説明

クラッチ装置、給紙装置、記録装置

【課題】1回転クラッチの回転方向を、摩擦クラッチの円筒部の回転方向と反対の駆動回転方向にして駆動力を伝達することができないという課題がある。
【解決手段】駆動力の伝達をオン・オフする1回転クラッチM2と、円筒部42の外周面を圧接する摩擦力によって駆動力を伝達する摩擦クラッチM1と、第1のレバー102とリンク結合する第2のレバー301と、クラッチ環207に設けられた係合突起205と係合可能な係合部304が設けられた第3のレバー303と、を有し、1回転クラッチM2の駆動回転方向である回転方向において、円筒部42の下流側に位置する支点Pで回動する回動部材M3と、を備え、係合部304は、弾性部材としてのバネ203の付勢方向Bと反対方向から係合突起205に当接し、係合部304は、バネ203の付勢方向Bと同じ移動方向Aに係合突起205から離れるように、バネ203を備えたクラッチ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置、給紙装置、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置としての一例であるインクジェット式プリンターに備えられた給紙装置では、側面視略D型の給紙ローラーから紙送りローラーへ向けて記録用紙を給紙し、その記録用紙の先端が紙送りローラーに引き渡された後に、給紙ローラーの駆動を停止すると共に紙送りローラーの駆動を継続して、記録ヘッドが備えられた搬送路に記録用紙を送り出す機構が採用されている。そして、小型の給紙装置では、装置の小型化と低価格化を図るために、単一の駆動モーターにより給紙ローラー、紙送りローラーそれぞれの所要の動作が行えるように工夫されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、1回転する間に、揺動可能なクラッチ環を備え、クラッチ環の揺動方向における位置によって、給紙ローラーに対する駆動力の伝達をオン・オフする1回転クラッチと、この揺動方向における位置を決定する揺動可能なレバー部材であるトリガレバーを備えた摩擦クラッチと、を備えたクラッチ装置が開示されている。
【0004】
図8は、特許文献1の構成に基づいて、従来の1回転クラッチと摩擦クラッチの動作を説明するための図である。図8の1回転クラッチX1に備えられたラチェット歯車800は、回転方向D40に回転する円筒部812を備えた摩擦クラッチX2から、不図示の歯車を介して駆動力が伝達されて、回転方向D40と同じ回転方向D50に回転する。支持円板801は、ラチェット歯車800と同軸上で一体的に回転する。1回転クラッチX1には、支持円板801に固定された支点ピン802を支点として揺動可能なクラッチ環803が備えられる。1回転クラッチX1には、一端が支持円板801に固定された固定ピン810に固定され、他端がクラッチ環803に設けられたフック811に固定されたバネ804が備えられる。
【0005】
円筒部812を回転方向D40に回転させ、レバー805の端部に設けられた係合部806とクラッチ環803の外周に設けられた係合突起807とが係合すると、クラッチ環803は、バネ804の付勢方向Fの付勢力に反して揺動方向における方向D51に移動し、クラッチ環803の内周側に配置されたラチェット歯車800の歯部と、クラッチ環803の内周に設けられた係合爪809とが非係合となり、駆動力が伝達されないオフ状態となる。
【0006】
円筒部812を回転方向D41に回転させ、レバー805の係合部806を、付勢方向Fと同じ方向側である移動方向D42に移動させることにより、係合部806が係合突起807から離れると、クラッチ環803は、バネ804の付勢方向Fの付勢力によって揺動方向における方向D52に移動し、クラッチ環803の内周側に備えられたラチェット歯車800の歯部と、クラッチ環803の内周に設けられた係合爪809とが係合し、駆動力が伝達されるオン状態となる。
【0007】
歯車間の伝達効率の向上や装置の小型化などを目的として、駆動モーターから例えば給紙ローラーなどの駆動対象までのクラッチ装置を含む駆動力伝達構成において、歯車の個数を最少にすることが行われる。そのようにして備える歯車の個数によっては、摩擦クラッチX2の円筒部812の回転方向D40と反対方向に回転して駆動力を伝達する1回転クラッチを必要とする場合がある。
【0008】
図9は、従来の構成に基づいて、図8の1回転クラッチX1の回転方向D50と反対の回転方向D60となるように構成した1回転クラッチY1と、摩擦クラッチY2の図である。1回転クラッチY1は、図8の1回転クラッチX1と同様に、支持円板801、クラッチ環803aの揺動時に支点となる支点ピン802が備えられる。
【0009】
円筒部812aを回転方向D40に回転させ、トリガレバー805aの端部に設けられた係合部806aとクラッチ環803aの外周に設けられた係合突起807aとが係合すると、クラッチ環803aは、付勢方向Fに作用するバネ804aの付勢力に反して揺動方向における方向D61に移動する。そのため、クラッチ環803aの内周側に配置されたラチェット歯車800の歯部と、クラッチ環803aの内周に設けられた係合爪809aとが非係合となり、駆動力が伝達されないオフ状態となる。
【0010】
このように、係合部806aと係合突起807aとが係合したとき、ラチェット歯車800の歯部と、係合爪809aとが非係合となるように、係合部806aと係合突起807aとが係合する位置でのクラッチ環803aの回転周方向D62と、バネ804aの付勢方向Fとが同じ方向となるように、バネ804aを備えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−341871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図9に示すように、バネ804aを、回転周方向D62と、付勢方向Fとが同じ方向となるように備えると、円筒部812aを回転方向D41に回転させることにより、トリガレバー805aに設けられた係合部806aがクラッチ環803aに設けられた係合突起807aから離れようとするとき、係合部806aの移動方向D42が、バネ804aの付勢方向Fと反対方向となってしまう。そのため、係合部806aがバネ804aの付勢方向Fの付勢力によって係合突起807aから離れることができないので、トリガレバー805aとクラッチ環803aとがロック状態となってしまうという課題がある。従って、1回転クラッチY1の駆動回転方向を、摩擦クラッチY2の円筒部812aの回転方向D40と反対の駆動回転方向D60にして駆動力を伝達することができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0014】
[適用例1]内周側に係合爪が設けられ、外周側に係合突起が設けられ、揺動可能な環状形状のクラッチ環と、前記クラッチ環の揺動方向における一方の付勢方向に付勢する弾性部材と、を備え、1回転する間に前記クラッチ環の内周側に備えられたラチェット歯車と前記係合爪とが係合状態であるか非係合状態であるかによって、駆動力の伝達をオン・オフする1回転クラッチと、円筒部と摺動回転可能に嵌合する環状部と、前記環状部の直径方向に伸びる第1のレバーとを備え、前記円筒部の外周面を圧接する摩擦力によって駆動力を伝達する摩擦クラッチと、前記第1のレバーとリンク結合する第2のレバーと、前記クラッチ環に設けられた前記係合突起と係合可能な係合部が設けられた第3のレバーと、を有し、前記1回転クラッチの駆動回転方向において、前記円筒部の下流側に位置する支点で回動する回動部材と、を備え、前記係合部が、前記弾性部材の前記付勢方向と反対方向から前記係合突起に当接し、前記係合部が、前記弾性部材の前記付勢方向と同じ方向に前記係合突起から離れるように、前記弾性部材を備えたことを特徴とするクラッチ装置。
【0015】
この構成によれば、第1のレバーとリンク結合する第2のレバーと、クラッチ環に設けられた係合突起と係合可能な係合部が設けられた第3のレバーと、を有し、1回転クラッチの駆動回転方向において、円筒部の下流側に位置する支点で回動する回動部材を備え、係合部が、弾性部材の付勢方向と反対方向から係合突起に当接するように弾性部材を備える。これにより、1回転クラッチに備えられたクラッチ環が、付勢方向と反対方向に揺動し、ラチェット歯車と係合爪とは離間し、1回転クラッチの駆動力を伝達しないオフ状態となる。また、係合部が、弾性部材の付勢方向と同じ方向に係合突起から離れるように、弾性部材を備える。これにより、係合部は係合突起から離れることができるので、第3のレバーとクラッチ環とがロック状態となってしまうことを回避し、ラチェット歯車と係合爪とは係合し、1回転クラッチの駆動力を伝達するオン状態となる。従って、1回転クラッチの回転方向を、摩擦クラッチの円筒部の回転方向と反対の駆動回転方向にして駆動力を伝達するオン状態と、駆動力を伝達しないオフ状態とにすることができる。
【0016】
[適用例2]用紙を給紙する給紙ローラーと、上記クラッチ装置と、を備えた給紙装置。
【0017】
この構成によれば、1回転クラッチの駆動回転方向を、摩擦クラッチの円筒部の回転方向と反対の回転方向にして駆動力を伝達するオン状態と、駆動力を伝達しないオフ状態とすることができる。そのため、駆動力を伝達する構成において、歯車の個数を減らした構成とし、歯車間の伝達効率の向上や装置の小型化などを図ることができる。
【0018】
[適用例3]記録部と、上記給紙装置と、を備えた記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】インクジェット式記録装置の斜視図。
【図2】給紙装置の一部構成を示す図。
【図3】駆動力を伝達する構成を説明するための分解斜視図。
【図4】摩擦クラッチと回動部材とがリンク結合した状態を示す外観斜視図。
【図5】駆動力を伝達するオン状態にあるときの1回転クラッチと摩擦クラッチの状態を説明するための図。
【図6】回転するクラッチ環の環状外周面を係合部が滑りながら当接している状態を示す図。
【図7】第3のレバーの係合部がクラッチ環の係合突起に係合している状態を示す図。
【図8】従来の1回転クラッチと摩擦クラッチの動作を説明するための図。
【図9】従来の構成に基づいて、反対の回転方向となるように構成した1回転クラッチと摩擦クラッチの図。
【図10】(a)は、従来の摩擦クラッチと1回転クラッチを用いて回転駆動力を伝達する構成を示す図、(b)は、実施形態の摩擦クラッチと1回転クラッチを用いて回転駆動力を伝達する構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態)
以下、本発明をインクジェット式記録装置に適用した一実施形態を、図を参照して説明する。図1は、外装ケースを取り外した状態のインクジェット式記録装置の斜視図である。図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式記録装置(以下、プリンターと称す)1は、上側が開口する略四角箱状の本体ケース12を備え、この本体ケース12内に架設されたガイド軸13にはキャリッジ14が主走査方向Xに案内されて往復移動可能な状態で設けられている。
【0021】
キャリッジ14が背面側で固定された無端状のタイミングベルト15は、本体ケース12の背板内面上に配設された一対のプーリー16,17に巻き掛けられ、一方のプーリー16と駆動軸が連結されたキャリッジモーター18が正逆転駆動されることにより、キャリッジ14は主走査方向Xに往復移動する構成となっている。
【0022】
キャリッジ14の下部には、記録材としてのインクを噴射する記録ヘッド19が設けられ、さらに本体ケース12内において記録ヘッド19と対向する下方位置には、記録ヘッド19と記録媒体としての用紙Sとの間隔を規定するプラテン20が主走査方向Xに延びる状態で配置されている。また、キャリッジ14の上部には、ブラック用およびカラー用の各インクカートリッジ21,22が着脱可能に装填されている。記録ヘッド19は、各インクカートリッジ21,22から供給された各色のインクを、色ごとのノズルから噴射する。
【0023】
プリンター1には、主走査方向Xに等間隔で目盛が印刷されたリニアエンコーダー26がガイド軸13に沿って延びるように架設されている。キャリッジ14の背面に備えられた読取部(不図示)によって読みとり出力されたパルスを用いて、キャリッジ14の速度制御及び位置制御が行われる。
【0024】
