説明

ギター

【課題】弦を張ってもボディが変形し難いギターを提供する。
【解決手段】音を共鳴させる空洞状のボディと、ボディの表板の裏面に配設され、弦の端末を固定する弦端固定具90とを備えたギターであって、弦端固定具90は、表板の裏面に立設され、夫々の間に弦70の端末を挿通させると共に表板を補強しない少なくとも一対のリブ92と、各リブ92に架設された架設板93と、架設板93に設けられ、表板の裏面から離間した位置に弦70の端末を係止するスリット94によって構成された係止部とを有することを特徴とするギター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギターに関するものであり、特に、弦の音を共鳴させる空洞状のボディを有するアコースティックギターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギターとしては、種々のものがあるが、中には、図7に示すように、弦70の音を共鳴させる空洞状のボディ10と、ボディ10から突出するネック20と、ネック20の先端に設けられたヘッド30とを有するギター1があり、このようなギター1は、アコースティックギターと称されている。
【0003】
そして、このような従来のギター1では、ボディ10のブリッジ40に弦70の一端側が固定され、ヘッド30のチューニングペグ31に弦70の他端側が巻付けられている。ここで、ブリッジ40での弦70の固定を、以下に詳細に説明する。
【0004】
図8に示すように、ブリッジ40は、ボディ10の表板11の表側に貼付けられている。また、表板11の裏側には、ブリッジ40に対応する位置に、補強板41が貼付けられている。そして、ブリッジ40、表板11及び補強板41の夫々には、弦70を挿通させる貫通孔40a,11a,41aが設けられている。
【0005】
一方、弦70の一端側の端末には、通常、リング状、ボール状、弾丸状等のエンドピース71が取付けられており、ブリッジ40、表板11及び補強板41の各貫通孔40a,11a,41aに弦70のエンドピース71を挿入した上で、ブリッジ41にピン60を装着することで、エンドピース71が補強板41の裏側に係止され、もって、弦70の一端側がブリッジ40に固定される。
【0006】
なお、図8では、ブリッジ40及び補強板41の各貫通孔40a,41aに弦70の逃がし溝を設けた例を示すが、弦70の逃がし溝が設けらたピン60を用いる場合には、このような逃がす溝を設ける必要はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような構造で弦の一端側がブリッジに固定される従来のギターでは、弦を張ると、弦の張力によってボディの表板に応力が加わる。具体的に、実際には補強板に弦のエンドピースが係止されており、弦の張力(図8の矢印A参照)によって補強板が引っ張られ、補強板によって表板を裏側から押し上げる応力が加わる。
【0008】
よって、従来のギターでは、弦を張ると、表板が部分的に膨れてしまう場合があった。特に、表板の貫通孔周りに表板を押し上げる応力が局部的に加わるため、表板の貫通孔周りに変形が生じ易かった。ここで、ギターのボディの形状は、よい音を出すために製作者が鋭意工夫して設定したものであり、ボディの形状が僅かに変形しても、製作者の意図する音色が出せなくなってしまうことがある。よって、弦を張ることでボディが変形してしまうことは、望ましくない。
【0009】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、弦を張ってもボディが変形し難いギターの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、「音を共鳴させる空洞状のボディと、該ボディの表板の裏面に配設され、弦の端末を固定する弦端固定具とを備えたギターであって、前記弦端固定具は、前記表板の裏面に立設され、夫々の間に弦の端末が挿通可能とされた少なくとも一対の立設された部位と、各該立設された部位に架設された部位と、該架設された部位又は前記立設された部位の何れかに設けられ、前記表板の裏面から離間した位置に弦の端末を係止する係止部とを有し、前記表板を補強するブレーシングに干渉しないように取付けられていることを特徴とするギター」である。また、上述した手段において、「前記係止部は、前記架設された部位としての架設板に設けられたスリットによって構成されていることを特徴とするギター」とするのが好適である。更に、上述した手段において、「前記弦端固定具は、前記表板の裏面に貼付けられる底板を更に有し、該底板に前記立設された部位としてのリブが立設されていることを特徴とするギター」とするのが好適である。
【0011】
上記構成のギターでは、弦端固定具の弦の端末を係止する係止部、すなわち、弦の端末を実質的に固定する部位が、ボディの表板の裏面から離間した位置に配設されているため、弦の張力による応力が係止部に加わっても、この応力がボディの表板に局部的に加わることがない。すなわち、係止部からの応力は、弦端固定具が表板に直接、取付けられている場合には、弦端固定具が表板に接触する面全体に分散され、弦端固定具が介在物を介して表板に間接的に取付けられている場合には、介在物が表板に接触する面全体に分散される。よって、従来のギターの如く、表板の貫通孔周りに局部的な応力が加わることがなく、弦を張ってもボディが変形し難いギターとなる。
【0012】
上記構成のギターは、弦端固定具の形態を、少なくとも一対の立設された部位と、各立設された部位に架設された部位とを有する形態としたものである。換言すれば、弦端固定具の形態を、断面コ字状のものとしたものである。よって、係止部が離間した位置に配設される弦端固定具を、単純な構造によって実現することができる。
【0013】
また、上記構成のギターは、弦端固定具の形態を、少なくとも一対の立設された部位と、各立設された部位に架設された部位とを有する形態としているので、立設された部位と架設された部位とによって、共鳴ボックスが形成される。よって、このような弦端固定具を備えたギターでは、ボディ内部に小型の共鳴ボックスを有するギターとなり、ボディで共鳴させる音色を、さらによい音色に向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
上述した通り、本発明によれば、弦を張ってもボディが変形し難いギターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ギターの一例を示す正面図である。
【図2】図1に示したギターのブリッジ部分の縦断面図である。
【図3】弦端固定具の別例を示す要部縦断面図である。
【図4】弦端固定具の別例を示す図であり、ボディの表板の裏側から見た背面図である。
【図5】本発明に係るギターの一例における弦端固定具を示す図であり、ボディの表板の裏側から見た斜視図である。
【図6】図5とは別例の弦端固定具を示す図であり、ボディの表板の裏側から見た斜視図である。
【図7】従来のギターを示す正面図である。
【図8】図7に示したギターのブリッジ部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ギターの実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。
【0017】
図1に、ギター100の一例を示す。
【0018】
このギター100は、弦70の音を共鳴させる空洞状のボディ10と、ボディ10から突出するネック20と、ネック20の先端に設けられたヘッド30とを有し、弦70の一端側をボディ10のブリッジ40に固定し、弦70の他端側をヘッド30のチューニングペグ31に巻付けるものであり、外観上は、従来のギター1と同様である。なお、図面において、従来のギター1と同様な構成については、同一の符号を付してある。
【0019】
また、本例のギター100では、一般的な従来のギター1と同様に、ボディ10の表板11の裏側に、表板11を補強するブレーシング12が貼付けられている。なお、本例では、X状のブレーシング12を示すが、ブレーシング12の形態としては、これに限らず、H状や格子状等、適宜設定することができる。
【0020】
本例のギター100が従来のギター1と異なるのは、ブリッジ40での弦端末の固定の構造であり、この弦端末の固定の構造を以下に説明する。
【0021】
図2に示すように、ボディ10の表板11には、表側にブリッジ40が配設されており、裏側に弦端固定具42が配設されている。ここで、表板11の表側に配設されたブリッジ40は、両端部分がブレーシング12と重なるように配置される(図1参照)と共に、表板11の表面に貼付けられている。また、弦端固定具42は、ブリッジ40と略同一の外形を呈するものとして板状に形成されており、表板11の裏側において、ブレーシング12に取付けられている。より具体的に、弦端固定具42は、その両端部分がブレーシング12に貼付けられている。
【0022】
このような弦端固定具42によって弦70の端末を固定する場合には、ブリッジ40、表板11及び弦端固定具42の各貫通孔40a,11a,42aに弦70のエンドピース71を挿入し、従来のギター1と同様にピン60を装着することで、弦70のエンドピース71を弦端固定具42に固定することができる。
【0023】
ここで、弦70のエンドピース71は、弦端固定具42の貫通孔42aから飛び出たピン60の先端によって貫通孔42a周りにて係止されて弦端固定具42に固定されることから、弦端固定具42の貫通孔42aを、弦70の端末を係止する係止部として捉えることができる。そして、本例のギター100では、弦端固定具42が、ブレーシング12を介して表板11の裏面から浮いた状態で配設されており、係止部(貫通孔42a)が表板11の裏面から離間した位置に配設されている。よって、弦70の張力が弦端固定具42の貫通孔42a(係止部)に加わっても、表板11の貫通孔11a周りに局部的な応力が加わることがなく、ボディ10が変形し難いギターとなっている。
【0024】
