストマーとの基本組成により良好なシール性及び開栓性を得ると共に、これに加えた炭化水素樹脂によりライナーとしての酸素バリアー性を著しく向上させることができる。したがって、本発明のキャップ用ライナーを備えたキャップ及びキャップ付きボトルによれば、密封性、耐熱性、耐衝撃性、開栓性に加え、酸素バリアー性に優れ、食品衛生上高い安全性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るキャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルの一実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0019】
本実施形態のキャップ1は、図1及び図2に示すように、天板部2と該天板部2の周縁から垂下した筒状周壁部3とからなる有底筒状で金属製のキャップシェル(キャップ本体)4と、天板部2の内面に固定されて設けられた板状の合成樹脂製のライナー(キャップ用ライナー)5とを備えている。
また、本実施形態のキャップ付きボトル6は、上記キャップ1を口金部(口部)7に巻き締めた状態で備えている。
【0020】
上記キャップシェル4は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金の板材から加工されたものである。例えばアルミキャップの場合、アルミ合金板に、内外面を塗装する。通常、内面にサイズコート及びトップコートを施し、外面にサイズコート、必要に応じてカラーコーティング、印刷等を施し、次にトップコート(ツヤニス)を塗布する。これらの厚さは一般に1〜10μmであり、各々は180℃〜210℃(ただし、印刷インクは150℃〜180℃)で8〜12分焼付け乾燥される。これに潤滑剤を塗布しカップ状にプレスで打ち抜く。これに後工程でナール8、ライナー係止突起9、ミシン目10、ビード11及びスカート部12等の加工を施しキャップシェル4を作製する。これに上記ライナー5を装着する。
【0021】
上記ライナー5は、ボトル6の口金部7を封じるキャップ1の内部に設けられるキャップ用ライナーであって、少なくとも口金部7に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されている。なお、この合成樹脂は、必要に応じて柔軟材、着色剤、滑剤、安定剤等を添加して用いられる。
【0022】
なお、上記オレフィン樹脂にはいくつもの樹脂があるが、成形性、衛生性、安定性、価格、物性等を考慮するとライナー材用オレフィン樹脂としては、ポリエチレンが優れた特性を示す。レトルト処理等の耐熱性を要求されるものには、ポリプロピレン樹脂が優れているが、ポリエチレンに比べ一般に硬度が高いため、良好なシール性を得るためには、混練するエラストマーの量を多くするか、柔軟材等を併用する必要がある。
【0023】
上記炭化水素樹脂は大別すると、脂肪族系、芳香族系、共重合系及びこれらの水素飽和タイプがある。なお、脂肪族系は、石油類の分解油留分のうちC留分を原料としたものであり、C留分を原料としたものを芳香族系、両者を原料としたものを共重合系という。この添加する炭化水素樹脂としては、芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂であることが好ましい。特に、水素が添加されて水素飽和化している炭化水素樹脂が好適である。この水素添加された炭化水素樹脂は、例えば高圧水素化技術により水素飽和化された脂環族飽和炭化水素樹脂である。これは、無色透明で無味無臭な特性を有している。
また、この炭化水素樹脂の添加量は、3〜20%の範囲内に設定されることが好ましい。なお、より好ましくは、炭化水素樹脂の添加量が5〜15%の範囲に設定される。
【0024】
使用される上記エラストマーとしては、幾つかの種類があるが衛生性、価格、柔軟性その他を考慮してオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーが用いられるが、スチレン系エラストマーが好ましい。
【0025】
オレフィン系エラストマー(TPO)としては、エチレンーαオレフィンが主である。スチレン系エラストマー(TPS)としては、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン共重合体)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)等のブロックコポリマー、またはそれらの水添タイプであるSEBS(スチレン・エチレン・プチレン・スチレン共重合体)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体)等が使用される。
【0026】
このライナー5の製造方法としては、例えばインシェルモールド方式の場合、上記合成樹脂のライナー材を押出機で押出し、一定量をカットした後、冷却されたパンチで一定の形状を形作る方法である。このとき、アルミキャップの場合、そのキャップシェル4は通常加温され、アルミキャップの内面の最外層は、ライナー材が熱接着する塗料が塗布されているので、ライナー材が強固に熱接着するようになっている。
【0027】
あるいは、上記合成樹脂材料を、押出機、Tダイを使ってシートにして一定の外径のディスク状に打ち抜き、キャップシェル4に挿入しても良い。このシートは硬質層と軟質層を貼り合わせた二層構造でも良い。このとき、上記合成樹脂の構成材は軟質層として使用する。
また、キャップシェルに対して自由に移動可能なパッキン型のライナーであって、ライナーの周縁部下面から垂下する円環状外側シールリングに加えてこの外側シールリングの外側に位置する環状フランジが形成された中栓タイプのライナーとしても構わない(特開2006−21827号公報参照)。
【0028】
本実施形態の筒状周壁部3は、ナール8、ライナー係止突起9、ミシン目10、ビード11及びスカート部12を備えている。上記ライナー係止突起9は、筒状周壁部3の内側に凹んだ断面三角形状をなし、ライナー5をその下面側から支持するライナー係止突起として機能する。なお、これらは、必要に応じて筒状周壁部3に備えられる。
【0029】
上記キャップ1は、ガラスビン、PETボトル等の樹脂ビン、アルミニウム合金等の金属で成型したいわゆるボトル缶等のボトル本体13に被せられ、キャップ1にキャッピング加工を施すことにより、キャップ1が口金部7に巻き締められて被着され、キャップ付きボトル(以下、単にボトルとも称する)6とされる。
上記キャッピング加工工程は、プレッシャーブロック、ネジローラー、スカートローラー等からなるキャッピング装置を用いて行われる。
【0030】
すなわち、口金部7に被せたキャップ1の天板部2を、プレッシャーブロックでボトル底部の方向に押圧し、この状態でプレッシャーブロックによる絞り加工により、キャップ1の肩部に段差部14を形成する。さらに、この状態でネジローラーによりネジ部7aを形成し、スカートローラーで口金部7のカブラ部7bにスカート部12を巻きつけることで、キャッピング加工が行われる。
【0031】
このようにキャップ1が口金部7に巻きつけられることにより、キャップ1は天板部2の内面側のライナー5が口金部7に圧接される状態になる。これによりボトル6の内容物が密封された状態になる。なお、内容物の充填は、当然にキャップ1をボトル6に被せる直前に行われる。
一方、開栓するときは、キャップ1を回してミシン目10から切断し、キャップ1を口金部7から外すことにより、口金部7が開栓され内容物が取り出されることになる。
そして、取り外したキャップ1を口金部7に再び取り付けることにより、再閉栓することが可能になっている。
【0032】
なお、上記キャップ1は、合成樹脂製であっても構わず、この場合、主にポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を原料に、射出成型、圧縮成型等で成型されたキャップシェルにライナーを挿入したものとされる。合成樹脂のキャップシェルは、成型時にネジ部、ナール、PPバンド部が成型されるものが多い。なお、ミシン目は、一般に後加工で入れるものが多い。
【0033】
合成樹脂製のキャップの場合、施栓は口金部7に被せ回転させながら締めこむ方法が一般的である。このときPPバンド部が口金部7のカブラ部7bに係止される。開栓は施栓時と逆に回転させることにより、口金部7のネジに沿って開栓される。このときPPバンド部は、口金部7のカブラ部7bに係止されているためミシン目から切断され、開栓したことが明示されることになる。この場合も必要に応じ再閉栓することができる。
【0034】
本実施形態のキャップ用ライナー5は、少なくともボトル6の口金部7に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されているので、オレフィン樹脂とエラストマーとの基本組成により良好なシール性及び開栓性を得ると共に、これに加えた炭化水素樹脂によりライナーとしての酸素バリアー性を著しく向上させることができる。したがって、ボトル等の内容物の酸素劣化を防ぐことができ、長期保存することができる。
【0035】
また、エラストマーとしてスチレン系エラストマーを採用するので、炭化水素樹脂を加えることで生じるガスバリアー性(酸素バリアー性)向上効果がオレフィン系エラストマーよりも大きく得られる。特に、レトルト可能な耐熱性ライナーの構成において、オレフィン樹脂とスチレン系エラストマーとオイルとのブレンド品であることと、改質剤として炭化水素樹脂を使用することにより、レトルト処理が可能で酸素バリアー性の優れたライナーが得られる。
【0036】
また、炭化水素樹脂として芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂を採用するので、脂肪族系よりも良好な酸素バリアー性を得ることができる。特に、水素が添加されて水素飽和化している炭化水素樹脂を採用するので、無味無臭なライナーが得られる。
さらに、炭化水素樹脂の添加量を3〜20%の範囲に設定しているので、後述する実施例に示すように、より良好な酸素バリアー性を得ることができると共に、良好な成形性及び落下衝撃性を得ることができる。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、本実施形態においてはアルミニウム合金製のキャップ付きボトル缶を用いて説明したが、これに限定されること無く、たとえばガラスビンに金属製キャップが装着されたものや,PETボトルに装着されたものでもよい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明に係るキャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルを、実際に作製した実施例により具体的に説明する。
<実施例1>
スチレン系エラストマーとして水素添加スチレン・エチレン・プロプレン・スチレン共重合体(SEPS)(35〜45%)、流動パラフィン(30〜40%)、ポリプロピレン(PP)(20〜30%)の合計を100として、各種炭化水素樹脂を添加量別に混合して二軸押出機で溶融混練し、ペレットにしたものを供試した。なお、SEPSはMFR(230℃−5kg)で0.01以下のものを使用し、流動パラフィンは粘度が300〜400cstのものを使用した。また、PPはホモタイプのMFR,5のものを使用し、滑剤として脂肪酸アミドを約1%と、酸化チタンを着色剤として約1%使用した。これらに、脂肪族系、芳香族系、共重合系の炭化水素樹脂を一定量添加し供試した。
【0040】
これをキャップインシェルモールド成型機でキャップのライナーとした。このときのライナー生産適性を調べた。ライナー成形性は、ライナー欠け、ライナーセンターずれ、ライナーナシのキャップ発生等の不良率が1%以下のものを「○」、2〜5%のものを「△」、5%以上のものを「×」とした。
【0041】
キャップは、内外面を合成樹脂塗料で塗装された厚さ0.22mmのアルミ板を28PPキャップのシェルに成型し、本実施例(本発明)のライナー材をキャップ生産機にてインシェルモールド方式でライナーとした。また、キャップに使用した塗料として、内面がサイズニス+接着ニス+印刷、外面がサイズニス+ツヤニスを施したものとした。
【0042】
ライナーは完全接着しているが、ガラスビンと接するライナー部は非接着とした。これを、内容量180mlの口径28mmのガラス瓶に、80℃の熱水をほぼ満量充填した後、本キャップで施栓した。なお、この熱水には、ビタミンCを約200ppmになるように添加した。この充填品を121℃―30分のレトルト処理を加えた後、開栓トルク、落下衝撃性能、ビタミンCの保持率を調べた。
【0043】
また、官能検査用にビタミンCを加えない熱水についても同様に充填、レトルト処理を加えた。これを40℃で1月横倒し状態で保管し、炭化水素樹脂無添加のライナーとの3点識別法で、内容物の味と臭いとを比較して危険率5%で差が有意でないものを「○」、1%でその差が有意ではないが危険率5%で差が有意であるものを「△」、危険率1%で差が有意なものを「×」とした。
【0044】
注1) 開栓トルクは、キャッピング、熱処理後4週間室温にて放置後、回転開始時のトルク値(第1トルク)をトルクメーターにて測定した。また、試料数10の平均値を採用した。
注2) 落下衝撃性能は、キャッピング、熱処理後1日放置後、ボトルを30cmの高さから垂直に10°(水平に対して)の角度を持った鉄盤上に倒立落下させ、落下前後の内圧の差を調べ、漏れの発生数を調べた。なお、試料数は各10とした。
注3) ビタミンCの減少量の測定は、約200ppmのビタミンC溶液を充填レトルト処理した直後の値と、これを促進のため55℃で2ヶ月放置したものとのビタミンCの消費量を、自動電位滴定装置で測定し、その減少量の度合いによりライナーの酸素のバリアー性を調べた。
以上の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

注1.TPS=エラストマー(PP、流動パラフィン、SEPSのブレンド品)
注2.炭化水素樹脂タイプ
1)脂肪=脂肪族炭化水素樹脂(表中の数字はTPSを100とした添加量)
2)芳香=芳香族炭化水素樹脂(表中の数字はTPSを100とした添加量)
3)共重合=共重合炭化水素樹脂(表中の数字はTPSを100とした添加量、なお、( )は共重合炭化水素樹脂の水素添加品)
