説明

キラルな多孔性金属−有機構造体を有する光学異性体用分離剤

【課題】優れた光学分割性能を有する光学異性体用分離剤を提供することを課題とする。
【解決手段】多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体を担持した光学異性体用分離剤により課題を解決する。また、上記光学活性な多孔性金属−有機構造体は、特定のビナフタレンジカルボン酸を配位子として含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルな多孔性金属−有機構造体を用いた光学異性体用分離剤、該分離剤を充填した分離カラム、および該分離剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実像と鏡像の関係を有する光学異性体には、物理的、化学的性質、例えば沸点、融点、溶解度などの物性が全く同一であるが、生体に対する相互作用、例えば味、匂いなどの生理活性に差異がみられるケースが往々にしてある。特に医薬品の分野においては、光学異性体間でその薬効、毒性の点で顕著な差が見られる。このため、厚生労働省は、医薬品製造指針において「当該薬物がラセミ体である場合には、それぞれの異性体について、吸収、分布、代謝、排泄動態を検討しておくことが望ましい」と記載している。
【0003】
先に述べたように、光学異性体の物理的、化学的性質、例えば沸点、融点、溶解度といった物性は全く同一であるために、古典的な通常の分離手段では、個々の光学異性体を分離することができず、個々の光学異性体の生体に対する相互作用を研究することができなかった。そこで、幅広い種類の光学異性体を簡便に、かつ精度良く分析するために、光学異性体を分離する技術の研究が精力的に行われてきた。
【0004】
そして、これらの要求に応える分離手法として、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学分割法、とくにHPLC用の光学異性体用分離カラムによる光学分割方法が進歩してきた。ここで言う光学異性体用分離カラムでは、不斉識別剤そのもの、あるいは不斉識別剤を適当な担体上に担持させたキラル固定相が使用されている。
【0005】
前記不斉識別剤としては、例えば光学活性ポリメタクリル酸トリフェニルメチル(例えば、特許文献1参照。)、セルロース、アミロース誘導体(例えば、非特許文献1参照。)、タンパク質であるオボムコイド(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。
【0006】
一方、多孔性金属−有機構造体(以下MOFともいう。)は、金属原子または金属イオンを有機分子または有機イオンが囲繞するように配位結合した構造であり、ゲスト分子が存在しない場合であっても安定な多孔性構造を維持する。MOFは、その機能性材料としての適用可能性から、最近盛んに研究が行われている。例えば、水素ガスの吸着材への適用や(例えば、特許文献3参照。)、不均一系触媒や光学分割への適用の可能性(例えば、非特許文献2)、不均一系不斉触媒としての応用(例えば、非特許文献3)、が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−150432号公報
【特許文献2】特開昭63−307829号公報
【特許文献3】特開2007−167821号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Okamoto, M.Kawashima and K.Hatada, J.Am.Chem.Soc.,106,5337,1984
【非特許文献2】Yong Cui, Helen L.Ngo, Peter S.White and Wenbin Lin, Chem.commun,994,2003
【非特許文献3】K.Tanaka, S.Oda and M.shiro, Chem.commun,820,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、MOFを用いた光学分割への応用について研究をすすめ、その潜在的不斉識別能力を確認した。しかしながら、MOFは溶媒に全く溶解しないため、カラムに充填させようとしても、コーティングなど従来の方法により担体に担持させることができず、その光学分割性能を十分に発揮できなかった。そのため、MOFに関しては、光学分割への応用の検討はされているものの、担体へ担持させたもので、十分な光学分割性能を有するものは知られていなかった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、溶媒に難溶なMOFを担体に担持させることにより、優れた光学分割性能を有する光学異性体用分離剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、MOFを担体に担持させる方法を鋭意検討した結果、多孔質担体上でMOFを結晶化させることに成功し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体(MOF)を担持した光学異性体用分離剤である。
【0012】
また本発明の別の形態は、上記光学異性体用分離剤を充填した分離カラムである。
【0013】
また本発明の別の形態は、多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体を担持した光学異性体用分離剤を製造する方法であって、
前記光学活性な多孔性金属−有機構造体を構成する配位子を多孔質担体に吸着させ、その後金属化合物と混合することを特徴とする、光学異性体用分離剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学異性体用分離剤によれば、MOFの有する潜在的不斉識別能力を十分に引き出すことができる光学異性体用分離剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1−1】実施例1で製造した光学活性分離剤を用いてTTBの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図1−2】実施例1で製造した光学活性分離剤を用いてBinaphtolの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図1−3】実施例1で製造した光学活性分離剤を用いてMePhSOの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図2−1】比較例1で製造した光学活性分離剤を用いてTTBの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図2−2】比較例1で製造した光学活性分離剤を用いてBinaphtolの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図2−3】比較例1で製造した光学活性分離剤を用いてMePhSOの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図3−1】比較例2で製造した光学活性分離剤を用いてTTBの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図3−2】比較例2で製造した光学活性分離剤を用いてBinaphtolの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図3−3】比較例2で製造した光学活性分離剤を用いてMePhSOの分離評価を行ったピーク形状を示す図である。
【図4】実施例に係るピーク対称性の数値について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学異性体用分離剤は、多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体(MOF)を担持した光学異性体用分離剤である。本発明者らは、溶媒に難溶であるMOFを担体に担持させることに成功し、本発明の光学異性体分離剤を製造することが可能となった。
【0017】
MOFは、上述のとおり、金属原子または金属イオンを有機分子または有機イオンが囲繞するように配位結合した構造であり、ゲスト分子が存在しない場合であっても安定な多孔性構造を維持するため、ガス吸着材や不均一系触媒など、その適用可能性が広く検討されている。
【0018】
MOFを構成する配位子としては、ジカルボン酸、トリカルボン酸、イミダゾール、ピピリジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。上記配位子がジカルボン酸の場合には、芳香族カルボン酸が好ましく用いられ、例えばベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ビベンゼンジカルボン酸、ビナフタレンジカルボン酸、又はこれらの誘導体などがあげられる。本発明において好ましく用いられるものは、下記式(1)で表されるビナフタレンジカルボン酸の誘導体であり、より具体的には、下記式(2)に示す2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸、および、下記式(3)に示す2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−5,5'−ジカルボン酸であることが好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
上記一般式(1)中、R1〜R6は、独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜5のアルキルヒドロキシ基、カルボキシル基、炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基から選択され、R1〜R6のうちの1つはカルボキシル基又は炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基であり、R6は水素以外の基である。上記炭素数1〜5のアルキル基としては−CH3、−C25、又はC37であることが好ましく、上記炭素数1〜5のアルキルヒドロキシ基としては−CH2OH、−C24OH、又は−C36OHであることが好ましく、上記炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基としては、−CH2COOH、−C24COOH、又は−C3
6COOHであることが好ましく、上記炭素数1〜5のアルコキシ基としては、−OCH3、−OC25、−OC37であることが好ましい。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
MOFを構成する金属原子としては、Zn、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Pd、Ag、Ptが挙げられ、特にCuであることが好ましい。
【0024】
MOFは、既知の方法で合成することが可能であり、上記式(2)で示される配位子を含むMOFは、例えば非特許文献2に記載の方法により合成することができる。また、上記式(3)で示される配位子を含むMOFは、例えば非特許文献3に記載の方法により合成することができる。以下、MOFの合成に用いる配位子をMOF配位子ともいう。
【0025】
具体的に、上記式(2)で示されるMOF配位子を含むMOFの合成方法を説明する。
6−ヒドロキシナフト酸を濃硫酸の存在下、メタノール溶媒中で加熱還流を行うことで6−ヒドロキシナフト酸メチルエステルを得る。得られた6−ヒドロキシナフト酸メチルエステルを、水中において塩化第二鉄・6水和物の存在下で反応させ、反応物を加水分解
することで、MOF配位子である、ラセミ体の2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸を得る。
【0026】
上記ラセミ体の2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸は、光学分割によりR体とS体に分割され、それぞれ硝酸銅水和物と反応させることで、MOFを合成することができる。上記光学分割は、ラセミ体とブルシン(2,3−ジメトキシストリキニジン−10−オン)をメタノール中で混合することにより行うことができる。
【0027】
