説明

クラッド材の製造方法

【課題】複数本の金属線を固相接合して、一体化し、種々の特性を付与することができるクラッド材の製造方法を提供する。
【解決手段】複数本の金属線21からなるワーク22または金属製のパイプ20に複数本の金属線21を充填したワーク22に圧縮加工を施して、各金属線21の相互間に生じた隙間を潰す。その後、途中部に屈折部12を有する貫通孔11にワーク22を通すことにより、当該ワーク22を屈折部12でせん断変形させて、各金属線21同士を固相接合させ、クラッド材を得る。
これにより、複数本の金属線21を一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の高性能化や高機能化に伴って、耐熱性、耐食性、熱伝導性、耐磨耗性、熱膨張性などの特性の向上など、金属材料の高機能化が求められている。
例えば、クラッド材は、異なる性質を有する2種類以上の金属板材の積層体であり、単一の金属板材では達し得ない複数の特性を兼ね備えている。前記クラッド材は、例えば、異なる性質を有する2種類以上の金属板材を重ね合わせ、圧延法などにより接合することにより製造されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
前記特許文献1には、ベース材用金属を溶解、鋳造して製造したベース材用鋳塊、および前記ベース材用金属とは成分組成の異なる被覆材用金属を溶解、鋳造して製造した被覆材用鋳塊をそれぞれ準備した後、前記ベース材用鋳塊の片面または両面に前記被覆材用鋳塊を所定配置に重ね合わせ、得られた重ね合わせ材を熱間圧延してクラッド材を製造する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法には、製法上、金属板材の積層数が限られてしまい、付与することができる特性の種類が限られてしまう。しかも、特許文献1に記載の方法によれば、被覆材の特性によっても、付与することができる特性の種類が制約されてしまう傾向がある。
【0004】
一方、金属材料の高強度化や高剛性化を図る方法として、例えば、90°に屈折した屈折部を有する貫通孔に、前記貫通孔の断面の寸法と略同じ寸法を有する1種類の金属からなるワークを装填し、当該貫通孔より押し出すことにより、このワークをせん断変形させる方法(ECAP法)が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−322184号公報
【特許文献2】特開2003−96551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法でも、1種類の金属からなるワークをせん断変形させて、組織を微細化しているだけであるので、付与することができる特性の種類に限界がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、種々の特性を有するクラッド材を得ることができるクラッド材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクラッド材の製造方法は、複数本の金属線からなるワークまたは金属製のパイプに複数本の金属線を充填したワークに圧縮加工を施して、各金属線の相互間に生じた隙間を潰す圧縮工程と、
途中部に屈折部を有する貫通孔に前記ワークを通すことにより、当該ワークを前記屈折部でせん断変形させて、各金属線同士を固相接合させる接合工程と、
をこの順に含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のクラッド材の製造方法では、前記ワークの圧縮加工により、複数本の金属線の相互間に生じた隙間が潰されるとともに、金属線同士がそれぞれ密に接触する。さらに、接合工程でのワークのせん断変形により、金属線のそれぞれの表面層が強く摩擦され、新生面が生じ、金属線同士が金属接合しやすい状態になる。しかも、前記せん断変形により、ワークの組織を微細化することができる。
これにより、複数本の金属線を少なくとも部分的に固相接合して、一体化することができる。したがって、本発明のクラッド材の製造方法によれば、用いられる金属線の種類を選択することにより、種々の特性をクラッド材に付与することができ、種々の機能を兼ね備えたクラッド材を得ることができる。
【0010】
本発明のクラッド材の製造方法では、前記圧縮工程および接合工程を、ECAP法によって連続的に行うことが好ましい。
この場合、圧縮工程と接合工程とを、前記貫通孔内で一連に行うことができるので、クラッド材を効率よく製造することができる。
【0011】
また、本発明のクラッド材の製造方法では、貫通孔が前記屈折部においてほぼ直角に屈折していることが好ましい。
この場合、ワークに生じるせん断ひずみ量を十分確保することができる。このため、金属線同士をより強固に接合することができる。
【0012】
本発明のクラッド材の製造方法では、パイプの少なくとも外周面が潤滑性を有することが好ましい。
この場合、貫通孔の内壁面とワークの表面との間の摩擦抵抗を低減することができる。このためワークを貫通孔に容易に通すことができる。
【0013】
また、本発明のクラッド材の製造方法では、接合工程において、ワークを加熱して固相接合を促進させることが好ましい。
この場合、金属線相互間の接合強度をさらに高めることができる。
【0014】
本発明のクラッド材の製造方法では、接合工程を複数回行なうのが好ましい。
これにより、クラッド材における金属線同士をより強固に固相接合させることができ、しかも、組織をより一層微細化することができる。
【0015】
前記パイプの材料としては、銅、アルミニウムおよび黄銅からなる群より選択されたいずれか一種を用いるのが好ましい。
この場合、パイプの材料自体が有する延性および潤滑性によって、貫通孔の内壁面とワークの表面との間の摩擦抵抗を効果的に低減することができる。このためワークを貫通孔に容易に通すことができる。
【0016】
また、前記金属線の材料としては、銅、アルミニウム、黄銅、銀および鉄からなる群より選択された少なくとも一種を用いるのが好ましい。
この場合、金属線同士をより良好に固相接合させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクラッド材の製造方法によれば、種々の特性を有するクラッド材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法の処理手順を示す工程図である。
【図2】本発明のクラッド材の製造方法に用いる製造装置の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法において、ワークを金型の貫通孔に装填したときのワークの状態を説明する要部断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法において、金型の貫通孔内でワークを圧縮成形したときのワークの状態を説明する要部断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法において、ワークが屈折部を通過する際のワークの状態を説明する要部断面図である。
【図6】実施例1〜5で得られた試料について、断面を観察した結果を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[クラッド材の製造方法の処理手順]
以下、本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るクラッド材の製造方法の処理手順を示す工程図である。図1においては、図2に示される製造装置1を用い、ECAP(Equal−Channel Angular Pressing)法によりクラッド材を製造した場合の処理手順を例として挙げて説明する。
【0020】
製造装置1は、貫通孔11を形成したダイス鋼などからなる金型10と、パイプ20に複数本の金属線を充填したワーク22を押圧するプランジャー30と、金型10を拘束するホルダー41と、金型10を介してワーク22を加熱する加熱部50とを備えている。
金型10の貫通孔11は、途中部にほぼ直角に屈折した屈折部12を有するL字形のものであり、金型10の上面および側面にそれぞれ上流側開口部13および下流側開口部14を有している。本実施形態の製造装置1では、貫通孔11の上流側開口部13から下流側開口部14に至るまで、断面形状が正方形形状とされており、かつその断面積が同じになるようにされている。
また、貫通孔11の長手方向に直交する断面の一辺の寸法は、パイプ20の外径と略同寸法となっている。
ホルダー41は、金型10の外周を包囲した状態で、この金型10を移動不能に拘束している。このホルダー41には、金型10の貫通孔11の下流側開口部14に対応する位置に切り欠き部42が設けられている。
また、加熱部50は、ホルダー41の外周外方に設けられている。この加熱部50は、金型10を所定温度に加熱するヒータ51と、このヒータ51を収容するとともに、金型10を所定温度に保つジャケット本体52とから構成されている。
ジャケット本体52には、貫通孔11の下流側開口部14に対応する位置に切り欠き部53が設けられており、クラッド材23を製造装置1の外に取り出すことができるようにされている。
【0021】
本実施形態に係るクラッド材の製造方法では、まず、複数本の金属線21を、パイプ20内に充填してワーク22を得る(「充填工程」、図1(a)参照)。
【0022】
パイプ20および金属線21は、予め、硝酸水溶液、水などで洗浄し、乾燥させておく。これにより、後述の接合工程において、パイプ20と金属線21との間および金属線21同士をより良好に固相接合させることができる。
【0023】
パイプ20は、銅製にて母線が軸線と平行な円筒体201からなる。このパイプ20の外周面には、貫通孔11の内壁面に対して潤滑性を有する材料である二硫化モリブデンなどの固形潤滑材202が塗布されている(図3(a)参照)。
パイプ20は、複数本の金属線21のキャリヤーであるとともに、金属線21と固相接合させるための材料として用いられている。
また、金属線21は、パイプ20を構成する銅とは異なる機械的性質を有する銅からなる線材である。
【0024】
パイプ20内に充填する金属線21の本数は、金属線21の外径、パイプ20の内径、製造するクラッド材の組成などに応じて適宜設定する。
クラッド材の組成は、例えば、パイプ20を構成する金属と全ての金属線21を構成する金属との質量比により設定することができる。この実施形態においては、パイプ20の内部空間が金属線21によってほぼ塞がれている。
【0025】
つぎに、パイプ20内に複数本の金属線21を充填したワーク22を、金型10の貫通孔11の上流側開口部13側より貫通孔11内に装填し、その後、この上流側開口部13側より貫通孔11内に、プランジャー30を挿入する(「装填工程」、図1(b)、(c)参照)。
【0026】
つぎに、プランジャー30によって、ワーク22を押圧して当該ワーク22に圧縮加工を施す(「圧縮工程」、図1(c)参照)。
この圧縮工程では、ワーク22が、貫通孔11の鉛直側通路11aの途中に位置している場合、つまり、ワーク22の下端部が鉛直側通路11aの底部Bに到達していない場合(図3(a)参照)には、複数本の金属線21の相互間に隙間d1が生じている(図3(b)参照)。
そして、プランジャー30によりワーク22をさらに押圧することにより、ワーク22の先端が鉛直側通路11aの底部Bに突き当たると(図4(a)参照)、ワーク22に圧縮方向への強い加圧力が負荷される。これにより、ワーク22が円筒状から角筒状に変形するとともに、長手方向に収縮する。また、このとき、複数本の金属線21それぞれが拡幅し、複数本の金属線21の相互間の隙間d1が潰され、複数本の金属線21間の界面が強圧にて互いに面接触した状態で、ワーク22が貫通孔11内に張り詰められる(図4(b)参照)。
【0027】
プランジャー30によりワーク22を圧縮成形するときの最大加圧力は、例えば、銀線20本、パイプ内径2.1mm、外径2.5mmのとき、約1100MPaである。また、貫通孔11内におけるワーク22の通過速度は、得られるクラッド材の組織を微細なものとし、十分な材料強度を確保する観点から、1mm/分〜100mm/分、好ましくは10〜20mm/分である。このとき、ひずみ速度は、4×10-4/秒〜6.7×10-2/秒である。
前記加圧力は、パイプ20を構成する材料および金属線21を構成する金属の種類やパイプ20および金属線21の寸法などに応じて、適宜設定する。また、貫通孔11内におけるワーク22の通過速度は、得られるクラッド材の組織の状態や、材料強度に応じて、適宜設定する。
【0028】
つぎに、プランジャー30によりワーク22をさらに押圧し、当該ワーク22を直角に屈折させて水平側通路11bに導く。この際、ワーク22を屈折部12でせん断変形させて、複数本の金属線21同士を固相接合させる(「接合工程」、図1(d)参照)。
この接合工程では、図5に示されるように、ワーク22に対して、屈折部12の外側屈折線Cと内側屈折線Dとを結ぶ平面において、CからD方向およびDからC方向にせん断力が連続的に負荷される。
【0029】
また、複数本の金属線21の相互間の接触面において、せん断力により、強い摩擦力が生じ、ワーク22が塑性変形して、隣接する金属線21それぞれの表面の酸化皮膜が破断し、新生面を生じる。これと同時に、これら隣接する金属線21の新生面同士において、少なくとも部分的に固相接合が起こる。
さらに、かかるせん断力により、屈折部12の外側屈折頂線Cと内側屈折頂線Dとを結ぶワーク22の平面上の金属の組織が微細化される。
したがって、ワーク22が屈折部12を通過することによって、金属線21を相互に固相接合させ得るとともに、組織の微細化を図ることができる。
本実施形態では、前記圧縮工程および接合工程が、ECAP法により一つの貫通孔11内で一連に行なわれるので、クラッド材を効率よく製造することができる。
【0030】
その後、加工物であるクラッド材23を、水平側通路11bを通して、下流側開口部14より押し出す(「押し出し工程」、図1(e)参照)。
この押し出し工程では、例えば、金型10の上流側開口部13側より、別のワーク22を貫通孔11内に装填し、プランジャー30により押圧することにより、先に加工されたクラッド材23を貫通孔11より押し出すことができる。
【0031】
以上により、得られたクラッド材23に対して、さらに、種々の加工を施してもよい。
得られたクラッド材23は、衝撃吸収材、振動吸収材やセンサーの材料などの種々の用途が期待される。
【0032】
本実施形態のクラッド材の製造方法によれば、延性および潤滑性に優れる銅製のパイプ20が用いられているため、貫通孔11の内壁面との間に生じる摩擦抵抗を、ワーク22全体にわたって均一かつ小さくすることができる。このため、ワーク22の圧縮、屈折および押し出しに要する押圧力を低減することができ、生産性やエネルギー効率を向上させることができる。
しかも、パイプ20の外周面に、固形潤滑材202が塗布されているため、パイプ20と貫通孔11との間の摩擦の発生をより効果的に低減させることができる。
【0033】
[変形例]
前記実施形態では、パイプ20の内部に金属線21を充填してワーク22を作製した後、当該ワーク22を貫通孔11の内部に装填しているが、これに代えて、パイプ20を貫通孔11内にセットした状態で、このパイプ20内に複数本の金属線21を充填してもよい。
【0034】
本発明では、前記接合工程を複数回行なってもよい。これにより、金属線21同士をより確実に固相接合させることができ、しかも、組織をより一層微細化することができる。この場合、接合工程の回数は、クラッド材の用途に応じて適宜設定する。
【0035】
また、本発明では、前記接合工程を行なう際に、加熱部50により金型10を介してワーク22を加熱してもよい。この場合、加熱温度は、例えば、室温(293K)〜573Kとすることができる。なお、かかる加熱温度は、金属線21を構成する金属の種類などに応じて設定する。
【0036】
本発明においては、パイプ20を構成する材料として、銅に代えて、アルミニウム、黄銅などを用いてもよく、この場合にも、パイプ20の材料自体が有する延性および潤滑性によって、貫通孔11の内壁面とワーク22の表面との間の摩擦抵抗を効果的に低減することができる。この他、パイプ20を構成する材料として、ステンレス、マグネシウムなども用いることができる。
【0037】
また、パイプ20は、円筒パイプに限られるものではなく、角パイプなどであってもよい。
さらに、前記パイプ20は、鉄、ステンレスなどの材料からなる円筒体201の外周面に、前記銅などの延性および潤滑性を有する材料をメッキしたものでもあってもよい。要するにパイプ20は、少なくとも外周面が貫通孔11の内壁面に対して、潤滑性を有すればよい。
【0038】
金属線21を構成する金属として、銅に代えて、銀、アルミニウム、黄銅、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、金、SUS304、SUS316など、またはこれらの任意の組み合わせを用いることができる。
前記複数本の金属線21は、それぞれ、同一種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
また、前記複数本の金属線21に対して、非金属からなる線材を混ぜてもよい。
【0039】
なお、パイプ20を構成する材料および金属線21を構成する金属が、同一の金属元素からなる場合、互いに異なる機械的性質(硬さなど)や、互いに異なる組成(不可避成分の組成など)を有するものが用いられる。
【0040】
プランジャー30によりワーク22を圧縮成形するときの最大加圧力は、金属線21を構成する金属に応じて、適宜設定することができる。例えば、前記最大加圧力は、金属線20本、パイプ内径2.1mm、外径2.5mmのとき、金属線21を構成する金属が銀である場合、約1000MPa、アルミニウムである場合、約1020MPa、黄銅である場合、約1350MPa、鉄である場合、約1490MPaとすることができる。
【0041】
貫通孔11の長手方向に直交する断面の形状は、円形や多角形であってもよい。
また、貫通孔11の鉛直側通路11aと水平側通路11bとが成す屈折角度は、屈折部12を通過するワーク22に対してせん断力を負荷することができる角度であればよい。かかる屈折角度が小さいほどワークに生じるせん断ひずみ量を大きくすることができる。前記屈折角度は、押し出し抵抗を抑制して製造効率を向上させる観点から、好ましくは30°以上であり、十分なせん断変形量を得る観点から、好ましくは150°以下である。高い製造効率で、十分なせん断変形量を得ることができる観点から、貫通孔11が屈折部12においてほぼ直角に屈折していることがより好ましい。
【0042】
さらに、前記実施形態では、パイプ20の内部に金属線21を充填したワーク22を用いているが、前記パイプ20を用いることなく、複数本の金属線21のみからなるワーク22を用いてもよい。この場合にも、複数本の金属線21同士を固相接合させたクラッド材23を得ることができる。
【0043】
さらに、本発明においては、複数本の金属線21の束に軸腺回りの捩じりを与えて、パイプ20の内部に充填したワーク22を用いてもよい。この場合、捩じりによるひずみが複数本の金属線21に加わることで当該金属線21同士をより強固に固相接合させることができ、しかも、組織をより一層微細化することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例などにより本発明のクラッド材の製造方法の作用効果を検証するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例では、図2に示される製造装置1を用いた。
【0045】
(実施例1〜5)
各種金属線を用い、クラッド材を製造した。
製造装置1において、貫通孔11は、長手方向に直交する断面において、2.5mm×2.5mmの寸法の正方形形状とした。また、屈折部12における屈折角度は、90°とした。パイプ20として、99.9質量%の純度の銅からなり、内径2.1mm、外径2.5mmおよび長さ27mmの円形断面の銅管を用いた。なお、金型10は、分割金型とした。
【0046】
金属線21として、パイプ20とは異なる機械的性質を有する銅(99.9質量%;実施例1)、銀(99.9質量%;実施例2)、アルミニウム(99.9質量%;実施例3)、黄銅(組成:銅63質量%、亜鉛37質量%;実施例4)、鉄(99.5質量%;実施例5)の各伸線焼きなまし材料からなる、外径0.3mm、長さ27mmの線材を用いた。パイプ20および金属線21は、試験前に硝酸水溶液で洗浄した後、水で洗浄し、乾燥させた。
その後、パイプ20内に30本の金属線21を充填し、かつこのパイプ20を構成する円筒体201の外周面に、二酸化モリブデンからなる固形潤滑材202を塗布して、ワーク22を得た。
【0047】
得られたワーク22を金型10の貫通孔11の上流側開口部13より装填し、室温(293K)で、押圧速度が2mm/分になるように、プランジャー30によりワーク22を押圧して貫通孔11より押し出した。なお、ワーク22におけるパイプ20内の金属線21同士の接合状態を確認し、金属線21同士が良好に接合していない場合には、加熱部50により金型10を573Kに加熱しながら、プランジャー30によりワーク22を押圧して貫通孔11より押し出した。
【0048】
貫通孔11内にワーク22を通し、プランジャー30の先端が、上流側開口部13から20mmの深さに達したときに、プランジャー30によるワーク22の押圧を終了した。これによりL字型になった加工物を実施例1〜5の試料とした。
【0049】
(試験例1)
実施例1〜5の各試料のL字状の側面を、長手方向(図5において左右方向)に直交する幅寸法が1/2になるまで研磨し、その断面を光学顕微鏡で観察した。実施例1〜5で得られた試料について、断面を観察した結果を示す光学顕微鏡写真を図6に示す。図6中、(a)は、銅からなる金属線(図中、「Cu」)、(b)は、銀からなる金属線(図中、「Ag」)、(c)は、アルミニウムからなる金属線(図中、「Al」)、黄銅からなる金属線(図中、「Brass」)、鉄からなる金属線(図中、「Fe」)を用いた場合の結果を示す。
【0050】
図6に示される結果から、銅、銀、アルミニウム、黄銅および鉄のいずれの材料からなる金属線21を用いた場合であっても、パイプ20内に複数本の金属線21を充填したワークを、屈折部12を有する貫通孔11より押し出すことにより、金属線21同士が良好に固相接合し、一体化して、クラッド材が得られることがわかる。
また、図6に示された結果から、パイプ20の素材である銅が圧縮されて、貫通孔11の内壁面に薄く伸ばされ、金属線21をその内部に包み込んでいることがわかる。これにより、貫通孔11の内壁面とパイプ20との間でのみ摩擦が生じていることが明らかである。
【0051】
なお、黄銅からなる金属線21を用いた場合および鉄からなる金属線21を用いた場合には、室温(293K)で屈折部12を通過させて得られたた試料(図示せず)に比べて、573Kで加熱しながら屈折部12を通過させて得られた試料(図6(d)および(e)参照)の方が、複数本の金属線21同士がより広範囲で固相接合していた。
この結果から、金属線21の種類に応じてワーク22を適宜加熱することにより、より効果的に金属線21同士を固相接合させる得ることがわかる。
【0052】
(試験例2)
実施例1、3〜5の各試料を代表例として、貫通孔11の屈折部12を通過していない部分と、前記屈折部12を通過した部分において、荷重を9.80665Nとした場合のマイクロビッカース硬さを、JIS Z2244にしたがって測定した。その結果を表1に示す。なお、表中、「屈折部未通過部」は、屈折部12を通過していない部分におけるマイクロビッカース硬さを示し、「屈折部通過部」は、屈折部12を通過した部分におけるマイクロビッカース硬さを示す。屈折部12を通過していない部分におけるマイクロビッカース硬さは、屈折部12を通過する前の押圧により、ワーク22が圧縮加工を施されたときの影響を示しており、屈折部12を通過した部分におけるマイクロビッカース硬さは、圧縮加工に加えて、屈折部12を通過することにより、さらにせん断変形も加わったときの影響を示している。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示された結果から、各金属線21について、屈折部12を通過していない部分におけるマイクロビッカース硬さに比べて、屈折部12を通過した部分におけるマイクロビッカース硬さが硬くなっていることがわかる。
この結果から、屈折部12を有する貫通孔11にワーク22を通すことにより、組織を微細化させて、その硬さを硬くできることがわかる。
【0055】
なお、黄銅からなる金属線21を用いた場合および鉄からなる金属線21を用いた場合には、室温(293K)で屈折部12を通過させた加工物に比べて、573Kで屈折部12を通過させた加工物のほうが、より硬さを向上させる得ることがわかる。
この結果から、金属線21の種類に応じて、ワーク22を適宜加熱することにより、より効果的に硬さをより硬くできることがわかる。
【符号の説明】
【0056】
1 製造装置
10 金型
11 貫通孔
12 屈折部
13 上流側開口部
14 下流側開口部
20 パイプ
21 金属線
22 ワーク
23 クラッド材
30 プランジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の金属線からなるワークまたは金属製のパイプに複数本の金属線を充填したワークに圧縮加工を施して、各金属線の相互間に生じた隙間を潰す圧縮工程と、
途中部に屈折部を有する貫通孔に前記ワークを通すことにより、当該ワークを前記屈折部でせん断変形させて、各金属線同士を固相接合させる接合工程と、
をこの順に含むことを特徴とするクラッド材の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮工程および接合工程を、ECAP法によって連続的に行う請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項3】
前記貫通孔が前記屈折部においてほぼ直角に屈折している請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項4】
前記パイプの少なくとも外周面が潤滑性を有する請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項5】
前記接合工程において、ワークを加熱して固相接合を促進させる請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程を複数回行なう請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項7】
前記パイプの材料が、銅、アルミニウムおよび黄銅からなる群より選択されたいずれか一種である請求項1記載のクラッド材の製造方法。
【請求項8】
前記金属線の材料が、銅、アルミニウム、黄銅、銀および鉄からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1記載のクラッド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−88174(P2011−88174A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242593(P2009−242593)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(509311780)
【Fターム(参考)】