説明

クラフトパルプ排水の処理方法

【課題】クラフトパルプ排水を嫌気処理槽で嫌気処理する方法において、嫌気処理槽の立ち上げ期間を短縮する。
【解決手段】クラフトパルプ排水を、非生物流動性担体を充填した嫌気処理槽に供給して嫌気処理するクラフトパルプ排水の処理方法において、該嫌気処理槽を立ち上げるに際し、クラフトパルプ排水を希釈水で希釈して該嫌気処理槽に供給するようにしたクラフトパルプ排水の処理方法であって、経時的に、好ましくは段階的に希釈倍率を低下させることを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプ排水、即ち、クラフトパルプ工場より排出される有機性排水を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラフトパルプ工場より排出されるクラフトパルプ排水の処理法として、好気性菌を用いた好気処理法が広く用いられている。しかし、好気処理法はエネルギー消費量が多く、また余剰汚泥の処理が問題となる。一方、嫌気処理法は食品産業などの高濃度排水の処理に利用されており、好気処理法と比較して曝気が不要であるためエネルギー消費が低く、汚泥発生量が少ないといったメリットがある。また、排水処理後に発生するメタンガスをエネルギーとして利用可能である点においても有利である。
【0003】
嫌気処理法の改良法として、嫌気グラニュールを用いた上向流嫌気性汚床法(UASB法)が開発されており、特許文献1には、クラフトパルプ排水をUASB法で嫌気処理する方法として、クラフトパルプ排水中のイオウ分を除去した後、該排水と高分子炭水化物を含有する排水とを混合し、これをメタン発酵リアクターに供給する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3174364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラフトパルプ排水には多量のメタノール、イオウ分、樹脂酸などの菌体阻害物が含まれており、嫌気グラニュールの解体や処理不良を引き起こす。そのため、クラフトパルプ排水の処理のための嫌気処理槽を立ち上げるには、原水を4倍に希釈した希釈クラフトパルプ排水を4ヶ月以上通水するという低負荷立ち上げ運転を行うようにしており、立ち上げ期間が長いものとなっていた。(平成18年紙パルプ技術協会年次大会 各種紙パルプ製造排水への嫌気性処理の適用について)
【0006】
本発明は上述のような問題を解決し、クラフトパルプ排水を処理するための嫌気処理槽の立ち上げ期間を短縮することができるクラフトパルプ排水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)のクラフトパルプ排水の処理方法は、クラフトパルプ排水を、非生物流動性担体を充填した嫌気処理槽に供給して嫌気処理するクラフトパルプ排水の処理方法において、該嫌気処理槽を立ち上げるに際し、クラフトパルプ排水を希釈水で希釈して該嫌気処理槽に供給するようにしたクラフトパルプ排水の処理方法であって、経時的に希釈倍率を低下させることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のクラフトパルプ排水の処理方法は、請求項1において、最初に嫌気処理槽に供給する希釈クラフトパルプ排水を、原クラフトパルプ排水の5〜20%の濃度となるように希釈することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のクラフトパルプ排水の処理方法は、請求項1又は2において、希釈倍率を経時的、段階的に低下させるようにした方法であって、前記嫌気処理槽のCOD除去率が所定値以上となった場合に、それまでの希釈クラフトパルプ排水濃度の1.1〜1.7倍の濃度となるように希釈倍率を低下させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4のクラフトパルプ排水の処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気処理槽の処理水を好気性処理する好気性処理工程を有し、この好気性処理工程からの処理水を前記希釈水として用いることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5のクラフトパルプ排水の処理方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記嫌気処理槽への供給水量を一定とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、クラフトパルプ排水を行うための嫌気処理槽の立ち上げに際して、非生物流動性担体を収容した嫌気処理槽に希釈クラフトパルプ排水を供給し、この希釈倍率を徐々に低くすることにより嫌気処理槽の立ち上げが早くなること、即ちCOD除去率が早期に高くなることを見出した。本発明はこのような知見に基いて達成されたものである。
