説明

クラウン調整可能な多段圧延機

【課題】多段圧延機の複数本のバックアップロールについて全てのロールクラウンを調整する。
【解決手段】本発明の多段圧延機1は、圧延材Wを圧延するワークロール5と、バックアップロール8と、これらのロールを収納するミルハウジング16とを有し、バックアップロール8は複数の分割ロール10に分割されており、それぞれの分割ロール10が隣接配備されると共にミルハウジング10に対して移動可能に支持されていて、左右両端側に位置するバックアップロール8のの位置を可変とする第1クラウン調整機構100を有するものであって、左右両端側に配備された第1クラウン調整機構100の間に、左右両端側以外のバックアップロール8のミルハウジングに対する分割ロール10位置を可変とする第2クラウン調整機構200が設けられ、第2クラウン調整機構200が、第1クラウン調整機構100と非干渉に配備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型のバックアップロールを有し、且つこのバックアップロールの分割ロールがミルハウジングに対して位置調整可能とされ、圧延材のクラウン形状を調整可能とされた多段圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、鋼板などの圧延材を冷間圧延する際には一対のワークロールを備えた圧延機が用いられる。特に、ステンレス、チタン、特殊鋼、銅などの硬質材や高品位な板形状が求められる圧延材を冷間圧延する際には、ワークロールを支持するロール群が葡萄の房のように扇状に広がる「クラスタ型の多段圧延機(クラスタ圧延機)」が用いられることが一般的である。
【0003】
上述したクラスタ型の多段圧延機では、ステンレスなどのような硬質な圧延材の薄物圧延などが行われており、このような圧延材に対してはクラウン、つまり圧延材の断面形状(板形状)を精確に制御する必要がある。このような圧延材の形状制御技術としては、次の特許文献1や特許文献2に示すようなものが既に開示されている。
特許文献1には、板材を圧延する一対のワークロールと、該ワークロールを中間ロールを介して支持するバックアップロールとを有し、前記バックアップロールは一本のロール軸に回転自在に支持された分割ロールから構成され、前記ロール軸の各分割ロールの両側に位置する部分はサドルにより支持され、且つ、前記各分割ロールは独立して径方向に変位可能とされており、前記各サドルの内、板幅方向中央部のサドルの厚みが、他のサドルの厚みの1.1〜1.6倍にされている多段圧延機が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ロール軸と軸方向に分割してロール軸に嵌合した複数のローラとからなるバックアップロールを、各ローラ間及び両端に支持点を設けて、これらの支持点のうち中央の支持点のロール軸に対し直角方向の剛性が最大となるように支持することを特徴とする多段圧延機用分割型バックアップロールの支持方法が開示されている。
これら特許文献1や特許文献2の形状制御技術は、分割された複数のバックアップロールを支持するサドルを設けておき、このサドルが固定されたサドルブロックを押圧して分割されたバックアップロールの分割ロールを移動させることで、圧延材のクラウン形状の制御を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−337513号公報
【特許文献2】特公平6−79731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な12段や20段の多段圧延機では、バックアップロールはワークロールの軸心から見て最外側に複数本が円弧状に並んで設置されている。上記した特許文献1や特許文献2の多段圧延機においては、これら複数本のバックアップロールの内、正面視において最右側と最左側に位置するバックアップロールを構成する分割ロールの位置を可変とする機構(本願請求項の第1クラウン調整機構に対応)を開示している。
【0007】
すなわち、特許文献1、2の機構では、ミルハウジングの上側からサドルブロックまで上下に伸びるシャフトが差し込まれていて、このシャフトは上下軸回りに回転駆動できるようになっている。そして、シャフトの下端側にはシャフトの偏心回動に合わせて移動してサドルブロックを押圧する偏心押圧部が取り付けられている。
ところで、圧延材の断面形状(板形状)を正確に制御するに際しては、最右側と最左側に位置するバックアップロールの分割ロール位置のみを可変とするだけではなく、他のバックアップロール(例えば、ワークロールの上方に位置する中央側のバックアップロールなど)の分割ロール位置も可変とするのが好ましい。
【0008】
とはいえ、特許文献1、2に開示されたバックアップロールの分割ロールの位置を可変とする機構を、ワークロールの上方に位置するバックアップロールのような他のバックアップロールへ適用した場合、中央側のサドルブロックを移動する機構と両端側(最右側及び最左側)のサドルブロックを移動する機構が互いに干渉する問題、特にシャフト等の交差による干渉の問題が発生する。
【0009】
つまり、特許文献1、2に開示されたクラウン調整機構を、複数本のバックアップロールを備えた多段圧延機に採用する場合は、その中の一部(最外側)のバックアップロールにしか適用できず、変位量が不足し十分な形状制御を行うことができないという問題があった。
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、設置スペースや位置的な干渉に影響されることなく、複数本のバックアップロールを備えた多段圧延機において全てのバックアップロールの分割ロールの位置が調整可能で、圧延材のクラウン形状を適正に制御できる多段圧延機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため以下の技術的手段を講じた。
本発明の板クラウンを調整可能な多段圧延機は、圧延材を圧延する上下一対のワークロールと、該ワークロールを支持するバックアップロールと、前記ワークロール及びバックアップロールを収納するミルハウジングとを有し、前記バックアップロールは軸心方向に複数の分割ロールに分割されており、それぞれの分割ロールが隣接配備されると共に前記ミルハウジングに対して独立して移動可能に支持されていて、左右両端側に位置する両端バックアップロールの分割ロールを移動させることで、該両端バックアップロールの分割ロールの前記ミルハウジングに対する位置を可変とする第1クラウン調整機構を有する多段圧延機において、左右両端側に配備された第1クラウン調整機構の間に、前記両端側バックアップロール以外の中央バックアップロールの分割ロールの前記ミルハウジングに対する位置を可変とする第2クラウン調整機構が設けられ、前記第2クラウン調整機構が、第1クラウン調整機構と非干渉に配備されていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記分割ロールはサドルにより支持されると共に該サドルはサドルブロックに支持されていて、前記第1クラウン調整機構と第2クラウン調整機構は、前記サドルブロックを分割ロールに軸心に対して略垂直に移動させるサドルブロック移動手段を有しており、前記第2クラウン調整機構のサドルブロック移動手段が、第1クラウン調整機構のサドルブロック移動手段を横切らない位置に配備されているとよい。
【0012】
好ましくは、前記第2クラウン調整機構のサドルブロック移動手段は、上下方向を向くように配備された第1シャフトと、この第1シャフトを上下方向に往復移動させる移動手段と、前記第1シャフトと直交する方向に配備されると共に第1シャフトの上下移動に合わせて回動する第2シャフトと、第2シャフトの回動に合わせて偏心回動してサドルブロックを押圧する偏心押圧部と、を有していて、前記移動手段は、前記ミルハウジングの上部であって、左右両端側に配備された第1クラウン調整機構の間に起立状に設置されていて、前記第1シャフトは、第1クラウン調整機構に備えられた上下方向を向くシャフトに略平行となるように配備されており、前記第2シャフトは、第1クラウン調整機構のシャフトから離れる方向に軸心が水平の状態で延設されているとよい。
【0013】
上ハウジングにおいて前記バックアップロールは、前記ワークロールを中心に円弧状に3本以上並設されており、並設された3本以上のバックアップロールのうち中央側の中央バックアップロールに対して、前記第2クラウン調整機構が用いられているとよい。
周辺機構と干渉する場合は、前記第1シャフトが、上下方向に対して傾斜した方向に沿って延設されてもよい。
【0014】
好ましくは、前記中央バックアップロールが複数あり、前記第2クラウン調整機構が、前記中央バックアップロールを構成する個々の分割ロールを、隣接する中央バックアップロールの分割ロールに対して影響を与えずに独立して位置制御可能とされていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多段圧延機によれば、複数本のバックアップロールを備えた多段圧延機において、全てのバックアップロールの分割ロール位置を調整することができ、ワークロールへ伝達される調整量が従来よりも増量可能であり、特に20段圧延機のように中央側のバックアップロールが複数ある場合、中央のバックアップロールの各分割ロール位置は隣り合う中央バックアップロールに影響されることなく独立して位置制御可能であり、ワークロールへの伝達パターンも多彩となる。よって圧延材のクラウン形状を精度よく制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多段圧延機を備えた圧延設備の概略図である。
【図2】本発明の多段圧延機の上ハウジングの正面断面図であり、特に第1クラウン調整機構及び第2クラウン調整機構を示す図である。
【図3】本発明の多段圧延機の側面断面図であり、特に第2クラウン調整機構を示す図である。
【図4】(a)は第2クラウン調整機構の拡大正面断面図であり、(b)はラック&ピニオン機構を拡大して示した図である。
【図5】第2クラウン調整機構の動き(サドルブロック押圧の様子)を説明するための模式図である。
【図6】本発明の多段圧延機の平面図である。
【図7】第2クラウン調整機構の別例を示した側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の多段圧延機が設けられる圧延設備の実施の形態を、図面に基づき説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本発明の多段圧延機1が設けられる圧延設備9を示したものである。この圧延設備9は、20段の多段圧延機1(クラスタ型の圧延機)を備えたものである。
【0018】
多段圧延機1の左方には圧延材Wを巻き出す巻出リール2が配備されており、また多段圧延機1の右方には圧延材Wを巻き取る巻取リール3が配備されている。この多段圧延機1は、圧延材Wを右向き(図中の白矢印の方向)に送りつつ最初の圧延を行い、圧延方向を左向き(図中の黒矢印の方向)に切り替えて次の圧延を行うというように、圧延方向を左向きと右向きとに交互に切り替えながらリバース圧延できるようになっている。
【0019】
さらに、多段圧延機1と巻出リール2との間、多段圧延機1と巻取リール3との間には、それぞれデフレクタロール4が設けられている。
多段圧延機1は、ステンレス材などの硬質材や、良好な形状を求められる圧延材Wを箔材などの薄板に圧延加工するもので、上下一対に配置されたワークロール5を有している。
【0020】
図2に示すように、上ハウジングにおいて、各ワークロール5は、圧延材Wに接している側とは反対側の外周面に2本の第1中間ロール6を有しており、この第1中間ロール6で支持されている。また、これら2本の第1中間ロール6は、さらに3本の第2中間ロール7で支持されている。そして、3本の第2中間ロール7は、さらに4本のバックアップロール8で支持されている。すなわち、バックアップロール8は、ワークロール5から見て最外側(ワークロール5から最も離れた位置)に配備されていることになる。ロール構成としては下ハウジングも同様である。
【0021】
以降の説明においては、図1、図2の左右を説明での左右方向とし、同図の上下を説明での上下方向とする。同図の紙面貫通方向がワークロール5やバックアップロール8の軸心方向(幅方向)である。
本実施形態の多段圧延機1では、3本の第2中間ロール7のうち両側の2本が図示しない駆動モータで駆動されドライブロールとされている。
【0022】
図3に示すように、上述した4本のバックアップロール8は、いずれも軸心方向に複数(本例では5本)の分割ロール10に分割されている。これらの分割ロール10はいずれも同径、同幅、略同軸とされており、互いに軸方向に隣接して配備されている。互いに隣り合う分割ロール10の間にはサドル11が配備されていて、このサドル11及びシャフト17により分割ロール10は支持されており、分割ロール10はベアリングそのものであり内輪はシャフト17に固定されており、外輪が回転する。
【0023】
サドル11の基端は、サドルブロック12に支持されている。サドルブロック12は、バックアップロール8(分割ロール10)の周面に沿うような円弧面13とこの面に対面する水平面及び垂直面を有しており、サドル11の基端は円弧面13に立設状に取り付けられている。
図2に示す如く、4本のバックアップロール8のうち、左右両端側に位置する両端バックアップロール8Aには、これらの両端バックアップロール8Aを構成する各分割ロール10をシャフト17を介して支持するサドルブロック12を押圧・移動させることにより、両端バックアップロール8Aのクラウンを可変とする第1クラウン調整機構100が設けられている。さらに、左右方向で中央側に位置する中央バックアップロール8Bには、これらの中央バックアップロール8Bを構成する分割ロール10をシャフト17を介して支持するサドルブロック12を独立して変位させることにより、中央バックアップロール8Bのクラウンを可変とする第2クラウン調整機構200が設けられている。
【0024】
次に、これらの第1クラウン調整機構100及び第2クラウン調整機構200の詳細を説明する。
なお、第1クラウン調整機構100は、特開平5−337513号公報や特公平6−79731号公報に開示されているものとほぼ同様である故、その構成の説明は簡単に留め、本願特有の構成を有する第2クラウン調整機構200については、後ほどその詳細な説明を行う。
【0025】
図2に示すように、第1クラウン調整機構100のサドルブロック移動手段101は、上下方向を向く軸回りに回転自在とされた駆動シャフト102と、この駆動シャフト102の回転駆動力を用いて駆動シャフト102と同様に上下方向を向く軸回りに従動回転する従動シャフト103とを有している。これらの駆動シャフト102及び従動シャフト103は図示しない軸受部を用いて回転自在とされている。
【0026】
駆動シャフト102の上端側には駆動モータ107が設けられており、この駆動モータ107を用いることにより駆動シャフト102は上下方向を向く軸回りに回転自在となっている。また、駆動シャフト102の下端側には第1減速ギア104が設けられており、この第1減速ギア104を従動シャフト103の上端側に設けられた第2減速ギア105に噛み合わせることで、駆動シャフト102の回転駆動力を減速しつつ従動シャフト103に伝達することができる。
【0027】
従動シャフト103の下端側には、左右両端側の両端バックアップロール8Aを構成する分割ロール10を支持するサドルブロック12を押圧し、略左右方向に移動させる偏心押圧部106が設けられている。
この偏心押圧部106は、従動シャフト103の偏心部に外嵌する環状部材であり、この環状部材の一部には径外側に向かって突出しサドルブロック12に当接する連結突起が設けられている。この連結突起は、サドルブロック12の外面に形成された凹部に嵌り込んでいる。
【0028】
このようなサドルブロック移動手段101では、駆動シャフト102を介して従動シャフト103が回転すると偏心押圧部106が従動シャフト103の軸心に対して偏心回動し、偏心押圧部106がサドルブロック12を押圧することでサドル11が移動し、分割ロール10を軸垂直方向に変位させることができる。係る分割ロール10の変位により、両端バックアップロール8Aのクラウン量がミルハウンジング16に対し、略左右方向に変更される。
【0029】
ところで、圧延材Wの断面形状(板形状)を精確に制御するに際しては、上述した左右両端側に位置する両端バックアップロール8Aの位置のみを調整するだけではなく、左右方向で中央側の中央バックアップロール8Bの位置も調整できるのが好ましい。言い換えれば、本実施形態では、従来からの第1クラウン調整機構100に加え、中央側の中央バックアップロール8Bのミルハウンジング16に対する位置を可変とする第2クラウン調整機構200を採用している。
【0030】
しかしながら、第1クラウン調整機構100と同様の機構を第2クラウン調整機構200に採用することは困難である。
なぜなら、左右両端側の両端バックアップロール8Aでは分割ロール10を略左右方向に沿って変位させるが、中央側の中央バックアップロール8Bでは分割ロール10を略上下方向に沿って変位させなくてはならず、両者は分割ロール10の移動させる方向が異なっている。それ故、第1クラウン調整機構100と、当該機構100と同様の構成を採用する第2クラウン調整機構200とを「互いに交差する」ように設置する必要が生じてくる。つまり、第1クラウン調整機構100と同様の機構を第2クラウン調整機構200に採用することは、シャフト同士の位置的な干渉や設置スペースの制限から実際問題として不可能である。さらに、ミルハウジング16の剛性を保持できなくなるという問題も生じる。
【0031】
そこで、本発明の多段圧延機1では、第1クラウン調整機構100とは異なる仕組みをもつ第2クラウン調整機構200を採用し、この第2クラウン調整機構200を、第1クラウン調整機構100と非干渉となるように配備している。
第2クラウン調整機構200は、中央側の2つの中央バックアップロール8Bのそれぞれに設けられているが、以下の説明では、左側の中央バックアップロール8Bに設けられた第2クラウン調整機構200を念頭に置き説明する。なお、右側の中央バックアップロール8Bに設けられた第2クラウン調整機構200も同じ構成を有しており、左側のものとは略鏡像関係にある。
【0032】
図3は中央バックアップロール8B(左側の中央側バックアップロール8)を、側方から見た断面図である。
