説明

クリップ

【課題】クリップ本体に対するピン部材の挿入ストロークの終期において挿入荷重を低下させることにより、ロック等に伴う挿入荷重の立ち上がりが生じても、挿入荷重のピーク値を下げる。
【解決手段】クリップ本体10とピン部材20とからなり、クリップ本体における中空形状のアンカー部16をプレート部材の取付け孔に差し込むことにより、アンカー部の両側に位置する一対の弾性爪18が取付け孔の縁部に係止するように構成され、ピン部材の軸部22をアンカー部16の内部に挿入することで、両弾性爪18がアンカー部の内方へ撓むことを規制するように構成されたクリップであって、クリップ本体10の両弾性爪18の間隙に対応するピン部材20における軸部22の幅が、軸部の先端部分22aでは両弾性爪18がアンカー部の内方へ撓むのを規制する寸法に設定され、反対側の基端部分22bでは先端部22aよりも小さい寸法に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリップ本体における中空形状のアンカー部をプレート部材の取付け孔に差し込むことで、一対の弾性爪を取付け孔の縁部に係止させた後、ピン部材をアンカー部の内部に挿入して両弾性爪がアンカー部の内方へ撓むことを規制する形式のクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクリップについては、特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術のクリップは、車体パネル(プレート部材)の取付け孔に挿通させることが可能なグロメット(クリップ本体)と、クリップ本体の中空部に挿入するためのピン部材とを備えている。ピン部材の軸部をクリップ本体に挿入することにより、クリップ本体の一対の弾性脚部(弾性爪)を拡開させ、該弾性爪を取付け孔の縁に係止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−193718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、クリップ本体の両弾性爪の間隙に対応するピン部材の軸部の幅が、その基端部から先端部まで一定になっている。そこで、クリップ本体の両弾性爪の間にピン部材の軸部を挿入して弾性爪を拡開させることに伴い、ピン部材の挿入荷重が所定値まで増加し、その値が維持される。このため、例えば挿入完了時のピン部材をクリップ本体にロックする場合に、このロックによって挿入荷重の立ち上がりが生じると、挿入荷重のピーク値が一段と上がることになる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、クリップ本体に対するピン部材の挿入ストロークの終期において挿入荷重を低下させることにより、ロック等に伴う挿入荷重の立ち上がりが生じても、挿入荷重のピーク値を下げることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、クリップ本体とピン部材とからなり、クリップ本体は、中空形状のアンカー部と、アンカー部の両側に位置する少なくとも一対の弾性爪とを備え、アンカー部を所定のプレート部材に開けられている取付け孔に差し込むことにより、一対の弾性爪がアンカー部の内方へ撓みながら取付け孔を通過して該取付け孔の縁部に係止するように構成され、ピン部材は、クリップ本体における基部側の開口からアンカー部の内部に挿入して両弾性爪の間に位置させることが可能な軸部を備え、この軸部によって両弾性爪がアンカー部の内方へ撓むことを規制するように構成されたクリップであって、クリップ本体の両弾性爪の間隙に対応するピン部材における軸部の幅が、軸部の先端部分では両弾性爪がアンカー部の内方へ撓むのを規制する寸法に設定され、反対側の基端部分では先端部よりも小さい寸法に設定されている。
【0007】
これにより、クリップ本体のアンカー部に対するピン部材の挿入ストロークの初期において、該ピン部材における軸部の先端部分がクリップ本体の両弾性爪を押し開きながら相互間の最狭部を通過し、挿入ストロークの終期にはピン部材における軸部の基端部分が最狭部に位置し、それまで両弾性爪を押し開いていた力が解除されて挿入荷重が低下する。この結果、例えば挿入完了時のピン部材をクリップ本体にロックする場合において、このロックに伴う挿入荷重の立ち上がりが生じても、立ち上がり始点の荷重が低いことから、挿入荷重のピーク値を下げることができる。
なお、両弾性爪の間の最狭部とは、クリップ本体のアンカー部をプレート部材の取付け孔に差し込んで両弾性爪を取付け孔の縁部に係止させた状態において、取付け孔の寸法やプレート部材の板厚の公差により、両弾性爪がアンカー部の内方へ押し撓められて個々の先端側で相互の間隔が最小になる部分である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、ピン部材における軸部の幅が、その先端部分と基端部分との間ではテーパーによって変化している。
この構成では、クリップ本体のアンカー部に対するピン部材の挿入に伴い、該ピン部材における軸部の基端部分が両弾性爪の間の最狭部に近づくに連れて両弾性爪を押し開いていた力が徐々に解除され、挿入力が漸減した後にロックのための挿入荷重の立ち上がりが生じる。そのため、クリップを取付ける作業のフィーリングが良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】クリップ本体を表した斜視図。
【図2】ピン部材を表した斜視図。
【図3】ピン部材を表した側面図。
【図4】クリップ本体に対するピン部材の挿入前の状態を表した断面図。
【図5】クリップ本体に対するピン部材の挿入後の状態を表した断面図。
【図6】図5のA-A矢視方向の断面図。
【図7】ピン部材の挿入荷重と挿入ストロークとの関係を表した特性図。
【図8】ピン部材における軸部の形状の変更例を表した外形図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
本実施の形態のクリップは、例えば車両のボデープレートに所定の使用目的で開けられている孔のうち、車種によっては使用されない孔を塞ぐために使用される。そして、クリップは、クリップ本体10とピン部材20との二部材で構成され、これらは個々に樹脂材による一体成形品である。
クリップ本体10は、その基部側においてベース板14を有するとともに、このベース板14から突出した角柱形状のアンカー部16を有する。アンカー部16の内部は中空になっており、この中空内部はクリップ本体10の基部側に位置する開口12を通じて外部に開放されている。アンカー部16の外形は、前述のようにボデープレート等のプレート部材30(図4〜図6)に開けられた矩形の取付け孔32に差し込むことが可能な寸法に設定されている。なお、ベース板14には、アンカー部16の両側において表裏に貫通したロック孔14aが設けられている。
【0011】
クリップ本体10のアンカー部16は、相対応する両側壁部に位置する一対の弾性爪18を備えている。これらの弾性爪18は、アンカー部16の先端側に位置する基部のみが側壁と一体に結合されており、他の部分は側壁と分離されている。したがって、両弾性爪18は樹脂材の弾性により、個々の基部を支点としてアンカー部16の内外方向へ弾性変形する(撓む)ことが可能である。
両弾性爪18は、アンカー部16の両側壁の外面よりも外方へ張り出した係止面18aをそれぞれ有する。これらの係止面18aは、後述のようにアンカー部16をプレート部材30の取付け孔32に差し込んだときに、両弾性爪18が内方へ撓みながら取付け孔32を通過することで、プレート部材30の裏面側において取付け孔32の縁部に係止する(図4)。また、両弾性爪18の先端は、クリップ本体10の開口12に向かって延びる延長部分18bになっている。
【0012】
ピン部材20は、軸部22とカバー部24とによって構成されている。軸部22の外形は、クリップ本体10の開口12からアンカー部16の中空内部に挿入することが可能な形状になっている。この22がアンカー部16の内部に挿入されることにより、両弾性爪18がアンカー部16の内方へ撓むことを規制することができる。
カバー部24は、軸部22をアンカー部16の中空内部に挿入する作業を容易にする機能と、クリップ本体10の開口12を覆い隠すようにベース板14に接合して意匠性を高める機能とを有する。このカバー部24には、軸部22の両側においてロック爪24aが設けられている。
【0013】
ピン部材20の軸部22の両側部には、両弾性爪18の間隙に対応する幅をもったリブ23がそれぞれ設けられている。これらのリブ23には、軸部22の先端部分22aでの幅S1よりも基端部分22bでの幅S2が小さい寸法になるようにテーパー23aが設定されている(図3)。そして、リブ23の幅S1は、前述のように弾性爪18がアンカー部16の内方へ撓むのを規制する寸法に設定されている。
【0014】
図4および図5で示すプレート部材30の取付け孔32をクリップで塞ぐには、まずクリップ本体10のアンカー部16を取付け孔32に差し込む。これにより、既に述べたようにアンカー部16の両弾性爪18が内方へ撓みながら取付け孔32を通過し、個々の係止面18aがプレート部材30の裏面側で取付け孔32の縁部にそれぞれ係止する。
なお、図4で示すように両弾性爪18の係止面18aが取付け孔32の縁部に係止した状態においても、取付け孔32の寸法公差やプレート部材30の板厚の公差により、両弾性爪18がアンカー部16の内方へ僅かに押し撓められている。この結果、両弾性爪18の先端寄りの箇所では、相互の間隔が自由状態よりも小さくなり、この箇所が両弾性爪18の間の最狭部となる。
【0015】
つづいて、クリップ本体10の開口12を通じてアンカー部16の内部にピン部材20の軸部22を挿入する(図5および図6)。これにより、軸部22の両側部のリブ23が図5で示すように両弾性爪18の間に位置し、これらの弾性爪18がアンカー部16の内方へ撓むことを規制する。したがって、取付け孔32の縁部に対する両弾性爪18の係止面18aの係止状態が保持され、クリップがプレート部材30堅固に取付けられる。
クリップ本体10のアンカー部16にピン部材20の軸部22が完全に挿入された時点では、ピン部材20の両ロック爪24aが、クリップ本体10の両ロック孔14aを通過して個々のロック孔14aの縁に係止し(図6)、ピン部材20はクリップ本体10にロックされる。また、この状態ではピン部材20のカバー部24がクリップ本体10のベース板14に接合し、このクリップ本体10の開口12を覆い隠している。