注3.密封性=レトルト直後のモレ数/試料数を示す。
注4.V−C保持率=ビタミンC保持率(充填直後のビタミンCの値を100とし、55℃で2ヶ月保管した後測定したビタミンCの残存量率(%))
注5.落下衝撃性:30cm高さから倒立落下させた充填品のモレ数/試料数。
注6.開栓トルク値:シーリング後、室温にて4週間放置後の第一トルク値(キャップが動き始める値)。単位N・cm
【0046】
注7.総合評価
◎◎=ガスバリアー性、耐落下衝撃性能良好。成形性、官能性良好なもの。
◎△=ガスバリアー性、耐落下衝撃性能良好。成形性及び、または官能性がやや劣るもの。
◎×=ガスバリアー性、耐落下衝撃性能良好。成形性及び、または官能性が劣るもの。
△◎=ガスバリアー性はやや劣る。耐落下衝撃性能、成形性、官能性良好なもの。
○△=ガスバリアー性はやや劣るが耐落下衝撃性能良好。成形性、官能性がやや劣るもの。
○×=ガスバリアー性はやや劣るが耐落下衝撃性能良好。成形性及び、または官能性が劣るもの。
×◎=ガスバリアー性は劣る。耐落下衝撃性能、成形性、官能性良好なもの。
×△=ガスバリアー性は劣る。耐落下衝撃性能良好であるが、成形性または官能性やや劣るもの。
××=ガスバリアー性は劣る。耐落下衝撃性能、成形性または官能性劣るもの。
【0047】
上記結果から分かるように、石油系炭化水素樹脂が無添加のものであると、55℃で2ヶ月の促進試験で、ビタミンCの減少量は30%台まで下がるが、石油系炭化水素樹脂が3%添加でその保持率は50%台で収まる。特に、芳香族系、共重合系は70%台を維持している。さらに、5%、10%に石油系炭化水素樹脂の濃度を上げると、さらに酸素バリアー性が向上するという結果が得られた。ただし、その濃度が20%を超えると、逆に酸素バリアー性が低下してくるという結果が得られた。
【0048】
耐落下衝撃性能は添加量が多くなるとややモレが認められるものがあったが、使用可能な範囲であった。開栓トルクは炭化水素樹脂の添加量が多くなると高くなる現象が得られたが使用可能な範囲であった。但し炭化水素樹脂の添加量が25%になると急激にトルク上昇が見られた。臭い及び味の官能性評価では、炭化水素樹脂15%添加までは差が有意ではなかったが、25%添加ではその差が危険率1%で有意であった。ただし、水素飽和タイプの炭化水素樹脂は、25%添加でもその差は有意ではなく、官能性評価に良好な結果を示した。
【0049】
<実施例2>
次に、本発明の効果を確認するため、TPO(オレフィンエラストマー)としてポリエチレン(LDPE,80%)と、エチレンプロピレンラバー(EPR,20%)とをブレンドしたライナー材で評価した結果を説明する。このライナー材は、LDPEとして密度0.92、MFR=1.0(190℃)のものを使用し、EPRはMFR=0.4(230℃)、密度0.87のものを使用した。この合計を100として脂肪族系、芳香族系、共重合系の炭化水素樹脂を一定量添加し、添加量別に混合して一軸押出機で溶融混練したコンパウンドを、ペレットにしたものを供試した。
【0050】
なお、滑剤として脂肪酸アミドを約1%使用し、酸化チタンを着色剤として約1%使用した。これを、キャップシェルにインシェルモールド成型機でキャップのライナーとして成型した。このときのライナー生産適性を実施例1と同様に調べた。ライナー成形性の評価も実施例1と同様に行った。また、EPRの替わりにスチレン系エラストマーとしてSEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)を使用したコンパウンドを、ペレットにしたものを供試した(表中TPSと記す)。なお、そのほかの添加剤はオレフィン系エラストマーとほぼ同一にした。
【0051】
この試験では、厚さ0.25mmのアルミニウム合金板を38mmPPキャップシェルを成型し、上述のライナー材をインシェルモールドして供試キャップとした。そして、アルミボトル缶に一定量ビタミンCを溶解した水を充填し、ヘッドスペースを液体窒素で置換して、上記キャップで施栓したのち、殺菌を加えてこれを試料とした。
また、官能検査用にビタミンCを加えない水についても、同様に充填、殺菌処理を加えた。これを、40℃で1月横倒し状態で保管し、炭化水素樹脂無添加のライナーとの3点識別法で、内容物の味と臭いを比較した。評価は実施例1と同様とした。
【0052】
キャップシェルは、外面にサイズニス、ツヤニスを塗布焼付けし、内面にポリオレフィン系滑剤入りのエポキシフェノール塗料を50mg/dmを塗布焼付けしたアルミシートを使用し、これをプレスで打ち抜き38mmPPキャップシェルに成型したものを使用した。
