説明

キャピラリチップにおける流体の流通方法

本発明は、ポリマー組成物からなる層と、前記ポリマー組成物からなる層の表面又は内部に形成されたキャピラリとを有するキャピラリチップを用いて、前記キャピラリ内の流体を流通させる流通方法であって、前記キャピラリは、流通制御部を備え、前記流通制御部は、複数の連続した開閉部からなり、前記開閉部は、前記ポリマー組成物の体積が増加することにより閉状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止し、前記ポリマー組成物の体積が減少することにより開状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を許容し、前記流通方法は、前記流通制御部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記複数の開閉部を流通方向に順次開状態から閉状態に切り替え、前記キャピラリ内の流体を流通させるステップ(a)、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、キャピラリチップ、特に微量試料の分析を簡便に行うための有用なキャピラリを備えたキャピラリチップに関する。
〔技術背景〕
マイクロマシン技術の応用として、化学分析システムの微小化、集積化は最も有望な分野の一つである。微小化、集積化した化学分析システムは、マイクロTAS(Micro Total Analysis Systems)といわれる。マイクロTASは、試料及び試薬である液体の流路となるキャピラリ、反応スペース、検出スペースが、通常約1〜2cm角程度の1枚のキャピラリチップに形成されているシステムである。このシステムは、試料の節減、分析の高速化、前処理を含めた測定の自動化、装置のポータブル化、装置のディスポーザブル化、装置の低コスト化などが図れるとして期待されている。
例えば、血液等を試料とする医療診断用途の分析装置においては、患者のベッドサイド等でも簡便に使用することができ、また試料が触れるキャピラリチップを使い捨てにすることができるマイクロTASは非常に有用である。
今後、マイクロTASを用いた高度なシステムを構築するためには、キャピラリチップ中の流路の開閉を制御するマイクロバルブや、流路において流体を流通させる送液駆動素子などの微小な流通制御素子の開発が不可欠である。
流路において、液体を流通させる方法としては、キャピラリチップ外の送液ポンプまたは吸引ポンプを用いる方法が一般的である。この方法では、外部ポンプが必要となるため、制御の応答性、連続的な変化、耐久性、医療現場において重要な静粛性、等の点で問題がある。また、装置全体が大きくなることや、キャピラリチップと外部ポンプとの接続部分での洩れの恐れもある。
その他に、流路中の液体に泳動電圧を印加することにより生じる電気浸透流を利用して流路中の流体を流通させる方法も知られている(例えば、特開平8−261986号公報参照)。この方法によると、流路内の液体に電極を介して電圧をかけるため、電極表面で測定試料や試薬の電気分解が生じて、試料組成や試薬組成が変化してしまうことがある。
また、前記マイクロバルブとして、ワックスで流路を塞ぐバルブが知られている(例えば、特表2000−514928号公報参照)。しかしながら、ワックスを用いたバルブは、ある程度太い流路にしか採用できない、液体中の成分がワックスに吸着する、開閉の迅速な制御が困難である、等の問題がある。
また、その他のマイクロバルブとして、カップラーを用いたバルブが知られている(例えば、特開2001−165939号公報参照)。かかるバルブは、流路に液体を供給する液溜めの大気に通じる部分に、カップラーを密着させることにより、その液溜めへ流入する、或いはその液溜めから流出する液体の流れを止める機能を有する。流体の流通は、カップラーを密着状態から取り外すことにより回復させることができる。しかしながら、このバルブによると、カップラーを液溜めと気密性が保たれる形で密着させる必要があり、その作製及び操作が煩雑となる。さらに、流路の開閉部を任意に選択できないという問題がある。
また、K.Tashiro et al,“A Particles and Biomolecules sorting micro flow system using thermal gelation of methyl cellulose solution”,Micro Total Analysis System 2001,p.471−473には、レーザでの照射によりゲル化する溶液を調製し、流路中の溶液をゲル化させることにより流路を塞ぐ方法が開示されている。しかしながら、この方法においては、特定の条件をみたす溶液を調製しなければならない。また、この方法は、流路を塞ぐために利用することはできるが、開閉用バルブとしての複数回の利用は、開状態が液状となるため困難である。
また、特表2003−503716号公報には、ポリマー材料からなるプラグを流路内に設け、このポリマー材料の体積変化を利用して、流路を開閉する方法が開示されている。しかしながら、この方法においては、前記プラグを任意の位置に設ける必要があり、さらにプラグを設けた位置でないと、開閉を行うことができないという問題点がある。
【発明の開示】
本発明は、キャピラリチップにおいて、試料や試薬の組成を変化させることなく、簡単な方法でキャピラリ内の流体を流通させる流通方法及び当該流通方法を実施可能な流通制御装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、ポリマー組成物からなる層と、前記ポリマー組成物からなる層の表面又は内部に形成されたキャピラリとを有するキャピラリチップを用いて、前記キャピラリ内の流体を流通させる流通方法であって、前記キャピラリは、流通制御部を備え、前記流通制御部は、複数の連続した開閉部からなり、前記開閉部は、前記ポリマー組成物の体積が増加することにより閉状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止し、前記ポリマー組成物の体積が減少することにより開状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を許容し、前記流通方法は、前記流通制御部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記複数の開閉部を流通方向に順次開状態から閉状態に切り替え、前記キャピラリ内の流体を流通させるステップ(a)、を有する。この方法においては、ポリマー組成物の温度を変化させるだけという簡単なステップ(a)によって、前記キャピラリ内の流体を流通させることができる。