図3に示すように、中央バックアップロール8Bを構成する各分割ロール10はサドル11により独立回転可能に支持されている。サドル11の基端はサドルブロック12に固定されている。サドルブロック12は、中央バックアップロール8B(分割ロール10)の周面に沿うような円弧面13と、当該円弧面13の反対側に形成された水平・垂直な面とを有しており、サドル11の基端はこの円弧面13に立設状に取り付けられている(図3及び図5参照)。サドルブロック12の水平面には凹部211が形成されていて、この凹部211には、第2クラウン調整機構200のサドルブロック移動手段201を構成する偏心押圧部206が嵌り込むようになっている。
【0033】
第2クラウン調整機構200のサドルブロック移動手段201は、図4(b)に示すように、上下方向を向くように配備された第1シャフト202と、この第1シャフト202を上下方向に往復移動させる移動手段203と、第1シャフト202と直交する方向に配備されると共に第1シャフト202の上下移動に合わせて回動する第2シャフト204と、第2シャフト204の回動に合わせて偏心回動してサドルブロック12を押圧する偏心押圧部206と、を有している。
【0034】
図2、図4(a)に示すように、第2クラウン調整機構200の移動手段203は、ミルハウジング16の上部であって、左右に配備された第1クラウン調整機構100,100の間に起立状に設置されている。
移動手段203は、第1シャフト202を上下方向に沿って移動させるものであり、図例では長細筒状の油圧シリンダ203が用いられている。この油圧シリンダ203は、ミルハウジング16の上側に起立状に且つ左右で一つずつ設置されている。例えば、左側の油圧シリンダ203の場合であれば、この油圧シリンダ203の左側方には上述した第1クラウン調整機構100の駆動モータ107などが配備されており、右側方には図2または図6に2点鎖線で示すハウジング昇降用減速機構15などが配備されていて、両者間は非常に狭い空間しか存在しない。このことから、この狭い空間に油圧シリンダ203を縦置きで配備することにしている。
【0035】
また、図6に示す如く、多段圧延機1の上面には駆動モータ103の回転駆動力をラック&ピニオン機構を用いて左右両端側の駆動シャフト102に分配しつつ伝達する複数の連結アーム108が左右方向に沿って架け渡されている。そこで、本実施形態の場合、連結アーム108と連結アーム108との間であって、減速機構15と第1クラウン調整機構100の駆動モータ107(駆動シャフト102)との間の狭い空間に、移動手段である油圧シリンダ203を縦置きで設置し、多段圧延機1の既存の部材との干渉を回避するようにしている。このように油圧シリンダ203を縦置きで配置することにより、第1クラウン調整機構100の構成部材との干渉を避けることができる。また、ミルハウジング16の上部に配置された減速機15との干渉も巧みに避けることができる。
【0036】
この油圧シリンダ203の先端(下端)には、上下方向を向く第1シャフト202が連結されている。第1シャフト202は、上下方向に沿って長尺に形成された棒材であり、また図示されていない複数の軸受けによって支持されており、油圧シリンダ203によって第1シャフト202は上下方向(長手方向)に往復移動可能となっている。
図2、図4(a)に示すように、第1シャフト202はサドルブロック12のやや上方の位置まで延設されており、第1シャフト202の下端側にはラック部205が形成されている。
【0037】
一方、第2シャフト204は、中央バックアップロール8Bのサドル11の上方に水平方向を向くように配備された軸部材であり、水平方向軸回りに回転自在となっている。第2シャフト204の左端には第1シャフト202と交差する位置にピニオン部207が設けられており、第2シャフト204はその位置から右に向けて延設されている。第2シャフト204の右端は、サドルブロック12の右端とほぼ同じ位置、言い換えれば第2シャフト204の右端はサドル11の右端を越えない位置となっていて、第2シャフト204は右側の第2クラウン調整機構200に設けられる第2シャフトと交差することのないようになっている。加えて、第2シャフト204は、最左側の第1クラウン調整機構100から離れる方向に延びていることとなり、第1クラウン調整機構100とも交差することはない。
【0038】
さらに、図5に示すように、この第2シャフト204の長手方向中央には、偏心距離εをもって他の軸部分より偏心している偏心軸部208が形成されている。この偏心軸部208の左右両側には軸受部209が設けられ、この軸受部209により第2シャフト204は回動自在に支持されている。
偏心軸部208には、偏心押圧部206が嵌り込むように設けられている。偏心押圧部206は、偏心軸部208の軸心に対して外嵌する環状部材であり、この環状部材の下方には径外側に向かって突出しサドルブロック12に当接する連結突起210が形成されている。この連結突起210は、サドルブロック12の外面に形成された凹部211に嵌り込んでいる。なお、図5は、本発明の偏心による移動機構の動作を分かり易く説明するために、偏心部分の寸法を誇張して描いたものであり、実際は図5のような大きな偏心をしているものではない。
【0039】
第2クラウン調整機構200のサドルブロック移動手段201では、油圧シリンダ203によって第1シャフト202を上下方向に移動させると、第2シャフト204が回動し、第2シャフト204の偏心軸部208の働きで、偏心押圧部106が上下方向に偏心軸部208の回転量に応じた移動量だけ移動する。移動する偏心押圧部106の連結突起210がサドル11のサドルブロック12を押圧することでサドル11が移動し、分割ロール10を軸垂直方向(ほぼ上下方向に)変位させる構成となっている。
【0040】
以上述べた第2クラウン調整機構200は、中央バックアップロール8Bを構成する分割ロール10のそれぞれに設けられている。
すなわち、図3において、左から一つ目の分割ロール(No1分割ロール10)と2つ目の分割ロール(No2分割ロール10)との間に設けられたサドル11及びサドルブロック12に対して、一つ目の第2クラウン調整機構200が設けられる。
【0041】
同様に、No2分割ロール10〜No3分割ロール10、No3分割ロール10〜No4分割ロール10、No4分割ロール10〜No5分割ロール10の各々に、第2クラウン調整機構200が設けられている。一つの中央バックアップロール8Bにつき、4つの第2クラウン調整機構200が設けられることとなっている。 次に、図2〜図5を用いて、第2クラウン調整機構200によりバックアップロール8のクラウンが変化する状況を説明する。
【0042】
まず、第2クラウン調整機構200の油圧シリンダ203を用いて第1シャフト202を上下に移動させると、第1シャフト202のラック部205と噛み合ったピニオン部207が回動して、第2シャフト204が水平な軸回りに回転する。
このとき、偏心押圧部206では、図5に示すように、偏心押圧部206が上下方向に偏心軸部208の回転量に応じた移動量だけ移動する。移動する偏心押圧部206がサドルブロック12を押圧することでサドル11が移動し、分割ロール10を軸垂直方向(ほぼ上下方向に)変位する。
【0043】
以上の動きは、第2クラウン調整機構200ごとに独立して操作可能であり、バックアップロール8の軸心方向中央部の第2クラウン調整機構200に関しては、サドルブロック12の移動量を大きくし、バックアップロール8の軸心方向両側部の第2クラウン調整機構200に関しては、サドルブロック12の移動量を小さくすることも可能である。そうすることで、図3(b)のように、中央バックアップロール8Bの軸方向中央部の突出量を増加させることが可能となる。つまり、4つの第2クラウン調整機構200を協調して動作させることにより、中央バックアップロール8Bを弓形に曲げることで、圧延材に発生するクラウンを調整することができるし、W字に曲げることも可能である。さらに上述のように従来よりも変位量を大きくとることも可能である。
【0044】
上述したように、第2クラウン調整機構200では、移動手段203とラック&ピニオン機構を用いたサドルブロック移動手段201を用いているため、装置の構成が従来のものに比べて非常にシンプルで済み、第1クラウン調整機構100と非干渉(例えば、軸が交差しない)に設けることが可能となった。また、従来からある第1クラウン調整機構100に加えて、第2クラウン調整機構200を設けたことで、全てのバックアップロール8のクラウン調整が可能となり、圧延材Wの板形状を精確に制御可能となった。
【0045】
ここで、中央バックアップロール8Bが複数あり、第2クラウン調整機構200が、前中央バックアップロール8Bを構成する個々の分割ロールを、隣接する中央バックアップロール8Bを構成する分割ロールに対して影響を与えずに独立して位置制御することも可能である。
なお、本発明は、上述した実施形態のように、移動手段203として油圧シリンダを使用したものに限定されず、サドルブロック移動手段201としてラック&ピニオン機構を使用したものに限定されない。
【0046】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
例えば、図7に示すように油圧シリンダ203(移動手段)を傾斜させて配置すると共に第1シャフト202を斜め上方に傾斜した方向に沿って伸縮可能となるように配備すれことも可能である。このように配置することで、ミルハウジングの構成部材との干渉回避範囲を拡大することが可能になる。
【0047】
また、上記実施形態では20段圧延機の例を示したが、12段圧延機においても適用可能である。この場合、中央のバックアップロールに本発明を適用することになる。