275g(全量338ml)入りの38mm口径のアルミボトルにビタミンCを一定量添加した水を充填し、供試キャップでシーリングした。シーリングは、シングルヘッドキャッパーを使用した。プレッシャーブロックは、絞径がφ35.6mmで絞り深さを2.0mmに設定したものを使用した。また、ヘッドプレッシャーは1100Nでシーリングした。
【0053】
内容物は、ビタミンCが200ppmになるように調整した溶液を使用した。また、ヘッドスペースは、63ml取り、ヘッドスペース部に液体窒素を滴下し、窒素ガスで置換した。これを、シーリングして80℃−20分の熱殺菌を加えた後、室温放置後の開栓トルク値、落下衝撃性能、経時高温放置下(60℃)での酸素バリアー性の評価としてビタミンCの保持率(%)等を調べた。このビタミンCの保持率は、浸入した酸素によって減少したビタミンCの減少量を測定して酸素透過度を評価する試験方法であり、高温放置は酸素透過量を促進させるためである。これらの評価結果を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】

注1.使用エラストマー:TPO=オレフィンエラストマー(LDPEとEPRのブレンド品)およびTPS=スチレン系エラストマー
注2.炭化水素樹脂タイプ及び表中数値=実施例1と同様
注3.落下衝撃性、開栓トルク値の評価=実施例1と同様
注4.V−C保持率=充填キャッピング直後のビタミンCの値(約200ppm)を100とし、60℃で4週間保管した後測定したビタミンCの量を自動電位滴定装置で測定した時の残存率(%)。
【0055】
以上の結果から、ライナー材としてのエラストマーに炭化水素樹脂を加えることにより、酸素バリアー性の有るエラストマーが得られた。特に芳香族系、共重合系が良好な結果を示した。また、エラストマーの種類ではスチレン系エラストマーのバリアー性向上が認められた。さらに、炭化水素樹脂の添加量は多くなると酸素バリアー性は向上したが、一定限度(8%前後)を境にバリアー性が下がるという結果であった。なお、添加量3%未満では、酸素バリアー性は向上するが、キャップ用としてはまだ十分な酸素バリアー性が得られない。官能性評価では炭化水素樹脂20%添加で差が認められたが、使用限度範囲であった。炭化水素樹脂25%添加では無添加品と比較して差が明確であったが、水素添加品は差が認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るキャップ用ライナー及びキャップ並びにキャップ付きボトルの一実施形態において、キャップを示す一部を破断した側面図である。
【図2】本実施形態において、キャップ付きボトルを示す一部を破断した要部側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1…キャップ、2…天板部、3…筒状周壁部、4…キャップシェル(キャップ本体)5…ライナー、6…キャップ付きボトル、7…口金部(口部)、13…ボトル本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトルの口部を封じるキャップの内部に設けられるキャップ用ライナーであって、
少なくとも前記口部に当接する部分が、オレフィン樹脂とエラストマーと炭化水素樹脂との混練である合成樹脂で形成されていることを特徴とするキャップ用ライナー。
【請求項2】
請求項1に記載のキャップ用ライナーにおいて、
前記エラストマーが、スチレン系エラストマーであることを特徴とするキャップ用ライナー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャップ用ライナーにおいて、
前記炭化水素樹脂が、芳香族炭化水素樹脂又は共重合炭化水素樹脂であることを特徴とするキャップ用ライナー。
【請求項4】
請求項3に記載のキャップ用ライナーにおいて、
前記炭化水素樹脂が、水素が添加されて水素飽和化していることを特徴とするキャップ用ライナー。
【請求項5】
請求項3に記載のキャップ用ライナーにおいて、
前記炭化水素樹脂の添加量が、3〜20%であることを特徴とするキャップ用ライナー。
【請求項6】
天板部と該天板部の周縁から垂下した筒状周壁部とからなるキャップ本体と、
前記天板部の内面に設けられた請求項1から5のいずれか一項に記載のキャップ用ライナーとを備えていることを特徴とするキャップ。
【請求項7】
キャップを備えたボトルであって、
前記キャップが、請求項6に記載のキャップであることを特徴とするキャップ付きボトル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−254741(P2008−254741A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95682(P2007−95682)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】