さらに、上記流通方法において、ステップ(a)を繰り返して複数回行ってもよい。ステップ(a)を繰り返すことによって、流通制御部内の流体が繰り返し押し出されることになる。また、各ステップ(a)の後に、以下のステップ、すなわち、前記流通制御部において、流通方向下流端から1個または複数個の開閉部を閉状態にしたまま、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより他の開閉部を閉状態から開状態に切り替えるステップ(b)、ステップ(b)の後、ステップ(b)において閉状態である前記開閉部を開状態に切り替えるステップ(c)、を有してもよい。この場合、ステップ(c)と実質的同時に、次のステップ(a)を開始させる。この方法により、前記流通制御部をポンプとして機能させることができる。
また、上記流通方法において、さらに以下のステップ、すなわち、前記開閉部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記開閉部を閉状態として前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止するステップ(d)、前記開閉部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記開閉部を開状態として前記キャピラリを流れる流体の流通を許容するステップ(e)、を有してもよい。この場合、ステップ(a)による流通と、ステップ(d)、(e)による開閉を組み合わせて、キャピラリチップ上の流体の流通をより複雑に制御することができる。
前記ポリマー組成物としては、例えば、温度上昇によって体積が増加し、温度下降によって体積が減少するポリマー組成物を用いることができる。あるいは、温度上昇によって体積が減少し、温度下降によって体積が増加するポリマー組成物を用いることができる。さらには、両者の組み合わせにより、複雑な流路において開状態と閉状態を同時に制御することも可能である。
前記ポリマー組成物の具体例として、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖結晶性繰り返しユニットと、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖非結晶性繰り返しユニットとを含むポリマー組成物を挙げることができる。
前記キャピラリチップの一形態として、前記キャピラリが前記層の表面に形成されており、前記層の表面には蓋平板が密着している構成が挙げられる。
前記キャピラリチップは、前記キャピラリに接続している流体注入口および流体排出口をさらに備えていてもよい。
ステップ(a)は、好適には、前記流通制御部の前記開閉部を流通方向に順次、例えばレーザーを照射することにより加熱するステップである。この場合、前記加熱を、例えばレーザーを照射することにより行うことができる。
ステップ(b)及びステップ(c)において、例えば、前記開閉部を空冷することにより前記開閉部を閉状態から開状態に切り替えてもよい。
前記ポリマー組成物として、好ましくは、その第1次溶融転移により前記体積変化するポリマー組成物が用いられる。さらに好ましくは、前記ポリマー組成物の第1次溶融転移は、80℃以下で起こるものとする。
前記キャピラリの断面積は、例えば、10000μm以上でかつ250000μm以下でありうる。
前記キャピラリチップは、さらに前記キャピラリに接続している流体注入口を複数有し、前記キャピラリは各流体注入口に対応するように複数の開閉部を有する構成であっても良い。
また、本発明は、キャピラリチップ装着部と、レーザー照射部と、レーザー制御部とを備えた流通制御装置であって、前記キャピラリチップ装着部は、キャピラリチップを装着可能であり、前記キャピラリチップは、ポリマー組成物からなる層と、前記ポリマー組成物からなる層の表面又は内部に形成されたキャピラリとを有し、前記キャピラリは、流通制御部を備え、前記流通制御部は、複数の連続した開閉部からなり、前記開閉部は、前記ポリマー組成物の体積が増加することにより閉状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止し、前記ポリマー組成物の体積が減少することにより開状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を許容し、前記レーザー照射部は、前記キャピラリ装着部に装着されたキャピラリチップにレーザー照射可能であり、前記レーザー制御部は、前記レーザー照射部による前記キャピラリ装着部に装着されたキャピラリチップへのレーザー照射位置を制御可能であり、前記開閉部を流通方向に順次レーザー照射することによって、前記開閉部が流通方向に順次開状態から閉状態に切り替わり、前記キャピラリ内を流体が流通する、流通制御装置である。
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
図1は、第1の実施形態で用いるキャピラリチップの外観を模式的に示す(a)斜視図、(b)Ib−Ib断面を示す断面図、(c)Ic−Ic断面を示す断面図である。
図2は、開閉部の開閉制御方法を模式的に示す断面図である。
図3は、流通制御部の流通制御方法を模式的に示す断面図である。
図4は、キャピラリチップの第1の作製方法を示す図である。
図5は、キャピラリチップの第2の作製方法を示す図である。
図6は、キャピラリチップの第3の作製方法を示す図である。
図7は、第2の実施形態で用いるキャピラリチップの外観を模式的に示す斜視図である。
図8は、第3の実施形態で用いるキャピラリチップの外観を模式的に示す(a)斜視図、(b)VIIb−VIIb断面を示す断面図、(c)VIIc−VIIc断面を示す断面図である。
図9は、第1の実施形態における流通制御装置の構成を示すブロック図である。
図10は、図9とは異なる形態の流通制御装置の構成を示すブロック図である。
参照符号一覧表
1,1’,13 キャピラリチップ
2a,2b,2c,2d 蓋平板
3a,3b 主平板(溝形成用平板)
3c 主平板(スリット形成用平板)
11 基板
11a,llb 流路周辺部
21 試料注入口
22,23 試薬注入口
24 排出口
31 本流路
32,33 支流路
31a,32a,33a 溝
31b,32b,33b 溝
31c,32c,33c スリット
34 本流路
35,36,37,38,39 支流路
35a,36a,37a,38a,39a 反応層
25,26,27,28,29 排出口
P1,P2 合流点
V1,V2,V3,V4,V5 開閉部
C1,C2 流通制御部
51,57 流通制御装置
52 キャピラリチップ装着部
53 ガイド部材
54 レーザー発生器
55 光学系
56 レーザー制御部
58 注入手段
59 検出手段
60 分析手段
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。
(第1の実施形態)
[キャピラリチップの構成]
図1(a)は、本実施形態で用いるキャピラリチップ1の外観を模式的に示す斜視図である。図1(b)は、図1(a)のIb−Ib断面を示す断面図、図1(c)は図1(b)のIc−Ic断面を示す断面図である。図1(a)〜図1(c)に示すように、キャピラリチップ1は、本流路31、支流路32,33、試料注入口21、試薬注入口22,23、及び排出口24が形成された矩形の平面形状を有する基板11を備える。各流路31,32,33は、キャピラリで構成されている。本流路31には、合流点P1で支流路32が合流し、合流点P2で支流路33が合流する。基板11は、好ましくは地面に対して水平に置かれる。