MOFは、上述のとおり溶媒に全く溶解しない。そのため、担体への担持が不可能であり、カラム中に保持することが困難であるため、MOFが有する十分な分離性能を引き出すことができなかった。具体的には、後述する比較例において示すが、i)乳鉢で磨り潰した後、担体と混合する方法や、ii)乳鉢で磨り潰した後、溶媒に分散させ、担体と混合する方法、などの方法により、光学異性体用分離剤を製造したが、多孔質担体に担持された光学活性分離剤とはいえず、十分な分離性能は発揮されなかった。
【0028】
本発明では、光学活性なMOF配位子と金属化合物を混合する前に、光学活性なMOF配位子を多孔質担体に吸着させ、その後金属化合物と混合することにより、多孔質担体に担持されたMOFを製造することが可能となった。以下、この点について説明する。
【0029】
本発明に用いられる多孔質担体は、特に限定されず、クロマトグラフィーで使用されることが知られている種々の多孔質担体を用いることができる。例えば多孔質有機担体や多孔質無機担体等が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体である。前記多孔質有機担体としては、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート及びこれらの誘導体等の高分子物質等が挙げられる。前記多孔質無機担体としては、例えばシリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイト、ジルコニア等が挙げられ、特にシリカゲルが好ましい。
【0030】
本発明において用いられる多孔質担体の粒径は0.1μm〜10mmであることが好ましく、1μm〜300μmであることがより好ましい。多孔質担体にシリカゲルを用いる場合、シリカゲルの表面は残存シラノールの影響を排除するために表面処理が施されていることが望ましいが、全く表面処理が施されていないものを使用してもよい。表面処理は公知の方法によって行うことが出来る。
【0031】
光学活性なMOF配位子を多孔質担体に吸着させる方法は特段限定されず、例えば光学活性なMOF配位子を溶媒に溶解し、該溶液を多孔質担体と混合し、溶媒を留去する方法が例示できる。多孔質担体に吸着させるMOF配位子の量は、多孔質担体の種類にもよるが、多孔質担体100重量部に対し、1〜80重量部であることが好ましく、5〜40重量部であることがより好ましい。
【0032】
上記光学活性なMOF配位子を溶解する溶媒は、MOF配位子の種類により適宜選択することが可能であり、上記一般式(1)で表されるビナフタレンジカルボン酸誘導体であれば、エタノールなどのアルコール溶媒、を用いることができる。
【0033】
光学活性なMOF配位子を吸着させた多孔質担体は、金属化合物との加熱反応により多孔質担体担持MOFを得ることができる。具体的には、溶剤下でMOF配位子を吸着させた多孔質担体と金属化合物を混合し、混合溶液を加熱攪拌し、その後該混合溶液を冷却することで、多孔質担体担持MOFの結晶を析出させることができる。
【0034】
上記金属化合物は、上述したMOFを構成する金属原子を含み、錯体の形成に用いられ
る金属化合物を使用することができる。具体的には、硝酸銅、若しくはその水和物、硝酸亜鉛、若しくはその水和物、硫酸銅若しくはその水和物、酢酸銅若しくはその水和物、塩化銅、塩化亜鉛などが挙げられ、MOF配位子が上記一般式(1)で表されるビナフタレンジカルボン酸誘導体であれば、硝酸銅、若しくはその水和物が好ましく用いられる。また、上記MOF配位子を吸着させた多孔質担体と混合させる金属化合物の量は、用いるMOF配位子を吸着させた多孔質担体と金属化合物の種類によるが、多孔質担体100重量部に対し、1〜100重量部であることが好ましく、5〜80重量部混合させることがより好ましい。
【0035】
上記、加熱反応に用いる溶剤は、極性溶剤が好ましく用いられ、特にジメチルホルムアルデヒドなどの非プロトン系の極性溶剤が好ましく用いられる。また、加熱反応の際の混合溶液の加熱攪拌は、1〜100℃で1〜300時間行うことが好ましく、15〜40℃で10〜100時間行うことが、より好ましい。加熱攪拌後の冷却は、結晶を析出させるために通常行う方法であれば良く、室温に静置することで結晶を析出させることができる。
【0036】
本発明において多孔質担体へのMOFの担持量は、多孔質担体やMOFの種類により異なるが、多孔質担体100重量部に対して1〜80重量部であることが好ましく、5〜40重量部であることがより好ましい。
【0037】
なお、本発明において、多孔質担体にMOFが担持されているか否かは、粉末X線回折によりパターンを確認することで判別することができる。
【0038】
多孔質担持体に光学活性な多孔性金属−有機構造体(MOF)を担持した光学異性体用分離剤は、クロマトグラフィーの固定相として用いることができ、分離カラムに充填し、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、電気泳動等に適用することができ、特に(連続式)液体クロマトグラフィー法、薄層クロマトグラフィー、電気泳動に好適である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これにより本発明が実施例に限定されるものではない。なお、分析条件における溶解液又は移動相の組成は容積比である。
【0040】
<合成例:光学活性な2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸の合成>
i)6−ヒドロキシナフト酸のメチルエステル化反応
定法に従い、6−ヒドロキシナフト酸25gに対して、触媒量10mLの濃硫酸存在下、メタノール溶媒中で4時間の加熱還流を行うことで、6−ヒドロキシナフト酸メチルエステル25gを得た(収率94%)。
【0041】
ii)6−ヒドロキシナフト酸メチルエステルのカップリング反応
250mLの水中において、触媒量67gの塩化第二鉄・6水和物の存在下、上記得られた6−ヒドロキシナフト酸メチルエステル25gを70℃で20時間反応させることで、(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸メチルエステル13gを得た(収率53%)。
【0042】
iii)(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸メチルエステルの加水分解
(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸メチルエステル12g、およびNaOH10gを100mLの水中に添加し、1時間の
加熱還流により、(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸11gを得た(収率98%)。
【0043】
iv)(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸の光学分割
(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸0.20gとブルシン(2,3−ジメトキシストリキニジン−10−オン)0.42gをメタノール240mLに溶解させ、室温で12時間の静置後、得られた固体錯体(無色プリズム状、0.32g)を濾取することで、(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸・ブルシン錯体を粗生成物として取り出した。これをメタノール200mLに溶解させ再結晶し、得られた(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸・ブルシン錯体(0.20g、mp:233−235℃)に希硫酸を作用させブルシンを取り除き、酢酸エチルで抽出することにより光学活性な(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸0.053gを得た(収率53%、光学純度99%ee、mp:326−327℃)。
【0044】
一方、上記無色プリズム状の固体錯体を濾取した後の濾液に対し、希硫酸を作用させブルシンを取り除き、酢酸エチルで抽出することにより、粗生成物として、(S)−(−)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸を得た。これにメタノール中、ジアザビシクロオクタン(DABCO)を作用させ、(rac)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸をDABCOの錯体として取り除くことにより、光学活性な(S)−(−)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸0.030g(収率30%、光学純度:99%ee、mp:322−323℃)を得た。
【0045】
それぞれの光学活性体の光学純度は、ダイセル化学工業(株)社製、CHIRALPAK AS(0.46φ×25cm)、分析条件は、溶解液:n−ヘキサン/EtOH/TFA=75/25/0.1、流速:1.0ml/min、検出:UV254nmにより測定した((S)体:14分、(R)体:17分)。
【0046】
<実施例:シリカゲル担持光学活性MOFの合成>
合成例で得た(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸0.5gをエタノール50mLに溶解して均一溶液とした。この溶液にシリカゲル(シリカゲル60、メルク製、粒径0.063−0.200mm)2.5gを加えて、エバポレーターを用いてエタノールを完全に留去し、(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸をシリカゲルに吸着させた試料を作成した。作成した試料3.0g、硝酸銅・三水和物0.5gを純水1mLに溶解したもの、およびジメチルホルムアミド(DMF)15mLの混合物を、耐圧ガラス容器中、80℃で24時間加熱攪拌した。溶液を室温まで冷却したのち、析出した緑色結晶を吸引濾過し、メタノールで洗浄した。得られた結晶を130℃で2時間減圧下乾燥すると、緑色粉末結晶の生成物(シリカゲル担持光学活性MOF)が2.5g得られた。
得られた緑色粉末結晶の粉末X線回折(PXRD)パターンを確認すると、MOFの粉末X線回折(PXRD)パターンに類似しており、シリカゲル担持光学活性MOFの合成されたことを確認した。
【0047】
<分離評価1>
上記シリカゲル担持光学活性MOFを、0.46φ×5cmLステンレス製カラムに、スラリー充填法により充填し、カラムを作製した。作製したカラムに、下記式(4)に示すサンプル(TTB)を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図1−1に示す。
加えて、図1−1についてピーク対称性を下記計算式に基づき算出したところ、1.67であった。ピーク対称性の説明を図4に示す。
ピーク対称性=W0.05/2×f
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
背圧: 1.7MPa
サンプル打ち込み量: 1.0mg/ml(移動相)×10μL
【0048】
【化4】


【0049】
<分離評価2>
分離評価1で用いたカラムに、下記式(5)に示すサンプル(Binaphtol/(R))を用いて、カラムの不斉識別能力評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図1−2に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.0mg/ml(移動相)×15μL
【0050】
【化5】

【0051】
<分離評価3>
分離評価1で用いたカラムに、下記式(6)に示すサンプル(MePhSO/(R))を用いて、カラムの不斉識別能力評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図1−3に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.0mg/ml(移動相)×15μL
【0052】
【化6】

【0053】
<比較例1:シリカゲル混合光学活性MOFの合成>
合成例で得た(R)−(+)−2,2'−ジヒドロキシ−1,1'−ビナフタレン−6,6'−ジカルボン酸0.4gをメタノール60mLに溶解させ、硝酸銅1水和物0.26gと混合し、デシケーター中でジメチルアニリンの蒸気と接触反応させながら室温で1日から1週間程度静置することで、緑色の針状結晶である光学活性MOFを得た(収率37%)。
得られた光学活性MOF120mgをメノウ乳鉢で磨り潰し、磨り潰した光学活性MOFとクロマトグラフ用シリカゲル(SP−120−5−APS、ダイソー社製、粒径0.005mm、アミノプロピルシラン処理)360mgを十分に混合し、得られた粉体をそのまま0.46φ×5cmLステンレス製カラムに、タッピング法により充填を行い、カラムを作製した。タッピング法とは、充填剤を固体のまま直接カラム管に入れ、ある密な充填がなされるまでタッピングを繰り返すことでカラム充填を行う方法である。
【0054】
<比較分離評価1>
比較例1で作製したカラムに、上記式(4)に示すサンプル(TTB)を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図2−1に示す。
加えて、図2−1についてピーク対称性を分離評価1と同様にして算出したところ、2.05であった。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
背圧: 〜0.2MPa
サンプル打ち込み量: 1.0mg/ml(移動相)×10μL
【0055】
<比較分離評価2>
比較例1で作製したカラムに、上記式(5)に示すサンプル(Binaphtol/(
R))を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図2−2に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.5mg/ml(移動相)×10μL
【0056】
<比較分離評価3>
比較例1で作製したカラムに、上記式(6)に示すサンプル(MePhSO/(R))を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図2−3に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.5mg/ml(移動相)×10μL
【0057】
<比較例2:シリカゲル混合光学活性MOFの合成>
比較例1で用いた光学活性MOF120mgをメノウ乳鉢で磨り潰し、磨り潰した光学活性MOFをメタノール12mLに添加し、よく分散させた。この懸濁液をクロマトグラフ用シリカゲル(SP−120−5−APS、ダイソー社製、粒径0.005mm、アミノプロピルシラン処理)400mgに均一に振り混ぜ、MeOHを留去させた。これを数回繰り返すことで、シリカゲルへ混合させた。得られた粉体をそのまま0.46φ×5cmLステンレス製カラムに、タッピング法により充填を行い、カラムを作製した。
【0058】
<比較分離評価4>
比較例2で作製したカラムに、上記式(4)に示すサンプル(TTB)を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図3−1に示す。
加えて、図3−1についてピーク対称性を分離評価1と同様にして算出したところ、2.73であった。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
背圧: 〜0.2MPa
サンプル打ち込み量: 1.0mg/ml(移動相)×10μL
【0059】
<比較分離評価5>
比較例2で作製したカラムに、上記式(5)に示すサンプル(Binaphtol/(R))を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図3−2に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.5mg/ml(移動相)×10μL
【0060】
<比較分離評価6>
比較例2で作製したカラムに、上記式(6)に示すサンプル(MePhSO/(R))を用いて、カラムの分離性能評価を行った。
なお、カラムの分析条件を以下に示し、結果を図3−3に示す。
移動相: ヘキサン/2−PrOH=9/1
温度: 25℃
流速: 0.2mL/min
検出: UV254nm
サンプル打ち込み量: 1.5mg/ml(移動相)×10μL
【0061】
比較例1および2においては、TTBの分離についてはある程度可能であるが、Binaphtol/(R)、およびMePhSO/(R)などの化合物については、明確に分離することは難しい。しかしながら、本発明の光学異性体用分離剤を用いた場合には、Binaphtol/(R)、およびMePhSO/(R)であっても、明確に分離することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光学異性体用分離剤を用いることで、ラセミ体の光学分割を効率良く行うことが可能となる。その結果、医薬分野や食品分野において、光学異性他の生産性の向上に貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体を担持した光学異性体用分離剤。
【請求項2】
前記多孔性金属−有機構造体は、下記一般式(1)で示される配位子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【化1】

[上記一般式(1)中、R1〜R6は、独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜5のアルキルヒドロキシ基、カルボキシル基、炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基から選択され、R1〜R6のうちの1つはカルボキシル基又は炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基であり、R6は水素以外の基である。]
【請求項3】
前記多孔性担体がシリカゲルである請求項1または2に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学異性体用分離剤を充填した、分離カラム。
【請求項5】
多孔質担体に光学活性な多孔性金属−有機構造体を担持した光学異性体用分離剤を製造する方法であって、
前記光学活性な多孔性金属−有機構造体を構成する配位子を多孔質担体に吸着させ、その後金属化合物と混合することを特徴とする、光学異性体用分離剤の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−112535(P2011−112535A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269867(P2009−269867)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】