説明

クラス5の絶縁導体の製造方法

【課題】従来技術の問題を回避することのできる、クラス5の絶縁導体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、絶縁導体(32、33)の製造方法であって、(i)クラス5の導線からなるセット(12、13)であって、複数本のクラス5の導線からなるサブセット(10、11)を複数含んでなるセット(12、13)を成形して、多角形の断面を有する成形済みのアセンブリ(22、23)を得る工程と、(ii)前記成形済みのセット(22、23)を、当該成形済みのセットを多角形断面に維持する先行の工程を必要とせずに、絶縁シース(15)によって接触包囲して、絶縁導体(32、33)を得る工程と、を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁導体の製造方法、この方法によって得られる絶縁導体、およびそのような導体を有する電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、これに限られるわけではないが、典型的には、海洋用途、特には船における大断面の電力ケーブルに適用される。
【0003】
特許文献1が、互いに絶縁された複数の導体を有する円形断面の電気ケーブルであって、それぞれの導体が多角形の断面を呈している電気ケーブルを記載している。
【0004】
そのような絶縁された導体の製造方法は、いくつかの工程を含んでいる。
【0005】
まず第1に、典型的には銅またはアルミニウムで作られる多数のクラス5の導線が、円形断面の導体を形成すべく圧縮によって集合させられる。
【0006】
クラス5は、IEC‐60228規格に従い、個々の直径が0.61ミリメートル(mm)以下である導線に関する。
【0007】
その後で、円形断面の導体が、特には扇形の形態である多角形断面の導体へと成形される。
【0008】
最後に、絶縁シースが、成形済みの導体の周囲へと押し出され、成形済みの導体の多角形形状を維持するように機能する。
【0009】
しかしながら、この種の方法は、絶縁シースを成形済みの導体へと押し出すことができるようにするために必要な追加の工程をさらに含んでいるという欠点を呈している。そのような追加の工程は、成形済みの導体の多角形形状が、当該導体が絶縁シースによって囲まれるまで維持されるように、保証することにある。
【特許文献1】欧州特許第1418595号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主題が解決しようとする技術的課題は、クラス5の絶縁導体の製造方法であって、上述の従来技術の問題を回避できるようにする方法を、特には実施が容易であり、迅速であり、かつ制約の少ない方法を提供することによってもたらすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記の技術的課題に対する解決策は、絶縁導体の製造方法であって、
(i)クラス5の導線からなるセットであって、複数本のクラス5の導線からなるサブセットを複数含んでなるセットを成形して、多角形の断面を有する成形済みのアセンブリを得る工程と、
(ii)前記成形済みのセットを、当該成形済みのセットを多角形断面に維持する先行の工程を必要とせずに、絶縁シースによって接触包囲して、絶縁導体を得る工程と、
を含む方法にある。
【0012】
本発明によれば、絶縁導体の製造方法に含まれる工程が、従来技術よりも1つ少ない。
【0013】
本発明によれば、サブセットからなるセットから得られる絶縁導体の構造が、成形の工程(i)の後と同一の多角形断面を維持することができ、工程(ii)の前までその形状を維持するための特別な道具立てを必要としないという利点を呈する。
【0014】
用語「多角形」は、少なくとも1つの直線部分を含み、随意により少なくとも1つの曲線を含んでいる任意の閉じた形状を指して使用される。
【0015】
好ましくは、多角形の断面は扇形である。扇形は、典型的には、円板の表面において2つの半径の間に存在する部分として定義される。
【0016】
特定の実施形態においては、クラス5の導線からなるサブセットが、同心撚りまたは集合撚りの導体を構成している。
【0017】
用語「同心撚りの導体(stranded conductor)」は、1つ以上の別個の層を構成するように撚り合わせられた複数の導線の集合体(紛らわしいが、「縒り線(strands)」としても知られる)を意味して使用される。
【0018】
さらに詳しくは、導線からなる前記層の撚りの方向が、或る層から次の層へと交互であってよい。
【0019】
用語「集合撚りの導体(bunched conductor)」は、複数の導線を好ましくはすべてが同じピッチおよび同じ方向を有するように撚り合わせて作られる単純な集合体(層の区別を持たない)を意味して使用される。
【0020】
好ましい実施形態においては、導線が、中央の導線を中心とする同心の層に配置される。階層「n」の層が、典型的には、n×6本の導線を有する。同心撚りの導体は、通常は、7本、19本、または37本の導線で構成される。
【0021】
同心撚りの導体において、導線からなる前記各層の撚りの構成は、SまたはZ字の螺旋であってよく、あるいは集合撚りの導体からなる単純な集合体の撚りの構成は、SまたはZ字の螺旋であってよい。しかしながら、当業者にとって周知の他の任意の構成も、同様に良好であると考えられる。
【0022】
他の特定の実施形態においては、クラス5の導線のセットは、同心撚りによる導体または集合撚りによる導体を同心撚りしてなる導体である。
【0023】
用語「同心撚りによる導体を同心撚りしてなる導体」は、同心撚りによる導体を複数集めて、1つ以上の別個の層へと撚り合わせることを意味して使用される。
【0024】
用語「集合撚りによる導体を同心撚りしてなる導体」は、集合撚りによる導体を複数集めて、1つ以上の別個の層へと撚り合わせることを意味して使用される。
【0025】
さらに詳しくは、導体の前記各層の撚りの方向を、或る層から次の層へと交互にすることができる。
【0026】
導体の前記各層の撚りの構成は、SまたはZ字の螺旋であってよいが、当業者にとって周知の他の任意の構成も、同様に良好であると考えられる。
【0027】
同心撚りによる導体または集合撚りによる導体を同心撚りしてなる前記導体の好ましい実施形態においては、導体が、それぞれ中央の同心撚りまたは集合撚りの導体の周囲で、同心の層に配置されている。階層「n」の層は、典型的にはn×6本の導体を有している。
【0028】
例として、同心撚りによる導体が、それぞれ49本の導線からなる集合撚りの導体を7本有することができる。
【0029】
このようにして、サブセットからなる本発明によるセットは、同心撚り形式または集合撚り形式のどちらであるかにかかわらず、例えば、より大きな稠密度したがってより大きな可塑性を持たせることを可能にして、成形工程(i)(変形工程)において導入された機械的応力が除かれた後でも、多角形断面が維持されるように保証するために好都合に適した幾何学的構成を呈している。
【0030】
本発明の好ましい特徴によれば、クラス5の導線のセットが、成形の工程(i)の前は円形の断面を有している。
【0031】
特定の実施形態においては、絶縁シースが、熱可塑性および/または熱硬化性ポリマー材料を含んでいる。
【0032】
例として、上記ポリマー材料を、エチレンの重合体または共重合体、ポリエステル、フッ化ポリマー、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エチレン‐プロピレン、ポリクロロプレン、またはシリコーン樹脂などのエラストマー、ならびに熱可塑性エラストマーから選択することができる。
【0033】
特に好都合な実施形態においては、前記クラス5の導線のセットが、成形の工程(i)の際に撚られる。
【0034】
さらに、本発明は、上述の方法によって得られる絶縁導体を提供する。
【0035】
さらに、本発明は、上述の絶縁導体を少なくとも1つ含んでいる電力ケーブルを提供する。
【0036】
特に好ましい実施形態においては、複数の絶縁導体によって円形断面の電力ケーブルが形成される。
【0037】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照しつつ後述される例に照らして明らかになる。それらの例および図面は、本発明を限定するものではない例として提示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
明確にするため、同じ構成要素は、同一の参照番号によって指し示されている。同様に、本発明の理解に不可欠な構成要素のみが、図式的な様相で示されており、縮尺は保たれていない。
【0039】
図1は、導線からなる同心撚り形式のセットまたはサブセット10の構造を示す図式的な断面図であり、セットまたはサブセット10が、それぞれが0.5mmの直径を有する19本の導線1の集合からなっている。
【0040】
導線1が、中心の導線1aの周囲の2つの同心層に配置されている。第1の層2(階層「n」の層)および第2の層3(階層「n+1」の層)は、それぞれ6本および12本の導線で構成されている。
【0041】
第1の層2および第2の層3の撚りの構成は、それぞれ以下の種類の構成、すなわちS/S、またはS/Z、またはZ/S、またはZ/Zの構成であってよい。
【0042】
当然ながら、導線が3つ以上の層にて配置される場合には、撚りの構成についていくつかの組み合わせが可能である。
【0043】
例えば、導線が3つの層(図示されていない)に配置される場合には、第1、第2、および第3の層の撚りの構成は、それぞれ以下の種類の構成、すなわちS/S/Z、またはS/Z/S、またはS/S/S・・・などの構成であってよい。
【0044】
図2は、導線からなる集合撚り形式のサブセット11の構造を示す図式的な断面図であり、サブセット11が、それぞれが0.5mmの直径を有する19本の導線1の集合からなっており、これらの導線が、同じ方向に同じピッチで螺旋状(SまたはZ)に巻かれている。
【0045】
図3は、導線からなるセット12であって、同心撚りによる導体を同心撚りしてなる導体を有する形式のセット12の図式的な断面図であり、同心撚りによる導体10を19本集めて構成されている。
【0046】
導体10が、中心の導体10aの周囲の2つの同心層に配置されている。第1の層2および第2の層3は、それぞれ6本の導体および12本の導体で構成されている。
【0047】
第1および第2の層の撚りの構成は、上述した構成と同じであってよい。
【0048】
図4は、導線からなるセット13であって、集合撚りによる導体を同心撚りしてなる導体を有する形式のセット13の図式的な断面図であり、集合撚りによる導体11を19本集めて構成されている。
【0049】
導体11が、中心の導体11aの周囲の2つの同心層に配置されている。第1の層2および第2の層3は、それぞれ6本の導体および12本の導体で構成されている。
【0050】
第1および第2の層の撚りの構成は、上述のとおりであってよい。
【0051】
図5は、本発明による絶縁導体の製造方法を示している。
【0052】
ただ1つの製造ライン100において、図1、3、および4に示したような円形断面を呈しており、リール101に前もって保管されている導線のセット12、13が、例えば押しおよび引きのクローラ・トラック102および103の助けによって、最初に予備成形ベンチ104へと運ばれる。
【0053】
予備成形ベンチ104は、好ましくは円形の断面である前記セット12、13を、2つの圧力ホイールの間で変形させて、多角形タイプの所定の断面を与えるように機能する(工程(i))。
【0054】
通常は金属製である2つの圧力ホイールは、製造ライン100上のセット12、13に同期して回転するように駆動される。
【0055】
また、工程(i)を、クラス5の導線の前記セット12、13を変形させるために適した他の設備を使用して実行してもよい。
【0056】
予備成形ベンチ104からの出口において、図6に示されているような成形済みセット22、23を得ることができ、最初は円形断面であったセット12、13が、今や扇形形状の断面の成形済みセット22、23へと変形させられている。
【0057】
また、後続の工程における組み立てを可能にするため、前記成形済みのセット22、23に螺旋のピッチを与えるように、予備成形ベンチ104が、セット12、13の長手軸を中心として回転していてもよい。
【0058】
換言すると、予備成形の工程(i)において、導線からなるセット12、13について成形および撚りの両方が好都合に実行される。
【0059】
その後に続けて、成形済みのセット22、23が、絶縁シースによって囲まれる(工程(ii))。
【0060】
典型的には、成形済みのセット22、23が押し出し成形機105を通過するときに、絶縁シースを前記成形済みのセット22、23の周囲に押し出すことができる。
【0061】
このようにして、押出機105からの出口において、絶縁されたセット32、33が得られ、すなわち換言すると、図7に示されているように、成形済みのセット22、23を絶縁シース15で覆ってなる絶縁導体が得られる。
【0062】
当然ながら、導線からなるセット12、13の特有の幾何学的構造ゆえに、セットが自身の多角形断面を維持することができる点に鑑み、予備成形の工程(i)と前記工程(ii)との間において、前記予備成形が維持されるように保証する必要がないため、工程(ii)を連続的に実行する必要がない。
【0063】
次いで、ひとたび絶縁シース15が成形済みのセット22、23の周囲に押し出されると、絶縁導体32、33を、冷却のために水槽108に導入することができる。
【0064】
最後に、絶縁導体32、33が、例えば他の絶縁導体との組み合わせの工程を実行する目的での保管のために、リール107へと巻き付けられる。
【0065】
その後の工程において、複数の絶縁導体を一体に組み合わせ、電力ケーブルを形成することができる。
【0066】
この組み合わせの工程において、複数の前記絶縁導体を、所定の螺旋のピッチにて一体に撚り合わせることができる。
【0067】
例として、図8に示されているように、扇形形状の断面を有する3つの絶縁導体32、33を一体に組み合わせて、円形断面の電力ケーブル40を形成することができ、3つの導体からなるセットそのものが、当業者にとって周知の支持/保護カバー41によって囲まれている。
【0068】
前記カバーは、例えば、エチレンの単独重合体または共重合体など、随意によりハロゲン化された熱可塑性ポリマーで構成することができる。
【0069】
本発明は、上述の実施形態に限られるわけではなく、さらに幅広く、本発明の説明において提示した全体的な指摘にもとづいて想到できるあらゆる方法、絶縁導体、および電力ケーブルを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に従い、クラス5の導線からなる同心撚り形式のサブセットの構造を示す図式的な断面図である。
【図2】本発明に従い、クラス5の導線からなる集合撚り形式のサブセットの構造を示す図式的な断面図である。
【図3】本発明に従い、図1に示したような同心撚りの導体を同心撚りしてなる導体を有している形式のクラス5の導線のセットの構造の図式的な断面図である。
【図4】本発明に従い、図2に示したような集合撚りの導体を同心撚りしてなる導体を有している形式のクラス5の導線のセットの構造の図式的な断面図である。
【図5】本発明による絶縁導体の製造方法の概略図である。
【図6】本発明に従って成形されたクラス5の導線のセットの構造を示す図式的な断面図である。
【図7】本発明による成形工程(ii)の後の図6の導線のセットの構造を示す図式的な断面図である。
【図8】本発明に従い、図7に示したような絶縁導線のセットを複数有している電力ケーブルの構造を示す図式的な断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁導体(32、33)の製造方法であって、
(i)クラス5の導線からなるセット(12、13)であって、複数本のクラス5の導線からなるサブセット(10、11)を複数含んでなるセット(12、13)を成形して、多角形の断面を有する成形済みのアセンブリ(22、23)を得る工程と、
(ii)前記成形済みのセット(22、23)を、当該成形済みのセットを多角形断面に維持する先行の工程を必要とせずに、絶縁シース(15)によって接触包囲して、絶縁導体(32、33)を得る工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記クラス5の導線のサブセットは、同心撚り(10)または集合撚り(11)されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クラス5の導線のセットは、同心撚りによる導体または集合撚りによる導体を同心撚りしてなる導体(12、13)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多角形の断面は扇形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記クラス5の導線のセット(12、13)は、成形の工程(i)の前は円形の断面を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記絶縁シース(15)は、熱可塑性および/または熱硬化性ポリマー材料を含み、好ましくは該材料は、エチレンの重合体または共重合体である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記クラス5の導線のセット(12、13)は、成形の工程(i)の際に撚られる、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法によって得られる、絶縁導体(32、33)。
【請求項9】
請求項8に記載の少なくとも1つの絶縁導体(32、33)を含む、電力ケーブル(40)。
【請求項10】
複数の絶縁導体(32、33)によって円形断面の電力ケーブルが形成されている、請求項9に記載の電力ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−277295(P2008−277295A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−111597(P2008−111597)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(501044725)ネクサン (81)
【Fターム(参考)】