試料注入口21は、断面円形の孔で構成され、基板11表面から本流路31の上流端部まで延びる。試薬注入口22は、断面円形の孔で構成され、基板11表面から支流路32の上流端部まで延びる。試薬注入口23は、断面円形の孔で構成され、基板11表面から支流路33の上流端部まで延びる。排出口24は、断面円形の孔で構成され、基板11表面から本流路31の下流端部まで延びる。試料注入口21、試薬注入口22,23、排出口24により、各流路31,32,33が開放系となり、流体の流通を許容できるようになる。
本流路31は、合流点P2より下流側に本流路31の開閉を制御する開閉部V1を備える。また、本流路31は、上流端部近傍に流路中の流体を押し出すことにより流体を移動させる機能、及び流路中の流体に下流方向の力を与え流体の流通を開始させる機能を有する流通制御部C1を備える。
流路31,32,33の横断面形状は、四角形、三角形等の多角形の形状、円形、半円形、半楕円形等とすることができ、特に制限されない。キャピラリチップ1において流通させる流体は液体とする。流路31,32,33の断面積は、流通させる液体の粘度及び液体中の微粒子の大きさによるが、1μm以上でかつ1000000μm以下であることが好ましく、10000μm以上でかつ250000μm以下であことがより好ましい。1μmより小さいと、微粒子により流通が乱される原因となり、また生じる表面張力に抗して流体を流通させることが困難となる。一方、1000000μm以上であると、マイクロチップ1の用途に適した大きさの基板11に複数の流路を形成することが困難となる。
基板11の大きさは、形成する流路パターンによって決まるが、例えば厚みは5mm以上でかつ50mm以下、長辺は5mm以上でかつ50mm以下、短辺は3mm以上でかつ50mm以下で有り得る。
試料注入口21、試薬注入口22,23の大きさは、ピペット、シリンジ等の注入手段による試料又は試薬の注入が可能な大きさであれば特に限定されることはない。試料注入口21、試薬注入口22,23は大きさによって、試料又は試薬の液溜めとして機能する。試料注入口21、試薬注入口22,23の大きさが液溜めとして十分でない場合は、これに例えば円筒状部材を接続し、液溜めを構成しても良い。尚、試料注入口21、試薬注入口22,23の断面形状は、円形に限定されることはなく、多角形等であっても良い。
[開閉部の構成]
図1(a)〜図1(c)に示すように、開閉部V1は、本流路31の周辺部11a(以下、流路周辺部11aという)から構成されている。流路周辺部11aは、基板11の本流路31を所定の長さでかつ全周に渡って囲む部分で構成されている。流路周辺部11aは、ポリマー組成物よりなる。ここでは、開閉部V1を構成する流路周辺部11aを本流路31の全周を囲む部分としたが、流路周辺部11aは本流路31の全周の一部を囲む部分であってもかまわない。開閉部V1は、ポリマー組成物の体積に応じて開状態あるいは閉状態をとる。開閉部V1は、ポリマー組成物の温度変化による体積増加により、開状態から閉状態となり、また、ポリマー組成物の温度変化による体積減少により、閉状態から開状態となる。開閉部V1は、開状態で液体の流通を許容し、閉状態で液体の流通を阻止する。ポリマー組成物の前記体積増加、体積減少は、可逆変化である。ポリマー組成物の体積変化が可逆変化であることにより、回数に限定されない開閉の制御が可能となる。
ポリマー組成物としては、温度上昇により体積増加し、温度下降により体積減少するポリマー組成物、あるいは温度下降により体積増加し、温度上昇により体積減少するポリマー組成物、いずれをも使用することができる。前者のようなポリマー組成物は、ニッタ(株)より、クールオフタイプのインテリマー(登録商標)として入手可能である。後者のようなポリマー組成物は、ニッタ(株)より、ウォームオフタイプのインテリマー(登録商標)として入手可能である。いずれも、板状のポリマー組成物である。前記ポリマー組成物として、好ましくは、特定の温度領域において、第1次溶融転移するポリマー組成物を用いる。そして、第1次溶融転移による体積変化を開閉の制御に利用する。第1次溶融転移による体積変化は、温度変化に対する体積変化が大きく、開閉部V1の開閉の2値制御が容易となるので好ましい。本明細書において、前記ポリマー組成物が第1次溶融転移する温度領域を溶融温度領域という。第1次溶融転移するポリマー組成物を用いた場合、溶融温度領域より低い温度から溶融温度領域より高い温度へ、あるいは溶融温度領域より高い温度から溶融温度領域より低い温度へ変化させることにより、開閉部V1の開閉を制御する。
ポリマー組成物の溶融温度領域は、狭い程好ましい。開閉を制御するために必要な温度変化が小さく、開閉の迅速な制御が可能となるからである。好ましくは、溶融温度領域内の最高温度と最低温度の差が15℃以下のポリマー組成物を使用する。さらに、流体が変性することがない温度領域において第1次溶融転移するポリマー組成物が好ましい。また、溶融温度領域内の温度が、流体の凝固点より高く、沸点より低いポリマー組成物を使用する。開閉部V1付近の流体の温度は、開閉部V1の温度の影響を受けるからである。好ましい溶融温度領域は、流通させる流体の種類によって異なるが、例えば、溶融温度領域内の温度が30℃以上80℃以下のポリマー組成物を使用することができる。
上記ポリマー組成物として、特開2002−322448号公報、米国特許第5,156,911号公報、米国特許第5,387,450号公報に記載されている温度感応性ポリマー組成物を用いることができる。具体的には、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖結晶性繰り返しユニットと、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖非結晶性繰り返しユニットとを含有する温度感応性ポリマー組成物を用いることができる。より具体的には、側鎖結晶性繰り返しユニットとしてヘキサデシルアクリレートを、側鎖非結晶性繰り返しユニットとしてヘキシルアクリレートを含有する温度感応性ポリマー組成物を用いることができる。
また、好ましくは、溶融温度領域より低い温度から溶融温度領域より高い温度へ変化させると体積増加し、溶融温度領域より高い温度から溶融温度領域より低い温度へ変化させると体積減少するポリマー組成物であって、溶融温度領域内の温度が室温(25℃)より高いポリマー組成物を使用する。このようなポリマー組成物を使用すると、開閉部V1は、室温では開状態であり、加熱によって閉状態となり、また放置することにより、すなわち空冷により開状態となる。通常、開状態から閉状態への切り替えの方が、閉状態から開状態への切り替えより迅速性を要求される。例えば、レーザーによる加熱は、局所的な温度変化を迅速に達成することができ、開状態から閉状態への制御に適している。