なお、本例のギター100では、弦端固定具42が表板11の裏面に直接、取付けられておらず、ブレーシング12に取付けられている分だけ、従来のギター1に比して、ピン60の装着孔が深いものとなっている。よって、従来のギター1のピン60では短すぎる場合には、図2の2点鎖線で示すように、表板11の裏側、すなわち弦端固定具42側からピン60を装着し、このピン60の頭部によって弦70のエンドピース71を弦端固定具42の貫通孔42aに係止させればよい。
【0025】
また、図3に示すように、弦端固定具42の貫通孔42aにおいて、ネック20側にスリット42bを設けたり、図示は省略するが、弦端固定具42の貫通孔42a近傍に弦70のエンドピース71を引掛ける引掛け部を設け、スリット42bや引掛け部を係止部として、この係止部によって弦70のエンドピース71を弦端固定具42に係止することができるようにしてもよい。このようにすることで、ピン60を用いることなく、ブリッジ40に弦70の端末を固定することができる。
【0026】
ところで、ギター100に弦70を張った状態では、ブリッジ40が弦70と表板11とで挟持された状態となる。よって、表板11にブリッジ40を堅固に固定する必要はないのであるが、従来のギター1では、ブリッジ40にピン60を装着しなければならないが故に、ブリッジ40を表板11に堅固に固定すべく、表板11に貼付けることが余儀なくされていた。
【0027】
これに対して、上述のようにピン60を不要とする構造とすれば、ブリッジ40を表板11に堅固に固定する必要がなく、表板11に対してブリッジ40を着脱可能とすることができる。そして、表板11に対してブリッジ40を着脱可能とすれば、使用者の好みに合わせて、形状、模様、材質等の異なる別のブリッジ40に容易に交換することができるギター100となる。
【0028】
なお、ブリッジ40を着脱可能な構成とする場合には、ダボ等を用いて表板11に対してブリッジ40を位置決めできるようにすると、ブリッジ40の交換を簡便に行うことができる。
【0029】
また、ブリッジ40の貫通孔40aは、弦70の端末を挿通させなければならないことから必須なのであるが、ブリッジ40の貫通孔40aにピン60を装着する必要のないギター100であれば、貫通孔40aを用いて種々の装飾部品をブリッジ40に装着することができ、ブリッジ40の装飾を楽しむこともできる。
【0030】
図4に、弦端固定具42の別例を示す。この例では、ブレーシング12の交差部に弦端固定具42が取付けられている。
【0031】
ブレーシング12がX字状やV字状に交差する交差部を有するものである場合、この交差部は、表板11を最も堅固に補強する部分であり、表板11において、ブレーシング12の交差部が最も変形し難い部分である。よって、ブレーシング12の交差部に弦端固定具42を取付けることで、より的確に、ボディ10が変形し難いギター100とすることができる。
【0032】
なお、本例では、繋ぎ板43を介して弦端固定具42をブレーシング12の交差部に取付けてあるが、弦端固定具42を交差部に重なる形態として、ブレーシング12の交差部に直接、弦端固定具42を取付けてもよい。
【0033】
また、弦端固定具42がブレーシング12や表板11から離間して不安定となる場合には、図4の2点鎖線で示すように、表板11と弦端固定具42との間の支持台44や、ブレーシング12と弦端固定具42との間の支持台45等、適宜の支持台44,45を介在させてもよい。
【0034】
ここで、表板11と弦端固定具42との間に支持台44を設けた態様では、弦70の張力による応力が弦端固定具42から表板11に加わるのであるが、弦端固定具42は、ブレーシング12にも取付けられていることから、応力の全てが表板11に加わることがなくブレーシング12に分散される。よって、このような態様であっても、ボディ10が変形し難いギター100とすることができる。
【0035】
次に、本発明に係るギターの一実施形態として、図5に、弦端固定具80の一例を示す。この例では、表板11を補強するブレーシング12に干渉しないように表板11の裏面に弦端固定具80を取付けている。
【0036】
弦端固定具80は、一対の脚部81と、各脚81間に架設された架設部82とを有するものとして、金属板によって断面がコ字状の形態に形成されている。そして、架設部82には、弦70のエンドピース71が挿通可能な大きさの挿通部83が設けられており、ネック20側の脚部81には、挿通部83に連通するスリット84が設けられている。ここで、スリット84は、弦70の端末のエンドピース71を係止する係止部を構成するものであり、エンドピース71が挿通不能な幅寸法となっている。よって、挿通部83に挿通した弦70のエンドピース71をスリット84に係止させることで(矢印B参照)、弦70の端末を弦端固定具80に固定することができる。
【0037】
このような弦端固定具80によって弦70の端末を固定すると、弦70の張力によって弦端固定具80が引っ張られても、エンドピース71を係止する係止部であるスリット84が表板11から離間しているため、引っ張りの応力が弦端固定具80の脚部81全体に分散されて表板11に加わる。よって、表板11の貫通孔11a周りに局部的に応力が加わることがなく、ボディ10が変形し難い。
