説明

キャブのマウント構造

【課題】トーションバーの機能を損なうことなく、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制する。
【解決手段】チルト位置と非チルト位置とに設定可能であり、非チルト位置で後端側が車体フレーム4によって下方から支持されるキャブ2のマウント構造であって、車体フレーム4との相対回転が拘束された状態で車体フレーム4の前端部に支持される固定端部と、車体フレーム4との相対回転が拘束されない自由端部73とを有し、車幅方向に延びるトーションバー7と、トーションバー7との相対回転が拘束された状態で自由端部73から車両後方へ延びるレバー8と、を備え、レバー8は、非チルト位置へ下降するキャブ2の後端側に押下されて作用位置へ下降する作用部84を有し、トーションバー7は、下降に応じてねじれ変形し、作用位置の作用部84は、キャブ2を下方から押し上げるようにトーションバー7のねじり反力をキャブ2の後端側へ伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブオーバー型車両のキャブのマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブの下方にエンジンルームが位置するキャブオーバー型車両には、キャブの前端側を車体側のフレームに対して回転自在に支持し、キャブの後端側を下方から支持するキャブのマウント構造を備えたものがある。エンジンの点検や整備を行う作業者は、キャブの後端側を前上方へ回転して上昇させる(キャブをチルトアップさせる)ことによって、エンジンルームを開放して作業を行うことができる。
【0003】
また、特開2007−176407号公報には、チルトアップする際の作業者の操作力を補助するトーションバーが記載されている。キャブの前方下面には、キャブマウントブラケットを介してマウントチューブが固定され、マウントチューブの両端部近傍は、フレームに固定されたキャブヒンジブラケットに回動可能に軸支される。トーションバーは、マウントチューブに内挿される。トーションバーの一端部は、マウントチューブに固定され、トーションバーの他端部は、キャブヒンジブラケットに固定されたアンカーアームに嵌合固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2007−176407号公報の構造では、トーションバーの一端部は、マウントチューブ及びキャブマウントブラケットを介してキャブに固定され、トーションバーの他端部は、アンカーアーム及びキャブヒンジブラケットを介して車体フレームに固定される。すなわち、車体フレームとキャブとは、トーションバーを介して常時連結された状態に維持され、車体フレームの振動は、トーションバーを介してキャブへ常時伝達される。
【0006】
このような振動の伝達は、車体フレームからキャブへの振動伝達経路の途中に弾性体などの防振部材を介在させることによって抑制可能である。
【0007】
しかし、防振部材を介在させる場所は、トーションバーの両端部の近傍(トーションバーの一端部とマウントチューブとの接合部付近やトーションバーの他端部とアンカーアームとの接合部付近)に限定されるため、防振部材の配置スペースを確保することが難しい。また、トーションバーのねじり反力から受ける荷重はトーションバーに近づくほど増大するので、トーションバーの近傍に防振部材を配置する場合、その強度を高く(バネ定数を大きく)設定しなければならない。このため、所望の防振効果を発揮するように防振部材のバネ定数を任意に設定することができず、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制することが難しい。
【0008】
そこで本発明は、トーションバーの機能を損なうことなく、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制することが可能なキャブのマウント構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明のキャブのマウント構造は、車体フレームの前端部に対して回転自在に支持される前端下部を有し、車体フレームに対して後端側が上昇したチルト位置と下降した非チルト位置とに設定可能であり、非チルト位置で後端側が車体フレームによって下方から支持されるキャブのマウント構造であって、トーションバーと、レバーとを備える。トーションバーは、車体フレームとの相対回転が拘束された状態で車体フレームの前端部に支持される固定端部と、車体フレームとの相対回転が拘束されない自由端部とを有し、車幅方向に沿って延びる。レバーは、トーションバーとの相対回転が拘束された状態で自由端部から車両後方へ延びる。また、レバーは、非チルト位置へ下降するキャブの後端側によって押下されて所定の作用位置へ下降する作用部を有し、トーションバーは、レバーの作用部の下降に応じてねじれ変形し、作用位置の作用部は、キャブを下方から押し上げるようにトーションバーのねじり反力をキャブの後端側へ伝達する。