プリンター1の図面左端には、記録ヘッド19のノズル目詰まり等を予防・解消するためのクリーニング等を行うメンテナンス装置28が配設されている。また、プラテン20の下側には廃液タンク29が設けられ、メンテナンス装置28によって記録ヘッド19のノズルから吸引されたインクが廃液タンク29に廃棄される。
【0025】
プリンター1の背面側には、用紙サポート9、ホッパー11、主走査方向Xに可動可能なエッジガイド10が備えられ、用紙サポート9とホッパー11上に積重された複数の用紙Sのうち最上位の1枚のみを分離して副走査方向Yに供給する給紙装置2が設けられている。
【0026】
図2は、プリンター1の側面(主走査方向X)から見た給紙装置2の一部構成を示す図である。給紙装置2は、歯車体G1,G2、摩擦クラッチM1、1回転クラッチM2、回動部材M3、歯車G70、歯車G80、歯車G80と同軸上に一体的に回転し側面視略D型の給紙ローラー420を含んで構成される。これらは、キャリッジ14に備えられた記録ヘッド19の副走査方向Yである用紙Sの搬送方向における上流側に備えられる。
【0027】
給紙ローラー420は、主走査方向Xにおいて、積重された用紙Pに対向する位置に備えられ、歯車体G1,G2、摩擦クラッチM1、1回転クラッチM2、回動部材M3、歯車G70、歯車G80は、図1のエッジガイド10の可動範囲外となる本体ケース12の側面側に備えられる。
【0028】
給紙装置2に備えられたカム(不図示)によりホッパー11が揺動し、ホッパー11と給紙ローラー420とが圧接状態で、給紙ローラー420が回転すると、用紙Sが給紙される。
【0029】
記録ヘッド19の用紙Sの搬送方向における上流側には、歯車G30と同軸上に一体的に回転する紙送りローラー410と、紙送りローラー410の回転駆動に伴って回転する従動ローラー430が備えられる。駆動モーター400(図1参照)の回転軸に直結する歯車G401が回転駆動することにより、紙送りローラー410と従動ローラー430とが回転し、用紙Sが搬送方向の下流側に搬送される。
【0030】
記録ヘッド19の副走査方向Yの下流側には、搬送ローラー500と搬送ローラー500の回転駆動に伴って回転する従動ローラー510とが備えられる。
【0031】
紙送りローラー410、従動ローラー430、搬送ローラー500、従動ローラー510、駆動モーター400を含んで用紙Sを副走査方向Yに搬送する搬送部を構成する。また、キャリッジ14、タイミングベルト15、プーリー16,17、ガイド軸13、キャリッジモーター18を含んで、記録ヘッド19を主走査方向Xに移動する移動部を構成する。
【0032】
また、プリンター1には、搬送部における駆動モーター400の駆動制御と、移動部におけるキャリッジモーター18の駆動制御と、記録ヘッド19の吐出制御を行う制御部(不図示)を備える。
【0033】
記録部は、記録ヘッド19、移動部、搬送部、制御部を含んで構成される。記録部は、移動部によって記録ヘッド19を主走査方向Xに往復移動させながら、搬送部によって副走査方向Yに搬送される用紙Sに対して、記録ヘッド19からインクを噴射し、用紙Sに文字や画像を形成する。
【0034】
図3は、駆動モーター400から給紙ローラー420までの駆動力を伝達する構成を説明するための分解斜視図である。歯車体G1は、歯車G11,G12が同軸上に結合されて構成される。歯車体G2は、歯車G21,G22が同軸上に結合されて構成される。駆動モーター400は、紙送りローラー410及び給紙ローラー420を駆動する共通の駆動モーターである。紙送りローラー410は、駆動モーター400の駆動力によって、歯車G401、歯車G30を介して回転駆動される。
【0035】
給紙ローラー420は、円筒状の軸部421、歯車G80と同軸上に結合される。給紙ローラー420は、駆動モーター400の駆動力によって、歯車G401、歯車G30、歯車体G1の歯車G11,G12、歯車体G2の歯車G21,G22、摩擦クラッチM1に含まれる歯車体G4、1回転クラッチM2、歯車G70、歯車G80、軸部421を介して駆動される。
【0036】
摩擦クラッチM1は、歯車G41の片面側の軸方向に順次同軸的に円筒部42及び歯車G43を設けた歯車体G4と、円筒部42に回転摺動可能にはめ込まれる環状部101と、端部に長穴103が設けられ環状部101の外周側に突出した第1のレバー102と、内部に弾性部材であるバネ104を備えた保持部105と、円筒部42の外周面を圧接する摺接片106と、回転止めレバー100と、で構成されている。
【0037】
バネ104の付勢力により円筒部42の外周面を摺接片106によって常時圧接する。環状部101は、それ自体に外力が加えられなければ、バネ104で摺接片106が円筒部42の外周面を圧接している摩擦力により、歯車体G4と一体的に回動する。しかし、第1のレバー102の回転移動が規制された場合、環状部101が円筒部42の外周面を滑って、歯車体G4のみが回動する。
【0038】
1回転クラッチM2は、歯車G60と、歯車G60の側面に同軸上に一体的に設けられた支持円板200と、支持円板200に固定された軸部202と、ラチェット歯車209と、ラチェット歯車209と同軸上で結合された歯車G50と、揺動する環状形状のクラッチ環207と、クラッチ環207を周方向の一方に常時付勢する弾性部材であるバネ203を含んで構成される。
【0039】
支持円板200に固定された支点ピン201がクラッチ環207に設けられた差込穴208に挿通し、クラッチ環207は、支点ピン201を支点として揺動自在に備えられる。バネ203の一端は、支持円板200に固定された固定ピン210に固定され、バネ203の他端は、クラッチ環207に設けられたフック204に固定される。
【0040】
クラッチ環207は円環形状に構成されており、クラッチ環207の内周側の一箇所に係合爪206が突設されていると共に、外周側の一箇所に係合突起205が突設されている。
【0041】
回動部材M3には、環状部302が設けられ、環状部302は、筐体(不図示)に設けられた円筒状軸部(不図示)と支点Pを回転軸として回転自由に嵌合する。回動部材M3には、環状部302から外周側に突出する、第2のレバー301と第3のレバー303とが備えられる。
【0042】
第2のレバー301の端部には、円筒部300が設けられ、第3のレバー303の端部には、クラッチ環207の係合突起205と係合可能な係合部304が設けられる。
【0043】
図4は、摩擦クラッチM1と回動部材M3とがリンク結合した状態を示す外観斜視図である。第1のレバー102の長穴103と、第2のレバー301の端部に設けられた円筒部300とは回動自由に嵌合し、円筒部300は長穴103の長手方向に移動可能である。回動部材M3は、支点Pを回転軸として回動し、摩擦クラッチM1の第1のレバー102と回動部材M3の第2のレバー301とは、長穴103と円筒部300とによってリンク結合する。
【0044】
図5は、駆動力を伝達するオン状態にあるときの1回転クラッチM2と摩擦クラッチM1の状態を説明するための図である。第3のレバー303に設けられた係合部304は、クラッチ環207の外周に設けられた係合突起205と離間している。
【0045】
図3の駆動モーター400の軸部と結合する歯車G401が回転方向D1に回転すると、歯車G30、歯車体G1,G2を介して図3、図5の歯車G41が回転方向D2に回転する。
【0046】
歯車G41の回転駆動力によって、歯車G43を介して1回転クラッチM2の歯車G50が回転方向D3に回転され、歯車G50と同軸上に結合されたラチェット歯車209が回転方向D3に回転される。
【0047】
クラッチ環207における係合爪206は、バネ203の付勢力によって、ラチェット歯車209の歯部と係合し、クラッチ環207も回転方向D3に回転する。
【0048】
クラッチ環207は、差込穴208に挿入する支点ピン201と、固定ピン210とフック204に固定されたバネ203とを介して支持円板200と連結されている。そのため、クラッチ環207が回転方向D3に回転すると、支持円板200も回転方向D3に回転し、支持円板200に固定された図3の歯車G60も回転方向D3に回転する。
【0049】
歯車G60は、駆動力の伝達経路において、1回転クラッチM2の下流側で、歯車G60と噛み合う歯車G70に駆動力を伝達する。従って、歯車G60の回転方向D3は、1回転クラッチM2として駆動力を伝達するときの駆動回転方向である。
【0050】
歯車G60が回転すると、図3、図5の歯車G70は、回転方向D4に回転し、図3、図5の歯車G80は、回転方向D5に回転する。図3の軸部421によって歯車G80に連結された給紙ローラー420は、回転方向D5に回転する。
【0051】
摩擦クラッチM1の歯車G41が回転方向D2に回転すると、保持部105に備えられたバネ104の付勢力によって円筒部42の外周面を図3の摺接片106が圧接していることにより、図5の第1のレバー102も回転方向D2に回動し、第1のレバー102と第2のレバー301とを連結する円筒部300が方向D7に移動する。
【0052】
そのため、回動部材M3は、支点Pを回転軸として回転方向D8に回動し、第3のレバー303に設けられた係合部304は、クラッチ環207に接近する方向に移動する。
【0053】
図6は、回転方向D3に回転するクラッチ環207の環状外周面を係合部304が滑りながら当接している状態を示す図である。図5の状態から、さらに摩擦クラッチM1における歯車G41が回転方向D2に回転すると、第1のレバー102は、さらに回転方向D2に回転し、回動部材M3は、さらに回転方向D8に回転し、図6に示すように、係合部304がクラッチ環207の環状外周面に当接する。
【0054】
図6の状態において、クラッチ環207の係合爪206は、ラチェット歯車209の歯部と係合しているので、ラチェット歯車209の回転方向D3の回転に伴って、クラッチ環207も回転方向D3に回転する。従って、図6に示すように、第3のレバー303の係合部304は、クラッチ環207の環状外周面に当接しながら滑る状態となる。
【0055】
図5、図6のクラッチ環207の係合爪206がラチェット歯車209の歯部に係合している状態にあるとき、図3の紙送りローラー410は、駆動モーター400の歯車G401の回転方向D1の回転駆動により、回転方向D9に回転している。
【0056】
このように、クラッチ環207の係合爪206がラチェット歯車209の歯部に係合している状態にあるとき、駆動モーター400の回転駆動力を図3の紙送りローラー410に伝達するとともに、給紙ローラー420にも駆動モーター400の回転駆動力を伝達するオン状態となる。
【0057】
図7は、第3のレバー303の係合部304がクラッチ環207の係合突起205に係合している状態を示す図である。図6の係合部304がクラッチ環207の環状外周面を滑りながら当接する状態から、さらにクラッチ環207が回転方向D3に回転すると、図7に示すように、係合部304は、クラッチ環207の外周に設けた係合突起205に当接し、係合部304は、係合突起205と係合する。
【0058】
クラッチ環207は、支点ピン201によって揺動可能に支持され、バネ203の一端は、支持円板200に固定された固定ピン210に固定され、バネ203の他端は、クラッチ環207の外周に固定されたフック204に固定される。そのため、クラッチ環207には、バネ203による付勢方向Bへの付勢力が作用する。
【0059】
図6の回転方向D3に回転するクラッチ環207の環状外周面を滑る係合部304は、さらにクラッチ環207が回転方向D3に回転すると、付勢方向Bと反対方向から係合突起205に当接する。
【0060】
これにより、図7のクラッチ環207は、支点ピン201を支点として揺動する方向において、付勢方向Bと反対方向に移動した姿勢となる。このため、クラッチ環207の係合爪206とラチェット歯車209とは離間する。そのため、ラチェット歯車209の回転駆動力は、クラッチ環207と連結された支持円板200、支持円板200と連結された図3の歯車G60に伝達されない状態となる。従って、歯車G70,G80,軸部421を介して給紙ローラー420へは駆動力が伝達されないオフ状態となる。
【0061】
給紙ローラー420へ駆動力が伝達されないオフ状態にあるとき、紙送りローラー410へは、駆動モーター400の回転駆動力が伝達される。
【0062】
次に、図7の第3のレバー303の係合部304が、クラッチ環207の係合突起205から離間するときの動作について説明する。図3の駆動モーター400の歯車G401を、回転方向D1と反対の回転方向D10で回転駆動させる。
【0063】
すると、図3の歯車G30、歯車体G1,G2を介して、図3、図7の歯車G41は、回転方向D11に回転し、図7の歯車G50は、回転方向D3と反対の回転方向D12に回転し、図7の回動部材M3の第3のレバー303は、支点Pを回転軸として回転方向D13に回動する。
【0064】
係合部304が係合突起205に係合する状態において、係合突起205における係合部304に当接する面は、摩擦クラッチM1の円筒部42と反対側すなわちバネ203の付勢方向Bにおける下流側に設けられる。また、係合部304における係合突起205に当接する面は、摩擦クラッチM1の円筒部42側すなわちバネ203の付勢方向Bにおける上流側に設けられる。
【0065】
第3のレバー303が、支点Pを回転軸として回転方向D13に回動することにより、係合部304は、バネ203の付勢方向Bと同じ移動方向Aに移動しようとする。そのため、係合部304と係合突起205とは、ロック状態となることなく、係合部304は、クラッチ環207の係合突起205から離れることができる。
【0066】
回転止めレバー100は、歯車G41の回転方向D11への回転に伴って、円筒部42を回転軸として回転方向D11に回動し、筐体に備えられた被当接部(不図示)に当接する。そのため、第1のレバー102の回転方向D11への回動は停止し、第3のレバー303の回転方向D13への回動が停止する。
【0067】
以上、本実施形態で説明したクラッチ装置には、図7の内周側に係合爪206が設けられ、外周側に係合突起205が設けられ、揺動可能な環状形状のクラッチ環207と、クラッチ環207の揺動方向における一方の付勢方向Bに付勢する弾性部材としてのバネ203と、を備え、1回転する間にクラッチ環207の内周側に備えられたラチェット歯車209と係合爪206とが係合状態であるか非係合状態であるかによって、駆動力の伝達をオン・オフする1回転クラッチM2と、図3の円筒部42と摺動回転可能に嵌合する環状部101と、環状部101の直径方向に伸びる第1のレバー102とを備え、円筒部42の外周面を圧接する摩擦力によって駆動力を伝達する摩擦クラッチM1と、第1のレバー102とリンク結合する第2のレバー301と、クラッチ環207に設けられた係合突起205と係合可能な係合部304が設けられた第3のレバー303と、を有し、図7の1回転クラッチM2の駆動回転方向である回転方向D3において、円筒部42の下流側に位置する支点Pで回動する回動部材M3と、を備える。
【0068】
そして、係合部304が、弾性部材としてのバネ203の付勢方向Bと反対方向から係合突起205に当接し、係合部304が、バネ203の付勢方向Bと同じ移動方向Aに係合突起205から離れるように、バネ203を備える。
【0069】
この構成によれば、係合部304が、弾性部材としてのバネ203の付勢方向Bと反対方向から係合突起205に当接するようにバネ203を備えることにより、1回転クラッチM2に備えられたクラッチ環207が、付勢方向Bと反対方向に揺動し、ラチェット歯車209と係合爪206とは離間し、1回転クラッチM2の駆動力を伝達しないオフ状態となる。
【0070】
また、係合部304は、バネ203の付勢方向Bと同じ移動方向Aに係合突起205から離れるようにバネ203を備えることにより、係合部304は係合突起205から離れることができる。そのため、第3のレバー303とクラッチ環207とがロック状態となってしまうことを回避できるので、ラチェット歯車209と係合爪206とは係合し、1回転クラッチM2の駆動力を伝達するオン状態となる。従って、1回転クラッチM2の駆動回転方向を、摩擦クラッチM1の円筒部42の回転方向D2と反対の回転方向D3にして駆動力を伝達するオン状態と、駆動力を伝達しないオフ状態とにすることができる。
【0071】
図10(a)は、給紙ローラー420と同軸で一体的に回転方向D5に回転する歯車G80と噛み合う歯車G70に対して、図8の従来の摩擦クラッチX2と1回転クラッチX1を用いて回転駆動力を伝達する構成を示す図である。
【0072】
従来の1回転クラッチX1の回転方向D50と摩擦クラッチX2における円筒部812の回転方向D40は同じにしなくてはならない(図8参照)。そのため、摩擦クラッチX2における回転方向D40の回転駆動力は、回転方向D45の歯車G100を介して、1回転クラッチX1に、回転方向D40と同じ回転方向D50の回転駆動力が伝達される。
【0073】
図10(b)は、給紙ローラー420と同軸で一体的に回転方向D5に回転する歯車G80と噛み合う歯車G70に対して、本実施形態の摩擦クラッチM1と1回転クラッチM2を用いて回転駆動力を伝達する構成を示す図である。
【0074】
図10(b)に示すように、本実施形態の給紙装置2を用いれば、摩擦クラッチM1と1回転クラッチM2との間に歯車G100を備えなくても摩擦クラッチM1から1回転クラッチM2に回転駆動力を伝達することができる。
【0075】
また、従来の図10(a)の1回転クラッチX1の回転駆動力は、回転方向D70の歯車G110を介して、回転方向D4の歯車G70、回転方向D5の歯車G80に伝達される。一方、本実施形態の図10(b)の1回転クラッチM2の回転駆動力は、歯車G110を備えなくても、回転方向D4の歯車G70、回転方向D5の歯車G80に伝達される。
【0076】
このように、本実施形態の給紙装置2は、摩擦クラッチM1から給紙ローラー420までの駆動力を伝達する構成において、歯車の個数を減らした構成にすることができるので、歯車間の伝達効率の向上や装置の小型化などを図ることができる。
【0077】
本実施形態で説明した給紙装置2を、電子写真方式を用いたプリンターなどの記録装置に備えてもよい。あるいは、本実施形態の給紙装置2を、記録装置としての、複写機やファクシミリなどに備えてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…インクジェット式記録装置、2…給紙装置、13…ガイド軸、14…キャリッジ、15…タイミングベルト、16,17…プーリー、18…キャリッジモーター、19…記録ヘッド、42…円筒部、101…環状部、102…第1のレバー、203…弾性部材としてのバネ、205…係合突起、206…係合爪、207…クラッチ環、209…ラチェット歯車、301…第2のレバー、303…第3のレバー、304…係合部、400…駆動モーター、410…紙送りローラー、430…従動ローラー、500…搬送ローラー、510…従動ローラー、A…移動方向、B…付勢方向、M1…摩擦クラッチ、M2…1回転クラッチ、M3…回動部材、P…支点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に係合爪が設けられ、外周側に係合突起が設けられ、揺動可能な環状形状のクラッチ環と、前記クラッチ環の揺動方向における一方の付勢方向に付勢する弾性部材と、を備え、1回転する間に前記クラッチ環の内周側に備えられたラチェット歯車と前記係合爪とが係合状態であるか非係合状態であるかによって、駆動力の伝達をオン・オフする1回転クラッチと、
円筒部と摺動回転可能に嵌合する環状部と、前記環状部の直径方向に伸びる第1のレバーとを備え、前記円筒部の外周面を圧接する摩擦力によって駆動力を伝達する摩擦クラッチと、
前記第1のレバーとリンク結合する第2のレバーと、前記クラッチ環に設けられた前記係合突起と係合可能な係合部が設けられた第3のレバーと、を有し、前記1回転クラッチの駆動回転方向において、前記円筒部の下流側に位置する支点で回動する回動部材と、を備え、
前記係合部が、前記弾性部材の前記付勢方向と反対方向から前記係合突起に当接し、前記係合部が、前記弾性部材の前記付勢方向と同じ方向に前記係合突起から離れるように、前記弾性部材を備えたことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
用紙を給紙する給紙ローラーと、
請求項1に記載のクラッチ装置と、を備えた給紙装置。
【請求項3】
記録部と、
請求項2に記載の給紙装置と、を備えた記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−106843(P2012−106843A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257575(P2010−257575)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】