説明

ギャバを含有するギャバ大麦の製造方法及びその製品

【課題】 大麦を材料として用いたギャバの高生産技術を提供することを目的とし、特に大麦を用いてギャバを含有するギャバ大麦並びにギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を効率よく大量に製造可能とする。
【解決手段】 大麦は表皮が堅いため、効率よく表皮を剥ぐために、精麦装置により5%から35%以下で精白した大麦粒と、0.3%から3%の間の濃度で、pHを3から7に、調整したグルタミン酸溶液を混合し、室温で1時間以上、1晩(約15時間)浸漬すること、並びに、同様に1時間以上、1晩浸漬した後、水切り後、室温で1晩放置することで大麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより、グルタミン酸がγアミノ酪酸(GABA、ギャバ)に変換され、γアミノ酪酸が多く含有するギャバ大麦並びにギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液が高生産されることを最も主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物特に大麦を用いたギャバの高生産が容易なギャバを含有するギャバ大麦並びにギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法及びその製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギャバとは、γアミノ酪酸でgamma−amino−butyric acidの頭文字、GABAに由来し、たんぱく質には含まれない非タンパク質性アミノ酸である。以下、γアミノ酪酸をギャバ、若しくは図面においてGABAで表示する。
【0003】
特許文献1においては、精麦処理した後であっても、ギャバを豊富に含んでいる大麦加工品及びその加工方法について提供されている。
搗精度60%の精麦処理した大麦種子のギャバ残存率が未加工大麦種子に比べて50%以上である。大麦の加工方法は、大麦種子を、発芽処理することなく精麦する工程を備える。

特許文献2においては、高ギャバ含有アルコール飲料とその製造方法において、高ギャバ含有アルコール飲料に関する高ギャバが麦芽由来のもの(特許文献2に係る特開2003−250512号公報の請求項3に記載されている)である。

特許文献3においては、食用胡麻の製造方法においては、ギャバの含有量の増加をもたらすものが公開されているが、はだか麦、もち麦、ヒエ、アワ、キビのような穀物においては、発芽させることなくギャバを多量に含む食材の開発が為されていなかった。

特許文献4においては、食品素材又は食品及びそれらの製造方法においては、アラニンとγアミノ酪酸を富化させた新規な食品素材又は食品が公開されているが、それらは、アワ、キビ、ヒエ、ハトムギ、ソバ、アマランサス、キヌア、トウモロコシ、小豆、ゴマ、大麦からなる群から選ばれた一又は二以上の雑穀又は雑穀を含む穀類を発芽させ、発芽させていないものに比べ、アラニンとγアミノ酪酸を富化させている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−252254号公報
【特許文献2】特開2003−250512号公報
【特許文献3】特開2007−330129号公報
【特許文献4】特開2003−159017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、穀物特に大麦を用いたギャバの高生産技術を提供することを目的とし、大麦を用いてギャバを多量に含有するギャバ大麦並びにギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を効率よく大量に製造できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、精麦機により5%以上35%以下に精白した大麦の精麦粒と、0.3%から3%の間の濃度で、pHを3から7に、調整したグルタミン酸溶液(L−Glu)を混合し、室温で1時間から1晩(約15時間)浸漬すること、並びに、同様に1時間から1晩浸漬した後、水切り後、室温で1晩放置することで大麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより、グルタミン酸がγアミノ酪酸(GABA、ギャバ)に変換され、大麦を材料としてγアミノ酪酸が高生産されることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のギャバ含量が高いギャバ大麦の製造方法は、玄麦から精白した大麦の精麦粒と濃度及びpHの値を調整したグルタミン酸溶液を混合して放置することにより大麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きを利用するため、大麦から大麦の精白の度合いと、濃度及びpHの値を調整したグルタミン酸溶液との両者の混合により長時間放置することでギャバを大量に生産することが容易である。同製造方法により、精麦装置で大麦の表皮を精白した残りのふすまを材料としてギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造する製造方法である。玄麦から精白するための装置は精麦装置を使用し若しくは精米装置でも精白可能である。乾燥したギャバを含むギャバ大麦粒並びに大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液はギャバを含む食品の製造のための食材として利用される利点がある。

【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は二条大麦玄麦からギャバ大麦製品の製造工程の実施方法をフローチャートにより示したギャバ大麦製造工程図である。(実施例1)
【図2】図2は大麦の精麦度を横軸に原麦から精白度35%までの大麦100g中に含まれるギャバ(GABA)の含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図3】図3はグルタミン酸溶液の濃度に対してグルタミン酸の濃度を横軸に、生成されるギャバ(GABA)の精白度35%大麦100g中に含まれる含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図4】図4はグルタミン酸溶液について調整したpHを横軸に生成されるギャバ含量をグラフに示した説明図である。(実施例1)
【図5】図5は二条大麦から35%精白して残留したふすまの実験において、大麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて一晩置くとギャバ(GABA)含量27%を生成したことを示唆する説明図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、ギャバを高い含量で有する大麦の麦粒並びに大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造するために、ギャバの出発原料であるL−グルタミン酸を添加、摂氏約25度の室温で保温することで、麦粒並びにふすまでギャバに変換する方法を採用した。この製造方法で、精白大麦並びに大麦ふすまのギャバ冨化品及びギャバ含有ふすま上澄み液を実現した。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明方法に係る玄麦からギャバ大麦並びに大麦ふすまの製品を高生産する製造方法の工程の1実施例である。
【0011】
符号を引用して実施例を説明すると、大麦1を50g、精米装置により精白して精麦2にして、pH3からpH7に調整したL−グルタミン酸溶液100mlに室温で一晩、浸漬した4のちに、水切り5、幾分湿った状態でさらに一晩、保温6した。
【0012】
保温したグルタミン酸処理麦粒を65℃で3時間乾燥7した。
【0013】
乾燥麦粒のサンプル8をビーンミルで粉砕した。
【0014】
粉砕したサンプル8に30mlの2%(W/V)スルホサリチル酸を加え、激しく10分間振とうした。
【0015】
遠心分離(1000xg、10分間)後、上清をギャバ分析用サンプルとして回収した。
【0016】
ギャバ分析用サンプルの中のギャバ量は、アミノ酸分析装置(HPLC法)により定量した。
【0017】
前項0011の試料に付いて、ギャバ含量を測定した結果を図2に示した。
【0018】
前項0017の結果、玄麦ではほとんどギャバは生産されなかったが、15%から20%精白条件で精白した大麦では大量のギャバが生産された。
【0019】
前項0017,0018の結果に示した大麦は、より精白度の高い30%や35%でもそれの最適条件15%の場合に比べて、半分から3分の1生産された。使用した大麦は表皮が堅いため、より強く精麦することでもギャバ生産能力は保持されていた。
【0020】
前項0018、0019に示したように、大麦において精麦処理することがギャバ生産にとって必須であることが分かったが、前項0010に示した処理で、どのような濃度のグルタミン酸溶液に浸漬した時が、良好にギャバが生産されるかについて調べた。0%から3%のグルタミン酸及びグルタミン酸ナトリウム溶液についてpH4に調整した溶液に、35%精白度大麦を浸した。
【0021】
前項0020のサンプルについての分析結果を図3に示した。食品添加物として認められているグルタミン酸及びグルタミン酸ナトリウム溶液0.3%から3%の間で良好なギャバ生産を確認した。
食品添加物として認められているその他のグルタミン酸カリウム、グルタミン酸マグネシウム及びグルタミン酸カルシウム溶液0.3%から3%の間で良好なギャバ生産をすることが期待される。
【0022】
これまでのギャバ大麦のギャバ含量の分析結果から、1%の濃度のグルタミン酸溶液に精白度35%の精麦大麦を浸漬することにより、高濃度のギャバを含有する大麦を製造することができるが、グルタミン酸溶液としてどの程度のpHの範囲で良好なギャバ生産が期待されるかを調査した。
【0023】
前項0022のサンプルについて、分析結果を図4に示した。グルタミン酸溶液のpHを3から7に調整することで良好なギャバ生産を確認した。

【実施例2】
【0024】
図5に基づいて符号を引用して説明すれば、大麦を35%精麦したときに残余したふすま、大麦ふすま25gと、グルタミン酸溶液(1%濃度、pH4、100ml)を混ぜて9、一晩(約15時間)置くことについて10、大麦ふすま及びふすま上澄み液(遠心分離上澄み)で27%のギャバ生成11を観察した。遠心分離(1000xg、10分間)の操作を行い、その結果、上澄み液(溶液)とふすま(沈殿)ができる。この実験操作及び結果を図5に示した。精麦装置で大麦を25%から35%精白して残余したふすまを材料としてギャバ大麦ふすまの製品を製造することができる。又、処理後の上澄み液をギャバ含有大麦ふすま上澄み液として利用することができる。ギャバ大麦ふすまを65℃から70℃で3時間程度の加熱処理することにより乾燥することは、雑菌を殺菌し有効な保存方法である。
【0025】
実施例1と実施例2の製造方法により、大麦の玄麦をギャバを含有するギャバ大麦並びにギャバ大麦ふすま及びギャバ含有ふすま上澄み液を製造して余すところなく食材として活用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法で生成されたギャバを含有する食材を粉砕し、麺、うどん、パスタの製造工程で中に混入し、或いはギャバ大麦を入れたご飯を炊くことにより、またギャバふすま上澄み液を用いた食品の製造や他の食品例えば清涼飲料水への添加などによりさまざまな食材としての用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 大麦
2 精麦
3 L−グルタミン酸溶液
4 浸漬
5 水切り
6 保温
7 乾燥
8 サンプル
9 大麦ふすまとグルタミン酸溶液の混合
10 一晩(約15時間)置くことについて
11 ギャバ生成


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦を5%以上35%以下の間で精白された精麦大麦を材料に、グルタミン酸溶液に浸漬することにより大麦でギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の精麦大麦は、精麦装置で玄麦の表皮を剥がして製作された精麦大麦であることを特徴とするギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のグルタミン酸溶液は、グルタミン酸ナトリウム又はグルタミン酸を用いて大麦を浸漬することを特徴とするギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のグルタミン酸溶液は、その濃度が0.3%から3%の間の溶液とし、pHを3から7の間に調節して用いることを特徴とするギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のグルタミン酸溶液6L当たり2kgの割合で精麦大麦を1時間以上室温で浸漬したことを特徴とするギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のグルタミン酸溶液に精麦大麦を浸漬した後、水切りし、室温で保温することを特徴とするギャバを含有するギャバ大麦の製造方法。
【請求項7】
大麦を5%以上35%以下の間で精白された精麦大麦を材料に、グルタミン酸溶液に浸漬することにより大麦でギャバを含有するギャバ大麦の製造方法により製造されたギャバ大麦製品。

【請求項8】
大麦を材料として精白した精麦を、グルタミン酸溶液に浸漬することにより大麦で製造したギャバを含有するギャバ大麦を65℃から70℃で乾燥保存するギャバ大麦の保存方法。
【請求項9】
大麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことにより大麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ大麦ふすまの製造方法。
【請求項10】
大麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことにより大麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法。

【請求項11】
大麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことにより大麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ大麦ふすまの製造方法により製造されたギャバ大麦ふすま製品。
【請求項12】
大麦ふすまとグルタミン酸溶液を混ぜて約15時間置くことにより大麦ふすまで製造するギャバを含有するギャバ含有ふすま上澄み液の製造方法により製造された大麦ふすま上澄み液製品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55211(P2012−55211A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200404(P2010−200404)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(394024019)株式会社マエダ (3)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】