【符号の説明】
【0048】
1 多段圧延機
2 巻出リール
3 巻取リール
4 デフレクタロール
5 ワークロール
6 第1中間ロール
7 第2中間ロール
8 バックアップロール
9 圧延設備
10 分割ロール
11 サドル
12 サドルブロック
13 円弧面
15 ハウジング昇降用減速機構
16 ミルハウジング
17 シャフト
100 第1クラウン調整機構
101 サドルブロック移動手段(第1クラウン調整機構)
102 駆動シャフト
103 従動シャフト
104 第1減速ギア
105 第2減速ギア
106 偏心押圧部(第1クラウン調整機構)
107 駆動モータ
108 連結アーム
200 第2クラウン調整機構
201 サドルブロック移動手段(第2クラウン調整機構)
202 第1シャフト
203 移動手段(油圧シリンダ)
204 第2シャフト
205 ラック部
206 偏心押圧部(第2クラウン調整機構)
207 ピニオン部
208 偏心軸部
209 軸受部
210 連結突起
211 凹部
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を圧延する上下一対のワークロールと、該ワークロールを支持するバックアップロールと、前記ワークロール及びバックアップロールを収納するミルハウジングとを有し、前記バックアップロールは軸心方向に複数の分割ロールに分割されており、それぞれの分割ロールが隣接配備されると共に前記ミルハウジングに対して移動可能に支持されていて、左右両端側に位置する両端バックアップロールの分割ロールを移動させることで、該両端バックアップロールの分割ロールの前記ミルハウジングに対する位置を可変とする第1クラウン調整機構を有する多段圧延機において、
左右両端側に配備された第1クラウン調整機構の間に、前記両端バックアップロール以外の中央側に配備された中央バックアップロールの各分割ロールの前記ミルハウジングに対する位置を可変とする第2クラウン調整機構が設けられ、
前記第2クラウン調整機構が、第1クラウン調整機構と非干渉に配備されていることを特徴とするクラウン調整可能な多段圧延機。
【請求項2】
前記分割ロールはサドルにより支持されると共に該サドルはサドルブロックに支持されていて、
前記第1クラウン調整機構と第2クラウン調整機構とは、前記サドルブロックを分割ロールに軸心に対して略垂直に移動させるサドルブロック移動手段とを有しており、
前記第2クラウン調整機構のサドルブロック移動手段が、第1クラウン調整機構のサドルブロック移動手段を横切らない位置に配備されていることを特徴とする請求項1に記載のクラウン調整可能な多段圧延機。
【請求項3】
前記第2クラウン調整機構のサドルブロック移動手段は、上下方向を向くように配備された第1シャフトと、この第1シャフトを上下方向に往復移動させる移動手段と、前記第1シャフトと直交する方向に配備されると共に第1シャフトの上下移動に合わせて回動する第2シャフトと、第2シャフトの回動に合わせて偏心回動してサドルブロックを押圧する偏心押圧部と、を有していて、
前記移動手段は、前記ミルハウジングの上部であって、左右両端側に配備された第1クラウン調整機構の間に起立状に設置されていて、
前記第1シャフトは、第1クラウン調整機構に備えられた上下方向を向くシャフトに略平行となるように配備されており、
前記第2シャフトは、第1クラウン調整機構のシャフトから離れる方向に軸心が水平の状態で延設されている
ことを特徴とする請求項2に記載のクラウン調整可能な多段圧延機。
【請求項4】
前記バックアップロールは、前記ワークロールを中心に円弧状に3本以上並設されており、
並設された3本以上のバックアップロールのうち中央側の中央バックアップロールに対して、前記第2クラウン調整機構が用いられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクラウン調整可能な多段圧延機。
【請求項5】
前記第1シャフトが、上下方向に対して傾斜した方向に沿って延設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクラウン調整可能な多段圧延機。
【請求項6】
前記中央バックアップロールが複数あり、前記第2クラウン調整機構が、前記中央バックアップロールを構成する個々の分割ロールを、隣接する中央バックアップロールの分割ロールに対して影響を与えずに独立して位置制御可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のクラウン調整可能な多段圧延機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate