説明

キャノピーを備えた移動農機

【課題】キャノピーの広い下面(裏面)がフラットな面に成形されていて、刈取作業により発生する音が耳元で反射するために、快適な作業の妨げになるという課題があった。
【解決手段】運転部(6)に設けた運転シート(10)の前方に運転ステップ(13)を設け、運転部(6)の上方を覆うキャノピー(21)を備えた移動農機において、キャノピー(21)のルーフ部(22)下面の内、オペレータが運転シート(10)に着座した姿勢及び運転ステップ(13)で起立した姿勢での頭上範囲(R)に、ルーフ部(22)下面により反射する音を乱反射させる乱反射部(26)を設けたことにより、農作業により発生する音がキャノピー(21)のルーフ部(22)下面により反射するのを乱反射させることができるので、ルーフ部(22)により反射する音量を低減できて快適な農作業が可能になると共に、ルーフ部(22)の強度をより高めることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転部に設けた運転シートの前方に運転ステップを設け、運転部の上方を覆うキャノピーを備えたコンバイン等の移動農機に係る。
【背景技術】
【0002】
移動農機、例えばコンバインでは、従来から日除けとしてのキャノピーを設けることにより、運転部で作業するオペレータへの日射しを遮っていた。(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−180133号公報
【特許文献2】特許第3174491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のものはキャノピーのルーフ部下面(裏面)がフラットな面に成形されていて、刈取作業により発生する音が耳元で反射するために、快適な作業の妨げになるという課題があった。
また、反射音を低減するために、ルーフ部下面に吸音を目的としたスポンジを備えたものもあったが、スポンジの経年劣化が懸念されると共に、コストも上昇することになる。
また、通常キャノピーは不透明な樹脂で成型されているので、排出オーガによる穀粒排出作業時に視界の妨げになるという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
運転部に設けた運転シートの前方に運転ステップを設け、運転部の上方を覆うキャノピーを備えた移動農機において、キャノピーのルーフ部下面の内、オペレータが運転シートに着座した姿勢及び運転ステップで起立した姿勢での頭上範囲に、ルーフ部下面により反射する音を乱反射させる乱反射部を設けたことを第1の特徴とする。
また、キャノピーのルーフ部を、紫外線及び赤外線カット加工を施した透明の樹脂によって一体成型したことを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明によると、キャノピーのルーフ部下面の内、オペレータが運転シートに着座した姿勢及び運転ステップで起立した姿勢での頭上範囲に、ルーフ部下面により反射する音を乱反射させる乱反射部を設けたことにより、農作業により発生する音がキャノピーのルーフ部下面により反射するのを効果的に乱反射させることができるので、オペレータの耳元での音量が低減できて快適な農作業が可能になると共に、ルーフの強度をより高めることが可能になる。
また、請求項2に係る発明によると、キャノピーのルーフ部を、紫外線及び赤外線カット加工を施した透明の樹脂によって一体成型したことにより、キャノピーのルーフ部により上方の視界を遮られることが無くなるので、例えばルーフ部より上方位置での作業等もより確実におこなう事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】オペレータが起立姿勢で作業するコンバインの右側面図。
【図2】オペレータが着座姿勢で作業するコンバインの右側面図。
【図3】オペレータが起立姿勢で作業するコンバインの正面図。
【図4】コンバインの平面図。
【図5】キャノピーの左前斜視図。
【図6】ルーフ部の正断面図。
【図7】キャノピー昇降機構の正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面に基づいて本発明の実施形態に係るコンバインについて説明をする。なお、説明中の方向は運転シートに着座したオペレータを基準として考えるものとする。
【0009】
[コンバインの概要]
図1はオペレータが起立姿勢で作業するコンバインの右側面図、図2はオペレータが着座姿勢で作業するコンバインの右側面図、図3はオペレータが起立姿勢で作業するコンバインの正面図、図4はコンバインの平面図であり、コンバイン1は、左右一対のクローラ走行装置2に支持された機体3を有していると共に、機体3の前方には前処理部5が昇降自在に設けられている。前処理部5の側方にはオペレータが運転操作を行う運転部6が設けられている。
【0010】
また、運転部6の後方には脱穀部7と穀粒を一時的に貯留するグレンタンク8が左右に並設され、グレンタンク8の後方には貯留された穀粒を機外に排出する排出オーガ9が接続してある。
【0011】
[運転部の構成]
運転部6は、運転シート10と、運転シート10の下方に構成されたエンジンを内包するエンジン室11と、エンジン室11の上方で運転シート10の後方に設けられたエアクリーナを内包するエアクリーナ室12と、運転シート10の前方下方に配置された運転ステップ13と、運転ステップ13の前方に設けたマルチステアリングレバーやメータユニット等を配置するフロントパネル14と、運転シート10の左側方に設けた主変速レバーや各種自動スイッチ等を配置するサイドパネル15により構成されている。
【0012】
[キャノピーの概要]
21はオペレータへの日差しを遮る日除けとしてのキャノピーであり、運転部6の上方を覆うように設けている。キャノピー21はルーフ部22と支柱部23で構成されていて、支柱部23はエアクリーナ室12の上面を貫通して運転部6に支持してあり、支柱部23の上部に支持したルーフフレーム25を介してルーフ部22を支柱部23で支持している。
【0013】
[ルーフ部の詳細]
図5はキャノピーの左前斜視図、図6はルーフ部の正断面図であり、ルーフ部22は紫外線及び赤外線カット加工が施されたダークグレー色の透明樹脂で成型されている。
そして、機体の右側面視でオペレータが運転ステップ13上に起立している時の頭上位置(図1参照)から、オペレータが運転シート10に着座している時の頭上位置(図2参照)までのルーフ部22下面(裏面)の頭上範囲Rに乱反射部を形成する複数(多数)の凹部26(図6参照)を設けている。
また、ルーフ部22の凹部26より後部には階段状面28が形成してあり、階段状面28の略垂直面には開口部29が複数個形成してある。
【0014】
よって、キャノピー21のルーフ部22下面の内、オペレータが運転シート10に着座した姿勢及び運転ステップ13で起立した姿勢での頭上範囲Rに、ルーフ部22により反射する音を乱反射させる複数の凹部26を設けたことで、コンバイン作業により発生するエンジン、刈刃、チェーン等の音がキャノピー21のルーフ部22下面により反射するのを効果的に乱反射させることができるので、オペレータの耳元での音量が低減できて快適なコンバイン作業が可能になると共に、複数の凹部26により樹脂成型したルーフ部22の強度をより高めることが可能になる。
【0015】
また、キャノピー21のルーフ部22を、紫外線及び赤外線カット加工を施した半透明の樹脂によって一体成型したことにより、キャノピー21のルーフ部22により日除け性能を確保しながら上方の視界を遮られることが無くなるので、例えばルーフ部22より上方位置での排出オーガ9による穀粒排出作業等もより確実におこなう事が可能になると共に、ルーフ部22そのものによる視界の悪化を考慮する必要がなくなり、ルーフ部22の上下深さを深くすることや、ルーフ部22前後左右長を大きくすることが可能になり、キャノピー21の本来の目的である日除け性能を格段に向上することができる。しかも、ルーフ部22の前端部F及び両側面S(頭上範囲R以外の部分)には凹部26を構成しないことで、頭上範囲Rに設けた複数の凹部26により反射音を効果的に低減しながら、視認性を向上することを両立可能になる。
【0016】
また、ルーフ部22の凹部26より後部の下がり面には階段状面28を形成し、階段状面28の略垂直面側に開口部29を複数個形成している。ルーフ部22後部の下がり面に開口部29を設けたことにより、キャノピー21を設けたコンバイン1をトラック輸送する際に、ルーフ部22の下面側を流れる走行風を開口部29を介して効率良く後方に抜くことができて、従来のキャノピー21のように走行風にも耐えうるように強固に構成することでコスト及び重量が必要以上に増すという課題を解決している。しかも、開口部29を階段状面28の略垂直面側に設けることで、開口面積と日除け性能を両立している。
【0017】
[支柱部の詳細]
図7はキャノピー昇降機構の正断面図である。キャノピー21にはオペレータの作業姿勢や体格に合わせたり、トラックによる輸送時や納屋への格納する場合にルーフ部22の高さを調整する昇降機構30を備えており、支柱部23はインナーパイプ31をアウターパイプ32に昇降可能に挿入支持して構成されている。アウターパイプ32の上端にはキャノピー21の昇降機構30を収納するケース35が支持してあり、ケース35内に回転自在に支持したウォーム36と一体回転するベベルギヤ38と、同じくケース35に支持した昇降ハンドル39と一体回転するベベルギヤ41とを噛み合わせている。
また、インナーパイプ31のウォーム36と対向する位置には上下(昇降)方向にラック42が設けられており、昇降ハンドル39を回転させるとベベルギヤ41、ベベルギヤ38、ウォーム36、ラック42を介してインナーパイプ31がアウターパイプ32に対して昇降することでキャノピー21のルーフ部22が昇降することになる。
【0018】
上記の通り、インナーパイプ31の上下方向に設けたラック42と、アウターパイプ32のケース35に縦軸周りに回転可能に軸支したウォーム36とを噛み合わせて昇降機構30を構成したことにより、昇降ハンドル39の操作によりルーフ部22の高さを無段階に調整できるものでありながら、特許文献2のようなロック機構を設けることなく、ウォーム36とラック42との噛み合わせ作用によりルーフ部22の自重による下降を防止できる。
【0019】
[別実施例]
上記実施の形態では、コンバインの実施例を示したが、本発明は各種移動農機に適用できるものである。
例えば、フロントローダを備えたトラクタに適用した場合には、吸音スポンジ等を設けることなくルーフを備えたことによる反射音を低減できるし、従来の不透明なルーフ部では視認できないルーフ部より高い位置にバケットを上昇しても、吸音スポンジのない透明のルーフ部22を介してフロントローダを視認することができ、より的確に作業することができるものである。
また、ルーフ部22をダークグレー色の透明樹脂で成型した実施例を示したが、紫外線及び赤外線がカットできればブルーやレッド等の他の色も適用できるものである。
また、ルーフ部22に乱反射部として長丸に成形した凹部26を多数設けた実施例を示したが、ルーフ部22の反射音を和らげられれば、凹部26の形状や個数は適宜設定できるし、凹部26に代えて凸部にしてもよい。
また、ルーフ部22の頭上範囲Rに凹部26を多数設けた実施例を示したが、ルーフ部22全体に凹部26を設けてもよい。
【符号の説明】
【0020】
6 運転部
10 運転シート
13 運転ステップ
21 キャノピー
22 ルーフ部
26 凹部(乱反射部)
R 頭上範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転部(6)に設けた運転シート(10)の前方に運転ステップ(13)を設け、運転部(6)の上方を覆うキャノピー(21)を備えた移動農機において、
キャノピー(21)のルーフ部(22)下面の内、オペレータが運転シート(10)に着座した姿勢及び運転ステップ(13)で起立した姿勢での頭上範囲(R)に、ルーフ部(22)下面により反射する音を乱反射させる乱反射部(26)を設けたことを特徴とするキャノピーを備えた移動農機。
【請求項2】
キャノピー(21)のルーフ部(22)を、紫外線及び赤外線カット加工を施した透明の樹脂によって一体成型したことを特徴とする請求項1記載のキャノピーを備えた移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−120512(P2011−120512A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279961(P2009−279961)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】