加熱手段としてレーザーを用いる場合、必要な加熱能力を有するものであれば、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザーなど種類を選ばない。レーザーは、加熱対象であるポリマー組成物からなる流路周辺部11aの加熱に適した波長の光を発するものであれば限定されない。例えば、IRレーザーにより1450nm〜1490nmの波長の光を発するものを用いることができる。加熱温度は、レーザーの出力及び照射時間によって制御する。
[開閉部の開閉制御方法]
開閉部V1の開閉制御方法について説明する。ここでは、Taより低い温度では開状態であり、Tbより高い温度では閉状態である開閉部V1について説明する。尚、Ta<Tbであり、Ta>室温(25℃)である。以下においては、加熱手段としてレーザーを、冷却手段として空冷を用いる場合について説明する。
図2は、開閉部V1の開状態(a)と閉状態(b)を図1(c)と同一の断面において模式的に示す断面図である。室温では、図2(a)に示すように開閉部V1は、開状態である。この状態で、開閉部V1にビーム状のレーザー光(以下、「レーザービーム」ともいう)Lを照射する。すると、開閉部V1は、局部的に加熱されて、その温度が室温からTbより高い温度まで上昇する。すると、流路周辺部11aのポリマー組成物の体積が増加するが、基板11の流路周辺部11a以外の部分の体積は変化しないので、流路周辺部11aは、流路を狭める方向に膨張し、それにより開閉部V1が図2(a)に示す開状態から、図2(b)に示す閉状態となる。開閉部V1の加熱を継続し、開閉部V1をTbより高い温度に維持すると、閉状態が維持される。一方、開閉部V1の加熱を停止し、放置すると、開閉部V1はTbより高い温度からTaより低い温度である室温まで冷却され、体積が減少し、図2(b)に示す閉状態から、図2(a)に示す開状態となる。
次に、加熱により体積が減少し、冷却により体積が増加するポリマー組成物を用いる場合について説明する。ここでは、Tcより高い温度では開状態であり、Tdより低い温度では閉状態である開閉部V1について説明する。尚、Td<Tcであり、Tc<室温(25℃)である。室温では、図2(a)に示すように開閉部V1は、開状態である。この状態で、開閉部V1を冷却する。すると、開閉部V1は、局部的に冷却されて、その温度が室温からTdより低い温度まで下降する。このとき、流路周辺部11aのポリマー組成物の体積が増加するが、基板11の流路周辺部11a以外の部分の体積は変化しないので、流路周辺部11aは、流路を狭める方向に膨張し、それにより開閉部V1が図2(a)に示す開状態から、図2(b)に示す閉状態となる。開閉部V1の冷却を継続し、開閉部V1をTdより低い温度に維持すると、閉状態が維持される。一方、開閉部V1の冷却を停止し、放置すると、開閉部V1はTdより低い温度からTcより高い温度である室温まで加熱され、体積が減少し、図2(b)に示す閉状態から、図2(a)に示す開状態となる。
[流通制御部の構成]
図3(a)〜図3(f)は、図1(c)と同一の断面において流通制御部C1の制御手順を模式的に示す部分断面部である。
図3(a)に示すように、流通制御部C1は、本流路31の周辺部11b(以下、流路周辺部11bという)から構成されている。流路周辺部11bは、基板11の本流路31を所定の長さでかつ全周に渡って囲む部分で構成されている。前記流路周辺部11bは、ポリマー組成物よりなり、上記開閉部V1における開閉制御と同様の制御が可能な流通制御用開閉部V2が複数隣接してなる構成である。ここでは、流路周辺部11bを本流路31の全周を囲む部分としたが、流路周辺部11bは本流路31の全周の一部を囲む部分であってもかまわない。流通制御部C1を形成するポリマー組成物として好ましい材料は開閉部V1の説明において記載した材料と同様である。
[流通制御部の制御方法]
まず、流通制御部C1を用いて流路31内の液体を送液する方法について説明する。各流通制御用開閉部V2の開閉制御方法は、前記開閉部V1の制御方法と同様であるので、説明を省略する。図3(a)〜図3(c)に示すように、液体で満たされた状態の流通制御部C1の各流通制御用開閉部V2を流通方向の上流側(試料注入口21側)から流通方向の下流側(排出口24(図1参照)側)に順次レーザービームLを照射して加熱することにより閉状態にする。これにより、上流側から下流側に液体を押し出し、流路31内で液体を流通させることができる。また、液体の粘度等によるが、上記押し出しにより液体に下流方向の力を与え、流通を開始させることも可能である。また、押し出す速度を調節することにより流速を制御することも可能である。さらに、上記押し出しを繰り返すことにより流通制御部C1がポンプとして機能し、本流路31中の液体を流通させることができる。
以下、流通制御部C1をポンプとして機能させる制御方法を図3(a)〜図3(f)を用いて説明する。流通制御部C1において、各流通制御用開閉部V2は、Taより低い温度では開状態であり、Tbより高い温度では閉状態であるとする。尚、Ta<Tbであり、Ta>室温(25℃)である。以下においては、加熱手段としてレーザーを、冷却手段として空冷を用いる場合について説明する。
試料注入口21から注入された液体で満たされている本流路31において、全ての流通制御用開閉部V2が開状態である状態(図3(a)から、各流通制御用開閉部V2を上流側から下流側に順次レーザービームLを照射して加熱することにより、閉状態とし(図3(b))、最後に最下流の流通制御用開閉部V2を閉状態とする(図3(c))。図3(b)、(c)に示すステップにおいて、流通制御部C1内の液体が押し出される。その後、最下流の流通制御用開閉部V2を閉状態としたまま、他の流通制御用開閉部V2を開状態とすることにより、流通制御部C1は、液体で満たされる(図3(d))。その後、最下流の流通制御用開閉部V2を開状態にすると同時に、流通制御部C1の各流通制御用開閉部V2を上流側から下流側に順次レーザー光Lを照射して加熱することにより閉状態とし(図3(e))、最後に最下流の流通制御用開閉部V2を閉状態とする(図3(f))。図3(e)、(f)に示すステップにおいて、流通制御部C1内の液体が押し出される。上記制御を繰り返すことにより、流通制御部C1がポンプとして機能する。
尚、流通制御部C1内の各流通制御用開閉部V2を、単独で開閉制御して、流体の流通の阻止/許容を切り替える開閉部として機能させても良いことは勿論である。
[キャピラリチップの使用方法]
図1(a)〜図1(c)において、キャピラリチップ1は、例えば、次のように使用することができる。試料注入口21に試料を注入し、試薬注入口22に第1の試薬を注入する。合流点P1で、本流路31を流通する試料流に、支流路32を流通する試薬流が合流し混合流となる。そして、合流点P1より下流において、試料と第1の試薬とが混合され、反応が起こる。
また、適当なタイミングで、試薬注入口23に第2の試薬を注入する。合流点P2で、前記混合流に支流路33を流通する試薬流が合流する。合流点P2より下流において、試料と第2の試薬とが混合され、反応が起こる。反応が完了する本流路31の位置P3において、任意の分析を行う。例えば、光熱変換法、蛍光法、吸光度法、化学発光法などの光学的検出方法などを用いて、反応溶液の検出を行うことにより、試料の分析を行うことができる。または、顕微鏡で反応溶液を観察することにより、試料の分析を行うことができる。
尚、開閉部V1を閉状態とすることにより試料と第1の試薬、第2の試薬との反応時間を調整することができる。また、流通制御部C1において、上述の流通制御を行うことにより、流路中の液体の流通を促進することができる。
生化学検査項目のように、試料と試薬とを反応させ、分離することなく必要な検出ができる場合は、キャピラリチップ1を用いることにより、混合から反応、検出まで一貫した流路で連続的に処理が可能である。
本実施形態で用いる試料としては、血液、髄液、唾液、尿等の生体試料が挙げられる。これらの生体試料を用いた場合、血液、髄液、唾液や尿中に含まれる生体成分、臓器・組織・粘膜由来の生体成分、感染源となる菌やウィルスなどの蛋白、DNA、RNA、アレルゲン、種々の抗原等が検出対象物質となりうる。
[その他の構成]
キャピラリチップ1における流路は、試薬や試料の移送を主な目的とした流路(本流路31の上流端部から合流点P1まで,支流路32,33)、試薬や試料の混合を主な目的とした流路(本流路31の合流点P1から合流点P2まで)、試薬や試料の混合及び反応液の検出を主な目的とした流路(本流路31の合流点P2から下流端部まで)からなる。流路の構成は、本実施形態に示すものに限定されることはなく、用途に応じて設計しうる。
キャピラリチップ1における流路は、一つの操作(例えば、一定量のサンプリングや試料、試薬の移送等)を主な目的とした流路部分のみからなっていてもよいが、上記のように複数の各々異なった操作を主な目的とした流路を組み合わせてなるものであっても良い。このことにより単なる定性分析ではなく、定量分析を伴うような高度な分析が可能な装置を構成することができる。
また、流路の構成としては、例えば試料や試薬の混合や希釈を主な目的とした流路の形状として、1本の流路に他の流路を合流させた形状(図1に示す形状)や、1本の流路に複数本の流路を一カ所で合流させた形状などを挙げることができる。1本の流路に他の流路または複数の流路を合流させ1本の流路とすることにより、流路形状のみで、混合操作や希釈操作を行うことができる。また、合流する流路からの液体の流量を変えることにより、異なった比率での試料、試薬の混合や希釈も可能である。
液体を均一化する流路部分の平面視形状としては、直線状の形状、蛇行状や渦巻き状に曲げられた形状などの形状が挙げられる。また、流路中に他の部分より流通方向の単位長さに対する体積が大きい反応部を設ける構成(後述する第2の実施形態)とすることにより、試料と試薬との混合及び反応が進行しやすい構成とすることができる。さらに、上記とは逆に、1本の流路が多数本に別れる流路を構成する(流路を分岐する)ことにより、分流を行うことも可能である。
また、流路の設計以外に、開閉部や流通制御部を所望の位置に備える構成とすることにより、希釈や他の試薬との反応のタイミング等の制御を行うことができる。
尚、本実施形態においては、各流路31,32,33が基板11に形成されているキャピラリチップを用いたが、本発明を適用しうるキャピラリチップはこの構成に限定されることはなく、例えば、各流路31,32,33が円柱状の基体に形成されているものであっても良い。
上面が開放された溝で構成されている流路を有するキャピラリチップを用いても、上述のような開閉制御、流通制御を行うことができるが、本実施形態のように、各流路の全周がポリマー組成物からなるキャピラリで構成されているキャピラリチップを用いる方が、上述の開閉制御、流通制御を効果的に行う点から好ましい。
この他、試料や試薬に悪影響を与えないことを条件として、試料注入口を構成する貫通孔21の周囲を加熱して貫通孔21の体積を小さくして、貫通孔21からなる試料注入口から本流路31に押し出すように流体を流してもよい。なお、冷却により体積が大きくなるポリマー組成物を使う場合には、当然、試料注入口を構成する貫通孔21の周囲を冷却して貫通孔21の体積を小さくする。
[キャピラリチップの流通制御装置]
次に、キャピラリチップ1の流路31内における液体の流通を制御するための、流通制御装置の一形態について説明する。図9は、流通制御装置51のブロック図である。流通制御装置51は、キャピラリチップ装着部52と、レーザー発生器54、光学系55及びレーザー制御部56を備える。本明細書においては、レーザー発生器54及と光学系55とをあわせてレーザー照射部ともいう。流通制御装置51は、キャピラリチップ装着部52にキャピラリチップ1を装着して使用する。キャピラリチップ装着部52は、例えばキャピラリチップ1を装着するためのガイド部材53を有する。レーザー発生器54から発され、光学系55で細く絞られたレーザービームLは、キャピラリチップ1に照射される。レーザー制御部56は、光学系55を制御し、光学系55内部でレーザービームLを偏向させることによりレーザービームLの照射位置を制御する。レーザー制御部56は、レーザービームLが開閉部V1、流通制御部C1の開閉部V2に照射されるように制御する。また、レーザー制御部56の制御により、レーザービームLを走査しながら照射することもでき、さらには光学系55におけるレーザービームLの絞り具合を調整して、隣接する複数の開閉部V2を同時に照射することもできる。
したがって、流通制御装置51により上述の開閉部V1,V2の開閉制御方法や、流通制御部C1の流通制御方法を実施することができる。
なお、流通制御装置は、複数のレーザービームLを同時に照射することができるレーザーを備えている構成であってもよい。また、レーザービームLの照射が、キャピラリチップ1の任意の位置になされるようにキャピラリチップ1を駆動する駆動手段を有する構成であってもよい。
図10は、図9とは異なる形態の流通制御装置57のブロック図である。図10において、図9と同じ構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
図10に示す流通制御装置57は、図9に示す流通制御装置51において、試料注入口21、試薬注入口22,23に試料又は試薬を注入可能な注入手段58、排出口24から排出液を排出可能な排出手段59、上述した分析が可能な例えば顕微鏡などの分析手段60を備えている構成である。このような構成により、一つの装置において、試料及び試薬の注入、開閉制御、流通制御、分析を行うことができる。
また、図9、図10に示す流通制御装置においては、キャピラリチップ装着部52に装着するキャピラリチップ1を取り替えるだけで、異なるキャピラリチップ1の反応を分析することができる。
[キャピラリチップの第1の作製方法]
本方法において、キャピラリチップ1は主平板(溝形成用平板)と、蓋平板を貼り合わせて作製される。図4(a)は蓋平板2aの上面図、図4(b)は主平板3aの上面図、図4(c)は本作製方法により作製されたキャピラリチップ1の縦断面の断面図である。前記縦断面は、本流路31を縦方向に切断する断面である。
図4(b)に示すように、主平板3aの表面に流路となる溝31a,32a,33aを形成する。図4(a)に示すように、蓋平板2aに、それぞれ試料注入口、試薬注入口、排出口となる四つの貫通孔21a,22a,23a,24aを形成する。そして、図4(c)に示すように、主平板3aと、蓋平板2aとを、主平板3aの溝31a,32a,33aが形成されている面を内側にして貼り合わせることにより、キャピラリチップ1を作製する。
主平板3aとして、基板上の表面に特定のポリマー組成物からなる層(以下、ポリマー組成物層と称す)が形成されたものが用いられる。かかるポリマー組成物の詳細については、開閉部V1を形成するポリマー組成物として上述したものと同様である。基板上へのポリマー組成物層の形成方法は、限定されることはなく、例えばスプレー堆積、塗装、浸漬、グラビア印刷、圧延などの多くの方法により行うことができる。
より具体的には、PETフィルムからなる基板の表面に第1次溶融転移するポリマー組成物からなる層が形成された感温性粘着テープであるクールオフタイプのインテリマー(登録商標)(ニッタ株式会社製)を主平板3aの材料として用いることができる。クールオフタイプのインテリマー(登録商標)は、溶融温度領域より低い温度から高い温度に加熱することにより体積が増加し、溶融温度領域より高い温度から低い温度に冷却することにより体積が減少する。前記クールオフタイプのインテリマー(登録商標)として、溶融温度領域が略30℃以上40℃以下のインテリマー(登録商標)、略40℃以上50℃以下のインテリマー(登録商標)等が、主平板3aの材料として適している。
溝31a,32a,33aは、ポリマー組成物層の表面に形成される。ポリマー組成物層の厚みは、溝31a,32a,33aの深さよりも厚ければ特に限定されず、主平板3a全体が特定のポリマー組成物で形成されたものであっても良い。本方法においては、溝全体がポリマー組成物で形成されるので、流路中の任意の部位を開閉部又は流通制御部とすることができる。この場合、加熱手段として、任意の部位を照射可能な例えば移動式レーザーのような加熱手段を用いることが好ましい。
また、ここでは、蓋平板2aの内部にも、前記のポリマー組成物層が形成されている。このような構成により、主平板3aと蓋平板2aとを貼り合わせることにより形成される流路31,32,33の全周が、ポリマー組成物で形成される。ただし、この構成に限定されることはなく、蓋平板2aには、前記ポリマー組成物が形成されていない構成であっても良い。この場合、流路31,32,33は、その全周の一部がポリマー組成物で形成されることになる。
主平板3aの基板(すなわちポリマー組成物層以外の部分)、及び蓋平板2a(ポリマー組成物層以外の部分)は、シリコンやガラス等の無機材料や有機ポリマーで作製することができる。主平板3aの基板、及び蓋平板2aの少なくとも一方は、加熱手段が発する光の波長に対して透明性を有する材料を使用する。例えばレーザーにより開閉部V1又は流通制御部C1を加熱する場合、キャピラリチップ1の外部からレーザー光を照射するので、外部から開閉部V1及び流通制御部C1までレーザー光を到達させる必要があり、レーザー光の光路において透明性を確保する必要があるからである。
主平板3aの表面の溝31a,32a,33aは、切削加工やレーザーによるエッチング加工等の方法により形成する。蓋平板2aの貫通孔21a,22a,23a,24aは、超音波加工等の方法により形成する。蓋平板2aの貫通孔21a,22a,23aは、主平板3aの各溝31a,32a,33aの最上流位置に略対応する位置に形成する。貫通孔24aは、溝31aの最下流位置に略対応する位置に形成する。そして、溝31a,32a,33aが形成された主平板3aと、貫通孔21a,22a,23a,24aが形成された蓋平板2aとを溝31a,32a,33aを内側にして貼り合わせることにより、キャピラリチップ1が形成される。主平板3aと、蓋平板2aとの貼り合ゎせは、例えば、超音波融着、ホットメルト接着剤やUV接着剤等の接着剤による接着、粘着剤による粘着、両面テープ等を介しての圧接等の方法による。
図4(c)に示すように、キャピラリチップ1において、溝31a、32a、33aは流路31、32、33となり、貫通孔21aは試料注入口21となり、貫通孔22a、23aは試薬注入口22、23となり、貫通孔24aは排出口24となる。
[キャピラリチップの第2の作製方法]
本方法において、キャピラリチップ1は、主平板(溝形成用平板)と蓋平板を貼り合わせて作製される。図5(a)は蓋平板2bの上面図を、図5(b)は主平板3bの上面図を、図5(c)は本作製方法により作製されたキャピラリチップ1の縦断面の断面図である。前記縱断面は、本流路31を縦方向に切断する断面である。
図5(b)に示すように、主平板3bの表面に流路となる溝31b,32b,33bを形成する。また、主平板3bに、貫通孔21b,22b,23b,24bを形成する。貫通孔21b,22b,23bは、各溝31b,32b,33bの最上流位置に形成する。貫通孔24bは、溝31bの最下流位置に形成する。
そして、図5(c)に示すように、主平板3bと、蓋平板2bとを、主平板3bに形成された溝31b,32b,33bを内側にして貼り合わせることにより、キャピラリチップ1が形成される。
本作製方法は、溝31,32,33及び貫通孔21,22,23,24が同一の主平板3bに形成されている点を除いては第1の作製方法と同様である。また、主平板3b、蓋平板2bとして、第1の作製方法で用いた主平板3a、蓋平板2aと同様の材料からなるものを用いることができる。従って、本方法においても、溝全体がポリマー組成物で形成されるので、流路中の任意の部位を開閉部又は流通制御部とすることができる。
図5(c)に示すように、キャピラリチップ1において、溝31b,32b,33bは流路31,32,33となり、貫通孔21bは試料注入口21となり、貫通孔22b,23bは試薬注入口22,23となり、貫通孔24bは排出口24となる。
[キャピラリチップの第3の作製方法]
本方法において、キャピラリチップ1は、主平板(スリット形成用平板)と2枚の蓋平板を貼り合わせて作製される。図6(a)は第1の蓋平板2cの上面図を、図6(b)は主平板3cの上面図を、図6(c)は第2の蓋平板2dの上面図を、図6(d)は本作製方法により作製されたキャピラリチップ1の縦断面の断面図である。前記縦断面は、本流路31を縦方向に切断する断面である。
図6(b)に示すように、主平板3cに流路となるスリット31c,32c,33cを形成する。スリット31c,32c,33cは、主平板3cの表裏面を貫通する。図6(a)に示すように、第1の蓋平板2cに、それぞれ試料注入口、試薬注入口、排出口となる四つの貫通孔21c,22c,23c,24cを形成する。そして、図6(d)に示すように、主平板3cと、第1の蓋平板2cと、第2の蓋平板2dとを、主平板3aを二枚の蓋平板2c、2dで挟むようにして貼り合わせることにより、キャピラリチップ1を作製する。
主平板3bとして、ポリマー組成物からなる板を用いる。ここでいうポリマー組成物とは、開閉部V1を形成するポリマー組成物として上述したものと同様である。主平板3cと、第2の蓋平板2dとを貼り合わせることにより、第1の作製方法における主平板3aと同様の平板が形成される点を除いては、第1の作製方法と同様である。従って、本方法においても、スリット全体がポリマー組成物で形成されるので、流路中の任意の部位を開閉部又は流通制御部とすることができる。尚、二枚の蓋平板2c、2dの内面にポリマー組成物層が形成されていると、流路31,32,33の全周がポリマー組成物からなり好ましいが、この構成に限定されることはない。
図6(d)に示すように、キャピラリチップ1において、スリット31c,32c,33cは流路31,32,33となり、貫通孔21cは試料注入口21となり、貫通孔22c,23cは試薬注入口22,23となり、貫通孔24cは排出口24となる。
(第2の実施形態)
[キャピラリチップの構成]
図7は、本実施形態で用いるキャピラリチップ1’の外観を模式的に示す斜視図である。図7に示すように、キャピラリチップ1’は、各流路31,32,33の上流端近傍に、試料注入口21及び試薬注入口22,23に対応させて、開閉部V1と同じ構成の開閉部V2,V4,V5を備える。尚、開閉部V2は、流通制御部C1の開閉部を兼ねる。その他の構成は、第1の実施形態のキャピラリチップ1と同じ構成なので、同一の要素には同一の符号を付して、説明を省略する。
[キャピラリチップの使用方法]
キャピラリチップ1’は、第1の実施形態のキャピラリチップ1と同様の使用方法で使用することができる。そして、さらに、開閉部V2,V4,V5の開閉制御によって、試料注入口21に注入された試料及び試薬注入口22,23に注入された試薬の流通開始のタイミング、流通停止のタイミング、及び流通量を制御することができる。
本実施形態のキャピラリチップ1’も第1の実施形態に示す流通制御装置を用いて、開閉制御、流通制御、分析等を行うことができる。
(第3の実施形態)
[キャピラリチップの構成]
図8(a)は、本実施形態で用いるキャピラリチップ13の外観を模式的に示す斜視図である。図8(b)は、図8(a)のVIIb−VIIb断面を示す断面図、図1(c)は図1(b)のVIIc−VIIc断面を示す断面図である。図8(a)〜図8(c)に示すように、キャピラリチップ13は、本流路34、支流路35,36,37,38,39、注入口41、排出口25,26,27,28,29が形成された上面矩形の基板14からなる。各流路34,35,36,37,38,39は、キャピラリで構成されている。本流路34は、分岐点34aで5本の支流路35,36,37,38,39に分岐する。
本流路34は、上流端近傍に流通制御部C2を備える。各支流路35,36,37,38,39は、他の部分より流通方向の単位長さに対する体積が大きい平面視円形の反応部35a,36a,37a,38a,39aと、各反応部35a,36a,37a,38a,39aの近傍下流側に開閉部V3を備える。各開閉部V3は、各排出口25,26,27,28,29に対応する。
本実施形態のキャピラリチップ13は、第1の実施形態のキャピラリチップ1とは、その流路設計が異なるのみなので、各要素の詳細な説明は省略する。開閉部V3の構成及び制御方法は、第1の実施形態の開閉部V1と同様である。流通制御部C2の構成及び制御方法は、第1の実施形態の流通制御部C1と同様である。
[キャピラリチップの使用方法]
以下、キャピラリチップ13の使用方法を説明する。注入口41から、培地入りの細胞の懸濁液を注入し、流通制御部C2によるポンプ機能を利用して各支流路35,36,37,38,39の反応部35a,36a,37a,38a,39aまで、前記懸濁液を送液する。各反応部35a,36a,37a,38a,39aが、前記懸濁液で満たされた後、各支流路35,36,37,38,39に設けられた開閉部V3を閉状態とする。
この状態で、2日放置し、反応層35a,36a,37a,38a,39aにおいて、細胞を培養する。その後、各支流路35,36,37,38,39の開閉部V3を開状態とし、注入口41から第1の医薬品候補化合物が溶解された試薬溶液を注入し、流通制御部C2のポンプ機能を利用して、各反応部35a,36a,37a,38a,39aに上記試薬溶液を送液する。そして、各反応部35a,36a,37a,38a,39aが上記試薬で満たされたタイミングで開閉部V3を閉状態とする。
その後、キャピラリチップ13の反応部35a,36a,37a,38a,39aを顕微鏡で観察することにより、第1の医薬候補化合物の細胞毒性や、細胞に与える影響を分析する。尚、上記細胞として付着細胞を用いることが好ましい。付着細胞は、反応層に付着するため、培養後、試薬を送液しても大部分は反応層35a,36a,37a,38a,39aから流出することがないからである。
尚、上記において、分岐した各支流路35,36,37,38,39の上流端部に開閉部を設けて、各反応層35a,36a,37a,38a,39aに異なる医薬品候補化合物の試薬溶液を送液し、複数の試薬の細胞毒性等を同時に分析するようにしてもよい。この場合、例えば各試薬に対して上流端部のバルブが開状態となっている流路を一つのみとし、他の流路の開閉部は閉状態とすることにより、各反応部35a,36a,37a,38a,39aに送液する試薬の種類を制御する。
本実施形態のキャピラリチップ13も第1の実施形態に示す流通制御装置を用いて、開閉制御、流通制御、分析等を行うことができる。
第1から第3の実施形態では、キャピラリチップにおいて、開閉部の温度を変化させるという簡単な方法で、キャピラリの流通制御、開閉制御を達成することが可能となる。さらに、ポリマー組成物からなる層の表面または内部にキャピラリを形成するので、任意の部位を開閉部として選択できる。
また、上記実施形態の方法では、流通制御、開閉制御に際して、試料や試薬の性質に影響を及ぼすことがない。さらに、上記制御を行うために必要な手段は、静粛性を維持できる小型なもので構成可能である。
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
〔産業上の利用の可能性〕
本発明に係る流通方法は、医療診断用のマイクロチップや、薬品応答性検出用のマイクロチップにおいて、試薬や試料等の液体を流通させるために有用である。
また、本発明に係る流通方法は、マイクロチップを用いて分析を行うマイクロTASに使用することができる。例えば、血液、髄液、唾液、尿等の生体試料の分析用マイクロTASに使用することができる。
本発明に係る流通方法によると、簡易な構成のマイクロチップにおいて、所望の開閉制御、流通制御を行うことができるので、特に使い捨て用のキャピラリチップに適用する方法として有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物からなる層と、前記ポリマー組成物からなる層の表面又は内部に形成されたキャピラリとを有するキャピラリチップを用いて、前記キャピラリ内の流体を流通させる流通方法であって、
前記キャピラリは、流通制御部を備え、前記流通制御部は、複数の連続した開閉部からなり、
前記開閉部は、前記ポリマー組成物の体積が増加することにより閉状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止し、前記ポリマー組成物の体積が減少することにより開状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を許容し、
前記流通方法は、
(a)前記流通制御部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記複数の開閉部を流通方向に順次開状態から閉状態に切り替え、前記キャピラリ内の流体を流通させるステップ、
を有するキャピラリチップにおける流体の流通方法。
【請求項2】
ステップ(a)を繰り返して複数回行う、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項3】
各ステップ(a)の後に、以下のステップ、すなわち、
(b)前記流通制御部において、流通方向下流端から1個または複数個の開閉部を閉状態にしたまま、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより他の開閉部を閉状態から開状態に切り替えるステップ、
(c)ステップ(b)の後、ステップ(b)において閉状態である前記開閉部を開状態に切り替えるステップ、
を有し、ステップ(c)と実質的同時に、次のステップ(a)を開始する、請求の範囲第2項に記載の流通方法。
【請求項4】
さらに以下のステップ、すなわち、
(d)前記開閉部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記開閉部を閉状態として前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止するステップ、
(e)前記開閉部において、前記ポリマー組成物の温度を変化させることにより前記開閉部を開状態として前記キャピラリを流れる流体の流通を許容するステップ、
を有する、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項5】
前記ポリマー組成物は、温度上昇によって体積が増加し、温度下降によって体積が減少する、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項6】
前記ポリマー組成物は、温度上昇によって体積が減少し、温度下降によって体積が増加する、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項7】
前記ポリマー組成物は、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖結晶性繰り返しユニットと、アクリレートまたはメタクリレートエステルから誘導される側鎖非結晶性繰り返しユニットとを含む、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項8】
前記キャピラリチップにおいて、前記キャピラリが前記層の表面に形成されており、前記層の表面には蓋平板が密着している、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項9】
前記キャピラリチップは、前記キャピラリに接続している流体注入口および流体排出口をさらに備えている、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項10】
ステップ(a)において、前記流通制御部の前記開閉部を流通方向に順次加熱し、前記開閉部を流通方向に順次開状態から閉状態に切り替える、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項11】
ステップ(a)において、前記加熱はレーザーを照射することによる、請求の範囲第10項に記載の流通方法。
【請求項12】
ステップ(b)及びステップ(c)において、前記開閉部を空冷することにより前記開閉部を閉状態から開状態に切り替える、請求の範囲第3項に記載の流通方法。
【請求項13】
前記ポリマー組成物は、その第1次溶融転移により前記体積変化する、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項14】
前記ポリマー組成物の第1次溶融転移は、80℃以下で起こる、請求の範囲第12項に記載の流通方法。
【請求項15】
前記キャピラリの断面積が、10000μm以上でかつ250000μm以下である、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項16】
前記キャピラリチップは、さらに前記キャピラリに接続している流体注入口を複数有し、前記キャピラリは各流体注入口に対応するように複数の開閉部を有する、請求の範囲第1項に記載の流通方法。
【請求項17】
キャピラリチップ装着部と、レーザー照射部と、レーザー制御部とを備えた流通制御装置であって、
前記キャピラリチップ装着部は、キャピラリチップを装着可能であり、
前記キャピラリチップは、ポリマー組成物からなる層と、前記ポリマー組成物からなる層の表面又は内部に形成されたキャピラリとを有し、
前記キャピラリは、流通制御部を備え、前記流通制御部は、複数の連続した開閉部からなり、
前記開閉部は、前記ポリマー組成物の体積が増加することにより閉状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を阻止し、前記ポリマー組成物の体積が減少することにより開状態となって前記キャピラリを流れる流体の流通を許容し、
前記レーザー照射部は、前記キャピラリ装着部に装着されたキャピラリチップにレーザー照射可能であり、
前記レーザー制御部は、前記レーザー照射部による前記キャピラリ装着部に装着されたキャピラリチップへのレーザー照射位置を制御可能であり、前記開閉部を流通方向に順次レーザー照射することによって、前記開閉部が流通方向に順次開状態から閉状態に切り替わり、前記キャピラリ内を流体が流通する、流通制御装置。

【国際公開番号】WO2005/036182
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514686(P2005−514686)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015453
【国際出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【特許番号】特許第3798011号(P3798011)
【特許公報発行日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】