【0038】
また、本発明に係るギターの一実施形態として、図6に、弦端固定具90の別例を示す。この弦端固定具90も、前述の弦端固定具80と同様に、表板11を補強するブレーシング12に干渉しないように表板11の裏面に取付けている。
【0039】
弦端固定具90は、表板11の裏面に貼付けられる底板91と、底板91から立設された複数のリブ92と、各リブ92の上面に架設された架設板93とを有している。ここで、リブ92は、弦70の張設方向に立設されており、複数のリブ92が、夫々のリブ92間にて弦70の挿通空間が形成されるように並設されている。そして、架設板93には、弦70の端末のエンドピース71を係止する係止部を構成するスリット94が設けられており、リブ92の間に挿通した弦70のエンドピース71をスリット94に係止させることで(矢印c参照)、弦端固定具90に弦70の端末を固定することができる。
【0040】
なお、本例では、弦70の挿通孔91aが穿設された底板91を介してリブ92が表板11の裏面から立設するようにしてあるが、底板91を省略して、表板11の裏面に直接、リブ92を立設してもよい。
【0041】
また、本例では、架設板93を、リブ92のネック20側の上部を覆う天板93aと、ネック20側とは反対側にスリット94が設けられ、天板93aの上面に貼着されたスリット板93bとによって構成してあるが、これに限らず、架設板93を、係止部を構成するスリット94を有する単一の部材によって形成してもよい。
【0042】
このような弦端固定具90によって弦70の端末を固定すると、弦70の張力によって弦端固定具90が引っ張られても、エンドピース71を係止する係止部であるスリット94が表板11から離間しているため、引っ張りの応力が弦端固定具90のリブ92全体に分散され、さらに底板91全体に分散されて表板11に加わる。よって、表板11の貫通孔11a周りに局部的に応力が加わることがなく、ボディ10が変形し難い。
【0043】
また、複数の弦70の夫々に対応して、対向する一対のリブ92と、その上部を覆う架設板93とによって箱状の空間が形成され、この箱状の空間が共鳴ボックスとなる。よって、弦70の音を共鳴させるボディ10内において、さらに個々の共鳴ボックスによって弦70の音を共鳴させることができ、ギター100の音色を向上させることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 従来のギター
10 ボディ
11 表板
11a 貫通孔
12 ブレーシング
20 ネック
30 ヘッド
31 チューニングペグ
40 ブリッジ
41 補強板
41a 貫通孔
42 弦端固定具
42a 貫通孔(係止部)
42b スリット(係止部)
43 繋ぎ板
44 支持台
45 支持台
50 サドル
60 ピン
70 弦
71 エンドピース
80 弦端固定具
81 脚部
82 架設部
83 挿通部
84 スリット(係止部)
90 弦端固定具
91 底板
91a 貫通孔
92 リブ
93 架設板
93a 天板
93b スリット板
94 スリット(係止部)
100 ギター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音を共鳴させる空洞状のボディと、
該ボディの表板の裏面に配設され、弦の端末を固定する弦端固定具と
を備えたギターであって、
前記弦端固定具は、
前記表板の裏面に立設され、夫々の間に弦の端末が挿通可能とされた少なくとも一対の立設された部位と、
各該立設された部位に架設された部位と、
該架設された部位又は前記立設された部位の何れかに設けられ、前記表板の裏面から離間した位置に弦の端末を係止する係止部と
を有し、前記表板を補強するブレーシングに干渉しないように取付けられていることを特徴とするギター。
【請求項2】
前記係止部は、
前記架設された部位としての架設板に設けられたスリットによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のギター。
【請求項3】
前記弦端固定具は、
前記表板の裏面に貼付けられる底板を更に有し、
該底板に前記立設された部位としてのリブが立設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のギター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−238021(P2012−238021A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173668(P2012−173668)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2009−158393(P2009−158393)の分割
【原出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(309005788)
【Fターム(参考)】