【0016】
前述のようにアンカー部16の内部にピン部材20の軸部22を挿入するとき、挿入ストロークの初期には、軸部22のリブ23において、前述のように大きい寸法の幅S1に設定された軸部22の先端部分22aが両弾性爪18を押し開きながら相互間の最狭部を通過する。そして、挿入ストロークの終期では、リブ23における軸部22の先端部分22aはアンカー部16内の先端部(奥部)に位置し、両弾性爪18の間の最狭部にはリブ23において、小さい寸法の幅S2に設定された軸部22の基端部分22bが位置する(図5)。このため、挿入ストロークの終期には、それまで軸部22の先端部分22aによって両弾性爪18を押し開いていた力が解除され、ピン部材20の挿入荷重が低下することになる。
【0017】
図7に、本実施の形態におけるピン部材20と、リブの幅が一定寸法(ストレート)に設定された従前のピン部材との挿入ストローク(横軸)に対する挿入荷重(縦軸)の変化を評価するための実験結果を表している。この図7から明らかなように、本実施の形態におけるピン部材20の特性(実線)と従前のピン部材の特性(点線)とを比較すると、挿入ストローク初期の挿入荷重は、双方ともに殆ど同じ値を示している。
これに対して挿入ストローク終期の挿入荷重は、本実施の形態におけるピン部材20では前述のように両弾性爪18を押し開いていた力が解除されることから、挿入荷重が極端に下がっている。そして、ピン部材20の挿入完了時において、前述のようにピン部材20がクリップ本体10にロックされると、それに伴って挿入荷重が立ち上がる。しかしながら、本実施の形態におけるピン部材20は、ロックに伴って挿入荷重が立ち上がり始める時点の荷重が既に下がっているため、挿入荷重のピーク値が従前のピン部材の場合と比較して低減されている。
【0018】
クリップをプレート部材30から取外す必要が生じた場合には、最初に図5で示す状態においてクリップ本体10からピン部材20の軸部22を抜き取ることにより、図4で示す状態とする。この状態では、クリップ本体10における両弾性爪18の延長部分18bが開口12に対向している。そこで、開口12からラジオペンチ等の工具を差し込み、両延長部分18bをつかんで両弾性爪18を内方へ撓ませる。これにより、取付け孔32の縁部に対する両弾性爪18の係止面18aの係止が外れ、クリップ本体10を取付け孔32から抜き取ることができる。
【0019】
以上は本発明を実施するための最良の形態を図面に関連して説明したが、この実施の形態は本発明の趣旨から逸脱しない範囲で容易に変更または変形できるものである。
例えば、図8で示すピン部材20のように、軸部22の先端部分22aと基端部分22bとにおけるリブ23の幅S1,S2の寸法差を僅かに設定し、テーパー23aの角度を緩やかにすることも可能である。
また、ピン部材20における軸部22のリブ23に設定されているテーパー23aを廃止し、軸部22の先端部分22aと基端部分22bとのリブ23の幅S1,S2を段差状に設定してもよい。
さらに、クリップの使用目的については、前述のように使用されない孔を塞ぐ他に、二枚以上重ねられたプレート部材を、個々の貫通孔を利用して締結する場合もある。
【符号の説明】
【0020】
10 クリップ本体
12 開口
16 アンカー部
18 弾性爪
20 ピン部材
22 軸部
22a 先端部分
22b 基端部分
30 プレート部材
32 取付け孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリップ本体とピン部材とからなり、クリップ本体は、中空形状のアンカー部と、アンカー部の両側に位置する少なくとも一対の弾性爪とを備え、アンカー部を所定のプレート部材に開けられている取付け孔に差し込むことにより、一対の弾性爪がアンカー部の内方へ撓みながら取付け孔を通過して該取付け孔の縁部に係止するように構成され、ピン部材は、クリップ本体における基部側の開口からアンカー部の内部に挿入して両弾性爪の間に位置させることが可能な軸部を備え、この軸部によって両弾性爪がアンカー部の内方へ撓むことを規制するように構成されたクリップであって、
クリップ本体の両弾性爪の間隙に対応するピン部材における軸部の幅が、軸部の先端部分では両弾性爪がアンカー部の内方へ撓むのを規制する寸法に設定され、反対側の基端部分では先端部よりも小さい寸法に設定されているクリップ。
【請求項2】
請求項1に記載されたクリップであって、
ピン部材における軸部の幅が、その先端部分と基端部分との間ではテーパーによって変化しているクリップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−69400(P2011−69400A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218888(P2009−218888)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(308011351)大和化成工業株式会社 (66)
【出願人】(308016242)豊和化成株式会社 (65)
【Fターム(参考)】