【0010】
上記構成では、キャブがチルト位置から非チルト位置へ下降する(キャブがチルトダウンする)と、レバーの作用部がキャブの後端側によって押下されて作用位置へ下降する。レバーは、トーションバーとの相対回転が拘束された状態でトーションバーの自由端部から延び、トーションバーの固定端部は、車体フレームとの相対回転が拘束された状態で車体フレームに支持されているので、レバーの作用部が作用位置へ下降すると、トーションバーの自由端部が回転し、自由端部の回転によってトーションバーにねじり反力が発生する。したがって、作業者は、トーションバーのねじり反力がキャブの後端側に下方から作用した状態で、キャブを非チルト位置からチルトアップすることができる。すなわち、作業者の操作力をねじり反力によって補助するというトーションバーの機能が発揮され、作業者の操作負担が軽減する。
【0011】
また、レバーがトーションバーから車両後方へ延び、キャブの後端側にレバーの作用部を介してトーションバーのねじり反力が伝達されるので、トーションバーの両端部(自由端部及び固定端部)の近傍に比べてスペースを確保し易いキャブの後端側(例えば、作用部とキャブとの間など)に防振部材を配置することができる。また、トーションバーから離れたキャブの後端側に配置された防振部材がトーションバーのねじり反力から受ける荷重は、トーションバーの近傍に防振部材を配置する場合に比べて小さくなる。このため、防振部材に対して要求される大きさや形状や強度などの制約が緩和され、所望の防振効果を発揮するように防振部材のバネ定数を任意に設定して、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制することができる。
【0012】
また、上記マウント構造は、伝達遮断手段を備えてもよい。伝達遮断手段は、作用位置へ下降したレバーの作用部を作用位置からさらに下降させて保持し、作用部からキャブへのトーションバーのねじり反力の伝達を遮断する。
【0013】
上記構成では、車両の走行時などには、伝達遮断手段によってレバーの作用部を作用位置から下降させて保持し、作用部からキャブへのトーションバーのねじり反力の伝達を遮断しておく。これにより、非チルト位置のキャブがレバーから離間し、トーションバーを介した車体フレームからキャブへの振動の伝達を完全に遮断することができる。
【0014】
また、キャブの前端下部は車体フレームの前端部に対して回転自在に支持されているので、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制するためには、キャブの前端下部と車体フレームの前端部との間に防振部材を設けることが好ましい。ここで、非チルト位置のキャブの前端部から車体フレームに作用する荷重は、トーションバーからキャブへのねじり反力の伝達を遮断している状態の方が、ねじり反力の伝達を遮断していない状態(トーションバーからキャブにねじり反力が作用している状態)よりも小さくなる。したがって、作用部から非チルト位置のキャブへのトーションバーのねじり反力の伝達を遮断しておくことによって、防振部材に対して要求される強度上の制約を緩和することができ、所望の防振効果を発揮するように防振部材のバネ定数を任意に設定して、車体フレームからキャブへの振動の伝達をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トーションバーの機能を損なうことなく、車体フレームからキャブへの振動の伝達を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかるトラックの概要を示す側面図であり、(a)はキャブがチルトダウンした状態を、(b)はキャブが完全にチルトアップした状態をそれぞれ示す。
【図2】図1(a)を模式的に示す正面断面図である。
【図3】図1(a)を模式的に示す図であり、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【図4】図2のアームがアームブラケットに係止された状態を示す図であり、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【図5】図1(a)のキャブがチルトアップした状態を模式的に示す図であり、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【図6】図4(b)のリアキャブマウントをVI方向から視た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図中矢印FRは車両前方を、矢印UPは上方を、矢印INは車幅方向内側をそれぞれ示している。また、以下の説明において、前後とは車両の前後を意味し、左右とは車両前方を向いた状態での左右を意味する。また、図2の白抜き矢印R1,R2は、トーションバー7の回転方向をそれぞれ示す。なお、各部材を固定するボルトの図示は省略する。
【0018】
図1乃至5に示すように、本実施形態のトラック(車両)1は、キャブ2の下方にエンジンルーム12が位置するキャブオーバー型である。キャブ2は、車体フレーム4の前端部に対して回転自在に支持される前端下部を有し、車体フレーム4に対して後端側が上昇したチルト位置と下降した非チルト位置とに設定可能である。キャブ2は、車両1の走行時などの通常時には非チルト位置に維持され、エンジンの点検時や整備時などにチルト位置に設定される。
【0019】
車体フレーム4は、車両前後方向に沿って並行に延びる左右のメインビーム41と、複数のクロスメンバ42とを有する。左右のメインビーム41は、直交する複数のクロスメンバ42によって相互に連結されている。
【0020】
左右のメインビーム41の前端部(車体フレーム4の前端部)43には、左右1対のフロントキャブマウント5がそれぞれ載置されボルトによって固定されている。また、左右のメインビーム41の車両前後方向の略中央部には、左右1対のリアキャブマウント6がそれぞれ載置されボルトによって固定されている。
【0021】
フロントキャブマウント5は、マウントラバー51と、マウントラバー支持部52とを備えている。
【0022】
マウントラバー支持部52は、メインビーム41にボルトによって固定されている。マウントラバー支持部52の上部は、略円筒状に形成され、その内周面にマウントラバー51の外周面が固着されている。マウントラバー51は、略円板状のゴムからなる。マウントラバー51には、貫通孔53が形成されている。
【0023】
2つのフロントキャブマウント5の一方(本実施形態では左側)のマウントラバー支持部52の上部には、支持孔54が形成されている。支持孔54には、連結ブラケット55の一端部が挿通する。連結ブラケット55は、金属製の略円筒体であり、その他端部付近には、上下方向に延びる延出部56が設けられている。連結ブラケット55は、その一端部が支持孔54に挿入された状態で、マウントラバー支持部52にボルトによって固定されている。なお、ボルトを緩めて連結ブラケット55とマウントラバー支持部52との固定を解除すると、連結ブラケット55の一端部は、支持孔54によって回転自在に支持された状態になる。
【0024】
他方(本実施形態では右側)のフロントキャブマウント5のマウントラバー支持部52の上部には、挿通孔57が形成されている。
【0025】
リアキャブマウント6は、ロック部61と、リアキャブマウント本体62とを備えている。リアキャブマウント本体62は、メインビーム41にボルトによって固定され、ロック部61は、リアキャブマウント本体62の上部にボルトによって固定されている。ロック部61は、凹溝(図示省略)と、操作レバー(図示省略)と、係合部(図示省略)とを有する。
【0026】
2つのリアキャブマウント6の一方(本実施形態では右側)には、円筒状の軸受部63が車幅方向外側の側壁にボルト又は溶接によって固定されている。他方(本実施形態では左側)のリアキャブマウント6の車両後方側の側壁には、アームブラケット(伝達遮断手段)10が設けられている。
【0027】
左右のフロントキャブマウント5のマウントラバー51の貫通孔53には、軸受(図示省略)を介してキャブマウント支持パイプ3が回転自在に挿通されている。キャブマウント支持パイプ3は、略円筒状の金属管であり、車幅方向に延びる。
【0028】
キャブ2は、左右1対のキャブ取付ブラケット21と、左右1対のストライカ22と、レバー当接部23と、左右の把持部(図示省略)とを備えている。
【0029】
キャブ取付ブラケット21は、金属製の板状体であり、キャブ2の前端下部25の左右に所定間隔を空けて配置されている。キャブ取付ブラケット21の上部は、キャブ2の前端底面にボルトによって固定され、キャブ取付ブラケット21の下部には、嵌合孔24が形成されている。嵌合孔24の内周面は、キャブマウント支持パイプ3の外周面と嵌合し、キャブマウント支持パイプ3を相対回転不能に嵌合固定する。したがって、キャブ2の前端下部25は、キャブ取付ブラケット21、キャブマウント支持パイプ3、軸受、マウントラバー51及びマウントラバー支持部52を介して、車体フレーム4の前端部43に回転自在に支持されている。
【0030】
レバー当接部23は、略矩形状に形成されたゴムなどの弾性体であり、キャブ2の後端底部に固定されている。ストライカ22は、金属製の略U状体であり、キャブ2の後端底部の左右に配置されている。ストライカ22は、その上部がボルトによってキャブ2の後端底部に固定されてキャブ2の下方へ突出する。リアキャブマウント6のロック部61の凹溝は、ストライカ22が上方から進入可能な進入口を有し、ストライカ22の入出を許容する。凹溝に沿って下降して固定位置に達したストライカ22は、係合部と係合する。この係合によって、キャブ2の上下方向の移動は規制される。ストライカ22と係合部との係合状態は、ロック部61の操作レバーを操作することによって解除される。把持部は、金属製の略U状体であり、キャブ2の車幅方向外側の側壁に固定されている。把持部は、キャブ2を手動でチルトアップ又はチルトダウンする際に作業者によって把持される。
【0031】
キャブマウント支持パイプ3の内部には、トーションバー7が挿通している。トーションバー7は、ばね鋼によって形成された棒状体であり、その両端部は、キャブマウント支持パイプ3の両端部から突出している。トーションバー7の一端部(固定端部)72には、円板状の金属板からなる固定部材71がボルト又は溶接によって固定されている。固定部材71は、連結ブラケット55の他端部に相対回転不能に嵌合固定されている。連結ブラケット55は、マウントラバー支持部52に固定されているので、トーションバー7の一端部72は、相対回転が拘束された状態で、連結ブラケット55及びフロントキャブマウント5を介して、車体フレーム4の前端部43に支持される。
【0032】
一方のフロントキャブマウント5のマウントラバー支持部52は、連結ブラケット55の延出部56の前方に、ねじり反力調整機構(図示省略)を備えている。ねじり反力調整機構は、延出部56の下部と当接する端部を有する調整ボルト(図示省略)を有する。連結ブラケット55とマウントラバー支持部52とを固定するボルトが緩められ、連結ブラケット55の回転が許容された状態において、調整ボルトが締め付けられると、調整ボルトの端部が延出部56の下部を車両後方に押圧し、連結ブラケット55が回転する。この回転によって、固定部材71を介して連結ブラケット55に固定されているトーションバー7の一端部72が図2中矢印R1方向に回転し、トーションバー7がねじれ変形する。このように、ねじり反力調整機構の調整ボルトの締め付けによって、トーションバー7のねじれ変形の量が増大する。したがって、連結ブラケット55とマウントラバー支持部52とを固定するボルトを緩め、調整ボルトを所定量締め付けた後に、緩めたボルトを再度締め付けることによって、トーションバー7に生じるねじり反力の大きさを調整することができる。
【0033】
トーションバー7の他端部(自由端部)73は、他方のフロントキャブマウント5の挿通孔57を挿通し、フロントキャブマウント5の車幅方向外側に突出する。
【0034】
レバー8は、金属製の棒状板体であり、その前端部には、嵌合孔87を有する円筒状の嵌合部81が一体的に形成されている。嵌合孔87の内周面には、他方のフロントキャブマウント5の車幅方向外側に突出するトーションバー7の他端部73の外周面が相対回転不能に嵌合固定されている。レバー8は、他方のフロントキャブマウント5の車幅方向外側で、且つ一方のリアキャブマウント6の車幅方向内側で、前後方向に延びる。すなわち、レバー8は、トーションバー7との相対回転が拘束された状態で他端部73から後方へ延びる。また、レバー8は、前端部付近から上方へ傾斜して延びる立上り部82と、立上り部82の上端から折曲して車両後方へ略水平に延びる水平部83と、水平部83の後端部付近に設けられた作用部84とを有する。レバー8の前後方向の長さは、レバー8の後端部がリアキャブマウント6よりも後方へ突出するように設定されている。キャブ2の非チルト位置への下降に伴って、キャブ2のレバー当接部23が作用部84に上方から当接して作用部84を押し下げ、レバー8がトーションバー7の他端部73(レバー8の前端部)を中心として下方へ傾動する。キャブ2が非チルト位置まで下降すると、作用部84は所定の作用位置に達する。レバー8の下方への傾動によって、トーションバー7の他端部73が図2中矢印R2方向に回転し、トーションバー7がねじれ変形する。トーションバー7のねじり反力は、レバー8の作用部84からキャブ2のレバー当接部23へ作用して、キャブ2の後端側を上方へ付勢する。すなわち、作用部84は、キャブ2を下方から押し上げるように、トーションバー7のねじり反力をキャブ2のレバー当接部23を介してキャブ2の後端側に伝達する。
【0035】
一方のリアキャブマウント6には、アーム(伝達遮断手段)9が回転自在に支持されている。アーム9は、係止棒91と、フック部92と、アーム回転軸93とを有する。係止棒91は、金属製の棒状体であり、車幅方向に延びる。フック部92とアーム回転軸93とは、係止棒91にボルト又は溶接によって固定されている。フック部92は、略U状に曲折された金属板であり、側板部94と、側板部94の上端部から斜め上方に車幅方向内側に向かって延びる上板部95と、側板部94の下端部から略直角に曲折し車幅方向内側へ向かって延びる下板部96とを有する。アーム回転軸93は、金属製の棒状体であり、フック部92の固定位置よりも車幅方向外側で係止棒91から車両前方に向かって突出している。アーム回転軸93は、リアキャブマウント6の車幅方向外側の側壁に設けられた軸受部63に挿通する。これによって、アーム9は、一方のリアキャブマウント6に回転自在に支持されている。係止棒91の一端部は、一方のリアキャブマウント6の車幅方向外側の側壁とバネ97で連結されている。バネ97は、係止棒91の一端部を下方に付勢(他端部を上方に付勢)する。
【0036】
アームブラケット10は、図6に示すように、略L字状の金属板であり、他方のリアキャブマウント6の車両後方側の側壁にボルト又は溶接によって固定されている。アームブラケット10は、軸受部63よりも低い位置に配置されている。アームブラケット10は、係止部11を有し、係止棒91の他端部を係止する。係止棒91の車幅方向の長さは、アームブラケット10によって係止可能な長さに設定されている。
【0037】
キャブ2が非チルト位置にある状態において、作業者がトーションバー7のねじり反力に抗して係止棒91の他端部を引き下げると、フック部92の上板部95の下面は、レバー8の後端部の上面85と当接してレバー8を押し下げ、作用部84とレバー当接部23とを離間させて、作用部84からレバー当接部23へのねじり反力の伝達を遮断する。このとき、トーションバー7のねじり反力がレバー8を介して係止棒91に作用し、係止棒91の他端部は上方に付勢される。したがって、作業者が、係止棒91の他端部を、車幅方向外側に撓ませながらアームブラケット10の下方まで引き下げて係止部11に下方から係止すると、この係止状態がトーションバー7のねじり反力によって維持される。すなわち、アーム9とアームブラケット10とは、レバー当接部23から離間する作用位置の下方位置でレバー8の作用部84を保持し、作用部84からキャブ2へのトーションバー7のねじり反力の伝達を遮断する(図4(a),(b)参照)。
【0038】
次に、作業者が行うキャブ2のチルトアップ操作及びチルトダウン操作について説明する。
【0039】
まず、キャブ2のチルトダウン操作について説明する。作業者は、図5(a),(b)のように、キャブ2の後端側とリアキャブマウント6とが離間し、キャブ2が車両前方に傾斜している状態(チルトアップしている状態)において、キャブ2の車幅方向外側の側壁に設けられている把持部(図示省略)を把持し、キャブ2を非チルト位置へ回転させる(キャブ2の後端側を非チルト位置に下降させる)。キャブ2の後端側が下降すると、キャブ2のレバー当接部23にレバー8の作用部84が当接し、キャブ2の下降に応じてレバー8の作用部84は下方に押し下げられる。作用部84が押し下げられてレバー8が下方へ傾動すると、レバー8の前端部が嵌合固定されているトーションバー7の他端部73が回転し、トーションバー7がねじれ変形し、ねじり反力を発生させる。レバー8の作用部84は、ねじり反力により上方に付勢され、キャブ2を下方から押し上げるように、ねじり反力をキャブ2のレバー当接部23を介して、キャブ2の後端側に伝達する。
【0040】
作業者は、ねじり反力に抗って、さらにキャブ2の後端側を非チルト位置へ下降させて、キャブ2のストライカ22を、リアキャブマウント6の凹溝に進入口を介して固定位置まで進入させ、係止部と係合させる。このとき、図3(a)及び(b)に示すように、レバー8の後端部の下面86がアーム9のフック部92の下板部96の上面に当接し、下板部96及び係止棒91は地面に対して略水平となる。
【0041】
次に、作業者は、係止棒91の他端部を把持し、アームブラケット10の設置位置付近で車幅方向外側に撓ませながら係止棒91を引き下げ、アームブラケット10を通過させたところで、係止部11の下方へ移動させ、係止棒91の他端部を係止部11に係止する。係止部11への係止棒91の係止によって、レバー8の作用部84とキャブ2側のレバー当接部23とが離間した状態(作用部84からキャブ2へのトーションバー7のねじり反力の伝達が遮断された状態)が維持される(図4(a),(b)参照)。
【0042】
次に、キャブ2のチルトアップ操作について説明する。図4(a),(b)に示すようにキャブ2が非チルト位置にあり、且つアーム9が係止状態にあるとき、作業者は、まず、係止状態を解除するため、アーム9の係止棒91の他端部を把持し、係止位置から下方に移動させ、係止棒91の他端部を車両後方へ撓ませながら上方へ移動させ、アームブラケット10を通過させる。アームブラケット10を通過させたところで、係止棒91の他端部を撓ませた状態から元の状態に戻す。これによって、アーム9とアームブラケット10との係止状態が解除され、レバー8の後端部は、アーム9のフック部92の上板部95から与えられていた下方への力から解放され、トーションバー7のねじり反力によって、上方に移動し、レバー8の作用部84がレバー当接部23に当接する(図3(a),(b)参照)。
【0043】
次に、作業者は、リアキャブマウント6の操作レバーを操作することによって、ストライカ22と係合部との係合を解除する。
【0044】
次に、キャブ2の車幅方向外側の側壁に設けられた把持部を把持し、キャブ2の後端側を車体フレーム4から離れるように上昇させて、キャブ2を前方に回転させる(図5(a),(b)参照)。このとき、トーションバー7のねじり反力が、作用部84及びレバー当接部23を介してキャブ2の後端側に伝達されているため、作業者は小さな操作力でキャブ2をチルトアップすることができる。
【0045】
本実施形態のトラック1では、キャブ2がチルト位置から非チルト位置へ下降すると、レバー8の作用部84がキャブ2の後端側によって押下されて作用位置へ下降する。レバー8は、トーションバー7との相対回転が拘束された状態でトーションバー7の他端部73に嵌合固定され、トーションバー7の一端部72は、連結ブラケット55を介して車体フレーム4に固定されているので、レバーの作用部が作用位置へ下降すると、トーションバー7の他端部73が回転し、この回転によってトーションバー7がねじれ変形し、ねじり反力が発生する。したがって、作業者は、トーションバー7のねじり反力がキャブ2の後端側に下方から作用した状態で、キャブ2を非チルト位置からチルトアップすることができる。すなわち、作業者の操作力をねじり反力によって補助するというトーションバー7の機能が発揮され、作業者の操作負担が軽減する。
【0046】
また、レバー8の作用部84を下方に移動させてレバー当接部23から離間させるアーム9と、アーム9の係止棒91を係止して作用部84とレバー当接部23とが離間した状態を維持するアームブラケット10を備えているので、アーム9をアームブラケット10に係止することによって、車両1の走行時にトーションバー7を介した車体フレーム4からキャブ2への振動の伝達を完全に遮断することができる。
【0047】
また、アーム9をアームブラケット10に係止した状態では、トーションバー7のねじり反力のキャブ2への伝達が遮断され、キャブ2を下方から押し上げる力がキャブ2の後端側へ入力しない。このため、キャブ2が非チルト位置に設定された通常時において、キャブ2の前端部からフロントキャブマウント5に作用する荷重が、トーションバー7からキャブ2にねじり反力が伝達されているときに比べて小さくなり、キャブ2の前端部を支持するフロントキャブマウント5のマウントラバー51に対して要求される強度上の制約が緩和される。したがって、所望の防振効果を発揮するようにマウントラバー51のバネ定数を任意に設定することができ、車体フレーム4からキャブ2への振動の伝達をさらに抑制することができる。
【0048】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。
【0049】
例えば、本実施形態では、作業者がキャブ2の把持部を把持し手動で行うキャブ2のチルトアップ及びチルトダウン作業を説明したが、車両に電動油圧式のシリンダを有するキャブチルト装置を設け、作業者は、この装置を操作することによって、チルトアップ及びチルトダウンを行ってもよい。
【0050】
また、本実施形態では、作業者がアーム9の係止棒91の他端部を把持して押し下げることによって、レバー8の作用部84とキャブ2のレバー当接部23とを離間させたが、係止棒91に代えて、アーム9を回転させる電動油圧式のシリンダを設けてもよい。
【0051】
また、アーム9及びアームブラケット10を省略してもよい。この場合、レバー8の作用部84及びトーションバー7を介して車体フレーム4からキャブ2に伝達される振動は、弾性部材であるレバー当接部23によって抑制される。ここで、レバー当接部23は、トーションバー7の両端部の近傍に比べてスペースを確保し易いキャブ2の後端側に配置されているので、レバー当接部23に対して要求される大きさや形状の制約が緩和される。また、トーションバー7から離れたキャブ2の後端側に配置されたレバー当接部23がトーションバー7のねじり反力から受ける荷重は、トーションバー7の近傍に配置される場合に比べて小さくなるので、レバー当接部23に対して要求される強度の制約も緩和される。このように、レバー当接部23に対して要求される大きさや形状や強度などの制約が緩和されるので、所望の防振効果を発揮するようにレバー当接部23のバネ定数を任意に設定して、車体フレーム4からキャブ2への振動の伝達を抑制することができる。
【0052】
また、防振部材としてのレバー当接部23に代えて又は加えて、レバー8の作用部84に防振部材を設けてもよい。また、防振部材の材質はゴムに限らず、例えば、ウレタンなど防振性能を有するものであればよい。
【0053】
また、本実施形態では、トーションバー7の一端部72の固定部材71をボルトによって連結ブラケット55の他端部に固定しているが、固定部材71に代えて、トーションバー7の一端部72と連結ブラケット55の内周面とに、相互に係合する雄セレーションと雌セレーションとをそれぞれ設け、トーションバー7と連結ブラケット55とをセレーション同士の係合によって連結してもよい。
【0054】
すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、キャブオーバー型車両のキャブのマウント構造に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1:トラック
2:キャブ
23:レバー当接部
25:前端下部
3:キャブマウント支持パイプ
4:車体フレーム
43:前端部
5:フロントキャブマウント
6:リアキャブマウント
7:トーションバー
72:一端部(固定端部)
73:他端部(自由端部)
8:レバー
81:嵌合部
82:立上り部
83:水平部
84:作用部
9:アーム(伝達遮断手段)
91:係止棒
92:フック部
93:アーム回転軸
97:バネ
10:アームブラケット(伝達遮断手段)
11:係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームの前端部に対して回転自在に支持される前端下部を有し、前記車体フレームに対して後端側が上昇したチルト位置と下降した非チルト位置とに設定可能であり、前記非チルト位置で前記後端側が前記車体フレームによって下方から支持されるキャブのマウント構造であって、
前記車体フレームとの相対回転が拘束された状態で前記車体フレームの前端部に支持される固定端部と、前記車体フレームとの相対回転が拘束されない自由端部とを有し、車幅方向に沿って延びるトーションバーと、
前記トーションバーとの相対回転が拘束された状態で前記自由端部から車両後方へ延びるレバーと、を備え、
前記レバーは、前記非チルト位置へ下降するキャブの後端側によって押下されて所定の作用位置へ下降する作用部を有し、
前記トーションバーは、前記レバーの作用部の下降に応じてねじれ変形し、
前記作用位置の前記作用部は、前記キャブを下方から押し上げるように前記トーションバーのねじり反力を前記該キャブの後端側へ伝達する
ことを特徴とするキャブのマウント構造。
【請求項2】
請求項1記載のキャブのマウント構造であって、
前記作用位置へ下降した前記レバーの作用部を該作用位置からさらに下降させて保持し、該作用部から前記キャブへの前記トーションバーのねじり反力の伝達を遮断する伝達遮断手段を備えた
ことを特徴とするキャブのマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111257(P2012−111257A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259225(P2010−259225)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】