【0013】
本発明では、嫌気処理水を好気処理し、この好気処理水の一部を希釈水として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係るクラフトパルプ排水の嫌気性処理方法のフロー図である。
【図2】実験結果を示すグラフである。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において処理対象となるクラフトパルプ排水は、クラフトパルプ工場より排出される有機排水であり、通常はCODCr5000〜9000mg/L程度である。
【0016】
本発明では、このクラフトパルプ排水をまずpH5〜8にpH調整するのが好ましい。pH調整を行う場合、酸又はアルカリを添加してpH調整を行うpH調整槽を設けるのが好ましいが、酸又はアルカリをライン添加してもよい。pH調整に用いる酸としては、塩酸、硫酸等が好適であり、アルカリとしては水酸化ナトリウム等が好適である。
【0017】
排水の生分解性等の条件により異なるが、嫌気処理槽への流入水は、pH5〜8特に5.5〜7.5、温度25〜40℃特に30〜35℃であることが好ましい。クラフトパルプ排水は35℃前後の場合が多いが、必要に応じて、pH調整槽に加温装置を設置する。嫌気処理槽への排水の流入速度はHRT2〜24時間好ましくは2〜8時間が適当である。
【0018】
嫌気処理槽には非生物担体を充填する。非生物担体としては、比重、粒径の調整が容易な合成樹脂製担体が好ましく、粒径1.5〜5.0mm、好ましくは2.5〜4.0mm、沈降速度として200〜500m/hをもつものが好ましいが、これに限定されない。非生物担体を用いることにより、処理が安定し、高負荷運転が可能となる。嫌気処理槽は、攪拌機等を用いる完全混合型反応槽、水流と発生ガスにより槽内を混合する上向流型反応槽等が好適である。
【0019】
嫌気処理槽への排水の流入速度は好ましくは一定とし、希釈倍率を段階的に下げながら排水濃度を上げていく。排水の流入速度を一定とすることで、立ち上げ時の希釈水量を低減することができる。クラフトパルプ排水の濃度は通常CODCr5000mg/L〜9000mg/L程度であり、立ち上げ時に最初に嫌気処理槽に供給する希釈クラフトパルプ排水の濃度はCODCr500mg/L〜1500mg/L程度(原排水濃度の5〜20%、特に好ましくは5〜15%程度)とすることが好ましく、段階的に希釈倍率を下げていく。
【0020】
立ち上げ時の担体当たりの負荷は10〜20gCODCr/L担体/d程度とし、段階的に濃度を上げることで負荷を増大し、最終的に担体当たりの負荷を100〜140gCODCr/L担体/dに増加させる。なお、立ち上げ時に高負荷とすると、嫌気グラニュールの解体を引き起こすが、グラニュールの解体は担体への菌体付着を誘導する。そのため、グラニュール強化剤等の利用の必要はない。負荷の積算値と担体への菌体付着量には相関がある。
【0021】
本発明では、ある希釈倍率の希釈クラフトパルプ排水を供給して嫌気処理することによりCOD除去率が所定値まで上昇したならば、希釈倍率を低くするようにするのが好ましい。このCOD除去率の所定値としては、80〜95%の間から選定された値、例えば90%が好ましい。それまで通水していた希釈クラフトパルプ排水のCOD濃度をaとした場合、COD除去率が該設定値に達したので希釈倍率を下げて通水するときの希釈クラフトパルプ排水の濃度bは、該濃度aの1.1〜1.7倍特に1.2〜1.3倍程度が好ましい。
【0022】
本発明では、嫌気処理水の一部(例えば0.1〜10倍特に0.1〜5.0倍程度)を嫌気処理槽の前段側に返送してもよい。これにより、アルカリ使用量の削減、嫌気処理の安定化、高効率化を図ることができる。
【0023】
本発明では、嫌気処理水を好気処理してもよい。好気処理方式としては、活性汚泥法、担体流動法など各種のものを用いることができる。この好気処理水の一部を希釈水として利用してもよい。
【0024】
以下、本発明方法の実施に好適なクラフトパルプ排水の処理装置について図1を参照して説明する。
【0025】
クラフトパルプ排水は原水槽1に導入され、ポンプ(図示略)を有したライン2によりpH調整槽3に導入される。このpH調整槽3に必要に応じ酸又はアルカリが添加され、pH5〜8に調整される。この原水槽1、ライン2及びpH調整槽3のいずれかに対し希釈水が添加される。
【0026】
pH調整槽3内の液は、ポンプ4によって嫌気処理槽5の底部に導入され、上向流にて通水される。この実施の形態では、嫌気処理槽5内に非生物担体の流動床5Aが形成されており、嫌気処理が行われる。担体流動床5Aを通り抜けた処理水(上澄水)の一部は、スクリーン5a及び返送ライン6を介してpH調整槽3に返送され、残部はスクリーン5bを介して取り出される。槽5内で発生したメタンガスは槽頂のガス取出ライン5cより取り出される。なお、この嫌気処理水を好気処理し、この好気処理水の一部を希釈水として用いてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0028】
[実施例1]
図1に示す装置において、以下の条件にてクラフトパルプ排水(CODCr7000mg/L、BOD4000mg/L、メタノール4500mg/L、n−ヘキサン200mg/L、SO350mg/L)を処理した。
pH調整槽:容量約15L
嫌気処理槽:直径15cm、高さ60cm、容量約10L
【0029】
通水条件は、通水量350L/d、嫌気処理槽HRT3.5時間、pH調整槽3のpH7.5とした。嫌気処理槽の担体としては、平均粒径2.5mmのポリオレフィン系樹脂担体を用い、担体の充填量は槽内保有水量(体積)の40%とした。また、種汚泥として嫌気処理槽に分散状の嫌気汚泥(30000mgVSS/L)を2L投入した。希釈水はライン2に添加した。
【0030】
嫌気処理水のpH調整槽3への返送量は、嫌気処理水の50%とした。
【0031】
希釈条件は次の通りとした。
第1ステップ:希釈倍率7(希釈後CODCr1000mg/L、嫌気槽底部700mg/L)
第2ステップ:希釈倍率4.7(希釈後CODCr1500mg/L、嫌気槽底部1030mg/L)
第3ステップ:希釈倍率2〜2.8(希釈後CODCr2500〜3500mg/L、嫌気槽底部1700〜2370mg/L)
第4ステップ:希釈倍率1.4(希釈後CODCr5000mg/L、嫌気槽底部3370mg/L)
第5ステップ:希釈倍率1.0(希釈無し、嫌気槽底部5000mg/L)
【0032】
嫌気処理槽の流入水及び処理水のCODCr濃度並びにCODCr除去率の経時変化を図2に示す。また、除去負荷及び担体当りの除去負荷の経時変化を図3に示す。
【0033】
<考察>
図2,3の通り、通水開始後23日目に除去負荷20gCODCr/L/dに到達し、31日目に除去負荷30gCODCr/L/dに到達した。除去負荷30gCODCr/L/dに到達後も安定運転を行うことが可能であった。また、担体当たりの除去負荷は110〜120gCODCr/担体/dで安定した。
【0034】
従って、本発明によれば、嫌気処理槽に流動性の担体を導入し、流入水量を一定としながら、段階的にパルプ排水濃度を上げていくことにより、従来の嫌気処理法(立ち上げ期間4ヶ月以上)と比較して、立ち上げ期間を大幅に減少することが可能であることが認められた。
【符号の説明】
【0035】
1 原水槽
3 pH調整槽
5 嫌気処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ排水を、非生物流動性担体を充填した嫌気処理槽に供給して嫌気処理するクラフトパルプ排水の処理方法において、
該嫌気処理槽を立ち上げるに際し、クラフトパルプ排水を希釈水で希釈して該嫌気処理槽に供給するようにしたクラフトパルプ排水の処理方法であって、
経時的に希釈倍率を低下させることを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、最初に嫌気処理槽に供給する希釈クラフトパルプ排水を、原クラフトパルプ排水の5〜20%の濃度となるように希釈することを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、希釈倍率を段階的に低下させるようにした方法であって、
前記嫌気処理槽のCOD除去率が所定値以上となった場合に、それまでの希釈クラフトパルプ排水濃度の1.1〜1.7倍の濃度となるように希釈倍率を低下させることを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気処理槽の処理水を好気性処理する好気性処理工程を有し、この好気性処理工程からの処理水を前記希釈水として用いることを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記嫌気処理槽への供給水量を一定とすることを特徴とするクラフトパルプ排水の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate